白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
警察組との警護契約を終え、快斗と平穏な時間を過ごす花梨。快斗は、彼女が自信を持てるよう白髪のまま登校することを提案する。快斗の愛に背中を押され決意する花梨だが、その胸中には6月の予感が消えず……。

第68話
新ちゃん!


068:コナンからの着信

 

 

 

 

 

 連休最終日、花梨は自宅で過ごすことになった。

 快斗も午前中は一緒に居たが、警護人の挨拶が終わると、「家から出ちゃ駄目だからな……!」と言い残し、何度も「いや、やっぱり一緒に……、けど練習も……、いや、やっぱり一緒に……」なんて、玄関ドアを開けたり閉めたり葛藤しながら帰って行った。

 自宅に帰ってマジックの練習をするのだそうだ。

 快斗は何も言わなかったが、もしかしたら怪盗キッドとして次のターゲットを探すのかもしれない。

 

 

「……このソファ、こんなに大きかったっけ……?」

 

 

 花梨はソファに一人腰掛け、ズルズルと身体を横に倒し、ごろ寝する。

 快斗と付き合う前まではいつもこうしてごろ寝していたが、ソファをこんなに大きく感じたことはなかった。

 部屋もなんだかいつもより広く感じる。連休中ずっと一緒にいたせいで、快斗が帰ると少し寂しさを覚えた。

 

 

「権堂さん、綺麗な人だったな……」

 

 

 挨拶に来てくれた伊達さんの会社の警護人女性の名は【権堂明日香】。

 年齢は二十九歳で、パンツスーツが良く似合う長身長髪の黒髪美人。

 

 伊達さんから「女ゴリラが行く」と聞いていたからどんな人かと思ったが、やって来た彼女はスラっとしたモデル体型で、名刺裏の簡易経歴に元警察官と書かれていた。

 古武道に精通しており、空手、柔道、剣道だけでなく、槍術、薙刀術、居合術、棒術、鎖鎌術といった武術まで体得しているらしい。

 

 目は切れ長で少々冷たい印象を受けたが、応対は親切丁寧で礼儀正しかった。

 快斗が自分よりも背の高い彼女に「でけー……」と失礼発言をしたが、「よく言われます」と彼女はにこり。大人の対応をしてくれた。

 

 一定の距離を保ち警護するとのことで、必要時以外は傍に寄ることもないそうだ。

 ……これまでの傾向では朝に襲われたことはなく、校内でも一度もない。

 だから危険は少なく、学校内には入らず、彼女は校外で待機。周辺を見回り、怪しい人物がいないか警戒してくれるらしい。

 

 

「学校には行けそうでよかった……。青子ちゃんと恵子ちゃんにも会いたいもの」

 

 

 花梨はスマホの画像フォルダを開き、青子と恵子のはしゃぐ姿を写したサムネをタップする。

 学校帰りに三人で寄ったファストフード店で撮った一枚だ。

 青子と恵子のお喋りを聞くのが楽しかったな、と花梨の目は細くなる。

 

 そんな時、ピピピピピ……。

 スマホの呼び出し音が鳴った。

 

 

「わ、わっ、びっくりした……え、新ちゃん?」

 

 

 急な着信に驚き、誰から掛かってきたのか見てみると、“新一”と表示されている。

 ……ピッ、と花梨は通話ボタンをタップした。

 

 

「はい」

 

『……花梨?』

 

「しん……コナン君?」

 

『“新コナン君”てなんだよ……オメーくらい“新ちゃん”て呼べよな』

 

 

 電話の向こうで幼い新一の声がする。

 ちょっと拗ねているような……懐かしい声に、花梨は口角を上げた。

 

 

「ぷふっ。新コナン君てなぁにそれ? 若い新ちゃん」

 

『若いって……』

 

「だって、声が可愛いんだもの。江戸川コナン君、いい名前よね! ナイスネーミングセンス!」

 

『っ、そりゃどーも……』

 

 

 花梨が名前を褒めると小さな新一改め、コナンの声が少し小さくなる。

 照れているのだろうか……。

 

 

「それで新ちゃんどうしたの? 体調はどうかな、元気にしてるの?」

 

『オレの体調は問題ない。オメーが何してるかなって思って、かけてみただけだよ』

 

「何してるかって……連休中いっぱい遊んだから、今日はお家でのんびりしてるよ?」

 

『そっか、オメーのことだから、ずっと家に引きこもってんのかと思ってた』

 

「失礼な。もう引きこもりじゃないですよー。トロピカルランドで会ったでしょっ」

 

 

