神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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今さらですけど、前作とは違い今作ではキャラごとの心理描写が少ないため、キャラをちゃんと書けてるのか不安になってきました。

一応、キャラがブレないように注意はしてるんですけど。




第二十八皿

 

 

 

 

「それではこれにて、【秋の選抜戦】の予選を終了する」

 

 

 

 えりな&アリス、そして千俵姉妹をカムイから引き離した仙左衛門は気を取り直して予選の締めに入る。

 

「本選は10日後、この『月天の間』にて行う。予選を通過した8名によるトーナメント方式だ。ただし対戦相手は一回戦・二回戦ともにランダムに選ばれる」

 

 つまり通常のトーナメントとは違って、準決勝までは誰と当たるかは分からないということ。

 仙左衛門の言葉に本選出場者は互いに顔を見合わせた。そして、さらに仙左衛門はこの選抜戦における【重要事項】を伝える。

 

 

 

「そして見事この選抜戦を優勝した者には……………遠月最高の料理人である『第零席 カムイ』への挑戦権が与えられる!」

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 

 仙左衛門の言葉で観客は盛り上がり、本選出場者たちは今一度やる気を漲らせた!

 

 そう。今年の選抜戦は例年とは異なり、優勝者を決めるだけでは終わらない。

 

 優勝者は現在遠月においてトップたるカムイに挑戦、謂わば【食戟】を挑むことが出来るのだ。

 もちろんカムイに勝つことが出来れば、そのまま『第零席』の称号が手に入る。

 

 本来であれば双方の合意が無ければ成立しない【食戟】。しかも『第零席』の座を賭けるのであれば、退学どころか自身の料理人生命を賭けても釣り合いが取れないだろう。

 

 それを学園公認の下に行える破格の権利が優勝者に与えられるのであれば、上を目指す者にとってこれほどのカンフル剤はない。

 

 そのため選手たちのモチベーションは過去最高になったと言える。

 

 

 だが、仙左衛門は急遽『ある提案』を追加した。

 

 

「ゴホン! ところでえりなよ、其方はこのままで良いのか?」

 

「………え? お、お爺様、それはいったいどういう…………」

 

「其方は『カムイと戦いたくはないのか?』と聞いているのだ。十傑とはいえ、其方が一年生であることに変わりはない。

 其方が望むなら、総帥権限で『選抜優勝者』『カムイ』『えりな』の三つ巴の特別試合とすることも可能だぞ?」

 

 仙左衛門の問いかけにえりなの表情が強張る。突然投げかけられた質問にえりなは何も言わず、様々な考えを巡らせていた。

 

 

(っ………戦いたい、もう一度カムイくんと! 今の私の料理が、カムイくんにどれだけ通用するのかを試してみたい。そして『私のこと』を見てもらいたい、知ってもらいたい!)

 

 

 今のえりなはかつてカムイと戦った時とは全くの別人と言っていい。以前のえりなは『神の舌』に任せて料理の是非のみを見ていた。

 だがカムイによって、それは『驕り』以外の何物でも無いこと。そして『料理』には『満点を超える皿』があることを思い知った。

 

 また一時的に味覚を失ったことで、『食の尊さ』と『食材への感謝』を再認識したえりなは一から自分を鍛え直した。

 味見役としての仕事や十傑としての業務をこなしながら、空いた時間があれば新戸と共に自己の研鑽に励んでいる。

 

 傲慢な女王気質であった頃とは比べ物にならないくらいに真摯に、そしてひたむきに料理や食材と向き合ってきたえりな。

 仙左衛門はそんなえりなを見て『もう一度カムイと勝負すれば、えりなの更なる成長が期待できる』と考えたのだ。

 

 

(でも、私の料理でカムイくんに勝てるの? いえ、そもそも勝負にすらならないかもしれない。

 これまでの料理、さらにはあれほどまでの超絶美味たる料理を生み出せるカムイくんに!

