神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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ようやく【秋の選抜】開始です。選抜のメインは幸平たち原作キャラになりますので、カムイの料理の出番は少なくなってしまいます。

ですが全く出さないというわけにはいきませんので、ちょくちょく話に絡んではきますからご安心を♪




第二十二皿

 

 

 

「それでは【秋の選抜戦】の予選、午前の部。お題は『カレー』! 調理時間は2時間!! 調理、開始です!!!」

 

 

 夏休みが終わって秋となり始めた遠月学園。いよいよ一年生の実力を試す【秋の選抜戦】が行われた。

 会場は満員御礼、また観客は生徒だけではなくスポンサーである大手食品メーカーやフードチェーンと言った業界人も多数来訪している。

 

 また今回は予選課題が『カレー』ということで、日本最大のカレー食品メーカーのトップ『千俵姉妹』が審査員になっていた。

 日本のカレーメーカーのトップが直々に審査員をするということで、選手たちだけではなく観客の生徒たちにも緊張が走る……………………のだが。

 

 

「ねぇ一色ク~~ン♪ いつになったら私のモノになってくれるのぉ?」

 

「ハハ、お誘いいただき非常に光栄ですが、僕はまだ学生ですので。その代わりと言っては何ですが、今日は自慢の後輩たちの活躍を見ていってください」

 

「大丈夫♪ 私が一生養ってあげるからぁ」

 

 

 予選午前の部では、妹の『千俵おりえ』が審査員を務めるのだが、予選の最中に自身のお気に入りである十傑第七席の一色慧を勧誘していた。

 

 シナを作りながら胸元を大きく開き、裾の短い服を来て誘惑染みたマネをしてくるため、周りの男性も頬を赤く染めている。

 

 今回の選抜戦は午前と午後に分かれており、会場も審査員も双方で異なる形式となっている。

 例年であれば会場と審査員は別であるものの、予選は同時に進行していくのだが、今年だけは『とある事情』から例外となった。

 

 

 

「ところで一色ク〜ン。『彼』、本当に来るんでしょうねぇ?」

 

 

 艶のある声から一変して、千俵おりえは真面目な顔で一色に尋ねる。悶々としていた他の男性審査員もおりえ嬢の言葉に反応し聞き耳を立てた。

 

 

「一応、総帥から話は行っているはずです。ただ彼は気まぐれというか、彼には彼の目的がありますからね。お約束はいたしかねます」

 

「そう。正直、今日の来賓の多くは選抜戦よりも『彼』を見に来ているわ。

 もしこれで彼が来なかったなんてことになれば、スポンサーは遠月学園に対して一大戦線を敷くことになるわよ。そのことを忘れないでね」

 

「…………ええ、肝に命じておきますよ」

 

 おりえ嬢の脅迫めいた忠告に一色は涼しい顔をしながら答えるも、心の中は穏やかではいられなかった。

 

 何故なら、今年の選抜戦が例外的に午前・午後に分けられたのは、【カムイ】が『特別審査員』として試食に参加するからだ。

 

 

 カムイが作るカレーをどうしても食べたかった千俵姉妹は、関連企業を中心とする遠月のスポンサーに掛け合い、カムイを選抜戦に参加させるよう抗議をした。

 

 他の企業もカレーに限らずカムイが作る料理には強い興味を抱いており、『カムイに料理を作ってほしい』という要望を毎日のように送っていた。

 

 今までは学園側でカムイの出張や貸し出しについては全て跳ね除けていたのだが、さすがにスポンサーが一丸となって抗議されては無視はできない。

 

 しかも『カムイ個人を貸し出す』のではなく、あくまで『学業の一環として選抜戦に参加させ、他の生徒の意欲向上の糧とする』という大義名分を持ってこられては反論も出来ない。

 

 そのため学園側は折衷案として、【出場はさせないが、模範としてカムイには出場者および来賓へカレーを振る舞ってもらう】という苦肉の策を提示した。

 

