神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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四月になって、ようやく春らしい暖かさとなってきました。そして………………………………花粉の脅威が迫ってきております。

そのため買い物は仕事帰りに済ませ、休日は外に出ることが出来ません。




第十五皿

 

 

 

「……………………なるほど、事情は分かった」

 

「堂島さん。試験の内容は俺に一任されているはず、そうだろ?」

 

 

 

 現在、堂島の執務室では四宮・乾・幸平・田所の四人が集められており、剣呑な雰囲気が漂っていた。

 

 理由はカムイの試験が終わった後、四宮は別グループの試験を行なったのだが、そのグループには田所と幸平が参加していた。

 

 そして田所は、四宮の課題の料理で使う食材が劣化していたため手を加えたのだ。

 そのせいで田所は不合格となり、四宮の判定に不服な幸平が『食戟に勝ったら取り消せ』と四宮に勝負を挑んだ。

 

 そしてその時、たまたま近くにいた堂島と乾が騒ぎを聞きつけ、関係者から詳しい話を聞くべくこうして集まったという流れだ……………………つまり、乾は完全な野次馬である。

 

 なお、カムイ以外を不合格にした試験については、生徒が『料理そのもの』を軽んじる発言と態度を取ったということで、堂島も納得している模様。

 

 

「もちろん、お前が出した課題と判定基準に文句は無い。だが少なくとも彼女は状況に対処しようとしたのだろう? そのガッツには一考の余地があるとは思わないか?」

 

「そうですよ四宮先輩、現にこうして美味しく出来上がってるじゃないですか「そういう問題じゃねえよ」 え?」

 

 堂島は田所のガッツを、乾は(個人的感情も含むが)田所の料理を評価し擁護する。しかし四宮は頑として首を横に振り、判定を覆すことはしなかった。

 

 

「確かにコイツは、酸化したカリフラワーをそのまま使うようなことはせず、状況に対応しようとした。それについては認めてもいい、出来上がった料理もそれなりのものだったしな」

 

「む~~~~、だったら何でですかぁ?」

 

「……………………本当に分からないか、日向子」

 

「え?」

 

 雰囲気から四宮が決して田所のことを気に入らなくて不合格にしたわけではないことを悟った乾は、逆に四宮から尋ねられて戸惑ってしまう。

 

 個人的感情が先行し、『プロの料理人』としての判断が出来ていない乾を見て四宮は軽く溜息を吐いた。

 

 

「ハァ、まったく……………………この合宿では俺たち試験官は『オーナーシェフ』、コイツらは『スタッフ』という立ち位置だ。これはいいか?」

 

「? はい、それがどうかしたんですか?」

 

「……………………オーナーシェフが決めた【店の味】を、スタッフが『勝手に』変えるなんて許されると思うか?」

 

「ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」

 

「日向子。もし田所がお前の店で働いていて、今回のように仕方ないとは言え、何の相談も無く勝手に味を変えたとする。それでもお前は今と同じことが言えるのか?」

 

「っ、そ、それは…………………………」

 

 話を聞いて堂島と乾、そして幸平はようやく四宮が何を言いたいのかを理解した。

 しかし客を相手取っての現場経験に乏しい田所だけは理解できておらず、四宮がさらに詳しく説明する。

 

 

「田所恵」

 

「っ、は、はい!」

 

「お前は酸化したカリフラワーの味を補うため、ワインビネガーを使うことを閃いた……………………なら何故、まずは俺に相談をしなかった」

 

「え?」

 

「確かに俺はわざと劣化した食材を混ぜていた、仕入れた食材の中に品質の悪いモノが混ざるのは実際にあることだからな。

 劣化しやすい食材を手早く扱えないノロマや、酸化した食材をそのまま使うようなグズを落とすために敢えてそうした」

 

「うわぁ、陰湿なやり方ですね「黙ってろ」あがががががががががががが!!!!!」

 

 大事な話の途中で茶々を入れてくる乾にアイアンクローをお見舞いしつつ、四宮はさらに話を続ける。

 

 

「だがお前のように、悪くなった食材の不利を補う工夫をするヤツがいれば認めても良かった……………………俺に確認を取った上でならな」

 

「っっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」

 

「俺に確認を取った上で手を加えるならともかく、お前は何の確認もせず勝手に調理をした。あの場では時間が押していて詳しくは言えなかったが、これがお前が『不合格』の理由だ」

