白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
白髪の正体を明かした花梨に、青子は「尊い」と大興奮し、快斗から奪う勢いで懐柔し始める。快斗は幼馴染の猛攻に嫉妬しつつも、花梨と甘いひと時を過ごしアリバイを重ねる。そんな中、花梨の空腹を知らせる音が園内に響き渡り……。

第58話
色々と重いわけで。


058:重っ

 

「もうそんな時間か。オレも腹減った! メシ行くかー!(恥ずかしがる花梨かーいー♡)」

 

「賛成~! 青子に任せてー!(ああ~、なになに? そんなに恥ずかしがるとこー!?)」

 

 

 歩き回っていると腹も空くもので……。

 快斗が腕時計を見やり、時刻は十七時過ぎ。

 青子主導で海のレストランへとやって来た。

 

 まだ十七時ということもあり店内の客は疎ら。

 海のレストランという名だけあって、メニューは魚介類を中心としたものばかりだ。

 花梨、快斗、青子と三人がともに注文を済ませ待つこと十分。

 花梨と青子の料理が先にテーブルに並んだ。

 

 

「てめえ、オレの目の前で魚食うことないだろ!?」

 

「だって好きなんだもーん♡」

 

 

 青子が白身魚のムニエルを美味しそうに頬張る。魚料理を注文したからか、快斗は憤慨し怒り出した。

 

 

「魚……?」

 

 

 二人の様子に花梨は、自分の注文したエビのフリットを食べつつ首を傾げる。

 

 

「快斗って、魚嫌いなのよー?」

 

「あ、そうなんだ?」

 

「こんなにおいしーのにねっ♡」

 

 

 ナイフとフォークで、青子が白身魚のムニエルをパクパクと口に運ぶ。

 添えられたソースが絶品のようで、口に入れる度口角を上げていて幸せそうだ。

 

 

「……花梨はエビにしたんだな。うん……さすがわかってる!」

 

「へ? あ、入口におすすめって書いてあったから……」

 

「オレもエビにしたんだ!」

 

 

 快斗がなぜかうんうんと満足そうに頷いているが、花梨に好き嫌いは特にない。

 腹は空いているが、特に食べたいものもなかったから、レストランの入口に設置されたウェルカムボードに書かれた“甘エビのフリット”を注文したまでである。

 

 

「お待たせ致しました」

 

「おっ、来た来た♪」

 

 

 快斗の前に大きなエビがのった皿が配膳される。

 これはオマール海老というものではなかったか。オマール海老の白ワイン蒸しというのを頼んだらしい。

 魚は苦手らしいが、他の魚介は大丈夫そうだ。

 

 

「青子、てめえオレの前で魚食ったこと憶えてろよ……」

 

「魚くらいでなによ」

 

「ぜってー仕返ししてやっからな」

 

「ふんっ、やれるもんならやってみなさいよ」

 

 

 快斗と青子が険悪な状況になってしまい、場の空気が悪くなる。

 ところがそんな中でも花梨は。

 

 

「……甘エビおいし……♡ んっ、ふふっ♪」

 

 

 ――殻ごと食べるからカルシウムも取れるし、添えられたカリカリワカメでマグネシウムもばっちりね。

 

 

 一人、まったりエビの美味さに舌鼓を打っていた。

 

 二人が揃うと言い合いが始まる。

 ……快斗と青子の喧嘩はもう慣れっこである。

 

 花梨も新一と言い合いになってしまうことがあるから、幼なじみはこういうものなのだと理解しているつもりだ。

 そのうち言い合いをしていた二人も、花梨が大人しいことに気付き、置いてけぼりにしてしまったかと心配したが、美味しそうにエビのフリットを食べる彼女に注目――。

 

 

「「……きゃわわ♡」」

 

 

 にこにこと機嫌良さそうに食事をする花梨に、快斗と青子は釘付けになった。

 

 

「はー、おいしかった~♪」

 

「うん、おいしかった~!」

 

「可愛かった……、花梨は何してても可愛いからオレ困っちゃう」

 

 

 ゆっくり食事を摂り、レストランを出て青子を先頭に、花梨、快斗と続く。

 人気のレストランだったらしく、店を出る際、これから食事をする客が待ち行列を作っていた。

 早めの夕食は正解だったかもしれない。

 

 ……快斗は、花梨の食事風景を収めたスマホを見ながらニヤニヤ。

 

 

「快斗……あんた花梨ちゃんのこと好き過ぎでしょ……。食事中ずっと花梨ちゃんにスマホ向けて……」

 

「しょーがねーだろ、好きなんだから。オレのスマホ花梨の画像でいっぱいなんだぜ♪」

 

 

 ほらっ、と快斗は“花梨フォルダ”なる、画像データを青子に見せつけた。

 そこには動画を含むサムネが二百枚以上――。

 中には盗撮っぽいものもあるのだが、パッと見ではわからない。

 

 ……付き合い始めてまだ間もないというのにその量。

 

 

「重っ……(花梨ちゃん可哀想……)」

 

 

 ――青子の“花梨フォルダ”も中々のものだけどね……!

