【宿泊研修編】では、主人公が料理を作る場面が多々あるので大変ですが、なるべく作った料理がイメージ出来るよう頑張って書いていきます!
カムイが極星寮のメンバーに料理を食べさせてからしばらくが経ち………………………………遠月学園ではちょっとした行き違いから幸平が『水戸郁美』と初の【食戟】を行うことになった。
テーマ食材は『牛肉』。料理は『丼』という勝負であったが、幸平は見事白星を飾り、水戸は丼研へ入部。
そして遠月学園の一年生は『地獄の宿泊研修』を控え、戦々恐々としていた。
だが一方のカムイは学園を離れ、『食運』に導かれるまま旅を続けており………………………………今は北欧のデンマークに来ていた。
この時期のデンマークはフェロー諸島でゴンドウクジラの捕鯨が行われているため、カムイの『食運』が反応したのかもしれない。
もちろんカムイは船を使うことなどせず、アカシアのサラダである『エア』を食べて自ら海に潜ってクジラを仕留めていた。
『エア』を食べることで無呼吸での活動が可能となったカムイは、ゴンドウクジラを海中で生きたまま『仕込み』をしていく。
カムイが『金の包丁』で『活性切り』を行うたびに旨味が活性化するばかりか、深海の水圧の関係でゴンドウクジラの巨体がどんどん縮んでいく。
体が小さくなることで活性化した旨味が濃縮され、より旨味が増すことをカムイは『食材の声』や『フグクジラ』の調理経験から知っていた。
みるみる小さくなっていくゴンドウクジラは、ついにグルメ食材である『フグクジラ』サイズまで小さくなった。
カムイは小さくなったゴンドウクジラをノッキングし、同じ要領でさらに追加で5~6頭を捕獲していく。
ゴンドウクジラを捕獲したカムイはそのまま海から上がり、軽くシバリングして身体を温める。6月とはいえ北欧の海、しかも深海に数時間もいたことでカムイの身体は少し冷えていた。
「アラ? アナタはもしかして、『カムイくん』ではありまセンカ?」
身体の熱を取り戻したカムイが『アイランドシェル』へ帰ろうとすると……………………長い銀髪の女性が話しかけてきた。
立派なリムジンから降りてきたあたり、かなりの富豪であることが分かる。
「コクン」
「ワオ! やっぱりカムイくんなのデスネ! ワタシは『レオノーラ』と言いマス。こんなところで【神域の料理人】に会えるナンテ思いませんデシタ♪」
カムイが頷くとレオノーラは嬉しそうにはしゃぎだす。見たところそれなりの年齢のはずなのだが、そのはしゃぎようはまるで子供みたいだった。
「それにしても、ドウシテそんなに濡れてるのデスカ? 海水浴にはまだ早いデスヨ?」
「………………………コレを、捕っていた」
一通りはしゃぎ終えたレオノーラだが、今度はカムイがずぶ濡れであることに疑問を投げかける。レオノーラに尋ねられたカムイは、素直に手にぶら下げているゴンドウクジラを見せた。
「ホウ、コレは……………………『フグ』でしょうカ? でもこんなフグ、見たことアリマセン。
ですが何にしても、そのままでは体が冷えてしまいマス。ベルタ、シーラ! タオルを持ってきてもらえマスカ!」
ゴンドウクジラは見たことあっても、ここまで圧縮されたものは見たことが無いのは当然のこと。
初めて見るクジラに興味津々のレオノーラであったが、濡れているカムイを拭こうと遠巻きに見ていた2人の少女を呼び寄せた。
恐らく双子であろう女の子が、レオノーラに頼まれてカムイにタオルを渡す。見ず知れずの他人にここまで世話を焼くのも珍しいと感じながらも、カムイはレオノーラの好意を受け取ることにした。
「せっかくですし、ワタシの屋敷に行きまショウ。すぐそこデスし、体を温めないといけマセン」
体はもう温まり始めているのでタオルだけで十分だったのだが、レオノーラはカムイの手を引き、ベルタとシーラと協力してリムジンの中へと押し込んでいく。
これが害意ある者であればカムイも抵抗するところなのだが、三人とも親切心からの行動のため、カムイは流されるままリムジンに乗ってレオノーラの屋敷へ連れられていった。
しばらくしてレオノーラの屋敷に着いたカムイは、そのままお風呂をいただき、SPの案内で食堂へと連れてこられた。
20人は使えそうな長いテーブルを囲み、レオノーラ・ベルタ・シーラが椅子に座っている。
「体は温まりマシタカ、カムイくん?」
「コクン、ありがとう」
