今話で【宿泊研修編】を終えたいと思ったので、いつもよりも長めになっています。
また、ストックの関係から次章より毎日投稿ではなく、毎週金曜日18時からの投稿にいたします。
読者の皆さんには申し訳ありませんが、これもエタることなく定期投稿するため、ご理解賜りたく存じます。
「それでは皆様、どうか朝のひと時をお楽しみください」
堂島の話が終わると遠月関係者および、その家族が一斉にそれぞれへ割り当てられたホールへと入っていく。
今回の試験は【『卵』を使った料理をビュッフェ形式で200食提供する】こと。各生徒は徹夜で考えたメニューを寝不足な身体で出さなければならないという過酷な課題。
もちろん全生徒が同じ場所で提供することは出来ないため、いくつかのグループに分かれる。
また、客側も予め割り当てられたグループのホールで食事を取ることになっている。
ビュッフェ形式での提供のため、各ホールでは客が生徒たちの作った様々な料理を物色して好きに選んでいくのだが……………………『あるホール』では客は歩き回らずに、真っすぐに一か所へと向かっていった。
パアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
肉眼でも見えるくらいの濃厚な旨味を感じさせる香りが、ホール全体を満たしている!
その香りに惹かれて客たちは蝶が花の蜜に吸い寄せられるが如く集まり、他の生徒の料理には見向きもしない!!
渦中にいるのは、毎度おなじみの光景となっているカムイであった。
カムイは流れるプールのような対流する窪み穴が開いた機材を用意してもらい、その窪みの中に『十黄卵』で作ったスクランブルエッグを投入。
スクランブルエッグは半固形状の『レア』に近い状態のため、どちらかと言うとソースに近い。
そこに一口サイズに用意したニンジン・トマト・ブロッコリー・ジャガイモ・アスパラガスのコンフィや自家製ベーコン&ソーセージをくぐらせて食べるというもの。
言わばチーズフォンデュならぬ【エッグフォンデュ】を作ったのだ。
もちろん、一つ一つの食材に爪楊枝を刺して一度使った楊枝を再使用しないよう衛生面にも気をつけている。
「美味しい~~~~~♪ とろ~~りとした卵の食感が堪らないわ♪」
「チーズフォンデュみたいに卵をフォンデュさせる料理なんて初めて見た! この食材をくぐらせる楽しさがクセになるのよね~~~♪」
「しかも野菜をちゃんと取れるし、甘味や酸味に渋味と色んな味があるから飽きることが無いわ! いくらでも食べられちゃいそう♪」
「スッゲえ! こんな面白いの初めてだ! しかもスゲエ美味い!」
「おれ、ブロッコリーやニンジン嫌いなんだけど、これなら食べられる!」
「私も、トマト苦手なんだけどこの卵にくぐらせると大丈夫♪」
「ふぉっふぉっふぉ♪ ニンジンの甘さ・トマトの酸味・ブロッコリーの爽やかさ・ジャガイモのホクホク感・アスパラガスの渋み・ベーコンの塩気・ソーセージのボリューム、どれも卵の甘さとピッタリじゃわ♪」
「見てください。普段から野菜を食べようとしない子どもたちが、おかわりするぐらい喜んで食べています♪」
「単に『栄養バランス』や『味』だけではなく、アトラクション的な『楽しさ』を与えるなんて、今年の学生さんは凄いのねぇ♪」
濃厚な卵の香りによって客を引き寄せ、目新しい料理で興味を攫い、そして自ら食材をくぐらせて食べるという老若男女問わない楽しさを提供したカムイの料理は、ホールにやってきた全ての客を独占していた。
普通なら百人ほどの客が一気にに押し寄せてくれば、提供側は間違いなくパンクするだろう。
だがカムイの超絶的な調理スピードと『ワープダイニング』により、客は1mmも待つことなく次々に捌けていく。
しかも提供台の仕組み上、客は歩きながら食材を卵にくぐらせて食べていくため、実質的に『待ち時間』というものが無い。
カムイの神業のような調理技術を見つつ、食材を受け取り歩きながら列に沿って食べていく。そして食べ終わったら皿を置いて、また列に並び直す。
まさに流れるプールのように人が流れては並び直すため、客は留まることなく料理と調理風景を楽しむことが出来る。
それにより客はカムイのブースから離れることが無いので、他の生徒たちのブースは閑古鳥が鳴いている状況であった。
「Oh~~~ナッさん、どうして私は食べたらいけないのデスカ!?」
「我慢してくれ、レオノーラ! キミがここでカムイくんの料理を食べては大惨事になってしまう!!」
「ナッさん、向こうに専用の部屋を用意してもらったよ!」
「レオノーラさん、向こうで私たちと一緒に食べよ!」
