白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
警察学校組と鉢合わせた快斗は彼氏面で対抗するが、松田の策により強制的にトレーニングへ連行されてしまう。その隙に、花梨は降谷と密談し、自身の事情を伏せるよう依頼。快斗は彼女の隠し事に気づき、苦い思いを噛み締める。

第65話
さあゲロっと。


065:さっさと吐いちまえ

 

「黒羽君」

 

「……はい、なんすか? 交代します?」

 

 

 ふと、さっきまで伊達にウォーターボトルを渡していた降谷がやって来る。

 首にタオルを巻いた降谷を見て、快斗はマシンを使いたいのだと思い、エアロバイクから降りた。

 ところが降谷はマシンを使いたいわけじゃなかったらしい。

 

 

「……君は、あまり彼女に関わらない方がいいんじゃないかな?」

 

「はっ? なに言ってんすか。自分の彼女ですよ? 関わるに決まって――」

 

 

 降谷は快斗よりも身長が十センチ以上高い。

 見下ろされ、目が笑っていないのに口角だけ上げて告げる言葉に、快斗は眉を寄せる。

 

 

「彼女は君の手に負える女じゃないと思うけど?」

 

「……おっさん、警官だからって調子に乗るな。オレをその辺の高校生と一緒だと思うなよ?」

 

 

 “君の手に負える女じゃない……。”

 

 降谷の言葉の意味が、快斗にはわからない。

 以前黒瀬にも似たようなことを言われた気がする。

 

 けれど、それがなんなのだ。

 

 ……快斗は尚も澄ました笑顔で話を続ける降谷を睨み上げた。

 

 

「……へえ。普通の高校生とどう違うんだい……?」

 

 

 突っかかる快斗に、降谷は笑みを浮かべたまま探りを入れてくる。

 

 

「っ、コホンッ……とにかくオレ、花梨の彼氏なんで。彼女が誰かに狙われているなら守ってやりたいんですよ」

 

 

 ――な、なんだこいつ……? 人の裏を探るような目しやがって……。

 

 

 降谷に快斗が怪盗キッドだと気付いている様子はなさそうだが、一見穏やかな表情の中に、鋭利な刃物のような鋭さを感じ、快斗は咳払いを一つ。

 相手は警察官だ。正体をバラすわけにはいかない。

 

 花梨の彼氏なのだから、心配して当然じゃないか。

 ……その体で通すことにした。

 

 

「守ってやりたい、ねえ……?」

 

「……あんたが一番詳しそうだ。教えてもらえませんか?」

 

 

 降谷は笑みを崩さない。

 快斗も真面目な顔で訊ねる。

 

 トレーニング中、松田と伊達にそれとなく尋ねてみたが、よく知らないようだった。

 たぶん金髪の男――降谷が花梨の事情に一番詳しいのだろう。

 

 さっき二人きりになったとき、何らかの話し合いが行われたとみていい。

 

 降谷の花梨を見る目が、自分と似ている気がして気に入らないし、彼氏である自分よりも彼女のことに詳しいのも腹が立つ。

 

 

 ――だからさっさと吐いちまえ……。

 

 

 快斗は今度は睨むことなく、ポーカーフェイス。真っ直ぐに降谷を見上げた。

 だが――。

 

 

「悪いけどそれはできない。僕は花梨ちゃんの味方だからね」

 

「は……?」

 

「知りたいなら、彼女の信頼を得ることだ」

 

 

 降谷の手が快斗の頭に乗っかる。

 ぽんぽんと軽く撫で、降谷はエアロバイクに跨り漕ぎ始めた。

 

 これ以上降谷は話をするつもりがないらしい。

 イヤホンを耳に装着し、音楽を聴き出す。

 

 

「な……」

 

 

 ――どういうことだよそれ……オレが花梨に信用されてないって言いたいのか……?

 

 

 快斗は、今は伊達とお喋り中の花梨に視線を移し、降谷の言ったことを熟考する。

 

 ……降谷の言葉が本当かどうかはわからない。私情も入っている気がするから。

 ただ花梨が自分に話す気がないことは理解している。

 だから降谷に尋ねたというのに。

 

 花梨が「言うな」と口止めしていて、警官たちがそれに従っているとは……。

 いったい花梨と、この警官たちはどういう関係なのだろう……。

 

 

「っ、花梨っ!」

 

「えっ」

 

「ちょっと来て」

 

「えっ、あっ、快斗!?」

 

 

 快斗は花梨の手首を掴み、トレーニングルームから連れ出した。

 

 

「なあ、花梨。花梨はオレのこと信用してるよな?」

 

「え? うん、もちろん。どうしたの?」

 

「花梨を狙ってる奴は誰?」

 

 

 ――やっぱ直球だよな……!