「礼には及びマセンヨ♪ ただ、そうデスネ~~~。その代わりと言っては何なのデスガ……………………アナタの料理を食べさせてもらえマセンカ?」
「?」
一応、世話になったということでお礼を言ったカムイだったが、突然レオノーラから料理を作ってほしいと言われて頭に疑問符を浮かべてしまう。
そんなカムイを可笑しく思ったのか、レオノーラは微笑みながら話しだした。
「アナタの噂を聞いて、一度アナタの料理を食べたいと思っていたのデスヨ♪ もちろん相応のお金は払いマスし、この屋敷にある物は自由に使ってくれて構いマセン♪」
「ベルタも食べたい~~~~!」
「シーラも~~~~!」
「っということでカムイくん。三人分、お願いデキマセンカ?」
何故だか三人分の料理を作るよう頼まれるカムイ。ただ曲がりなりにもここまで世話になった以上、カムイとしては何らかの形でお返ししないといけない。
『旅の中で世話になった人にはキチンとお礼をしなさい』と節乃から言われているため、カムイは三人のために料理を作ることにした。
SPに厨房へと案内されたカムイは、先ほど捕獲したゴンドウクジラを使うことにする。フグの要領でゴンドウクジラを捌いていき、肉と内臓とヒレを取り分けた。
まずは骨を煮出して出汁を取る。そして肉の一部を『薄造り』にし、『サンザシトラス』を使った自家製の柚子胡椒を添えて皿に盛る。
さらに肉の一部を厚めに切り、タレを付けて七輪で網焼きにしていく。タレはクジラの血に赤ワインと出汁を混ぜて、湯がいた肝を裏ごしし、ペーストにしたものを混ぜて煮立てた特製ダレ。
クジラの肝は圧縮されたことで、体内に含まれている毒素も肝に集中されている。そのためクジラの肝はフグの毒袋のように毒の塊と化していた。
しかしカムイは『七味酒』の酒粕と『王酢』、そして『漆黒米』から作った黒麹に漬けることで肝を無毒化したのだ。
余談だが、通常は毒があって食べられないフグの卵巣も、酒粕に3年ほど漬け込むことで無毒化し食べることが可能となる。そのため、石川県では名産の一つに数えられている。
カムイは『毒料理のスペシャリスト タイラン』の元で修行をしたことがあり、『フグクジラの毒袋』すら無毒化させることが出来る。
そのためゴンドウクジラの肝を無毒化することぐらいワケは無かった。
『薄造り』と『網焼き』を作ったカムイは続いて、クジラの出汁に『シチューワイン』と『ミルクジラの潮』から作ったバターを入れてクジラの内臓を煮込んでいく。
内臓はもちろん切れ込みを入れて『ミルクジラ製生クリーム』で臭みを取り除いている。
十分に煮込んだら濾して舌触りを滑らかにし、『あられこしょう』と『メルクの星屑』をふりかけて完成。
最後は残った肉をオーブンに入れてローストにしていく。網焼きに使用したタレを塗ってはオーブンに入れて火入れ。
数分経ったら取り出して肉を休ませ、またタレを塗ってオーブンに入れる。
これを何度も繰り返していき、タレにケッパーなどのスパイスを加えて煮詰めたソースを添えれば、『クジラのロースト』の完成。
こうして四品の料理を作ったカムイは三人のいる食堂へ料理を持っていった……………………もちろん自分が食べる分と一緒に。
食堂で大人しく待っていた三人だったが、カムイの料理を見るなり大興奮。特に双子のベルタとシーラは目を輝かせながら涎を垂らしていた。
「う~~~ん♪ この食欲をそそる香りが堪りマセン! まるで食材が喜んでいるみたいデス♪」
「うわぁ~~~~! 見てよシーラ、ローストされた肉の脂が輝いてるよ!」
「そうだねベルタ! こんなロースト肉、食べたりしたら気絶しちゃうかも!」
食べるまでも無く、目の前の料理が絶品であることを脳で認識する三人。しかしカムイはその三人に料理を運んだら、自分の分を空かさず食べようとする。
「この世のすべての食材に、感謝を込めて………………………『いただきます』」
カムイが合掌してお辞儀をすると、料理に夢中になっていた三人も佇まいを正す。そしてカムイに倣い合掌してから料理を食べることにした。
「「「!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
レオノーラは『薄造り』、ベルタは『ロースト』、シーラは『煮込み』をそれぞれ食べると…………………………口の中でクジラの旨味が暴れ回った!!!!