 噂にしか聞いたことが無い【神域の料理人】の作る料理さえ食べられれば、選抜戦の勝敗については二の次と考えたスポンサーたちは学園側の案に合意。カムイには仙佐衛門から連絡することになった。

 

 

 しかし当のカムイは未だに姿を現さない。

 

 

 先日アリスから(黙って)借りていた器材を返しに来た際、たまたま鉢合わせた仙座衛門が『予選でカレーを作ってほしいこと』について相談。

 何とかその時は了承をもらえたのだが、一向に来る気配が無かった。

 

 このままでは本当にスポンサーとの間に致命的な亀裂が生じかねないと一色は危惧する。しかもカムイには『特別審査員』とは別に【やってもらわないといけないこと】がある。

 

 だが、そんな一色の心配とは別に出場者の調理は進んでいった。

 

 

 

 午前の部の参加者は極星寮からは吉野悠姫・田所恵の二名。また実力者としては、薙切アリス・アルディーニ兄弟・北条美代子・貞塚ナオ。

 そしてえりなの秘書である新戸緋沙子が注目株だろう。選抜戦という大舞台にも関わらず、全員緊張することも無く調理を進めていく。

 

 

 たった一人を除いて。

 

 

 

 

ガシャァンッッッ!!!!

 

「は、はわわわわ、ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 持ち前のアガリ症によって調理器具を落としたり、調味料を落としたりと思うように調理ができない田所。

 

 宿泊研修で四宮相手に【食戟】を行い、スターシェフたちからも実力を認められとは言っても、まだまだメンタルコントロールには難があるようだ。

 

「あ、あわわわ、待ってぇ~~~~!」

 

 あまりにも手際が悪いため周りの生徒たちも苛立ち始めていると、田所もその視線に気づき尚のこと取り乱してしまう。

 そのため緊張感から手を滑らせてしまい、布を被せた台車が滑っていく。

 

 

 

シャァーーーーーーー、ピタ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

「ッ、カ、カムイくん!? あ、ありがとう!」

 

 

 

 なんと滑る台車を止めたのは、カムイだった! 夏休み以降全く姿を見せなかったカムイが現れたことで、生徒たちのみならず来賓も驚愕する。

 

「これは、どこに置けばいい」

 

「え、えっと、じゃあ、ココにお願いできる?」

 

「ん」

 

 周囲の人間が驚きに包まれていても、カムイはいつも通りの様子で田所に尋ねる。

 カムイの登場でビックリした田所も、さっきまでの緊張が吹き飛んだのか普段通りの様子になっていた。

 

 田所に言われた通りに台車を運ぶと、カムイは審査員席の隣にある専用席へと向かう…………のではなく、何故か田所の調理を眺めていた。

 

 

「え、え〜っと、カムイくん、どうしてここに?」

 

「気になったから。ダメか?」

 

「う、ううん! ダメってわけじゃないけど、そんなにジッと見られると気になっちゃう、かな?」

 

「? 気にしなくていい」

 

 田所は微妙に話が嚙み合わないカムイに困惑するも、これ以上は言っても仕方ないと思い調理を再開する。

 

 台車に被せている布を取ると、中には大型のアンコウが吊るされていた!

 

 

 課題が『カレー』に対してメイン食材が『アンコウ』という奇妙な状況に、会場はカムイが現れた時以上にザワつきだす。

 だが田所は周囲のざわめきに耳を貸さず、目を閉じて合掌し何かを思い出していた。

 

 

(ここにはいつも私を助けてくれた創真くんがいない。その創真くんだって、これから戦わなきゃならないんだ。

 だから創真くん、どうか私に…………『勇気』だけ、貸してください!!!)

 

 

 幸平とのこれまでを思い出し、気持ちを落ち着かせた田所は目を開けると両手をグッと握り気合を入れ直す。

 さっきまでのオドオドした表情から一変、集中力が跳ね上がり目の前の食材へのみ意識を向けている。

 

 そして包丁を手にすると、一気にアンコウを捌き始めた!!!

