神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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今作を書いていて、料理の美味しさを『文字だけ』で表現するってメチャクチャ難しい!!! と実感しております。

ちゃんと読者の皆さんに伝わっていればいいのですが………………。




第十四皿

 

 

 

「テメエ………………………もういっぺん言ってみろ………………………!」

 

 

 

 

 カムイの言葉で完全にキレた四宮は、カムイを射殺さんばかりに睨みつける。その迫力に周りの生徒たちまで震え出した。

 また、これから受ける自分たちの試験がより過酷なことになると確信し『余計なことを!』とカムイへ恨みの視線を飛ばす。

 

 

「『食材』は、どれもが黄金にも勝る輝きを、放てる可能性を持っている。

 それなのに、『手抜き料理』に使われたせいで、もう元の姿に戻ることは、出来ない…………………アンタのやったことは、料理人として、『犯罪的行為』だ」

 

 しかし、かつては世界の危機にすら直面したことのあるカムイからすれば、当然この程度の睨みつけで動揺するようなことはない。

 

 それどころかカムイを睨みつけていた生徒たちは、食の激戦区であるパリで活躍している四宮の料理を真正面から、『犯罪的行為』とまで言える精神力に尊敬の念すら覚えた。

 

 

「上等だテメエ…………………そこまで言うなら、当然覚悟は出来てるんだろうな…………………!」

 

「覚悟?」

 

「ああ…………………お前も一品作ってみろ。課題は『野菜がメイン』であること、ジャンルは問わねえ。

 俺が作った皿より美味ければそのまま合格だ。だがもし俺よりも劣る品を出したら……………………」

 

「出したら?」

 

 

 

「…………………………この場で料理人であることを止めろ、二度と料理を作るんじゃねえ……………………!」

 

 

「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!」」」」」

 

 

 静観することしか出来ない生徒たちが、今度は四宮の言葉に息を呑む。

 

『その一皿は国すら動かす』とまで言われる【神域の料理人】に向かって、『料理人を止めろ』と言い放ったのだ……………………………まさに神をも恐れぬ行為、傍若無人の化身ここにあり。

 

 

「なんだ、そんなことか…………………別に構わない」

 

「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 四宮の挑発を何食わぬ態度で承諾したカムイに、またしても生徒たちは言葉を失う!

 

 料理人として生ける伝説とさえ呼べる存在が、簡単に料理人であることを止めると言ったのだ。周りの生徒たちは、もはや二人の会話が異次元過ぎて全く付いていけていなかった。

 

 

「ほう、迷わず即答か。その度胸だけは認めてやる。だが、その余裕は『俺なんかの品に負けることはねえ』っていう自信の現れか?

 それともお前にとって『料理』ってのは、そんな簡単に捨てられる程度のモノなのか?」

 

「どちらでもない。ただ……………………………」

 

「ただ?」

 

「俺の目的は、【人生のフルコース】を完成させること。だから料理は、必ず自分の全てを使って、食材が最高の輝きを放てるよう、『最高の形』にしている…………………………それが【人生のフルコース】を完成させる、唯一の方法」

 

「……………………………………………」

 

「だから食材たちを、『手抜き料理』に劣るような形にしか出来ないのなら………………………俺に生きている価値は無い。

 『命』の糧となってくれる食材を、裏切るくらいなら、死んだ方がマシだ」

 

「っ……………………………………!」

 

 

 カムイの気迫と言葉に生徒たちだけではなく、四宮までもが呑み込まれていた。

 

 カムイは特に威圧したわけではない、しかしカムイの料理人としての『姿勢』と『覚悟』…………………………そして食材に対する溢れんばかりの『感謝』の念に圧倒されてしまったのだ。

 

 そして食材を選ぶべく四宮に背を向けると、最後に一言だけ告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【料理人】として生きると決めた日から、【人生のフルコース】を完成させると誓った瞬間から…………………………『命』はとうに懸けている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう告げたカムイは食材を選んでいき、静かに下ごしらえを開始する。大して大きな声を出したわけでもないのに、この場にいる全員が何も言えないでいた。

 

 

 部屋には静寂が流れていた…………………………耳が痛くなるくらいの静寂が部屋を支配し、カムイの作業音だけが小さく響く。

 

 その静寂の中で生徒たちは、カムイが自分達とは根本的に違う生物なのだと認識した……………………………………そして生徒たちはカムイをバカにするかのように笑い出す。

 

 

