五月になり、ようやく朝の肌寒さも無くなってきました。ただ暖かくなってきたせいで、なかなか朝に起きるのが難しいです。
皆さんは朝起きる時って、すんなりと起きれていますか?
カムイがえりなのサポート(スーシェフ)として下処理を施した食材を次々に手渡していく。
トマト・ピーマン・ナス・タマネギ・ニンニク・ショウガ・クルミなどをカムイが下処理することで、食材たちは喜び旨味が活性化する。
そんな最高の状態の食材たちが、今度はえりなのセンスによって『料理』というを形にまとめあげられていく。その様は圧巻の一言だった。
元の世界で超一流の料理人の下で修行してきたカムイは、当然ながら彼らの店での勤務経験もある。
特に『膳王ユダ』や『ダマラスカイ13世』の店は毎日超満員、そのため厨房は戦場のように慌ただしい。
しかしメインシェフである二人は顔色を一切変えることなく、押し寄せてくる客のために料理をどんどん作っていく。
そんなレベルの料理人のサポートをするには、いちいち頭で考えながら動いていては間に合わない。
そのためスーシェフは皆、彼らの動きを先読みした上でのサポートが要求される。まさに超一流店はシェフが超一流なら、そのサポート役もまた超一流なのだ。
さらにカムイは『食義』を極めているため、その修行経験を存分に活かすことが出来る。
例え『神の舌』を持つえりなが相手であったとしても、今のカムイは1人分の調理のサポートなど造作もないことである。
「っ、凄い……………………!」
「っ、ああ、言葉を交わすどころかアイコンタクトすら無しに、あそこまで調理をサポートすることが出来るモンなのかよ!?」
「薙切のヤツ、いつの間にあんなスピードで調理できるようになったんだ!? しかもまだ速くなっていく上に、調理が恐ろしいまでに繊細かつ正確だ!!!」
えりなをサポートするカムイを見て十傑メンバーは息を呑み、司・竜胆・女木島はカムイの動きに感嘆の声を上げていた。
それもそのはず。えりなとカムイは調理が始まってからと言うもの、一切の言葉も視線も交わすこと無く調理を進めているのだ!
カムイは超絶スピードによる『活性切り』で旨味を最大化させた食材を次々とえりなに渡し、合間で必要な調味料なども渡していく。
えりなは調理中の料理から目を離さず、カムイが下処理した食材を受け取ってはカムイと同じくらいのスピードで調理を続けていく。
あまりにも無駄のない調理風景に、『月天の間』はもはや調理する音が僅かに聞こえるだけであった。
そんなカムイの完璧を超えるサポートを受けて調理を始めてからしばらくして……………………えりなは真っ白な空間にいた。
地平線すら見えないほど果てしなく広い、音すらも消え去った真っ白な世界。存在するのは調理器具一式と食材のみ。
一瞬、自分が夢の世界にでも迷い込んでしまったような感覚を覚えたが、不思議と頭はスッキリとしており思考はクリアだった。
(分かる! 最適な調理、最適な火入れ。自分は次にどう動けば良いのかがハッキリと!! 『食材』たちが全てを教えてくれる!!!)
えりなが横に手を伸ばすと、カムイが下処理をしたことでキラキラと輝く食材がやってくる。また手を伸ばすと別の食材がやってきて、ひたすらに調理を行う。
食材を受け取ると、えりなは何も言わずに調理に没頭。無音のこの世界で唯一聞こえてくるのは調理の音だけ、真っ白な世界で唯一認識できるのは目の前の料理のみ。
カムイのペースに引っ張られたえりなは、かつてないほどに料理に集中できている自分を実感し、黙々と調理を進めていく。
いつもなら頭の中で次の工程を思考しながら行うであろう調理が、今は考えるよりも『早く』『正確に』身体が自動で動いていくのだ。
(何も考える必要は無い。目の前に見える食材の状態、火を加える際に発する音、漂ってくる香り。
そんな『食材たちの声』だけで十分身体が反応する。私はこの反応に身を委ねるだけでいい…………………凄い、これがカムイくんが見ている『世界』なのね!)
手を伸ばせば必要な食材が最高の状態で手元に届く魔法の世界で、えりなは自分の反応に身を委ねる心地よさを堪能していた。
そうして調理を進めていくうちに料理からは、『食材』が歓喜の声を上げるかのように、『旨味』が黄金の輝きを発するようになっていく!