 

 

 『アンコウ』には肋骨が無く、身体全体がゼラチン質で覆われブヨブヨとしているため、まな板の上では捌くことが出来ない。

 そこでフックに吊るして大量の水を口から注ぎ、腹を膨らませてから捌く【吊るし切り】という技法が開発された。

 

 しかし【吊るし切り】には明確な手順と包丁を入れるポイントがあるため、熟練者でなくては完璧に捌くことは出来ない。

 

 だが田所は手慣れた手練でみるみるアンコウを捌いていき、部位ごとに綺麗に並べていっている。その見事な手際は、幼い頃からの経験が垣間見えていた。

 

 

 

「…………スゲエ」

 

 

 吊るしたアンコウの骨だけを残し、完璧に捌ききった田所。誰がこぼしたかは分からないが、周りの観客たちも同じ気持ちであった。

 

 だが何よりカムイの目を惹いたのは、アンコウの旨味が活性化して輝いていることだった!

 

 

(合宿で見た時よりも明らかに輝きが違う。旨味が増している証拠だ、この短期間でここまで成長したのか)

 

 

 田所は調理を介して食材に好かれる才能があることは、四宮との食戟で知っていた。

 だが今のアンコウの輝きは、四宮との食戟の時に扱った食材よりもずっと旨味が増しているのだ。

 

 無論カムイほどではないが、それでもカムイは間違いなく田所に『料理人としての成長』を見たのだった。

 

 

「期待しているぞ、田所」

 

「っっっ!! エ、エヘヘ、ありがとうカムイくん。わたし、頑張るね♪」

 

 カムイの率直な感想に驚くも、田所はすぐに頬を嬉しそうに綻ばせる。

 完璧なアンコウの吊るし切りを見届けたカムイは、用意されている専用席に向かおうとする。

 

 しかし今度はアリスが面白くなさそうにカムイを呼びつけた!

 

 

「もうっもうっもうっ! 兄さんったら! 遅れてきた上に田所ちゃんのことばかり見てるんだから!

 兄さんは私の兄さんなんだから、兄として妹である私を一番に応援しなきゃダメなの!」

 

 てっきりカムイは自分のことを応援してくれるとばかり思っていたアリスは、調理もそこそこにカムイに不平不満をぶつけていた。

 短い付き合いではあるが、アリスの性格をそれなりに理解したカムイはこういう時のための方法で対応する。

 

 

「アリス」

 

「フンっだ! 妹のことを応援してくれない兄さんのことなんか知らない!」

 

「アリスの料理、楽しみにしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフン♪ しょうがないわね! 新しく用意した最新機器で、兄さんの舌をとろけさせちゃうんだから♪」

 

 

 

 カムイがそう言うと、アリスはたちまち機嫌を直して調理を再開する。

 アリスが不貞腐れた時は、この方法が一番だということを教えてくれた黒木場に感謝したカムイであった。

 

「ふふ♪ 二人とも仲が良くて何よりだ。けどカムイくん、調理中の選手たちに話しかけるのは良くないよ。キミの席は用意しているから、一緒に皆のことを見守ろう」

 

「コクン」

 

 黒木場から教わった方法でアリスの機嫌を直したカムイだったが、一色にこれ以上の干渉を諫められてしまう。

 料理人たる者、他人の調理の邪魔をしてはいけないというのは尤もなことなので、カムイも素直に従った。

 

 

「カムイくん、是非ともキミの料理についての著書を書かせほしい! キミの料理のことを私の言葉で世に発信したいんだ!!」

 

「カムイくん、一度ワシの経営する『喜多ガストロノミー倶楽部』で料理を作ってくれへんか! 金ならいくらでも用意するで!!」

 

 カムイが審査員席の隣にある専用席に座るや、勧誘と依頼の雨アラレ嵐。選抜戦の主役はあくまで一年生ということも忘れ、とにかくカムイに料理を作ってもらえないかと嘆願している。

 

 その中でも特に酷かったのが、『千俵おりえ』であった。

 

 

「カムイく~~~ん♪ 会いたかったわぁ。ね〜〜〜え、私のモノになってぇ。アナタのためなら望むものは何でもあげちゃう♪ 何なら私ごとあげちゃってもいいわぁ♪」

 

