今回はちょっとインパクト強めの食材を出します。
ただ『食べ物』というのは国・国民性・宗教などによって異なりますため、ご理解のほどお願いいたします。
『ジュル、そ、それでは次の選手、どうぞ…………!』
カムイの料理の登場で会場の選抜ムードは完全に吹き飛んでしまったが、それでも司会者は生唾を吞みつつ進行に務めるのを見て、会場の観客も今が選抜戦の最中であったことを思い出す。
なお審査員たちは『虹の実のゼリー』の強烈な後味を消すために世界一苦いとされる『苦丁茶 くていちゃ』を飲んで、無理やり味覚を戻した。
このまま残り三人の料理の試食をしてしまえば、どれだけ優れた料理であっても『虹の実のゼリー』のインパクトに打ち消されてしまうからである。
もっとも審査員一同、口の中に残った『虹の実のゼリー』の味を消すことには後ろ髪を引かれるほど葛藤しており、味覚を戻した後も味を思い出してはヨダレが垂れるほど余韻が残ってしまっていた。
そんなやりにくいことこの上ない空気の中で、ようやく葉山の料理が運ばれていく。
葉山は具材に鯛の頭(カマ)を使用していたのだが、運ばれてきたのはカップの上部をパイで包んだ料理だった。
「これは、『パイ包み』か。となると中は…………」
審査員が見た目から葉山の料理の当たりをつけてパイを崩すと、スパイスの香りが爆発し会場を満たした!
「こ、これはーーーーーーー! パイを破った途端、閉じ込められていた香りが一気に爆発した!」
「まさに香りの爆弾! しかも中のカレーにはカマの旨味がこれでもかと溶けだしている!」
鼻腔に押し寄せるスパイスの香りに魅了され、審査員は解説を放棄して葉山のカレーに貪りつく!
そうして食べ進めていくうちに、突然なつめ嬢がを立ち上がった。
「この凛とした香りにほのかで上品な甘味、これは…………『ホーリーバジル』!? しかもドライではなくフレッシュの状態で使ってあるわ!」
【ホーリーバジル】。インドや東南アジアを原産とするシソ科の植物で、ヒンドゥー教では神聖な植物として崇められている。
また世界最古の医学書の一つ『アーユルヴェーダ』では『不老不死の霊草』とまで言われていて、近年では日本でも栽培が始まっており、健康志向の人たちから注目されているメディカルハーブの1つである。
「それにしても、思わず虜になってしまうような強い香りなのに、グイグイと食べ進んでしまう酸味。これはいったい「『ヨーグルト』だな」っ、な、『ヨーグルト』!?」
「正解だ、カムイ。一つ扱いを間違えると他のスパイスの香りを全部飲みこんじまうフレッシュのホーリーバジル。
それをヨーグルトに漬け込むことで、香りを穏やかにしているのさ」
カレーにヨーグルトやラッシーなどの乳酸飲料は付き物と言うが、それは単なる付け合わせではない。
酸味や乳脂肪分で辛味を中和する他、スパイスを乳酸飲料と併せて摂取することで、スパイスの効能がより体内に効率よく吸収されるという健康的な側面もあるのだ。
(ホーリーバジルを使いこなせる料理人が、まさかこの国にいるなんて…………!)