 

「…………………………………………………」

 

 四宮の話を聞いて、田所も自分がどうして不合格になったのかをようやく理解した。

 悔しさのあまり涙を流すが、それでも料理人として納得するしかなかった。

 

 

 客は『店の味』を食べに来ているのだ、そして『店の味』はオーナーやオーナーシェフが決める。

 今回田所がやったことはどのような理由であれ『店の味』を勝手に変える行為、『仕方ない』では許されないことなのだ。

 

 社会人の基本である『報告』『連絡』『相談』を怠れば罰せられる、場合によっては会社は倒産することさえあり得る。

 それを料理人である前に社会人である三人は嫌と言うほど理解している。

 

 だから田所に『不合格』という罰を与えることは、仕方ないことだと認めざるを得ないのだ。

 

 

「っ………………………確かに、先輩の言ってることはもっともだと思います。俺だって『ゆきひら』で出す料理の味を勝手に変えるようなことはしません。

 でもだからって、『クビ』はあんまりじゃないですか? 先輩の言う田所のミスってそこまで重大な過失なんですかね」

 

 部屋にいる全員が四宮の理由に納得しかけていると、幸平が割って入る。たった一つの小さなミスで、田所が問答無用で『不合格』になるのは重すぎると反対した。

 

 

「田所が四宮先輩に確認せず調理工程を変えたことは認めます、それは間違いなく田所のミスです。

 でもだからって、『クビ』にするほどのことではないんじゃないですか? ちゃんとした理由あっての措置だったんですし、注意を促すだけで十分じゃないんですかね」

 

「……………………………確かに、『結果』だけで言えばそうかもしれないな。だがな幸平、それはあくまで『結果論』に過ぎない。今回は『たまたま』料理そのものに問題は無かっただけなんだよ」

 

「? どういう意味ですか?」

 

 幸平が尋ねると、四宮自身も『不合格』は些か重い処分であったことは自覚しているようだった。

 この反応には幸平も意外に思うが、それでも四宮の言葉から田所の料理そのものを問題視しているわけではないことを悟った。

 

 

「俺たちは料理人、つまり『人の口に入るものを作る』のが仕事だ。一歩間違えれば取り返しのつかない事態になることだってある。

 だからどんな小さなことでも『ミス』は許されない。ましてや俺はオーナーシェフ、現場の責任者でもある…………………………そんな俺はプロとして、田所の『ミス』を許すわけにはいかないんだよ」

 

「っ、そ、それは……………………………!」

 

「それがプロの料理人としての『誇り』であり、『矜持』でもある。気持ちは分かるが、今回は『たまたま』良い方に流れただけだってことを忘れるな」

 

「………………………………………………」

 

 四宮の言う通り、人の口……つまりは体内に入って吸収されるものを提供する以上『ミス』は許されない。

 

 『異物混入』『アレルギー成分の混入』など、どれも一歩間違えれば『命』に関わってくる。

 そのような取り返しのつかない事態になった場合、『間違いでした』『忘れていました』では済まされない。

 

 

 今回で言えば、四宮の課題料理【九種の野菜のテリーヌ】は実際に四宮の店で出されている料理でもある。

 当然、四宮だけではなく、ホールを含めた全スタッフも調理法や味の特徴を熟知している。

 

 そしてスタッフからこの料理の説明を受けて、客が注文したとする……………………………しかし、その客がもし『ブドウアレルギー』を持っていたら?

 そんな客へ出す料理を、今回のように田所が『ワインビネガー』を勝手に使って調理法を変えてしまったら?

 

 一流店なら客が『アレルギー』などで食べられないものがあるかどうかは事前に必ず確認をしている。

 

 だからこそ安心して食べられる料理を薦めたというのに………………………スタッフもまさか、料理にいきなり『ワインビネガー』が使われていることなんて夢にも思わないだろう。

 

 そんな『たまたま』が悪い方向へと積み重なった結果、『アレルギー成分が混ざった料理』を客が口にしたら…………………………………………文字通り、客の『命』に関わる。

 

 だがもし田所が、事前に四宮に相談をしていたらどうなるか。四宮は間違いなく客にも確認を取るだろう。

 どんな些細なことであれ、予定していた料理と違う調理法で料理を仕上げるのだから当然の対応である。

 

 