(あぁ、なんて甘美な世界なの♪ いつまでもこの世界に居たい、離れたくない! この世界でなら私は頭に描くだけで、どんな料理だって作れてしまう♪)
普段の雑踏で不必要な情報で溢れている世界とは違う。ここは正真正銘、『料理』についてのみ没頭できる世界。
この世界では『食材と対話』が出来るかのように、『食材の声』がえりなの耳にもハッキリと聞こえる。
そんな世界で思いっきり調理できる快感に、えりなは虜になっていた。
調理を進めるごとに作っている料理は輝きを増していく。そしてその輝きがピークに達した瞬間に料理は完成。
えりなは元の世界に戻っていた。
「あ、あれ? 私は、いったい……………………」
「えりな様、大丈夫ですか!? 物凄い汗ですよ!!!」
料理が完成したと思った瞬間、えりなの目に映る景色は『月天の間』となり先ほどまで感じていた没入感は消えていた。
クリアになった思考も無くなっており、代わりに心臓が激しく鼓動しているのを感じる。
ドクンッ!!!!
「ッ〜〜〜〜〜〜! ッ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ! げほっ、ごほっ、げほっ!!!」
「えりな様!?」
(ひ、緋沙子? ダメ、目が霞んできた……………………立って、られない……………………)
動悸も激しく息も絶え絶え、顔もどんどん青ざめていく! えりなは調理台に手を置いてどうにか耐えようとするが、足もフラフラで今にも倒れそうだった!
そんなえりなを見て慌てて駆け寄ろうとする新戸だったが、間に合わずにえりなの意識は遠のいていく。
フラァ……………………ガシッ!
「っ、カムイ!」
顔が青白くなって倒れようとするえりなを見て驚く十傑メンバー、しかし間一髪のところでカムイがえりなを支えた。
えりなが怪我をしなかったことに新戸と十傑メンバーはホッと胸を撫で下ろす。
「カ、カムイ、くん?」
「口を開けろ」
「え?」
「早く」
えりなは朦朧とする意識の中で、いつぞやのようにカムイから口を開けるよう言われる。
呼吸もままならないので頭も働いていないが、それでもどうにか言われた通りに少しだけ口を開けた。
チュポッ!
えりなの口が開いた瞬間、カムイは『シェルダーバッグ』から『グルメケース』に保管している『アース』を取り出し、指で掬ってえりなに食べさせた!
えりなは口の中に太い棒のような物が入ってくるのを感じるも、すぐに極上と言う言葉ですら足りないほどの『甘味』が押し寄せてきた!!!!
(なに、この甘味は!? まるでこの世の甘味と言う甘味を全て結実させたかのような味わい!! 濃厚かつ芳醇、上品かつ優美! そんな甘味が私の身体を隅々まで潤していく!!!)
えりなが未だかつて味わったことが無いほどの甘味を感じるのも無理はない。えりなが食べたのは【アカシアのフルコース】、そのデザートである『アース』なのだ。
星が持つ全ての甘味を吸収して実る『アース』は、【アカシアのフルコース】の中でもトップの栄養価を誇る。
そのためこの世に『アース』を超えるエネルギー源は無いとさえ言われているほどだ。
持てる体力を全て使い果たし、極限の疲労困憊にあったえりなを回復させるため、カムイは『アイランドシェル』で育てている『アース』を食べさせた…………………………………のは良かったのだが。
チューッ! チューッ! チューッ! チューッ!
「え、えりな様/////////////////」
えりなは口の中に広がっている甘味に酔いしれ、一滴も残さず摂取しようとカムイの手をガッシリと掴んで吸いつく!