「ス、スゴいです! 獣肉のような臭みは無く、魚肉よりも遥かに濃厚な味わい!! まるで2種類の肉の良いところ取りをしたような美味しさです!!!」
「お、お、美味しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 噛んだ瞬間に肉汁と旨味の洪水が押し寄せてきて、意識まで流されちゃいそうだよ!!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! この内臓のコッテリ濃厚な味とトロトロな食感が堪らないよぉ~~~~~!!!」
三人は遠月における分子ガストロミーの研究者であり、レオノーラはその研究所のトップである。
本来であればどんな料理も食べながら分析するのだが、この時に限っては分析する暇も無くひたすらに料理を食べ進めていた。
ゴンドウクジラは独特の風味で、一度食べるとクセになるとも言われており、また尾の身はマグロのトロのような味わいで最高級の部位とされている。
そんなゴンドウクジラの肉は、カムイの『活性切り』と神業的調理によって、グルメ食材の『フグクジラ』並みのインパクトとなっていた!!!
そして四品全てを食べ終わると、レオノーラは『薙切』としての才覚が覚醒!
その影響で自分だけではなくベルタとシーラにも『おはじけ&おさずけ』をしてしまい、三人は全裸になってしまった。
(………………………案外多いのだろうか、料理を食べて全裸になるヤツが)
いつぞやの男や仙座衛門のように、自分の料理を食べて全裸になる三人を不思議そうに見ていると…………………………食堂の扉が開き、高そうなスーツを着こなした男性『薙切宗衛』が入ってきた。
「っ、どうしたんだレオノーラ!? ベルタもシーラも、何があった!?」
宗衛は部屋に入って来るなり三人に駆け寄ってくる。三人の女性が全裸、頬を赤く染めて息も絶え絶え。
そして傍らには見慣れない青年が1人佇んでいる………………………………………どう見ても犯罪の臭いしかしない。
「キサマァ………………………三人に! 私の妻に何をした!!!」
そんな光景であれば、カムイが愛する妻や知人に不埒なマネをしたと宗衛が勘違いしてもおかしくはない………………………ただカムイとしては料理を食べさせただけで、目の前の人間の服がいきなり弾ける現象の方が驚きである。
「ち、違うのですよ、ナッさん…………………」
「違う? どういうことだレオノーラ?」
宗衛がカムイの胸倉に掴みかかっているのを見て、レオノーラはフラフラになりながらもどうにか誤解を解こうとする。
事情を聞いた宗衛はとりあえずカムイから手を離すも、完全には信じきれていない。
そのため、半信半疑な気持ちで残っていた料理を食べてみることにした。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
宗衛が『クジラ肉の網焼き』を食べると脳内に稲妻が走る! その瞬間に薙切家が持つ固有パルスが迸り、屋敷内にいる使用人たちが一斉に『おはじけ』した!
「な、なんという美味さだ! プリプリの食感の肉、しかし噛み締めるたびに濃厚な旨味を持った肉汁がジュワジュワと溢れてくる!!
これは…………………………クジラの肉か! しかしこんな美味なるクジラは初めてだ!!!」
クジラの中でも特に柔らかい骨周りの肉を食べて、その濃厚な美味さに宗衛は全裸になりながらも食べることを止めない!
