白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
金曜の放課後、快斗と白馬は一触即発の牽制を繰り広げる。今夜の『ロイヤル・エクスプレス』乗車を前に、快斗との甘いひとときを過ごす花梨。しかし彼女は、自らの余命を予感し、住み慣れた部屋へ密かに別れを告げていた。

第161話
ニセ怪盗現る!


161:発車の合図

 

 

 

 

 あれから二人は花梨のマンションを出て、快斗の家へ――。

 青子と合流し、ロイヤル・エクスプレスの待つ駅へと辿り着いた。

 

 ホームには、すでに出発前のロイヤル・エクスプレスが待ち構え、乗車が始まっている。

 警察官たちの人だかりに青子が向かっていくので、花梨も快斗も後ろに付いていった。

 

 

「お父さーん!」

 

「おー青子! こっちだこっち!」

 

 

 人だかりの中から手を振る人物に、青子が手を振り返す。

 歩いて行くと、青子の父らしき人が笑顔で近寄って来た。

 

 

「ほら、言ってた切符だ。三枚……青子と、快斗君と花梨ちゃ……ん?」

 

 

 胸ポケットから列車の切符を取り出す青子の父を、花梨は見たことがある。

 その彼と目が合った。

 

 

「キミは!」

 

「あ、中森警部。こんばんは、その節はお世話になりました」

 

 

 花梨は、深々と頭を下げる。

 

 

「あ、ああ……ご丁寧にどうも。そうか、キミが花梨ちゃんか。青子から話はよく聞いてるよ。娘と仲良くしてくれてありがとうな」

 

「こちらこそお世話になってます」

 

「あれから夜遊びはしてないかな?」

 

「はい、お散歩は控えています」

 

 

 中森警部と笑顔で対話する花梨に、切符を受け取った青子は「あれ? 知り合い?」と目をぱちぱち。

 花梨が怪盗キッドと初めて出会った夜、中森警部とも出会っていたことを青子は知らない。

 

 ……快斗は黙って見ていた。

 

 

「そうか、それならよかった。あの探偵君は元気かな?」

 

「新ちゃんですか? あ、うーん、最近連絡取ってなくて」

 

「そうか……ワシはてっきり、彼が恋人かと思ってたんだが……」

 

 

 中森警部によれば、あの夜、電話口で新一から『私が行くまで、その場で彼女を待機させてください! 絶対動くなとお願いします!』と、きつく言われたそうだ。

 あまりの語気の強さに、中森警部は花梨は新一の大事な人――つまり、恋人だと勘違いしたらしい。

 

 

「ちょっ、おじさん! この子はオレの彼女なんですよ!? 花梨は探偵なんてなんとも思ってないですって!」

 

「ちょ、ちょっと快斗……」

 

 

 聞き捨てならない快斗は、花梨と中森警部の間に割って入る。

 花梨は困り顔だが、青子は“さ、三角関係……!?”と三枚の切符を見下ろし、ちょっとドキドキしていた。

 

 

「ん? そうなのか。すまんすまん。ははは……――」

 

 

 中森警部はじっと花梨を見下ろす。

 じっと見つめられると、落ち着かないもので……。

 

 

「あ、あの……?」

 

 

 花梨はおずおずと中森警部を見上げた。

 

 

「――あ、すまんすまん。キミの顔が知人に似ていたものだから。つかぬことを聞くが、花梨ちゃんて、苗字はもしかして――“葵”、じゃないか?」

 

「あ、はい。葵……花梨、です。どうして……」

 

「やっぱり! 朔太郎の娘だったかー! そうかそうか……うっ……っ、そうかぁ……」

 

 

 突然まぶたを手で覆い、中森警部が上を向く。

 涙を堪えている様子で、鼻をすんっとすすった。

 

 

「あ、お父さんを知ってらっしゃるんですか?」

 

「ああ、課は違ったが、たまに話す仲でなー。朔太郎はいつも……――」

 