芳醇な香りを漂わせるカムイの料理を食べようとするレオノーラを、宗衛とベルタ&シーラが抑え込み奥の部屋へと押し込んでいく。
『薙切』として覚醒してしまったレオノーラがカムイの料理を食べれば、その場で全裸になることは間違いないので当然の措置と言える。
そうして離れた部屋でレオノーラたちが全裸になっている傍ら、片っ端から客を捌いていくカムイ。
とうとう客は他の生徒たちのブースに近づくことはなく、試験はそのまま終了。
なんとカムイはノルマであった500食を遥かに上回る2000食を達成! これは宿泊研修始まって以来のハイスコアである。
運悪くカムイと同じグループになった生徒たちは、山と積まれた皿を見て退学を余儀なくされる………………………だが生徒たちは等しく、カムイへの恨みを滾らせていた。
歴代最高のスコアを叩き出したカムイは、仙座衛門の言う通りに宿泊研修を終了。そのまま仙座衛門や宗衛たちに連れられて、ホテルの一室にて対談をしていた。
「カムイよ。もし卒業後も遠月学園に在籍してくれるというなら、其方には『学園総帥代行』の地位を与えよう。実質的に其方は遠月学園の全てを自由に扱えるということだ、どうだ?」
「カムイくん、キミの持つ知識と技術は人類の宝だ! 今すぐにとは言わない、だが卒業後は私たちの養子となり『薙切インターナショナル』へ在籍して欲しい! 共に食の叡智を推し進めようではないか!!」
「カムイくん、お母さんと一緒に『薙切インターナショナル』で働きマショウ? アリスだってあんな風に言っていマスガ、きっとアナタのことを気に入ルワ」
「お兄様、私たちと一緒に北欧へ行こう!」
「お兄様、私たちに料理を作って一生可愛がって!」
聞けば聞くほど混沌が極まっていき辟易していくカムイだったが、何故か宗衛たちのことを無下に扱う気にはなれなかった。
正確にはアリスが【食戟】を挑んできたあたりから、どうもカムイは彼らのことが気になり始めている。
もちろん恋愛感情などではない……………………ただカムイの『直観』がアリスや宗衛たちの下から離れようとはしていないのだ。
普通なら即座に『裏の世界』を通って行方を眩ますのだが、今回ばかりは敢えて留まり続けている。
(『食運』が働いている? もしかしたら、コイツらの存在が俺のフルコースに関わっている?)
『食運』がこういう形で反応する場合は、大抵フルコースの手がかりが掴める予兆のため、カムイは今しばらく静観し流れに身を任せることにした。
『食運』が働いている場合は逆らってはいけない、カムイがこれまでの旅で学んだことである。
「考えておく」
カムイとしてはこの世界に永住するつもりは無い。だが少なくともこの世界でまだ知りたいことがあるので、それらを学ぶまでは遠月で世話になるのも悪くないと判断する。
政治家のような濁した答え方だったが、それでもカムイの様子から『遠月に所属すること自体には前向きである』と感じた仙座衛門。
現段階ではこの回答で良しとする、無理に答えを強いて心証を悪くされては目も当てられないからだ。
また、宗衛の口から『薙切インターナショナル』が分子ガストロミーを基軸とした最先端の調理技術を研究しているという話を聞き、カムイは非常に興味を持った。
カムイが『薙切インターナショナル』に興味を持ちつつあるということに手ごたえを感じた宗衛も、性急に事を進めるべきではないと思い、『興味があったらアリスを通せば、いつでも来てくれて構わない』と施設の使用許可を出してこの場は終えることにした。
そうして二人との話を終えたカムイだったが、今度はレオノーラ・ベルタ・シーラの三人に捕まり『構って!』とおねだりの嵐。
ひとまず料理を作って大人しくさせるも、カムイの料理を食べてまたもや全裸となり動けなくなるという事態に発展。
そのため学園へ帰る際もレオノーラたちに引っ付かれ、半ば連行されるような羽目になってしまう。
結局、宿泊研修を誰よりも早く終えたものの、遠月学園へと帰ったのは他の生徒と大差なかった。
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「いや~~~~悪いなぁ、薙切ぃ。相乗りさせてもらっちまって♪」
「まったく。忘れ物は仕方ないとして、自分のバスを見失って乗り送れるなんてね。注意力が散漫しているのではなくて?」
カムイがレオノーラたちと共に遠月学園へ向かっている頃、幸平とえりなはバスに乗り遅れたため、ホテル側で用意した車で学園へと向かっていた。
「それで? 四宮シェフとの【食戟】だけど、カムイくんも料理を作ったと言うのは本当なの?