「何だ、アイツ。『たかが料理』に何でそこまで必死になってんだ?」

「うん、『たかが料理』でしょ? なのに『命』まで懸けるだなんて大袈裟すぎない?」

「まったくだ、他にいくらでも生き方はあるだろうに。『たかが料理』に何をそんなに一生懸命になっているんだか」

「ホント、何か私たちと感覚が違うよね~~~。常識が無いっていうか」

 

 

 1人が言い始めるとカムイを揶揄する声がどんどんと伝播していき、最初は黙っていた生徒も『群集心理』に影響されていく。

 『料理人』としては劣っていても、『人間』としては勝っている………………………そんなちっぽけなプライドを守らんがための醜い光景だった。

 

 だが、そんな見るに堪えない光景であっても、たた一人…………………………四宮だけはカムイを笑わなかった。

 

 

(アイツの目……………………【本気】だった。アイツは【本気】で自分の命を、自分の人生を懸けて料理を作っている)

 

 カムイの目と雰囲気から、四宮は『正真正銘、カムイは【人生のフルコース】を完成させることに命を懸けている』と悟った。

 

 そして食材を、『命』を使う以上は『手抜きは許されない』『どんな時でも全身全霊を懸ける』。

 それこそが、【人生のフルコース】に至るための唯一の方法だと本気で信じているのだと。

 

 

(『自信』や『誇り』なんていうチャチな話じゃなかった…………………『覚悟』の問題だった。

 そして『覚悟』が足りなかったのは………………………俺の方だった)

 

 料理人としての実績を出してきた四宮、若くして一流の仲間入りを果たしたことで『自信』を持つのは当然のことである。

 そのため、自分の磨き上げてきた才能と技術を駆使した料理に『誇り』を持つのも無理はない。

 

 だが、もっと根本的な……………………………『覚悟』が足りなかったのだ。

 

 『この道でしか自分は生きられない』『料理人で無くなったら自分は死ぬのだ』という危機感にも近い『覚悟』。

 嵐が吹き荒れるどこまでも果ての無い荒野を、一生涯歩き続けていくという『覚悟』が無かった。

 

 そしてカムイは理解していた。嵐に呑まれず、【人生のフルコース】を完成させるためには…………………………飽くなき食材への『感謝』と、どんな料理でも全身全霊を尽くすという『覚悟』に他ならないということを!

 

 

(それを考えた場合、俺が作ったのは『カムイを試すためだけの料理』だった。

 決して自分の全てをあの皿に乗せたわけじゃない……………………………なるほど、確かに『手抜き料理』と呼ばれても仕方ねえな。そんな料理に使われたんじゃあ、食材だって浮かばれねえ)

 

 気づくと四宮からカムイへの怒りは無くなっていた。それどころか、自分が見失っていたものを思い出させてくれたことへの感謝と、自分よりも料理人としての高みに至っているであろうカムイに敬意の眼差しを向けている。

 

 

 

(それにしても…………………ウゼエなコイツら。『たかが料理』だと? だからテメエらは素人なんだ。

 いっそのこと全員叩き出すか……………………いや、コイツらは後回しだ。今はカムイの調理に集中するべきだ)

 

 いや、怒りが無くなったのではない。カムイへ向けられていた怒りは周りの生徒たちに転化されていたのだ。

 自分の持つ小さな自尊心を守るために、料理を『たかが』呼ばわりするなど『料理人』としてあってはならないことである。

 

 聞くに堪えない雑言に耳が腐りそうになるのを我慢し、それでも四宮はカムイから一瞬も目を離さなかった。

 カムイの調理姿を目に焼き付けるべく、意識を切り替えてカムイの調理する音や挙動のみに集中する。

 

 周りに何を言われようが、四宮に凝視されようが一切気にしないカムイは着々と調理を進め、下ごしらえが完了した。

 

 

(人参・芽キャベツ・ごぼう・セロリ・紫タマネギ…………………その他香味野菜に岩塩を溶かした塩水を塗る。

 そして冷風と温風を交互に当てて、食材の温度を均一に保ちつつ乾燥させているな。

 なるほど、『干し野菜』にするつもりか。温度を均一にすることで旨味成分が気化することなく、余分な水分だけを飛ばして旨味を凝縮させているわけか。

 となるとあの野菜はスープ、『フォン・ド・レギューム』にするつもりだな。食材への労わり方も見事だが、何より『確信』に満ちた動き。一切の無駄が無え)

 

 

 【フォン・ド・レギューム】。『フォンドヴォー』のようにフランス料理における出汁の一種で、その名の通り肉や魚からではなく野菜で取った出汁である。

 

