今作のカムイのポジションですが、とりあえず原作のイベントにシレッと参加して場を掻き回す感じですね。
もちろん、収拾がつかないほど悪い意味で暴れさせるつもりはありません。
「どういうつもりだ、四宮。何故カムイも判定役にしようとする」
四宮と田所&幸平の【食戟】、それに判定役とはいえ無関係なカムイまで巻き込もうとする四宮の意図を堂島は計りきれなかった。
また、わざわざ四宮から言ってくるぐらいだから相応の理由があると察する。
「なに、簡単なことだ……………………コイツに俺の『全て』をぶつけたくなった。もし呑んでくれるなら、日向子を判定役に加えてもいい」
試験と夕食の時にカムイの料理を食べた四宮は、カムイを自分以上の料理人であると認めていた。
ならば今度は、自分とカムイにはどれだけの差があるのかを知りたいと思うのも当然だろう。
料理人に限らず、『プロ』というのは基本的に負けず嫌いなのだ。
「つまり四宮の全力……………………『看板料理 スペシャリテ』を出すと言うのか? 忘れたか四宮、これは田所くんの『可能性』を見る勝負だということを。
お前の店の看板メニューなど出したら比べようが無くなるだろう」
「だから『日向子を加えてもいい』と言っているんだ。それに、どのみちこの勝負では、俺の『全力』の皿を出すつもりだったしな」
乾が判定役から外されたのは、個人的感情が先行して明らかにまともな判定が出来ないという理由からだった。
しかし四宮が『看板料理 スペシャリテ』を出すというなら、それぐらいのハンデがないと勝負そのものが成立しなくなる。
「ふむ。四宮はこう言っているが……………………………どうだろうか、田所くん」
この勝負を取り仕切っている堂島から見れば、ここは却下すべきだろう。
だが四宮の言い分も『料理人として』分かる気もするので、『三人が了承するなら』という条件で受け入れることにした。
「えっ、わ、私、ですか…………………………」
「無論だ、これはキミのための勝負なのだから。キミの全力の皿を、四宮の『看板料理 スペシャリテ』にぶつける勇気はあるか?」
「っ、わ、私は…………………………………」
思いがけない提案で、田所は緊張のあまりガタガタと震えだす。
一流シェフの店の『看板料理 スペシャリテ』に、イチ学生の料理で戦いを挑めと言われているのだから当然だろう。
もちろんこの勝負は普通の【食戟】と違って、純粋な勝ち負けの問題ではない。あくまで田所の料理にどれだけの『可能性』があるかを判定することになっている。
しかしそれでもその判断基準となるのが、四宮の『看板料理 スペシャリテ』なら話は別だ。
あまりにも高すぎる壁を前に田所は視界がぼやけ、歯も上手くかみ合わなくなってきている。
そんな田所に……………………………幸平が近づいていった。
「田所、合掌」
「……………………え……………………」
「合掌!」
幸平に大声で促され、田所はどうにかゆっくりと両手を合わせる……………………すると。
バチィィィィィィィィィィィン!!!!!!