しかもフルコースの一品が完成したと言っていたわよね。詳しく聞かせてもらえるかしら?」
えりなが幸平との相乗りを許可したのは、非常時だったというのもあるが、それ以上に四宮との【食戟】時にカムイが作った料理について詳細を聞きたかったためである。
特にカムイの【人生のフルコース】。その一品が完成したとあれば、えりなでなくても興味を抱くのは当然と言えよう。
「あ~~~それなぁ、と言ってもフルコースの『スープ』の方は見てないし、四宮先輩に作った料理も味の感想は四宮先輩の受け売りになるけどいいか?」
「ええ、構わないわ。むしろ四宮シェフの感想の方が味をイメージしやすいもの」
えりながそう返すと、幸平は四宮から聞いたとおりの感想を伝える。また『スープ』にしても、自分が感じた限りの感想をえりなに話した。
「そう、『天空に昇るかのような爽快さと舌をとろけさせるような上品で優雅な甘さを持つ料理』ね……………………私も一度食べてみたいものだわ」
「ああ、遠巻きに見ただけなのに目が離せないほどのインパクトがあった。あの四宮先輩ですら『自分の「看板料理」なんか足元にも及ばない』って認めたぐらいだからな~~~~」
遠月学園の元第一席にして『野菜料理(レギュム)の魔術師』と呼ばれる四宮小次郎、その腕前は『神の舌』を持つえりなですら認めているほどだ。
無論、彼の店の看板メニューも食べたことがあるので味は知っている。まさしく一流と呼ぶに相応しい美食であった、あの味を超える料理を作ることはえりなでも難しいことだろう。
しかしカムイはそんな料理ですら、霞んでしまうほどの料理を作ってしまった。
普通ならとても信じられないが、カムイの料理を何度も味わった経験から、幸平の話に間違いはないと確信する。
「そんな料理をあっという間に作れることも驚きだけど……………………やっぱり気になるのはフルコースの『スープ』ね」
「だな。厨房に残っていた僅かな残り香でさえ、身体中に生気が漲ってくるような『旨味』を感じた。
もしそんな料理を実際に食べたりしたら……………………どうなるか想像もつかねえ」
既に食べ終わっていたはずなのに、残り香ですら心身を満たしてくるほどの料理。あの場では笑っていた幸平も、今になって思い出しただけで身震いをしてしまう。
「何にしても、彼の腕は間違いなく世界最高峰。今の遠月はおろか、私の知る限りで彼に敵う料理人はいないわ。【秋の選抜戦】から外したのは正解だったわね」
「ん? 何だよ、その【秋の選抜戦】って?」
「ハァ、呆れた。そんなことも知らないの?」
これから行われる一年生の一大イベントのことを全く知らない幸平に呆れるえりな。仕方なく【秋の選抜戦】とはどのようなものなのかを端的に教える。
「へぇ~~~、そんな面白い行事があるんだなぁ。へへっ、燃えてきたぜ♪」
「合宿終盤でスーツ姿の審査員がいたことに気づいたでしょう? もう粗方の選抜は終わっているはずよ」
「ああ、そう言えばそんな人がチラホラいたな。で? 何でカムイは出場できないんだよ」
「あのねぇ、【選抜戦】には十傑である私ですら出られないのよ? その私をも超えるカムイくんが出られるわけないでしょう」
「え? 薙切も出られないの? 何で?」
「十傑は【選抜戦】の運営委員なのよ。それに【選抜戦】は実力が未知数な一年生の実力を計る側面もあるの。既に実力が認められている十傑の私は出る必要が無いのよ」
「何だよ~~~、せっかくだから薙切やカムイと直接ぶつかってみたかったのにな~~~」
えりなはともかく、同じ時期に編入してきたカムイをライバル視する幸平はカムイと戦えないと分かって、せっかくのやる気が削がれてしまう。
流石は四宮に真っ向から勝負を挑んだ強心臓、『怖いもの知らずここに極まり』である。
「お生憎様、私はもっと上を目指しているの。そして絶対にカムイくんから『美味しい』って言ってもらうんだから」
えりなはえりなで『カムイに自分の味を認めてもらうこと』を目下の目標としているため、同年代同士の料理勝負にはあまり興味が無い。
しかしそんなえりなを見て、幸平はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
「……………………な、何よ、そんな気持ち悪い顔して」
「いんや~~~、別に~~~~? ただ薙切って、【カムイのこと】になるとムキになったり素直になったりしているからさぁ。案外、可愛いところあるじゃん♪」
「なっ、なっ、なっ、何が『可愛い』よ! 変な誤解しないでくれる!?
