白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
甘い朝を迎え、大幅に遅れてトロピカルランドへ到着した二人。初めての遊園地に浮き立つ花梨と、彼女を独占したくてたまらない快斗。観覧車での密やかな時間に幸せを感じつつも、花梨の胸には「来月には死ぬ自分」への冷たい予感と、快斗への申し訳なさが去来していた。

第48話
快斗とはもうラブラブですね…。
ミステリーコースターには乗りません!


048:ミステリーコースターの異変

 

「わぁ、噴水だ~! 今日は暑いから気持ちいいねっ!」

 

「うわ~♡ 花梨ちゃんこっち向いて!」

 

「えー?」

 

 

 さて、次にやって来たのは【科学と宇宙の島】、同じエリアにある噴水広場。

 二時間おきに多量の噴水が一斉に噴き上げる。

 

 快斗は噴き上げる水と戯れる花梨を、夢中でスマホのカメラに収めた。

 ファインダー越しの彼女は、まるで光の粒子を纏っているかのように神々しい。

 

 

(この姿、オレ以外の奴には絶対に見せたくねーな……)

 

 

 独占欲を滲ませながら、快斗は録画ボタンを押す。

 カメラ越しの花梨がはしゃぐ姿にうっとり。

 噴水が終わると、これで花梨と会えない時も淋しくないなと撮影を終えた。

 

 【科学と宇宙の島】を一通り楽しみ、花梨と快斗は別の島へと移動する。

 

 ……時刻は午後四時を過ぎた。

 【夢とおとぎの島】で夜のパレードを見ようと思っているから、今からあまり遠い島へは行けない。

 

 そんなわけで【怪奇と幻想の島】までやって来た。

 ここには人気のアトラクションであるミステリーコースターと氷と霧のラビリンスがある。

 

 

「オレ、ここ行きたい!」

 

「えぇー……?」

 

 

 次はどこに行こうかと園内マップを見下ろす花梨に、快斗はあるアトラクションを指差した。

 花梨の顔が引き攣る。

 

 

「怖がりなお嬢さん? 私が抱き上げて運びましょうか?」

 

「そんなの大丈……きゃあああああ~っ!(だいじょぶじゃなかった~!!)」

 

「おおっと……!(役得役得♪)」

 

 

 ……やって来たのはおばけ屋敷だ。

 入場する前から腰が引けている花梨を横目に、快斗は「だいじょぶだいじょぶ!」と彼女の腰に手を回しエスコート。

 今回はセクハラと言われなかったのでほっとしつつ、入場。立場が違えばセクハラにはならないのである。

 

 入場後一分もしないうちに出てきたオバケに驚いた花梨は真っ青になり腰を抜かした。

 快斗が立たせてやり、紳士的に声を掛けてみれば彼女が抱きついてくる。

 抱きつかれた快斗はしてやったりとしたり顔だ。

 

 その後、花梨が歩けないというので抱き上げて進むことにした。

 

 

「……お、終わりだぁ……ぅぅ……」

 

 

 暗闇の先に光が見え、花梨は快斗にしがみつきながら涙を零す。

 おばけ屋敷内を行く間、何度もちゅっ、ちゅっ、と額や頬に柔らかい何かが押し当てられていたが、そんなものを気にしている余裕など花梨にはなかった。

 今もちゅっ、ちゅっと額に頬に触れるそれが快斗の唇だということは、この後すぐに理解することになる。

 

 

「よく頑張ったな、最後にご褒美♪」

 

「ぇ、ンッ!?」

 

 

 出口を抜ける直前快斗に唇を塞がれ、あれは快斗の唇であったとようやく理解した。

 

 

「あっはっはっ! あのねーちゃん、泣いてら! よっぽど怖かったんだぜ!」

 

「ふふっ、ちょっと元太君、失礼ですよ。……でも、とっても綺麗なお姉さんですね」

 

「え~、このおばけ屋敷、そんなに怖かったかなあ……?」

 

 

 おばけ屋敷の外に出ると、泣いていた花梨は、通り掛かった子どもたちに笑われてしまう。

 

 ……小学一年生くらいだろうか。

 目が合うと、三角頭に丸い身体の大きな男の子、そばかすのある利発そうな男の子、ピンクのカチューシャがチャームポイントなボブカットの可愛い女の子の三人が頬を赤く染めた。

 後に少年探偵団となる三人の姿だが、今の花梨にそれを知る術はない。

 「お姫さまがいる……!」と女の子が言うと、快斗が「そーなんだ。オレのお姫さまなんだぜ、いーだろ!」と、花梨を抱えたままで、三人の前を通り過ぎた。

 

 

「はー……怖かったよぉ……」

 

「まだ泣いてる……かわヨ♡」

 

「お化け屋敷嫌いって言ったのに……」

 

「ごめんな~! 花梨の怖がる顔見てみたくてさ♪」

 

 

 おばけ屋敷を出てぐったりした様子の花梨をベンチに座らせ、快斗は隣で頭の後ろに手を組みいたずらっ子のように笑って謝る。

 

 

「うぅ……、快斗いじわるだ……。うぅ……」

 

「っ、ああ~も~、なに? その可愛さなに!?」

 

 

 ポロポロと大粒の涙を流し、潤んだ瞳でじっと見つめてくる彼女の可愛さに胸を撃ち抜かれた快斗は、シャツの胸元を強く握った。

 

 ……彼女が可愛過ぎてつらい、このまま持ち帰っていいですか? いいですよね。

 