 念願であったカムイに会えて喜ぶおりえ嬢。公衆の面前だというのに、色香にモノを言わせてカムイを誘惑しにかかった。

 

 カムイの膝の上に座り、両手をカムイの首に回して身体を密着させる光景はとても高校生に、ましてや美食の祭典で見せていい姿ではない。

 

 

「ちょっとそこのオバさん! 私の兄さんから離れなさいよ!」

 

「フフフ♪ 大変ね~~~カムイくんも。あ~~んな子どもに付きまとわれて大変でしょう?

 私なら、あんな子供には無い『や・り・か・た』で♪ アナタを癒してあげちゃう♪」

 

 カムイに密着して誘惑してくるおりえ嬢を見て、アリスは調理を中断して猛抗議をする。

 

 怒りのあまり年上女性に対してのNGワードを浴びせるも、流石は大企業のトップ。

 アリスの言葉などそよ風程度にしか感じないばかりか、逆に年上だからこその魅力でマウントを取る余裕さえあった。

 

 無論カムイにとっては、おりえ嬢の色仕掛け程度でどうにかなるような情緒は無いので完全スルー。

 むしろ嗅覚が鋭敏なため、おりえ嬢の香水や化粧の匂いに迷惑しているまである。

 

 

 そして運営委員用の観戦席は、別の意味で極まった状況だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………司先輩、あの女を即刻叩き出しましょう」

 

「落ち着け、薙切! 相手は国内最大の食品メーカーの一つで、遠月のスポンサーなんだぞ!?」

 

「カムイくんに抱きつく………もといあのように道徳心の無い輩は美食の祭典、延いては我が学園の名を汚します。

 そこのSPの方、今すぐ養豚場に連絡を。躾の悪い『メス豚』を出荷するので、到着したらすぐに屠殺するようお伝えなさい」

 

「だから落ち着けって! あとその罵声のボキャブラリーは何だ!? カムイが関わると人が変わり過ぎだろ!」

 

「『神の舌』の御業です」

 

「いや、『神の舌』にそんな能力無いだろう!!!」

 

 

 カムイに密着しているおりえ嬢を見て、目からハイライトが消えたえりなは家の権限を使って、おりえ嬢を追い出そうとする。

 さすがに大手企業に真正面から喧嘩を吹っ掛けるのはマズイと思った司は、必死でSPを止めつつえりなを宥めていた。

 

 その後、このままでは選抜戦の進行に支障をきたしかねないということで、一色がカムイへの勧誘や依頼は控えるよう割って入る。

 もちろんおりえ嬢もカムイから引き剥がし、何とかこの場を治めることに成功した。

 

 司の方も慌てて竜胆や女木島、斎藤を呼んでどうにかえりなの怒りを宥めることが出来た。

 三人とも秘書である新戸の存在が如何に重要であったかを認識しただろう。

 

 

 

 

「調理終了ーーーーーーー! 皆さん、動きを止めてください。これより試食審査に移りま~~~す♪」

 

 

 そんな美食の祭典とは全く関係ない騒ぎもあったが、調理時間は予定通りに終了。

 予め決められた順番に従い、試食審査が行われる。今回の審査は、審査員に各20点ずつが割り当てられその合計点を競う形式である。

 

 合計点の多い上位四名のみが予選通過となるのだが、カムイは特別審査員のため採点はしない。そのため審査員は5名になるので、最大合計は100点となる。

 

 

「ほう、これは北インドの代表的なカレー『アチャリームルギ』をベースにした料理やな。

しかも『タンドリーチキン』でのうて、『チキンティッカ』にしているから骨も無くスプーンで食べやすい♪」

 

 さっそく一人目の料理が運ばれ試食が開始。審査員の反応から作った本人も手ごたえを感じるが、カムイだけは顔をしかめながら食べていた。

 

 

(っ、味も香りもしない。テキトーに扱われた食材の断末魔が聞こえてくる。食材の叫び声が混濁していて、とても見れたものじゃない!)

