▽前回のあらすじ
久しぶりに降谷と松田が花梨のもとを訪れ、笑顔と冗談が飛び交う再会。優しさに包まれ、花梨は安心と温かさを感じるひとときを過ごす。
第16話
松田陣平はちょっとチャラめに。降谷零は天然…?
「はーい、いらっしゃいませー」
「はーい、いらっしゃいましたー!」
ギュッ。
玄関を開けると松田が花梨に抱きついてきた。
あっという間に腕に包まれて、胸の中へと隠されてしまう。
……松田とも約三年振りの再会だ。
「なっ!?(陣平さん!?)」
「花梨、よく頑張ったな……!」
「陣平さん……」
“よく頑張ったな”というのは、親戚の家でのことだろうか。
松田は花梨がここに引っ越してきた経緯を、どうやら知っているらしい。
三年前に遭った出来事を思えば、容易に想像はつく。
自分が助けた少女が、無事生きていたことが嬉しいのだろう。
――おかげさまで、生きていますよ。
花梨は抱き返さなかったが、そのまま大人しく抱きしめられ続けた。
「……ん? ……成長してんな……」
「あ、そういえば背が伸びました」
「あー、うん。そう、だな……」
しばらく放っておくと、なぜか松田がギュウギュウと強く抱きしめてくる。
何度も強く抱きしめては緩め、また抱きしめては緩め……何かを確かめているようだ。
……苦しいんですけど。花梨は眉を寄せる。
「ちょ……陣平さん、苦しいです」
「やっぱ。抱き心地良くなってる。骨皮ちゃんじゃねーじゃん。JKスゲー、可愛い」
「え」
――は?
頭にぐりぐりと頬擦りをかましてくる松田。
距離が近い近い。
なんだろうこれ、と花梨の顔は歪む。
「松田、強制わいせつ罪だぞ」
「っ!? セクハラ!」
後ろから降谷の声がして、花梨は慌てて手を突っ張った。
松田もハッとして花梨から離れる。
「ちげーわ! 感動の再会だぞ? 軽い抱擁くらいいいじゃねーか!」
誰が強制わいせつ罪だ。
せっかく感動の再会を果たしたというのに、犯罪者呼ばわりされるとは。
こちとら現役警察官だぞ!?
確かに突然抱きしめたのはちょっと軽率だったかもしれない。自覚はある。
だが、別に胸を揉んだとか尻を揉んだとかしたわけではないのだから、許されてもいいはず。
……松田は必死で訴えた。
「同意のないわいせつ行為は、不同意わいせつ罪だ」
「同意のないわいせつ行為は、不同意わいせつ罪。犯罪ですよ! ねっ、零お兄ちゃん」
「ああ、今手錠を持ってくる。松田、現行犯だからな。言い逃れはできないぞ」
淡々とした降谷の言葉を花梨がリピートする。
降谷は「手錠が鞄に入っているから」と踵を返し、部屋へ戻っていった。
「わ~現行犯~!」
花梨も降谷に続こうとしたが、不意に松田に手首を掴まれる。
「はぁああああ? 花梨お前ゼロに懐きすぎだろ! こんなイイ男に抱きしめられて犯罪者呼ばわりとか、頭おかしいんじゃねーの?」
「私はおかしくないですよー……ふふっ。冗談ですよ、冗談。ふふふっ、陣平さん、お久しぶりです。元気にして……いや、元気そうですね」
「なんだ、冗談かよ……。まーなー、おかげさまってやつよ。お前も言うようになったじゃねーか」
「ふふふっ、元気そうでよかったです」
「お前もな」
手の平を上に向け、中へどうぞと松田を部屋の中へと促し、廊下を進む。
リビングドアを開けようとしたところで、手錠を手にした降谷がやってきた。
「本気だったのかよ!」
「……え?」
松田がリビングに入って来るなり、降谷は流れるような手付きで松田の手首を捉え、手錠を嵌める。
「あはははっ! 零お兄ちゃん、冗談ですよ冗談!」
「あ、ああ……冗談だったのか」
「ふふふっ、零お兄ちゃんも変わってないなぁっ! あははははっ!」
……降谷には冗談が通じなかったらしい。
そんな生真面目な降谷に、花梨は愉快そうに笑った。
「そうだぞゼロ。花梨が俺を罪に問うはずねーだろ。これ外せ」
「花梨ちゃん……いいのかい?」
「アハハハッ!」
ウケ狙いなのか、手錠を嵌められた松田の言葉を無視し、至極真面目な顔で降谷が聞いてくるものだから花梨は腹を抱える。
知り合いがほとんどいない土地で、急に数少ない知り合いが現れ気が抜けたのだろうか。
二人は警官で、大人で、自分に危害を加えたりしない安全な人間。
久しぶりに安心して大笑いすることができた花梨は……。
「また抱きしめられると嫌なので、しばらくそのままにしておきません?」
「フッ。花梨ちゃんが望むなら」
悪ノリでキッパリ嫌だと主張する花梨に、降谷は鍵を回しかけた手を止めた。
「ざけんな。花梨、俺と離れていた間にずいぶん性悪になったな? あの純真無垢な花梨はどこに行っちまったんだ?」
「俺と離れていた間って……別に陣平さんと私って、何の関係もなくないですか? なんか元カレみたいな言い方やめてもらってもいいですか?」
「あ、冷てーの。俺みたいなイケメン袖にするヤツ、お前ぐらいだぞ?」
松田に純真無垢と言われた花梨。
確かに昔は幼くて世間知らずだったかもしれない。
だが、いつまでも無垢なままではいられない。
「そうですか。私、顔の善し悪しで人を判断したりしないので……」
「ウソをつけっ! ゼロばっか見てたくせに!」
花梨が冷静に返すと、松田は降谷を指差した。
「え、俺?」
二人の会話を聞きながら、鍵を開けてやっても良さそうだと判断した降谷は、解錠しながら聞こえてきた言葉に目を瞬かせる。
……かなり驚いたらしい。いつもは使わない“俺”なんて出てしまっていた。
「それは……。んーと……」
「……それは……?」
「髪が綺麗だったから。零お兄ちゃんの髪、私みたく白髪じゃないからいいなーって」
「え、あ。なるほど……」
花梨の答えが気になった降谷が尋ねてみれば、納得のいく答えが返ってきてまた目を瞬かせる。
……降谷はそのまま黙り込んでしまった。
「そうかよ。俺はてっきり、花梨はゼロが好きなんだと思ってた」
「まあ、好きではありますよ。零お兄ちゃん格好いいですもん!」
「……」
黙っていた降谷だったが褒めちぎられて悪い気はせず……それどころか照れて頬を掻いた。