白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
GWを控え、快斗の家にお泊まりすることになった花梨。幸せな空気の中、クラスメイトの心ない陰口が耳に入る。憤る快斗だが、花梨は彼への信頼を糧に毅然と微笑む。そんな彼女の純真さに、快斗の愛しさは爆発寸前で……。

第45話
快斗のお家へやって来ました。


045:お邪魔します…

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します……」

 

「いらっしゃい! どうぞ!」

 

 

 学校を出て一度花梨の家に行き、お泊まりセットを手に快斗の家へとやって来た。

 花梨は少々緊張した様子で、通された快斗の部屋を見回す。

 

 

「綺麗にしてるんだね」

 

 

 ――新ちゃんの部屋も綺麗なんだよね……男の子って意外と綺麗好きなのかしら……。

 

 

 部屋は整頓され、綺麗だった。

 比較しているわけではないが、新一の部屋も綺麗だ。

 

 事件か何かがあると、資料やらで一時的に汚れるが、触るとまずい気がして触ったことはない。

 その間は部屋に入らないことにしている。

 

 基本、花梨は「自分のことは自分で」のスタンスなので、世話など焼かない。

 

 新一に聞いたところによると、たまに蘭が掃除しに来ているようで。

 花梨が「高校生なんだし、自分の部屋くらい自分で掃除しなよ」とやんわり言えば、「頼んでねーよ! あいつが勝手にやってるだけ!」と、恥ずかしそうにしながらムキになっていた。

 

 

「昨日、部屋の掃除めちゃくちゃ頑張った。適当に座って」

 

「あ、うん。ふふっ、そうなんだ。お掃除してくれてありがとー」

 

 

 快斗の話を聞き、床に腰を下ろした花梨は、顔は新一と似てても、やっぱり違うんだなーと自分の彼氏は素敵だなと思う。

 

 

「……着替えてもいー?」

 

「……どうぞ?」

 

「へへっ、じゃあ見ててよ」

 

「見ないよっ、向こう向いてる」

 

 

 制服姿の快斗は、着替えをするようだ。

 花梨は両手で顔を塞ぎ、そっぽを向いた。

 

 

「見てもべつにいーのに。どうせ今夜見るんだし?」

 

「っ、やだー……!」

 

 

 着替える快斗からの視線をビシバシと感じつつ、衣擦れの音が終わるのを待つ。

 くすくすと楽しそうに笑う声が快斗から聞こえ、「花梨ちゃん耳赤いよ、想像しちゃった?」と揶揄われた。

 

 

「さて、と。晩メシどうする? 簡単なものでいいなら作るけど。それともどっか食いに行く?」

 

 

 快斗の着替えも終わり、時刻は十八時近く。

 そろそろ腹も減ってくる頃合いである。

 今夜は一晩中二人きりでいられるから、食事も共にできる。

 

 ……よく食事の世話になっている青子にも、快斗は今夜の飯は要らないと、連絡済みだ。

 

 

「快斗くん、料理できるの!?」

 

 

 花梨の瞳が輝いた。

 

 

「少しくらいなら」

 

「すごーい! 新ちゃ……あ、私の幼なじみも一人暮らしなんだけど、彼、料理はからきしで。ふふっ、私たまに作ってあげてるんだー」

 

 

 また新一のことを思い出して、花梨はくすくすと笑う。

 

 

 ――新ちゃんは料理、向いてない人だからなあ……。

 

 

 新一の家に何度か遊びに行っているが、夕飯を一緒に作ろうってことで調理を始めたものの、野菜の切り方が壊滅的で、怪我をしそうなため、早々にご退場願った。

 普段は何を食べているのだろうと、ちょっと心配になったが、インスタントやデリバリーで済ませているみたいだ。

 たまに蘭も作りに来てくれるらしい。

 

 

「……、ふーん」

 

 

 ――幼なじみに料理を作ってやってる……?

 

 

 他愛のない話をしていたが、ちょっと聞き捨てならない。

 快斗は、つまらなそうに唇を尖らせる。

 

 

「? あれ? 私なんか変なこと言った?」

 

「……いや別に……ただ、花梨ちゃんの幼なじみって奴が羨ましいなって思って」

 

 

 ――彼氏はオレなのに。

 

 

 そりゃ、オレだって青子の家で晩飯を食うことはあるけど……と。

 自分のことは棚上げだが、面白くないものは面白くない。

 花梨が幼なじみだったらよかったのに、と思った快斗であった。

 

 

「羨ましい? あ、ごはんのこと? よかったら夕飯作ろうか?」

 

「……ホント!? じゃあ、お願いしたい! 花梨ちゃん、こないだくれた玉子焼きめっちゃ美味かった! ひょっとして料理得意!?」

 

 

 花梨の言葉に、快斗の表情は明るくなる。

 彼女の手料理が食べられる機会が、こんなすぐにあるなんて僥倖。

 なんてラッキーなんだと、目をキラキラさせた。

 

 

「得意かはわからないけど……一通りのものは作れるよ。難しいレシピは、料理が得意な知り合いがいるから、教わってる最中なの」

 

「へえ、すごいな……で、料理が得意な知り合いって誰?」

 

 