「葉山クゥ~~ン♪ アナタ、私の物にならなぁい? 年俸はいくらがいいかしら? 1億? 2億? アナタの望む額を「残念ですけど」っ!?」
「俺は『潤のため』に戦うんで、悪しからず」
選抜の審査中だと言うのに葉山をスカウトしようとするなつめ嬢だったが、カムイ同様に譲れないもののために料理を作っている葉山にとっては全く魅力を感じなかった。
しかしなつめ嬢のスカウトすら、にべもなく断った葉山であったが……………どうしても確かめたいことがあった。
「それでカムイ…………どうだった、俺のカレーは?」
葉山はかつてないほど緊張した面持ちでカムイに自分の料理の感想を尋ねる。
遠月のトップを狙う葉山にとって、カムイはいずれ超えなくてはならない壁であるが、それ以上に何より
カムイは葉山の『憧れ』でもあった。
インドのスラム街で浮浪児だった葉山は幼い頃、たまたま訪れていた『汐見潤』に拾われた。
そして生まれつき『超感覚』とも呼べる鋭い嗅覚を持っていた葉山は汐見に才能を見出され、日本で大事に育てられてきた。
『キミの才能は、いずれ世界も変えちゃうかもね♪』
人生と命を救ってくれた恩人にそう言われた葉山は自分の武器である嗅覚………『香り』を武器にした料理で世界を変えると約束、以来スパイスを中心とした料理開発に尽力してきた。
【香りで世界を変える】、普通に考えれば不可能だと思うだろう。だいいち『香り』がどう作用すれば世界が変わるのか想像もできない。
故に葉山自身も恩人との約束とは言え、『そんなことは不可能だ』という思いが全く無かったわけではなかった。
そんな自分の進む道に迷いを抱いていたある日、葉山はカムイのことを知った!
曰く『飢餓に苦しむ人々のために量産可能な新食材を栽培し、食糧難を救った』
曰く『紛争地域の軍人や政治家に料理を作り、戦争を終結させた』
曰く『カムイの料理を食べるために、国同士が歪み合うのを止めた』
聞けば聞くほど耳を疑うような話ばかり。だがこれらは紛れも無い事実であることを知った葉山は歓喜に震えた!
『その一皿は国をも動かす』と言われる【神域の料理人】。
料理一つで人を、国を、世界すらも変えることが出来る料理人がいる!
不可能だと思っていたことを実現した料理人がこの世界に、しかも自分と同い年で確実に存在したのだ!
カムイの偉業を知った葉山に再び情熱の炎が燃え上った瞬間であった。
『カムイに出来たのならば自分にも出来るはず!』
『自分が恩人と交わした誓いは、決して夢や幻などではない!』
本当ならカムイが遠月学園に編入すると聞いた瞬間に会いに行こうとした。
しかしカムイが学園に来るのは稀で、なかなか会うことが出来なかった。
そして今、自分の憧れの料理人が自分の料理を食べてくれた。葉山の心はこれまでにないくらいの興奮と高揚で、心臓がバクバクと鼓動しているのを感じている。
身体が燃えるような熱さを宿しながらも冷たい汗が額から流れ、しばらくの空白が訪れる…………カムイがゆっくりと口を開いた。
「…………名前は?」
「え?」
「だから、名前を、聞いている」
「あ、ああ、葉山アキラだ。いずれお前を超える料理人だからな、覚えておいて損は無いぜ」
「葉山、アキラ………ん、覚えた。なら、葉山アキラ」
「見事だ」
「っ! っ~~~~~~~!!!!!」
『ホーリーバジル』を主軸とした葉山のカレーは、まさに槍の如き鋭さを持ち、食べる者の『食欲』を貫く旨味と香りを持っていた!
その破壊力たるや、あのカムイがハッキリと味を認識できるばかりか『葉山アキラ』という料理人を記憶に留め置くほどだった!!
カムイから名前を求められただけではなく、存在と味まで認められる…………そんな人物は世界中を見渡しても片手で足りるだろう。
実際カムイが名前を聞きたがるほど興味を持った相手なんて、合宿の時の四宮小次郎ぐらいだ。
その事実に葉山は顔にこそ出さなかったものの、心の中でガッツポーズをし跳び上がるほど喜んでいた!
自分の憧れであり、目標でもある料理人が自分の料理を認めてくれたのだ。葉山の人生の中でこれほど料理人冥利に尽きることはそう無いだろう。
また来賓も同様に喜びと驚きで大騒ぎをしていた。【神域の料理人】が興味を持つほどの料理人が、よもや学生の中から現れるとは思っていなかったのだ。
なつめ嬢に限らず、企業人はどうにか葉山をスカウトできないものかと画策を始める。
薄れていたとはいえ、『虹の実のゼリー』のインパクトが残っている会場の空気を一気に攫った葉山の得点は…………『94点』!
