伝説のニート、平成のアイドルと共に佐賀を救う 作:スピリタス3世
愛視点
パチンコの新台が出てから1ヶ月と少し。私たちは駅前不動産スタジアムで30,000人規模のライブを実施した………が、当然爆死した。私にとってのリベンジとして意気込んでいたものの、正直人数を広げすぎて無茶だとは思ってた。しかも当日券のみ。そりゃダメなわけだ。
「まあ、そりゃそうだよね〜。」
「アンタやけに呑気ね。」
「いきなり規模広げすぎ〜、って幸太郎に言ってたも〜ん。聞き入れてくれなかったけど〜。」
どうやら奈々子も同意見の様子。
「なんか事情があったのかな?」
「さぁ?でもまあ、これでまた目標が出来たんじゃな〜い?あそこでもう一度ライブをするって〜。」
「ファンの数を取り戻して増やして、あそこまで到達するのね。上等、やってやろうじゃない!」
「お〜!」
ただ、案外奈々子は挫けてない。むしろここからやってやるという雰囲気だ。もちろん私もそう。元々がゾンビが佐賀の地方アイドルという無茶苦茶なスタートだったからね。これくらいは平気。雷だって奈々子のおかげで克服できたし、生前と同じ会場で失敗するのだって大丈夫だ。元々失敗をそんなに悪い事だと思ってないし。
ただ、もう1人の裏方は平気じゃなかった。
「で、アイツには電話繋がったの?」
「ぜんぜ〜ん。ずっと電話に出な〜い!」
「全く、何してるのよ………」
巽が音信不通になったのだ。どこに行ったかすらも分からないという。普段無茶苦茶な振る舞いで折れてるところとか見なかったから、これは新鮮だ。確かに今まで順当だったから、失敗を知らなかったんだろうけど。
「とりあえず、大量の借金を返さないとね。」
「そうだね〜。じゃ、ボクはボートで一発当ててくる〜♪」
「ダメに決まってるでしょ‼︎借金増やしてどうすんのよ⁉︎」
にしてもコイツ、巽とは対照的に呑気ね‼︎相変わらずギャンブルしか頭にないし‼︎
「え〜、じゃあどうするの〜?」
「働くのよ。バイトでね。」
「働く⁉︎そんなのムリムリ‼︎ボクを誰だと思っているの⁉︎」
「うるさいニート‼︎働くったら働く‼︎」
「嫌だ〜‼︎」
しかも働く気ないし‼︎本当になんなのよ⁉︎これはもう、強引にでも職場に引き摺り回すしかないわね。そう思った日だった。
私たちが労働を始めてからしばらく経ったある日のこと。
「ただいま。」
「おかえリリィ☆」
「おかえり、愛ちゃん!」
「んんんんんん!」
「おかえりなさい。」
「はい、お土産。殿様スルメ。」
「やった〜☆」
「「がぁぁぁぁぁ!」」
「たえちゃん、皆で食べなきゃダメ!ロメロも!」
「おう、愛。ちょうど水道空いたぞ。」
「ありがとう。浴びてくる。」
私はお土産を持ってアルバイトから帰ってきた。今私は小島食品工場という会社でスルメを製造している。ちなみに他のみんなは違うところでアルバイトしている。さくらとたえが牧場、サキが工事現場、純子が陶芸製造、リリィが牛乳配達だ。そして………
「さて、そろそろ日が暮れるでありんす。」
「ボクたち夜の女の出番だね〜!」
ゆうぎりと奈々子がスナックだ。ゆうぎりはともかく、奈々子は最初私と同じ工場の予定だった。しかし仕事中に酒を飲みたい&コミュ力が高いなどの理由から、夜職の方がいいということに。以降ゆうぎりの監視の元働いているのだ。
「今から出勤?頑張って!」
「夜の佐賀を任せるばい‼︎」
「はい!」
「ありがと〜!」
しかもなんだかんだゾンビバレせずにやれている。ゆうぎりの監視もあるからだろうか。さらにアイツ、嫌がりながらもなんだかんだ働いている。もしかして仕事している方が合ってるんじゃないか。生前も普通に働いていればよかったのに。ついそう思ってしまった。
皆が働いてくれたおかげで、私たちの借金返済は予定より早くなりそうだった。だが、別の問題が出てきた。
