さすがに15品の料理を書いたら文字数が2万近くになりましたため、『第二十九皿』は前後編の連続投稿にしたいと思います。
【連帯食戟】とは、通常1対1で行われる【食戟】とは異なり、チームによって行われる変則ルールの【食戟】である。
両チームから任意の選手を選出し、勝つ限り何度でも試合に出ることが可能で、先に相手を全滅させた方が勝利となる。
そのため最低でも両チームの選手の数は揃えて行われるのだが、今回は1対150という異例の試合となった。
仙左衛門の仕切りにより、学園側の負担で望む食材や調理器具は全て用意されている。
最高級の和牛をはじめとする超高級食材や、郊外であれば都内に一軒家を建てられるほど高額な最新鋭機械など、とても一介の学生では触れる機会すら無いような代物をタダで好き放題使えるのだ。
退学者たちは揃って目の色を変え、学園の用意した最高級の食材や機械に飛びつき、『品質』にモノを言わせた料理を自信満々に出す。
一方カムイの作る料理は、見ている者を戦慄させるほどの料理群だった!!!
「出来たぞ」
最初の10人との食戟でカムイが出したのは、真っ白いスープに麺を入れた【ラーメン】。この【連帯食戟】のテーマは全てカレーで統一されている。
そのためカムイが出した料理は『カレーラーメン』に違いないのだが、見た目はどう見ても『豚骨ラーメン』か『鶏白湯』であった。
最初の審査員である5名に運ぶと、次いで対戦相手にまで料理を渡すカムイ。
そのままいつも通りに自分の分を食べ始めるかと思いきや、今度は丼を1つ持ってどこかに歩いていく。
「お前の分だ」
「っ、私の、分? どういうことかしら?」
カムイは貞塚ナオに料理を渡すと、何も言わずに調理台へと戻っていき自分の料理を食べ始める。
何故わざわざ貞塚にだけ渡したのか周囲も疑問に感じたが、ひとまず審査員たちと対戦相手、そして貞塚はカムイが用意した『白いカレーラーメン』を啜る。
突然、強烈な臭みを伴った濃厚な旨味が口の中で暴れ回った!!!
「な、なんという臭さなんだ! 食べるまではスパイスの香りが微かに漂っていただけなのに、口の中へ入れた瞬間に凄まじい臭みが牙を剥いた!!!」
「でも美味しい! クセになるような『臭み』とスパイスの鮮烈な香りが、『あんかけ』のようなネットリとしたとスープと絡み合い、カスタードクリームのような風味の麺と合わさって途轍もなく深いコクを生み出しているわ!!!」
「それに食べた瞬間は臭さが際立っていたが、食べ進めると臭さが穏やかになっていき、代わりに深いコクのある旨味が顔を出してくる!!!」
「スゴイわ! 臭みがクセのある旨味となって食べるのを止められない! 食べれば食べるほどクセになっていくわ♪」
「しかし、食べ進めるごとに虜になっていくこの臭さはいったい…………」
まさに臭みによる不意討ち! 食べるまでは『臭み』という牙を隠し、口に入れた瞬間に『クセのある旨味』として爆発したのだ!!!
そして審査員や対戦相手たちが一心不乱に食べ進めている中で、皿を渡された貞塚もカムイの料理の持つ『臭さ』と『旨さ』の妙技に心身が震えていた。
(な、なんという臭さ! そしてなんという旨味!! これが臭みが持つ旨味をすべて転化させた味の爆発力だと言うの!?
スープの上に張ってあるのは、スパイスの香りを移した臭みのあるフィッシュオイル!
この油膜が臭みを封じ込めて、食べた瞬間に臭みと旨味を爆発させているんだわ!!!)
カムイの料理を食べた貞塚は、自分の料理にはまだまだ至らない部分が多かったことを思い知る。
貞塚の料理は食べる前から臭みを放出していたため、旨味も逃してしまっていた。
しかしカムイは麺を入れた後に油を垂らすことで膜を作り、匂いを閉じ込めていた。
そのため、食べた瞬間に押さえていた匂いが口の中で炸裂! 臭みを伴った旨味を余すことなく利用することが出来たのだ。
(それにこの臭さ、どこかで覚えがある。これは、この風味は…………っ!)