黒木場を超える点数で一位に躍り出た。しかも5人の審査員のうち、満点である『20点』と評価した審査員が2名もいる状況。
これは現在総合一位のアリスですら届かなかったことである。
「どうだ幸平、俺の料理は【神域の料理人】に届いたぜ?」
「確かになぁ~~~、あのカムイが認めるってソートーだぜ。でもよぉ、俺の料理も捨てたモンじゃねえぜ♪」
カムイに認められた葉山は続く幸平を挑発しに行く。一方の幸平はカムイが葉山の料理を認めたことに驚くも、焦った様子は無かった。
自分の料理を見て、実際に食べてみても尚、余裕を崩さない幸平を訝し気に見る葉山。
会場が葉山一色に染まるも全く気にする様子を見せない幸平が審査員&カムイ、そして葉山に自分のカレーを運んでいく。
クロッシュを取ると、カレーの風味を漂わせる大きなオムレツが入っていた。
「おお! スパイスの微香が何ともなまめかしく食欲をそそる!」
「おっと、言っときますが、俺の料理はここからが本番ですぜ♪ くらいやがれ、香りの爆弾2発目!」
幸平がスプーンで葉山に渡したオムレツを割ると、強烈なスパイスの香りを撒き散らすリゾットが出てきた!
「な、なんとスパイシーで強烈な香り! 先ほどの甘みのある微香とは対照的に、スパイスの刺激的な香りがガツンと鼻に突き抜けてくる!」
「葉山くんのカレーは無臭からの爆発だったが、これはまさに香りの誘爆! 微香によって私たちの鼻の警戒を解いたところで、強烈な香りを叩きつけてくるとは!」
葉山の後ではどんなカレーも印象が薄くなってしまうと思われていたが、予想に反して幸平の料理に興味を注がれる審査員たち。
幸平のカレーの香りを十分に楽しんだところで、リゾットにオムレツを絡めて頬張ると、拳で殴られたような美味さが叩き込まれた!!!
「ぐっはぁっ! まるで顔面を思いっきりぶん殴られたかのような重厚なる旨味!」
「スパイスの扱いは葉山くんの方が上だけど、この鳥ガラと牛スネ肉の旨味がタップリ溶け込んだ米の生み出す重厚感はお見事!」
「それにこのまろやかな甘酸っぱさは、『マンゴチャツネ』! インドでは付け合わせでしかないマンゴーの漬物を加えることで、これほど味に深みが出るなんて!?」
「葉山くんのカレーが『槍のような鋭い香り』ならば、このカレーはまさに『旨味の連打』!」
「スゴイ! 互いが得意とするスタイルを力の限り打ち合う…………これが遠月のトップを目指す者たちの戦いなのか!!!」
誰もが期待していなかった幸平の料理だったが、審査員たちは絶賛しながら満足そうに食べている。
審査員の様子から高得点が出る手ごたえを感じた幸平は、次いでカムイにも感想を求めた。
「どうよカムイ、俺のカレーは♪ 美味かっただろ?」
幸平はイタズラが成功したように無邪気な笑顔で尋ねてくるが、カムイは完食したカレー皿を見ながら思案していた。
(まだ薄いが、以前食べた時よりも『味』は感じる。これは食材たちが幸平を選んだことによるものだろう。ただ…………)
「もったいない」
「ん? もったいない? どういう意味だ?」
「せっかく、食材に選ばれているのに、『食材の声』を、聞こうとしていない。自分一人で、料理をしている」
「食材に選ばれる? 食材の声? 何のことだ?」
「………分からないなら、お前はそこまでだ。田所はちゃんと、『食材の声』を、聞こうとしていたぞ」
「田所が………?」
幸平の料理は微かだが、間違いなくカムイに『味』を感じさせるものだった。
しかしそれはあくまで食材たちが幸平のために自身の旨味を活性化させたことによるものであり、決して幸平の調理によって感じた『味』ではない。
何故なら今回の幸平の料理は、『過去の失敗をそのままにしておきたくはない』という個人的な意地から生まれた料理だからだ。
宿泊研修の際に幸平は『卵料理で200食達成せよ』という課題で大きなミスを犯した。
