ようやく舞台が『遠月リゾート』になります。
そしてカムイにとって運命的というか、驚きの出会いがあります。
「……………………というわけですので、父上。カムイくんは我が『薙切インターナショナル』に迎え入れたいと思います」
「ならん。カムイへ先に声を掛けたのは儂だ。故にカムイは我が『遠月学園』の所属である」
幸平たち1年生が『遠月リゾート』へ宿泊研修に参加している頃、遠月学園にある一室では仙座衛門と宗衛が対峙していた。
二人は実の親子ながらも、決して譲れないものがあるかのように睨み合っている。
「順番は関係ありません。彼の料理によって妻は『薙切』として覚醒してしまいました。今後どのような場であれ、人前で美味なる料理を食べさせることは出来ません。
彼にはその責任を取ってもらうため、『薙切インターナショナル』に在籍してもらいます。
我が『薙切インターナショナル』の持つ『科学の叡智』と彼の持つ『経験と技術』が一つになれば、人類は必ずや新しい『味の世界』へと辿り着けるでしょう」
「ならんと言ったらならん。カムイには【人生のフルコース】を完成させるという目的がある。
だからこそ遠月学園が持つコネクションなどを利用するため、この学園に在籍しているのだ。
難癖にも近い言い分でカムイを拘束することは、遠月グループ総帥であるこの儂が許さん」
「では彼の【人生のフルコース】完成のため、『薙切インターナショナル』も最大限協力しましょう。無論、彼のために研究所にある全施設を開放します。それなら条件は同じでしょう」
「「………………………………………………」」
カムイの作る料理で孫娘や生徒たちのモチベーションを上げ、来たるべき『嵐』を乗り越えようとさせる仙座衛門。
一方の宗衛はカムイの持つ経験と調理技術を科学的に分析することで、『人類の食文化そのもの』をランクアップさせようとしている。
互いに譲れない思惑があるため一歩も退かない二人の間には、火花どころか龍虎が相まみえるがごとく雷雲が巻き起こっていた。
「総帥、ご報告します!」
このまま親子で骨肉の争いをするような空気が漂っていると、仙座衛門のSPの1人が血相を変えて部屋に入ってきた。
「…………………どうした」
「は、はい! 実は彼が……………………カムイが遠月リゾートに、宿泊研修に現れました!」
「「ッッッッッッッッッッッッッッ!?」」
「それで、遠月リゾートより『どのように対応すればいいか』という緊急の問い合わせが来ております!」
SPの報告に驚愕する仙座衛門と宗衛。カムイには授業や行事の参加は自由としている、そのためカムイが宿泊研修が参加していても不思議はない。
本音を言えば仙座衛門もカムイには宿泊研修に参加してほしいと思っていたのだが、しかし無理強いは出来ない。もし学園から完全に去られてしまったら元も子もない。
それゆえに仙座衛門も諦めていたのだが、まさかカムイの方から来てくれるとは思わなかった。
何しろカムイの性格を考えれば、自ら率先して宿泊研修に参加することなどありえないだろう。
「直ちに参加させよ! 儂が許可する!!!」
「はっ!」
「すぐに遠月リゾートへ向かうぞ! 車を用意せい!」
「承知しました!」
理由は定かではないが、千載一遇の好機と捉えた仙座衛門は総帥権限をもってカムイの飛び入り参加を認めた。そして自らもカムイに会うべく遠月リゾートへと向かおうとする。
「父上、私も行きます。この話はカムイくんを交えてジックリと」
「よかろう、ただし無理強いは許さん。あくまで本人の意思を最大限に尊重するのだ」
「心得ております」
カムイの処遇については『本人同席の下』という条件で一時休戦し、仙座衛門と宗衛は宿泊研修の実施場所である『遠月リゾート』へと向かった。
一方その頃、問題の遠月リゾートでは………………………カムイの周りを従業員と生徒の野次馬が取り囲んでいた。
「堂島さん、確認取れました! 総帥より『直ちにカムイを研修に参加させよ』とのことです!」
カムイの対応をしていたのは、遠月リゾートの総料理長兼取締役員であり、宿泊研修の監督役でもある『堂島銀』だった。
カムイが来たことで研修の現場だけではなく、ホテル全体が大混乱。
