白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
負傷して花梨の元を訪れたキッド。彼女の献身的な治療と真っ直ぐな「すき」の言葉に、快斗は深い愛を再確認する。甘い夜を過ごした後、花梨は快斗にある決意を告げる。“勇気をもらって、幼なじみの女の子に会いに行きたい”。そして明かされる、花梨の驚くべき過去の片鱗とは――。

第81話
蘭にとって、あおいくんは王子さまだったのです。


081:あおいくんがすき!

 

「……無理には聞かねーよ? けど、よかったら聞かせて?」

 

 

 迷う花梨の隣に、快斗が再びボフッと身体を倒して寝転がると、優しく微笑んだ。

 その笑顔に、「この人なら話しても大丈夫そうだ」と花梨は安心感を覚える。

 

 

「ぁ……うん。あのね、前にちらっと話したことがあるかもしれないんだけど、幼少期の私、男装してたって言ったかな? 私の両親は、私が女であることを良しとしてなかったの」

 

「っ……その話は初耳だけど、うん……」

 

「両親は男の子が欲しかったのかもしれない。昔は、男の子みたいな格好ばっかりさせられてて。でも、私は女だから、やっぱりスカートとか、リボンやフリルの付いた服とかが好きでね」

 

「ん」

 

 

 ……たとえどんな話であっても、花梨の声は聞いているだけで耳が心地いい。

 ゆっくり話す花梨に、快斗もゆっくりと相槌を打つ。

 

 

(そりゃそうだろ……こんだけ可愛いんだから着飾りたいよな)

 

 

 快斗はそう思いながら、花梨の髪を優しく撫でてやった。

 

 

「女の子が着るような服は着させてもらえなくて、自分のことも“ボク”って言うようにって言われてたんだ」

 

「……」

 

 

 ――ん? 花梨の一人称が“ボク”……?

 

 

 ふと、「ボクっ()」な花梨を想像し、快斗の頬がぽっと赤く染まる。

 それも可愛いと思ったことは、ひとまず黙っておくことにした。

 

 

「それでね、幼なじみの女の子と仲が良かったんだけど……その子、いつも優しくて可愛くて、こんな女の子になりたいなって思ってたんだ。だから当時、彼女を見習って優しくしてたらその……」

 

 

 ……こんなこと言って変に思われないだろうか。

 花梨は口ごもる。

 

 

「う、ん?」

 

「なんか、すっごく懐かれちゃってね。好きだって告白されたの」

 

 

 “わたし、あおいくんがすき! あおいくんはわたしの王子さまだもん!”

 

 

 保育園時代の蘭に、恥ずかしそうに告げられた告白を思い出すと、花梨の眉が下がった。

 

 

(蘭ちゃん……私も蘭ちゃんのこと大好きだったよ。一緒にいると楽しくて、本当に、本当に大好きだった)

 

 

 告白されて嬉しかった。

 友達だもの、好きって言われたら嬉しいに決まってる。

 

 でも、蘭ちゃんは私のこと、男の子として見ていたんだよね……。

 “あおいくん、だいすき♡”という言葉が書かれた手紙とともに、頬を赤く染めて告げられたあの時の心情。

 

 どう受け止めたらいいのか、告白直後はよくわからないまま、「ありがとう、ボクも好きだよ」と言ってしまった。

 けれど次の日から、蘭ちゃんの態度がもじもじとして、なんだかいつもと違い困惑したのを覚えている。

 

 ……花梨が「あれ? 間違えた?」と気づいた時にはもう遅くて、そのまま男に徹することにしたのだ。

 

 

「こ、告白……! お、女の子から!?」

 

 

 快斗は信じられない様子で目を丸くする。

 

 

「……あ、その頃の写真、一枚だけあるんだけど、見る?」

 

「見たい!」

 

 

 花梨は起き上がり、下着姿のままで部屋の引き出しから、親子三人で写った写真を持ってくると、快斗に見せた。

 木製の写真立てに入った写真には、若い夫婦と、黒髪の少年が写っている。

 

 写真館で撮ったものなのだろう、全員スーツを着用。黒髪の少年はうっすら笑みを浮かべ、テレビに出ていても不思議ではないくらい愛らしい顔をしていた。

 

 

「え、この子が花梨? 黒髪だし、めっちゃ美少年じゃん……」

 

「えへへ、うん。当時は髪が黒くて、男の子してたから」

 

「は~。こりゃ、どっちとも取れるわな。女の子って言われれば女の子に見えるし、男の子って言われりゃ男の子だ。可愛い! すげー可愛い!」

 

 

 ――この頃の性別って、わかんねえもんだな……。

 

 

 花梨は父親似なのだろうか。写真に写った父親はアイドル顔負けのイケメンで可愛らしい顔つきをしており、隣に並ぶ黒髪の花梨とよく似ている。

 母親は可愛い系というより、美人系。

 しっとり大人の雰囲気の綺麗な人で、写真では笑っていないからか、少し冷たそうな印象を受けた。

 

 そのひんやりとした瞳が、時折花梨が見せる視線と似ていて、快斗は少しドキッとした。

 “母親にも似てるんだな……”と、快斗は妙に納得した。

 

 

「あ、ありがと……」

 

 

 男の子でも女の子でも関係なく「可愛い」と言われた花梨の頬は、ぽっと赤くなる。

 