あまりにも背徳的な光景に、新戸をはじめ周りの者たちは顔を赤らめてしまう。
やがて指に染み込んでいた甘味を全て吸いつくし、甘味が出なくなったことを確認したえりなの意識は、ようやくハッキリとしてきた。
ボヤケていた視界も回復し、先ほどまで感じていた疲労感や倦怠感は微塵も無い。
「っ~~~~~~~~~~~~///////////////////」
しかし先ほどまで真っ青だったえりなの顔が、今度は真っ赤になっていく。視界が戻った瞬間、えりなの目に飛び込んできたのはカムイの顔だったのだ。
えりなが倒れないよう支えているカムイの顔は、ほんの少し顔を前に出せばキスが出来そうな距離である。
けれど今のえりなにはそんなことを気に掛けている余裕が一切無かった。
「っ、カ、カ、カ、カ、カムイくん!? もしかして、私が吸い付いてたのって……………………!?」
「俺の指」
「っ、い」
「?」
「いいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
公衆の面前とまでは言わなくても、人の目のあるところで男性の…………しかも同年代の男子の指を思いっきり吸っていたという事実に、えりなの脳はとうとうオーバーヒートする。
普段は静かな『月天の間』には、えりなの叫び声がこだましたのだった。
「う、う、う、う、うぅぅぅぅぅぅ、し、死にたい、もうお嫁に行けない……………………」
「え、えりな様……………………そ、その、元気を出してください。ほら、あれはその、事故みたいなものでしたので……………………」
スプラッター映画もかくやというぐらいに叫んだえりなは、一旦は落ち着きを取り戻すも今度は激しい自己嫌悪に陥ってしまった。新戸がなんとかメンタルケアに勤しむも全く効果はない。
周りの十傑メンバーもさすがに冷やかす気にはなれず、それどころか何て声を掛けてやればいいか分からない状況である。
そうして『月天の間』らしからぬビミョーな空気になっていると、カムイが新戸にドリンクを差し出した。
「ん」
「っ、これは、えりな様にか?」
「コクン」
「すまない、助かる。えりな様、カムイがドリンクを持ってきてくれましたよ? これを飲んで元気を出してください」
えりなの立場で考えれば、今はカムイの顔をまともに見ることが出来ないだろう。体育座りで落ち込むえりなの姿は、さすがのカムイも見るに見かねて気を遣ってしまうほどだった。
「チューチュー、っ~~~~~! お、美味しい♪」
カムイが作ったドリンクはグルメ食材の『しびレモン』と『ハニードラゴンのハチミツ』で作った『特製レモネード』。
雷に打たれたように痺れる酸味とコクのある甘味が、気落ちしたえりなの身体に活力を漲らせていた。
「あ、っ~~~~~~~~~////////////」
「え、えりな様!? どうされましたか……………………って、あ……………………」
カムイの『特製レモネード』を飲み干し、ようやくえりなの機嫌が戻ったと思うのも束の間、えりなはまたも顔を真っ赤にしてしまう。新戸が再びえりなの様子を伺うと、その理由に気づいた。
「……………………すまないカムイ、もう一杯頼めるか? 今度は『ストロー』抜きで」
「? わかった」
どうやらえりなはストローを使ったことで、先ほどカムイの指に吸い付いていたことを思い出してしまったようだ。
カムイなりに気を遣ったのだが、結果的には裏目に出てしまった形である。
「え~~~っと、とりあえず、薙切の料理を皆で食べようか?」
「そうッスね。いや~~~それにしても驚いたよ。まさか薙切ちゃんが、あ~~んな大胆な「久我先輩っ!!!」」
「グスッ、後生ですから、何も、言わないで、ください/////////」
「あ~~~、うん。ゴメン、もう言わない」
カムイの『特製レモネード』を二杯飲んで今度こそえりなが落ち着いたのを確認した司は、本来の主旨である品評会を開始しようとする。
ただ久我がいつものノリでえりなを揶揄おうとするや、えりなは顔を真っ赤にさせながら涙目で睨むという器用な芸当を披露し久我を諌める。
さすがの久我もこれ以上この話題に触れるのは可哀想だと思い、大人しく引き下がるのであった。
「ハァ、ホンット、デリカシーの無いヤツね」
「ハハハ、まぁ何はともあれ、せっかく薙切くんが作ってくれたことだし、冷めないうちに食べよう」
「そうそう♪ それにしても、美味そうだな~~~! 料理が輝いて見えるぜ♪」
「うむ。食欲をそそるこの香り、まるで食材が喜んでいるかのようだ」
紀ノ國が久我をゴミを見るような目で睨むと、一色が間に入って仲裁。一同は薙切の料理がキラキラと輝いて見えるほどの完成度に目を奪われる。
えりなが作ったのは【秋鮭と舌平目の硫酸紙包み】。旬を迎え始めた秋鮭に舌平目の身を薄く巻き、シメジなどのキノコと一緒に香味野菜・アンチョビ・クルミ・魚介から作ったトマトベースのソースを加える。
このソースがまた手が掛かっており、カムイによって旨味が活性化した食材をミキサーにかけ裏ごししペースト状にすると、今度は布フィルターを使ってドリップさせて野菜のエキスのみを抽出する。
そうして抽出した純粋な野菜エキス、謂わば『野菜水』で作った透明感のあるソースなのだ。
そのクリアな味わいのソースに仕上げとしてトリュフを散らし、硫酸紙で包んでオーブンで焼いた品である。
パァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
硫酸紙を破った瞬間にむせ返るように溢れてくる香りが食欲を刺激する!
野菜・魚介類・キノコ類の爽やかで素晴らしい香りが渾然一体となり、十傑メンバーだけではなく奥で控えているSPの食欲までも強烈に刺激した!!!