「そうか、このスープの臭さの基になっているのは『鮒ずし』! それに『腐乳 フールウ』も使ってあるわ!!!」
貞塚が臭みを生み出している元に気づき、貪るように食べ進めていた審査員たちもハッと我に返る。
【鮒ずし】。主に滋賀県は琵琶湖で獲れるニゴロブナを使用した熟れ寿司の一種。
魚を塩と米飯で乳酸発酵させて作られ、発酵中に骨が柔らかくなり、骨ごと食べることが可能。
また鮒ずしは約千四、五百年前に中国から日本に伝わったとされ、平安時代の古代法典にもその記録が残っているほど歴史が古い。
【腐乳 フールウ】。豆腐を麹に漬け込んだ後、塩水の中で乳酸発酵させた中国発祥の調味料である。
『鮒ずし』同様に千年以上の歴史を持つ食べ物であり、中国全土で広く食べられている。
そう、『鮒ずし』と『腐乳』。どちらも乳酸発酵させた食品のため旨味の質は同じ。カムイはここに目をつけたのだ!
「なるほど! 『鮒ずし』と『腐乳』の共通項を利用し、ここまでのコクを出したのか!」
「それだけじゃないわ! このスープの『かえし』、これは『いしる』『しょっつる』『ニョクマム』をブレンドしたものね!」
【いしる】。石川県の奥能登で作られる魚醤の1つ。魚介類に食塩を加えて漬けこみ、1年以上かけて発酵ならびに熟成させた浸出液である。
生産地域で水揚げされた魚介類を使うのが特徴で、主な原材料はイワシ・サバ・イカを使用することが多い。
【しょっつる】。秋田県で作られている魚醤で、江戸時代初期から製造されている伝統的な調味料。
主にハタハタという魚と塩を使って作られ、料理に旨味を加えることから秋田の郷土料理には欠かせない存在である。
【ニョクマム】。ベトナム発祥の調味料で、魚介類に塩を加えて発酵させた魚醤の一種。
小魚と塩を壺や樽に入れ、冷所で6か月から12か月間熟成させたものの浸出液。
ベトナム料理で使われる頻度が高いため、ベトナムを代表する味とも言われており、その役割は日本料理で使われる醤油にも例えられる。
「そうか! 魚醤はその性質上どうしても独特の風味、すなわち『臭み』がある!!
そこに『鮒ずし』や『腐乳』といった別の臭みを合わせることで、旨味が跳ね上がっているのか!!!」
「臭みと言ったら消すことばかり考えてしまうけど、敢えてぶつけ合わせることで、単に相性の良い者同士では成しえない……より『強さと深さを持った旨味』を生み出すことが出来るのね!!!」
「しかも発酵食品による臭みは、我々日本人に馴染みが深い! これが私たちの『食欲』を捉えて病みつきにさせる『クセ』の正体!!!」
(くうぅっ! 臭いもの同士をぶつけ合わせることで、単独では耐えがたいほどの主張の強い臭いたちが『クセ』となり、『美味さ』へと変化していくのね!!
私の作った料理の考えをそのままに、ここまで味を進化させるとは!!!)
