白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
少女への想いを拭えず屋上へ通う快斗だが、再会の望みは薄い。しかし諦めかけた夜、彼女が何者かに追われているのを発見し、快斗は迷わず飛び立つ――。

第34話
思いがけず…。


034:邂逅

 

 

 

 

 

 ……今日はいつもより早く帰った方だったと思う。

 

 学校が終わり、青子たちとファストフード店で寄り道して別れた花梨は、一度家に帰ると蒸れた鬘を取り去り、いつも行く近所のスーパーへ買い出しに出た。

 

 時刻は十九時。

 冬に比べたら日もずいぶん長くなったが、十八時過ぎには暗くなってしまう。

 とはいえ、新一との約束の帰宅時間までまだ一時間はあるから余裕だ。

 

 そう思って花梨は買い物をし、家路についていたわけだが……。

 

 

「ンンッ!?」

 

 

 人通りの多い道路から脇道に差し掛かったその時。

 突然背後から手が伸び、花梨は鼻と口を塞がれ何かの薬品を嗅がされた。

 

 意識を失い、気付けば見たことのないビルの一室……。

 室内照明は点いていないが、窓から車や街灯の灯りが入るから真っ暗ではない。外から雑音も聞こえるので、どこかの通りに面した雑居ビルといったところだろうか。

 

 

「ここ……どこ……」

 

 

 手首足首をロープで巻かれた花梨は、とりあえず状況を把握するため辺りを見回す。

 さほど広くない部屋に事務机が一つ。ファイルやら書類やらが床に散らばっている。他には椅子が倒れたまま放置されていた。

 この散乱ぶりからして、今は使われていない部屋なのだろう。

 扉が一つあり、ドアの隙間から灯りが漏れているため、犯人は隣の部屋にいると思われる。

 

 

「口を塞がれてないなんてラッキーね……」

 

 

 身動きはできないが、花梨は不敵に微笑み、自分を拉致した人物を待つことにした。

 

 ……それから二時間後。

 花梨はビルから無事逃げ出し、人気の少ない通りを走ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 

 ――ランニングマシンで鍛えただけあるかも。まだまだ走れそう陣平さんありがとう……!

 

 

 心の中で松田にお礼を告げながら花梨は、ビルを出て、しっかり回収済みのショルダーバッグを肩に掛けてひた走る(スーパーで買った物は一部食べられ、逃げるのに邪魔になるため置いてきた)。

 マメではないが、ランニングマシンを定期的に続けていてよかった。

 今度からEMSスーツとエアロバイクも頑張ろう――走りながら、降谷と伊達の満足そうな笑顔が浮かんだ。

 

 

「おい、止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

 

 

 後ろから追いかけてきた体の大きな男が警告するなり、サイレンサー付きの銃を逃げる花梨に向けて発砲する。

 

 パシュッン、パシュッン。

 ……威嚇のための発砲だったのだろう、花梨の頭の横を弾丸が通り過ぎた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「どうやって逃げたんだ!」

 

「逃がしてくれたじゃないですかー……!」

 

「俺たちは逃がした覚えはない!」

 

 

 一瞬立ち止まった花梨だったが、すぐに走り出す。

 街中だというのに、容赦なく発砲してくるとは……。

 

 

「そんなの当たらないもんっ!」

 

「殺しやしねーから、死にたくなければ止まれ!」

 

「止まらないっ!」

 

 

 パシュッン、パシュッン。

 パシュッン、パシュッン。

 

 大男の後ろからやって来たもう一人の大男も容赦なく発砲してくる。

 何度も発砲するが、花梨には当たらなかった。

 

 

「くそっ! あいつを引き渡さなきゃ、俺たちの命がやべーっていうのに……!」

 

「こうなったら脚を狙って……!」

 

 

 パシュッン、パシュッン。

 男の銃口が花梨の脚を狙って弾丸を飛ばす。

 狙いを定めているはずが、弾は花梨を避けるように軌道がずれ地面にめり込んだ。

 

 

「なんで当たんねえんだよ……!」

 

「当たらないったら、当たらなーい!」

 

 

 一向に当たらない弾に疑問を感じる大男たちだが、花梨はスピードを緩めることなく走ってゆく。

 

 

「はあっ、はあっ、くっそ! とにかくとっ捕まえるぞ!!」

 

「はあ、はあ……あっ、あいつ階段上ってたぞ……!」

 

「ハッ、バカな女だ。手間掛けさせやがって」

 

 

 男たちの視線の先で、花梨がビルの非常階段を上っていくのが見えた。

 ビルの上に逃げるなんて捕まえてくださいと言っているようなもの。まさに愚か者がすることだ。

 大男たちは互いに見合ってニヤリとほくそ笑み、花梨の元へ向かった。

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 

 

