白月の君といつまでも   作:はすみく

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-- Spring, about 17 years old

▽前回のあらすじ
蘭や園子と再会の約束を交わし、幸せを噛み締める花梨。だが、そこへ駆けつけたコナンに「オレを好きだと言ったのは嘘か」と詰め寄られる。花梨の返した「あれは恋を知らなかったゆえの勘違い」という無垢な謝罪は、自覚したばかりの新一の心を粉砕した。やり場のない独占欲を「お兄様」という言葉に隠し、新一は花梨の「彼氏」を見定めるべく公園へと歩き出す。

第88話
降谷零が好きだったはずが、これを書いていたらヒロが気に入ってしまいました。
多分今後かなり出てくるかと思われます。


088:逃げないでついて来てね

 

 一方で快斗はといえば……。

 

 

「……小学生の男の子ぉ? 幼なじみの女の子に会ってたんじゃ……? あ、あれか……なんだぁ? 二人してなに言い合って……元々の知り合いか? あっ! 手ぇ繋いでる!!」

 

 

 ――なんかムカつく~~!!

 

 

 快斗はポアロから出て、待ち合わせ場所に向かうべく足の向きを目的地方面に向ける。

 前方に花梨とコナンが言い合いながら歩いているのが見えた。

 

 ……相手は小さい子どもだが、男の子で、手を繋いでいるのがどうにも気に入らない。

 

 

「ああ、花梨ちゃん、もう出てたんだね。……じゃあ黒羽くん、またね」

 

「あ、はい……ご馳走さまでした……」

 

 

 男の声に快斗は頭を下げる。

 ……その相手は諸伏景光だった。

 

 諸伏は帽子を被っており、同じくキャップを被った快斗と別れ、それぞれ別方向へと歩き出す。

 

 なぜ快斗が諸伏といたのかといえば……、少々時間を遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 花梨が毛利探偵事務所に入って一時間……。

 米花町の地理を知っておくのも悪くはない。快斗は近くを散歩し時間を潰していた。

 

 

「米花町っていや、犯罪率たけーんだよな……」

 

 

 最近ニュースでよく見る殺人事件の現場が大体この地域、快斗と花梨が今いる米花町に集中している。

 

 酷い時は一日に数件事件があるというのだから、余程治安の悪い街なのだと思っていたがそうでもないらしい。

 治安の悪い街といえば、ガラの悪い連中が大勢うろついていたり、ゴミがあちこちに散乱していたり、建物の壁に落書きがあったりするものだが、そういったものは散歩中に見られなかった。

 

 きちんと整備された道路に、青々とした街路樹もしっかり手入れされ活き活きしている。子どもたちも子どもらだけで普通に歩いているし、道行く人々も善良そうな市民ばかり。

 中には人相の悪い人間も数人いたが、どの街にもいるであろう程度。

 

 たまたま殺人事件が重なっただけなのだろうか。

 それともこの街には死神が住み着いているとか……?

 

 花梨が昔住んでいた地域だから、きっといいところなんだろうとは思うが、トラブル体質の花梨をあまりこの街に長居させたくない。

 ……快斗は本能的にそう思った。

 

 

「……花梨、話が弾んでるんかな?」

 

 

 彼女が楽しい時間を過ごしているなら、機嫌よく待ってやるのが彼氏ってもの。

 あの事務所内にずっといるなら大丈夫だろう。

 

 なら自分は周辺を見回るのが正解か。

 そう思った快斗は探偵事務所を中心にぐるりと周辺を一周して戻って来た。

 

 

「あ」

 

 

 ふと探偵事務所近くで権堂の姿を見つけ、快斗は目が合った。

 

 

「……へえ(権堂さん、日曜もいるんだな)」

 

 

 快斗がキャップを上げて軽く会釈すると、快斗に気付いた権堂が丁寧にお辞儀をしてくれる。彼女はお辞儀した後で自分の胸を拳で叩き、お任せくださいと頷いた。

 権堂がついているなら安心か……と、快斗は今度はさっき歩かなかった方角へと足を延ばす。

 

 

「……こっちは住宅街か……」

 

 

 先ほど駅方面に向かった快斗は、今度は住宅街を歩いてみることにした。

 

 

「変わった造りの家だな……。はー、こっちはでけー家……」

 

 

 閑静な住宅街を散歩中の快斗の前には、表札に“阿笠”と書かれている邸宅がある。

 その隣の大きな家の表札には“工藤”……。

 工藤邸に差し掛かり、快斗は何の気なしに門から見える家屋を眺めた。

 

 ……その時だった。

 

 

 カチャリ。

 怪盗キッドでいる間に何度か聞いたことのある嫌な音が聞こえたと思ったら、背中にトンッと、筒のようなものが押し当てられる。

 

 

「っ……、誰だ?」

 

 

 ――誰だよ、こんな場所でいきなり銃を突き付けてくる奴は……!