 へえ、すごいなーなどと感心したのは一瞬で、ピクリ。

 なぜか嫌な予感を覚えたらしい快斗は、探りを入れてくる。

 

 

「あ、時々家に来る警察のお兄さんなんだけどね。お料理がプロ級なの! 私も自分でおいしいものを作って食べたいな~って思って、たまに教わってるんだ~」

 

「……、ふーん……」

 

 

 ――警察のお兄さん……男か。

 

 

 またしても別の男の影がチラつき、快斗の口数は少なくなった。

 

 

「でも、作ったそばから食べる担当の人が食べ尽くしちゃってね。作り置きしておきたいのに困っちゃう」

 

「……、ふーん。それも警察のお兄さん?」

 

「うん、その人すっごくいじわるなの! いっつも私のこと揶揄ってくるんだよね~」

 

「……、へえ」

 

 

 ――花梨ちゃんの周り……男多くねーか……? 絶対そのお兄さん方、彼女のこと狙ってんだろ……。

 

 

 楽し気に笑顔で話す花梨は可愛いが、料理の話題一つで三人の男の影。

 不機嫌になるのは当たり前というもの。

 ……快斗から笑顔が消えた。

 

 

「……快斗くん? なんか……顔、怖いんだけど? 私変なこと言ってる?」

 

「……オレ、花梨ちゃんの家にオレ以外の男が入るのヤダなー」

 

「へっ、あっ、でも、幼なじみとお兄ちゃんたちは、そんな人たちじゃ……」

 

 

 ――新ちゃんも、零お兄ちゃんも、陣平さんも、ただの……お友達、だよね……?

 

 

 皆たまにしか来ないし、新一以外はトレーニングルームで汗を流し、お茶して帰っていくのが常。

 警察官のお兄さんたちは基本的に二人で訪問し、集まった者同士でお喋りしているようで、自分と話す機会はそんなにないのだが……。

 何か誤解しているのではなかろうか。

 

 ……不貞腐れたように頬を膨らます快斗は、ポーカーフェイスとは程遠い。

 

 

「オレ、すっげーヤキモチ焼きなの。花梨ちゃんのこと、束縛したいわけじゃないけど、彼女に他の男の影が常にチラつくのは嫌だ」

 

「快斗くん……。けど、新……あ、幼なじみの彼とは快斗くんと青子ちゃんみたいな関係だし、警察のお兄ちゃんたちはかなり歳が離れてて、恋愛対象にはならないよ……?」

 

「……」

 

 

 花梨が説明しても快斗の機嫌はよくならないらしい。

 無言でじっと見つめられてしまう。

 

 

「快斗くんが妬いてくれてうれしいけど、私、両親がもう居ないから、縁のあった人たちとは仲良くしていたいの。何かあったときのためにも、彼らと縁を切ることは望んでない」

 

 

 ――あと一月だけの繋がりだもの、大事にしたいの……。

 

 

 快斗は大事だ。

 たぶん、今一番大事な人なのだと思う。

 

 けれど花梨にとって、自分に親切にしてくれた新一も、降谷も、松田も、伊達も、諸伏だって、大切な人たちで。

 自分から縁を切るようなことはしたくない。

 もし自分がいなくなってしまった時、彼らが偲んでくれたら、うれしいと思うから。

 

 

「っ、それって、花梨ちゃんが追われていたことと関係あるのか!?」

 

「……、……うん。たぶん」

 

 

 快斗が急に身を乗り出しこの間の男たちについて言及する。

 花梨の話した意味は少し違うが、あながち間違ってもいない。

 

 ……あの男たちは翌日、海で水死体となって発見された。

 だが肺に水は入っておらず、二人とも心臓を撃ち抜かれて即死。

 

 恐らく、花梨――自分を連れ帰ることが出来なかったことが原因だろう。

 犯人の目星は付いているが、表にはたぶん出てこない。

 

 あの通りで見つけた銃痕は一課で捜査中だが、花梨までは届くことはない。

 それとなく後日降谷に「実は……」と話したら呆れられたが、「無事でよかったね」と不機嫌スマイルをもらった(ついでになぜかハムサンドを貰い、すごくおいしくて泣いたら慰められた)。

 壁や道路に穴が開いただけで怪我人がいないため、被害者のいない発砲事件としてもうすぐ処理されるらしい。

 

 帰り際、降谷から「今度ゆっくり話を聞かせてもらえるかな?」なんてイケメンスマイルとともに亡くなった大男二人の資料を見せられ、花梨は「ははは……」と愛想笑いを返しておいた。

 二人とも普通の女子高生が関わるような人間ではなく、闇稼業の人間である。

 そんな男たちになぜ狙われたのかは恐らく――。

 

 ……恐らく降谷もなんとなく黒幕が誰なのか感づいている。

 だから相談したわけだが、話を進めていくうち複雑そうな顔をしていた。

 

 新一には言っていないから彼は何も知らない。

 新一に言えば、彼は喜んで首を突っ込んで来るだろう。

 警察の捜査に協力する日々を送る忙しい幼なじみに、これ以上、迷惑は掛けられない。

 

 どの道、あと一月で尽きる命だ。

 立つ鳥跡を濁さず――。

 

 そう、心に決めているのだから。

 

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