 ――ここのビル、屋上から隣のビルに移れそうだった。

 

 

 カンカンカンカン。

 ミュールサンダルの踵が鉄製の階段で音を奏でる。

 

 あのまま真っ直ぐ通りを走っていれば坂道に続く。自分の体力ももうあまりないし、坂道で転びでもしたら再度捕まっていただろう。

 ならば一か八か隣のビルに飛び移って助けを呼び、助けが来るまで隠れて待つか、表通りに出て逃げおおせるか。

 

 この辺りはオフィス街らしいが、花梨が走って来たのは裏通り。

 できれば表通りに出て助けを求めたかったが、表通り側の出入り口には強面の大男がいたためやめて裏通りに出た。

 裏通りは人気がなく閑散としており、表通りから聞こえる車の音なんかが僅かに聞こえるだけ。

 

 非常階段を見つけた花梨は上空を見上げ、隣のビルとの距離が短いことを確認し、階段を駆け上がった……というわけだ。

 

 

「……はあ、はあ……なんとか上っては来たけど……」

 

 

 ――詰んだかも……。

 

 

 階段を上りきり、さあ屋上まで来たぞ! そう思ったが、そうではなかった。

 非常階段から屋上へと続く扉が施錠されており、開かなかったのだ。

 

 

「……んー……まずったかな……。あんまり新ちゃんを巻き込みたくないんだけど……」

 

 

 花梨はショルダーバッグからスマホを取り出そうと手を伸ばす。

 

 

『お嬢ちゃん、そこでじっとしてろよ~?』

 

「っ……。今回は私の負けかな……」

 

 

 階下から大男の声が聞こえ、花梨はスマホに伸ばした手を引っ込めて階段の手摺りに掴まり、下を見下ろした。

 

 七階くらい上がって来たように思う。

 逃げて来た目の前の通りの先、ここから前方に下り坂が、見えるがそちらに走っていたらもしかしたら……。

 真下を覗けば暗闇だ。ここから飛び降りたら大怪我では済まない、恐らく死ぬだろう。

 

 

「……はあ……どうせ捕まっても、また逃げるのになぁ……」

 

 

 花梨がため息交じりにぽそっと呟いたその時だった。

 

 タンッ! という着地音とともに――。

 

 

『飛べっ!!』

 

 

 ……頭上、金属製の格子天井から声が聞こえた。

 

 

「え?」

 

『そこから飛び降りるんだ……!』

 

「この声……っ。わかった……!」

 

 

 ――この声なら、大丈夫。

 

 

 いつもなら信用できない、知らない相手の命令なんて聞いたりしない。

 だが今の声の主なら信用できる。

 

 

「じゃあ行くよー! せーのっ!」

 

『えっ、もう!? カウントダウンは!?』

 

 

 花梨は手摺によじ登り、声がした方へ視線を送ってから勢いよく飛び降りる。

 ふわりと宙に浮いた瞬間、白い光と冷たい夜風が視界と肌を包む。

 

 次の瞬間、力強い腕に抱きとめられた。

 ふっと胸の奥に、安心と驚きが同時に押し寄せる。

 

 

「……っと、お嬢さん。思い切りが良すぎませんか? 普通は躊躇したりするものなのでは?」

 

 

 落下した瞬間、花梨の身体は横抱きに温かく白い腕に包まれ、真下ではなく前方へと飛んでいた。

 白のジャケットに青いシャツ、ピンク色のネクタイに白手袋。白のシルクハットに銀縁のモノクル。黒に近いこげ茶色の髪と整った顔立ちの彼――。

 花梨の視界に入ってきた彼は、以前偶然出逢った怪盗キッド。

 

 ……花梨は通り掛かった怪盗キッドによって救われたのだ。

 

 背後で階段を上っていた大男たちの「あんなところに!」との声が微かに聞こえる。

 

 

「怪盗キッドさんっ! こんばんはっ、助けてくれてありがとう!」

 

「っ……こんばんは!」

 

 

 キッドはまるでずっと探していた宝物をようやく見つけたかのように花梨をぎゅっと強く抱きしめた。

 

 

「っ、苦しいんですけど……」

 

「あなたが無事でよかった……。また追われていたのですか?」

 

「ええ。また……(距離が近いな……)」

 

 

 花梨の無事を噛み締めるように、キッドが頬に顔を摺り寄せてくる。

 

 ……ハンググライダーはしばらく低空飛行を続け、ビルから坂を下った先の離れた公園へと降り立った。

 




余談:逃げてる最中、降谷とかに電話すればいいのにと思いました。新ちゃんじゃ助けられないよね…。

新一「あ? なんか言ったか?(怒)」
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