 

 

 背中に突き付けられたのは恐らく銃だ。

 ……装填(コッキング)音がするまで気配を全く感じなかったのは不覚。

 

 そういえば花梨にキッドとして初めて会った時も向けられたな――なんて快斗は急に思い出した。

 

 後日、花梨の銃を見せてもらったが、彼女の銃は護身用に作った改造モデルガンで、殺傷力はなく、催涙スプレーを応用した弾や目眩ましの粉が出る弾など数種類あり、あの時は麻酔薬が入っていたらしい。

 

 あくまで自身の護身用ゆえに、逃走中のキッドに使うと捕まって可哀想だからという理由で打たなかった、とのこと。

 それを聞いた時はなんて優しい子なんだと惚れ直した。

 

 ……と、今は花梨を思い出している場合ではない。

 

 “やっぱ、米花町やっべー! 花梨と早く二人の愛の巣に帰ろう!”

 

 なんて、快斗はこの状況をどう切り抜けるか思案し始める。

 ところがそんな快斗の思考を邪魔するように背後から声が掛かった。

 

 

「……黒羽快斗くんだね? いや……怪盗、キッド……と呼んだ方がいいかな?」

 

「……ハッ、オレが怪盗キッドだって? なに言ってるんだ?」

 

 

 背後から聞いたことのない男の声がして、快斗は両手を挙げポーカーフェイスで答え、振り返ろうとした。

 

 

「おっと、肺に穴を開けたくないなら振り返らない方がいい。俺もこんな住宅街で発砲したくないんだ」

 

 

 再びトンッと銃口で背を押され、快斗は振り返るのを止める。

 額に薄っすら汗が浮いたが、振り返らないならバレることはない。ポーカーフェイスを崩さないよう冷静に尋ねた。

 

 

「……、狙いはなんだ?」

 

 

 ――相手の狙いはいったい何なんだ……?

 

 

 相手が顔を見られたくないというのはわかったが、キッドの正体をわかっていて声を掛けてきたというのなら狙いは?

 

 

「危機的状況においても冷静でいられる……、まあ合格かな」

 

「……は?」

 

 

 ――合格?

 

 

 相変わらず快斗の背中には丸い筒がくっつけられたままだが、合格と言われつい首を傾げる。

 

 

「朝のビーフシチューは美味しかったかな?」

 

「っ!? どうしてそのことを……」

 

 

 ――確かに朝、ビーフシチューを食ったけどもっ……!

 

 

 ビーフシチューといえば、花梨の家の冷蔵庫で見つけた手料理……。

 朝から重くないかと言われたが無理やり食わせてもらって、めちゃくちゃ美味くて全部平らげてしまった。

 どうしてそのことをこの男が知っているんだ。

 

 男からの問いに快斗のポーカーフェイスが崩れる。

 

 

「それ、俺が作ったから」

 

「……は?」

 

 

 快斗の口から間の抜けた声が漏れた。

 

 

 ――え? 花梨の手作りなんじゃ……?

 

 

 ビーフシチューは花梨が作ったものではなかったのか。

 いや、花梨はビーフシチューを自分で作ったとは一言も言っていなかった。

 

 ……ということは、背後の男がビーフシチューを作ったという可能性が出てくる。

 

 

(花梨……夜に降谷を家に上げたのか……?)

 

 

 快斗が花梨を送ったのは夕暮れ前。送った後に訪問してきたということは夕方から夜に掛けて部屋にいた……ということになる。

 送りの車には権堂も乗車しており、花梨が早めに帰るようにと言っていたから彼女は早く帰ったはず。

 

 ……彼氏のいない夜に料理が上手いという降谷を部屋に上げ、作ってもらったというのか。

 それは浮気じゃないのか。

 

 

(花梨の浮気者め……帰ったらいじめてやっからな……)

 

 

 花梨の周りには男が多い。

 身の危険があるからある程度許容しているが、昼間ならともかく、夜に彼氏以外の男を訪問させるのは間違っている。

 あのマンションはセキュリティーが高いから、夜に訪問する必要はないはずで、危機感の足りない彼女は上手く言い包められて上げたんだろうとは思うが……。

 

 いや、ちょっと待て……背後の男は降谷じゃない。

 声がまったく違うじゃないか。

 

 つまり背後にいる男は花梨とどういう関係かは知らないが、快斗、自分の知らない新たな男――。

 これはやっぱり浮気……。

 

 

 ……快斗の口がへの字を結ぶ。

 

 

「……黒羽くん。いや、怪盗キッドくん。ちょっと時間をもらえるかい?」

 

 

 花梨のことで悶々とする快斗に、急に男の声が柔らかくなった。

 

 

「え」

 

「お昼ご馳走するよ、逃げないでついて来てね」

 

「は?」

 

 

 背に当てられていた丸い筒が下げられ、快斗は振り返る。

 そこにいたのは初めて見る背の高い男で、帽子を深々と被っていた。

 

 男が銃口を向けたまま、ジャケットの中にそれを隠して脅してくる。

 ……その動きは滑らかで隙がないが、表情は爽やかな笑顔で。

 

 なんだかアンバランスだな……。

 快斗はそう思いながら逃走できそうにないと諦め、大人しくついて行くことにした。

 

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