白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
無人の機関室でコナンはキッドを追い詰め、変装や巧妙なトリック、そして本物の黒真珠を見抜いた鋭い推理を次々と披露する。追い詰められたキッドは、ついに降参して真珠をコナンに返した。

第259話
ぽんっ!と去って、ダッシュ。


259:怪盗が去り、少女は走る

「今さら何を……」

 

「あ、そうそう、今回の変装だがな。この服の女の子と、もう一人――白い髪の女の子に変装するか迷ったんだよなぁ……」

 

「っ、白い髪って……お前っ!! いったいどこまで知って――!」

 

 

 “なんでキッドが花梨のことを知っているんだ?”とでも言いたげに、コナンの顔に明らかな動揺が浮かび、キッドはニヤリと口角を上げる。

 

 

「……けど、最近見かけねーから、情報不足でね。断念した。あのお嬢さん、可愛いよな~。ボウズと仲がいいんだろ? もう会ってねえのかよ?」

 

「っ! そ、それはっ……!」

 

 

 ついこの前再会し、さっきも見かけたかもしれない花梨を思い出し、コナンの頬がわずかに熱くなる。

 その様子にキッドはハッと息を呑んだ。

 

 

(この反応――まさか、最近会った……のか!?)

 

 

 トイレへ案内しながら、キッドは蘭から聞いた話を思い出す。花梨が本当に留学しているなら今はイギリスにいるはずだ。

 なのに、コナンのこの反応は、どう見ても――。

 

 

「へえ……花梨、姉ちゃん……だっけ?」

 

「……だから、なんでお前が花梨を知って――」

 

「いつか、直接お目にかかりたいもんだ。さて……じゃあそろそろ、お暇しようかな」

 

 

 キッドは、にっこりと笑った。

 

 あくまで軽薄に。

 いつもの怪盗キッドらしい、余裕たっぷりの笑みを浮かべて。

 

 けれど――その笑顔の奥で、胸が痛んでいた。

 

 ……ただ、鎌をかけただけだったというのに。

 

 花梨の名前を口にした瞬間、コナンが見せた反応。

 頬を赤らめ、明らかに動揺した様子。

 そして、ほんの少し前に会ったらしいことまで、その態度が雄弁に物語っていた。

 

 

(……ボウズは花梨に会ってる……! いつだ? いつ会った!? ボウズと会ってるってことは――花梨は無事でいるんだよな……!?)

 

 

 だが、無事ならなぜ、自分に会いに来ない?

 自分に会いに来ないのに、このボウズには会いに行っている……?

 

 ――面白くない。

 

 自分はこんなにも、花梨を想って行方を探しているというのに――。

 

 こうして名前を出しただけで、目の前のボウズがあからさまな反応を見せる。

 それが癪だった。

 

 とはいえ、ここでそんな感情を顔に出すほど、キッドは素直じゃない。

 

 むしろ傷ついた心を隠すように、口元の笑みをほんの少しだけ深くする。

 

 

(花梨……お前の事情はわからねえ……けど、ぜってぇ、探し出してやるからな……)

 

 

 そう思ったところで、これ以上、ボウズから情報を下手に引っ張ることはできない。

 ならば、ここに長居する理由もない。

 

 キッドは何事もなかったかのように、軽い調子で話を切り上げた。

 

 だが、コナンはそれを許さない。

 キッドが一歩でも動こうとした瞬間、その小さな身体から鋭い声が飛んだ。

 

 

「させるかよ!!」

 

「いいのか? 探偵ボウズ。この服を借りて、救命ボートに眠らせてる女の子……早く行ってやらねーとカゼひいちまうぜ?」

 

「へ?」

 

「オレは完璧主義なんでね♡」

 

 

 ズボッと胸元に手を突っ込み、ブラジャーを取り出したキッドはいたずらっ子のように笑った。

 

 

(なっ!?)

 

 

 コナンが蘭の今の状態を察して頬を赤らめると、キッドはサングラスをサッと身に着け、閃光弾を足元に打ち付ける。

 小さな破裂音とともに、機関室は一瞬で真っ白に塗りつぶされた。

 

 

「閃光弾!?」

 

 

 機関室が光に包まれている間に“ポン!”と何かが弾けた音が鳴り、キッドの気配が消えた。

 

 

「くそっ!! 逃がすか!!」

 

 

 キッドを追おうとするコナンの足元には、蘭のドレスと下着がひらひらと舞い落ちてくる。

 

 

「っ……あんにゃろーー! 覚えてろよ!!」

 

 

 コナンは蘭の服を拾い集め、機関室を飛び出した。

 

 

(早く蘭を見つけねーと……!!)

 

 

 急いで蘭を探すコナン。

 キッドが言った「救命ボート」へと向かって、とにかく通路をひた走る。

 

 やがて、救命ボートが見えたところだった。

 

 

「おい、女の子がボートの中で寝てるぞ!!」

 

「とにかくデッキの上に……」

 

 

 警察官たちの声が聞こえて、コナンは蘭だと直感した。

 

 

「あーーっ!! ちょっと待ったあ!!」

 

 

(蘭の裸を見るんじゃねーー!!)

 

 

 慌てて駆け寄ったコナンの前に、ボートから引き上げられた蘭が、警察官によって通路へと下ろされる。

 裸だったら――と焦ったコナンだったが、蘭の姿を見て目を丸くした。

 

 

「え? あり?」

 

 

 蘭はドレスを着たままだった。

 そして彼女の胸元に、バラが添えられたメッセージカードが貼り付けてある。

 

 “

  先日 お預けいただいた

  この真紅のドレス

  とても良くお似合いですよ

 

  ある時はクリーニング屋の

 

  怪盗キッド

 ”

 

 

「ヤロォ……」

 

 

 蘭が目覚める気配はないが、怪我もなさそうだ。

 逃げられたのは腹立たしいが、次に会ったら絶対捕まえてやるとコナンは心に誓った。

 

 そんなとき、ふとコナンの横を、髪を振り乱して走る、黒いドレスの女性が横切っていった。

 

 黒いドレス、黒い髪、金色の瞳、そしてなぜか裸足――。

 

 

「っ!? 花梨っ!?」

 

 

 一瞬見えた横顔は、紛れもなく、大切な幼なじみの花梨。

 コナンはすぐさま警察官たちに蘭を頼み、その黒い影を追いかけた。

 

 

(おいおいおい……なんでオメーは、元の姿で髪を振り乱しながら走ってんだよ……! 追われてるのか!?)

 

 

 花梨がまた稀華の手下に追われているのかと思い、背後をうかがうが、特に誰も見当たらない。

 彼女だけが前を走っているだけだ。

 

 

「っ、あいつ、足、結構早え……はぁっ、はぁっ(ってオレが遅くなったのか?)」

 

 

 目の前で、花梨が角を曲がり、階段を上っていく。

 このままじゃ見失ってしまう。

 

 

「っ、花梨っ!! おいっ、止まれ!! っ……かぁーりぃーん!!」

 

「はぁっ、はぁっ……かーりーって……へっ? あ! 新ちゃん!?」

 

 

 コナンの声が届いたのか、階段を曲がる途中で花梨が振り返った。

 

 

「はぁっ、はぁっ……オメー! いったいなにして……。つーか、その姿なんで……」

 

「新ちゃん、いいところに! 説明はあと! 一緒に来て!!」

 

「え? あっ!」

 

 

 花梨は階段をタンタンと下りると、コナンの手を取り、また駆け出した。

 

 

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