 ましてや私は十傑でこの選抜戦の運営委員、それなのに個人的な願望を優先するなんて…………)

 

 『料理人としての願望』と『上に立つ者の責務』の間で揺れるえりなは、答えが見出せない自問自答を何度も繰り返しては悩む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、えりな様!!!」

 

「っ、ひ、緋沙子…………?」

 

 

 迷いの中で答えを見出せないでいるえりなに突然、秘書である新戸が声をかけた。

 自分の主の性格を知っている新戸はえりなの悩みにいち早く気づいたのだ。

 

 

「えりな様の苦悩、この新戸がよく分かります。幼い頃よりずっと一緒だったのですから。ですが、その上で敢えて申し上げます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えりな様はもう一度、カムイと戦うべきです!!!」

 

「っ…………………!」

 

 

 新戸とは幼少の頃から一緒だったことで、えりなもその性格は理解していた。

 決して主の前を歩かずに数歩後ろへ控えて主のことを支えてくれる従者の鏡。

 

 だからこそ、ここまでハッキリと『自分の意見』を物申すことは初めてであり、えりなも思わず驚いてしまった。

 

 

「えりな様は以前カムイに仰られました。『【人生のフルコース】を完成させると言いながら、「料理」に背を向けるのか』と。

 今のえりな様はカムイやカムイの料理のことを尊敬するあまり、恐れているのではありませんか?」

 

(っ、恐れている!? 私が、カムイくんの料理を………いいえ、緋沙子の言う通りだわ。

 私はカムイくんの料理に自分の料理をぶつけることを恐れている。

 あの人知を超えた美味しさを持つ皿が、『神の舌』すら容易く凌駕する彼の才能が…………恐い)

 

 

 生まれつき『神の舌』という絶対的な味覚を持ち、周りの者たちは自分を畏怖していた。

 料理において他者に後れを取ったことなど一度も無かったえりなは人生において、絶対的な自信を持っていた。

 

 誰一人として『神の舌』に逆らうことが出来ないのだから、それは当然と言えよう。

 

 だがそんなえりなの自信は、カムイの料理によって粉々に砕かれた。

 

 

 カムイが作る『神の舌』すら及ばない超絶美味の数々。食べれば食べるほど料理に限界など無いのだと思い知らされたえりなは、これまでの価値観を根底から覆された。

 

 カムイを通して『食の喜び』を理解したえりなは料理人としても、人としても大きく成長したと言える。

 それ自体は素晴らしいことかもしれない。だが問題は、カムイと自分の料理にある隔絶たる差に恐怖心が芽生えてしまったことだ。

 

 それは『神の舌』を持つ者の宿命たる『絶望』とは全く異なる『影』。えりなは知らず知らずのうちに、自分の料理とカムイの料理を比べては恐怖すると言うトラウマを抱えてしまった。

 

 

「確かにカムイの料理は凄まじい、それは誰もが認めることです。でもだからと言って、カムイの料理から目を背けてはいけません!

 それはえりな様御自身が、『料理そのもの』に背を向けることにもなります!」

 

「緋沙子……………」

 

「えりな様お一人で挑むのが不安だと仰るのであれば、不肖この新戸緋沙子もお供します!

必ずやこの選抜戦に優勝し、カムイへの挑戦権を手に入れてみせます。

ですからどうか、えりな様も正面から堂々とカムイに挑んでください!」

 

「……………………………」

 

 

(っ、そうだわ、このままカムイくんの料理から逃げていちゃダメ! 味覚が戻った時に私は誓った。

 どんな時でも、どんな料理とも、正面からちゃんと向き合うと! たとえソレがカムイくんの料理であっても、決して背を向けてはいけない!!

