作者は『カレー』の中で『チキンカレー』が一番好きです。その結果、『チキンカレー』だけで1.5話も使うこととなってしまいましたwww
自分自身、まさかこんなに長くなるとは思いませんでした………。
「う、美味ええええええええええええええええええええ!!!! 何だこのルウは!? 全く雑味が無い純粋な鶏のエキスが口の中で爆発してやがる!!!」
「こ、この香りは! ルウだけじゃなく『ライス』や『チキン』、それに…………何で『卵』からもこんなに鮮烈なスパイスの香りが出てるんだ!?」
カムイのカレーを食べた者は全員『食欲』に取りつかれたかのように夢中でカレーを食べまくっている!
もはや話している時間どころか、呼吸することすら惜しんでカレーを食べては感動のあまり涙を流している状態だ!
「こ、これが『風干鶏 フーガンヂー』の味なのか!? 上品な甘さが特徴の『天草大王』に、野性味溢れる濃厚で鮮烈な風味とスパイスの香りが加わって、ルウの香りと旨味を何倍にも引き上げている!!!」
「それだけではない! 鶏のエキスを存分に吸収した『ライス』にもそれぞれ異なるスパイスを使っているから、単独でも素晴らしく美味いライスが、ルウやチキンと合わせることで更に旨味とコクが深く感じられる!!」
「しかも『ライス』は別々の米を使っている! オレンジの『ピラフ』はジャポニカ米、黄色の『チャーハン』はインディカ米、そして『白いドライカレー』はもちろん日本米と、それぞれの料理に最適な米を最適に調理している!!」
「深いコクのある旨味がはち切れんばかりに口の中を満たしてきて、身体中に『美味しさ』が駆け巡ってくるぅぅぅぅ!!!
誰か、誰かこの涙を止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
【カレーライス】は『ルウ』『具』『ライス』の三要素からなる料理。
その三要素を極めに極めたカムイのカレーは、それぞれの要素に別々のスパイスを施して調理することで、味と香りの相乗効果を生み出したのだ。
そのうえで『スパイスの香りは他の香り要素が加わるほどボヤけてしまう』という基本を踏襲し、個別のスパイスの香りを最大限に高められるよう『ルウ』『具』『ライス』に使用するスパイスをそれぞれ十種類ほどに選別していた。
厳選されたスパイスと微に入り細を穿つほどの丁寧な調理によって、『天草大王』の不死鳥の如き生命力という名の『旨味』が皿の上で存在感を放つ!!!
(た、確かに美味しい! いや、美味し過ぎる!!! 純粋な鶏の旨味エキスだけで作った『ルウ』は言うに及ばず。
野性味と上品さを両立させた旨味タップリの『天草大王』、米それぞれに最適な調理をして単品としても極上の『ライス』。
そして何よりも特筆すべきは、中央にあるソース代わりの『卵黄』! ただの卵黄から、どうしてこんなに鮮烈なスパイスの香りが出ているの!?)
気を抜くと一心不乱に掻き込みたくなる衝動を必死に抑えながら、えりなはカムイの料理を何度も咀嚼して分析をする。
しかし『神の舌』を持ってしても、カムイのカレーには分からない要素が多かった。
その一つが味変のソースとして中央に入れた『卵黄』。どう見ても生の卵黄であり、割った卵の中身を入れただけのところをこの場にいる全員が見ていた。
それなのに卵黄からは素晴らしいスパイスの芳香が漂ってくるのだ!
この卵黄のおかげで、カムイのカレーには胸をときめかせるような香りが加わり、より一層の深みとコクを与えて食欲を常に刺激してくる。
(カムイくんは間違いなく卵を割ってそのまま入れた、一切の調理はしていない。これは確定事項、ということは……………秘密はあのケース!)
えりなは食べるのを中断し、カムイが卵を取り出した『グルメケース』の中を調べる。
だが中身はいくつかのハーブやスパイスが入っているだけ。しかしえりなにとっては、これだけで十分だった!