 このような可能性があるこそ、『プロの料理人』にミスは許されないのだ…………………………幸平も現場を肌で知っているため、そのことは理解している。

 

 また四宮は、決して田所のことが気に入らないがために『不合格』と言ったのではない。

 むしろ田所の才能は認めてくれている、だからこそ一人の料理人として真剣に向き合った結果の決断だったことだと理解した。

 

 一流の料理人である四宮が、学生である田所を一人の料理人として扱ってくれたことを嬉しく思いつつ、とうとう幸平自身も納得しかけていた……………………………その時、今度は堂島が間に入ってくる。

 

 

「確かに、四宮の言う通りだ。料理人たる者、僅かなミスも現場では許されない。プロであるなら尚更だ、それは分かるな田所くん」

 

「っ……………………………はい、仰る、とおりです「だが」……………………え?」

 

「田所くんはまだ『学生』だ。それなのに『プロ』と同じ処分を下すというのは、些か道理に合わないのではないだろうか?」

 

「っ、それは……………………………」

 

「もし田所くんが実際の【現場】に立っていたのなら、たとえ『学生』であっても『プロ』として扱われるため、四宮の処分は尤もだ。

 しかしここは【合宿場】、スタッフ扱いとはいえ田所くんはあくまで『学生』だ。なら『学生』として評価をしてやるべきじゃないのか?」

 

「そうですねぇ、私も『プロ』としてなら四宮先輩の判断は正しいと思います。ただ今回の場合、『学生』にプロと同じ判断基準で評価するのはちょっと……………………………」

 

 話は変わって、堂島と乾は『学生』に『プロ』としての仕事を求めるのはやりすぎだという議題になる。

 言ってみれば、『アマチュア』と『プロ』を同じ評価で判断するのではなく、TPOに合わせた評価を下すべきだということだ。

 

 四宮も『学生』として考えるのならば、情状酌量の余地は与えてもいいと考え始め、落としどころを探ろうとする。

 

 

「なら、どうするんです? 『学生』としてならともかく、『料理人』として評価するなら口頭注意ぐらいでは済ませられませんよ」

 

「分かっている、そこの線引きは必要だ。そこで当初の話に戻そう………………………四宮と田所くんで【食戟】を行い、その結果次第というのはどうだ?」

 

「食戟の結果次第? 田所ちゃんが四宮先輩に勝てば、『不合格』は取り消しってことですか?」

 

「いや、そこまでとは言わない。ただ田所くんの料理に『料理人としての可能性』があるかどうかを見るのだ。

 結局、『料理人としての評価』というのは『料理』でしか判断できないからな」

 

「つまり、俺の料理を基準に田所恵の料理にどれだけ『料理人としての将来性』があるかを見るための【食戟】……………………俺は当て馬ってことですか」

 

「何だ、不満か?」

 

「……………………いいえ。落としどころとしては、その辺りが妥当でしょう」

 

 

 色々と紆余曲折があったものの、結局は元の話の『四宮と田所が食戟を行う』という形に落ち着いた。

 ただ通常の食戟とは異なり、純粋な『料理の優劣』ではなく『田所の料理の可能性を示す』勝負となっている。

 

「それではアンオフィシャル、非公式の食戟を俺が取り仕切ろう。ただプログラムに穴を開けるわけにはいかないから、二人は今日の課題が全て終了したら、またこの部屋に来てくれ」

 

「は、はい!」

「ウッス」

 

 堂島に言われて幸平と田所は首の皮がどうにか一枚繋がったことにひとまず喜び、部屋を後にする………………………ただ幸平は退室する前に四宮へ近づいていった。

 

 

「四宮先輩、その……………………すみませんでした! 先輩は田所のことをちゃんと『料理人』として見てくれてたってのに、俺ってば失礼なことばかり言って……………………」

 

「……………………気にするな、俺の言葉が足りなかったのも事実だ。それよりも、お前たちは今日の課題をクリアすることに専念しろ。他の課題で落ちたらこの話も無くなるんだからな」

 

「ウッス! ありがとうございます!」

 

 田所を『料理人』として見ていなかったのは自分であったことを恥じた幸平は四宮に謝るも、四宮自身は気にしていない様子。

 不器用ながらも二人に発破を掛けると、二人は部屋から出ていった。

 

 ようやく重苦しい空気から解放されたことで四宮は肩の荷を下ろし、乾は大きく息を吐く。

 

