白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
映画の終盤、戻った快斗は花梨を狙うボウガンの矢を間一髪で防ぐ。青子の疑いは晴れたものの、正体不明の襲撃者に快斗は戦慄する。花梨もまた、自身の背後に迫る死の影を感じ取っていた。不穏な空気の中、快斗は彼女を必死に守り抜くことを誓う。

第60話
花梨を狙う敵は…。


060:敵は誰?

 

 ……花梨たちが、やって来たバスに乗り込み、トロピカルランドから去った頃――。

 花梨が視線を感じたと言っていた方角に、一人の男の姿があった。

 

 閉園したエントランス近くの建物の陰で、頬から顎にかけて短い髭を生やした高身長の男がスマホを耳に当て、口を開く。

 短髪で、優しげな面差しの彼は。

 

 

「……もしもし、零?」

 

『あー、景。どうだった?』

 

 

 通話相手は降谷である。

 降谷が景と呼ぶのは一人しかいない。

 

 彼の名は【諸伏景光】。

 花梨から、“ヒロお兄ちゃん”と慕われている降谷の親友だ。

 

 

「うん、花梨ちゃんは無事。今バスに乗って帰ったよ。今回はボウガンだった。しかも三本連射だ」

 

『そうか……。民間人が複数いる場所で堂々と彼女を狙うとは……。段々手段を選ばなくなってきたな』

 

「先週なんか、不法侵入しようとしてたしね。二本は余裕だったんだけど、三本目が少し遅れて発射されて、ちょっと焦ったよ」

 

 

 諸伏は、足元を冷たい瞳で見下ろしながら話を続ける。

 

 

『大丈夫だったのか!? って花梨は無事って言ってたっけ』

 

「ああ、彼女は無事だった。三本目はあの子の彼氏が逸らして守ってくれたよ。まあ、俺の弾も間に合ってたようだけど」

 

 

 ――いや~、あの動体視力は見事だったな。

 

 

 笑顔でそう語りつつダンッダンッ、と諸伏の長い脚が、足元に向けて打ち付けられる。「うっ、うっ」という呻き声が僅かに聞こえた。

 

 

『あぁ……もしかして黒羽……快斗、かな? 彼女と同じクラスの友達の……』

 

 

 ふと、降谷の声が一段低くなる。

 

 

「ん? 友達? そうそう、彼、只者じゃないね。いい動きしてた……って、零、機嫌悪くない?」

 

『……別に? へえ、景が褒めるなんて珍しいな』

 

 

 諸伏の指摘に降谷の声が一瞬詰まった気がした。

 

 

「……ハハッ、零ってそうなんだ?」

 

『なにが』

 

「……別に。歳の差がすごいなって思っただけ。まあ、可愛いもんな、彼女」

 

『な・に・が?』

 

 

 降谷の声が明らかに不機嫌だ。

 これ以上弄ると本気で怒りだしそうだから、ここらが収め時か。

 

 ……諸伏は話題を変えることにした。

 

 

「ふう……、で、確保した奴なんだけど、どうする? ちょっと痛めつけちゃってるけど、喋れると思うよ? な?」

 

 

 ダンッ!

 

 諸伏の靴が花梨を狙撃した犯人の背中にめり込む。犯人は猿ぐつわをされているため喋れず、「うぅ……」と呻いた。

 その犯人、両手首を背後に回し手錠を掛けられている。両足首もしっかりロープで固定済みだ。

 

 諸伏に相当痛めつけられたのだろう。

 服は所々汚れ、破れている。顔は元はどんな顔をしていたのかわからない状態である。

 

 諸伏がしゃがんで目を合わせると、犯人は怯えた。

 

 

『ふぅ……。手配するよ(景だって怒ってるじゃないか……)』

 

「頼んだよー」

 

『景、今週もお疲れ』

 

「零もね」

 

 

 プツッ。

 一通りの報告を終え、諸伏は通話終了ボタンをタップする。

 

 

「さあ、これから迎えが来る。洗いざらい吐いてもらおうかな? 偽姫の手下くん?」

 

「……、……う、うう……」

 

 

 普段は優し気な雰囲気の諸伏だが、今夜はそうではないらしい。

 犯人は怯えた瞳で身体を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 花梨たちはというと……。

 無事、バスで帰宅した。

 

 

「花梨ちゃん、おやすみ。快斗も……」

 

「うん、おやすみ」

 

「おう、じゃーな」

 

 

 青子を家まで送り届け、花梨と快斗は隣家である黒羽家へ。

 

 

「……ふぅ……」

 

 

 快斗の家の玄関に入り、花梨はほっと息を吐く。

 この家に来たのはまだ数回しかないが、ここに来ると安心するから不思議だ。

 

 

「っ、花梨……!」

 

「あっ、か、快斗……?」

 

 

