白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
連休明けの登校日。花梨は変装を解き、ありのままの姿で学校へ行く決意をする。しかし、中学時代の凄惨な虐待の記憶がフラッシュバックし、恐怖に震えてしまう。そんな彼女を救ったのは、快斗からの電話だった。

第71話
行動してみれば意外と平気だったりしますよね。
夢小説あるある、オリ主モテモテ展開w


071:勇気を出して

 

 

 

 

 

 花梨がマンションを出る少し前――。

 ……快斗は花梨を迎えに来ていた。

 

 

「あ、権堂さん……でしたっけ。おはようございます」

 

 

 花梨のマンション前で見知った顔を見つけ、快斗は声を掛ける。

 声を掛けた相手は警護人の権堂明日香。

 彼女は長い黒髪をひっつめ、昨日挨拶に来た時のパンツスーツ姿でエントランスガラス窓の前に佇んでいた。

 

 胸ポケットにはサングラスが差し込まれ、それを掛けたら怪しい人まっしぐらだが、モデル体型の彼女がすると様になる。

 昨日は「でけー」などと失言してしまったが、今日はしない。

 

 

「あ、はい。黒羽さん、おはようございます。花梨さんのお迎えにいらしたんですか?」

 

「ええ。可愛い彼女と一緒に登校したいんで!」

 

 

 ――今日から花梨はあの綺麗な髪のまま登校するんだ……!

 

 

 “一緒に登校して自慢してやる。”

 快斗は権堂に笑顔で答えた。

 

 

「そうですか……あの! 実は黒羽さんにお願いがございまして」

 

「お願いっすか?」

 

「はい……花梨さん、本日から鬘を外して登校されるとか――」

 

「え? あ、ええ……そう勧めましたけど……」

 

 

 ――だって、めちゃくちゃ可愛いじゃん! 自慢したいじゃん!?

 

 

 なぜ権堂がそのことを知っているかなど、ありのままの姿の花梨と登校できると思い、浮足立っている快斗が気づくことはなく……。

 

 

「その……依頼人から、鬘を外した初日は一人で行くように、と連絡をいただきまして……」

 

「は? あの金髪のにーちゃんから?」

 

「……過去と決別するために自ら克服してもらいたいと……」

 

「なんであの金髪がそんなこと言ってくるんだよ……」

 

 

 ――あいつは花梨の親にでもなったつもりなのか? 花梨をエロい目で見てたくせになんかムカつく……。

 

 

 花梨が中学時代、髪のせいでいじめに遭っていたことは知っているが、降谷も知っていたとは。

 しかも克服させるために一人で登校させろと?

 

 ……快斗の眉間に深い皺が刻まれてゆく。

 

 

「過保護も程々にしておかないと、本来一人で立てる人間が、一人で立てなくなってしまうから……だとか」

 

「は? いや、益々わけわかんねえ。あいつこそ花梨を甘やかしまくりじゃね?」

 

 

 ――作り置きのおかずといい、おかわりの紅茶といい、彼氏の目の前で甲斐甲斐しく世話を焼いていたのを忘れたのか、あのおっさん。

 

 

 快斗の脳裏に、一昨日の花梨にデレデレ甘々な降谷の姿が浮かび、イライラが募った。

 

 

「……コホンッ。それは私には分かりかねます。ただ、依頼人は花梨さんに精神的に強くなっていただきたいのではないか、と……」

 

 

 権堂は咳払いし、なぜか気まずそうに伝えてくる。

 それに、あからさまに目を逸らして快斗を見ようとしない。

 

 

(なんだろう……目逸らして……まるで後ろめたい隠し事でもしているような、あるいは……)

 

 

 作り置きの料理を甲斐甲斐しく用意していた男が、急に「自立しろ」などと言い出す矛盾。

 疑念は尽きないが、彼女の成長を願う言葉だと言われれば、快斗も強くは否定できない。

 

 

「……オレとしては、花梨が弱くても全然いいんだけどさ。未来の花梨が今回の件で強くなったと思えるなら、協力してやるよ」

 

 

 ――オレがいなきゃ何もできなくなれば、それこそ最高なんだけど……そうもいかねーよな。

 

 

 快斗的には花梨が弱かろうが、強かろうがどちらでもいい。

 快斗自身と同じく“オレに執着し、オレがいなきゃ生きていけないくらい依存してくれたら”と思っていたりもする。

 

 自分でもそんな暗い感情に苦笑してしまうほどだが、花梨から笑顔が消えるのは嫌だ。彼女のため、時には突き放すようなことも必要なのだというのなら。

 

 ……快斗は権堂の話に頷いた。

 

 

「ご協力感謝致します」

 

「ただし、花梨がオレに助けを求めたら、一緒に行くから」

 

 

 ――なにより大事なのは花梨だ、彼女が望めばオレは、どんな状態でも味方する。

 

 

 頭を下げる権堂に、快斗は条件を提示する。

 

 自分は彼氏だから彼女を甘やかす、どこまでも。

 たとえそれで彼女がダメになっても、責任は取ってやるから心配するな。

 ……そんな心積もりではっきり告げた。

 

 

「……ええ。それで構いません。彼女はそんなやわな女性ではありませんので」

 

「? お、おう。もちろんだ(まあ、花梨ならたぶん……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ということがあり。

 

 快斗が電話を掛け、泣いていたであろう花梨に、何度か駆け付けそうになったが我慢。

 快斗の思った通り、花梨は白い髪のままの姿でマンションから出てきた。

 

 

(やっぱめちゃくちゃ可愛い……!)