カムイの料理は考え方としては、貞塚の【漆黒のラクサカレー】と同じ。
もっとも、スープは発酵食品特有のトロみがついていることから、『あんかけそば』に近いと言える。
しかしカムイは貞塚の料理の根幹である『臭みがもたらす旨味』を使いこなし、さらに相乗効果が発揮できるよう複数の臭みを掛け合わせることで、旨味を何倍にも引き上げていたのだ。
さらにカムイは麺を蒸す際に『加熱したドドリアンボム』を添えていた。
『ドリアン』は生のままでは凄まじい臭みを発するが、加熱することで臭みが消えて、カスタードクリームのような甘い香りを出すのだ。
通常の『ドリアン』を遥かに凌駕する『ドドリアンボム』の濃厚でフルーティーな甘い香りと、僅かに残った『ドリアン』特有の臭みが染み込んだ麺が、タレの臭みの中にある旨味と混ざり合い、より一層の深いコクを生み出していた。
圧倒的な『臭味』は全て『旨味』へと転化され、『クセになる美味しさ』へと昇華されたカムイの料理は、食べた者すべてを虜にし最初の10人に完勝した。
カムイの料理を食べ、退学者たちが旨味による幸福と実力差を思い知った絶望に打ちひしがれていると、すぐさま次の10人との【食戟】が行われる。
次の料理で出したカムイの料理は【スカーレットシープの内臓と冬瓜のスープカレー】であった。
グルメ食材である『スカーレットシープのマトン』。その肝臓・胃・腸・アキレス腱・目・脳みそ・肺・腎臓・心臓・横隔膜などの内臓を包丁で繊細に切れ込みを入れ、『マジックスパイスウオーター』で何度も下茹でする。
そうして下味が染み込み、臭みも抜けた内臓を生姜・タイム・ローズマリーなどのスパイスを効かせたスープに浸し、タンドールでじっくりと煮る。
その後、中身を繰り抜いた冬瓜の容器に入れて蒸し上げた料理である。
内臓の多種多様に富んだ食感に加え、スパイスや調味料の味と香りがタップリと染み込んだ滋味極まりない味わい。
審査員や退学者たちは全員足腰が立たないぐらいにトロけきった。
そしてカムイはこのカレーを審査員だけではなく、新戸にも食べさせる。
「な、なんて美味しさだ………! 塩味・辛味・渋味・苦味・甘味・酸味、全てが渾然一体となった深い味わいと食感!!
内臓同士が互いの味を高め合っていて、私の料理とは比べ物にならない『相乗効果』と『一体感』を出している!!!」
貞塚同様、新戸も自分のカレーと発想は同じままで更に味を進化させたカムイのカレーに、背筋が冷たくなるほどの恐怖を覚えた。
しかもカムイがグレードアップさせたのは『味』だけではなかった。
「スパイスの効能もそうだが、何より内臓と冬瓜を使ったことが素晴らしい!
内臓は肉よりも遥かに栄養と滋養に富み、冬瓜は豊富な水分とミネラルを含んでいる!!
これは『同種同食』だけではなく、『一物全体』にも基づいた非常に格調高い料理だ、まさしく『医食同源』を地で行っている!!!」
「っ~~~! お願い緋沙子、私にも食べさせて!!!」
「あっ、はい、どうぞ………!」
『同種同食』とは身体の悪い部分を治すなら、同じ部位を食べるという中国の考えである。
例えば肝臓が悪ければ肝臓を、胃が悪ければ胃を食べるというものだ。
これは内臓を構成している栄養素を摂取することで、調子を崩している………即ち栄養が不足している内臓を補強する効果がある。
難しい知識がなくても出来るうえ、効果も高いことから民間療法として広く知れ渡っている。
『一物全体』とは日本では『みかん』の中身だけを食べて皮は食べないという、『全体の中の一部を使う』というように『個にして全』という意味で使われるが、新戸の言う『一物全体』は中国の考えである。
中国では日本とは逆に『全にして個』、即ち全体を持って一つと成すという意味。
料理で言えば、魚を食べるなら大きな魚の切り身よりも小魚を丸ごと食べた方が身体に良く、『みかん』も中身だけではなく皮などもマーマレードにして食べた方が身体に良い。
つまりは食材の効能を100%期待するなら、その食材を丸ごと全て摂取するのが確実という考え方。