 新一とは土曜日会って以来だからまだ四日しか経っていないが、声が若返っても、新一は新一。忌憚ない物言いは変わらない。

 新一はいつも少々意地悪だが、花梨はそれが心地良かったりする。

 

 

『……連休中に顔見に行ってやろうと思ってたけど、行けなくてわりぃな。この身体じゃ自由に動けなくてな』

 

「大丈夫だよ! 気にしないで。全然淋しくないから」

 

『っ……そーかよ……』

 

 

 電話口の向こうで「全然寂しくないとかはっきり言わなくてもよくねーか?」とぼそっと聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 

 これまでも新一は月に一度は必ず顔を見せに来てくれていた。

 月が変わったから顔を見せに来てくれようとしていたのかもしれない。

 そんな優しさも、小さくなったからといって変わるわけではない。

 

 

「新ちゃんこそ、小さくなっても事件に関わってるみたいじゃない? 博士から聞いたよー」

 

『おー、もう二つ解決したけどな』

 

「さっすが名探偵だね!」

 

『へへっ、まーな。蘭の親父さん経由だからちょっとまどろっこしい状態ではあるけどな』

 

「小五郎のおじさま経由……?」

 

 

 蘭の父、毛利小五郎は花梨にとっては優作と同じ大事な小父である。

 父・朔太郎の警察官時代の先輩であり、私立探偵としても先輩。

 花梨も何度か肩車をしてもらったことがあり、口調はちょっぴり乱暴だが優しい人だと認識している。

 

 

『おい、花梨。まさかおっちゃんのことも“おじさま”って言うつもりか?』

 

「え、変?」

 

『いや、別にいーんだけどよ……(おっちゃん喜ばせてどうすんだよ……)、ところで花梨』

 

「んー?」

 

『……オメーは、オレの件に関わるんじゃねーぞ?』

 

 

 他愛のない話をしていたはずが、突然コナンの声が低くなる。

 今回の電話の主題はこれかな、と花梨はなんとなく察した。

 

 

「……うん。大丈夫! 一切関わらないから!」

 

『……っ、はっきりしてんなあー……!』

 

「だって、新ちゃんに関わると、事件に巻き込まれる確率高いんだもん。遠慮しとこっかなーって。殺人事件とか怖すぎる、無理無理」

 

『あ……。だよな……オメーそういうの苦手だもんな』

 

「得意な人ってそういないと思うよ……」

 

『そ、そうか……そうだよな……』

 

 

 コナンも自身の事件遭遇率が高いことは自覚しているのだろう、花梨の関わらない発言に残念な気持ちと、安堵する気持ちとが半々。

 だが納得するように肯定した。

 

 

「だからね、新ちゃんにもう会えないんだ」

 

『は? 会えないって、そりゃどういうこった?』

 

「あっ、えっと……ひょっとしてコナン君になら会っても平気なのかな?」

 

『たぶん大丈夫だと思うけど?』

 

「そっか! じゃあ今度、会いに行くね」

 

 

 花梨は明るい声で宣言する。

 

 新一に会うのも、蘭に会えるのも今月で最後。

 会いに行けば、二人を私情に巻き込んでしまうかもしれないが、一度会いに行ったくらいでそこまで危険はないだろう。

 

 ……世話になった幼なじみにもう一度会うくらい、大目に見てほしいものだ。

 

 

『ん? お? 蘭にやっと会う気になったか?』

 

「ん……なんか、背中押してくれる人ができたかもしれなくて」

 

 

 ――快斗に相談したら「行きなよ! オレ、付いて行ってやるよ?」って笑顔で言ってくれそう……。

 

 

 瞼を閉じるといつも元気付けてくれる快斗が現れ、花梨の口元に笑みが浮かぶ。

 

 

『背中押してくれる人?』

 

「ナイショ♪」

 

『はあ……なんだよそれ』

 

「まあ、そんなわけだからさ、今月中にきっと会いに行くよ」

 

 

 コナンがむくれたような声を出す。

 恋愛に関して鈍感な彼にはわからないだろう。

 

 新一もずっと応援してくれてはいたが、やはり彼氏の愛の力は偉大なり。

 これが愛の差というものなのか。

 「ああ私、快斗のこと好きだな」……なんて、彼氏を想う花梨の心は温かくなった。

 

 

『そっか……、なんでもいいけど、オメーが前向きになってくれてよかったぜ』

 

「ふふふっ。人って毎日更新されていくものよね、考えも、行動も。変わらないものなんてないんだわ」

 

『……。オメーの言葉ってなんか深いな……』

 

「そう?」

 

 

 電話の向こうで彼は何を想ったのだろう。

 急にトーンダウンした気がした。

 

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