特にホテル関係者は噂の【神域の料理人】を一目見ようと集まってきて業務がストップする始末……………………そのためこの場のトップである堂島が直々に対応することになったのだ。
「そうか、分かった。ご苦労だったな、キミたちは下がってくれていい。生徒諸君も、研修に戻ってくれ!」
総帥が直々にカムイの研修参加を認めたというのなら、堂島としても異論は無い。
部下には通常業務、生徒たちには研修に戻るように指示を出してカムイに向き合う。
「聞いてのとおり、キミの研修参加が認められた。これよりキミには、あそこにいる教官たちが出す課題をそれぞれクリアしてもらう」
堂島が顔を向けると『神域の料理人』のことを見に来たプロの料理人たちが、ジッとカムイを見つめていた。
珍しいものを見るような目、挑戦的な目、興味津々な目とカムイへ向ける感情は様々である。
「ただ、なにぶん飛び入りでの参加だからな。他の生徒たちのプログラムに追いつくために調整しないといけない。
そうだな………………………乾、水原! 悪いが最初は二人で担当してくれ」
「は~~~い♪」
「わかった」
「それでは、俺はこれで失礼させてもらう。【神域の料理人】と謳われるキミなら問題ないだろうが、健闘を祈る」
堂島は割烹着姿のおっとりした女性と小柄なショートヘアの女性を呼んで試験を任せると、挨拶もそこそこにその場を去っていった。
「それじゃあ、最初は私たちが課題を出しますね。ウフフ♪ 噂の【神域の料理人】が作る料理、凄く楽しみです♪」
「ん。お手並み拝見」
おっとりした口調の『乾日向子』とクールな印象の『水原冬美』、全く正反対の性格の二人だが紛れもなく一流と呼ばれる料理人である。
二人に案内され、カムイは水原が担当していた試験会場の厨房へと向かう。
厨房に着くと水原の試験をパスした生徒たちがおり、肉・魚・野菜・果物などの食材も残っていた。
なお、生徒たちはカムイがいきなり現れたことにギョッとする。
「……………………何を、作ればいいんだ?」
カムイは珍しくやる気だった。それはここに来た理由が、かつてないほどの興味……………………もとい『食運』が働いたからである。
『ここ』には今後の自分に影響を与える何かがあると直感的に悟ったカムイは、その正体を知るべく流れに身を任せることにした。
そのため『料理を作れ』と言われれば作るし、『課題をこなせ』と言われれば、それなりに真剣に取り組むつもりではあった。
「お? やる気十分ですねぇ。じゃあ私は『和食』をお願いします。作る料理は自由♪」
「じゃあ私は『イタリアン』。何を作ってくれてもいい」
「ん。承った」
食材も調理法も指定は無し。ジャンルは『和食』と『イタリアン』というアバウトな課題であったが、カムイは二つ返事で承諾する。
「意外ですね、水原先輩ならもっと難しいお題にするかと思いました」
「乾だってそうでしょう」
「だってぇ、せっかく【神域の料理人】の料理を食べられるんですよ? 変に課題を設けて縛りを入れるなんて、勿体ないじゃないですかぁ」
「ん、それは同感。だから私も作る料理は自由にした」
この合宿に協力しているプロはボランティアで来ている。その理由は優秀な生徒を見極めて、将来的に自分の店へ雇えるようスカウトするためだ。
そのため彼らは試験官である前に各々の店の『オーナーシェフ』として合宿に協力している。
通常の試験であれば他の生徒たちでも十分…………………………しかし相手がカムイなら『純粋な料理人』として実力を見たいと思ったのだ。
乾は和食のプロ、水原はイタリアンのプロとしてカムイの実力には非常に興味があった。
故に各々のジャンルでカムイがどんな料理をどこまで作れるのかを確かめるべく、敢えて難しい制約は設けなかった。
乾と水原、そして周囲の生徒たちが注目する中でカムイは食材を選んでいく。
選んだ食材はトマト・チーズ・里芋・人参・セロリ・ブロッコリーに『ウナギ』。
「どうやらカムイくんは『ウナギ』をメインにするみたいですね」
「ん。でも、食材のチョイスは悪くない」
「そうですねぇ。『ウナギ』は日本はもちろん、イタリアでもよく食べられてますからね♪」
「それにしても、生きたウナギを箸で掴めてるのに驚き」
『ウナギ』は日本・イタリアだけではなく、世界中で食されている食材である。