「う〜ん、巽みたいなメイクって難しいね。」
「ミニライブ*1しても〜、顔色悪くなってるって言われるし〜。営業先からの感触も、微妙になってるんだよね〜。」
「アイドルは顔が命だからね。」
メイクの問題だ。私たちもそれなりに出来るとはいえ、巽ほどじゃない。そのためゾンビバレは防げているものの、アイドルとしての顔色には届いていない現状。奈々子が代わりに頑張ってるけど、それでも微妙なのが現状だ。
更には作曲。巽以外に作曲できる人が全くいない。そのため既存の曲だけで回していくのはかなりキツい。そのうち飽きられるのがオチだ。
「さくら〜、幸太郎を煽っといて〜。ボクみたいなニートになるよって。」
「確かに、それはありっちゃね!」
「アンタのその発言、相当効くと思うわ。」
ぶっちゃけ、巽がいなくなってから奈々子の働きっぷりは凄まじい。夜はスナック、昼はプロデューサー。もうニートなんて呼べないくらい、すごい頑張っていると思う。最近はメイクに作曲もなんとかしようとしてるし。元ニートがどこにそんな情熱を隠してたのか。本当に意外だ。
しばらくして、私たちはデスメタルハウス『GEILS』でライブをすることになった。どうやら私の意識がない時に、フランシュシュの最初のライブ会場としてやったらしい。
「みんな〜、雰囲気は結構違うけど、押されずにね〜!」
「そうね。箱は小さいけど油断せずに。目の前の人を楽しませていきましょう。リーダー。」
「おう!気合い入れていくぞ〜‼︎」
「「「「「オー‼︎」」」」」
楽屋でエンジンを組んだ後、私たちはステージに出ていった。奈々子はいつもなら客席にいるが、最近はプロデューサーとして裏にいる必要があり、全然客席では見なくなった。それがいつからか、少し寂しくなってしまった。まあ、これが普通なんだけどね。
それはともかく、こっちの事情なんて着ているお客さんには関係ない!メタルのライブハウスという完全アウェーな環境でもやってみせる!
そういう気持ちで始まったライブは、それはもう地獄だった。いつも応援してくれるデスメタルおじさん2人以外は、アイドルのライブなんか全く興味無い様子。そりゃそうよね。ジャンルが違いすぎるもの。でも1人でも多く、ファンにするんだ………っ!
「行けぇぇぇぇぇぇぇ‼︎フランシュシュ、行けぇぇぇぇぇぇ‼︎」
そんな事を思っていたら、なんと幸太郎の方の巽が後ろのドアを開けてやってきた。やっとだ………やっと来てくれたんだ‼︎全く、遅いのよ………
「なんかテメェは⁉︎黙っとけ‼︎」
「がはっ!」
「幸太郎さん⁉︎」
「はい効かない‼︎行けぇぇぇぇぇ‼︎」
えっ、ちょっ⁉︎なんか喧嘩が始まったんだけど⁉︎大丈夫なの⁉︎
「「「行けぇぇぇぇぇ‼︎」」」
「あぁ⁉︎うるせえんだよ‼︎」
「こやんか事久々ばい‼︎」
デスおじも混ざり始めた‼︎何これ⁉︎
「よしっ、ちょっくら片付けてくるか。」
「サキ、アンタは行くな!」
サキも混ざろうとしてる。アンタはダメでしょ‼︎
「ほ〜ら〜、歌って〜!」
「はいミュージック、カモォォォォォン‼︎」
そして、奈々子と巽が後押ししてくれる。これはもう、歌うしかないわね………っ‼︎
その日のライブは本当にめちゃくちゃだった。観客席中が入り乱れて、なんのことだか分かんない状態。でも、何人かは手を止めて見てくれた。デスおじもそれに協力してくれた。ぐちゃぐちゃな中で、何人かの心を惹きつけることができた。そんな日だった。
ちなみにその翌日、
「おっはようござぁいまぁぁぁぁぁぁぁす‼︎」
完全に元気になった巽を見た奈々子が…………
「遅いよ幸太郎‼︎ボクよりクソニートだったじゃん‼︎自分で始めたプロジェクトのくせに‼︎ボクはしばらく休職するから、死ぬ気で働いて‼︎じゃあね‼︎」
ブチギレて巽に休職届を押し付けて、部屋を出ていったのだった。