 

「……モテたでしょ」

 

「ん、モテた……。なんか、女の子たちに優しく接してたらすっごいモテた。女だから女の子の気持ちわかるもの、当然だよね」

 

 

 ははっ、と花梨が自嘲すると、快斗の手が頭にポンと置かれた。

 

 

「……。がんばったな」

 

「ん……ありがと……。でね、好きだって言ってくれた幼なじみの女の子にずっと会いたいと思ってたんだけど、“実は女でした”って言うのが気まずくて、会いに行けてなくって」

 

 

(快斗は優しいなぁ……♡)

 

 

 いい子いい子と頭を撫でてくれる快斗に、花梨は自分の思っていることを話す。

 新一には「性別と白髪のせい」だと話してはいたが、そこに「告白されたから」という理由は入っていなかった。

 

 ……こんな風に誰かに、自分の思っていることを正直に話したのは初めてだ。

 

 

「そっか……。まあ、男だと思ってた幼なじみが、こんな可愛い美少女になってちゃ驚くわなー」

 

「え? 美少女……って、いやそうじゃなくて、がっかりさせちゃわないかなって心配で」

 

「がっかりするわけねーじゃん! こんなに可愛いのに! 花梨は花梨なんだからさ。絶対大丈夫だって! 気にせず会っておいでよ。花梨だって会いたいんでしょ? 会いたいなら会えばいいよ」

 

「快斗……」

 

 

 快斗が花梨の両手を取り、元気づけるようにぎゅっぎゅっと繋いでくる。

 

 “会いたいなら会いに行けばいいじゃないか。”

 

 “花梨は花梨なんだから。”

 

 そんな快斗の言葉は、いつも花梨の背中を押してくれる。

 快斗はちょっと強引な人だが、その強引さから花梨が何度新しい価値観を見いだしてきたことか。

 

 ……この人といると、自分が変わっていく気がする。

 花梨はどんどん快斗に惹かれていく自分を自覚し、優しい瞳の快斗を見つめ返した。

 

 

「不安ならオレ、ついて行ってやろーか?」

 

「ぁ……ふふっ♡ 快斗ならそう言ってくれると思ってた」

 

 

 なんとなく、快斗はそう言うだろうなと思っていた。

 まさか本当に言ってくれるとは。

 

 

(快斗、あなたって、前に私が思ってた通りのことを言ってくれるのね……)

 

 

 繋いだ手の指先にキスを落としながら、上目遣いで様子を窺ってくる快斗に、花梨の瞳が細くなる。

 

 

「ん?」

 

「……ありがとう。なんか勇気でたかも。明日行って来る! ってもう今日か。午前中に行こっかな」

 

「あ、今日行っちゃうんか……」

 

「うん、善は急げっていうじゃない?」

 

「……オレもついて行っていい?」

 

 

 一度こうすると決めた花梨の行動は早い。

 「では早速今日のうちに」と言う花梨に、快斗は繋いだ手をぎゅっと強く握った。

 「くぅん……」と、寂しさで鼻を鳴らす犬のように眉を下げている。

 

 

「え? けど、快斗の知らない人たちだよ?」

 

「途中までついて行くだけだよ。花梨の邪魔はしない。オレ、外で適当に時間潰して待ってっからさ。終わったらデートしよ? 休みの日は花梨と一緒に過ごしたいんだ」

 

「快斗……」

 

 

 花梨が幼なじみと会っている間、自分は外で待っている……。

 

 ……快斗の申し出は嬉しい。

 蘭に会うだけだから、そこまで時間はかからないと思うが、待たせるのは申し訳ない気がする。

 

 それより、快斗は昨日の報告を寺井さんにしたりしなくて大丈夫なのだろうか……。

 花梨は自身のことよりそちらの方が心配になった。

 

 

「な? ダメ?」

 

 

 快斗を心配する花梨の気持ちなどわからないのだろう、快斗はとにかくついて行きたい様子で、繋いだ手の指先を甘噛みしてくる。

 

 

「……ン、わかった。それじゃ快斗に甘えちゃおっかな♪」

 

「おう、甘えて甘えて。いーっぱい甘えるといいぜ! ん……」

 

 

 これは甘えた方がいいのかもしれないと思った花梨が頷くと、快斗が嬉しそうに破顔し、急に指をペロペロ舐めだした。

 

 

「ン、あっ♡ くすぐったい……! ふふふっ、快斗だーいすき♡」

 

 

 指の間を舐められると、ぞくぞくしてくる。

 ワンコみたいだなと思いつつ、花梨は真っ直ぐに好意を伝えた。

 

 

「ン、オレも~♡」

 

 

 ペロペロ、ペロペロ。

 美味しいわけがないのに、快斗の瞳はなんだか恍惚として、花梨もその色香に当てられ頬が上気した。

 

 

「んふ……、ゃ、かいと……?」

 

「……じゃ、寝る前にもう一回いいかな?」

 

「ンンっ……もぉ~、すぐ元気になっちゃうんだからっ!」

 

 

 花梨の手から滴る自身の雫が落ちる前に、快斗は花梨をベッドに押し倒す。

 「何度してもし足りない」と耳元で囁いて。

 

 怪盗キッドの疲れなど微塵も感じさせないほど、快斗はいつの間にか完全復活していた。

 

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