私は『純粋な料理人』として彼を尊敬しているのであって、別に恋愛感情があるわけじゃ」
「おやおやおや~~~? 俺は別に『恋愛感情』なんて一言も言ってないぜぇ? ただ『カムイに関しては素直だな』って言ってるだけだし♪」
「っ~~~~~~~~/////////////////」
幸平が底意地の悪い煽りをすると、色恋沙汰とは無縁であったえりなは顔が真っ赤になり何も言えなくなってしまう。
一般的な女子高生なら笑って流すなり誤魔化すなり出来るだろうが、箱入りお嬢様であるえりなではこの手のレスバは荷が重い。
「ふ、ふふ、ふふふふ……………………そう、いい度胸ね。この薙切えりなをコケにするなんて。
覚えておきなさい、【選抜戦】の出場者の選定は十傑評議会の仕事よ。もし幸平くんの名前があったら十傑権限で外してやるんだから!」
「なっ!? おい、ふざけんな! そんなことしていいのかよ、公私混同じゃねえか!?」
「この私を揶揄ったバツよ! いい気味だわ!」
口先だけの勝負では分が悪いと判断したえりなは、自分の持っている強権を発動して仕返しを目論む。
幸平もまさかそんな形で意趣返しをしてくるとは思わず猛抗議をするが、えりなは一切耳を貸そうとはしない。
学園に着くまで幸平は喚きまくるが、一度言い出したら聞かない性格だと理解し最終的には根負け。平謝りすることでどうにか許してもらえた。
げに恐ろしきは『権力を持った子ども』である。
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「それではこれより、薙切アリス選手とカムイ選手の【食戟】を始めたいと思いま~~す♪ なお司会兼実況はこのワタシ、川島麗がお送りしま~~す♪」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!
一年生の宿泊研修が終わってすぐにアリスとカムイの【食戟】が執り行われることとなった。
薙切の一族である『薙切アリス』と第零席である『カムイ』の勝負ということもあって、会場はいつぞやのように満員御礼。
えりなを始めとした『遠月十傑』だけではなく、アリスの両親と同僚であるベルタとシーラ。もちろん極星寮のメンバーも観戦に来ている。
「今回のテーマは『とうもろこし』! 作る料理のジャンルは自由、制限時間は2時間。
薙切選手が勝てばカムイ選手は薙切選手の『付き人』になり卒業後は『薙切インターナショナル』に所属すること。
逆にカムイ選手が勝てば、薙切選手は在学中カムイ選手の学園生活に最大限協力すること。双方この条件に異存はありませんか?」
「ええ、もちろん♪」
「ん」
カムイは自分の人生が懸かっているというのに、アリスは在学中だけカムイに協力すればいいという一見するとアンフェアな条件。しかしこれは仙座衛門や宗衛たちが出した条件である。
【食戟】は双方の合意によって決まるものであり、負ければ勝った側へそれなりの代償を払わなければならない。
カムイの人生を懸けるということであれば、それに見合う価値をアリスは提示する必要があったのだが、当のカムイはアリスに何も要求しなかった。
カムイは最初から料理に自分の人生を懸けているため、改めて自分の進路を決められても何も思うことは無い。そもそもからして他の料理人とは覚悟が違うのだ。
ただそれでは勝負が成立しないということで、アリスが負けたら在学中はカムイの学園生活に最大限協力するという条件を出した。
これには何故かえりなが反対したのだが、えりなは『十傑』としての仕事の他に各企業からの味見役の仕事もあるため、カムイには手が回らない部分がある。
そのため、えりなが仕事などで手が離せない場合は、アリスが可能な限りカムイの面倒を見るということになった。
自分が負けるとは露ほども思っていないアリスは自信満々にこの条件を承諾し、こうして勝負が成立したのだ。
「それでは舌の上での大一番♪ 食戟、開始ーーーーーーー!!!」
司会者の試合開始宣言と共に銅鑼の音が響き、二人は調理を開始する!
カムイの調理台には目も眩むほどの輝きを放つ『金の調理器具』が並び、アリスの方にはカムイとは違った意味で目が眩みそうになる最新鋭の高価な器材が用意されていた。
まず観客の目を引いたのはアリスの調理風景だった。瞬間凍結機・凍結粉砕機・スチームコンベクションオーブンなどの最新機器を駆使して、課題の『とうもろこし』を様々な形に変化させていく。
滞ることなく調理を進めていく様から、プロの現場でも採用されていないような器材を如何に扱い慣れているかが窺い知れる。
一方のカムイだが、『BBコーン』をこそぎ落したら『メルクの星屑』や『七味ハーブ』『ツクシナモン』などのスパイスを合わせた『特製ケイジャンスパイス』と卵白を混ぜて『ドーム』状に固めていく。
一見すると地味な調理風景だったが……………………一気に観客のみならずアリスの視線すらも奪い去った!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!