それどころか他の料理を食べては、そのあまりの美味さに気を失いそうになる。
レオノーラたちのように四品全てを食べ終わった宗衛は、やはり三人のように恍惚の表情を浮かべて陶酔していた……………………………全裸で。
その後どうにか動けるところまでは回復し、カムイに非礼を詫びて料理について教えてもらおうとする宗衛。
しかし宗衛が気づいた時には、カムイの姿は見当たらなかった。
すぐにSPや使用人にカムイを見なかったか尋ねようとするが、宗衛の『おはじけ&おさずけパルス』のせいでSPも使用人も全員が全裸の状態。
宗衛は事態の収拾に奔走することとなり、カムイを探すどころではなくなってしまった………………………。
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「だからねぇ、なつめ様、おりえ様。さっきから言っているでしょう…………………………【秋の選抜】に、カムイは出せないんですよ」
北欧のとある館で家人が全裸になるという大騒動があってしばらく……………………………遠月学園の応接室では『遠月十傑』の第九席である叡山が、学園のスポンサーの1つであるカレーメーカー【ハウビー食品】の最高責任者、『千俵なつめ』と『千俵おりえ』の姉妹と相対していた。
「【秋の選抜戦】は1年生がしのぎを削り合う場、しかしカムイの腕は明らかに学生のレベルを逸脱している。
子どもの野球の試合にメジャーリーガーが出場するようなものですよ? どう考えても選抜そのものが成り立たないでしょう」
「そんなの知ったことではないわ、叡山くん。私たちは【神域の料理人】が生み出す新次元の『カレー』が見たいのよ」
「そうそう♪ 『その一皿は国をも動かす』と言われたカムイくんの料理。彼の感性によって紡がれるカレーは間違いなく、人類が未だ到達したことの無い『美食』となるに違いないわ♪」
選抜の運営を取り仕切っている十傑の1人である叡山は『カムイは出せない』と説得するも、千俵姉妹は『カムイを出せ』の一点張り。
互いに正反対の主張により話は平行線どころかコインの裏表であり、決して交わることはない……………………………しかも朝からこの有り様である。
(ちっ、黙って金だけ出せばいいものをよぉ)
「何かしら、叡山くん? 何か言いたいことでもあるのかしら?」
「い~~~え~~~、滅相も無い♪」
(けっ、冗談じゃねえ。こちとら交渉はおろか、カムイとは食戟以降まともに顔合わせすら出来てねえんだぞ。
それなのに他の企業人の前にアイツを出せるか! 無いとは思うが、それでも引き抜きの可能性の芽は摘んでおくに越したことはねえ)
『カムイが出ると選抜戦が成立しない』という叡山の主張はもっともだが、それはあくまで建前でしかなかった。
本音は自分すらカムイとロクに面識が無いのに他の企業、ましてや明らかにカムイの才覚に目をつけている輩をカムイに接触させたくなかったのだ。
(アイツを手に入れることが出来れば、大企業どころか国すらも相手取ってのビジネスが出来る! そうなりゃあ国家規模でのプロジェクトですら俺の意のままだ! 絶っ対に手に入れてやる!)