 

 

 花梨は押しに弱いから、押せば話してくれるだろう。

 リビングにやって来た快斗はソファに彼女を座らせ、白い腿の間に自身の膝を滑り込ませると、追い詰めるように顔の横に手を突き、じっと見つめた。

 

 

「……っ、それがわかったら苦労しないよ……。さっき零お兄ちゃんに聞いてみたけどわかんなかったって……」

 

 

 花梨の肩がビクリと一瞬揺れたが、首を左右に振る。

 

 ……降谷に尋ねたがわからなかった……。

 本当にそうなのか、眉を下げ弱った表情をする花梨だが、快斗には判断がつかない。

 

 

「本当か?」

 

「うん、本当だよ? 嘘じゃないよ!」

 

「……オレ、花梨を信じてるからな?」

 

 

 ギシッ。快斗は腕と膝に体重をかけ、花梨と距離を詰める。

 真っ直ぐに見つめ合い、互いの腿が触れ合うと、花梨の頬が赤く染まった。

 

 

「っ、うん、私も快斗を信じてるよ?」

 

 

(信じてるからこそ、言えないんだよ……。)

 

 

 話をしてしまえばきっと快斗は関わろうとするだろう。

 

 ……親戚は裏社会と繋がっている危険な家柄。どんな権力も味方にできる力を持つ。

 そこから追放したのは彼女ら。自分にいまさら用はないというのに、また命を狙ってきた。

 

 先ほど降谷と話をしたが、トロピカルランドで起きた狙撃のことを彼は知っていた。

 諸伏が警護に付いており、矢を撃ち落としてくれたことを聞いた。

 そして犯人を確保したが、取り調べ中に服毒自殺してしまい、黒幕が誰だかはっきりさせることができなかった――と。

 

 毒は予め犯人の歯の中に仕込まれていて、特定の飲み物を飲むことで溶けだし死に至らしめるものだ。

 自殺で処理されてしまったが、自殺ではなく他殺だと降谷は見ているらしい。

 

 ただその毒のお陰で、はっきりしないまでも黒幕が親戚であることが濃厚になった。

 ……それと同じ毒を使った殺人が数年前、親戚筋で起きたからだ。

 

 その話の中で気付いたことだが、推理が苦手な花梨にさえ、はっきりと理解できてしまった。

 恐らく自分は親戚の手にかかって死ぬのだ。

 

 快斗を巻き込むわけにはいかない。

 あと一月も一緒にいられない相手にそこまで心を砕く必要なんてない――花梨は自分自身をそう思っている。

 

 

「花梨……」

 

 

 ――嘘つき……。

 

 

 快斗は嘘をついているとわかっていたが、頑なに教えてくれない花梨を抱きしめた。

 いつか話してくれる、そう信じて。

 

 

「ん……快斗……すき……。汗のにおい……、するね?」

 

「……っ、あ、か、花梨……オレ……」

 

 

 ――ヤバッ! 抱きしめたらムラムラしてきた……!!

 

 

 花梨が抱きしめ返し、快斗の首筋に顔を埋めてクンクンと鼻を鳴らす。首元の匂いを嗅ぐと、快斗の身体が熱くなってゆく。

 汗を掻き少し冷えた肌が、彼女の吐息で熱く粟立った。

 

 

「ん?」

 

「……っ、花梨っ!!」

 

「えっ、わっ!?」

 

 

 快斗は、花梨の両肩を掴んでソファに押し倒す。

 

 

「っ、か、快斗?」

 

「っ、ごめん、ムラムラしてきちゃった……」

 

「ムラムラって……ちょっ、待って、今おにい……あっ……!」

 

 

 腿に挟まった快斗の膝が、花梨の脚の付け根をツンツンと押し付けてくる。

 衣擦れの音がして、花梨のシャツの裾から快斗の手が滑り込み、背に手が回るとあっさりブラを外され、ブラは上へとたくし上げられた。

 

 ……とそこで。

 

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