一嗅ぎで肺すら満たしてくるふくよかな香気を存分に堪能した十傑メンバーが、鮭の身を切り分けて口に運ぶと
雑味の無い純粋な旨味と香りの洪水に呑み込まれた!!!
「っ〜〜〜〜〜! う、美味い!! 秋鮭と舌平目を筆頭に、魚の旨味が怒涛の如く押し寄せてくる!!!」
「たっはーーーーーーーーー! うんめーーーーーー! 秋鮭は少し旬には早いけど、そのおかげで舌平目と濃厚ソースによくマッチしてるぜぇ♪」
「このキノコ類もただの添え物じゃねえ。シメジ・マイタケ・アワビ茸・岩茸など様々なキノコのおかげで味わいが深くなるばかりか、食感まで加わって一層の満足感を与えている」
「そしてこのソース。コクと香りを出しているクルミが、この料理の影の主役だね」
「それにしてもこのソースのピュアな味わい、まるで完璧に入れたコーヒーみたい……………………っ、そうか! このソースに使ったのは『野菜水』!! ペーストにしたトマトなどの野菜をネルドリップさせて抽出した水分だけで作った雑味の無いソースだからこそ、淡泊な鮭や舌平目の味とここまで調和してるんだわ!!!」
「しかも舌平目の身とは異なる香ばしさ! コレは……………………なるほど、舌平目の骨を粉末状にし乾煎りしたものを入れたのか!!」
「骨を舌平目を巻く前の鮭の切り身にも塗すことで、舌平目とは異なる香ばしさを出すと同時に染み出た骨のエキスがソースにコクを加えています♪」
「乾煎りした骨が非常に細かい粒子になっているから、全く引っかかることなく食べれるね♪」
「『骨の香ばしさ』『舌平目の深い味わい』『キノコの食感』『クルミのコク』。
それらをクリアな香味ソースが一つにまとめ上げることで、鮭のシットリとした身質と淡白な味わいが最大限に活きているわけか」
えりなの料理を食べて十傑メンバーは大絶賛、特に第一席である司がここまで手放しで誰かの料理を褒めることは珍しい。
単純に強い旨味を掛け合わせたのではなく、ステンドグラスのように淡い味わいを幾重にも重ね合わせることで、個々の特徴を光らせながら統一感のある味わいを生み出した。
淡い味同士を掛け合わせるというのは、裏を返せば『どれか一つでも味が主張してしまえば、即座に料理が崩壊する』ということでもある。
まさしくカムイの『技術』とえりなの『神の舌』があってこその料理と言えよう。
だがこの料理を食べて一番驚いているのは、他ならぬ『えりな自身』だった!
(っ、ち、違う、私の想定ではこんなにも深い旨味とコクは出ていなかった!
明らかに『神の舌』が導いた味とは別次元の料理になっている! ここまでの味わいになった理由は間違いなく……………………)
えりなは目の前の料理が『神の舌』のレベルを遥かに超えた美味さになっていることに驚愕する。
こんなことは初めてのことであり、今までの調理と今回の調理では、明確に異なる点があったのは一目瞭然であった。
「凄いな、薙切! 俺でもこれほどの料理は「いいえ、違いますわ司先輩」 え?」
「私の想定では、この料理はここまでのクオリティではありませんでした。
けれど今は私の『神の舌』でも計りきれないほどの美味しさになっています」
「そうなのか? じゃあどうしてそんなに味が変わったんだ?」
「考えられる理由はただ一つ、カムイくんです」
皆がえりなの料理を大絶賛するも、えりなはその評価を素直に受け取ることが出来なかった。
この料理をここまでの味わい、理論値を限界突破した美味しさに引き上げてくれたのが『カムイのサポート』であることを確信したのだ。
「カムイが? どういうことだ薙切?」
「実は」
この場にいる全員がカムイに怪訝な視線を向けるも、当の本人は黙々とえりなの料理を食べていた。そんなカムイを見ながら、えりなは調理中に自分が体験したことを皆に伝える。
・目の前の料理以外の情報が全てシャットアウトされたこと
・思考がクリアになった上に五感が冴え渡り、頭で考えるよりも先に身体が最適な調理を行っていたこと
・手を伸ばせば下ごしらえ済みの食材が出てくるのだが、その食材がどれも光り輝いて見えていたこと
・調理を進めれば進めるほど食材の輝きが増し、料理が歓喜の声を上げてるように思えたこと
・料理が完成すると、立っていられないほどの疲労感が押し寄せてきたこと
自分でもよく分からない体験だったのだが、それでもえりなはあの時の感覚を出来る限り詳細に話した。
「そうか、そんなことがあったのか」
「にわかには信じがたい話ではあるな」