「っ、密閉した容器の中でスパイスと卵を保管していた…………そうか、『トリュフ卵』を応用したのね!!!」
えりなが声を上げると夢中で食べていた周りの者たちがピタリと食べる手を止める。
周りの者も割ったばかりの卵がスパイスの香りを漂わせていることに疑問を感じていたが、それ以上に食べることに心を奪われていた。
「ト、『トリュフ卵』って、新鮮な卵とトリュフを容器で密閉することで、卵にトリュフの香りが染み込むっていう…………?」
新鮮な卵、特に産みたての卵は殻にある微細な穴から呼吸をしている。
それを利用してトリュフと一緒に容器で密閉すると、卵の中身にトリュフの香りが染みつくというのが『トリュフ卵』である。
「ええ、間違いありません。この卵は恐らく産みたての『天草大王の卵』。
それをいくつものスパイスと一緒に容器に入れることで、スパイスの香りを卵に染み込ませたのです! 言わば『トリュフ卵』ならぬ『スパイス卵』!」
「っ、そ、それで割っただけの卵なのに、これほどの香りを放っているのか!!!」
「フランスで生まれた技法をカレーに応用するとは、なんというセンスなんだ!!!」
えりなの解説を聞いて食欲に囚われていた全員が驚きのあまり正気を取り戻す。
フランスの技法、しかも到底カレーには関係なさそうなところからカレーに持ってくるとは思わなかったからだ。
「流石はえりな様、カムイの料理の秘密を見破るなんてまさしく『神の舌』の成せる「いいえ、まだよ」っ、え、えりな様?」
「私が気づけたのは『卵の風味』の秘密だけ。それだって『舌』ではなくカムイくんの道具を見たから気づいた。
とても『神の舌』…………いいえ、『料理人』としてあるまじき行為だわ」
料理に限らず、スポーツでも他者の技法を見たり感じたりして盗むことは当たり前のことである。
だが自分の五感を駆使するのではなく、相手の道具を盗み見てモノにすることはただの盗人でしかない。
いくら興味が尽きないからと言って、カムイの使った道具を調べて味を盗んだことをえりなは強く恥じた。
「それに、この料理にはまだ分からない点があるのよ」
「? 分からないこと?」
「ええ、まずこの『ルウの滑らかさ』。舌に全く引っかかることなく溶けていく、シルクのように柔らかく滑らかな『舌触り』。
普通に煮込んだり濾したりするだけでは、これほど極上の『舌触り』には絶対にならないわ」
「確かに。カレーに限らずルウやソースってのは、どうしても舌にザラつきが残っちまう。けれどこのルウは舌の上を滑るようにスルスルと入っていく」
「そしてこの『深いコク』。どれだけ煮込んだとしても、こんなに私たちを魅了するコクを出せるだなんて信じられないわ」
「ああ、俺たちの心をガシッと掴んで離さない…………そんな深くて魅力的なコクだ」
えりなと選手たちは食べるのを一時中断し、カムイのカレーについてアレコレと考察を始める。
だがいくら考えても、『神の舌』ですら解き明かすことが出来ない『味の秘密』を暴くことは容易ではなかった。
そうやって全員が顔をしかめている中でただ1人、呑気にカムイのカレーを堪能している男がいる。
「いや~~~、それにしても相変わらずカムイの料理ってスゲーよな! 俺もカレーライスには自信があるけど、こんな美味いカレー食ったこと無えよ♪」
「へえ、幸平くんってカレーライスが得意なんだ」
「おう、実家でよく作ってたんだけどよぉ。コツとしては肉を入れずにルウを作って、一旦冷凍庫で凍らせるんだよ」
「えっ、冷凍庫で凍らせる? そんなことして大丈夫なの?」
「ああ。そうすることで温め直した時に野菜の細胞膜が崩れて、ルウの中に野菜の旨味がよく染み出るんだよ。肉は後から焼いて入れるから固くならないしな」
「ふ~~ん、まさに『定食屋の知恵』って感じね」
「まぁな。まるで二日目のカレーを食べてるみたいで、コレがまた美味いんだ♪
ただイモを入れる場合はジャガイモじゃなくて、里芋を使った方がいいぜ。でないとイモがグチャグチャになっちまうからな」
皆が頭を悩ませている横で榊と談笑する幸平。マイペースを通り越して、若干の無神経さに苛立つ面々は別の意味で顔が強張った。
「おい、幸平。そんな無駄話してないでお前も「待って、水戸さん」っ、えりな様!?」
特に幸平に想いを寄せている水戸は榊と楽しく話しているのが面白くなく、真っ先に止めようとするが逆にえりなに遮られてしまう。
「幸平くん。今アナタ、何て言ったの?」
「ん? 何だよ薙切、そんな怖い顔して。何を言ったって、『ゆきひらで作っていたカレーは凍らせてた』って「そのあと!」」
「そのあと? え~~~っと、『ジャガイモを凍らせるとグチャグチャになるから』「もう少し前!」」
「もう少し前って言ったら、『まるで二日目のカレーを食べてるみたいだ』「そう、それ!」 な、何なんだよいきなり……………」
(二日目のカレー、まさにその通りだわ! このカレーはまるで作ったカレーを一晩寝かせたような味わいとコクを持っている!