コンサルタントの目から見てもカムイの腕前は垂涎ものであった。
何せカムイの料理を求めて、遠月学園には多額の寄付金が世界中から毎日のように振り込まれているのだ。
これでカムイを手に入れることが出来れば、その寄付金がそっくりそのまま叡山の物になると言っても過言ではない。
それどころか国を相手にしてのビジネスとなれば、叡山の発言力と立場は国の決定にすら介入出来るようになる。
だからこそ叡山は、余計な『虫』がカムイに付かないよう外部からの干渉の一切を取り仕切っていた。
「何度言われても、カムイは出せないんですよ。これは遠月学園総帥からの通達であり決定です。どうかご理解のほど、お願いします」
けれどもかれこれ数時間も同じやり取りをしていて、さすがの叡山も辟易してきた…………………………そんな時、応接室のドアが開く。
「叡山、今度の選抜戦の日程について話が……………………………って、千俵姉妹? もしかして、まだやってたんですか?」
入ってきたのは叡山と同じ十傑の第六席『紀ノ国寧々』だった。千俵姉妹が朝一番で学園にやって来たことは知っていたが、まさかこの時間まで揉めているとは思わなかったのだろう。
「紀ノ国さん、ちょうど良かったわ。アナタからもこの分からず屋に言ってあげてくれない?」
「紀ノ国さんも、カムイくんがどんなカレーを作るのか気になるでしょう?」
「はあ…………………………私は運営側なので何とも言えませんが、そんなに気になるなら直接彼に交渉してみてはどうです? ちょうど第一料理棟の方をうろついているのを見ましたので」
「「!!!!!!!!!!!!!」」
叡山では話にならないと判断した千俵姉妹は紀ノ国を味方につけるべく頼むが、紀ノ国からもたらされた情報に目の色を変える。
「ウソ!? カムイくん、学園に来てるの!?」
「こうしちゃいられないわ! 第一料理棟ね、行こうお姉ちゃん!」
カムイの作るカレーを食べるのなら叡山を通すよりもカムイに直接頼んだ方が早いと考えた千俵姉妹。いきおいよく椅子から立ち上がり、急いで第一料理棟へと向かっていった。
「っ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………サンキュー、紀ノ国。おかげで助かったぜ。あの二人とのやり取りもいい加減面倒になっていたところだ」
「どういたしまして。でもそれはアナタの自業自得でもあるんじゃない? 『カムイに関する外部干渉の一切を任せろ』と言ったのはアナタでしょう?」
「それはそうなんだけどよぉ……………………ところで、カムイが学園に来てるってのはマジか?」
「ええ、もちろん………………………ただ、竜胆先輩とモモ先輩にしがみつかれていたけどね」
「………………………何やってんだ、あの二人は?」
カムイが学園に来ているのなら自分も行こうかとも思ったが、十傑の第二席と第四席。しかも片方は自身が苦手としている『小林竜胆』がいるのならば面倒事の臭いしかしない。
そう思った叡山は、紀ノ国と選抜についての打ち合わせを優先した。
紀ノ国の言う通り、カムイは遠月学園に来ていた。極星寮で料理を作ってから一切寄り付かなかったカムイであったが、今日は珍しく学園に来ていたのである。
恐らく『食運』によるものではあるのだが…………………………当のカムイは『来るんじゃなかった』と後悔していた。
「なぁなぁカムイ~~~~。また料理作ってくれよ~~~~、薙切ちゃんには作ったんだろ~~~~~?」
「カムくん、お願い! また『タルトタタン』作って! モモも『逆さ折り』、出来るようになりたい!」
カムイが学園をうろついていると運悪く竜胆と茜ヶ久保の二人と鉢合わせ、カムイを見つけた二人はすぐさま腰にしがみつき料理を強請った。
特段お腹が空いてなかったカムイはそのまま構わず歩き出すが、二人の執念は凄まじく引きずられながらも手を緩めることはしていない。
思わずノッキングでもしようかとも思ったが、別に害意があるわけではない。無視すればそのうち諦めるだろうと考えるも……………………………そんなことは全く無かった。
この状況をどうにか出来ないかと『食運』と『直観』を駆使して歩いていくうちに、辿り着いたのは『第一料理棟』。さらに歩みを進めると、とある調理実習室に着いた。
「っ、カムイ!? 今日は学園に来てたんだな!」
「こうしてちゃんと会うのは食戟以来か? アレ以来、まったく会うことが無かったよな」
「そうだな…………………………そして小林と茜ヶ久保は何をやっているんだ?」
部屋にいたのは多くの生徒と十傑の『司英士』『女木島冬輔』『斎藤綜明』だった。
司はカムイの来訪に顔をほころばせ、女木島は珍しいものでも見るような顔をしている。ただ斎藤はカムイよりも、その腰にしがみついている二人に目が向かった。