以前、久我と戦ったように即席の焚き火台を組み上げたら『灼熱コークス』を使い、巨大な火柱を作り出す!
会場にいる全員が巨大な火柱に見入っていると、『金のフライパン』を置いて火柱を沈めてしまった!!
『金のフライパン』の下で轟々と燃え盛る炎!! 普通の人間なら輻射熱だけで肉体が焼け爛れるだろうが、カムイは全く気にせず調理を進める。
強大な炎の熱を蓄えた『金のフライパン』に『モルス油』を垂らしフライパン全体に馴染ませたら、こそぎ落とした『BBコーン』を入れる。
焦げつかないよう『金の菜箸』で何度もこまめにひっくり返しては、折を見て『灼熱コークス』を継ぎ足し火力を上げていく。
やっていること自体はとうもろこしの粒をひっくり返しているだけなのだが、会場全体に伝わる熱気と先ほど目の当たりにした火柱から観客は全員息を呑んでいた。
(っ~~~~! 何なの、いったい! あんなの、ただ『とうもろこしを炒めている』だけじゃない!!
あんな職人芸なんかで美食の叡智を超えられるものですか!!!)
カムイの調理する様を見て『職人芸』と言い捨てるアリスだったが、本心では分かっていた。
カムイが作る料理には自分には無い『魔法にも似た魅力がある』と!!!
『科学』とは『魔法』という空想を機械によって現実化したものである。謂わば『科学』はいつだって『魔法』という空想の後追いなのだ。
そんな二つが同じ条件で真正面から戦えば、勝敗は一目瞭然である。
足元から忍び寄る『敗北の気配』を振り切るように、アリスは器材を使って調理を進めていく。
そうして残り時間が僅かになったところで、今まで『BBコーン』をひっくり返しているだけだったカムイが、作っておいた『金のスパイスドーム』をフライパンに張り付けると一気に火力を上げた!!!
ブン! シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……………………バコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!
カムイがフライパンを上に放り投げると凄まじい爆音が会場に響き渡る! 爆音と共に『BBコーンの粒』が弾け、一緒にスパイスのドームを吹き飛ばす!!
ポップコーンはスパイスを纏いながら会場全体へ雨のように降ってきた!!!
「デ、デケエ、何てサイズのポップコーンだよ」
「ああ、ソフトボールぐらいの大きさがあるぞ?」
「でも、良い香り♪ まるで揚げたてのコロッケみたいな香ばしさだわ♪」
「ゴクリ、こ、これって、俺たちも食べていいんだよな?」
『BBコーンのポップコーン』は審査員だけではなく、アリスや観客までに行きわたっている。それどころか地面にも落ちているため、会場はポップコーンまみれになっていた。
見たことも無いサイズのポップコーンに全員が戸惑っていると、カムイがいつもの如く合唱をする。
「この世のすべての食材に感謝を込めて、『いただきます』」
カムイが食べ始めると周りの者たちも恐る恐るポップコーンをかじり出す。
すると全員がポップコーンを勢いよく食べ始めた!!!
「う、美味ええええええええええええええ!!! なんて美味さだ! 手が止まらねえ!!!」
「普通のポップコーンみたいに引っかかることが無い! スルスルと溶けて消えていく!」
「食欲をそそる香ばしさ! コクのある甘味! それらがスパイスの刺激的な風味と一体になって、食べるごとにお腹が空いていくみたい!」
「食べても食べても満たされない! ずっと食欲を刺激し続けていくらでも食べられそうだ!」
『BBコーンのポップコーン 金のミックススパイス味』に魅了された観客たちは、一心不乱に食べまくる!
一般生徒は当然ながら、審査員である教員・『遠月十
傑』・極星寮メンバー。
この会場にいる全員が手元にあるモノだけではなく、地面に落ちているポップコーンまで手を伸ばし食べようとしている!
まさに会場は『食欲の坩堝(るつぼ)』と化していた!!!
(なっ……………………いったい、何が起こっていると言うの……………………?)
まるで奪い合うようにポップコーンを食べまくる光景を見て、アリスは愕然としていた。
名門中の名門である遠月学園において……………………いや、人がここまで食欲を剥き出しにするところなど見たことが無い。
「Oh、ナッさん! またワタシだけお預けデスカ!?」
「すまないレオノーラ! だがここで『おはだけ』をするわけにはいかないだろう!」
「ナッさん! 部屋を用意してもらったよ!」
「ポップコーンも出来る限り集めてきた!」
レオノーラがポップコーンを食べようとするのを必死で食い止めている宗衛。
レオノーラのために食事用の部屋を用意するベルタ、ポップコーンをかき集めるだけかき集めてきたシーラ。その全員がヨダレを垂らしている。
さらには『神の舌』を持つ、あのえりなですら地面に落ちているポップコーンを拾って食べているのだ。皆のことを知っているアリスからしたら、目を疑うような光景だろう。
(こんな……………………たかがポップコーンに、それほどの味が……………………?)