 普通に食べるならば、新鮮な野菜を使った方が良いだろう。しかし出汁を取るのであれば、干した野菜の方が青臭さも無くすっきりとした味の出汁が取れる。

 

 そのためカムイは、野菜に刷毛で塩水を塗り乾燥させ、水分を飛ばしているのだ。

 

 また、塩ではなく塩水にしているのは、塩水の方が食材の中まで染み込むためであることと、塩だと塩味が強く表に出てしまうからである。

 

 

 無駄のない動きで下ごしらえした野菜で出汁を取り、旨味を出し切った野菜を取り出す。

 そして抜け殻となった野菜をフードプロセッサーでペースト状にし裏ごし。固めてパテにしたらトマトソースとチーズを乗せてオーブンで焼く。

 

 食欲をそそる香りがオーブンから漂ってくると………………………カムイは驚くべき行動に出た!

 

 

バクッ! ムシャムシャムシャ………………………

 

 

「な、なんだアイツ!? ピザ風に作った野菜のパテを自分で食ってやがる!?」

「四宮シェフに出す料理を作ってるんじゃないの!? 意味わかんないんだけど!」

「やっぱりアイツ、どっか頭がおかしいんだよ」

 

 

(アホか、コイツら? ありゃあ単に使い終わった食材を調理して、ゴミ箱の代わりに『自分の胃袋へ捨てている』だけだ。

 その証拠に、俺へ出す料理は並行して調理を進めているしな)

 

 カムイの奇天烈な行動に戸惑う生徒たちだったが、四宮だけはカムイの行動の意図を理解していた。

 

 四宮の言う通り、カムイは使い終わって捨てるだけの食材の残骸を、最後まで美味しく食べられるよう調理して自分で食べているのだ。これも食材への感謝と飢えに苦しんだ経験ゆえの行動だろう。

 

 

(カブを【フォン・ド・レギューム】に豆乳を加えたスープで蒸し煮にし、しばらくしたら取り出して冷やす。

 そして冷やしたらまた蒸し煮にする、を繰り返している…………………カブの隅々までスープの味を染み込ませるつもりか。

 それにしてもさっきから見ているが、食材への労わり方が半端じゃないな。一つ一つの所作から食材への『感謝』が見て取れる。

 あれだけ愛情持って食材と向き合っていれば、俺の料理を見て『勿体ない』と言うのも納得だ)

 

 死ぬほどの飢餓に苦しみ、その果てに妹まで失った……………………そんな過去を持つカムイは調理する際、食材は全て使い切り一切の無駄を出さないことを信条としている。

 

 肉の端切れ・野菜のクズ・魚のアラはもちろんのこと、『アナザ』によって『味覚が開花』しているため、通常は食用に適さない部分ですら調理して食すようにしている。

 だからカムイが料理を作る際は、『生ゴミ』というものはほとんど出ない。

 

(ふっ、久しぶりに見たな。俺と同じで、『自分には料理人しか生きる道は無い』っていう、どうしようもないほどの…………………………生粋の『料理バカ』を♪)

 

 調理を進めるカムイを見て『料理人としてあるべき姿』と自分に似たものを感じた四宮は、試験のことなど忘れて今や純粋にカムイの作る料理が楽しみになっていた。

 

 

 

 

「………………………出来たぞ」

 

 四宮と生徒たちが見ている中、調理が終わったカムイが料理を運んできた。

 その料理からは芳醇でありながら優しい香りが立ち上っていて、先ほどまでカムイを嘲笑していた生徒も思わず生唾を吞んでいる。

 

 

「これは………………………『カブの蒸し煮』か。真ん中で割って、何か詰めているな。

 それにしてもこの香りと料理が放つ輝き……………………まるで調理された食材が喜んではしゃいでいるようだ」

 

 『活性切り』によって旨味が最大限に増幅し、かつ愛情と感謝に満ちた調理によって食材は感極まり、旨味が可視化されるほどに輝いていた。

 

「こんなの食べるまでもねえ、合格だ」

 

 カムイの料理を見て、四宮は『間違いなく自分の皿よりも上』ということを舌で味わうことなく頭で理解した。

 しかし周りの生徒たちは、食べることなく合格にした四宮に反対する。

 

 

「そ、そんな、四宮シェフ! いくら何でもそれはおかしいですよ!」

 

「あん? どう見ても俺の料理より美味いだろ。なら、合格じゃねえか」

 

「で、でも、何かミスをしているとか…………………!」

 