また『医食同源』とは中国料理の根幹となる考え方で、『料理とは美味しいだけではなく、食べることで身体を治す薬であるべき』というものであり、『同種同食』や『一物全体』もこの『医食同源』から生まれた方法である。
人間の身体は不足している栄養素を美味しく感じるようになっている。さらにカムイは『活性切り』にて、その旨味と栄養素を最大限に活性化させていた。
その旨味と栄養が身体中に染み渡っていく快感たるや、食べた者をも夢中にさせるほどであった。
結果は当然カムイの圧勝。敗れた10名はカムイの料理を食べ終わってから、泣き崩れたり打ちひしがれたりと反応が様々だ。
次なる三戦目は『フォアグラ』『白レバー』『アンキモ』『カワハギの肝』、さらに『スッポン』を使った【温度差を利用した肝カレー】。
アリスから最新機器を借りて、『フォアグラ』と『白レバー』はピューレにし、スパイスと共にクネル状に固める。
『アンキモ』と『カワハギの肝』は『凍結粉砕機』でクラッシュにしたら、『マジックスパイスウオーター』を混ぜてムースにする。
『スッポン』は出汁を取ってゼラチン質を抽出、肉は荒く叩いて小さなハンバーグ状にする。
その上にスパイスを加え、ゼリー状に固めたスッポンの出汁を乗せてハンバーグのようにまとめあげる。
最後に『トリュフ』と『ミルクジラ製生クリーム』にエストラゴンなどのハーブスパイスを効かせて作った『カレートリュフソース』を添えれば完成。
『フォアグラ』と『白レバー』は暖かく仕上げているため、口の中に入れた瞬間に食材の旨味とスパイスの風味がトロけるように舌を包み込む。
一方の『アンキモ』と『カワハギの肝』は冷たく仕上がっているため、生臭さが抑えられている。
さらに冷気によりシャープに尖った食材の旨味とスパイスの風味が、舌へと叩きつけられながら雪のように溶けていくため、食感と風味の変化を同時に楽しめた。
メインとも言えるスッポンのハンバーグを口に含んだ瞬間、ゼリー状に固めたコラーゲンが溶けだし、ハンバーグに濃厚なスッポンの旨味を付け加えて流れていく。
ムッチリとしたハンバーグの食感を楽しみながらジュワッとスッポンの旨味が溢れてくるのは、口の中の温度を計算に入れて調理した賜物である。
「もうっ! 兄さんったら! 美味しいのはいいけど、私より美味しく作らないでよっ!!」
『温』と『冷』がおりなす食感と風味の変化、それはアリスが作った【Thermal Sense サーマルセンス】の理論である。
しかもカムイは温度差による食感と風味の変化だけではなく、『旨味』までも温度変化によって際立たせていた。
作った料理は審査員や対戦相手だけではなく、アリスにも食べさせるカムイ。
しかしアリスはカムイの料理を美味しそうに食べるも、自分の考えた料理を自分以上に作られてご立腹だった。
最先端科学とカムイのセンスが合わさった料理を食べて、力無く立ち去っていく退学者たちだったが、次の10名と審査員がやって来て四戦目の開始。
カムイが作ったのは北条美代子が作ったカレーを参考にした【にんにくガニの甘酢あんかけカレーチャーハン】。
グルメ食材『にんにくガニの身』を焼き、完熟した『五斂子(ゴレンシ)』『ドラゴンフルーツ』のペーストにスパイスを効かせたら、水溶き片栗粉でトロミを付けた『あん』と合わせ、『カニのスパイシー甘酢あんかけ』を作る。
ライスは『マジックスパイスウォーター』で炊いた『極楽米』、ソレを『モルス油』に『オールスパイス』の風味を移した『スパイス油』で炒めた『カレーチャーハン』。
具材は未熟な『五斂子(ゴレンシ)』と『ドラゴンフルーツ』を同じくスパイス油で『油通し』したモノを使用。
盛りつける際は二つに割って中をくり抜いた『未熟なパパイヤ』を容器とし、『カレーチャーハン』『にんにくガニの甘酢あんかけ』を合わせ、最後にパパイヤの上半分で蓋をしてオーブンで焼いたら完成。
「か、完熟フルーツの甘酸っぱさが旨味タップリなニンニク風味のカニと完璧に調和している!
さらに『甘酢あん』のトロっとした舌触りとスパイシーなチャーハンのパラッとした食感が絡んで旨味が爆発してるじゃないか!!
未熟なフルーツのシャキシャキ感が完熟フルーツの甘酸っぱさと合わさることで、『あん』と『具材』の一体感が段違いだ!!!