思い出すのよ、えりな。カムイくんの調理していた光景を! 彼の動きは一挙手一投足余さず見ていた。あの中に必ずヒントがあるはず!)
幸平の言葉が引っかかったえりなは、自分の持ちうる限りの知識と目に焼き付けたカムイの姿を照らし合わせる。
かつてないほどに頭の回転を巡らせ、『神の舌』と呼ばれる自身の味の記憶を呼び覚ましていく。
(そういえば一つだけ、どうしても意図が計りかねる部分があった。
鉄板の上にカレーを広げた行為、アレはまるでチョコレートを作るようだった。
それに隠し味にもチョコレートを入れていたわね…………チョコレート…………っ!!!!!)
「そうか…………そうだったのね! カムイくんがルウを鉄板に広げた行為、アレは『テンパリング』!!!」
そうしてカムイの調理姿の中で一つだけ未だに謎のままだった行動があったのを思い出した。
そこから自分の味わってきた『舌の記憶』と照らし合わせ、ついに答えへと辿り着く!!!
「え? 『テンパリング』って、チョコレートを作る時にやるアレよね?」
「ああ。チョコレートに含まれる結晶体を統一化させることで、舌触りを滑らかにする技法だ」
「確かに言われてみれば似ていたな。でもそれがどう味に関係してくるんだ?」
「っていうか、『テンパリング』って何だ?」
料理人ならば『テンパリング』という言葉を聞いたことはあるものの、それがカレーにどう関わってくるかが分からない。
ただ幸平だけは『テンパリング』という技法そのものを知らないようだ。
だが『神の舌』を持つえりなは、その優れた味覚と自身の持つ知識から『テンパリング』がカレーに及ぼした影響力を理解していた。
「確かに『テンパリング』の主な目的は『滑らかな舌触り』を作ることにあるわ。
でもその他にも【旨味の相互互換】を利用し、『カカオの風味を保ったままコクを深める』という意味もあるの」
「カカオの風味を保ったまま、【旨味の相互互換】でコクを深める…………っ、そうか! だからコクがありながらもスパイスの香りがこんなに鮮烈だったのか!!」
えりなが『テンパリング』について説明すると、全生徒の中でスパイスのエキスパートである葉山が真っ先に理解する。
そして遅れること数拍の後に他の生徒も、カムイが何故カレーに『テンパリング』を用いたのかが分かった。
そもそも『テンパリング』とは榊が言ったように、元々はチョコレートを作るために生み出された技法である。
チョコレートを加工する際、市販や業務用の『クーベルチュールチョコ』を湯煎で溶かして好みのフレーバーを加えてから様々な形に冷やし固める。
しかしチョコを冷やして固める際に大きな問題が生じる。
それはチョコレートの主成分である『カカオバター』にはⅠ~Ⅴ型の5種類の結晶体があり、市販や業務用のチョコは全てⅤ型に揃えられていることだ。
その結晶体はチョコを溶かして加工する際にバラバラになってしまうため、そのまま固めてしまうと光沢を失い、滑らかな舌触りが無くなってボソボソになってしまう。
だからしっとりと滑らかな舌触りにするには、結晶体を全て統一しなければならない。
一応、市販の加工用チョコや業務用チョコは結晶体がⅤ型で統一されているものの、溶かして固めると言う加工手順の際には必ずⅤ型の結晶体はⅠ~Ⅴ型でバラバラとなってしまうのだ。
それを防ぐために『テンパリング』という技術が生み出された。
5つの結晶体は種類ごとに形成される温度が違う。この特性を利用し、『テンパリング』はまず溶かしたチョコレートを薄く広げて27℃ぐらいまでに冷やす。
こうすることでチョコ内部の結晶体が全てⅣ型に統一される。そこから更に30℃前後まで温めることで、Ⅳ型の結晶体がⅤ型に変異するのだ。
以降はこのⅤ型の結晶体が核となり、内部の結晶構造が全てⅤ型に統一されることで光沢が生まれ、滑らかな食感と舌触りのチョコレートとなる。