「……………………………何とかしてくれ」
カムイはこの世界に来て、恐らく初めてになるであろう頼みごとをした。滅多に表情を変えないカムイが明らかに迷惑そうな雰囲気を出しており、司たちも話を聞くことにする。
「……………………そういうことか。ウチの二人が迷惑をかけて申し訳ない。ほら二人とも、いい加減カムイから離れるんだ」
「イヤだ! カムイが料理を作るまで離れない!」
「コクコク!」
「そうは言っても、カムイが迷惑してるんだから離してやれ」
「まったくだ。いくらカムイの料理を食べたいからと言って、そのように強請ったら余計に作ろうとはしないだろう」
「「ヤダ!!!!!」」
話を聞いて更に強くしがみつく竜胆と茜ヶ久保を三人はどうにか引き離そうとするも、二人は頑として離れようとはしない。
竜胆もそうだが、生粋のパティシエである茜ヶ久保も料理……………特にスイーツに関しては絶対に譲ることはしない。
そのことを知っている三人はどうしたものかと頭を悩ませるが……………………………やがて溜息を吐きながら顔を見合わせ、『仕方ない』と言わんばかりに頷くとカムイに頼みこんだ。
「………………………なぁ、カムイ。悪いが料理を作ってやってくれねえか? こうなったコイツらは強情だからな」
「其方が不本意なのは分かる。だがそうでもしないとこの二人はいつまでも離さぬぞ?」
「それに、俺たちももう一度カムイの料理を食べてみたいんだ。またあの神の領域にある『美食』を見せてくれ!」
頼みの綱であった三人にも断られ、周りにいる生徒たちは傍観を決め込んでいる。
腰にまとわりつく竜胆と茜ヶ久保の手も緩まることは無い…………………………カムイに残された手段は一つしかなかった。
「……………………………ハァ、わかった」
カムイはやむを得ず料理を作ることを承諾した。これが害意や悪意をもって接してくるようなら、威圧なりノッキングなりで大人しくさせていただろう。
だが節乃から礼儀について厳しく教えられていたカムイは、明確な害意を持たない相手には『力づく』という手段は取らないようにしている。
「っ、そうか、作ってくれるか! ありがとう、それじゃあ「あの~~~」ん? 何だい?」
「すみません、今日は東西における『スープ』や『汁物』についての講義・実習だったはずなんですけど………………………」
カムイが料理を作るということで子供のようにはしゃぎだす司だったが、三人の講義を受けていた生徒の1人がおずおずと手を挙げて尋ねてくる。
本来であれば学園の教師がこの授業を受け持つことになっていたのだが、急な出張が入ってしまったため代わりに司・女木島・斎藤の三人が講義と実習を行うことになっていたのだ。
しかしカムイが料理を作るのなら授業は中止することになるのに、三人は全く気にしていない様子だった。そんな三人を見れば、授業はどうするのかと尋ねるのは当然の反応だろう。
「おっと、そうだったな。でも仕方ないよ、だってカムイが料理を作るんだから授業なんかやっている場合じゃない」
「授業なんかって…………………………」
自分たちが選択した授業を『なんか』呼ばわりされて生徒たちも思わず顔をしかめてしまう。
司は自身の料理の探求のためなら手段を選ばず、時には人を人とも思わない振る舞いをすることがある。
カムイの料理を食べてからというもの、司はすっかりカムイに夢中だった。
可能ならカムイの料理をもっと食べたいと思っていたのだが、本日その願いが叶ったことで司の悪い癖が出てしまったのだ。
「まぁ、お前らの言い分も分かる。だが、カムイの料理を実際に食えるなんて滅多にない機会なんだぜ? むしろ俺たちの授業よりも遥かにお前たちのためになるはずだ」
「授業については後日改めてこちらで時間を取ろう。出張に行っている講師にも拙者たちから伝えておく。だから此度は拙者たちのワガママを聞いてはもらえぬか?」
司の言い方ではトゲがあると感じた女木島と斎藤はやんわりと生徒たちを宥めようとする。
授業とカムイの料理、どちらを選べと言われれば二人も即答でカムイの料理を選ぶだろう……………………だが二人とも司よりは常識的配慮が出来るため、なるべくソフトに伝えた。
二人に説得された生徒たちは『そこまで言うなら』ということで了承するが、本音を言えば自分たちもカムイの料理を食べてみたいという欲求を優先したに他ならない。
幸平と水戸が食戟を行うこととなった経緯については、また別で語る機会を設けたいと思います。
グルメ食材
『七味酒』『王酢』『シチューワイン』『ミルクジラ』『メルクの星屑』『あられこしょう』
オリジナル食材
『サンザシトラス』