 

 

 低すぎる技術によって作られた料理から聞こえる『食材が苦しむ声』。

 

 鳥肉だけではなく、野菜や香辛料たちからも泣き声や苦しみの声が聞こえてきて、カムイは自分の心が蝕まれていくような思いだった。

 

 しかし目の前の料理は『審査に参加する』と自分で言ったから運ばれてきた皿。

 

 どれだけ醜い料理であっても『食材そのもの』に罪は無く、また極限の飢餓に苦しんだ過去と『食義』による感謝から、カムイはそれでも残さず食べていた。

 

 味も香りも無く、恨みの念すら感じる料理を何とか完食することで供養するカムイ。

 

 だが作った本人はそんなカムイの苦しみを知るわけも無く、【神域の料理人】が完食したということに手応えを感じている模様。

 

 

 カムイが『食事』という行為に初めて【苦しみ】を感じた料理の点数は……………『13点』。

 1人の持ち点が20点なので、1人当たり3点も入れていない計算になる。

 

 無論、作った本人は納得いかず抗議の声を上げた。

 

 

「じゅ、13点!? このボクが!? どういうことですか「ワシらを誰やと思ってんのや」ひぃっ!」

 

「ワシらは海千山千のプロが作る料理を毎日相手にしてんのやぞ。『よう出来た』と言うてもそれは学生レベルの話や」

 

「で、でも【神域の料理人】は完食して「それは違うよ」っ、い、一色先輩!」

 

 自分が作った料理が満点の2割にも満たない評価を受けて抗議するも、プロの料理を食べ親しんでいる審査員から見れば程度の低い料理に他ならない。

 

 それでも引き下がらず、とうとうカムイを引き合いに出そうとする男に、傍で控えていた一色が割って入った。

 

 

「キミは勘違いをしている。カムイくんがキミの料理を完食したのは、決して美味しかったからじゃない。ただ『食材』への感謝ゆえだ」

 

「しょ、『食材』への感謝?」

 

「そう。出された料理を残してしまえば、その料理に使われた食材は『ゴミ』として処分されてしまう。

 『食材となった命』を尊ぶ彼は、それが我慢ならなかったんだ。だから我慢して残さず完食したんだよ」

 

「う、うそだ! 僕の料理がそんな、我慢して食べなくてはいけないものだなんて!」

 

「ウソじゃないさ。キミは気づかなかったのかい? カムイくんがキミの料理を食べている間、ずっと苦悶の表情を浮かべていたことを」

 

「なっ!?」

 

 

「あ〜〜〜、それでカムイくんはあんなに苦しそうにしておったんやな。てっきり苦手なモノでも入っているからだと思ったわ」

 

「どんな料理でも、自分のために出された以上は残さず食べなくてはいけない。我々審査員もその姿勢は見習わなくてはいけないな」

 

「健気な子ねぇ、ますます気に入っちゃったわ♪」

 

 

「そ、そんな………………」

 

 

 一色だけではなく審査員もカムイが苦悶の表情を浮かべていたことに気づいていた。

 

 気づいていなかったのは勘違いした自分だけという事実に作った本人はショックを受けて崩れ落ち、自分の点数を黙って受け入れるしかなかった。

 

 

「すまない、カムイくん。キミが並み大抵の料理では味を感じることが出来ないと知っていたのに、無理矢理この場に招いてしまった。責任は僕たち学園側にある」

 

「フルフル、気にしなくていい。食べると言ったのは、俺だ」

 

「っ、ありがとう。せめてもの罪滅ぼしだ。これから出される料理、興味が無いと言うのであれば食べなくていい。

こちらで代わりに食べる者を用意しよう、無論ちゃんと完食させるから心配しないでいいよ」

 

「……………すまない、感謝する」

 

 

 曲がりなりにも自分が食べると言った以上、全ての料理を完食するつもりであったカムイ。

 しかしここまで酷い料理が出てくるとは思わず、今日一日中そんな料理を食べなくてはいけない…………そう考えると気が遠くなりそうだった。

 