そしてつい先日、自分の父との料理勝負で出して負けたのが『リゾット』だった。
幸平はこの二つの失敗を失敗のまま終わらせず、己の糧にするべくこの料理を作った。
その姿勢は感心できる点なのだが…………果たして『今回の料理』は食材たちが望んだ形だったのだろうか。
『食材』たちは幸平のことを気に入り、幸平のために旨味を活性化させた。
しかし当の幸平自身は『食材の声』ではなく、『自分の意地』に固執してしまった。
言うなれば男女ペアでダンスを踊っているのに、互いの息が合っていないようなもの。
そのため調理がブレてしまい、活性化した旨味を十全に活かすことが出来なかったのだ。
一方の田所の料理は、『自分が生まれ育った土地の野菜を最高の形にしたい』という想いに溢れていた。
その結果『料理人』と『食材』の息がピッタリと合い、たとえ調理技術が未熟でもカムイが認めるほどの料理になったのである。
カムイの感想が幸平の心に影を落としながらも、審査員たちが採点に入り……………結果は『93点』。黒木場と並び午後の部では同率2位、総合では3位タイとなった。
残りは1名だけのため、その者が仮に100点を出したとしても幸平の本選出場は確定している。
しかし幸平はカムイの言ったことが気になり、素直に喜ぶことが出来なかった。
午後の部最後の料理人である美作昴の料理の点数は『91点』。これにより午後の部の本選出場者が以下のように決定した。
1位 葉山アキラ 94点
2位 黒木場リョウ 93点
2位 幸平創真 93点
4位 美作昴 91点
午前の部と合わせて8名の本選出場者が決まったところで、いよいよ午後のカムイの『特別模範調理』が行われようとしていた。
「フフフ♪ 今日は本当に最高の日だわ。まさか一日に三度もカムイくんの料理が食べられるなんて♪」
「午前の部のカレーも素晴らしかったですが、果たして今回はどんなカレーを作るのか」
「ああ、テレビ局からカメラを持って来れば良かった! こんな世紀の一瞬を記録することが出来ないなんて!」
会場にいる全員がカムイの調理に注目する中、カムイは食材を用意していく。
見たことのある物から初めて見る食材まで様々に取り揃えていることから、どんなカレーが出来上がるのか期待と不安を積もらせている。
まずカムイは鶏ガラと香味野菜をベースに『ブイヨン』を作っていく。
『ワープダイニング』で時間を高速化させて食材を煮込んでは濾し、食材を足して煮込み、再び濾す。
その工程を何度も繰り返していき、『ブイヨン』だけで人々の食欲を激しく刺激した。
「な、なんて芳醇な香りなの!? まだスパイスは一切使っていないと言うのに、この香りだけで頭がクラクラしちゃうわ♪」
「フランスの一流店では一度作ったフォンを水で薄めて再度具材を煮出してソースを作る手法があります。
だが彼は一度作った『ブイヨン』を煮詰めて新たな具材を加えて煮出している。しかも工程ごとに加える具材が異なっていますな」
「一度取ったブイヨンを使って再度ブイヨンを作るスープは『黄金スープ』と呼ばれますが、彼は何度もその工程を繰り返している。もはや『プラチナスープ』すらも超えていますな♪」
フランスではソースを作る際に『フォン(出汁)』を取ることから始まる。
『フォン』はソースの味のベースを成すもので、味に一体感を出すためにメイン食材と同じ具材を用いるのが一般的だ。
例えば牛肉をメインにするなら仔牛の骨などからフォンを作るし、魚料理であれば魚のアラなどからフォンを取る。
そのため今回カムイが作るカレーは『鳥肉』がメインであると観客たちは予想した。
そう、カムイが今回作るカレーは『チキンカレー』である。だからこそ鳥ガラベースでブイヨンを取っているのだが、ここからカムイが行う調理を見て、会場の誰もが驚愕する!!!