 だって私は…………『料理』を愛しているのだから!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう緋沙子、おかげで目が覚めたわ。私はいつ、如何なる場合であっても、料理に背を向けるようなマネはしない! カムイくんの料理とだって、正面からぶつかってみせるわ!!」

 

「っ、えりな様!」

 

 新戸の言葉でえりなは迷いを吹っ切る! その顔は清々しくも強いものへと変わっており、新戸も思わず見惚れてしまうほどだった。

 

 他の料理人………あの十傑メンバーですら、カムイに食戟を申し込むようなことはしない。ぶつかったところで自分の方が砕け散ることが目に見えているからだ。

 

 だからこそカムイと『ぶつかる』のではなく『近づく』だけに留めている。

 下手に近づき過ぎなければ安全にカムイの恩恵を受け、そのセンスを吸収できるからだ。

 

 だがえりなはカムイとぶつかる道を選んだ。

 

 たとえ敗北の屈辱に塗れ、自信を失い、『自分』という輝きが消えることになったとしても、えりなは衝突することで生まれる『爆発』………星のような『輝き』にこそ、さらなる成長という名の『可能性』があると信じた。

 

 

「お爺様! その提案、お受けしたく思います。どうかもう一度、カムイくんと勝負をさせてください!!」

 

「フッ、心得た! それでは【秋の選抜 特別試合】は、『優勝者』『カムイ』『薙切えりな』による三つ巴の試合とする!!!」

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!

 

 

「あ、あわわわわわわわ! カムイくんだけでも強敵なのに、そのうえ薙切さんも参加するなんて……………!」

 

「へっ♪ 面白くなってきたじゃねえか! カムイだけじゃなく、薙切とも本気で勝負できるんだからな!!」

 

「フッ、これは益々負けられない戦いになってきた♪」

 

「フフン♪ ちょうどいいわ。えりなも兄さんも、まとめて私が倒しちゃうんだから!」

 

 

「コイツは願ってもないチャンスだ。勝ったヤツが正真正銘の『No.1』ってワケか。燃えてきたぜ!」

 

「そうはいかない。えりな様と共にカムイへ挑むのはこの私だ!!!」

 

 

 えりなの参戦に会場の熱気が最高潮に高まる! 【神域の料理人】と『神の舌』が再びぶつかるのだ。

 『食』に関わる者であれば見逃すことなど出来るはずもない。スポンサーや来賓も観客冥利に尽きる思いだろう。

 

 これぞ【遠月学園】! 安定した学園生活など必要ない。

 

 生徒が持つ『才能』や『可能性』同士がぶつかり合い、研磨されることによって更なる輝きを放つ。

 その繰り返しによって生まれる、より大きな『輝き』にこそ価値を求めるのだ。

 

 それはまさしく星々が衝突することで爆発し、輝きを放ち、より大きな星が新しく生まれるかのよう。

 

 

「しかし心せよ! 其方たちが挑むのは紛れもなく『遠月史上最強の料理人』にして、『世界最高峰の料理人』!!

 生半可な覚悟ではカムイの持つ『料理の世界』に呑み込まれ、『料理人』としての人生を終えることになるだろう!!!」

 

 

 仙左衛門の言葉に一般生徒たちは息を呑む。これまで幾度となく目にしてきたカムイの料理は、まさしく自分たちとは次元の違う料理だった。

 

 実際にカムイの料理を食べたプロの中には、自分との才能の差に絶望するあまり、自ら料理人生命を絶った者が無数にいる。

 

 星と星の衝突などという可愛らしいものではない。カムイの料理は『超新星爆発』のような旨味の輝きを放つと同時に、『料理人』という星の光を呑み込む『ブラックホール』のようなもの。

 

 プロが持つセンスの輝きすら呑み込み、己の糧とするカムイのセンスに近づけば、学生が作る料理のような小さな光など跡形も無く消滅するだろう。

 

 しかし選手たちは逆に闘志を漲らせた! 若さ故か、それとも本選まで勝ち残った自信からかは不明だが、彼らの中にそんな物分かりが良い者は1人としていなかったのだ。

 

 

 

 えりなが選抜最後の特別試合に参加することが決まり、予選は無事に終了した。

 生徒や来賓も会場を後にしようとしており、カムイも『アイランドシェル』へ帰ろうとする。

 

 しかし、タイミングを見計らっていたかのように待っていた竜胆と茜ヶ久保に捕まってしまった!