「お前、アホか? この料理を見てミスがあると本気で思ってんのか?」

 

「だ、だからって、食べもせずに『合格』だなんて…………………………」

 

「お前ら、カムイの何を見てたんだ。あれだけ食材への感謝と愛情を注ぎ、かつ無駄のない手練で完璧に調理された料理がマズイわけねえだろ。

 もしこれでマズかったら、俺が料理人を廃業してもいいくらいだ」

 

「「「「「……………………………………」」」」」

 

 いくら言っても合格を取り下げない四宮に、周りの生徒はとうとう何も言えなくなってしまう。

 色々と言ってはみたものの、目の前の料理が『絶品』だということを自分たちの頭でも食べるまでも無く理解しているのだ。

 

 生徒たちがシンと静まり返る中……………………………カムイが四宮に向けて皿を差し出してくる。

 

 

「冷める、早く食べろ」

 

「ん? 聞いてなったのか、『合格』だと「そんなこと、どうでもいい」っ……………………」

 

「コレは、アンタが『食べる』と言ったから作った料理。なら食べないといけない。生きるためでもあるし、食材の…………………『命』に対する礼儀でもある」

 

「……………………そうだったな、俺が言い出したことだもんな。OK、ありがたくいただくぜ」

 

 カムイの真剣な眼差しとひたむきなまでの食材への『感謝』に気圧され、四宮はフォークとナイフを用意し料理に向き合う。

 

(久しく感じていなかったな。目の前の料理の味にワクワクするなんて…………………………)

 

 カムイの料理を見て、四宮は料理を学び始めた時に感じた『美味なる料理』への期待と高揚感を思い出す。

 そしてその傍らで……………………やはり自分の分も用意していたカムイが合掌する。

 

 

「この世のすべての食材に、感謝を込めて……………………『いただきます』」

 

 

「っ、いただきます」

 

 カムイの美しい所作に引っ張られ、四宮も合掌と一礼をして料理を食べる。ナイフとフォークでカブのサクリという適度な固さと柔らかさを堪能し、口へと運ぶ。

 

 

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 目の前に広がったのは……………………………………荘厳なる大地と山々の情景であった!!!

 

 

(な、なんて美味さだ! カブ特有の爽やかな風味、サクッとした食感、言葉にならねえ!!

 それにカブの甘さとほろ苦さが干し野菜の甘さと渋みに絡み合い、豆乳のあっさりとしたコクが加わって山々の壮大さを感じさせる!!!)

 

 一口食べた瞬間に舌の上に広がる情景は、まさに大自然そのもの!! カムイの料理はその恵みを結実したかのように深く、広く、そして大きなスケールを感じさせていた!!!

 

 

(干し野菜と豆乳の旨味を全て吸収したカブの美味さもそうだが、何よりも目を見張るのはこの間に挟んでいる『ペースト』だ!

 マッシュルームをオリーブオイルで炒め、ペーストにしたものを裏ごししたようだが、それだけでこんなコクは出ない! これは、この味は……………………………)

 

 無言で食べ進めていく中でも、四宮は必死にカムイの料理を分析する。

 何度も咀嚼し、己の中の知識と経験と照らし合わせていく…………………………そして、四宮の鋭敏なセンサーがこの料理の味の『決め手』を掴んだ!

 

 

「っ、そうか! これは、『クルミ』! 『鬼グルミ』を擦ったモノをマッシュルームのペーストと合わせたんだ!!!」

 

「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 四宮の解説を聞いて周りの生徒たちは再び驚愕する。『鬼グルミ』は実がギッシリ詰まっているため、通常のクルミ割りでは割ることが出来ない。

 そのためハンマーで叩いて中身を取り出すのだが、生徒たちはカムイがハンマーでクルミを割っているところなど見てはいなかった。

 

 もちろんカムイはハンマーでクルミを叩くようなことはしていない。

 『食材の声』を聞き、調理によって食材に好かれるカムイは『クルミの目』とも呼べるポイントに包丁を入れて、クルミを割らずに切り開いたのだ。

 

 そうして一度取り出したクルミの実を、低温の『モルス油』で軽く揚げて細胞を開かせ香りを立てる。

 その後クルミの実を殻と一緒に『金のすり金』で擦り下ろし、マッシュルームのペーストに合わせて裏ごししたのだ。

 

 

(カブは大根と違って、どうしても土臭い匂いが残っている。それに対応するため脂や乳製品、または発酵食品と合わせるのが通常なんだが、カムイは『クルミ』と『豆乳』の脂肪分を使ったのか!