「なっ、何だ、あの鳥肉は!? 真っ赤じゃないか!!!」
「唐辛子やパプリカパウダーを塗した!? いや、そんなレベルじゃない! まるで血を塗りたくったような『赤』だわ!!!」
「それにあの大きさ、あんなに大きな鳥はそう多くないはず! あの鳥はいったい…………!」
フォンを煮出している間にカムイが『グルメケース』から取り出したのは……………真っ赤になった巨大な鳥肉だった! その鳥肉の赤さは初めて見る色合いで、観客がザワついている。
先ほどの興奮状態とは打って変わって、会場には怪訝な空気が漂い始めている。
しかし十傑のえりなだけは、一目見てカムイが取り出した鳥肉の正体に気が付いた。
「あの大きさと肉付き……………色が赤くて分かりにくいけど、間違いない。『天草大王』ね!!!」
「『天草大王』ですって!? 一度は絶滅したという、あの鳥!?」
【天草大王】、明治時代中期に熊本県天草地方で誕生した日本最大級の大きさを誇る鶏である。
しかしこの鳥の最大の特徴は大きさだけに留まらず、その歴史は他に類を見ないほど驚愕の一言に尽きるだろう。
『天草大王』はその肉質の良さから高級食材として非常に人気があったが、成長に時間がかかることや飼育の難しさ。
そして環境の変化や戦争の影響で昭和初期に絶滅してしまったのだ。
しかしその後、様々な鳥の交配を繰り返すことで、ついに2000年に復活を遂げた!
まさしく日本人の食の叡智と努力の結晶、日本の食文化を代表する食材の一つと言える。
「なるほど『天草大王』、確かに日本のカレー文化を推し進めるという点ではこれ以上ない食材ね!」
「ええ。日本で一番初めに作られたカレーは、『チキンカレー』と言われておりますからな。まさに『日本のカレー』を作るにはうってつけだ!」
「しかし鳥は『天草大王』ということなのは分かったが、あの赤さはいったい「ハイハイハ~~イ♪ それについては俺っちが教えてあげますよ~~☆」っ、く、久我くん!? 第八席の久我照紀くんじゃないか!」
鳥肉についてはえりなが説明してくれたものの、何故『天草大王』が異常なまでに赤いのかが分からないでいると、中国四川料理のエキスパートである久我がやってきた。
「久我先輩、どうしてここに!? 運営委員専用の部屋にいたはずじゃあ……………」
「いや~~~、カムイちんがま〜たとんでもないことやり始めてるもんだからね。つい降りてきちゃったのよ☆」
「久我くん、キミにはあの『赤色』の正体が分かるの?」
「モッチロン☆ あの鳥の赤さはズバリ! 『風干鶏 フーガンヂー』に間違いないっしょ♪」
【風干鶏 フーガンヂー】。中国における鳥の調理方法の一種である。
羽を毟り取った鳥の肛門を包丁で切り開き、腸を引きずり出して中にスパイス・調味料・香味野菜を大量に入れ込む。そして肛門を紐で縛り、閉じてから軒下に吊るすというもの。
一説では『三国志』で有名な劉備玄徳の妻が考案し、彼が好んで食べていたと言う。
だが何よりこの調理法の最大の特徴は、なんとこれらの処理を『鳥を生かしたまま行う』ということにある!
生きたまま羽を毟られ、肛門を切られて異物を無理矢理押し込められるのだから、当然の如く鳥は暴れ出して調理場は血塗れとなる。
「き、聞けば聞くほど壮絶な調理法ね…………」
「まぁね~~♪ だから今となっちゃあ、ほとんどやるヤツがいないのよ。
子供が見たらギャン泣き必至、大人でも気が弱いヤツなら気を失うだろうねぇ。
ただ、そのおかげで血や肉にスパイスの香りがガッツリ染みつくから、野性味溢れる深い味わいになるんだよ」
「そ、そんな希少な調理法で調理された『天草大王』を『チキンカレー』にすると言うのか!?」
「っ〜〜〜〜〜〜〜、す、素晴らしいわカムイくん! コレよ、私はコレが見たかったのよ!!