 

 

「カムイ~~~! 料理作ってくれよ〜〜、カレー1杯じゃ全然足りねえよ~~~!」

 

「カムくん、あのゼリーは何!? どんなフルーツを使ったの!? お願い、今すぐ教えて!」

 

 大食いの竜胆はあれだけのカレーでは満足できず、更に料理を作ってもらおうと強請る。

 一応、午前の部のカレーも食べていたのだがとっくに消化してしまったのだろう。

 

 また茜ヶ久保はカムイが口直しに作った『虹の実のゼリー』が気になり過ぎて、目からハイライトが消えている。

 ゼリーを食べていた時は目に星空が見えるほど輝いていたものの、好奇心と興味が一周回って逆に闇落ちしてしまったようだ。

 

 竜胆と茜ヶ久保がカムイへしがみついているのを見て、例の如くえりなとアリスが引き剥がしに掛かろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが突然、会場のゲートからコックコートに身を包んだ男女がゾロゾロとやってきた。

 

 

「見つけたぞカムイィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

 

「な、何ですかアナタたちは!? ここは関係者以外立ち入り禁止「お待ちください、えりな様!」っ、ひ、緋沙子、どうしたのよ?」

 

「この者たち、見覚えがあります。確か…………そう、【宿泊研修】で退学になった生徒たちです!」

 

「なっ!?」

 

 狂気や憎悪で目が血走っている者たちを前にしても凛とした態度を崩さないえりなだったが、新戸に言われてさすかに驚いてしまう。

 一方の不審者たちは反応が様々だ。未だ怒りを滾らせている者もいれば、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている者もいる。

 

 

「そうさ! 俺たちは先に行われた宿泊研修で失格になった……………カムイ! お前のせいでな!!」

 

「なっ、兄さんのせいって、どういうことよ!?」

 

 『自分たちの退学はカムイによるもの!』という言葉にアリスだけではなく、周りの皆もザワつき出す。

 そして退学者たちは宿泊研修で自分たちが退学になった経緯について話した。

 

・カムイが飛び入りで参加したことで、合格の枠が極端に少なくなったこと。

・試験官がカムイの料理を食べたせいで、合格基準が跳ね上がったこと。

・夕食やビュッフェ形式での試験で、カムイが客を独占したため自分たちが規定の食数に達しなかったこと。

 

 退学者たちは思い出すだけでも腹が立つのか、しきりに『カムイのせいだ!』と口を揃えている。しかし周りの者たちは逆に理由を聞いて呆れ返ってしまった。

 

 

「何だソレ、別にカムイのせいじゃねえじゃん」

 

「そうよ! そんなのただの言いがかりじゃない!」

 

「まったくだわ。カムイくんは遠月の生徒として全力で試験に臨み、料理人として『最高の仕事』をしただけ。逆恨み以外の何物でもないわ」

 

 

「だ、黙れ! お前たちはコイツと一緒に試験を受けなかったからそんなことが言えるんだ!」

 

「そうだ! もしコイツと同じ班だったら、アンタたちだって退学していたはずよ!」

 

「コイツさえいなければ、俺たちだって合格していたさ!」

 

 

 幸平・アリス・えりながカムイを擁護するが、退学者たちはあくまでカムイのせいにする。

 選抜戦に出た他の選手や来賓客も声にこそ出していないが、気持ちは幸平たちと同じだろう。

 

 

 だが退学者たちが言っていることは、あながち間違いとも言えなかった。

 

 もし幸平やえりなたちがカムイと同じ班で試験を受けていたら、やはり規定の食数には達しなかっただろうし、カムイが合宿に参加しなければ彼らは退学にならなかったかもしれない。

 

 ただ、仮にそうだとしてもカムイには何の責任も無い。合宿の参加を認めたのは学園側、そして総帥である仙左衛門なのだから。

 

 