 

 中森警部が朔太郎について話そうとしたその時だった。

 背後から警察官が一人やって来て、敬礼する。

 

 

「中森警部! お話し中のところすみません! 点呼は終わりました。全員で確認したところ、我々の中にキッドが紛れ込んでいる様子はありません!」

 

「そうか、わかった。じゃあ乗り込むぞ! ああ、花梨ちゃん。今度時間を取って朔……お父さんの話をしてあげるよ。じゃあ、みんな、今日は豪華列車を楽しんでくれ!」

 

 

 部下なのだろうか、報告を聞いた中森警部はキリッとした顔で指示を出して、花梨たちにははにかみ、警官たちの元へ戻って行った。

 

 

「……」

 

 

 ――今度と言われても……。

 

 

 去って行く中森警部の背に、花梨はその“今度”が来ないことに小さく苦笑する。

 父の話が聞けなくて残念なような、これでよかったような……複雑な気持ちだ。

 

 

「中森警部と花梨のお父さんて、知り合いだったんだな……」

 

「だね……」

 

 

 快斗にぼそっと言われて花梨は頷く。

 

 

「世間は狭いねえ~。さ、花梨ちゃんっ! 行こ、行こっ!」

 

「あっ! 青子ちゃんっ!?」

 

 

 青子が花梨の手を取り、列車へと駆け出した。

 

 ……中森警部たちも乗り込み始めている。

 目に入ったホームの時計の針は、発車時刻まであと五分を指していた。

 

 

「あっ、青子オメー! オレの花梨を勝手に連れてくんじゃねーよ!」

 

 

 出遅れた快斗が駆け出すと、前を行く青子が振り返る。

 快斗は自分の旅行バッグと、花梨のスーツケース、青子の鞄まであるから思うように走れない。

 

 

「フハハハハ! バ快斗君! 花梨嬢はこの青子さまがいただいた! 返して欲しくば、急いで列車に乗りたまえ!」

 

「ばっ!? オメーなんだよそのモノマネはよっ!? ひでーなオイ! 怪盗気取りか!?(オレそんなこと言わねーってのっ!!)」

 

 

 怪盗キッドのものまね――なのかなんなのか。

 青子はキッドが嫌いだったはずだが、拙いものまねに快斗は苦笑いだ。

 

 そんな青子に、花梨は乗っかることにした。

 

 

「きゃ~~♡ 快斗、助けて~!」

 

 

 花梨も快斗に振り返り、繋がれていないほうの手を伸ばしたが、その手を青子がサッと掴んで指先にキスを落とす。

 

 

「花梨嬢、今宵は私と甘い夜を……過ごしませんか?」

 

「はい、青子さまっ♡」

 

 

 なりきる青子に花梨はにこにこと返事した。

 そして二人は、そのままさっさと……列車に乗り込んでしまう。

 

 

「ちょ、花梨ちゃんまで!!」

 

 

 一人置いて行かれた快斗も、二人を追いかけロイヤル・エクスプレスへ――。

 

 

「ったく……。楽しそうでなによりだ――」

 

 

 車内で、切符を手に青子と楽しそうに席を探す花梨の姿に、快斗は眩しそうに目を細める。

 

 今朝から何度も探してはみたが、権堂の姿を見ていない。

 だが、見えないだけで、近くにいるのだろう。彼女も身を隠すのが上手くなった。

 幸い、警察官も別件とはいえ近くにいるし、花梨の安全はさほど心配しなくてもいい。

 

 自分は今夜のミッションに集中だ。

 

 快斗の今夜のミッションは、クリスタル・マザーを手に入れること――だ。

 それと、花梨にプレゼントを贈り、二人で夜を過ごすこと。

 

 

(……よし、まずはクリスタル・マザーだな……!)

 

 

 座席を見つけた花梨から手招きされて、快斗は手を挙げ、そちらへ向かった。

 

 

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