 玄関ドアが閉じたと同時に、快斗は花梨を背後から抱きしめた。

 彼の抱きしめる腕が震えている……。

 

 

「……っ、何であんなことが……!? 花梨は普通の女の子だっていうのに……! オレのせいか!?」

 

「……違うよ、快斗は何も悪くない。あれは……」

 

 

 ――たぶん、あの子の差し金だから……。

 

 

 降谷に調べてもらっている途中のため、まだ確定ではないが、弓矢での襲撃は親戚によるものだろう。

 あの家を追い出しておいて、いまさらなんだというのか――。

 

 ……花梨にはさっぱりだ。

 

 

「あれは……なに?」

 

「……、た、たまたまじゃないかな?」

 

「そんなわけあるかよ! 確実に花梨を狙ってた!」

 

「んー、ほらっ、無差別殺人とか?」

 

「あれだけ派手な狙撃だったのに、騒ぎになってねーんだぞ!? おかしいだろ!」

 

 

 首元に埋まる快斗の声が大きくなり、花梨の耳がキーンとする。

 推理オタクの新一とは違うが、快斗も頭は良い。

 さすがに騙されてはくれなかった。

 

 

「……」

 

 

 ――あの人たち隠密行動得意だもんなぁ……表に出ても揉み消すし……。

 

 

 憤る快斗に花梨は黙り込む。

 

 

「……とりあえずここで話もなんだし、部屋に行こうぜ」

 

「あ、うん……」

 

 

 玄関で立ち話するような内容ではないため、家に上がろうということで靴を脱ぎ、快斗の部屋に移動する。

 

 自室ならば話しやすいかと思い、快斗は冷蔵庫から持ってきた二本のペットボトルのうち、一本をベッドに腰掛けた花梨に手渡した。

 

 今夜は徹底的に花梨を追及するつもりらしい。快斗も花梨の隣に腰を下ろすとペットボトルの水を一口含んでから話し出す。

 

 

「……オレ見たんだ。花梨に向けて三本の矢が撃たれた。二本は弾かれ、三本目はオレが阻止した」

 

「さ、三本……!? 私、一本だけかと……」

 

「本当は三本目も誰かが弾いてくれてたみてーだけど……」

 

 

 ……快斗は三本目の矢に自身のトランプと、何者かの拳銃の弾が同時に当たったのを見た。

 恐らく拳銃を撃った人物は、花梨の味方だろう。

 護衛かなにかか、もしくは別の勢力か。考えても判断材料を何も持たない今の快斗にはわからない。

 

 

「……そっか……誰かが守って……って、快斗も守ってくれたのよね、ありがとう……」

 

 

 花梨も護衛に関してはわからないため、快斗が守ってくれたことにお礼を告げた。

 

 

「……花梨が無事ならいい。けど、あんな人の多い場所で堂々と命を狙うって正気じゃねえ……。なあ花梨、誰に狙われてるんだ? オレ、花梨のこと守りたい。そのためには花梨を狙ってくる相手を知らなきゃならねえ。知ってることがあったら教えて」

 

 

 快斗は、ペットボトルを持つ花梨の手を両手で包み込む。

 

 

「……それは……大丈夫だよ。もうこんなことないと思うから。警察のお兄ちゃんたちに言っておくし……」

 

 

 ――零お兄ちゃんたちなら、もしかしたら助けてくれるかも……。

 

 

 前回襲われたことも、降谷には連絡済みだ。

 今回も連絡しておけば動いてくれるかもしれない。

 

 いや、もしかしたら矢を弾いてくれたのは降谷の仲間なのでは……? なんて都合の良いことを考えてみたが、それはないかと思い直した。

 

 

「大丈夫なんて、根拠がねーよ。……何で教えてくれないんだ? オレじゃ頼りない?」

 

「そうじゃない。そうじゃなくて、快斗を巻き込むわけにはいかないから。快斗は快斗のやるべきことがあるでしょ?」

 

「巻き込んでくれよ。オレだって、花梨を巻き込もうとしてるんだから」

 

 

 ――今はまだ、言えねえけど……。

 

 

 ビッグジュエルのこと、パンドラのこと。それを狙う連中のこと。

 

 本当はそろそろ話そうと思っていた。

 快斗は花梨を狙う相手があまりにも危険すぎて、自身の敵のことを話すのを躊躇ってしまう。

 もし自身の敵からも花梨が狙われることになったら……。

 

 そう思うと簡単には口にできない。

 

 

「でも……簡単に口にできない相手なの……。知ってしまったら危険だし、後悔すると思う」

 

「……オレだってそうだよ。オレだって簡単に教えてやれない奴らを相手にしてる」

 

 

 ――相手は違えどオレたち、危険と隣り合わせなのは一緒なんだよな……。

 

 

 花梨も快斗も秘密がある。

 秘密があるのは知っているのに、その内容を互いに打ち明けられない。

 

 ……互いの命が大切だから。

 

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