白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
快斗の協力者を紹介するため訪れたブルーパロット。だがそこは、花梨がかつて窮地を救われた馴染みの店だった。店主の寺井と親しげな彼女に、快斗は独占欲を爆発させる。花梨は困惑しつつも、残された短い時間で彼を大切にしようと心に決める。

第56話
快斗は優しい。


056:出発の前に

 

 

 

 

 

 花梨をカウンター席に残し、寺井と店の奥へとやって来た快斗は――。

 

 

「快斗ぼっちゃま、花梨ちゃんといつからお付き合いをされているので?」

 

「……あー……まだ二週間も経ってねえかな……」

 

「そうでしたか。まだ二週間……」

 

 

 快斗に頼まれていた小道具を準備しながら寺井が尋ねる。

 快斗は近くの机に腰を下ろし、手持ち無沙汰なのか、傍にあった三つのボールでジャグリングを始めた。

 

 

「……花梨、戸惑った顔してたな。やっぱ重かった?」

 

「……そうですね……」

 

「オレ、あの子に手を出すの早まったかも」

 

「ぁ……」

 

 

 何気なく話す快斗に、寺井は二人の関係を察して黙り込む。

 最近の若者は関係を進めるのが早いのだなと少々赤面した。

 

 

「……あの子が好きすぎて、もうどうしようもねえ……。ずっと一緒にいたくて、守ってやりたくて。たとえ彼女が浮気しても、オレの元に戻って来るならたぶん許しちまう」

 

「花梨ちゃんは、浮気するような子ではないと思いますが……」

 

「……オレもそう思う。思ってる。花梨のことはなにがあっても信じてるよ」

 

 

 ――花梨のことは信じてるけど、周りにとにかく男が多いんだよな……。

 

 

 快斗は自身に言い聞かせるように目を閉じる。

 ……ボールが床に落ちて転がった。

 

 花梨の周りの男たちは恋愛対象にはならないと、本人から聞いてはいるが、快斗自身も元々恋愛対象に入ってなかった。

 

 たぶん彼女はそういう感情に疎い。

 だからどこでどう転ぶかはわからないじゃないか。

 

 彼女がもし今後、自分以外の男と歩んでいくなんて――考えただけでも仄暗い感情が湧いてくるのだから、実際にそんなことになったら自分でも何をするかわからない。

 

 

「まだ短いお付き合いですのに、花梨ちゃんをずいぶんと大事にされているんですね」

 

「ああ……彼女、なんかヤバイ奴らに追われててさ。キッドに扮してたオレが助けたんだよ。これからも狙われたりするんだと思う。だから誰かが守ってやらなきゃって思ったら、もうオレしか守ってやれなくない? って使命感感じちゃって。花梨沼に落ちちゃったよ」

 

 

 花梨は見た目だけじゃなくてその性格仕草、何もかもが興味深い。

 一目惚れで始まった二度目の恋だが、初恋もまさかの彼女だったのだ。

 怪盗キッドを出し抜き、騙した可愛い彼女の沼に、快斗は今もずぶずぶと沈んでいっている。

 

 

「追われて……? そういえば初めてお会いした時も誰かに追われていたとお聞きしましたよ」

 

「本当か!? ……あの子、どうもトラブルに巻き込まれる体質らしいんだよなー。けどオレといると平和? らしくて、この一週間追われてないって言ってたような……」

 

 

 寺井から話を聞き、花梨が「こんな何もない一週間は初めてだよ。平和さいこー!」と言っていたことを思い出す。

 

 夜散歩に出かけるのが趣味だって言ってたから、止めればと言っただけだが、キッドとして初めて逢ったあの夜から控えているのだとか。

 快斗はそれのお陰なんじゃないかと思ったが、拉致された日は夕方に襲われたらしい。

 

 どうも時間帯は関係ないようで、付き合うまでの間にも変なおっさんに付き纏われたとか……。

 付き合い始めてからは快斗、自分と寄り道するようになって、花梨も楽しそうにしていたし、夜の散歩はきっぱりやめたそうだ。

 やはり、家まで送ってやっている効果はあるのだろうと快斗は思う。

 

 

「そうなのですね。それはそれは。快斗ぼっちゃまは、花梨ちゃんの安全基地なのかもしれませんね」

 

「オレが花梨の安全基地か……。そっか……へへっ、なんかいーなそれ! オレだけが花梨を守ってやれるって?」

 

「ふふ。ですから自信を持って嫉妬はほどほどになさった方がいいかと」

 

「……そーだな。ちょっと大人気なかったかもな……」

 

 

 ――けどジイちゃん、花梨沼はすげーんだぜ……。

 

 

 花梨といるだけで幸せを感じるのは本当だが、同時に、狂おしいほど彼女を独占したくて堪らなくなる。

 

 

「……あの宝石の瞳(シトリン)を見ていたら、怪盗としての欲求が高まり、すべてを奪いたくなるんだ。彼女はまるで、オレが探し求めているビッグジュエルのようでさ……」

 

 

 快斗の言葉に、寺井は静かに目を細めた。

 

 

「さ、ぼっちゃま、ご用意できましたよ。お持ち下さい」

 

「あ、さんきゅー!」

 

 

 小道具の用意ができ、快斗は寺井から小道具の入った袋を受け取る。

 少しだけ己の独占欲を反省しつつ、愛しい彼女の待つカウンターへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 快斗が店内に戻って来ると、退屈だったのだろう、花梨がカウンタ―テーブルに突っ伏して眠っていた。

 

 

「かり……あ、寝てる(寝顔もカワイイな♡)」

 