「っ………………………………痛い?」
田所の合わせた両手を幸平が思いっきり挟み込んで叩き、調理場には大きな音が響く。
あまりにも突飛な行動に全員が驚くが、いつの間にか田所の震えが無くなっていた。
「驚いたろ? 親父から教わった気持ちを切り替えるとっておきの方法、一人じゃ出来ないのが難点だけどな♪」
「あ……………………………♪」
幸平の言う通り、予想外の出来事と両手の痛みから緊張が解れた田所は落ち着きを取り戻し、幸平に笑顔を向ける。
「親父が言っていた……………………料理人は『自分の全てを皿の上に乗せるものだ』ってな」
「自分の……………………全て……………………」
「ああ、だから難しいことは考えんな。四宮先輩に勝てるかどうかも一旦忘れろ。
今はとにかく田所の持ってる『全て』を皿に乗せてぶつけるんだ、それだけでいい。俺も、俺の持ってる『全て』を使って田所をサポートしてやる!!!」
「っ~~~~~、うん!」
幸平の言葉で田所は復活し、ただ『全力』で料理を作ることだけに専念すると決める。
覚悟を決めた田所は先ほどとは打って変わり、強い眼差しで堂島に答えた。
「堂島シェフ、お願いします。私に、四宮シェフの『看板料理 スペシャリテ』と勝負させてください!」
自分の進退が懸かった料理勝負で、イチ学生が一流シェフの『看板料理 スペシャリテ』に挑む。
普通に考えれば学生側はプレッシャーでまともな料理など作れはしないだろう…………………………しかし田所の揺るがない決意を知った堂島は、フッと笑みを浮かべながら承諾する。
「承知した。あとは……………………カムイだな」
「あ~~~~、それなんですけどね堂島さん。カムイに判定役はムリなんじゃないですかね?」
「? どういうことだ、幸平」
「実はカムイのやつ……………………」
勝負を前に盛り上がりを見せる二人だが、四宮の提案はあくまで『カムイが判定役を引き受けた場合』の話である。
当然ながら堂島はカムイにも確認を取ろうとするが、カムイの事情を知っている幸平が間に入り説明する。
「ってことなんです」
「そうか……………………それはまた難儀なことだな」
「そんな、他人の作る『味』が分からないなんて……………………」
「ん。でも理屈は理解できる」
「そうだな。優秀過ぎる才覚というのも、良いことばかりではないということか……………………」
「実際、彼の作った料理ハ途轍もない美味しさデシタカラネ。そんな状態でも、自分の目的のために料理を極めようとしているんデスカラ……………………本当にスバラシイ料理人デス」
幸平の話を聞いて堂島と卒業生たちは顔を曇らせてしまう。『他人の料理の味を認識できない』という体質。
しかもそれが自分の冴えわたる才覚によって作られた料理を食べた結果ということに、深い哀しみを感じてしまった。
そしてそんな状況の中でもひたむきに【人生のフルコースの完成】という目的のため、料理を作り続けようとする生き方に哀しみ以上の尊敬の念を抱く。
四宮だけではなく堂島たちもまた、カムイのことを『単なる天才児』などではなく、自分たち同様に果てなき味の地平を切り開こうとする『一人の料理人』として尊敬し、【神域の料理人】と呼ばれるに相応しい人物であることを認めた。
「しかし困ったな。そうなると判定役には「構わねえよ」 四宮?」
いくらカムイと言えども『味を正しく判別できない』なら判定役は無理だと堂島も思っていると、提案をした四宮が間に入ってくる。
「むしろ今の話を聞いて尚更、カムイには俺の料理を食べさせたくなった」
「聞いてなかったのか四宮。カムイは他人の作る味を感じることが出来ないんだぞ?」
「それはそこら辺にいる料理人の話だろう? 要はカムイと同じレベルの料理を作ればいいってだけの話だ」
『カムイが他人の味が分からない』と聞いて四宮のやる気は、より一層燃え上っている。
確かに理屈としては四宮の言う通り、カムイと同じレベルの料理であれば、他人の作った料理でも味は感じるだろう。
しかしそれは口で言うほど簡単なことではない。カムイに『味』を認識させるということであれば、それこそ『グルメ食材』を使う必要がある。
だがこの世界には『グルメ食材』など存在しない。そのためカムイのように調理によって、通常の食材を『グルメ食材』並みに高めなくてはならないということなのだ。
「ムッシュ・カムイ。昼間『手抜き料理』を出してしまった詫びだ。俺の『看板料理 スペシャリテ』、食っていってくれ」
通常の食材を『グルメ食材』クラスまで旨味を活性化させるには、カムイのような『卓越した調理技術』もしくは『食材に選ばれる』のどちらかが必要だ。
けれどカムイが出会った料理人の中で、カムイほど技術や食材に好かれる才能を持っている者はいなかった。
強いて言えば、幸平からそのような気配を感じるが、それでもカムイに『味』を認識させるほどではない。