 

「っ、ぷはぁ~~~~。どうにか恵ちゃんにもチャンスが残って良かったです~~~~。堂島先輩、ありがとうございます♪ あとついでに四宮先輩も」

 

「ついでは余計だ!」

 

「気にするな、まだ助かったわけではない。それにしても……………………意外だったな四宮。まさかお前があんなに『熱い』男だとは思わなかったぞ?」

 

「……………………別に、俺は『プロの料理人』として当然のことを言ったまでですよ」

 

「そうか? 俺が見る限り、昨日までのお前は明らかに『料理への情熱』が薄れていた。だが今は猛々しいほどの炎を胸に秘めているように見える……………………何があった?」

 

 堂島の言葉に四宮は認めたくないながらも心当たりがあった……………………その年フランスの食文化の発展に多大なる貢献をした料理人へ送られる『プルスポール賞』、四宮はこれを手に入れることを学生時代の念願としていた。

 

 学園を卒業してからしばらくして四宮は、見事『プルスポール賞』を受賞し目標を達成した…………………だが、そのせいで次の目標が見つからず停滞していた。

 

 頂に立ち尽くしたまま一歩も前に進めていない自分に焦りと苛立ちを感じ、その焦燥感は宿泊研修に参加している間も消えることは無かった……………………一人の料理人と出会うまでは。

 

 

「そうですね……………………そうかもしれません、何せ目の覚める料理を食ったもんで」

 

「ほう、スランプに陥っていた四宮を目覚めさせるほどの料理とは興味があるな。どんな料理を食ったんだ?」

 

「フッ、残念ですが、アイツの料理は口で説明できる類のモノじゃないんですよ。けど堂島さんも食えば分かると思います」

 

「そういえば例のカムイくん、私と水原先輩の試験の次は四宮先輩でしたよね? ってことは、先輩もカムイくんの料理を食べたんですか?」

 

「……………………まあな」

 

「やっぱり♪ 美味しかったですよね~~~~、私も水原先輩もあまりの美味しさに腰が抜けちゃいましたもん♪」

 

「そうか、四宮の料理人魂に火を点けたのはカムイか……………………なるほど、どうやら噂に違わぬ料理人のようだな。俺も是非カムイの料理を食べてみたいものだ」

 

 四宮と乾の反応からカムイの腕前が噂通りのものだと知った堂島は、カムイに対して強い興味を抱くようになった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、他の生徒たちのプログラムへ追いつくために過密なスケジュールで試験をこなしてくカムイだったが……………………なんと初日で他の生徒たちのプログラムに追いついてしまった!

 

 しかも試験官の評価はいずれも、全生徒の中で他を圧倒するほどダントツのトップ。

 この結果を聞いて堂島も驚いており、ますますカムイへの興味を持つようになる。

 

 

 そして本日最後の試験は『ホテル宿泊者のための食事を50人分作ること』。カムイは他の生徒たちに混ざって試験を受けるも、早々にクリアしていた……………………………しかし。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 美味い、美味い、美味い!! 美味すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「トレーニングで疲労していた身体に力が漲ってくる! これなら昼間よりキツイメニューを今からでもこなせそうだ!!」

 

「毎年このホテルの料理を食べてるが、今年のは桁違いに美味い!!! まるで俺たちの身体そのものが喜んでいるようだ!!!」

 

「筋肉が張り詰め、今にも爆発しそうだ!! これなら今年の大会は優勝間違いない!!!」

 

 

「くぅ~~~~~~、美味そうだなアレ! おい兄ちゃん、俺の分も頼む!! 大盛りでな!!!」

 

「俺も大盛り、いや特盛りで頼む! 先輩たちの食ってる姿を見てさっきから腹が鳴りっぱなしなんだ!!」

 

「おい押すな! みんな待ってんだから順番に並べ!!」

 

「もう食材が足りなくなってきたらしい! 別のところから貰ってくるぞ!!」

 

 

 カムイの前に並ぶ長蛇の列……………………それをカムイは持ち前の超絶スピードによってどんどん捌いていくも、捌けた先からまた別の人が並んでいくという悪循環。

 

 この課題はあくまで『50人前作ること』であったが、既にカムイの作る量は500を優に超えていた。

 けれど全員が全員カムイのところへ並んでいくため、このままでは他の生徒たちは軒並み『不合格』となるだろう。

 