【神域の料理人】の神懸かったセンスによって生まれる新次元のカレー! その味わいは私たちが今まで味わったことの無い天上の美食に違いないわ♪」
久我の説明を聞いて観客たちは、カムイが作る『チキンカレー』は自分たちが慣れ親しんでいるモノとは次元が異なるカレーになるに違いないと確信する。
会場の全員が固唾を飲んで見守る中で、カムイは着々と調理を進めていく。
『天草大王』にスパイスの香りを移した低温の『モルス油』をかけると、調理台に設置されているタンドール(中東式窯)に入れてじっくりと焼いていく。
そうして『天草大王』を焼いている間に、出来上がったブイヨンを2つに分ける。
1つは冷凍庫に入れて『ワープダイニング』で急速に凍らせることで脂と水分を分離、脂の部分だけを切り落としてフライパンで熱しスパイスと合わせて『炒め油』にする。
もう1つはそのまま焙煎したスパイスとカカオ100%のチョコレートを入れてカレールウにした。
極限まで旨味が濃縮された『チキンカレー』が煮込まれることで、可視化されるほどの旨味が香りとなって全員の食欲を強烈に刺激した!
「な、何なんだよこの香りは!? 私たちが作ったカレーとは全く違う、『旨味そのもの』を孕んだ香りだ!」
「ふわぁ~~~♪ なんて濃厚でコクのある香りなの!? 嗅いでるだけで頬が緩んじゃう♪」
「彼が使っていたのは恐らく『天草大王』のガラやモミジ(足)。その旨味が全て溶けだして濃縮されたルウ、いったいどんな味になるんだ!?」
「燻製のようなクセのある香りじゃねえ、食欲そのものに直撃するかのような香り。どうすればこんな香りが出るんだ……………!」
誰もがルウの香りの虜になっている中でもカムイは一切周囲を気にすることなく調理を進める。
ルウを煮込んでいる間にカムイは米の調理に入った。スパイスの香りが移った鶏油を使って米を炒めたら、これまた純粋なブイヨンとスパイスを合わせて土鍋で炊いていく。
「米を炒めてからブイヨンとスパイスを使い土鍋で炊く………ってことは、アレは『ピラフ』か?」
「ああ、しかも具材は一切入れていなかった。純粋に鳥のエキスとスパイスの香りだけで作る『チキンピラフ』だ…………!」
「理に適ってるわ。スパイスの香りというのは別の要素が多ければ多いほどボヤけてしまう。
あれだけ鳥の旨味が結実したブイヨンがあれば、むしろ具材は邪魔でしかないもの」
土鍋でピラフを炊くという破天荒な調理に観客たちが呆気に取られているのも束の間、またもやカムイは理解不能な行動を取る!
ドバァァァァァァァァァァ、シュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………!
「なっ!? アレはいったい何をやっているの!?」
「せっかく作った究極のチキンカレー、そのルウを…………!」
「鉄板の上に全てブチ撒けるとは………!」
そう、会場にいる全員を食欲で支配していた香りの発生源であるカレールウ。カムイはなんと全て鉄板の上にブチ撒けてしまったのだ!
これには観客や審査員だけではなく、『神の舌』を持つえりなすらも言葉を失ってしまう。
あのままでも至上の美味を奏でるであろう『チキンカレー』をわざわざ鉄板の上にブチ撒ける理由が理解できなかった。
(これは、午前に作った『ワイン蒸し』と同じ状況! ならこの行為にも必ず意味があるはずだわ!)
カムイの理解不能な行動に驚きながらも、えりなはすぐに頭を切り替える。
これまで何度もカムイの料理を食べてきて、カムイが調理に無意味な工程を入れるとは思えなかったのだ。
(鉄板にバラ撒いたカレーをヘラを使って薄く広げている。しかも湯気が立っていないところを見ると、あの鉄板は『ルウを冷やすためのもの』? あの工程にいったいどんな意味があるというの?)
