白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
花梨が語る衝撃の過去――それは、両親の意向で「男の子」として育てられていた日々だった。当時の幼なじみ・蘭からの告白と、今も隠し続けている罪悪感。そんな花梨の悩みを受け止め、快斗は「花梨は花梨だ」と背中を押す。勇気を得た花梨は、ついに今日、蘭との再会を決意して……。

第82話
蘭たちに会いに行くよ!


082:いざ、毛利探偵事務所へ

 

 

 

 

 

 ……日曜日。

 起きた時刻は十時を回っていた。

 

 眠ったのは午前三時を過ぎ、先週もそうだが今週も日曜朝の目覚めはゆっくりだ。

 いつも鳴る目覚ましを止めた覚えがないが、いつ止めたのだろう……。

 無意識で止めたのか快斗が止めたのか。

 花梨は隣で眠る快斗をそっとしておいて、もそもそとベッドから抜け出し熱めのシャワーを浴びる。

 

 

「……」

 

 

 身体が怠くてまだ眠い……。

 ザーッと熱い湯を頭から被るとすっきりしてくるような気がする。

 

 ……湯にあたっていたそんな時、ガチャッと浴室のドアが開いた。

 

 

「ふあああ……、はよー花梨。起こしてよ」

 

「ん~……」

 

「オレが洗ってあげるっていつも言ってるじゃん」

 

「ンー……、あ」

 

 

 当たり前のように浴室に入って来た快斗の声がして、花梨が返事をするが頭は冴えてこない。

 こうなったら顔にお湯を浴びて……とシャワーヘッドをシャワーフックから取り外したものの、すぐにそれは奪われ元の位置に戻された。

 ……背後から快斗が身体に触れてくる。

 

 

「ンン……くすぐったいぃ……」

 

「花梨て朝弱いよなー♡」

 

「いつもはこうじゃないもん……」

 

「はは、オレのせいー?」

 

「わかってるくせにー、ゃっ、ああ……」

 

 

 いつの間にか花梨の身体は快斗に洗われて、敏感な部分に触れられると感じてしまった。

 花梨を洗う快斗は楽しそうだ。

 

 ……今日は予定があるから勘弁して欲しいと思っていたら――、途中で解放された。

 

 

「……」

 

「目、覚めた?」

 

「……むぅっ!」

 

「あ、不完全燃焼? ごめんな、出掛けるから途中までにしちゃった♡ 帰ったら続きしよーな♡」

 

「っ、バ快斗!」

 

「っ、ごめ~ん!」

 

 

 浴室から出て熱いシャワーでほかほかした身体を快斗が甲斐甲斐しく拭いてくれるが、花梨は快斗の頬を両手でバチンと挟んだ。

 身体を洗ってあげるからとあちこち触れられて、もう少しというところで解放され、快斗の言った通り花梨の身体は不完全燃焼だった。

 

 ……快斗はニヤニヤ。今日早速蘭に会いに行くと決めたから、その腹いせだったのかもしれない。

 そもそも今日、一緒に過ごすなんて約束してはいなかったのだが……。

 

 快斗は自分を溺愛し過ぎなのではなかろうか。

 以前快斗に身体を洗ったりしなくていいと断ったのだが、恋人同士なら普通だと言われそのままにしてある。

 本当に普通なのかは誰にも聞いていないから知らない。

 

 この辺りはどうも快斗に騙されている気もするが、快斗が楽しそうだからいいかという理由で、花梨はそのままにしていた。

 

 

「……」

 

 

 結局、不完全燃焼な身体を引きずったまま、花梨は快斗に急かされるようにして脱衣所を後にした。

 リビングに戻ると、快斗がさっさと食卓について「お腹空いたー」と催促してくる。

 呆れ半分、愛おしさ半分。花梨は火照った身体を落ち着かせるように深呼吸をしてから、エプロンを締めて冷蔵庫へ向かった。

 

 着替えを終えて、冷蔵庫に入れた昨夜諸伏が作ってくれたビーフシチューを快斗が食べたいと言うので、朝食にはそれを出し、食べた後で花梨は毛利探偵事務所に電話をする。

 

 

『はい、もしもしこちら毛利探偵事務所』

 