また、南イタリアでは『ウナギ』は悪魔の化身と信じられており、クリスマスの時期に食べることで『邪気を払う』という習慣がある。
二人の言う通り、カムイは和食・イタリアンともに『ウナギ』をメインに料理するつもりなのだが、先に調理したのはトマト・セロリ・ブロッコリー・人参・里芋などの野菜類からだった。
『活性切り』によって料理ごとに切り方を分けて下ごしらえを行い、続けてウナギを捌く。
当然カムイが食材を素手で触ることは無い。活きのいいウナギであっても、ノッキングをして箸で抑えながら捌いていく………………………しかし、捌いた後の下ごしらえが独特であった。
「どういうことでしょう? せっかくキレイに捌いたウナギなのに、『すりこぎ』ですり身にするなんて」
「それにあのウナギのすり身、『アンギラ種』と『ジャポニカ種』を混ぜてる」
ウナギにも複数の種類があり、日本で主に使われているのは『ジャポニカ種』と言って脂が薄く香りが強い品種。主に養殖されているのも『ジャポニカ種』である。
一方のイタリアをはじめとするヨーロッパでは『アンギラ種』と『カピトーネ種』の二種類があり、一般的には香りが薄く脂が強い『アンギラ種』が使われることが多い。
二人だけではなく周りの生徒もカムイがやっていることを計りかねてザワつくが、カムイは黙々と調理を進めていく。
ウナギのすり身に塩と昆布水を混ぜて軽く練り上げ串打ち、片方は蒸して片方は七輪で白焼きにする。
「へぇ、面白いですね。片方は蒸して仕上げる『関東式』、もう片方は蒸さずに焼き上げる『関西式』に仕上げています」
「ん、それにタレを付けていない。ウナギ自体は淡白な味わいだから、素材の味を生かすつもりみたい」
ウナギは『味が濃厚で重たいモノ』という印象が多いが、ウナギを濃厚で重くしているのは『タレ』の影響が大きい。実際のウナギの身自体は、非常に淡白な味わいなのだ。
周りの奇異な視線に晒されながらも野菜とウナギの下ごしらえが終わり、いよいよ本格的な調理に入る。
焼いたウナギは野菜と一緒に赤ワインとトマトソースを鍋に投入。パルメザンチーズを溶かし込んで、蓋をしたままオーブンで煮込む。
蒸したウナギは各野菜と共に天ぷら粉を付けて、『モルス油』で揚げていく。
「う~~ん♪ この軽やかな油の音、まるでこれから始まる演奏に期待する観客の拍手のようです♪」
「この濃厚で食欲を揺さぶる香り、まるで自分たちが奏でる音楽に引き込もうとする前奏みたい………………………!」
オーブンから漂う香りと軽やかな油の揚げ音が合わさり、厨房にいる全員の鼻と耳を通して食欲を掻き立てる!
厨房にいる全員がカムイの料理に魅了されている中……………………料理が出来上がった。
和食は『ウナギと野菜の天ぷら』に『メルクの星屑』を、イタリアンは『ウナギの煮込み』に『パルメ山椒の実』の粉末を振りかけて完成。
カムイの調理によって天ぷらは光を反射するかのように輝いており、煮込みは蓋を開けた瞬間に食欲へ直撃する香りが部屋全体を満たした!!!
「うわ~~~♪ 上手に揚げましたねぇ、見ただけで最高の天ぷらだということが分かります♪」
「トマトソースの濃厚な香りもさることながら、ウナギのトロけ具合によって見た目でも食欲を刺激してくる」
乾と水原が目の前に料理を輝かせている傍らで、ちゃっかり自分の分を作ったカムイが合掌する。
「この世のすべての食材に、感謝を込めて………………………『いただきます』」
「「っ…………………………いただきます」」
カムイの貞淑なる佇まいと雰囲気に呑まれ、はしゃいでいた乾と水原も佇まいを正して合掌する。
『料理人』としての心構えを再認識させられた二人は、食材への感謝を込めながら、それぞれの料理を口に入れる……………………………瞬間、目の前に豪華な劇場と美しい演奏を奏でる楽団の光景が広がった!!!
「ん~~~~~♪ サクサクとした衣とシットリフワフワなウナギの食感が絶妙ですぅ!
トマトの天ぷらは噛んだ瞬間に甘酸っぱい果汁が弾けますし、ブロッコリーとセロリは高温で揚げたことで爽やかな風味が口の中いっぱいに広がります!
湯葉で包んだモッツァレラチーズも揚げられたことで、中がトロットロになってて堪りません!!