私のパイナップルチャーハンではこんな『味の爆発力』や『一体感』は出てなかった!!!」
【五斂子 ごれんし】。別名『スターフルーツ』と呼ばれ、カタバミ科ゴレンシ属の常緑の果実。
その名の通り、星の形をした果実であっさりした甘味とほのかな酸味がある。
生食に向いている甘味種と小ぶりで酸味が強くピクルスやジャムなどの加工品に向いている酸味種があり、水分量が豊富なのも特徴。
果肉は和ナシに似たサクサクした食感とクセのない味で、栄養面ではカリウムや食物繊維を多く含んでいる。
【ドラゴンフルーツ】、正式名称は『ピタヤ』。中南米原産のサンカクサボテンなどの果実で。皮が竜のウロコのように見えることが名前の由来。
果肉はサクッとしており、さっぱりとした甘さとほのかな酸味が特徴。
また、果肉の中にはゴマのような小さな種が散りばめられており、プチプチとした食感がある。
主に『ホワイト種(白肉)』と『レッド種(赤肉)』の二種類があり、ホワイト種は果肉が白くあっさりとした上品な甘さ。
レッド種は果肉が赤く濃厚な甘みがあってポリフェノール(ベタシアニン)を含み栄養価も高い。
なお希少種として『黄色いドラゴンフルーツ』もあるが、ここでは割愛する。
今回カムイは『あん』には『レッド種』をペーストにして使い、具材には『ホワイト種』を『スパイス油』でサッと揚げて使用した。
北条の料理は『チャーハンのパラパラ食感』と『スパイスの風味』に『パイナップルの酸味』を加えた味が料理の骨子だった。
だがカムイは『スターフルーツ』『ドラゴンフルーツ』の甘酸っぱさを取った。
『スターフルーツ』も『ドラゴンフルーツ』も完熟状態では濃厚な甘酸っぱさがあり、未熟な状態では味よりも『香り』と『食感』が強いという特徴を持つ。
そのため完熟したモノを『あん』に、未熟なモノを『具材』にして使い分けることで味の一体感を高めた。
そうして出来た『甘酢あん』にスパイスを効かせ、旨味タップリの『にんにくガニ』が加わることで、『にんにくガニの旨味』『フルーツの甘酸っぱさと食感』がカレーチャーハンの旨味と掛け合わさり味が爆発したのだ。
北条の料理の考え方はそのままで、完成度が別レベルまで高まったカムイの料理が負けるはずもなく、第四戦もカムイが制した。
早くも40人がカムイの料理を食べていなくなったところで、周りの者たちはカムイが何をやろうとしているかをようやく理解する。
「も、もしかして、カムイくん……………!」
「俺たちが予選で作ったカレーを…………」
「全て自己流に『アレンジ』するつもりなのか!?」
これまでの四品、さらには最先端技術を駆使して作った料理を見て、カムイが80点超えをした料理をアレンジ……いや、『進化』させたものを作っていることは明白だった!
現に審査員だけではなく、元となった料理を作った本人にも料理をわざわざ渡しているのだから。
一度食べただけで自分たちの料理を真似るどころか、自身のセンスと調理技術を駆使し、更なる高次元の料理へと昇華させる。
『そんなことが現実的に可能なのか!』と選手たちは戦々恐々としていた。
だが選手たちは恐怖を感じていると同時に、強い興味も抱いていた。
自分たちが苦心して考えた料理に、カムイの神懸かったセンスと調理技術が加わるとどうなるのか。
そんな『怖いもの見たさ』とも言うべき、奇妙な感情を抱きながらカムイの勝負を静かに見守ることにする。
周りの者たちがこれまでとは違った興味の視線をカムイに集める中で、五戦目が執り行われる。
次にカムイが作る料理は吉野悠姫が作った【鴨肉のジビエカレー】のアレンジ。
グルメ食材の『相合鴨』のガラで取った出汁と骨髄・血をベースに柑橘系のスパイスを使ってルウを作り、グルメ食材の『サンシャインオレンジ』の皮を乾燥させて衣にした鴨カツを作る。
ライスは『マジックスパイスウオーター』で炊く際に、『カボス』を細かく刻んだ『特製カレーピラフ』にした。
鴨にオレンジなどの柑橘系のフルーツを合わせるのはフランス料理における基本。
活性化した『相合鴨』の旨味が溶けだしたルウに柑橘系の風味が加わっただけではなく、野性味溢れる肉汁を蓄えた鴨カツにもオレンジの皮が風味を加えたことで旨味が何倍にも膨れ上がっていた。
さらに『マジックスパイスウオーター』のまろやかな風味が味の土台となり、清涼感抜群の『カボス』の風味が合わさったライスは、鴨のしつこさを消し去って旨味だけを強調していた。
「ス、スゴイ! 『ルウ』だけじゃなく鴨カツやライスからも柑橘系の爽やかさな香りが加わって、鴨の味が信じられないくらいに際立ってる!!
