白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 16 years old

▽前回のあらすじ
花梨は自宅で素っ裸を新一に見られ大慌て。恥ずかしさの中で二人はやり取りする。花梨の夜の外出や安全をめぐり心配する新一は、登校する彼女を最後には和やかに見送る。その後、新一は不可解なエレベーターの件を調査依頼し…。

第25話
そろそろ快斗と絡みたい。


025:ノート

 

 

 

 

 

「花梨ちゃんおはよー!」

 

 

 帝丹高校は振替休日で休みだったが、江古田高校では今日も授業がある。

 半分以上の生徒が集まった教室に花梨が入ると、青子が席から手を振って挨拶をした。

 

 

「お、おはよ……」

 

「ノート持って来た~?」

 

「う、うん……」

 

 

 青子からすっかり「花梨ちゃん」呼びで固定されてしまって、花梨は引き気味に頷き席に着く。

 花梨の受け答えはいつもぎこちないが、青子はそんなこと気にしていないらしい。毎朝こうして声を掛けてくるのだ。

 

 

「見て見て、このノート可愛くない?」

 

「ぁ、えと……うん。とっても」

 

 

 今日使うノートだよと青子は、可愛いカエルのキャラクターが描かれたファンシーなノートを見せてくる。

 カエルのアオちゃん……というキャラクターらしい。ニホンアマガエルをモチーフにしたもので、鮮やかな黄緑で描かれたそれは、最近の開運ブームで人気のグッズなのだとか。

 

 

「カエル好き?」

 

「ぁ、ん……どうかな。けど可愛いね」

 

「でしょ! 最近ハマってるんだ! 花梨ちゃんはどんなノート買って来たの?」

 

「あ、私のは普通の……」

 

 

 花梨は持って来たノートをおずおずと差し出す。

 ……ただの大学ノートである。

 

 キャラクターもののノートなど買ったことがない花梨の選択肢は、学校からもらった連絡プリントに書かれた“ノート(A4サイズ/大学ノート等※何でもよい)”の“大学ノート”一択。※印の後は目に入っていなかった。

 

 

「お~! 機能性ばっちしなやつだ! さっすが花梨ちゃん! 私もそういうのにすればよかった~」

 

「中森さん……」

 

 

 ――中森さんていい人かもしれない……。

 

 

 ちょっとばかし褒められた花梨はすぐに絆されかけてしまう。

 

 

「お、葵ちゃん、はよっ! 早いじゃん」

 

「ぁ、黒羽くん……おはよう(葵ちゃん……)」

 

 

 隣からゴトッと机に鞄を置く音と、知っている声が聞こえて、花梨はそちらに目を向けた。

 つい先日まで“葵さん”呼びだったのだが、今日は“ちゃん”付けになっている。

 

 快斗も青子と花梨の話を聞いていたのか、ノートを取り出し見せてくる。

 

 

「じゃーん。オレはこれにした!」

 

「あー、花梨ちゃんとお揃い! ずるーい!」

 

「へっへーん、いいだろー」

 

 

 快斗のノートは花梨と同じ大学ノートだった。

 お揃いだというが、大半がそれを選ぶと思う……と花梨は特にツッコんだりはしない。

 夫婦喧嘩が始まりそうな予感がして、一限目の授業の準備を始めた。

 

 

「快斗、青子のと取り換えっこしない?」

 

「やだね」

 

「いいじゃん、カエルのアオちゃん。可愛いじゃん」

 

「オメー自分のこと可愛いとか言ってんじゃねーよ」

 

「なっ!? アオちゃんは青子のことじゃないわよ!」

 

 

 ……ほら、始まった。

 前の席と隣の席の間で言い合いが始まり、そろそろ先生がやって来る頃だ。

 ここ数日、こんな時間の流れが当たり前になっている。

 

 

「……ふふふっ」

 

「「!」」

 

 

 花梨はつい笑ってしまった。

 その笑みと同時、快斗と青子が一斉に視線を向けてくる。

 

 

「っ? ……あ、あの……?」

 

 

 急に注目された花梨は困惑顔だ。

 

 

「っ~――ぃ…! 快斗見た?」

 

「……見た」

 

「く~っ! もっとこー……!」

 

「……だな、任せとけ」

 

「頼んだからね!」

 

 

 花梨を見ていたかと思えば、今度は二人してこそこそ。

 いや、一部はっきり聞こえているのだが、本人たちは内緒話をしているつもりらしい。

 

 

「……(なんの話をしてるんだろ……?)」

 

 

 頭のいい人たちの考えることはさっぱりわからない。

 それ以上は特に話し掛けられなかったため、花梨は教室にやって来た先生に注目した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 ――なんだろ……また視線を感じる……?