 それにカムイの実力は知っているのだから、カムイだけ別の試験を用意するなどしてバランスを取れば良かったのだ。謂わばプロとアマチュアに同じ試験を受けさせたようなもの。

 

 あまりにも隔絶たる実力差があるのだから、それぐらいは教育者として便宜を図るべきだった。

 それを『実力主義』や『精鋭主義』な学風のためか、他の生徒と同じようにカムイへ試験を受けさせたせいで、こんなことになってしまったのだ。

 

 だから彼らの怒りや憎しみはカムイではなく、学園や仙左衛門に向けるべきものなのだが、頭に血が上った彼らにはそんなマトモな判断は出来ていなかった。

 

 

「なるほど、其方たちの話は分かった。それで、我らにどうせよと言うのだ?」

 

 

「決まっている! ここにいる全員でカムイと勝負………いや、【食戟】をさせろ!

 そして俺たちの誰か1人でも勝てたら、俺たち全員の退学を取り消せ! そしてカムイ、在学中お前は俺たちの奴隷だ!!!」

 

「俺たち全員とお前1人での【食戟】、つまりは【連帯食戟】だ! 拒否は認めない!」

 

「へへ、死ぬまでこき使ってやるぜ♪」

 

「せいぜい俺たちのために働いてくれよな!」

 

「もし断るなら、ここで大暴れしてやる!」

 

 

 事の発端である仙左衛門も自身の判断の甘さを悔いて、退学者たちの要望を尋ねる。

 しかし目に狂気を宿した彼らは悪びれた様子も無く、手前勝手な要求をぶつけてきた。

 

 そのあまりにも一方的な内容に、今度は来賓客たちまでもが騒ぎ出す。

 

 

「なっ、退学した身でありながら何という身勝手な!」

 

「そうだ! 逆恨みで勝負を挑むばかりか、カムイくんを奴隷にさせろなどと!! 恥を知れ!!!」

 

「警備員、何をしている! 早くあの者たちを取り押さえろ! カムイくん、こんな勝負を受ける必要は無い!」

 

 見たところ退学者は150人ほどいる。そんな人数を相手にカムイ1人で勝負をさせるなど、どう考えてもフェアではない。

 しかも自分たちが負けても何もペナルティが無いのだから尚更である。

 

 

 見苦しいことこの上ない言い分に、来賓客からは反対の声が鳴りやまない。

 

 だが、もし彼らの勝負を断れば彼らはすぐさま暴れ出すだろう。そうなれば怪我人が出て遠月学園のブランドは地に落ちる。

 

 そのため仙左衛門は退学者たちの要求を突っぱねるわけにもいかず、当のカムイにまずは伺いを立てることにした。

 

「ふむぅ。カムイよ、其方はどうする……………カムイ?」

 

 仙左衛門が振り返ると、カムイの姿が無かった。まさかいつものように、何も言わずに姿を眩ませたのかと思ったが……………そうではなかった。

 

 

 

「二人を、頼む」

 

「竜胆、茜ヶ久保!? カムイ、二人に何をしたんだ?」

 

「しがみついて、離れないから、少し眠ってもらった。すぐに目を覚ます」

 

 カムイはステージの端で様子を見ていた司たち十傑メンバーに、気絶させた小林と茜ヶ久保を引き渡していた。

 

 いつぞやのように離す気配が一向に無かったので、こんな時のためにIGOが作った香水タイプの『スーパーリラクゼーション』を予め持ち歩いていたのだ。

 

 

「じゃあちょっと、行ってくる」

 

「っ、おいおいおい。もしかして受ける気か、カムイ。どういう風の吹き回しだ?」

 

「少し、作ってみたい、料理がある」

 

「作ってみたい料理、ねぇ。つまりアイツらはカムイちんの『実験台』ってことだね☆ ハハッ、カワイソーに♪」

 

 意外にもカムイがやる気を出しているのを見て面を食らってしまうが、それ以上にカムイが作ろうとしている料理の方が気になったため、十傑メンバーはこのまま行かせることにした。

