白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
小五郎の事務所でコナン(新一)と再会した花梨。再会を喜ぶも、新一を「尊敬するお友達」と定義し、彼の淡い期待を無自覚に粉砕する。不機嫌な新一の暴君ぶりに流され、花梨は蘭の留守中に毛利家の台所に立つことになってしまい……?

第84話
蘭との再会。


084:蘭ちゃん、久しぶりだね

 

「腹減った! 花梨姉ちゃんなんか作って♡」

 

「っ、もぉ~強引だなあ……! エプロン借りるからね!」

 

 

 あざとくコナンが見上げてくるから、その可愛さにやられた花梨は台所を拝借。

 

 なぜ私が蘭ちゃんの家で昼食を作っているのだ……。

 疑問に思いながらも花梨は、冷蔵庫のありもので調理を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそーさまでした!」」

 

 

 ……昼食を終えてコナンと小五郎の声がハモる。

 花梨の調理した昼食は多めに作ったはずが、見事にすっからかん。

 

 蘭と味付けが違ったのが新鮮だったのだろう。コナンも小五郎もすごい勢いで互いに奪い合うように食べ、あっという間に平らげてしまった。

 テーブルには空の皿だけが残る。

 

 

「お、お粗末さまでした……?」

 

 

 ――なぜ、なぜ私がよそのお宅で、よその人に食事を提供しているの……?

 

 

 未だよくわからないままの花梨も一緒に食事をいただき、手を合わせた。

 

 

「花梨、美味かったぜ! おめえ料理できたんだな。将来いい奥さんになるぞー!」

 

「わっ! ふふっ、お口に合ったようでよかったです」

 

 

 ぐしゃぐしゃと、またしても小五郎の大きな手が花梨の髪を乱暴に撫でる。

 花梨は美味しく食べてくれたなら、まあいっかと過ぎたことは気にしないことにした。

 

 

「ボク、花梨姉ちゃんのご飯だーいすき!」

 

「っ、あ、ありがと~コナンくん?」

 

「……、どういたしまして♡ ボク片付け手伝うねー!」

 

 

 コナンは食べ終えた食器を重そうに台所へと運んで行く。

 そういえば片付けだけはいつも手伝ってくれるんだよなー、と花梨は小さな背中を見送った。

 

 

「おーボウズ偉いぞ、オレのも頼んだぜ。じゃー、オレは事務所に戻るな」

 

「あ、はーい」

 

 

 ……小五郎は爪楊枝をしーしー。

 食べ終わった食器をそのままにして部屋から出て行ってしまう。

 

 

 ――蘭ちゃん……おつかれさまっ……!

 

 

 小五郎の態度に少々ドン引きながら、花梨も食器を片付け始めた。

 

 

「花梨姉ちゃんの髪って綺麗だよねー♡」

 

「ちょ、新ちゃん……急になんなの……」

 

 

 食器を洗っていると、すぐ隣で椅子の上に立って手伝いをしてくれるコナンが急に変なことを言い出す。

 

 

「ボク、花梨姉ちゃんの髪すきー♡ 目もキレーだ!」

 

 

 コナンがにこにこと花梨をじっと見上げ褒めちぎる。

 

 

「……ねえ、可愛い新ちゃん。急にどうしちゃったの? 小さくなっておかしくなっちゃった?」

 

 

 ……新一に綺麗だなんて言われるとなんだか変な感じだ。

 違和感しかなく、花梨は洗った食器を手渡しコナンを見下ろした。

 

 

「うるせー、バーロ。オメーが余計なこと言うからだろ」

 

「うわ、急に目つき変わるとかこわっ。余計なことってなによぅ……んもぅ、ちっちゃくなっても意地悪なんだからっ」

 

 

 目が合ったコナンの眼光が鋭くなり、睨まれる。

 何も悪いことをしていないのに、一体なんだというのだ。

 

 小さくても怖い瞳に、花梨は目線を手元に戻し食器洗いに集中する。

 ザーッと蛇口を開き水量を多くして、一気に食器を濯いでいった。

 

 

「……花梨、オレは友達のままでいるなんて――からな」

 

「んー? なに? なんか言った?」

 

 

 “御免(ごめん)だからな”

 

 ザーー。

 

 かなり強めに水を出したからか、隣のコナンの声がよく聞き取れない。

 しかも声も小さい。なにか呟いた気がしたからコナンに視線を向けて尋ねてみれば。

 

 

「なんでもなーい!」

 

 

 さっきまで睨みつけてきたコナンは一転、にっこりと微笑んでいた。

 

 

「その変わり身の早さすごいねぇ! 感心しちゃう」

 

「そうだろそうだろ。オメーの前だけは、なんも気を遣わなくて済むからな。すげー気楽だぜ」

 

 

 花梨が呆気に取られると、コナンはニッと悪戯な笑みを浮かべる。

 

 

「……ふふふっ。そっかそっか! たまには愚痴に付き合ってあげるから遠慮せず電話してね。何でも聞いてあげる」

 

 

 さすがは元大女優の息子。新一の変わり身の早さは母・有希子譲りなのではなかろうか。

 

 身体が小さくなって、新一は毎日気を遣う生活を送っているから、精神的に疲れる日もあるだろう。

 新一が親切にしてくれていたように、愚痴くらいなら聞いてあげると、自らができることはしてあげたい花梨はにっこり口角を上げた。

 

 ところが――。

 

 

「……そういうこと言うからだよっ!」

 

 