 

 

 四限目の終わりが近付き、今日は午前の授業で学校はおしまい。

 あとはノートを取るだけ……と、花梨は黒板に書かれた文字を書き写していくが、さっきから誰かに見られているような気がする。

 

 今日は朝からずっと、度々視線を感じていた。

 もう最後の単元だ。何となく視線を感じる隣に目を向けてみる。

 

 

「……」

 

 

 隣を窺うと机に頬杖をつく快斗と目が合った。

 快斗は無言だったが、目が合うと嬉しそうに目を細め口角を上げる。

 

 

「……」

 

 

 ――本当に新ちゃんそっくり。

 

 

 花梨も無言で軽く頭を下げた。

 何度も感じた視線は、快斗だったと思っていいのだろうか。

 

 

『みんなノート取ったかー? そろそろ消すぞー!』

 

「あっ、やっべ! オレまだだった。先生ちょっと待ってくれ、今写す」

 

 

 黒板消しを手にした先生が、書いた文字群を消しにかかる。

 快斗が慌ててノートを写し出したが……。

 

 

『時間は充分にやった。消すぞー。ちなみに今日やったところはテストに出すからなー』

 

 

 先生はニヤニヤしながら快斗を見る。

 そして文字群は無情にも黒板消しによって拭い去られていった。

 

 

「ちょ、マジかよ……! ああ~……!」

 

 

 書き写しが間に合わなかった快斗は机に突っ伏した。

 

 

「くっふっふ、バ快斗。よそ見ばっかしてるから」

 

「青子、ノート貸してくんね?」

 

「やーよっ。青子今日は復習するんだから。花梨ちゃんに借りれば?」

 

「え」

 

 

 いつでも始まる夫婦の会話だったが、青子に言われた快斗はすぐに花梨に視線を注いだ。

 

 

「……どうぞ」

 

 

 ……花梨は、以前バラを貰った礼のつもりでノートをスッと差し出す。

 

 

「マジ? いいの?」

 

「ん……。今日はもう使わないから……でも私、字、あんまり上手じゃないよ? 読めなかったらごめん」

 

「いやいや、全然問題ないよ! 葵ちゃんありがとう! 命の恩人だな! 明日返すよ。んでもって今度お礼させてくれ!」

 

 

 ――めっちゃ女の子らしい綺麗な字じゃん!

 

 

 ノートを受け取った快斗は、花梨の文字を見て感心する。

 正直なところ、今単元の先生の書く文字列は纏まりが悪い。口頭で教える分が多く、黒板を丸々書き写したとしても理解し辛いのだ。

 花梨のノートはどのページも大変見やすく、整理されて書かれており、うまく纏まっていた。

 

 彼女は前回の小テストで満点を取っていたし、頭がいいのだろうと思う。

 

 そんな彼女だが、未だなかなかクラスに馴染もうとしないのが気になる。

 花梨以外のクラスメイトはもうすっかり皆打ち解け、ざっくばらんに話をしているというのに。

 

 一年間同じ空間で過ごす者同士せっかくだ、皆笑って過ごしたいと快斗は思っている。

 そう、自分の手品で花梨を心から驚かせ、笑顔にしたい。

 

 様子を見ながら話し掛けているが、少しずつ話す機会は増えていると思う。

 恐らく彼女は人見知りなだけで、そのうち心を開いてくれるのではと期待している。

 

 他のクラスメイトたちも彼女が気になっているようだが、花梨が“近寄らないでオーラ”を出してるから話しかけづらい様子。

 

 ……声とたまに笑う笑顔が可愛い。

 黒板を見ている時の横顔に、つい見入ってしまう。

 

 目が隠れてしまう長く野暮ったい前髪と、眼鏡で誤魔化しているようだが、肌が透き通るように白くて、それだけでも目を惹く。

 たぶん彼女はかなりの美人なんじゃないかと予想。

 

 青子も同意見のようで、彼女は推しらしい。

 隙あらば“花梨ちゃん”なんて馴れ馴れしく呼んで接している。

 

 

 “オレだって「花梨ちゃん」と呼びてー!”

 

 

 ……花梨が気になる快斗は、この機会を逃したくない。

 

 

「お礼なんて別にいいよ」

 

「いやっ、お礼しないとオレの気が済まねえ」

 

 

 安定の断りの文言に、快斗は食い下がる。

 誰かの厚意をいつも断る花梨は、人から何かされることを忌避しているように見える。

 

 ちょっとくらい受け入れてくれればいいのに……そう思った快斗だったが。

 

 

「んー……じゃ、じゃあまたバラをくれる?」

 

「え? バラ?」

 

「うん、前に白いバラをくれたでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「ぽんって出してもらえたら……うれしい……かも」

 

 

 俯き加減で瞳はよく見えず、小さな唇が動いて透き通るような声がし、最後ににこりと口角が上がる。

 いつもより長い会話のキャッチボールに快斗は呆然とした。

 

 

「っ、わかった! 準備しとく!」

 

 

 ――なに? オレ、今めちゃくちゃ喜んでるんだが……!? ここは、一輪と言わず花束用意しなきゃだな……!

 

 

 快斗の目がぱちくりと瞬き、返事がワンテンポ遅れたが、大きな声で了承。

 こっそり花梨からは見えない位置で、小さくガッツポーズをした。

 

 

「っ」

 

 

 急に大きな声を出された花梨は目を丸くしていた。

 

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