 自問自答したが、昨日から今朝にかけて散々弾けたから、花梨にこれ以上無理はさせたくない。

 

 

「ずびっ! 鼻水でちゃった……」

 

 

 そのうち花梨の鼻から透明な雫が零れ……。

 

 

「はははっ! はいはい、ティッシュをどうぞ?」

 

「わっ♡ すごぃ、ありやと……♡」

 

 

 快斗が指をぱちんと鳴らすと、花梨の手からティッシュが現れる。

 花梨は泣き腫らした瞳で笑って鼻をかんだ。

 

 

「……(ホント不思議な子……見てて飽きねー……)」

 

 

 時に妖艶(ミステリアス)な美女、時に無邪気な少女、時に泣き虫な女の子。

 どの花梨も快斗は愛しくて堪らない。

 昨夜から花梨のくるくる変わる表情を楽しんでいる。

 

 こんな幸せな毎日がこれからずっと続くと思うと、こんなに幸せでいいのだろうかと少し怖くなった。

 

 

「はあ……」

 

「落ち着いた? 無理強いしてごめんな」

 

「ん……、怖かったけどいい経験になったと思う……もう二度と行かない♪」

 

 

 快斗からの謝罪を受け、花梨はいーっと眉間に皺を寄せて明るく告げる。

 ……余程嫌だったらしい。

 

 

「プッ。はははっ、そーだなっ。今度来るときもオレが運んでやっから安心していいぜ?」

 

「そうじゃないのー! 行かないのー!」

 

 

 花梨の眉間の皺をつんつんと突いた快斗は、次回もおばけ屋敷は絶対入ろうと誓った。

 

 

「じゃあ、次はどうする? ミステリーコースターでも乗るか?」

 

 

 花梨たちが休憩するベンチからはミステリーコースターが見える。

 人気のアトラクションだが、なんだかざわついている……。 

 ミステリーコースターの入場口付近で黒山のような人だかりができていた。

 

 

「なにかあったのかな……」

 

「さあ……?」

 

 

 遠巻きにミステリーコースター周辺の様子を見守っていると、その喧騒の中に、見知った横顔が見えた。

 

 

「……あ」

 

「ん? どした?」

 

「ううん……、なにか事件があったみたい」

 

 

 ――今の、新ちゃんよね……?

 

 

 新一が見覚えのある警部らしき人と話をしているのが見え、花梨はミステリーコースターで何かあったのだと悟る。

 

 ……彼は事件を呼ぶ男だ。そして、鋭い推理で必ず闇を照らす探偵。

 ここは新一に任せておけばスピード解決するはず。

 

 推理の門外漢である花梨は、声を掛けようとは微塵も思わなかった。

 そもそも今日は見掛けてもスルーすると宣言してある。

 

 傍らで不安そうにしている蘭を見つけ、“蘭ちゃんだ~♡”とちょっと萌えた花梨だった。

 

 

「え?」

 

「ほら、警察が来てる……、っ!?」

 

 

 多くの人の合間に警察関係者が複数見えじっと様子を見守っていると、新一から少し離れた場所で、明らかに場にそぐわない黒ずくめの男二人を見掛ける。

 彼らの周囲だけ、空気が凍りついているような……死の匂いがした。

 

 花梨は身を竦め帽子を深々と被った。

 

 

「花梨?」

 

「……快斗。ここを離れよう?」

 

「え?」

 

「……しばらくミステリーコースターには乗れないと思うの。パレードまで時間もあんまりないし、別の島に行こ?」

 

「ん? お、おお……」

 

 

 快斗の手を引き、花梨は俯きながらその場から足早に立ち去る。

 あの黒ずくめの男たちが、以前追いかけてきた男たちと似た不穏な雰囲気を纏っていたから――。つい、本能的な警戒心が勝ってしまったのだ。

 

 

「……快斗は気が付いた? 黒ずく――」

 

「なにが?」

 

「あっ……ううん。何でもない。今日は快斗がいるから大丈夫みたい」

 

 

 ――今、私、快斗を巻き込みそうにならなかった……!?

 

 

 花梨はハッとして首を左右に振る。

 ……自分の事情に快斗を巻き込む気はない。

 快斗は快斗で成し遂げなければいけないことがあるのだから、それに集中して欲しい。

 

 なのに、いま。

 花梨は話してしまいそうになった。

 ずいぶん絆されてしまったなと自嘲気味に笑顔を取り繕う。

 

 

「へ?」

 

「ふふふっ。私って、一人でいるとどうもトラブルに巻き込まれちゃうみたいで。知り合いといると不思議と何も無かったりするの(新ちゃんとはあったけど……)」

 

 

 花梨がトラブルに巻き込まれるのは決まって一人でいる時だ。

 知り合いといると何も起きず、平穏無事なのだ。

 但し新一といると話は別で、何かしら起きるのは、きっと彼の事件引き寄せの力なのではないかと花梨は思っている。

 

 

「そうなんか? じゃあオレといつも一緒にいればいいよ」

 

「快斗……ありがと♡」

 

 

 「くっ付きなよ」とでも言うように快斗が腕を差し出す。

 花梨は自らの腕を絡めて【怪奇と幻想の島】を後にした。

 

 そんな二人が楽しいデートを続ける裏で、あのような悲劇が起ころうとは……。

 この時の花梨は、快斗の優しさに甘えて幸せな時に浸り、知る由もなかった。

 

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