しかもオレンジの皮を乾燥させて揚げ衣にしちゃうなんて、全く思いつかなかった!!!」
鴨だけではなく、あらゆるジビエを知り尽くしているはずの吉野だったが、自分が思いもしなかった切り口で鴨の味を高めたカムイの料理を食べて驚愕と感動。
オレンジをはじめとするフルーツと鴨の組み合わせはフランス料理では定番中の定番。
またオレンジの皮は乾燥させることで風味が強まり、中国では『陳皮 ちんび』と言って漢方としても使われている。
鴨にフルーツの風味を多重構造的に掛け合わせることで、本来の何倍にも旨味が膨らんだカムイのカレーに、その場の即興で作った退学者たちの料理が相手になるはずもなかった。
順番通りであれば第六戦目はイサミ・アルディーニの料理となる。
まずカムイはスパイスと竹炭を練り込んだものとチーズを練り込んだ二種類のピザ生地を作った。
中に入れる具材は、『モルス油』から作ったスパイス油でコンフィにした『牛豚鳥のサイコロコンフィ』・『にんにく鳥のスパイス卵』。
カレーソースは『ネオトマト』と『モーターオニオン』の水分だけで作った『無水カレー』。
トマトだけではなくタマネギもまた火にかけることで大量の水分を出す食材。
そしてトマトが『酸味』のある水分を出すのに対し、タマネギの水分には『強い甘味』がある。
その二つをブレンドすることでよりカレーの辛味とコクを深めたのだ。
そうして具材やカレーをチーズを練り込んだ生地で包んだら、また具材とカレーをかけて今度はスパイスと竹炭を練り込んだ黒い生地でカルツォーネ風に二重構造にして挟む。
イサミはそのままオーブンで焼いて提供していたが、カムイはスパイス油を表面に塗ってタンドールで焼いた。
さらに焼き終わったらスパイス油で軽く揚げて、さらにタンドールで焼くことで【ピザフリッタ(揚げカルツォーネ)】を作る。
次は当然タクミ・アルディーニの料理をアレンジ。タクミはパルメザンチーズを練り込んだパスタ麺を、ターメリックを練り込んだパスタ麺で挟んだ三重構造が味の決め手だった。
しかしカムイは食用花(エディブルフラワー)をスパイスと塩に漬け込んだ『花びらのスパイス塩漬け』を、同じくスパイスを練り込んだラザニア生地で挟み、三重構造ではなく二重構造にした。
そうして貝類と和風出汁を合わせて作った繊細な出汁に、パルメザンチーズの粉とスパイスを溶かし入れた『スープカレー』をかけて完成。
「ボクのは普通のピザ生地だったけど、この生地は内側にチーズが練り込んである! これは兄ちゃんがやった手法!!
外側の生地はスパイスと竹炭を練り込むことで、香りを立たせるだけじゃなく消化を助ける効果も持たせてある。
しかもスパイス油を表面に塗って別のスパイスの香りを立たせ、スパイス油で揚げることで、また別のスパイスの香りを染み込ませている。
最後にもう一度焼くことで、余分な油を落としつつ一層の香ばしさを際立たせるなんて…………!」
「三層ではなく二層にすることで、透けて見える花びらが食感だけでなく見た目にも美しい!
かけてあるスープカレーは繊細な風味を持ちながらも、パルメザンチーズによってコクがタップリだ!!