「お疲れなのでしょうかね……、先ほども少々気怠そうでしたし」

 

「……そうだな。オレの彼女、可愛いーだろ?」

 

 

 ――まあ、オレのせいだし疲れてるよな……。

 

 

 眠る彼女を見下ろし、快斗は白い髪を撫でる。

 

 金曜の夜から三日間、快斗は花梨を抱き潰している。

 緊張しながら初めて買ったゴムは、既に使い終わってしまった。

 今夜の予定を終えたら、彼女に内緒で再び買ってくるつもりだ。

 

 

「フフフ、そうですね」

 

 

 寺井は、愛おしそうに花梨を見下ろす快斗に顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なぜ花梨のマンションを知っているのかに嫉妬しつつ、快斗は寺井に花梨のマンション近くまで送ってもらう。

 車から降り、眠ったままの花梨を負ぶると、背中の温もりに安心感を覚えた。

 

 

「花梨、もうすぐ家に着くぞー?」

 

「んん……はぁい……、いただきます……もぐもぐ」

 

「……寝ぼけてる。なに食べてんだー?」

 

 

 花梨の重みと柔らかな温もりが心地好い。

 快斗は穏やかに口角を上げながら、マンションのエントランスへと入って行く。

 ハンズフリーの鍵を花梨が持っているから、エントランスのガラス扉は勝手に開いた。

 

 

「ふあ……おいひー……はぁ……、ん……? あっ! か、快斗!?」

 

「あ、起きた?」

 

「っ、ごめんっ! おんぶしてくれてたの!? っ、下ろして!」

 

「ちょ、暴れんなって! いーよ、そこまでジイちゃんが送ってくれたからさ。このまま花梨ちゃんの部屋まで行くよ」

 

「わ~っ、恥ずかしいよ~っ!」

 

「起きない花梨が悪いんだろー?」

 

「いやーんっ!」

 

 

 目覚めた花梨は背中から下りたいと暴れたが、快斗は下ろしてやらない。にこにこしながらコンシェルジュの前を通り、軽く会釈してエレベーターへ。

 コンシェルジュの女性にくすくす笑われたが、その眼は温かかった。

 

 花梨の部屋へ戻って来ると、二人は軽く昼食を摂る。

 

 

「ごちそうさまっ! 今日もうまかったー♡ 花梨ちゃん超すき♡」

 

「お粗末様でした~。あっ、もう十四時だ! 確か青子ちゃんとの約束の時間は……」

 

 

 遅めの昼食を終え(花梨は夢の中で食べたパスタでお腹いっぱいだと、殆ど食べず……)、時計を見れば十四時を過ぎていた。

 快斗の愛の囁きに慣れてきた花梨は淡々と時刻を告げる。

 

 今日はこれからトロピカルランドに行かなければならない。

 

 

「十五時だな。ちょっと急ぐか。オレが片付けとくから花梨は準備しておいで」

 

 

 快斗は食洗機に食器を詰め詰め片付けをする。その間に花梨に出掛ける準備を促した。

 

 花梨は自室へと駆け、着替えをして戻って来る。

 今日は、半袖フリルの白いシフォンブラウスに紺色のキュロットスカート。手首には細いチェーンのブレスレット、それにポシェット。昨日より少々大人っぽいスタイルだ。

 

 

「かっわ♡♡」

 

 

 この子何着せても似合うな……と、快斗はばたばたとリビングに駆け込んで来た花梨に萌えた。

 

 

「あっ! かつら! 金曜から被ってなかったから、部屋に置きっぱなしだった、取ってくるね……!」

 

「花梨っ、ちょい待った!」

 

 

 鬘を着けていないことに気付いた花梨が部屋に戻ろうとするが、食洗機のスイッチを押し、昼食の片付けを終えた快斗は引き留めた。

 

 

「ん……?」

 

「そのまま! そのままで行こう!」

 

「えっ、でも」

 

 

 青子はびっくりするんじゃないだろうか……。

 蘭に似ている青子に、みすぼらしい白髪頭を見せるのは少々躊躇してしまう。

 

 花梨の瞳が不安に揺れる。

 だが、快斗は。

 

 

「かーいーから大丈夫! オレを信じて。昨日の帽子被ればいいよ」

 

「でも……本当に、この髪で大丈夫なのかな」

 

 

 不安そうに首を傾げる花梨に、快斗は昨日被っていた白いキャペリンハットをふわりと乗せた。

 

 

「……、ん……、うーん……」

 

 

 帽子の下で、花梨は唸って悩んでいる様子。

 

 

「花梨ちゃん、とーっても可愛いよ? オレ、そのままの花梨が一番すき!」

 

「っ……快斗がそう言うなら……、でも本当にこの髪で大丈夫なのかな……」

 

「大丈夫、大丈夫! 花梨はとびきり可愛いんだから。自信持って!」

 

 

 鏡の前で躊躇する彼女の背中を、快斗は優しく、けれど力強く押し出す。

 自己肯定感の低い彼女に、本当の自分を好きになってほしい。

 

 それが、彼女を『安全基地』に招き入れた快斗の、切なる願いでもあった。

 

 

「でも……」

 

「青子は絶対喜ぶって!」

 

「えぇ……?(どうして青子ちゃんが喜ぶの……?)」

 

 

 出発ぎりぎりまで葛藤していた花梨だったが、「けど」「やっぱり」と花梨が言うたび、快斗が「大丈夫! 花梨はすげーいい女だから!」とヨイショし、勢いに負けた花梨は白髪のまま家を出た。

 

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