 それにマッシュルームもクリームシチューなどで知られるように、脂や乳製品と合わせることで味と香りが引き立つ!!)

 

 『カブ』と『マッシュルーム』の共通項を見抜き、双方が合わさることで相乗効果を発揮するよう働きかけた結果、カムイの料理は玄妙極まりないコクを生み出していた!!!

 

 

(肉も魚も一切使わず、使ったのは野菜…………………いや、『植物』のみ。全て土より生まれ出たもの!

 その結果、これ以上ないほどの味と風味の相乗効果と一体感を実現している!!!)

 

 カムイの料理は風味の取り合わせだけではなく、『カブの甘さ』『干し野菜の甘さ』『クルミの甘さ』によって系統の違う甘さが食す者の満足感を最高に高めている!!!

 

 しかし四宮はカムイの料理が漂わせる風味に、幼い日の記憶が呼び起こされていた。

 

 

 

(ああ………………………思い出す。土に塗れて過ごした、子どもの頃を…………………………)

 

 

 今でこそスターシェフとしての地位を確立した四宮だが、彼は田舎の農村の出身で幼い頃は土で汚れながら山や川で遊んでいた。

 

 ある日、小学校の入学祝いで食べたフランス料理店の味を『美味しい』と母が喜ぶのを見て、『いつか自分が最高のフランス料理を食べさせて喜ばせよう』と決意。

 それから遠月学園に入学し、フランス料理人としての道を歩み出した。

 

 しかし四宮は日々の喧騒の中で、いつしか『己の行く道』を見失い当初の想いすらも忘れてしまっていた。

 だが、カムイの料理から伝わる『大地の風味』によって幼き日の自分、自分の『原典』を思い出し…………………………一筋の涙が流れた。

 

 

 

 

「ムッシュ・カムイ、見事な品だった……………………そして」

 

「?」

 

スッ「…………………すまなかった」

 

 

「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」」

 

 

 四宮がカムイに向かって謝罪、しかも頭を下げてまで謝ったことに生徒たちは今日一番の驚きを見せる!

 

 食の最前線で戦う一流のプロ。その中でもとびきりで気難しくプライドの高い四宮が、一学生に自ら頭を下げて謝罪したのだ。

 生徒たちが目の前の光景に信じられないほど驚くのも、無理はないだろう。

 

 

「お前の言った通り、俺が作ったのは単なる『手抜き料理』だった。お前ほどの料理人に粗末な皿を出したことを謝罪する」

 

「俺のことはいい。でも食材が可哀想だ」

 

「っ……………………ああ、そうだな。料理人として、二度とこんなマネはしないと誓おう」

 

「ん、ならいい」

 

(料理人人生が終わるかもしれなかったってのに……………………最後の最後まで自分のことより食材を気に掛ける、か。

 『命を懸けている』というコイツの言葉に、嘘は無かった…………………………認めよう、カムイ。お前は紛れもなく『最高の料理人』、【神域の料理人】と呼ばれるに相応しい男だ!)

 

 

 カムイの料理と生き様から、【人生のフルコース】を完成させるべく己の全てを懸けていることを知った四宮。

 

 料理人として純粋でひたむきな生き方に感動し、目の前にいる男は単なる学生ではなく、自分が尊敬すべき『料理人』であるということを認めた。

 

「さっきも言ったが、カムイは文句なしに合格。次の会場に行ってくれ」

 

「ん」

 

 色々と悶着はあったが、四宮の試験を無事にクリアしたカムイは次の試験会場へと向かっていった。

 そうして『満たされた』四宮がカムイの背中を見送っていると、周りの生徒たちがおずおずと尋ねてくる。

 

「あ、あの~~~、四宮シェフ? 俺たちの試験は?」

 

「っ…………………………ああ、そうだったな。じゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カムイよりも美味い料理を作れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒の質問に四宮はあっけらかんと答える。周りの生徒たちも、一瞬何を言われたのか分からなくなり思わず聞き返してしまう。

 

 

「おっと、さすがに『カムイの料理より』は無理過ぎるか。それじゃあ俺が作った『シューファルシより』でいいぞ。

 何せ『手抜き料理』だからな、イケるだろ? ああ、言っておくが………………………見ただけで明らかに劣っていると分かる品は試食すらしないからな。その場合はキッチリ自分で食べるんだぞ」

 

「し、四宮シェフ! さ、さすがにそれは無理ですよ!」

「そうです、いくら何でも不可能です!」

「そんな課題、どう考えても不合格に決まってるじゃないですか!?」

 