しかも最後に振りかけられた『金のスパイス』によって、ウナギの淡白な味わいの品格がより一層高められています!!!」
「ウナギの脂の甘さとトマトソースの酸味が合わさって、こってりなのにスッキリとしている! それにソースに溶かし込んだパルメザンチーズのコクが混ざり合って、旨味の暴力が舌を叩きつけてくる!!」
瞬時にカムイの料理の虜になった二人はどんどん食べ進めていく……………………………だが、途中で互いの料理の味が気になり食べるのを中断する。
「水原先輩、そっちも食べさせてもらっていいですか?」
「ん。なら、乾の方も食べさせて」
互いの料理を交換し食べ比べると、また違った旨味が衝撃となって脳髄を襲ってくる……………………………しかし二人は食べ比べることで、この料理の『秘密』に気が付いた。
「っ、水原先輩、これってもしかして……………………」
「っ………………………うん、間違いない」
双方の料理を交換して食べた後、二人が突然固まってしまう。さっきまで興奮していた二人の様子がいきなり変わり、生徒の1人が尋ねてくる。
「あ、あの…………………乾シェフ、水原シェフ。ど、どうかされたんですか?」
生徒に声を掛けられた二人は互いに見合って頷くと、生徒たちにカムイの料理を見せてくる。
「………………………カムイくんは、驚くべきことをやってのけたんですよ」
「この二つの料理に使われている『食材』を見比べてみて」
「ふ、二つの料理の、食材……………………ですか?」
二人に言われて、生徒たちはカムイの料理に群がり覗き込む………………………すると、数人の生徒が『あること』に気づいた。
「天ぷらの食材は、『ウナギ』『トマト』『人参』『里芋』『セロリ』『ブロッコリー』に………………………『モッツァレラチーズ』?」
「煮込みの方は同じく『ウナギ』。それに『人参』『里芋』『セロリ』『ブロッコリー』………………………あとトマトソースにパルメザンチーズを溶かし込んでいる」
「っ、これって、もしかして………………………!?」
二つの料理を見比べて食材を列挙していくと、他の生徒たちも気づき始めた。全員が気づいたのを見計らい、乾と水原が二つの料理を詳しく解説する。
「皆さん、気づいたみたいですね。そう、この二つの料理………………………使っている食材は『同じ』なんです」
「もちろん、調味料や食材の品種は異なってはいる。でも、料理を構成している食材の種類は同じ」
「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」
二人に改めて言われて、生徒たちの顔は驚愕に染まる…………………『天ぷら』と『煮込み』、『和食』と『イタリアン』という異なるジャンルの料理を同じ食材を使用し完璧に表現したのだから。
乾と水原の言う通り、カムイは今回の料理を作るにあたって食材の種類を統一したのだ。
例えば『煮込み』に使ったトマトソースはイタリアの『サンマルツァーノ種』であるが、天ぷらの方は日本産の『フルーツトマト』を使い衣を付けて揚げた。
チーズにしても『天ぷら』は『モッツアレラチーズ』を湯葉で包んだモノを使用、『煮込み』は『パルメザンチーズ』の粉を溶かしてソースにコクを与えた。
その他の細かい調味料なども異なっているが、味の決め手となる『主食材』『副食材』は同じ種類を使い、アプローチを変えて二つの料理を完成させたのだ…………………………だがカムイの料理の秘密はこれだけではなかった。
「さらにメインの『ウナギ』ですが………………………これは『ジャポニカ種』と『アンギラ種』の肉をすり身にし、ブレンドして使い分けていますね」
「『天ぷら』の方は香り高い『ジャポニカ種』を、『煮込み』の方は濃厚な肉と脂の旨味が特徴の『アンギラ種』をメインにしたうえで、双方のウナギの良いところのみを取り合わせてる」
「日本の『精進料理』に山芋と豆腐を練り合わせ、油で揚げてタレを漬けて焼いた『ウナギもどき』という料理があります。
しかし彼はウナギのすり身をブレンドして、『ウナギもどき』を作ったのです」
「そうすることで脂と柔らかさを調節し、それぞれの料理に最適なウナギを作った。
しかも身は昆布水と塩の作用でプリプリにし、『天ぷら』は蒸してギリギリまで脂を落としてフワトロに。
『煮込み』は逆に脂の味を強調するべく、蒸さずに分厚く焼いて歯応えを出している」
「「「「…………………………………………」」」」
カムイの料理の全容を聞いて、生徒たちは言葉を失っていた。わざわざウナギをすり身にして料理ごとに適したブレンドをするなど、普通は誰も考えないからだ。
そもそも『ウナギ』は天ぷらにするのに不向きな食材である。それはウナギの持つ大量の脂のせいで、天ぷらにすると衣に脂が滲み出てきてしまうからだ。