 

 

 青子も負けじと花梨フォルダを開いて快斗に見せつける。

 その枚数は百二十二枚……。

 

 

「うわっ! これっ、(かつら)で前髪上げたやつじゃねーか! すげえ! レア花梨じゃん! 青子シェアしろシェア!」

 

「いやよ! これは青子のなの!」

 

「チッ。いーよいーよ。花梨にやってもらえばいーし! なー花梨? あれ?」

 

「……え? 花梨ちゃん?」

 

 

 いつの間にか並んで歩いていた快斗と青子だったが、花梨がその場にいないことに気が付き、辺りを見回した。

 花梨は一人、離れた場所で【CAPTAIN E.T.】なる大型テント造りの立体映像館を見上げている。

 

 二人が花梨トークで盛り上がっている間に、話題の中心の彼女はその場から抜け出していたらしい。

 

 

「ねー二人とも、映画見ない~? 上映時間、四十分だって!」

 

「いいね~! 面白そ~、みよみよ~♡」

 

 

 花梨の誘いに青子はウキウキで駆けていく。

 

 

「映画……」

 

 

 ――そろそろ時間か……。

 

 

 快斗が腕時計を見ると、時刻は十九時二十分。

 予告時間は二十時だから、抜け出すのにちょうどいい頃合いである。

 

 予告時間に今回のターゲット“天使の王冠”を盗み出し、戻ってくるつもりだ。

 

 

「楽しみだね~、花梨ちゃんっ♡」

 

「そうだね」

 

 

 映像館の中へと入り、花梨を真ん中にして左に快斗、右に青子。三人並んで座った。

 青子は花梨の腕を抱きしめ、ぴったりくっついて前を向き、映画が始まるのを待っている。

 

 ……よし、これなら小道具も使わず、スムーズに行けそうだ。

 快斗は不自然にならないように心掛けて、口を開いた。

 

 

「あ、オレ……立体映画って苦手なんだ……外で待ってるよ……。花梨悪いけど青子と楽しんで――」

 

「逃がすわけないでしょ!」

 

「へ?」

 

 

 “ガチャンッ!!”

 

 金属が嵌る音で快斗の言葉は途中で遮られた。

 

 手首にワッパ……手錠が掛けられている……。

 冷たく硬く、重い――その手錠、どう見ても本物だ。

 ……父親から借りてきたのだろうか。

 

 

「ごめん……もう少しだけ……、もう少しだけじっとしてて」

 

 

 花梨を挟んで、青子は身を乗り出し必死な顔。

 

 そして再びガチャン!!

 金属が嵌る音が聞こえた。

 

 

「なぜ私にまで……?」

 

「っ」

 

 

 快斗に嵌めた手錠の片方は花梨に掛けられ、花梨と快斗は互いに手元を見てから目を合わせる。

 

 

「二人が一緒にいれば安心かな~って。さあ、みよみよ♡♡」

 

 

 青子は安心したように席に着き、3D眼鏡を掛け前を向いた。

 

 ……そろそろ上映時間だ。

 

 

『ただ今からキャプテンE.T.を上映致します……』

 

 

 館内アナウンスが流れ、青子がそちらに集中し始める。

 映像館に入る前からウキウキしていたから、かなり楽しみのようだ。

 快斗の見張りは花梨に任せておけばいい、とでも思っているのかもしれない。

 

 そんな青子を見計らい、花梨は快斗に耳打ちした。

 

 

「ね、快斗。青子ちゃん、私も疑ってるのかな?」

 

「いんや? そうじゃねーと思う。どっちかっつーと、花梨がオレの正体を知らねーと思ってっからわざと掛けたんだよ」

 

「そっか……私、手錠嵌められたの初めて。重いね」

 

「はは、気分わりぃよな、ごめん」

 

「あ、ロープなら結構あるんだけどね、よく捕まっちゃうから」

 

「……、……マジか」

 

 

 ――普通、ロープで縛られるなんてあんまないけどな……。

 

 

 この間もそうだが、花梨はどれだけ拐われたりしているのだろう。

 表情の変化もなく、平然と言ってのける彼女に快斗は微苦笑する。

 

 

「おかげでロープ抜けは得意だったりするよ?」

 

「はは、すげえな。花梨ならオレのマジックの助手もできそうだな」

 

「マジックの助手……? ふふっ、それ楽しそうだね!」

 

 

 ――マジックの助手かぁ……できたらきっと、楽しかったんだろうね……。

 

 

 そう、未来があれば。

 

 数年先のことなど花梨には考えられない。

 快斗の未来に花梨、自分がいることはきっとないから。

 

 ……花梨はにこにこと笑顔を返しておいた。

 

 

「……なあ花梨、オレそろそろ行ってこようと思うんだ」

 

「ん、ちょうどいい頃合いだもんね」

 

 

 腕時計を見ると、時刻は十九時二十七分。

 キッドの犯行予告時刻まであと僅かだ。

 

 

「青子のこと頼む……つっても、今日の様子を見る限り、青子はオレのことなんか気にしちゃいねーと思うけどな。念のための手錠だと思う。バレそうだったら適当に誤魔化してくれるか?」

 

「うん、任せて。気を付けて行って来てね」

 

「うん……いってきます」

 

 

 ちゅっ。

 

 快斗は花梨の唇に軽く口づけ、あっさり手錠から手首を抜き、持ってきた小道具――風船を膨らまし始めると、あっという間に去って行った。

 

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