カムイは隠し味として、甘みの無いカカオ100%のチョコレートをルウに入れ、この『テンパリング』を行ったのだ。
ただこれだけ聞くと簡単そうに聞こえるが、『テンパリング』は僅かでも手間取ると別の結晶体が作られ、それを核としてどんどん結晶体が結合していき、狙い通りの結晶体が作られなくなってしまう。
そのため『テンパリング』で全ての結晶体をⅤ型に揃えるには熟練の技が要求される。
だがカムイは『食材の声』を聞くことで、この問題をクリアした。さらに『テンパリング』は舌触りを滑らかにするだけではなく、急速に冷やすことで『旨味の相互互換』を発生させた。
【旨味の相互互換】。熱力学(エントロピー)の法則では物質は温めれば外に圧力が掛かり、冷やせば逆に内側へと圧力が掛かる。
料理で分かりやすいのは『煮込み料理』だろう。熱を加えると具材の旨味成分は煮汁に溶けだし、冷やすと逆に煮汁の旨味が今度は具材に染み込む。これを【旨味の相互互換】と呼ぶ。
家庭でカレーを作ると一日目よりも二日目の方が美味しさとコクを感じるのは、この【旨味の相互互換】によるものである。カムイはこの現象を『テンパリング』で実現したのだ。
これこそカムイがこの世界で培ってきた技術の1つ。単に二日目のカレーを作るだけなら『ワープダイニング』で時間を早めればいい。
しかしそれではスパイスをはじめとする風味や香りが飛んでしまうため、能力の欠点を補うためのこういった調理技術を常に求めているのだ。
「カムイくんは『テンパリング』で舌触りを極限まで滑らかにすると同時に、【旨味の相互互換】を発生させてコクを深めたのよ。
しかも通常二日目のカレーはコクが深まるけれど、時間が経過してしまっているためスパイスの香りが風化してしまう」
「だが『テンパリング』によってチョコが持つカカオの風味を維持するように、スパイスの風味を損なうことなく『二日目のカレー』を作ることが出来たってことか!」
えりなと葉山の考察を聞いて会場の全員が戦慄した。奇想天外極まるカムイの行動の裏には、緻密に計算された旨味の構築理論が展開されていたのだから。
「マ、マジかよ、どうやったらそんなこと考えつけんだよ…………!」
「ああ、まさしく『時間』に関する問題すらも技術によって解決してしまった。超絶極まりないセンスだ…………!」
「これが、【神域の料理人】と呼ばれる男の実力かよ…………!」
誰もが子どもの頃、自宅で食べるカレーに胸を躍らせたことだろう。そして二日目のカレーを食べることを楽しみにして気分が高揚した記憶があるはず。
カムイのカレーは『美味さ』のみならず、そういった誰もが持っている『食の記憶』に訴えかける料理であった。
幼き頃に初めて覚えた『食の記憶』『味の記憶』、そして『美味しさの記憶』が食す者の心を掴んで離さなかったのだ。
「ここまででも凄まじい技術とセンスだわ。でも最後に一つだけ、どうしても分からないことがあるのよ」
「分からないこと? 『神の舌』を持つえりな様を持ってしても、まだ分からないことがあるんですか!?」
「ええ。それは、この微かに感じる『渋味』よ。『ほのかな苦味』とも呼ぶべきかしら。
カムイくんが午前の部で作ったカレーでも感じたこの『渋味』。全ての料理の土台になっているとも言える、この柔らかく心地よい『渋味』の正体が分からないのよ」
「っ、確かに、俺の嗅覚でも僅かにしか感じ取れない『渋味』があるな。風味としては『ヒン』に近いんだが、それにしては穏やか過ぎる」
「この『渋味』のおかげで、濃厚すぎる旨味に疲れた舌を適度に引き締め直してくれるから、全く味に飽きることがないのよね」
午前の部でも謎のままに終わってしまったカムイのカレーの『渋味』、午後に作ったカレーを食べてもまだその正体は掴めないままだった。