「ただ、確かに調理中の薙切ちゃんは怖いくらいに集中してたよな~~~~」
「うん。感情というものが目に宿っていなかったように見えた」
「それほどまでに集中力が高まっていた、ということかしら?」
「スポーツで言うところの『ゾーンに入る』ってヤツじゃないかな?」
「なるほどな。だから薙切は体力を使い果たしてぶっ倒れたってわけか」
「つまり格闘マンガみたいに『潜在能力を全開放した』ってこと? カッコイイじゃん♪」
えりなの話を聞いて半信半疑な十傑メンバー。確かに聞く限りだと突拍子のない話ではある。
しかし実際に見たえりなの調理姿と出来上がった料理の完成度から判断すると完全なデタラメとも言えなかった。
「久我や叡山はこう言っているが、実際のところはどうなんだ薙切」
「そうですね、たぶんその表現が一番近いと思います。調理中の私は、普段見えないモノが見えて、普段聞こえない音が聞こえている。まるで脳のリミッターが外れたかのような感覚でしたから」
「カムイの完璧なサポートによって、料理への集中力が極限まで高まったというわけか」
「それにより『ゾーンに入った』状態となり、持っていたポテンシャルを100%発揮することが出来た」
「そうして出来上がった料理は、かつてないほどのクオリティになった」
「けどそのせいで一皿作っただけで体力が尽き、身体には今まで以上の負担が掛かった」
「だから薙切くんは真っ青になって倒れるほどに消耗してしまったということか」
「「「「「…………………………………………」」」」」
えりなに聞いた話を全員で整理すると、カムイ以外は一斉に静まり返ってしまった。理屈としては理解できる話ではあるが、実際にそんなことがあり得るのかと未だに疑っている。
人間は持てる力の100%を引き出せるようには出来ていない。それは身体を守るための安全装置(セーフティー)が掛かっているからだ。
もし自身が持つポテンシャルを100%引き出せれば、それこそ料理に限らず超人的なパフォーマンスが可能となるだろう。
スポーツであればオリンピックで金メダルを総ナメすることも難しくない。
しかし当然のことだが、普段は身体を守るための安全装置であるリミッターを外すわけだから、その反動は凄まじいことになる。現にえりなは一品作るだけで倒れてしまった。
十傑メンバーは興味と不安、好奇心と恐怖心が織り交ざった複雑な心境となってしまう。
しかしその逡巡も一瞬であった!
「……………………試してみるか」
司がそう言うと全員の目に炎が宿り頷く。
恐怖はある。ポテンシャルを100%引き出した自分はいったいどうなってしまうのかという恐怖と、消耗しきったえりなの姿を思い出し『自分もああなってしまうのか』という恐怖が。
しかし恐怖以上に興味があった。【神域の料理人】と呼ばれるカムイが今も夢中になって食べてしまうほどの料理を、自分たちの手で作り出せる。
それは間違いなく自分たちが現在ぶつかっている壁をいくつも超えることになるだろう。
「本気か?」
「ああ。もし薙切が言っていることが本当なら、俺たちは『料理人』として成長…………いや、【進化】した自分を体感することが出来る。
恐らくこれから何年も費やして到達する、もしかしたら一生涯費やしても到達出来ないかもしれない『未来の自分の先取り』。むしろ、やらない理由が無い」
ここにいる全員は未知なる領域であっても、更なる高みへと続く道ならば迷わず飛び込むという気概を持っていた。
何故なら彼らは『生粋の料理人』なのだから!!!
この場で気を失う覚悟を決めた全員は、カムイにサポートを頼み込む。
(この世界の料理人でも、俺がサポートをすることで『味』を完全に認識することが出来る。これも『食運』の導きによるものか)
カムイにとってもコレは嬉しい誤算であった。そしてえりなだけではなく、他の料理人の『味』も知ることが出来るということなら拒む理由は無い。
カムイは十傑たちからの提案を承諾、かくして十傑メンバー全員がカムイのサポートを受けて料理を作ることとなった。
久しぶりにラブコメシーンを入れてみましたが、やっぱり具体的な描写を文字だけで表現すると言うのは難しいですねwww
あと、やっぱり汎用性が高いからか、『ミルクジラ』『ハニードラゴン』『エアアクア』の頻度が高いような気がします。
【本日のグルメ食材】
アース・しびレモン・ハニードラゴンのハチミツ
それでは皆さん、次回で♪
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