 急にコナンが、手にしていた布巾を顔に投げつけてくる。

 

 

「てっ!? なに? なんなの新ちゃん!? カルシウム足りてないんじゃないの……? 今度小魚アーモンド送ろうか?」

 

「るせー! バーロ。オメーはオレの母親じゃねーんだよ! オメーはあっちで座って待ってろ! 残りはオレがやる!」

 

 

 なぜかはわからないが、コナンがキレだした。

 ……何が彼をそうさせたのか、花梨にはさっぱりわからない。

 

 向こうに行ってろと言われたので、花梨はエプロンを外し、ダイニング兼リビングに戻る。

 

 

「えぇ……、なによぅ……どうしちゃったのよぉ……」

 

 

 やはり以前、新一に関わりたくないって言ったのはまずかったのかな……。

 そこから尾を引いているような気がしなくもない。

 

 

 ――だって、新ちゃんと関わると事件に巻き込まれるじゃない?

 

 

 ただでさえ花梨一人でいてもトラブルに遭うというのに、事件を呼ぶ新一がいたら相乗効果を発揮しかねない。

 

 自分と一緒だと、さらに酷い目に遭わせるかもと思って身を引いたというのに。

 友達思いな自分を褒めて欲しいくらいだ。

 

 とりあえずカルシウムが足りてないようだし、小魚アーモンドを贈っておこう……。

 花梨はスマホを取り出し、通販サイトでポチっておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……バーロ、もっと早く会いに来いってんだよ……」

 

 

 ――久しぶりに見たけど、また可愛くなりやがって……。

 

 

 台所ではコナンが口をへの字にして、食器を洗い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は十三時半を過ぎ……。

 バタバタと階段を駆け上がって来る足音が聞こえ、探偵事務所のドアが開く。

 

 

「ただいまー。ごめん、園子の買い物に付き合ってたら遅くなっちゃった。お父さんお腹空いたよね、今から作るから……」

 

「いや、もう食った。蘭、お前に客が来てるんだ、呼んで来るからちょっと待ってろ」

 

「え? お客さん……?」

 

 

 二階の事務所に入って来た蘭に、小五郎はソファで座って待てと告げ、出て行く。

 蘭の後ろには園子もおり「こんにちはー」と挨拶をした。

 

 

「蘭のお客さん? おじさま三階に行ったけど……私、いない方がいい?」

 

「三階……? ううん、誰かわからないし、園子も一緒にいて」

 

「オッケー。にしても、あそこのランチおいしかったねー」

 

「だね、また行こう。あ、園子、コーヒーでも飲む?」

 

「ありがと貰う」

 

 

 蘭と園子は昼食を済ませて来たらしい。

 蘭は園子を残し一人給湯室に向かう。客も来ているならと一つ余分にコーヒーの準備をする。

 

 

「三階って住居スペースなのに……上げたの? 誰だろ……」

 

 

 プライベートな空間に上げる客なんてそういない。

 

 まさかお母さん?

 でも、お母さんなら事務所に来るだろうし、もしお母さんなら事前に連絡をくれるわよね……。

 

 蘭は自分に会いに来る客は母親しか覚えがなく、首を傾げる。

 ……そのうち事務所から小五郎の声が聞こえてきた。

 

 

『おーい、蘭! 何してんだ、早く来い!』

 

「あっ、はーい!」

 

 

 まだコーヒーの用意してるんだけど……と、急いで準備して蘭は部屋に戻る。

 蘭が戻ると園子が立ったままドアに向かって目を見開き固まっていた。

 まるで信じられないものを見た……というような目で。

 

 

「園子……?」

 

「……」

 

「ちょっと園子、どうしたのよ」

 

 

 蘭はテーブルに準備したコーヒーを置いて、園子に近づく。

 様子がおかしい気がして、蘭は園子の袖を引いた。

 

 

「……あ、あお……」

 

「ん? あお?」

 

 

 園子は“あお”とだけ言葉を発し、人差し指でドアを指す。

 ドアは開いており、そこには花梨が立っていた。

 蘭が花梨を見て、目をぱちくりさせる。

 

 

「……っ!」

 

 

 ふと、蘭と目が合い花梨は震えそうになるが、隣に付き添っていたコナンが手をぎゅっと強く握った。

 

 

「こ、こんにちは、蘭ちゃん、久しぶりだね」

 

 

 花梨は軽く片手を振り振り、はにかんでみせる。

 

 

「え?」

 

 

 ……どちらさま?

 こんな可愛い女の子、知り合いにいたっけ?

 

 蘭は思い出そうとするが、目の前の女の子はかなり華奢で、ちょっとでも自分が押せば、どこかに吹き飛んで行ってしまいそうである。

 こんな人形みたいなふわふわした女の子の知り合いなど、いた記憶が無い。

 一体誰なんだろう……けれど、何となく顔に見覚えがあるような気もする……。

 

 蘭の頬が花梨を前にぽっと赤らんだ。

 

 

「……あ、あのね、私、花梨。葵、花梨だよ。蘭ちゃんは憶えてくれてるかな?」

 

「かりん……? あおい……?」

 

 

 あおいと聞いて憶えているのは一人だけいる。

 けれど、その“あおい”は蘭の記憶の中では男の子で。

 

 ……しかも大好きだった初恋の男の子で。

 そう、男の子で。

 

 

「蘭、お前の大っっすきだった(あおい)くんだぞ?」

 

 

 蘭の中の“あおい”が合致する前に、小五郎が満面の笑みで告げた。

 

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