「う~~~~ん。だったらよぉ、直接カムイに聞けばいいんじゃねえのか?」
「「「「「…………………………」」」」」
天上の美味極まるカムイのカレー、ここまで何とか味の秘密を解き明かしてきたものの最後の一つがどうしても分からない。そんな中で幸平が身も蓋も無いことを言い出した。
「いや、まぁ、それはそうなんだけどよぉ……………」
「ここまで来て、最後の最後に本人から直接教えてもらうのは……………ねえ?」
「何だかスゴイ負けた気分になるというか……………」
「凄く情けない気持ちになるな……………」
「気持ちは分かるけどよ~~~、でも薙切でも分かんないんだろ? ならつまらない意地なんか張ってないで教えてもらおうぜ♪ おーーーーいカムイーーーーー!」
幸平の言うことは尤もである。調理工程を見て、味を知り、それでも分からないのであれば本人に聞く以外に知る術はない。
だが『カムイに自分の味を認めさせる!』と息巻いておきながら、『味の秘密を教えてください』と尋ねるのは料理人としてのプライドがズタボロになる思いだろう。
しかしそんなことなど全く気にせず、幸平はあっけらかんとした態度でカムイに『渋味』の秘密を尋ねた。
「なぁカムイ、この『渋味』ってどうやって出してんだ?」
料理人に味の秘密を教えてもらうという反則技を平気で行う幸平。
誰もが『そんな簡単に教えてもらえるわけないだろ!』と心の中で思うも、カムイにとっては『知識や技術の秘匿』に興味は無いので普通に答えた。
「『マジックスパイスウォーター』だ」
「? 『マジックスパイスウォーター』? 何だそりゃ?」
カムイに答えを聞いても、知識の乏しい幸平では何のことだかさっぱり分かっていない。
そればかりか、えりなや葉山だけではなく周りの者も疑問符を浮かべている。
そのため説明は、カムイが口下手ながらも苦心して行う羽目となった。
【マジックスパイスウォーター】とは、少量の油を混ぜた水でスパイスを煮出すことで、スパイスの風味を水に溶かし込む技法である。
通常スパイスの風味を料理に加える場合は、粉末にしたり油に香りを移して使用する。
ただいずれの方法でもスパイスの風味が前面に出てしまうため、香りが飛びやすくバランスを取るのも難しくなってしまうのだ。
だが『マジックスパイスウォーター』はスパイスの香りを前面に出すことなく食材に染み込ませることが出来るので、風味の奥底に潜ませて味わいの下地を作ることが可能。
言ってみれば、通常のスパイスの使用方法が建物の階層を上に積んでいくのに対し、『マジックスパイスウォーター』は風味の土台………謂わば支柱を作っていくようなものである。
選抜の出場選手は皆、スパイスの香りを重ねていくことしかしていなかった。例えるならコンテナを上へ積み上げていくようなもの、当然限界はある。
しかしカムイは白いドライカレーを炊く時はもちろん、料理に使う水を全てそれぞれ独自に調合した『シーズニングスパイス』と『モルス油』&『エアアクア』で作った『マジックスパイスウォーター』を使用した。
これにより柔らかくまろやかな『渋味』『苦味』が料理全体の土台となり、他のスパイスの風味や食材の旨味がより明確に際立っていたのだ。
それは言うなれば、まさに高層ビルを基礎工事からしっかりと建てるような力強い土台となる。
さらには微かな『甘み』までも加えることで、カレーの辛さをより強く際立たせていた。
「『マジックスパイスウォーター』、そんなモノがあるなんて……………!」
「『渋味』や『苦味』なんて少し分量を間違えれば、たちまち料理が崩壊するような代物だろ!? それを躊躇なく使おうとするなんて正気かよ!!」
「そうか、だから私たちのカレーとは決定的に味や香りが違っていたのね」
「こうしてよく味わってみると、僕たちとは味の土台からして違っているのが分かる」