アリスは落ちてきたポップコーンを手に取ると訝し気に見つめ、一口頬張る。
だが気づいたら、近くに落ちているポップコーンを手当たり次第に食べまくっていた!!!
(止まらない! 自分の料理を用意しなきゃいけないと分かっているのに、食べるのを止められない!!!)
上流階級として、また薙切家の人間として、幼い頃から礼儀作法を学んできたアリス。
普段は天真爛漫で気まぐれだが、それでも畏まった場では優雅に振る舞っている。
しかしそんな彼女も、カムイの料理によって人としての本能……………………『食欲』を引きずり出されては他の者と同じく、ただ目の前の美味なる料理に食らいつくしかなかった。
やがて会場を埋め尽くさんと溢れていたポップコーンは一つ残らず食べ尽くされ、この場の全員がようやく落ち着くことが出来た。
ポップコーンを探し回っていた喧騒とは打って変わって静まり返り、まるで先ほどまでの騒ぎがウソであったかのように思える。
観客たちも、たかがポップコーンのために理性をかなぐり捨てて貪っていた様を思い出せば汗顔の至りだろう。
だがアレは決して夢や幻ではなかった。どんな高潔な聖人ですら夢中になってしまうほどの『旨味』は、思い出すだけでヨダレが溢れてくるのだから。
水を打ったかのように静かとなった会場で、アリスが何も言わずに料理を運ぶ。その姿を見て観客たちも、今が【食戟】の真っ最中であったことを思い出した。
アリスが出した料理は【En ret, der lader dig nyde majsens forskellige temperaturer(トウモロコシの温度の違いを楽しめる一品)】。
トウモロコシを『アイスクリーム』『クネル』『エスプーマ(泡)』などの形に変え、瞬間凍結させてクランチ状にしたトウモロコシの三角パイに乗せた料理。
トウモロコシが持つ甘味を温度変化によって、様々な形で味わえる逸品である。
人の味覚とは一定ではなく、気温や体感温度によって感じる味が違う。例えば甘味一つとっても、冷たいアイスクリームの状態では丁度良い甘さに感じるも、温くなると甘すぎると感じてしまう。
アリスはトウモロコシの形を変え、口に含んだ際に溶けていく甘味の変化を楽しませようと思ったのだ。まさしく『美食の叡智』の結晶とも言える品だろう。
だが…………………………………今回は相手が悪過ぎた。
「「「………………………………………………」」」
「っ~~~~~~~~!!!!」
三人の審査員は一口ずつ食べると、何も言わずにスプーンやフォークを置いてしまう。アリスも分かっていたこととは言え、悔しさを滲ませながら唇を強く噛み締めた。
アリスの料理はまさしく『美食』と呼ばれるものだ。これがもし他の生徒との勝負で出されていれば、間違いなく最高の評価を得ていただろう。
しかしカムイの作った料理に比べてあまりにもインパクト、料理から感じる『迫力』が足りなかった。
あの『食欲』を強引に引きずり出し、人を『食欲に支配された獣』にしてしまうほどの料理を味わった後では、アリスでなくても他の料理は物足りなく感じてしまう。
アリス自身もそのことは分かっていた。だが自分は『料理人』、厨房から逃げ出すわけにはいかない。
ましてやこれは自分から仕掛けた勝負、だからこそアリスは負けると分かっていても『全力』の品を出したのだ。
たとえ敗北の屈辱に塗れることになったとしても。
「……………………アリス、立派だったわ」
「っ、えりな……………………ありがとう」
結果は当然ながらカムイの勝利。さすがのえりなも今のアリスには同情の念を向けざるを得なかった。
自分から挑んだ勝負で完膚なきまでに敗北したばかりか、負けると分かっている品を出さなくてはいけない屈辱は筆舌に尽くしがたいだろう。
でも同時に尊敬もしていた。負けると分かっていながら、それでも料理だけは完成させて出したアリスの姿に、確かな『料理人としての誇り』を見たのだ。
アリスもその想いだけは分かってもらえて、満足気な顔を浮かべる。普段は喧嘩の絶えない二人だったが、この瞬間だけはお互いを認め合った。