そんなカムイの事情などは関係なく、四宮は自らカムイに判定役をお願いする。
幸平と田所は吉野の料理を試食することを頑なに拒んだ経験から、四宮の料理の試食も断るだろうと思った。
「……………………わかった」
「「っっっっっっっっっっっっっ!!!!」」
カムイが四宮の料理を食べることを承諾した! これには幸平と田所だけではなく他の者も驚く、自分たちだって好んで味がしないものを食べようとはしないだろう。
(俺の『食運』がここへ導いたのは、コイツか? だとしたら確かめないといけない)
自分が四宮の料理を食べることに拒否感を覚えなかったことから、カムイは『食運』が四宮の料理を食べさせるために自身を連れてきたと判断した。
この世界の料理を自ら食べようとする心境は、カムイにとっても初めてのことだった。
「フッ、決まりだな」
「ほう、これは中々面白いことになってきたな。ではカムイと乾も加えた5名での判定だ」
四宮はカムイに自分の『全力』をぶつけられるということで不敵に笑い、堂島は意外に思いながらも勝負そのものを楽しみ始める。
「まさかカムイくん、【神域の料理人】まで判定役になるだなんて……………………………」
「驚きだよな~~~。でもさ、これってチャンスじゃねえか? 俺たちの料理でカムイに『美味い』って言わせてやろうぜ、田所!」
「っ、う、うん! カムイくんにも私の『味』、知ってもらいたい!」
「へへ♪ そうこなくちゃな!」
カムイが自ら他人の料理を食べることに驚く二人だが、同時にカムイに自分たちの料理を認めさせることに闘志を燃やす。
そして奮起している二人へ、それ以上にやる気を出している四宮が近づいてきた。
「そういうわけだ、二人とも。俺も料理人である以上、作る皿には『全身全霊』を注ぐ……………………悪く思うなよ」
「へっ、ジョートーですよ! 嬉しいッスね、俺らみたいな学生をプロが全力で相手してくれるんですから!」
「お、お願いします!」
トラブルにより【食戟】をすることとなった両者であったが、ここに来て共通の思いを抱くようになった……………………『カムイに自分の「味」を認めてもらう!』、と。
「それではこれより非公式の【食戟】を開始する……………………始め!!!」
堂島の合図で三人は同時に動き出す、課題は『野菜がメインである一品』。奇しくも四宮がカムイに出した課題と同じである。
本当なら両者とも今日の課題で残った食材を使う予定だったのだが、四宮が『看板料理 スペシャリテ』を作るということで急遽食材が追加された。
四宮はあっという間に食材を選び終わり調理を進めていく。自身の『看板料理 スペシャリテ』、店の看板メニューなだけに調理には一切の淀みが無い。
一方の田所&幸平の二人も作る料理が決まり、調理開始からようやく動き始めたのだが……………………………。
「……………………なに、アレ」
水原が目を開きながら感想を溢したのは、田所をサポートする幸平の姿だった。また、水原と同じく他の卒業生も幸平の動きに注目する。
「断エズ彼女ノ動キを先読みシ、自分ノ作業を崩さずにサポートしてイマース」
「しかも決して余計なことはしていない。常に神経を張り巡らせて、彼女の邪魔にならないよう細心の注意を払っている」
「アレはどう見ても、学生のレベルを超えている」
卒業生たちは幸平のサポート能力に目を見張っていた。経歴だけを見ても、幸平の動きは明らかに学生レベルでは説明がつかないからだ。
調理工程が多くなればなるほど、当然ながら人手が必要となる。だからこそ一流店では『メインシェフ(料理長)』に『スーシェフ(サポート役)』が付いている。
そしてスーシェフのサポートの質が高ければ高いほど、メインシェフは料理に集中することができパフォーマンスが上がっていく。
そしてそのことはプロである卒業生はもちろんのこと、実際にサポートを受けている田所自身が実感していた。
(凄い、創真くん! サポートが1人入っただけなのに、私一人で調理するよりも何倍も早く動けてる気がする!)
あがり症なため、普段の学園の実習では緊張して結果が伴わない田所。
しかし幸平のサポートのおかげで純粋に調理へのみ集中することができ、四宮ほどではないが着々と調理を進めていった。
(……………………フッ、なるほどな。さすがにこの俺へケンカを吹っ掛けるだけのことはあるってわけか)
調理に集中していた四宮も待ち時間の間に幸平の動きを見て、他の者よりも遅れて気づく。幸平のサポート能力はプライドの高い四宮をしても認めるものだった。
だが、皆が幸平の実力に感嘆する一方で……………………カムイだけは田所のことを見ていた。
(調理技術そのものは幸平と大差ない。ただ……………………食材の扱いが丁寧だ、食材が喜んでいるようにも見える。俺の『食運』が反応したのは、彼女か?)
