▽前回のあらすじ
金曜の放課後、快斗と白馬は一触即発の牽制を繰り広げる。今夜の『ロイヤル・エクスプレス』乗車を前に、快斗との甘いひとときを過ごす花梨。しかし彼女は、自らの余命を予感し、住み慣れた部屋へ密かに別れを告げていた。
第161話
ニセ怪盗現る!
◇
あれから二人は花梨のマンションを出て、快斗の家へ――。
青子と合流し、ロイヤル・エクスプレスの待つ駅へと辿り着いた。
ホームには、すでに出発前のロイヤル・エクスプレスが待ち構え、乗車が始まっている。
警察官たちの人だかりに青子が向かっていくので、花梨も快斗も後ろに付いていった。
「お父さーん!」
「おー青子! こっちだこっち!」
人だかりの中から手を振る人物に、青子が手を振り返す。
歩いて行くと、青子の父らしき人が笑顔で近寄って来た。
「ほら、言ってた切符だ。三枚……青子と、快斗君と花梨ちゃ……ん?」
胸ポケットから列車の切符を取り出す青子の父を、花梨は見たことがある。
その彼と目が合った。
「キミは!」
「あ、中森警部。こんばんは、その節はお世話になりました」
花梨は、深々と頭を下げる。
「あ、ああ……ご丁寧にどうも。そうか、キミが花梨ちゃんか。青子から話はよく聞いてるよ。娘と仲良くしてくれてありがとうな」
「こちらこそお世話になってます」
「あれから夜遊びはしてないかな?」
「はい、お散歩は控えています」
中森警部と笑顔で対話する花梨に、切符を受け取った青子は「あれ? 知り合い?」と目をぱちぱち。
花梨が怪盗キッドと初めて出会った夜、中森警部とも出会っていたことを青子は知らない。
……快斗は黙って見ていた。
「そうか、それならよかった。あの探偵君は元気かな?」
「新ちゃんですか? あ、うーん、最近連絡取ってなくて」
「そうか……ワシはてっきり、彼が恋人かと思ってたんだが……」
中森警部によれば、あの夜、電話口で新一から『私が行くまで、その場で彼女を待機させてください! 絶対動くなとお願いします!』と、きつく言われたそうだ。
あまりの語気の強さに、中森警部は花梨は新一の大事な人――つまり、恋人だと勘違いしたらしい。
「ちょっ、おじさん! この子はオレの彼女なんですよ!? 花梨は探偵なんてなんとも思ってないですって!」
「ちょ、ちょっと快斗……」
聞き捨てならない快斗は、花梨と中森警部の間に割って入る。
花梨は困り顔だが、青子は“さ、三角関係……!?”と三枚の切符を見下ろし、ちょっとドキドキしていた。
「ん? そうなのか。すまんすまん。ははは……――」
中森警部はじっと花梨を見下ろす。
じっと見つめられると、落ち着かないもので……。
「あ、あの……?」
花梨はおずおずと中森警部を見上げた。
「――あ、すまんすまん。キミの顔が知人に似ていたものだから。つかぬことを聞くが、花梨ちゃんて、苗字はもしかして――“葵”、じゃないか?」
「あ、はい。葵……花梨、です。どうして……」
「やっぱり! 朔太郎の娘だったかー! そうかそうか……うっ……っ、そうかぁ……」
突然まぶたを手で覆い、中森警部が上を向く。
涙を堪えている様子で、鼻をすんっとすすった。
「あ、お父さんを知ってらっしゃるんですか?」
「ああ、課は違ったが、たまに話す仲でなー。朔太郎はいつも……――」
中森警部が朔太郎について話そうとしたその時だった。
背後から警察官が一人やって来て、敬礼する。
「中森警部! お話し中のところすみません! 点呼は終わりました。全員で確認したところ、我々の中にキッドが紛れ込んでいる様子はありません!」
「そうか、わかった。じゃあ乗り込むぞ! ああ、花梨ちゃん。今度時間を取って朔……お父さんの話をしてあげるよ。じゃあ、みんな、今日は豪華列車を楽しんでくれ!」
部下なのだろうか、報告を聞いた中森警部はキリッとした顔で指示を出して、花梨たちにははにかみ、警官たちの元へ戻って行った。
「……」
――今度と言われても……。
去って行く中森警部の背に、花梨はその“今度”が来ないことに小さく苦笑する。
父の話が聞けなくて残念なような、これでよかったような……複雑な気持ちだ。
「中森警部と花梨のお父さんて、知り合いだったんだな……」
「だね……」
快斗にぼそっと言われて花梨は頷く。
「世間は狭いねえ~。さ、花梨ちゃんっ! 行こ、行こっ!」
「あっ! 青子ちゃんっ!?」
青子が花梨の手を取り、列車へと駆け出した。
……中森警部たちも乗り込み始めている。
目に入ったホームの時計の針は、発車時刻まであと五分を指していた。
「あっ、青子オメー! オレの花梨を勝手に連れてくんじゃねーよ!」
出遅れた快斗が駆け出すと、前を行く青子が振り返る。
快斗は自分の旅行バッグと、花梨のスーツケース、青子の鞄まであるから思うように走れない。
「フハハハハ! バ快斗君! 花梨嬢はこの青子さまがいただいた! 返して欲しくば、急いで列車に乗りたまえ!」
「ばっ!? オメーなんだよそのモノマネはよっ!? ひでーなオイ! 怪盗気取りか!?(オレそんなこと言わねーってのっ!!)」
怪盗キッドのものまね――なのかなんなのか。
青子はキッドが嫌いだったはずだが、拙いものまねに快斗は苦笑いだ。
そんな青子に、花梨は乗っかることにした。
「きゃ~~♡ 快斗、助けて~!」
花梨も快斗に振り返り、繋がれていないほうの手を伸ばしたが、その手を青子がサッと掴んで指先にキスを落とす。
「花梨嬢、今宵は私と甘い夜を……過ごしませんか?」
「はい、青子さまっ♡」
なりきる青子に花梨はにこにこと返事した。
そして二人は、そのままさっさと……列車に乗り込んでしまう。
「ちょ、花梨ちゃんまで!!」
一人置いて行かれた快斗も、二人を追いかけロイヤル・エクスプレスへ――。
「ったく……。楽しそうでなによりだ――」
車内で、切符を手に青子と楽しそうに席を探す花梨の姿に、快斗は眩しそうに目を細める。
今朝から何度も探してはみたが、権堂の姿を見ていない。
だが、見えないだけで、近くにいるのだろう。彼女も身を隠すのが上手くなった。
幸い、警察官も別件とはいえ近くにいるし、花梨の安全はさほど心配しなくてもいい。
自分は今夜のミッションに集中だ。
快斗の今夜のミッションは、クリスタル・マザーを手に入れること――だ。
それと、花梨にプレゼントを贈り、二人で夜を過ごすこと。
(……よし、まずはクリスタル・マザーだな……!)
座席を見つけた花梨から手招きされて、快斗は手を挙げ、そちらへ向かった。