「ふぅ~~~~、凄いのね、カムイくん。あんな料理初めてだわ。最先端の理論や知識、技術なんてものを嘲笑うかのように跡形も無く吹き飛ばしてくるんですもの」
「そうね。彼の料理には理屈なんてものを超えた……………………それこそ『魔法』とも呼ぶべき『力』が備わっているのよ」
「ふふふ♪ えりなったら、地面に落ちているポップコーンを夢中で食べてるんですもの。写真に撮っておけば良かったわ♪」
「なっ!? それはアナタも同じでしょう///////////////」
大きく息を吐いて気を持ち直したアリスだったが、今度は腹いせがてらにえりなを揶揄う。
えりなも『落ちている食べ物を拾って食べる』という、普段なら決してやらない行為を思い出して顔が真っ赤になっていた。
「うふ♪ 勝負には負けちゃったけど、えりなのあんな姿を見られたんだから今日は良しとしておくわ♪」
「ア、アナタね~~~~「ちょっといいか?」っ、カ、カムイくん!?」
えりなとは違って意地の悪いアリスはレスバが強い。アリスの態度にえりなが本気で怒ろうとすると、カムイがアリスに話しかけてきた。
「あら、どうしたの? 何か私に御用?」
「ん。これは、何だ?」
カムイの方から他人に話しかけるという珍しい事態に困惑するえりなを他所に、カムイはアリスが持ち込んだ器材の一つを指差して尋ねた。
「ソレ? ソレは『スチームコンベクンションオーブン』、略して『スチコン』ね。
内部のファンによって熱と蒸気を強制的に対流させるオーブンなんだけど、デジタル制御で熱気と蒸気を自動で操り一台で色々な加熱調理が出来るの。
何より、匂いも移ることは無いから別々の料理をそれぞれ適した形で加熱が可能なのよ♪」
「じゃあ、これは?」
「それは『瞬間凍結機』、−80℃で食品の鮮度を保ちなが食材を急速に冷却する機械よ。さらに食品の品質を維持して細菌の増殖を抑えることが出来るの。
しかもこれは最新式で、解凍も一瞬で出来るから細胞膜を破壊せず、旨味のエキスが流れ出ることも無いわ」
カムイはアリスの持ってきた器械を一つ一つ尋ね、アリスはアリスで自慢気に最新器械について説明していく。
しかしえりなは、アリスと親し気に話すカムイを見て『下関のフグ』のように頬を膨らませていた。
(っ~~~~! 何よ、カムイくんったら! アリスとあんなに楽しそうに話を弾ませて!! 私なんかほとんど喋ったこと無いのに!!!)
本来であれば在学中のカムイの面倒はえりなが見ることになっているのだが、カムイが入学してからは全くと言っていいほど接点が無かった。
それというのもカムイが学園に来るのは稀で、普段はどこにいるのか見当もつかない。
GPS付きのスマホを持たせようとも考えていたが、そこまで急ぐこともないと後回しにしていたのが裏目に出てしまった。
そんな今さらな後悔をしているえりなを見て、アリスはピンと閃き意地の悪い笑みを浮かべる。
「フフン♪ ねえ、カムイくん。もしかして、こういう最新の機器に興味があるの?」
「ん、初めて見るものばかり」
「そうなんだ~~~。じゃあ、私の調理棟に来る? ここには持ってこなかったけど、最新の調理機器がまだまだあるんだから♪」
「ッ、コクコク!!!」キラキラ☆
ズキューーーーーーーーーーーンッッッッッ!!!!
(カ、カワイイ♪ え、カムイくんってこんな顔が出来たの!? 普段は無口で不愛想なのに、料理のことになるとこんなに愛らしくなるなんて♪)
(最新機器がたくさんあると知った途端に、あんなに目を輝かせるなんてね♪ しかもあんな凄い料理を作れる料理人……………………絶対にえりなには渡さないんだから!)
見たことの無い機器、自分の知らない調理器具がたくさんあると知って子供のように目を輝かせるカムイ。
ここまで感情を表に出すことは珍しく、また普段の雰囲気からは想像もつかないほどの無邪気さに、アリスとえりなの母性本能が貫かれた!!!
「そう♪ じゃあ行きましょうか、カムイ『兄さん』♪」
「なっ!? ちょっとアリス、何よその『兄さん』というのは!!」
「だってぇ、私が負けたらカムイくんはウチの養子になるのよ? なら私とは『兄妹』ってことでしょう?