 どうしてこのような状況になっているのか………………………それはカムイの料理が味だけではなく、『効能』まで途轍もなく高いためである。

 

 

 この課題の料理は『特製ステーキ御膳』。調理法も食材も指定されており、味や盛り付けが規定に達していない場合は試験官に弾かれる。

 

 ただ調理法も食材も指定されているということは、料理人の『調理技術』が如実に味へ現れるということでもある。

 言ってみれば体操やフィギュアスケートの『規定演技』のようなもの、純粋な基礎技術が試されるということだ。

 

 食材の良さで技術をカバーすることが出来ず、調理技術など料理人としての純粋な基礎能力で差が出るともなれば……………………カムイの独壇場になるのは当然と言える。

 

 

 『節乃』をはじめとする超一流の料理人の下で修業し、さらには三ツ星はおろか『十星レストラン』のオーナーシェフである『膳王 ユダ』の下で連日満員の客相手に鍛え上げられた基礎能力は、一般的なプロのレベルを遥かに超えている。

 

 そのためカムイの料理は他の生徒たちが作った料理とは比較にならないほど輝いており、見た目と香りだけで客の食欲を強烈に刺激していた。

 

 さらにユダからは『客は1mmも待たせてはいけない』という教えを受けたカムイは、並んでいる客をほとんど待たせることなく片っ端から捌いていく。

 

 他よりも圧倒的に進む列があれば、そちらに行くのは必然と言えよう。

 

 

 また周りの生徒にとっては、客層についても良くなかったかもしれない…………………………このフロアに来ているのは、体育会系の大学サークルや実業団アスリートたちで固まっていた。

 

 『活性切り』を始めとするカムイの調理によって、旨味が最大限まで高められた食材は、その栄養価までもが引き上げられているのだ。

 そして人間の身体というのは、必要としている栄養を美味しく感じる作りになっている。

 

 ただでさえ大食漢の体育会系男子や、身体づくりに余念の無いアスリートたちが、そんな栄養価の高く美味なる料理を食べれば、こんな状況になるのも無理はない。

 

 ついにはカムイの料理を食べるために、客が自ら食材を持ってきて調理を頼んでいるという有り様である。

 

 

 

「……………………何でいる?」

 

「うっ! そ、その……………………まだカムイくんが料理を作っているって聞いたから、どうしても食べたくて///////////」

 

 宿泊客も粗方捌けてきたところでようやく終わりが見えたと思ったら、今度は他生徒の中で一番に課題を終えたえりなを筆頭に遠月関係者が並び出す……………………………なお、その中には四宮や乾などの試験官までいた。

 

「食材は?」

 

「っ、も、もちろん持ってきてるわ! ありがとう、カムイくん♪」

 

 難しいことを考えるのが苦手なカムイは、食材を持って並んでいるなら『客』とみなして料理を作っていく。

 一日中試験に望んでいたえりなや試験官たちもまた、肉体的に疲労が溜まっているため、すぐにカムイの料理の虜になっていった。

 

 

「お、美味しい! 私も同じ料理を作ったけど、明らかに私よりも味が上だわ!!

 この身体全体に味が染み渡る感覚、まるで身体そのものが喜んで栄養を吸収していくみたい♪ とても食材と調理法が同じとは思えないわ!!」

 

 

「ん~~~~♪ 美味しい~~~~~! この美味しさ、今日の疲れが吹き飛んでいきますぅ♪」

 

「ん。肉の旨味が濃い、まるで熟成されたかのような美味しさ。単に味付けを変えただけじゃこの美味しさは出ない」

 

「肉だけではありまセーーーン! 汁物も椀によそう直前に、味噌を軽く焼くことで味と香りを立てていマーーース。何気ない一手間ガ、疲れた身体と心を癒シ、そして食欲をくすぐりマース♪」

 

「よく見ると肉に切れ込みを入れているが、その数を個人ごとに調整している。

 噛む力は人それぞれだ。その人の顎の力に合うように切れ込みを入れることで、食感が快感になるようにしているのだろう。素晴らしい仕事だ」

 

「この米、粒をきっちり均一にして炊きムラを無くしている。これだけの客を相手にしているのに、細部まで神経を張り巡らせているとは……………………大したヤツだ」

 