 

 

 朝陽に輝く白い髪と、江古田高校のセーラー服。

 スカートも短めにしたのか、美少女がマンションエントランスから出て来て、ストーカー宜しく物陰に隠れていた快斗は、花梨に対する好きの想いを再更新。

 どこまでアップデートを重ねたら終わるのかはわからないが、いつでも彼女は快斗をときめかせる。

 

 

「権堂さん、おはようございます」

 

「おはようございます、花梨さん。私は数メートル離れて追尾しますので、いつも通りに登校されてください」

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 

 花梨と権堂が互いに挨拶をし、握手を交わした。

 

 

「……ん? ……なんだ?」

 

 

 二人の様子を見ていた快斗は違和感を覚え首を傾げる。

 

 花梨は普通なのだが、権堂がなんだか……。

 快斗の目に映った権堂、彼女が花梨と握手した時、ほんのり頬が赤かった気がした。

 

 

「あっ、やべっ! オレも行かねーと!」

 

 

 花梨が出発し、権堂が後ろに付き、快斗も距離を空けて追従する。

 明日からは一緒に登校できるから今日は我慢だ。

 それに、教室に行ったらサポートしてやらないと。

 

 後ろから花梨を見守っていたが、最初は俯いていた彼女も徐々に顔を上げて歩き始め、ほっとしつつ快斗は気づかれないよう後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んっ!」

 

 

 高校の正門が見えてくると、花梨は胸の前で両手をぎゅっと握り、気合を入れる。

 花梨の側を通る生徒たちがちらちら振り返り、男女ともに驚いた表情を浮かべていた。特に男子生徒に至っては立ち止まり、頬を赤く染めてポ~っと魂が抜かれたように惚ける者が多数……。

 

 

「……気合の入れ方可愛すぎだろ……(んっ!って何よ。んっ!て……ちゅーしちゃうぞ♡)」

 

 

 ――っつか、お前ら見過ぎだ! 散れ散れっ! ……ん?

 

 

 花梨に見惚れる気持ちはわからないでもないが、あまり自分の彼女をじっと見られるのは面白くない。

 快斗は前を歩く彼女と一定の距離を保ったまま、惚ける男子生徒たちにシッシッと手を払っていく。

 

 ……その様子を、正門前に立つ黒瀬は遠目からしっかりと捉えていた。

 

 

(あいつ、何やってんだ……)

 

 

 登校してくる大勢の生徒に紛れ、一人だけ妙なステップで周囲を威嚇する快斗。その不審すぎる動きのせいで、黒瀬は快斗がガードしているはずの“美少女”の存在にすら気づかない。

 ただただ、愛弟子の奇行に天を仰ぎたくなった。

 

 ……そして、いつの間にか正門前に到達していた花梨が、黒瀬に頭を下げた。

 

 

「黒瀬先生、おはようございます。挨拶当番ですか?」

 

「おー……ってお前……髪……。そうか……。おはよ、もういいのか?」

 

 

 正門前に立つ黒瀬へ挨拶すると、彼はすぐに花梨だと気が付く。

 

 黒瀬には入学した際に鬘について話をしており、許可をもらっている。

 白い髪も脱色したわけではないことは証明済みで、校則違反には当たらない。

 

 だから白い髪のまま登校しても問題なし。

 ……つまり、花梨の気持ち次第で、いつでも鬘を外すことができたというわけだ。鬘を取り去るまでに一年以上掛かってしまった。

 

 

「はい、もう暑くなってきたし、いいかなって」

 

「ハハッ、蒸れるしな」

 

「ふふっ。はい」

 

 

 ……「あの鬘絶対暑いだろ」と黒瀬が言えば、花梨は「今度被ってみますか?」と返す。

 

 今も感じている視線だけでなく、正門に至るまでにチクチクと誰かしらの視線が刺さったが、誰も罵ったりしに近付いてこない。

 石も投げられないし、ゴミをぶつけてくることもない。

 親戚の家にいた頃とは違う。

 

 都会の人は、それほど他人に関心がないということなのか……。

 かつて浴びた鋭い棘のような視線とは違う、ただの“通りすがりの風景”として扱われる心地よさ。

 都会の無関心さに花梨の心は軽くなる。

 

 悪意に満ちた“関心”に晒され続けてきた彼女にとって、冷ややかな無関心さえも、今は優しい救いに感じられた。

 

 

「今日は騒がしくなりそうだな」

 

「え? なにかあるんですか?」

 

「っ……あー、自覚なしか。どうりで黒羽が躍起になるわけだ」

 

「え? 快斗が?」

 

「まあ、教室に行ってみればわかる」

 

「はあ……」

 

 

 今日は騒がしくなりそうだ……の意味がよくわからない花梨は、目を瞬かせ首を傾げた。

 そんな花梨に黒瀬は頭を掻き掻き、弱ったような顔で笑みを浮かべる。

 

 ……早く行ってみろと黒瀬に肩を叩かれ、花梨は教室を目指した。

 

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