 

 

「まぁ、お前なら問題ないと思うけどよ。何なら手を貸すぜ?」

 

「拙者も力を貸そう、『義を見てせざるは勇無きなり』。ましてや、あのように数に物を言わせて無法を働くような輩は見過ごせん」

 

「ハハ♪ 確かに。ああいう見苦しい連中は、一度徹底的にシメておいた方がいいよね。何なら俺も手を貸すよ☆」

 

「僕も協力するよ、カムイくん。可愛い後輩を奴隷なんかにさせられないからね」

 

 カムイの実力は疑う余地も無いが、それでも百人以上を相手にするのは手間だろうと考え、女木島・斎藤・久我・一色の四人がカムイに協力しようとする。

 

 しかしカムイは顔を横に振り、竜胆と茜ヶ久保を支えている紀ノ國へ『ある物』を渡した。

 

 

「フルフル、俺一人で、十分だ。それから、二人が目を覚ましたら、コレを食べさせてくれ。たぶん、また料理を強請ってくると、思うから」

 

「っ、きれい……………コレは?」

 

 カムイが紀ノ國に渡したのは『グルメケース』、その中には透き通った金色に輝くスライム状の何かが入っていた。

 

 

「『三不粘 サンプーチャン』を参考にして作った、スイーツだ」

 

「へぇ、『三不粘 サンプーチャン』! これまた珍しい、カムイちんってば『三不粘 サンプーチャン』作れるんだ♪」

 

 【三不粘 サンプーチャン】。卵・デンプン・油・水が材料の甘くお菓子のような中国料理。

 

 見た目はスライムのようだが、すべすべしながらも弾力のある肌触りで『皿にくっつかず』『箸にくっつかず』『歯にくっつかず』というのがその名の由来。

 

 作り方自体は単純で、材料を全部混ぜて熱した鉄鍋の中でオタマを使いとにかく叩くというもの。

 だが保存ができない上に『材料の分量』『鍋の温度』『叩く力加減』の全てが完璧でなければ作れないほどに作るのが難しい。

 

 しかも一度作るだけでオタマが数本折れてしまうという、なんとも料理人泣かせな料理である。

 かつては宮廷料理に数えられていたが、今では作れる料理人は限られている幻の料理なのだ。

 

 

「でも『三不粘』ってこんなに透き通ってたっけ?」

 

「久我、話を聞いてなかったの? 『三不粘を参考にして作った』って言ってたでしょ。『三不粘そのもの』を作ったとは言っていないわ」

 

 久我は自分の知る『三不粘』とは違っているのを見て首を傾げるが、紀ノ國の言う通り『三不粘』はあくまで『参考』にしたに過ぎない。

 

 本来の『三不粘』は卵・デンプン・油・水を混ぜて作るが、カムイが使ったのは『シャボン鳥の卵』『シャボンフルーツ』『スプナッシュ』『大トロ大豆のデンプン』に『モルス油』と『エアアクア』を混ぜ、『金の鍋&オタマ』で叩いて作った。

 

 如何なる熱や力が加わろうとも変形どころか凹みや窪みすら出来ない『金の調理器具』により、見た目は金色のシャボン玉のように透き通るほど輝いている。

 

 そのうえ茹でて薄皮を剥いた『シャボンフルーツ』のホロホロな甘さと炭酸や『スプナッシュ』の清々しい旨味はそのままにしてある。

 

 そのためスライム状に固めているが、箸ではなくスプーンで食べればネットリとした食感が舌を包み込み、とろけるような甘酸っぱさと炭酸が秋の旨味と共に、味蕾を刺激しながら溶けていくという新食感のスイーツなのだ。

 

 

「この数なら皆で食べられそうだな。カムイ、俺たちも食べていいか?」

 

「コクン」

 

「やりぃ♪ なら早速食べようぜ~~~☆」

 

「待ちなさい久我! 食べるのは竜胆先輩とモモ先輩が目を覚ましてからよ、そう言われたじゃない」

 