超一流の料理人の下で修業をしてきたカムイの目から見て、幸平のサポート能力はさほど気にすることではなかった。
一人で十人分以上の作業をこなす『節乃』たちのサポートをするには、頭で考えながら動いていては到底間に合わない。
彼らの作業スピードに追いつくには、思考を超える『直観』を最大限駆使した反射レベルのサポートが必要となる。
そのためカムイは、幸平よりも田所の調理の方に目が向いていた。
(幸平は『小松』のように調理しなくても好かれるが、田所はあくまで調理によって好かれる……………………ただ、調理を介せば旨味の上昇幅は田所の方が上みたいだ)
この世界に来て初めて自分以外に『食材に好かれる才能』を持つ者を見たカムイは、ほんの少しだけ二人の料理を食べても良いかもしれないと思った。
幸平と田所の調理姿を見て色々な思いが交錯する厨房、そんな中…………………………四宮の料理が完成した!
「まずは四宮の料理からだ。二人はそのまま調理を続けてくれ」
順番による優劣をつけないため、二人は四宮よりも10分遅れで調理を開始している。幸平と田所が調理を続けている傍らで、四宮が料理を運んでいく。
「食べてくれ。俺の店の『看板料理 スペシャリテ』……………………【Risotto aux légumes de saison et à la tomate(季節の野菜のリゾット トマト詰め)】だ」
四宮が作ったのはトマトを『容器』にして、季節の野菜を合わせたリゾットを詰めた料理であった。
下ごしらえをした数種類の野菜と一緒に、リゾットを中身を繰り抜いたトマトに詰めてオーブンで焼いたのである。
作り自体はシンプルであるが、野菜は下ごしらえの段階で別々の火入れなど適切な処理を要求し、リゾットもトマトの酸味と調和するよう作らなければならない。
さらには野菜とリゾットをトマトに詰めて、最後にオーブンで焼くことも計算に入れて下調理をするという……………………シンプルながらに多くの工程を要する料理なのだ。
また、中に詰める野菜は季節や野菜の出来によって異なるため、下調理の方法が季節ごとに異なる。まさしく『野菜料理(レギュム)の魔術師』の面目躍如と言える逸品だ。
そのため季節ごとに異なる味を楽しむことが出来るこの料理は、オールシーズンで人気がある『SHINO’S』の看板メニューとなっている。
「ん~~~♪ リゾットはホクホクとしていながらも適度に歯ごたえを残しているので、食べ応えがありますぅ♪」
「枝豆・ゴーヤ・ピーマン・ナス・カボチャ、どれも6月が旬の野菜でその全てに完璧な調理を施している」
「決してフランスだけの料理ではない。このコンセプトなら日本だけではなく、世界中のどの国でも旬の野菜を使って作れるほどの汎用性がある」
「モチロン、その国々で採れる旬の野菜に対シテの深い理解力が求められマース。まさしく四宮サンだからこそ、作れた料理デショウ」
判定役の卒業生たちはもちろん四宮の『看板料理 スペシャリテ』のことは知っているし、何度も食べたことがある。
しかし本当に美味しい料理と言うのは何度食べても、その感動が色あせることは無い。
それどころか食べるごとにどんどん魅了されていく『魔力』がある。
四宮の料理は旬の野菜さえあれば、どの国でも作れるほどの『汎用性』を持ちながら、誰が食べても『美味しい』と感動できるほどの『完成度』を持った料理であった。
さらにこの料理が優れているのは、料理として『完成』していながらも『決まった形』が無いことにある。
四宮の実力に合わせて改良を加えられるよう、工夫の余地を敢えて残しているのだ。
これが若くして『プルスポール賞』を受賞した新鋭、『四宮小次郎』が【野菜料理(レギュム)の魔術師】と呼ばれる由縁である。
「…………………………………………」
「どうした、カムイ。コレはあの時とは違う。正真正銘、お前のために作った俺の『全力』の料理だ。食べてみてくれ」
乾たちが四宮の料理に舌鼓を打っている傍ら、カムイは四宮の料理に手を付けることはせずにジッと興味深そうに見ていた。
四宮がカムイが食べるのを待っているが、それでもカムイは目の前の料理に凝視している。
何故なら……………………四宮の料理からは見ただけで、僅かに『旨味』を感じ取ることが出来るからだ!
この世界に来てから今まで数多の一流料理人の料理をその目で見てきたが、ここまでハッキリと『旨味』を目で感じたことは無い!!
