大艦隊の亡霊〜大洋にZ旗を掲げよ〜   作:大艦巨砲主義者

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ZZ艦隊計画

 

 冬の港街は、冷えた革靴の音を冷たく硬く返す街だった。古臭い煙管から吹き上がる紫煙はこの国の行先の様に不透明で不安定に揺れている、灯火を鈍く震わせる。かつて帝国の誇った艦隊が並んだ船渠は閑古鳥を鳴かしていた。

 

すっかり情熱と熱気を失った省館は降り積もった残雪と共に今にも溶けて消えてしまいそうだった

 

 

かの大戦の余韻は寂れた館の隅々に灰のように積もり確かに其処に残っていた。

 

敗北、そして悪の象徴となった旧帝国の旗が静かに省館の上で翻えった時、凍える様な館の廊下で1人の男が立ち止まる。

 

その男の名はローマン・フレディ・メーダー

彼は煤で汚れた窓硝子を軍服の端で擦り呟く

 

 

「…掃除も行き届いていないのか」

 

彼の言葉には怒りと微かな諦めの様なモノが含まれていた。誇りを失った海軍の軍人達は訓練もせず日夜酒を浴び現実から目を逸らす事に熱中していた。

 

 

◆◆◆

 

下町にあるバールで彼は安い酒の匂いに酔いしれていた。

安酒特有の強い酒精は醜い現実から目を逸らさせてくれる上に財布にも優しいまさに一石二鳥だ。

 

酒場は不景気からの戦後復興による好景気の熱に浮かされていた。

 

温い酒を注ぐグラスの音、そしてそれらを押し流すように流れる荒い音質のジャズ

 

新大陸の連中の真似事の様に見え思わず彼は苦笑する。

自分達を打ち負かした連中の支援によって経済は再生し人々はそれに歓喜し彼らの猿真似をしている。

 

 

冷静に考えれば考える程惨めで仕方なくなる、彼はショットグラスを片手にシュナップスを流し込み喉を灼き無理矢理酔う

 

 

朦朧とする視界で彼は酒場の壁の変色したポスターを見つめる

 

 

Die Ozeane beherrschen!(大洋を支配せよ!)

 

 

巨大な戦艦の主砲が天を突かんとばかりに振り上げた絵の中央に堂々と配置された文字が目を引く構成のポスターだった。

 

 

だが最早大洋を支配せんと世界に挑んだ大艦隊は存在しない、其処にあるのは鼠を取るのに必死な者達の集まりである

 

「…」

 

ふとほぼ空になったショットグラスに視線を落すと映ったのは茹でダコの様に赤い間抜けな自分の顔だった。

 

 

 

初めて艦隊を見た時の感動は今も忘れらない

そして海に艦船に恋焦がれ入った海軍

 

 

しかし今はどうだ、かつて自分が憧れて止まなかった艦隊は、軍人としての誇りはあるのか

 

 

「…船乗りならばクールであれ…か」

 

 

海軍のスローガンを無意識に呟きクールのくの字も無い現状に思わず笑ってしまう

 

 

すっかり酔いが覚めてしまった彼はもう酒を飲む気にはなれずバールを出ると冬の外気が体を包むと思わず身震いをしてしまう。

 

 

家への帰り道で海辺で水平線を見つめる少年に気付く、冬の海辺は冷える既に日が沈んでいるから尚更だろう

 

このまま無視する気にもなれず声をかける

 

 

「どうした少年、もう暗いから帰りなさい」

 

 

少年は答えない、魂が抜けてしまったかの様な表情で鈍い音を立てる波風の音を聞いていた。

 

 

「……どうした?」

 

 

男は少年の隣に座る、ザラついた感触が布越しに感じる

その時少年がポツリと呟く

 

「おじさん…海ってどれくらい広いんだろ」

 

 

「そうだな…この国の何倍も広いさ」

 

 

「そんなに広いの!?海って!?」

 

 

少年の無邪気な声に思わず苦笑し少年の方を向くと心臓を誰かに掴まれたかのような感覚に陥った。

 

少年はかつて大海へと憧れた幼き日の自分と同じモノをその瞳に宿していたからだ。

 

「ご、ごめんなさい、、いきなり叫んじゃって…」

 

「…いや、気にしなくて良い」

 

何処までも広い海への憧れ、何処とない恐怖、水平線の向こう側を夢想する、海への憧れを抱くただ一人の少年の姿が今の自分と比べると酷く情けなく見えた。

 

 

少年の名を聞くと曖昧に誤魔化されたが話をしてみると好奇心の強い少年だという事が直ぐに分かった。

 

海軍の話をすると露骨に食いついてくるモノだから思わず破顔してしまった。

 

 

「海軍かぁ…ボクも何時か成りたいなぁ…」

 

 

会話の最中、少年の呟きに胸が痛んだ

 

今の海軍に誰かから憧れる程の資格があるのか

現実から目を背け続ける我等に

 

少年と暫く話したあと少年の親が訪れ少年を引っ張っていた。

 

 

 

1人、海辺に残された彼の頬を冷たい潮風が撫で彼の眼前に広がる大海原に佇む在りし日の大艦隊の幻想が見えた。

 

 

男は目を擦るとその艦隊は霧の様に霧散した。

 

 

「………!」

 

 

思い出した、何故船乗りを志したのか

 

 

軍服が格好良いから?軍艦に憧れたから?

 

違う

 

どうしようも無く憬れてしまったから、海を知りたかった

 

 

何故波を打つのか、何故風が吹くのか

 

 

それ故に大海を我が物顔で航行する大艦隊に憧れたのだ

 

 

男は近場の石を一つ拾い上げ海へと力一杯投げる

投石の着水点には小さな水しぶきと波紋が生まれる

 

 

その波紋を見つめる彼の瞳には確かな熱が籠もっていた。

 

 

 

 

 




大艦隊って響き…ロマンあると思いませんか?

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