 えりなだけではなく、四宮をはじめとする卒業生たちや堂島もカムイの料理の味に感動していた。

 一日中試験官として働いていた彼らにとって、活性化した旨味と栄養は疲労した身体に最高の『美味しさ』となって吸収されていく。

 

 

 『調理には1mmのズレも許されない』という精神を師匠の1人である『膳王 ユダ』から叩き込まれたカムイにとって、個人ごとに食材の厚さを1mm単位で調整したり、米粒を1mmも狂いなく均一にして炊くなどの細かい調理はお手のものである。

 

 しかしそういった細かい気配りが最終的に大きな味の違いを生み、さらには食材が喜んで旨味と栄養が最大限に活性化する。

 

 そのため同じメニュー、同じレシピであっても他の生徒とは圧倒的に、かつ決定的に味に格差が生まれたのだ。

 

 

 かくして料理の提供人数が800人ほどになったあたりで列が無くなり、ようやくカムイは課題を終えることが出来た。

 

 ただ『十星レストラン』で万単位の客を相手にしていたカムイにとって、この規模の客は大して負担にはならず、息一つ乱すことなく悠々と調理場を後にする。

 

 そしてカムイが客の全てをかっさらってしまったため、もちろん他の生徒たちは課題をこなすことなど出来ず、全員が『退学』となった。

 

 

 カムイと同じグループになった生徒たちは理不尽極まりない不運であると言えよう…………………………そして生徒たちはカムイに対して激しい恨みを抱くのであった。

 

 

 

 

 なお後日、カムイの料理を食べて覚醒したアスリートたちは大会やシーズン戦で好成績を収め、いずれのスポーツでも日本一となった。

 そして取材の際に『日本一となった一番の要因は何ですか?』というメディアからの質問に対して口々にこう答えた。

 

 

『やっぱり遠月リゾートのホテルで食べた食事のおかげですかね!』

 

『あの料理を食べてから、ほとんど疲れ知らずになった上に集中力も段違いに上がりました!』

 

『はち切れんばかりに力が漲ってきて、これ以上無いほどにトレーニングで追い込みを掛けることが出来ましたよ♪』

 

『聞いた話によると俺たちの食事を作ってくれたのは、【神域の料理人】っていうスゴイ料理人らしいですね。また食べてみたいです♪」

 

 

 この話を聞いて日本だけではなく世界中の大学や実業団、プロチームのオーナーから『是非ともウチの選手に食事を作ってくれ!』と問い合わせが殺到。

 遠月学園への寄付金がさらに増加し、叡山はさらなるビジネスチャンスと大喜び。

 

 しかし喜ぶのも束の間、ただでさえ日頃からカムイ関連の問い合わせがある中で【秋の選抜戦】の準備を進めているというのに、更にスポーツ関係者からの問い合わせも増えたため、叡山には寝る暇さえ無くなるのであった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

ズズ~~~、ズルズルズル~~~~~!

 

「ッ、ハァ……………………美味い……………………!」

 

 

 

 遠月リゾートのとある地下調理室で、カムイは自身の作った料理を試食していた。

 毎日のように様々な料理を作ってきたが、目の前の料理の満足感はここ最近味わったことのないほどである。

 

 カムイが作った料理は【全麺製麺筋のセンチュリースープ煮込み】。

 

 超特殊調理食材の『金色小麦』で作った『全麺』の『麺筋』をカムイ流に作った『センチュリースープ』で煮込んだ料理だ。

 

 

 カムイは先日作った『センチュリースープ』と『麵筋』を合わせたことに着想を得て、『麵筋』を『全麺』で作ることを閃いた。

 

 中華麺・うどん・パスタなど、全ての麺の特性を合わせ持つ節乃謹製の『全麺』。カムイはこの特性を利用して『麵筋』を様々な『麺』の形に変えたのだ。

 

 うどん一つとっても『讃岐うどん』のようなシコシコ感や『きしめん』のようなツルっとした食感。

 中華麺も『ちぢれ麺』だけではなく、髪の毛のように細い『龍髭麺 ロンシャオメン』など様々な形に仕上げた。

 

 パスタもストレート麺から『フィットチーネ』に『ラビオリ』など数多くの種類を用意している。

 

 ストレート・切れ込み・編み込み・ねじり……………………様々な形をした『麵筋』が『センチュリースープ』の味を存分に吸い込み、『飲むスープ』ではなく『食べるスープ』に変貌。

 

 数千もの食材の旨味と多数の食感が共演するスープは、さながら『食感のフルオーケストラ』とも呼べる料理に仕上がっていた。

 

 

 『センチュリースープ』の開発者である小松はバケット代わりに『薬膳もち』を添えていたが、『麵筋』を使うのは紛れもなくカムイ自身の工夫。

 

 また『センチュリースープ』もカムイの才覚で選び抜いた食材を使い、小松とは違う形で完成させた。

 

 【全麺製麺筋のセンチュリースープ煮込み】。カムイの【人生のフルコース】、『スープ』が完成した瞬間である!