「これは……………………『米』を野菜として、捉えた料理か?」
「っ……………………流石だな、食べずに見抜くか。その通り、元来『米』を主食として扱う国は少ない。
ヨーロッパでは米は『野菜』として扱うため、肉や魚料理の付け合せとして添えられている。
これは米を『野菜』という立ち位置のまま、付け合せではなく『メイン』に据えた料理だ」
謂わば、ヨーロッパの食文化と日本の食文化のミクスチャー。野菜の扱いに精通し、双方の食文化に触れた四宮だからこその料理とも言える代物。
そのため、カムイはこの世界に来て初めて他人の作る『味』を興味を持ち、まずは料理を観察していたのだ……………………………そして。
「この世の全ての食材に、感謝を込めて……………………『いただきます』」
「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
カムイが他人の料理に対して敬意を払い合掌と一礼をするのは、この世界に来て初めてのことである。
また、あれだけ他人の作る料理を拒んでいたカムイが自ら進んで料理を食べようとしているのを見て、幸平と田所は驚愕した。
スプーン・ナイフ・フォークを使って、丁寧に口に運んでいく。その所作からは見紛うこと無き食材と……………………作った者への感謝が見て取れた。
(昼間にも見たが……………………本当に綺麗に、そして丁寧に食べるもんだ。俺の料理をこんなに感謝して食べてくれるとはな……………………料理人冥利に尽きる思いだ)
作った四宮も感想すら言われていないのに、こんなに感謝されて食べてもらえることに心が満たされていた。隣にいる乾たちもカムイの食べる姿に見惚れている。
一つの料理、一つの皿に対して『慈愛の極み』とも呼べる『感謝』の心、『命』を食す者の『礼儀』がここにあった。
(薄い……………………でも間違いなく『味』は感じる。これがこの世界の、料理人の『味』!!!)
カムイもまた四宮が作る『味』に驚いていた。無論、自分が作る料理に比べればまだまだ薄い。
だが決して薄すぎるということはない。わずかだが確かに『旨味』を感じることが出来る料理に、カムイは初めて『この世界の味』を味わった。
「ごちそうさまでした」
「ああ……………………それで、どうだった。俺の料理は」
カムイは四宮の料理を残さず完食した。他人が作った料理を残さず食べ切るのも、この世界に来てから初めてのことである。
四宮は遠足を楽しみにする子供のように『待ちきれない』という雰囲気でカムイに味の感想を求めた。
「……………………名前は?」
「は? この料理の名前はさっき言っただろ。コレは「違う」っ」
いきなり名前を尋ねられて戸惑う四宮は料理について聞かれたかと思い、もう一度料理名を教えようとする。しかしカムイが聞きたかったのは料理についてではなかった。
「聞きたいのは、アナタの、名前」
「ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」
「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
『グルメ食材』を使ったわけではない、『金の調理器具』を使ったわけでもない。四宮は通常の調理技術で、カムイが味を感じられるほど『食材に選ばれた』のだ。
それほどの料理人であれば、名前を覚えておいても損はないとカムイは判断した。相手の名前に興味を持つのもこの世界に来てから初めてのことである。
実際、カムイがこの世界で名前を覚えている人物は片手で足りるくらいだ。
それほどまでにカムイはこの世界の人間に対して興味がない、あるのは『食材』と『調理技術』のみなのだ。
「っ~~~~、四宮だ……………………四宮小次郎、ちゃんと覚えておけ」
「四宮、小次郎……………………ん、覚えた」
カムイから名前を求められた四宮は、口がにやつくのを必死に堪えながら改めて名乗る。
【神域の料理人】に認められた料理人は聞いたことが無い、その第一号に選ばれたことは『プルスポール賞』を受賞した時以上の喜びであった。
なお、明らかに嬉しいのを我慢している四宮を見て乾が揶揄ってくるが、毎度の如くアイアンクローをお見舞いする。
「調理台を、借りる」
四宮が日向子を折檻していると、カムイが立ち上がり『シェルダーバッグ』から食材をいくつか取り出して調理を始めた。
その凄まじいスピードは幸平はおろか四宮すらも圧倒しており、手元の動きなど全く見えない!