「そうだな。二人を差し置いて食べたら烈火の如く怒るぞ、間違いなくな」

 

「ああ、特に茜ヶ久保は絶対に許さないだろうな」

 

「ちぇ~~~!」

 

 『グルメケース』には二十個ぐらい入っているので、十傑メンバー全員で食べるには十分な数だ。

 カムイが頷くや久我が真っ先に食べようとするも、紀ノ國に諌められる。

 

「ハァ、まったく……………カムイ、竜胆先輩とモモ先輩は私が看てるから、アナタは行ってきなさい」

 

「コクン」

 

 紀ノ國に言われて会場の中央へと戻るカムイ。周りもまさかカムイが勝負に応じるとは思わなかったようで、意外そうに見物していた。

 

 

「よいのか、カムイ。勝っても其方が得るものは何も無いのだぞ?」

 

「コクン、構わない。ただ作る料理は、俺が決めたい。それから、一人一人は面倒だから、十人ずつで頼む」

 

「承知した。この人数との勝負だ、それぐらいは認めて然るべき。そちらも構わないな」

 

「ええ、構いませんよ。それで? テーマは何だい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テーマは、『カレー』だ」

 

 

 

 

 

 

 カムイの提案に会場にいる選手と観客が驚く! 午前・午後に渡って『神品』と呼べるカレーを作ったのにも関わらず、この勝負でもカレーを作ろうとしているのだ。

 

 同じ料理を作ることを嫌うカムイらしからぬ行動に、カムイを知る者は疑問を抱くが、その傍らで千俵姉妹だけは大喜びしていた。

 

 

 その後、この事態の責任を取るべく仙左衛門が総帥として勝負を執り仕切った。

 

 双方が必要とする食材や調理器具などは全て学園側の負担で内外より会場に運び込まれ、審査員は公平を期するべく来賓客の中からランダムに5名が選出される。

 そして1試合ごとに審査員は変わっていき、勝敗は多数決による【食戟】方式で決まる。

 

 

 

 かくしてカムイVS150人の料理人という前代未聞の【食戟】、もとい【連帯食戟】が執り行われることとなった。

 

 

 






選抜戦そのものではカムイが料理を作らない代わりに、退学者たちとの【連隊食戟】を行う展開にしました。そのため、カムイの料理を過去最高に書きまくることとなります。

さぁ~~て、忙しくなるぞ~~~~♪(ヤケクソ)

あと、感想で『カムイと一般生徒が一緒に試験を受けた結果、退学はおかしい』という感想を大量にいただきましたが、次話で作る料理のために『カムイに恨みを抱くモブが百人以上必要だった』ので、強引ですがあのような形としました。

色々と思うところはあるかと思いますが、ご理解賜わりたく思います。

なお、作者的には【食戟のソーマ】のモブキャラって割と性格が終わっているが多いので、心は全く痛みませんでしたwww

特に一般生徒に関しては残していても『セントラル』に与して幸平たちを迫害するくせに、幸平たちが『セントラル』を倒しても厚顔無恥に図太く居座り続ける連中にしかならないと思いますので。

【本日のグルメ食材】
『シャボン鳥の卵』『シャボンフルーツ』『スプナッシュ』『大トロ大豆(霜降り豆腐の原料)』『モルス油』『エアアクア』

それでは皆さん、次回で♪
感想・高評価もいただけると作者が喜び、励みになります!

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死の間際、佐藤雄馬は他人を庇って命を落とした。▼その死は、本来あるはずのないものだった。▼神の手違いにより、『魔法科高校の劣等生』の世界へ転生した雄馬は、英霊たちとの縁を与えられ、新たな人生を歩み始める。▼そこで彼が触れたのは、魔法が技術として完成された世界と、英霊たちが語る神秘としての魔術だった。▼想子によって情報体へ干渉する“魔法”。▼魔術回路と魔力によ…


総合評価:2383/評価:7.19/連載:37話/更新日時:2026年05月14日(木) 16:46 小説情報


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