これほどの味に加えて、食感と見た目まで両立させているとは……………イサミ、そっちの皿も一口くれないか? 俺の方も食べていいから!」
「うん、じゃあ交換だね〜〜」
タクミとイサミはカムイが作ったカレーが『イタリアン』としても、『カレー』としても全く新しい料理であることを思い知らされた。
「生地から多段的に漂ってくるスパイスの香りと竹炭の香ばしさ、中にある肉汁タップリのコンフィにもスパイスの風味が染み込んでいる!
焼く⇒揚げる⇒焼くという手間を掛けたおかげで、内側はモチモチ、外側は『パリッ』『ザクッ』という新しい食感が楽しい!!」
「キレイだね~~~、それに花びらにもスパイスの風味が染み込んでるから、生地とスープの香りと合わさって鼻がとろけちゃうよ~~~♪」
二人とも『カレー』という料理を『イタリアン』に落とし込むことには成功していた。
しかし、そこから一歩踏み込んで『カレー料理』としての味わいを深めることをしていなかった。
イサミは『カレー料理』の真髄であるスパイスの扱いが足りず、タクミは『イタリアン』という枠に囚われるあまり肝心の『カレー』という部分が弱かった。
『日本カレー』に留まらず『イタリアンカレー』とも呼ぶべき、新しい『イタリアン』の新基軸を生み出したカムイの料理は、退学者たちの即興料理を容易く蹴散らした。
こうして70人を破ったカムイは、息つく暇もなく八戦目に入る。次なる料理は田所が作った【アンコウのどぶ汁カレー】のアレンジ。
『アンコウ』という食材をどうやって主張の強い『カレー』という要素と結びつけるのか。田所も興味津々でカムイを見ていた。
カムイが使うアンコウはグルメ界の食材である『鮟鱇鳥』、捕獲レベル303という猛獣である。
活性切りによって瞬く間に捌いたら、土鍋に『七味酒』を入れて肝を溶かしていく。
次に甘辛い『赤豆板醬』とコクがある『黒豆板醬』を混ぜ、焙煎したスパイスで風味付け。
ゴボウ・白菜・ニンジン、タマネギ、カブ、ポロネギなどの野菜類にグルメ食材の『霜降り豆腐』を入れて、スンドゥブ風のカレースープを作っていく。
最後に『マジックスパイスウオーター』で下茹でした『鮟鱇鳥』を入れて煮込めば、【鮟鱇鳥のスンドゥブ風カレー】の完成。
田所の料理は『野菜』と『アンコウ』を『どぶ汁』という形でカレーと結びつけたのに対し、カムイは『スンドゥブ』を使って『鮟鱇鳥』と『野菜』をカレーとしてまとめあげた。
「お、おいふぃ~~べ~~~♪ 甘辛くてコクがある『カレースープ』!!
そのスープの味が染みた『野菜』と『豆腐』、そして旨味タップリの『アンコウ』!
しかも『アンコウ』と『スンドゥブ』がこんなに合うなんて知らなかったべ~~~!
私の『どぶ汁』よりもずっと『カレー』と結びついてるだぁ♪」
甘辛さとコクのある豆板醤にレモングラスなど清涼感のあるスパイスを効かせたことで、スープのコクが『野菜の旨味』と『鮟鱇鳥の旨味』に調和。
それだけではなく、『カレースープ』と『野菜の旨味』が逆に『鮟鱇鳥』に染み込んだことで、『鮟鱇鳥』自体の旨味が跳ね上がる!
『食材の声』を聞くだけではなく、田所とは違い『超絶技術』によって食材の旨味が累乗的に高まったカムイの料理に、食材を………『料理』を復讐に使うような輩が敵うはずもなかった。
前編は午前の部の選手のアレンジ料理、後編は午後の部の選手のアレンジ料理となります。引き続きお楽しみください♪
大量のグルメ食材を出しますので、『後書き』に漏れてたら教えていただけると助かります。
【本日のグルメ食材】
『ドドリアンボム』『ミルクジラ製生クリーム』『にんにくガニ』『極楽米』
『サンシャインオレンジ』『牛豚鳥』『モーターオニオン』『にんにく鳥』『ネオトマト』『鮟鱇鳥』『霜降り豆腐』
【オリジナル食材】
『スカーレットシープ』『相合鴨』
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