もちろんカムイは『ワープダイニング』で時間を早めているのだが、そんなことは周りの人間には分かるはずもない。
そうして幸平と田所がまだ調理が終わっていないというのに、カムイの料理が先に出来上がる……………………ただし一人分だけ。
「返礼だ、食ってくれ」
カムイが作った料理は『オゾン草のクリーム煮』。
グルメ食材の『オゾン草』をグルメ界の野菜たちで出汁を取った『フォンド・レギューム』と『ミルクジラの潮製生クリーム&バター』で作ったクリームソースで煮込み、『あられこしょう』と『メルクの星屑』を散らした料理である。
「あ、ああ、いただくぜ……………………」
(っ、なんて存在感だ! 野菜がメインの料理でここまでの存在感を出せるものなのか!?
俺の『看板料理 スペシャリテ』なんて比べ物にもならねえ!! これがカムイの本領……………………!)
見ただけで目の前の料理が自分の『看板料理 スペシャリテ』に匹敵することを理解した四宮は、震える手つきでナイフとフォークを使い口へと運ぶ。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
瞬間、四宮は天空に昇ったかのような雄大なる清々しさを実感した!! 上には澄み渡った青空、下には厚みを感じさせる雲海がどこまでも広がっている!!!
(う、美味い! なんて美味さだ!! 今まで感じたことのない強い食感、軽く歯を入れると跳ね返すほどの弾力!! 噛むたびに快感が脳に走る!!!
噛みしめるごとに、天空に昇るような爽快感と瑞々しい旨味を含んだホロ苦エキスが溢れてくる!
そのエキスが上品で濃厚な甘みのクリームソースと合わさり、口の中が至上の口福で満たされていく!!
っ、何なんだ、この野菜は! 俺が今まで食ってきた野菜は全て腐っていたのか!? そう思えるほどに別格過ぎる!!!)
『オゾン草』と『特製クリームソース』が合わさった超絶美味に、四宮は今までの常識が覆るほどの衝撃を感じていた。
それもそのはず、カムイが使った食材や調味料は全て元の世界でも屈指の捕獲レベルを誇る。
それらをカムイの技術によって調理すれば、元の世界の【IGO】の味覚係である『G7』からも、最高の評価を得られるだろう。
なお、『オゾン草』は本来『2ヶ所同時に食べなければいけない』という『特殊賞味食材』。
しかし『小松』によって新たな調理法が確立され、今では1人でも難なく食べられる食材となっている。
「美味い、俺の『看板料理』よりも、遥かに……………………!」
「っ、ホントですか!? ちょっと私にも分けてください!」
「私も食べたい!」
「私もだ!」
「ボクにも食べさせてクダサイ!」
「何言ってやがんだ! これはカムイが俺のために作った料理だぞ!」
プライドの高い四宮ですら『自分の皿より上だ』と認めるほどの料理。一流の料理人である卒業生たちなら気にならないはずがない。
どうにかして一口だけでも食べようとするが、せっかくカムイが自分のために作ってくれた料理を渡すわけにはいかないと、四宮は急いで残りを食べきってしまう。
「ぶぅ〜〜〜〜! 四宮先輩のケチ!」
「四宮だから仕方ない」
「そんなんダカラ、女性とも長続きしないんデスヨ」
「まったくだ」
「やかましい! 大きなお世話だ!」
結局一口も分けてもらえなかった乾たちは口々に文句を言うが、四宮が大声で黙らせる。そして気を取り直して、カムイに向き合った。
「フゥ……………ムッシュ・カムイ、見事な一品だった」
「ん。シェフ四宮の料理も、悪くはなかった」
「ふっ、『悪くはなかった』か……………………なら今度はその口から『美味い』と言わせてやるよ」
自分の料理を認められはした、だが決して『美味い』とは思われていない。
だからこそ四宮は『次は必ず美味いと言わせてやる!』という決意を固め、今はカムイの料理を素直に称えることにした。
カムイもまた四宮の料理を食べ、初めてこの世界の料理人の『味』に触れるという経験をし、『これが食運の導きか』と自分がここに来た意味を知る。
しかし……………………『食運』の導きはこれだけではなかった。
四宮の『看板料理 スペシャリテ』は原作でもスピンオフでも出てこなかったと思ったので、オリジナルで出しました。
もし出てきていたらゴメンナサイ!!!
【本日のグルメ食材】
オゾン草・ミルクジラ・あられこしょう・メルクの星屑
ちょくちょく『ミルクジラ』が出てきているのは、単純に汎用性が高いためてすので、気にしないでください。
それでは皆さん、次回で♪
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