 

 電話に出た小五郎は昔より少し声が渋くなっている気がした。

 

 

「あ、小五郎のおいちゃ……いえ、小五郎おじさま?」

 

『……どなたですかな?』

 

「わ、私、葵……あの、葵……」

 

 

 葵で通じるだろうか……。

 小五郎は憶えてくれているかなと、スマホを握る花梨の手に力がこもる。

 

 

『葵? ……花梨か!? おめえ……東都に越して来たって聞いてたが、やーっと連絡してきたな! 待ってたんだぜー?』

 

「おじさま……」

 

『ハッ、おじさまなんていっちょ前にお嬢様みてーな呼び方しやがって。で、どうした? 顔見せに来る気になったってか?』

 

 

 花梨の心配をよそに、小五郎は何もかも知っている様子で話を続けた。

 

 どうやら花梨が東都に戻って来たことを知っていたらしい。

 大人には大人のネットワークがあるのだろうか、優作から聞いたのかもなんて花梨は思う。

 

 

「うん……、これから伺ってもいいですか? 都合が悪ければ日を改めてでも……」

 

『バーロ。子どもが気なんか遣ってんじゃねーよ、いつでも来い。朔の娘だ歓迎する。けどなー今蘭はいないぞ? 午前中は友達と出掛けるってんで午後に戻って来る予定だ』

 

「あ、そうなんですね。じゃあ先におじさまに会いに行きます」

 

 

 昔と変わらないぶっきらぼうな話し方だが、小五郎は優しい。

 

 彼の話によると、蘭はもう出掛けたらしい。

 それなら先に小五郎にだけでも会っておこう。

 お世話になったし……と、花梨が申し出れば。

 

 

『おう、来い来い。手土産なんか要らんからな、余計な気ぃ遣ってくれるなよ?』

 

 

 ……小五郎の声は明るく弾んでいた。

 

 

「はい……!」

 

 

 小五郎との通話を終え、花梨は通話終了ボタンをタップする。

 さあ、アポは入れたからもう後戻りはできない。

 

 

「大丈夫そうか?」

 

「うん、いつでも来いって」

 

「そっか、よかったな。じゃあ行くか」

 

「うん……!」

 

 

 通話を終えた花梨の頭に快斗の手が乗っかり、ぽんぽんと優しく撫でてくる。

 少し緊張した様子の花梨に快斗はちゅっと唇に軽くキスをし、二人は手を繋いで部屋を出た。

 

 米花町までは電車に乗り、降りてからは地図アプリで探偵事務所を目指す。

 地図を見ながらではあるが、大体の道は把握しているつもりだ。

 

 ……実は花梨、何度か探偵事務所に来ていたりする。

 勇気が出ずに近くまで来ては何度引き返したことか。

 

 今日は快斗と一緒だからか不安がない。

 彼氏の力は偉大だなと花梨は隣の快斗を見上げる。

 

 

「ん?」

 

 

 快斗はすぐに花梨の視線に気付いて目を細めた。

 ずっと繋がれた手が少し汗ばんで恥ずかしかったが、快斗と目が合う度、にこにこと笑顔を見せてくれるからそのままにして。

 

 

「じゃあ、行って来るね」

 

「がんばれ! 花梨なら大丈夫だよ! オレのことは気にしなくていいからゆっくりしておいでよ」

 

「ん、ありがと♡ 終わったら連絡するね」

 

 

 毛利探偵事務所の前まで来ると快斗が手を放し、ぎゅっとハグをしてくる。

 花梨は少し恥ずかしかったものの、ハグし返して快斗と別れた。

 

 

 ――ついに来ちゃった。

 

 

 毛利探偵事務所は三階建てビルの階段を上がって二階。

 一階には喫茶店ポアロがある。

 

 

「失礼しまーす……」

 

 

 階段を上がり、花梨は探偵事務所のドアをノックしてから少し開いてみた。

 

 

「はいはい……、どちらさまで……、……っ!」

 

「あ」

 

 

 事務所内を覗くと少し歳を取ったが見知った小五郎の顔があり、花梨がほっとした表情をしたものの、小五郎は違った。

 

 