 

 四宮からの無理難題どころか、明らかに達成不可能な課題に生徒たちは騒ぎ出す。

 カムイや四宮から見れば『手抜き料理』でも、生徒から見れば一流店で出されてもおかしくないクオリティーなのだから当然だ。

 

 だが一方の四宮は、いくら生徒たちが騒いでも飄々とした……………………明らかに見下した態度で答える。

 

 

「カムイは簡単にパスしたぞ、それなのにお前たちへ同じ課題を出さなかったら不公平だろ。出来なければ、お前ら全員『不合格』だ。荷物をまとめてとっとと帰れ」

 

「そ、そんな…………………………おかしいですよ! こんな理不尽な課題で退学させられるなんて「別にいいだろ」…………………………え?」

 

 あまりにも理不尽極まりない課題。それこそ『四宮の料理をルセット無しでコピーしろ』と言われた方がまだマシに思える。

 そんな状況に生徒たちは何度も食い下がるが、四宮は一切取り合わない。

 

 それどころかその目には……………………………激しい怒りが込められていた。

 

 

「別に退学したからって死ぬわけじゃない。カムイは『命』、自分の『人生』すら懸けていた。

 それに比べたら安いもんだ、退学になっても別の道へ進めばいいだけだしな。何せ……………………『たかが料理』なんだから」

 

「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」」

 

 淡々と告げられる実質的な『退学通知』に生徒たちは恐怖した。四宮から発せられる怒りに呑み込まれ、何も言えなくなっていたのだ。

 

 

『たかが料理』…………………………確かにそう言えばそうなのだろう。

 

 だが、その『たかが料理』を食べなければ満足に生きることすら出来ない【人間】は『たかが』何なのだろうか?

 

 その『たかが料理』のために人は理性を捨て、他者を平気で『奪い』『傷つけ』『殺す』。それどころか、時には戦争にまで発展するのだ。

 

 それだけではない。『美味い料理』を食べれば誰もがその瞬間だけは『幸福』を感じることが出来る。

 無論、『幸福』とは人それぞれ形が違うもので、100人いれば100通りの『幸福』があるだろう。

 

 しかしどんな人間でも『美味なる料理』を食べた時だけは、大小の違いはあれど等しく『幸福』を感じる。

 『美味なる料理』は年齢・性別はおろか、国・民族・人種・宗教・思想の違いを超えて万民を幸せにする『力』があるのだ。

 

 『食』が無ければ人は簡単に理性を手放す、『食』が満たされれば『人』は『人』らしく生きられる…………………………そんな代物をどうして『たかが』と言えようか。

 

 そしてそんな『たかが料理』のために人生を費やす者たちがいる、四宮もその1人だ。だがこれは何も『料理』に限った話ではない。

 

 

 『たかが走るのが速い』だけでオリンピックや世界陸上という世界の舞台で活躍することが出来る。

 『たかが足でボールを蹴るのが上手い』だけでワールドカップでスターになれる。

 『たかが車の運転が上手い』だけでF1ドライバーとなり巨万の富と名声が手に入る。

 『たかが絵を描くのが上手い』だけで見たことの無い値がつく代物を作れ、『たかが音楽を作るのが上手い』だけで歴史に名を残すことが出来る。

 

 一流やプロと呼ばれる人間は、皆等しく『たかが』と呼ばれるものを極めた存在なのだ。

 

 そしてそれこそが、その道を生きる者の『誇り』であり…………………………それを理解できない者は『たかが』と蔑む。

 

 

「理解したか。お前らは【料理】を『たかが』と言い捨てたんだ、そんなお前らはもう『料理人』じゃねえ…………………………今すぐ遠月から消え失せろ!!!」

 

 四宮はそう言うと彼らを一瞥することなく厨房から出ていき、後には『料理人失格』の烙印を押された多くの生徒たちが残された。

 

 あれほどの料理を食べた後に学生レベルの料理など喉を通るはずもなく、またこれ以上彼らと関わって美味なる余韻を壊したくなかったのだろう。

 

 

 

 こうして今回の四宮の試験を合格したのはカムイだけとなった………………………………しかし、退学となった生徒たちは四宮を恨むのではなく、何故かカムイへと怒りを向けるのだった。

 

 

 






カムイの料理のせいで、四宮が原作よりも丸くなってしまいました。

ただ、田所&幸平との食戟は重要なシーンですので、原作通り行います。

【グルメ食材】
モルス油

それでは皆さん、次回で♪
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