 そのため一色のこの提案は非常にありがたく、自分の信念を曲げることは心苦しかったが、あんな料理を何度も食べさせられては気持ち悪さのあまり吐き出してしまうだろう。

 

 もし一色から提案されなかったら、フルコース用の『アナザ』を取り出すことさえ考えていたほどだ。

 

 その後、一色だけではなく他の十傑メンバーの計らいでカムイの代わりに料理を食べてくれるSPが用意された。

 十傑だけではなく学園および来賓客も、不出来な料理で【神域の料理人】の舌を汚したくないと思ったのだろう。

 

 

 

 そうしてカムイが見向きもしない料理は傍にいるSPが代わりに完食していくのだが、カムイが口をつけなかった料理は軒並み20点以下という状況。

 もはやカムイが食べるかどうかが一つの判断基準になりつつあった。

 

 学生たちにはどれも美味しそうに見えるのだが、それはどこまでいっても『学生レベル』でしかない。

 この世の美食を貪りつくした審査員や【神域の料理人】と呼ばれるカムイに届くレベルではない。

 

 このまま低得点が続き、秋の選抜は最悪の結果になるのではないかと周りの者たちが思っていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おぞましいほどの異臭が会場を満たした!

 

 

 

 

 

 

『ふぐぅっ!? く、くっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! とても美食の祭典とは思えないほどの悪臭が、会場全体に充満しています!』

 

「フフフ。この臭さの魅力が分からないなんて、可哀想な人たちね」

 

 あまりの臭さに審査員だけではなく、観客や来賓客までもが悶え苦しんでいる。そんな会場が阿鼻叫喚の渦と化している中で、臭いの原因たる料理人『貞塚ナオ』が料理を運んでいく。

 

 

「ヒヒ♪ どうぞ、『漆黒のラクサカレー』です」

 

 

「『ラクサ』、東南アジアのツルっとした喉越しが特徴の麺だな」

 

「し、しかしこの臭いは、まさかっ!?」

 

「はい、『特製くさや汁』です」

 

「やっぱりか! 何てモンをカレーに入れよったんや!!!」

 

 

 『ラクサ』はガランガルやターメリックなどの香辛料を効かせた東南アジアの麺料理である。

 

 ただ現地では『麺』ではなく『スープ』を楽しむという風習が強いため、麺類や具材はスプーンで食べやすいよう短く切っておくのが本式。

 

 また『くさや』とは、伊豆諸島の特産品でムロアジやトビウオと言った魚を、「くさや液」という独特の発酵液に浸して乾燥させた魚の干物の総称だ。

 

 なお、そのままでも強烈な臭いが特徴だが、焼いたりなどして加熱すれば更に臭いは強くなり、町の中であれば近所から苦情が出てくるほどである。

 

 ましてや今回は煮込んでいるため、その臭いは焼いた時の比ではない。会場の全員が鼻を摘まみ、アリスにいたってはどんな事態を想定していたのか最新の防毒マスクを装着していた。

 

 

「失格や失格! こんなモン試食の必要は無いで!」

 

「そうでしょうか? 【神域の料理人】は食べているようですよ?」

 

「なぁっ!?」

 

 貞塚に言われて審査員は一斉にカムイの方へ振り向くと、先ほどまで全く口をつけようとしていなかったカムイが、貞塚の料理を啜るどころかスープまで飲み干していた!!!

 

 一般人にとっては鼻が曲がるような臭いでも、カムイにとってはどうということはない。

 

 『くさや』よりも遥かに強力な、それこそ【臭いの核兵器】とも呼べる『ドドリアンボム』すら食べたことのあるカムイからすれば、この程度の臭いなどで顔をしかめることは無い。

 

「カ、カムイくんが自ら食べるということは………………っ!」

 

「い、いくんか、おりえ嬢!?」

 

「せ、選抜戦のスポンサーとしての責務を果たすだけですわ」

 

 カムイが食べているということは、それだけの美味さがあると考えた千俵おりえが恐る恐る食べようとする。

 しかし口に近づければ近づけるほど、より一層臭いが強烈に漂ってきた。

 

 

(う、うえぇぇぇぇぇぇぇ。エグみのある酸っぱさと生臭さが混じり合って、まるで掃除していないトイレみたいな臭い!!!)