「いらっしゃいませ、お嬢さん、ご依頼ですか? ささっ、こちらへどうぞ! 今お茶をご用意致します! らーん……って、留守だったか……少々お待ちを!」

 

 

 電話で話した時の声と明らかに違うよそ行きのダンディーな声で前髪を掻き上げ、小五郎は花梨へソファに座るよう促し、お茶を用意するからといそいそ給湯室に駆けて行った。

 

 

「え、あ、はあ……」

 

 

 ――おいちゃん……、どうしちゃったの……。

 

 

 小五郎の態度に花梨は戸惑い、とりあえず言われた通りソファに腰掛ける。

 小五郎は冷たい麦茶を持ってきた。

 

 ……今日は外が暑かったから、冷たい麦茶は嬉しい。

 

 

「いやあ~、最近暑いですなあ~。それで、どういった件でご依頼を?」

 

「……」

 

「人探し、ペット探し、浮気調査等々、この名探偵毛利小五郎にお任せください! お嬢さん、美人だからお安くしときますよ♡」

 

 

 花梨を前にした小五郎は嬉しそうな顔……。

 満面の笑みで手を揉み揉み。

 

 昔乱暴に頭を撫でてきた小五郎とは思えない。

 

 

「……あの、小五郎おじさま……?」

 

 

 花梨はおずおずと小五郎を窺った。

 

 

「……ん? 小五郎おじさま?」

 

「……私、花梨です。おじさま」

 

 

 さっき電話で話したんですけど……と続けると、小五郎の目がぱちぱち瞬く。

 

 

「かっ」

 

「はい、私葵花梨です、おじさま。さっき電話で話した」

 

「か、かっ、かっりーーんっ!?!? お、おめえ……じゃなくって、お嬢さんがあの花梨っ!?」

 

 

 小五郎は目の前の少女が花梨だと認識すると、唾を飛ばして大声を上げた。

 

 

「……、はい……」

 

 

 お嬢さんと呼ばれるのは少々恥ずかしいが、自分が花梨であるのは間違いないので頷き、顔に飛んできた唾を静かにハンカチで拭き取る。

 

 

「……は、……ハッ!?」

 

 

 花梨を認識したものの、まだ信じられないといった表情の小五郎は片手で額を抱え、顎を上向ける。

 昔の花梨の姿と照らし合わせているのだろうか……。

 

 

「……えと……髪がこんなお婆さんなので恥ずかしいんですけど」

 

「っ、とんでもない! 綺麗になっちまってまー……こりゃ驚いた……」

 

 

 もじもじと花梨がうつむくと、額を抱えていた小五郎は花梨を真っ直ぐに見て目を見開いた。

 

 

「そ、そうですか?」

 

「十二年振りに会えばそりゃ変わるか。朔の葬式じゃ会えなかったもんな。こりゃ本当にお嬢様だな。よし、花梨、おじさまって呼んでみろ」

 

「お、おじさま……?」

 

「うむ……、いいな!」

 

「えぇ……?」

 

 

 ニカッと小五郎が白い歯を見せ、花梨の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。

 ああこれこれ、いつもこんな感じだったなと花梨は懐かしさに笑うも、“せっかく快斗がセットしてくれたのに”と崩された髪をそっと手直しした。

 

 

「にしても、当時も可愛かったがえらい変わりようだな。正真正銘女の子になって……こりゃ蘭はオレ以上に驚くぞ」

 

「ですよねー……」

 

 

 ――そう、蘭ちゃんの反応が怖いんだよね……。

 

 

 小五郎は蘭が昔花梨が好きだったことを知っている。

 蘭の告白に“なんて答えたんだ?”と訊かれたことがあった。

 既に腹は括ったからどういう反応が返ってきても覚悟はできている。

 

 ……小五郎とそんな会話をしていると、ガチャとドアが開く音が聞こえた。

 

 

「ん~、おじさぁん、大きな声出してどうしたの~?」

 

「お、寝坊助起きて来たな」

 

 

 寝坊助……。

 開いたドアの向こうに立っていたのは花梨も知ってる人物。

 小学生くらいの男の子で、小さくなった新一……もとい、コナンだった。

 

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