えりなはカムイの行動の一挙手一投足を見逃さないよう目を光らせる。しかしどれだけ考えても、カムイの真意を見抜くことは出来なかった。
鉄板で急速に冷やしたカレーをヘラで掬い上げたら、再び鍋に移して火にかける。
カレーを温め直しているのを見て、観客はなおさらカムイがわざわざカレーを冷やしたのかが全く分からなくなった。
観客たちが疑問符を浮かべているのを他所に、カムイは次の調理工程に入る。『ワープダイニング』で時間を早めて炊いたライスを、今度はスパイス油と卵で炒めていく。
「あれは、『チャーハン』ですかな。スパイスを直接振りかけるのではなく、スパイス油で炒めている」
「米を炒めてから炊く『ピラフ』と炊いてから炒める『チャーハン』で、それぞれ特徴を出しているというわけですな」
「ならあの羽釜で炊いている米はブイヨンとスパイスで炊く『ドライカレー』と言ったところかしら? しかも見たところ、『信楽焼』の羽釜を使っているわね」
カムイは3つの『ライス』を用意していた。『ピラフ』は土鍋で、『チャーハン』は最新式炊飯器で炊いていたのだが、最後の『ドライカレー』は『信楽焼の羽釜』で炊いているのだ。
【信楽焼】は粗めの土質を使用して作られており、耐火性に優れている。
その性質を利用して茶器や陶器に使われるのが一般的なのだが、『羽釜』や『土鍋』といった調理器具にも使われている。
そして【羽釜 はがま】は底が平らな半球形なので対流が起きやすく、短時間で均一に加熱される。
そのため、柔らかくなりすぎず粒感を残した炊き上がりになるのでカレー向きな歯ごたえのある米に仕上がる。
また木製の蓋『木蓋』を使用することで蒸気を吸収、水滴が米に落ちるのを防ぐためふっくらと仕上げることが可能なのだ。
一見すると型破りかつ破天荒な調理方法なのだが、所々で基本に忠実な場面が見れるため、一概に奇天烈とも言えない。
それにより観客はますます混乱していくのだが、それでもカムイは調理に集中し、料理の仕上げに入った。
皿の左側に出来上がった『ピラフ』『チャーハン』『ドライカレー』をよそう。
そして右側には温め直したルウと焼き上がった『タンドリーチキン』を切り分けたものを乗せる。
さらに中央の窪んだ部分に『グルメケース』から取り出した卵を割り入れれば完成。
「出来たぞ」
「ス、スゲエな。あれだけ手の込んだカレーだっていうのに、あっという間に50人前近くを作っちまった…………」
カムイが作った【天草大王のチキンカレー】。黄・オレンジ・白と盛りつけられた『ライス』、黄褐色の『ルウ』、赤黒い『チキン』。
さらには赤みが濃い『卵黄』は視覚を刺激し、スパイスと旨味が混じり合った香りは嗅覚を刺激し、観客たちの食欲のスイッチを二段構えで連打していた!
午前と同じように選手・審査員・観客・十傑と50人近くにSPが急いでカムイの料理を運んでいく。
すぐにでも運ばないと暴動を起こしかねないくらい、皆がカムイのカレーを食べるのを待ちかねているからだ。
そうして全員へカレーが運ばれるのを確認したカムイはいつも通りの所作を取り、皆もカムイに倣う。
「この世全ての食材に、感謝を込めて『いただきます』」
「「「「「いただきます」」」」」
カムイに続く形で全員が一斉にカレーをスプーンいっぱいに頬張ると………………極限まで濃縮された鶏の旨味が一気に爆発した!!!!!
調べてみたら『中国料理』には『風干鶏』の他に、日本人にとって結構インパクトの強い料理がいくつかありました。
中でも作者が驚いたのは以下の五つです。
【猴頭】
猿を生きたまま拘束して頭を切り開き、熱々の香味油を脳みそにかけて混ぜながら食べる
※食事中、猿は絶えず絶叫しているそうです。
【三吱児】
ネズミの新生児をタレを漬けて食べる
【烤鴨掌】
調味料を入れた熱々の鉄板の上で、生きた鴨を走らせて、味がついた足だけを食べる
【碳烤乳羊】
出産間近の母羊を丸焼きにし、お腹の中にいる胎児を取り出して食べる。
【澆驢肉】
生きたロバを縛って固定し、お客さんが食べたい部分を指定すると、コックがその部分を剝いで沸騰したお湯をかける。
火が通ったら、その部分の肉をそぎ落としてタレにつけて食べる。
ベトナムの『ホビドン』を食べた時もインパクトを受けましたが、世の中にはまだまだ上があるんですねwww
それでは皆さん、次回で♪
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