 

 

 おりえ嬢が顔を歪ませながら麺を啜ると、顔の歪みが消えて驚きの表情へと変わる。

 

 

「っ、お、美味しい……………!?」

 

 

 未だ臭いに悶え苦しむ者たちも、おりえ嬢の感想を聞いて驚愕する。そしておりえ嬢に続いて他の審査員も食べていくと、先ほどとは打って変わって貞塚の料理を褒め始めた。

 

 

「く、くさい! でも美味い!! 慣れてくるとこの臭さが逆にクセになる!!!」

 

「レモングラスやココナッツミルクなどを使い、清涼感を出しているのだ! そのため食べるまでは臭さが強烈に感じるが、食べるとその臭さが病みつきになっていく!」

 

「これはエビの発酵調味料『カピ』に近い発想なんだわ! 『カピ』よりもクセのある『くさや液』を使うことで、より味にコクと深みを持たせているのね!」

 

 

「フフフ、小綺麗に着飾った料理に『真の美食』は宿らないわ。おぞましさの中にこそ、『美食の神髄』はあるのよ。それで、私の料理は如何だったかしら? 【神域の料理人】さん」

 

 最初の低評価など完全に消え去り、審査員たちは全員貞塚の料理の臭さに呑み込まれている。

 自分の料理に確かな手応えを感じた貞塚は次いで、カムイにも自分の料理の感想を求めた。

 

 

 

「『旨味』は感じた。ただ」

 

「? ただ、何かしら?」

 

「『臭味』の中にある『旨味』を、使いこなせていない。言ってみればこの料理は、『ただ臭いだけ』の料理」

 

「なぁっ!?」

 

 他の料理とは違いカムイが食べたということで高評価をもらえると思った貞塚は、不意討ちを食らったかのようにショックを受ける。

 

 

 『臭み』。すなわち人間の鼻で『悪臭』を感じるということは、『菌』が繁殖しているということである。

 その菌たちが人間にとって有益なものであれば『発酵』、有害なものであれば『腐敗』となる。

 

 そして菌の繁殖により『発酵臭』が出ているということは、旨味成分も出ているということだ。

 つまり『臭み』=『旨味』ということとなり、『臭み』を内包している分だけ『旨味』を蓄えていることになる。

 

 だが貞塚は『臭み』に固執するあまり、『臭み』を完全に『旨味』へと転化できていないのだ。

 謂わば、100ある『臭み』のうち20ぐらいしか『旨味』に変えられていない。

 

 そのため、カムイは貞塚の料理を『ただ臭いだけの料理』と評したのだ。

 

 

「ギリギリギリィ、覚えておきなさい、いつか必ず呪い殺してやるわ……………!」

 

 

 カムイの評価に納得できない貞塚は呪詛をバラ蒔きながら睨みつける。カムイの評価は得点に直接影響することは無いが、それでも『料理人としてのプライド』は傷つけられたのだろう。

 

 しかしカムイからの評価は低かったものの、それでも貞塚の料理は『84点』という、ここまでの料理の中でダントツの点数を叩き出した!

 

 30点にすら満たない料理が続く中で初の80点超え、これには貞塚の料理に顔をしかめていた観客や選手たちも驚きであった。

 

 そして次はえりなの秘書である新戸緋沙子、さらには吉野悠姫・北条美代子と実力者が続いていく。

 

 

 

 秋の選抜戦午前の部はここからが本番である。

 

 

 






カムイが調理していませんので、【本日のグルメ食材】はありません。『前書き』でもお伝えしましたが、今章は原作キャラにスポットが当たっておりますので、カムイが調理する場面は限られています。

そのため、カムイの料理が出ない回が多いかと思います。

それでは皆さん、次回で♪
感想・高評価もいただけると作者が喜び、励みになります!

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