「チィッ、悔しいが何も言えねえな。俺たちとはモノが違う」
「仮に同じスパイスを同じように使ったとしても、『渋味』や『苦味』を使いこなせるカムイの方が必ず上を行く。
そうか、スパイスを極めるにはそこまで踏み込まないといけないってことか!」
「へっ! 流石だぜカムイ! ますます燃えてきたぜ、こりゃあ是が非でも選抜に優勝して『直接対決』しねえとな!」
日本で最も一般的なカレーである『チキンカレー』、それをカムイの持つ神懸かったセンスによって極められた料理を食べた選手たちは様々な反応を見せる。
ある者は戦慄し、ある者は恐怖し、ある者は感嘆し、ある者は闘志を燃やす。
選抜に参加していない一年生の大半はカムイと自分たちとの才能の差に心が折れているが、選手たちの多くは絶望ではなく少しでも己の糧にしようとしていた。
「素晴らしい! この超絶的な美味さもそうだが、何よりこのカレーからは『日本そのもの』を感じる!」
「ええ! 『天草大王』という日本の『食』に対する叡智の結晶、『風干鶏』や『テンパリング』に『ピラフ』『チャーハン』『ドライカレー』など世界中の料理技術。
世界中の『食』を集めるばかりか、失われた食材まで復活させるという日本人の飽くなき『食』への拘りが表現されています!」
「それでいて日本人ならば誰もが胸をときめかせた『二日目のカレー』という、『日本人の食の記憶』すらも踏襲している!」
「まさにこの『チキンカレー』は日本の、日本による、日本だからこそ生まれた料理! 日本が持つ『食』の全てを結集させた、世界に類を見ない全く新しい【日本カレー】と呼ぶべき一品だわ!」
またカムイのカレーの全容を知ったえりなや審査員を含めた来賓客は、【神域の料理人】の圧倒的なまでのセンスを大絶賛! スタンディングオペレーションの状態となる!
「素晴らしい、素晴らしいわ、カムイくん! これこそまさに私たちの求めていた【日本カレー】の決定版、やっぱり貴方は最高よ♪
お願い、私たちと一緒に来て! 貴方なら私たちにカレーの可能性をどこまでも見せてくれるに違いないわ♪」
「カムイくぅん♪ 私たちのモノに…………いいえ、私たちを『貴方のモノ』にしてぇ♪ 貴方になら私たちの全てを差し出せるからぁ、おねがぁい♪」
「ちょっとオバさんたち! 『私の』兄さんにベタベタくっつかないでよ! 兄さんは私と一緒に『薙切インターナショナル』に行くんだから!」
「千俵姉妹、カムイくんから離れてください! アリスもよ! だいたい『私の』ってどういう意味よ! そんなの絶対に認めませんからね!」
カムイが作った【神域のチキンカレー】とも呼べる料理に感激したなつめ嬢と、いつの間にか降りてきたおりえ嬢が両サイドからカムイへ抱きつき誘惑してくる。
そこにこれまたいつの間に降りてきたのか分からないアリスが、負けじと正面から抱きついて離そうとしない。
さらにはその隙間を縫って、えりなが身体を押し込み三人を引き剥がそうとする。
四人の美女・美少女に抱きつかれているカムイを見て男性陣は、あらん限りの羨望と怒りと憎しみをカムイにぶつけるが、当の本人は相変わらず顔色一つ変えようとはしない。
むしろなつめ嬢とおりえ嬢の香水のせいで、呼吸を止めているぐらいだ。
そんな運営委員である十傑すら止められない四人のカムイの取り合いは、総帥である仙左衛門が仲裁するまで続けられるのだった。
隠し味に【鉄鍋のジャンR】の『マジックスパイスウォーター』を採用してみましたが…………『感想』を見て驚きました、まさかアレだけで見抜いた方がいたとは! お見事です!!!
【グルメ食材】
モルス油・エアアクア
それでは皆さん、次回で♪
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