 

 

 

 

 そうしてカムイが【人生のフルコース】の一皿が決まったことを喜んでいると……………………調理場の扉が開いた。

 

 

「あれ? カムイくんじゃないですか。こんなところで何をしてるんです?」

 

 入ってきたのは乾や水原といった試験官たちと堂島、そして幸平と田所だった。

 なるべく人目につかない場所を選んだつもりのカムイだったが、もしかしたら『食運』によるものかもしれないと考え込む。

 

 

「もしかして、四宮たちの勝負の話を聞いて見に来た?」

 

「フルフル」

 

「ではここで何をしていたんだ? ここは合宿では使わない場所だから生徒たちも知らないはずだ」

 

 招かれざる客であるカムイがいることに不思議に思った面々はカムイへ尋ねてくる。

 

 カムイとしては単なる偶然だと思うのだが、『食運』が働いているかもしれないので正直に話すことにした。

 

 

「【人生のフルコース】を、作っていた」

 

「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

 カムイの一言に全員の目が大きく開く。【神域の料理人】が『人生のフルコース』を完成させるべく世界を渡り歩いているというのは、料理に携わる者なら全員が知っているほどに有名だからだ。

 

 

「ほう、噂には聞いていた。【神域の料理人】は『人生のフルコース』を完成させることに人生の全てを懸けている、とな」

 

「も、もしかして、完成したのか!? 【人生のフルコース】が!!!」

 

「完成したのは、『スープ』だけ」

 

「そっか~~~。ハハ、良かったなぁカムイ。おめでとさん♪ 今度食わせてくれよ!」

 

「(食材の)気が向いたら」

 

 噂にしか聞いたことのない【神域の料理人のフルコース】。『スープ』だけとはいえ、まさかそれがこんなところで作られているとは思っておらず、乾たちは言葉を失っている。

 

 しかしそんな中でも堂島は大いに興味を持ち、幸平はカムイに作ってもらおうと強請る……………………二人とも流石のメンタルである。

 

 

「確かに、この部屋に入ってきた時に感じた香りは、嗅ぐだけで身体と心が満たされるぐらいの強い『旨味』を感じた」

「ああ、私も感じた。どうやら錯覚ではなかったようだ」

「スバラシイ! 『香り』だけで満たされる料理ナンテ、聞いたことがアリマセーン!」

 

「カムイくん! その『スープ』、少しでいいので残っていませんか!?」

 

「全部、食べきった」

 

「っっっっっっっっ!!! そ、そんなぁ~~~~~~」

 

 ようやく気を持ち直した卒業生たちも、部屋に漂っている『旨味』からカムイの料理の凄まじさを推し量る。

 乾は残り物だけでも貰えないか尋ねるが、食材は全て余すことなく使い切るカムイでは相手が悪かった。

 

 『スープ』も出来たし、この部屋で何やら行われようとしていると察したカムイは『シェルダーバッグ』を背負って部屋から出ていく……………………しかし扉の前にいる四宮に止められた。

 

 

「待て、カムイ……………………堂島さん、頼みがある」

 

「何だ、四宮」

 

「今回の勝負の判定役、カムイにもやらせてくれないか?」

 

「「「「「っっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」」」」」

 

 

 

突然の四宮の提案に卒業生たちだけではなく、幸平と田所も驚愕する…………………しかし当のカムイは頭に『?』を浮かべ、首を傾げていた。

 

 

 






少し間を空けてしまいましたが、カムイのフルコースの『スープ』が完成しました!

実はカムイのフルコースはほぼ固まっているのですが、『魚料理』だけが全く決まっていない状況なんですよね………………………何か良いグルメ食材あったかな〜〜〜〜?

それでは皆さん、次回で♪
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