しかしカムイはすり身にして蒸すことで効率よく脂を落とし、『天ぷら』にした際の脂の染み出しを防いでいた。
さらに味が濃厚な『アンギラ種』の肉も混ぜることでフワトロ食感だけではなく、肉の旨味そのものを楽しめる『天ぷら』に仕上げたのだ。
一方の『煮込み』に使ったウナギは『アンギラ種』をメインに『ジャポニカ種』を適量混ぜたもの。
一度厚めに焼くことで『アンギラ種』の旨味と『ジャポニカ種』の香りが際立ち、濃厚な脂と香りがタップリと楽しめるウナギとなったのだった。
「日本料理の真髄は『素材の持ち味を引き出す』こと。各素材を天ぷらにすることで、味と香りがそれぞれ引き立ったこの料理は………………………まさに『重唱』、さながら『鰻のアンサンブル』!!!」
「イタリア料理は『食材の旨味を引き出し、それらが渾然一体となった味わい』が心情。
様々な食材の旨味が複雑に混ざり合った深い味わいは……………………まさに『合唱』、まるで『鰻のコーラス』!!!」
『天ぷら』は食材本来の味を楽しみ、『煮込み』は食材の旨味が混ざり合った濃厚な味を楽しむ。
異なるジャンルでありながら共通する要素を見抜き、美味なる逸品を作り上げたカムイの料理に乾と水原は完全にノックアウトされた。
カムイの料理が織りなす一流歌手さながらの感動に満たされた乾と水原は、当然カムイを合格にするが…………………………あまりの美味に腰が砕けていた。
無事に午前の試験を終えたカムイはちゃっかり作っていた自分の分を完食し、次の試験に望むのであった。
乾と水原の試験をパスしたカムイは次の試験会場に移動した。試験官はフランスで『プルスポール賞』を受賞し【野菜料理(レギュム)の魔術師】と呼ばれる新進気鋭、『四宮小次郎』。
「来たか…………………お前の試験を担当する四宮だ。言っておくが、お前が誰であろうと関係ねえ。
日向子と水原はどうだったか知らねえが、俺は俺のやり方でしか判断しねえ。もちろん合格ラインに届かなかったら、問答無用で不合格にするから覚悟しろ」
乾と水原はそれなりに好意的であったが、四宮から向けられるのは『悪意』…………………………とまでは言わないが、決して好意的なものではなかった。
試験を受けるためにいる周りの生徒たちは四宮の気迫に呑まれて震えているが、無論カムイにとっては大した脅威ではない。
『グルメ界』の猛獣を相手取っていたカムイからすれば、どれだけ凶暴で性格が悪くても所詮は『人間』レベルなのだ。
「さっそく試験を始める………………………と言いたいところだが、まずはコレを食ってみろ。わざわざお前のために作った料理だ」
そう言って四宮が差し出したのは『シューファルシ』。フランスはオーベルヌ地方の郷土料理で、所謂『ロールキャベツ』に近い。
ただし四宮は一般的に使われる挽き肉や豚ロースの代わりに、鶏の胸肉にフォアグラやムースなどの詰め物をしてキャベツで包んでいた。
「お前に『本物のプロ』の味を教えてやる。色々と噂にヒレが付いて回っているようだが、お前が所詮『学生レベル』だってことが分かるはずだ」
四宮から漂ってくる絶対的な自信、自らの料理がこれ以上無いほどの美味であることを欠片も疑っていない…………………………しかしカムイは『直観』により四宮の雰囲気から、どこか虚勢のようなものを張っているように思えていた。
普段なら他人の作った料理は味が薄すぎて食べようとしないカムイだったが、『これも試験』と思い一口だけ食べることにする。
スッ、パク…………………………。
「どうだ? 少しは世界の広さが分かったか「可哀想に」……………………………あ?」
「…………………………食材が、泣いている」
自分の料理を食べて『美味い』と言われると思っていた四宮……………………事実、四宮の料理は一般的な家庭料理に過ぎない料理を高級料理店クラスにまで高められた一品だった。
しかし、カムイから発せられた言葉に目を細める。ただならぬ空気を察した生徒たちは今すぐにでも部屋から出ていきたかった。
「…………………………どういう意味だ」
四宮は努めて冷静であろうとするが、その声は怒りで震えていた。もし田所がここにいたら、泣き出して自分が悪くないのに何度も謝っていたであろう。
もちろん四宮の怒りなどに臆することの無いカムイは、全く物怖じせずに答える。
「『こんな料理』に使われて、食材が泣いている。『手抜き料理』に利用された食材たちが、可哀想だ」
カムイの率直な感想に、四宮の怒りのボルテージは臨界点を超えた……………………………………。
試験なので『グルメ食材』は極力使わないようにしたいと思います。
だけど全く使わないというのも寂しいので、メインではなく副食材や調味料ぐらいならアリにしたいな、とは思います。
それでは皆さん、次回で♪
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