▽前回のあらすじ
朋子を助けたキッドは、隙を突いて本物の漆黒の星を盗み出す。直後、キッドの正体に気づいたコナンに連れ去られ、二人は二人きりへ。一方の会場では、騒ぎが一段落し、花梨がチョコレートファウンテンに目を輝かせる。
第256話
チョコフォンデュ♡
『――あ、あの、甲板にヘリが到着していて、その……一条様が乗られるとのことで……こちらはどうしますか? 一条様はもう部屋を出られてヘリポートに向かっているとのことなんですが、一応調べた方が……』
開いた扉の向こうでは、中森警部たちの会話がまだ続いていたようで、部下が稀華のことを話しているのが聞こえてきた。
『あん? 当然――』
『――いや、彼女は放っておいていい。キッド騒ぎのときは船室にいらっしゃったし、あれだけの護衛付きだ、キッドじゃない』
キッドの出現に殺気立つ中森警部が部下を睨みつける。その横で、茶木警視が眉を寄せた難しい顔で中森警部を制した。
『…………だそうだ。わかったら行け!』
『ハッ!』
中森警部の号令で、散らばる刑事たち。
一部の刑事が会場内へと戻って来た。
(そっか。稀華ちゃん、ヘリで帰るんだ……。忙しいんだね~……次代の神子さま、頑張ってね。応援してるから……!)
花梨は稀華に会わずに済んだことにほっとしつつ、彼女の今後の活躍に期待を込めて、心の中でこっそりエールを送る。
「…………私。マシュマロチョコフォンデュ食べてくるね!」
「ああ、行ってらっしゃい。俺はここで待ってるよ」
ヒロは、稀華がすでにヘリへと向かったと知り、ほっとしていた。
これなら、多少目を離しても花梨は安全だろう。警戒を少し緩め、壁に背を預け、無邪気な彼女を見守ることにした。
チョコレートファウンテンで、一人、串に刺さったマシュマロにとろりと溶けたチョコレートをたっぷり纏わせ、機嫌よく食べる花梨。
微笑ましいなと思いながら見守るヒロ。
ところが、爆弾騒ぎで騒然としていた会場は一変し、静まり返っていた。テーブルの料理に手をつける者など誰もいない。そんな中で一人だけ食事を続ける花梨が、周囲から異様に映るのは仕方がなかった。
「……お嬢さん。ちょっと、お話いいですかな?」
「……へ? わ、私ですか……!?」
背後から声をかけられ、花梨はビクッと肩を揺らす。
恐る恐る振り返ると、小五郎が立っていた。
……それはつい、数分前のことだった。
「まだパーティー会場に潜んでいる可能性もありますから、一応、場内も調べようと思います。よろしいですかな?」
「ええ……わかりましたわ……」
中森警部の言葉に、園子に寄り添われて朋子が力なく答える。
朋子の許可を取った中森警部は、会場に残っている客たちから話を聞いて回ることにした。
「この名探偵が、捜査協力いたしましょうか~?」
「うるさいっ! わかっているならさっさと協力しろ!」
「はいはい~」
ニヤニヤと寄ってきた小五郎に、中森警部が残った客たちのグループを指差し、行くように促す。
小五郎は、不安そうに話し込む女性グループから話を聞き出すと、近くにいる客たちから順に事情を聞いて回った。
「あと、残るは……あの壁際の男と――…………」
小五郎の目に、チョコレートファウンテンに歓喜し、嬉々としてチョコレートフォンデュを楽しむ女性の姿が留まった。
(なんだ、あの女性は……誰も料理なんて口にしていないのに……怪しい)
サングラスをかけた美女――なのは間違いないが、ぱくぱくとチョコレートフォンデュを楽しむ、その場違いな様子……。
さすがの小五郎にも異様に映ったのだ。
「……チョコレートフォンデュがお好きなんですか?」
「あ、小五郎おじさま! って、あっ(やばっ)」
小五郎に尋ねられ、振り返った花梨はつい、素で答えてしまい、慌てて口に手を当てた。
「ん……コゴロウオジサマ? その声……まさかっ!?」
小五郎は、無遠慮に花梨のサングラスに手を伸ばし、それを奪った。
「あっ!」
「か、花梨!? オメーなにこんなとこで……!? イギリスにいるんじゃ……!?」
サングラスを外されれば、髪型や髪色を変えていても、やはり隠し通せるものではなかった。
花梨だと見抜くと、小五郎が目を丸くしていた。
「あ、あははは……。一時帰国……的な? 食べます?」
「はぁ? ンぐ!?」
花梨は串に刺したチョコまみれのマシュマロを小五郎の口にズボッと突っ込む。
その様子を離れた場所から見ていた園子が気づいて、駆け寄ってきた。
「え……花梨!? ちょっとヤダ! 花梨じゃない……!! あなた来てたの!?」
「園子ちゃん! えへへ~。久しぶり~♡ 招待状ありがとう! 生達也さんすごかったね~♪」
「久しぶりじゃないわよ。帰って来てるなら声かけなさいよ! っていうか、なに? ウィッグで変装なんかしちゃって」
「あははは……」
園子に腕を掴まれ、ジッと睨まれる花梨。
完全に自業自得だが、こんなにあっさりばれてしまうとは思ってもみなかった。
「甘ぇ……なんでぇ、オメーも招待されてたってわけか」
唇の端にチョコレートを付けた小五郎が、自分の口元を拭いながら、片手で花梨の頭をポンポンと撫でた。
「そうなんです。美味しいものが食べられるっていうから、来ちゃいました!」
こうなったら、開き直るに限る。
花梨はばれてしまったものは仕方ないと、笑顔で答えた。
「現金ねぇ~。で、多国籍料理はお口に合ったのかしら?」
「うん、とってもおいしかった♡ 今、デザート食べてたところだよ。すごいね~、チョコの滝だよ!? 園子ちゃんも食べない?」
「……あなただけよ、マイペースに料理を食べてるのは……プッ!」
会場内で料理に手を付けているのは花梨だけ――。
呆れたような顔をしていた園子だったが、やがて吹き出した。
「えぇ~、だっておいしいんだもん」
(あれ? こういう時は食べないものなのかな……?)
キッドの騒ぎが起こる前まで、花梨はチョコレートファウンテンのテーブルに気づかなかった。人々がいなくなって初めて見つけたそれ。
とろとろと流れるチョコレートの滝は、花梨にとって魅力的な、夢のようなスイーツだった。
“これは、ぜひ体験しておかなければ……!”と本能が理性を越えて気づいたら吸い寄せられていた。
「ねえ花梨。それより、ママを慰めるのを手伝ってちょうだい」
「え? あ、うん……?」
園子が花梨の腕を引っ張る。
朋子は床に座り込んだままで、まだ項垂れていた。
「俺は、あっちの男を調べてくる」
「あ、あの人は私の連れなんです。遠い親戚のお兄さんなの。身分は保証するので、調べなくても大丈夫ですよ!」
「そうなのか? ……わかった。なら、あいつに言っといてやるよ」
「すみません」
中森警部には話を通しておく――と、小五郎は、別の客に話を聞いている中森警部の元へと向かった。
「すみませーん。親戚のお兄さーん。この子お借りしまーす!」
花梨の腕をがっちりと掴み、園子はヒロに視線を投げると大声を上げた。
「えっ、あっ、ちょ、園子ちゃん……!?(ヒロお兄ちゃん……! ちょっと行ってくるね……!)」
園子に強引にぐいぐいと引っ張られ、花梨はヒロに、朋子の元へ行くとジェスチャーで伝えた。
それを見たヒロは「あははは……」と乾いた笑いを浮かべていた。