ホントは『弟』の方が良かったんだけど、負けたことだし『兄』で良いわ♪」
「まだ養子になるって決まったわけじゃないでしょう!? あと何で腕を組む必要があるのよ! 離れなさい!!」
「知らないの、えりな? 妹は兄に甘えるものなのよ。それに、私が勝手に『兄さん』って呼ぶのは構わないでしょう? ね、兄さん♪」
【食戟】開始前の態度とは180°変わり、カムイのことを『兄』と呼ぶほど気に入ったアリスは、カムイの腕を組みながら調理棟へと案内しようとする。
いきなり『兄』と呼ぶどころか、このままではカムイが独占されると考えたえりなはアリスを引き剥がしに掛かった。
ただカムイにとってはどうでも良いことだったので適当に流す…………………………………ハズだったのだが、何故か心に引っ掛かるものがあった。
「っ……………………別に構わない、好きに呼ぶといい。早く行くぞ、『アリス』」
「カ、カムイくん!? 今、『アリス』って……………………!」
「なあに、えりな? もしかして『まだ』兄さんから名前で呼ばれたこと無いの? じゃあ、私の方がリードってことよね♪」
「う、うるさいわね! 大きなお世話よ///////////////」
実際えりなは今までカムイから一度も名前で呼ばれたことが無い。
そのことを地味に気にしていたが、隙あらばマウントを取りに行こうとするアリスに気づかれてしまい、顔を真っ赤にするほどムキになってしまう。
「ふっふっふ~~~~ん♪ ち・な・みに~~~私と一緒に『薙切インターナショナル』に来れば、もっとたくさんの最新機器に触れられるわよ?」
「………………………………………………………」
「ちょっ、ちょっとカムイくん、なにモノで釣られそうになってるの!? ダメよ、そんな手に引っかかっては!!!」
「あ~~~~! アリス姉様ズルい~~~~!」
「私たちも行く~~~!」
とうとうカムイの弱みを見つけたアリスは、果敢にカムイを『薙切インターナショナル』に勧誘してきた。
このままではカムイが本当に『薙切インターナショナル』の所属になってしまうと危機感を覚えたえりなは、負けじとカムイの腕を抱きしめて阻止しようとする。
こうなってはカムイから一時も目を離すことが出来ないと思い、えりなは新戸に頼んで最新のGPS付きスマホをカムイに渡すことを決めた。
そんな二人を見てカムイが奪られると思ったベルタとシーラも慌てて走り出しカムイに抱きつく。そして自分たちも最先端技術や知識に詳しいことを一生懸命アピールし出した。
「ふっ、どうやらカムイくんは『薙切インターナショナル』に興味を持っているようですぞ、父上」
「むぅぅぅぅぅ、だがまだ『薙切インターナショナル』へ行くと決まったわけではない。早合点はするなよ、宗衛」
勝負はアリスが負けたものの、結果としてカムイが『薙切インターナショナル』へ強い興味を抱いたのであれば、宗衛にとっては十分過ぎる成果だった。
一方の仙佐衛門は、カムイの扱い方が分かることに喜びはするものの、『分子ガストロノミー』という点では『薙切インターナショナル』に及ばないという事実に焦りを覚えてしまう。
「うふふ♪ やっぱりアリスもカムイくんのことが気に入りマシタネ♪ これでカムイくんは私の息子デス♪」
「そうだな。この分だとわざわざ縁組などせずとも、カムイくんは私たちの『義息子』になりそうだ」
「ぬぅ、その点でも後れを取っているか。ここは何とかえりなに頑張ってもらうしかない」
レオノーラはアリスがカムイのことを『兄』と呼び、カムイが認めたことで息子が出来たと勘違い……………とは言わないまでも、すっかり母親気分になっている。
宗衛もカムイがアリスと結ばれるのなら、それが一番手っ取り早いと考え反対する様子は無い。
仙佐衛門はえりなと『カムイが結ばれれば』と考えるが、色事には疎いえりなに現状そこまでを求めても望みが薄いと言える。
なお周りの生徒たちは、『えりな』と『アリス』という学園屈指の美少女に腕を組まれているだけではなく、可愛らしい姉妹に抱きつかれているカムイを見てどよめいている。
女子はキャーキャーと興味津々に騒いでおり、男子は『食欲』を超えた『殺意』が芽生えていた。
グルメシーンばかりというのも味気ないので、ちょっとだけラブコメ要素を入れてみました。
やっぱり【学園モノ】と言えば、ラブコメは必要ですよね!
そして毎日投稿はここまでで、次回からの【秋の選抜戦】は毎週金曜日18:00からの投稿となります。
ご愛読いただいている方には申し訳ございませんが、作者が無理なく投稿できるペースが週イチですので、ご理解を賜りたく存じます。
【本日のグルメ食材】
十黄卵・BBコーン・メルクの星屑・七味ハーブ・ツクシナモン
それでは皆さん、次章【秋の選抜戦編】で♪
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