神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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ようやく本選開始です。ちなみに作者としては、本選に出た料理の中で一番食べたいのは『美作のビーフシチュー』だったりします♪

なお、第一試合である幸平VSアリスの試合については、今後の話に影響が出るような部分があまり無いので省略しています。




第三十一皿

 

 

 

「それではこれより第二試合、田所恵と黒木場リョウの試合を始める。お題は『ラーメン』、制限時間は2時間。それでは調理、開始ぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 仙左衛門の宣言と共に巨大な銅鑼のけたたましい音が会場に響き渡る。

 なお既に第一試合が終了し、幸平とアリスの『弁当』対決は幸平の勝利で終わった。

 

 予選を最高得点で通過したアリスは液体窒素の冷気を利用した【手毬弁当】を作ったのに対し、幸平は弁当の大定番である【のり弁】で勝負した。

 

 分子ガストロノミーの様々な要素を『手毬寿司』という形に詰め込んだアリスの料理に審査員は絶賛の嵐。誰もがアリスの勝ちを疑わなかった。

 

 だが、アリスの料理は『寿司』としての要素が強すぎるため、お題である『弁当だからこそ味わえる美味しさ』というのを表現できていなかった。

 

 

 一方の幸平はステンレス製のランチジャーを使い、【特製 のり弁】で『弁当の暖かさがもたらす美味さ』をキッチリと演出。

 

 『マグロ節』と『鱈 タラ』を組み合わせたフライや磯辺揚げ、そして『生海苔』をマグロ節・昆布出汁・酒・みりんを醤油に合わせた『特製 土佐醤油』で味つけ。

 

 『土佐醤油 とさじょうゆ』とは、醤油にみりんや酒を加え、削り節を煮立てて濾した『出汁醤油』のこと。

 

 削り節の豊かな旨味とみりんのまろやかな甘味が特徴で、主にカツオ節で作られることが多く、カツオの名産地である高知県の旧名『土佐』にちなんでその名が付けられた。

 

 幸平はこの『特製 土佐醤油』で味つけした『生海苔』を、『アルギン酸ナトリウム』と『塩化カルシウム』を使い、イクラ状に固めるという荒業を披露する。

 

 この型破り過ぎる『のり弁』が、また審査員に大好評!

 

 さらには予選の時とは違い、『弁当』という課題や使う食材ととことん向き合った結果……………なんと幸平は僅かながらに『食材の声』を感じ取り、活性化した旨味を調和させることに成功したのだ!

 

 もちろん完璧に『食材の声』を聞き取れたわけではないし、料理の完成度の高さが『食材の声』によるものだとは、幸平自身も気づいてはいない。

 

 しかしそれでも『カレー』の時には無かった確かな手応えを幸平は実感していた。

 

 

 ただ実際のところ、双方の料理は『味そのもの』においては互角だったかもしれない。

 

 けれどお題である『弁当として優れているのはどちらか』という観点で見れば、『弁当だからこそ味わえる美味しさ作り』にこだわった幸平に軍配が上がるのは自明の理であった。

 

 実家が定食屋のため庶民に馴染みの深い『弁当』。その本質を最初に理解していた幸平有利の課題だったとはいえ、幸平は優勝候補であるアリスに見事完勝した。

 

 ちなみにアリスは幸平に負けてガチ泣き。しかもカムイが応援に来てくれなかったということが拍車を掛けて、SPが出動するぐらい大号泣していた。

 

 

 

 そんな大番狂わせな第一試合が終了し、続く第二試合は田所と黒木場の『ラーメン』対決。

 

 係員によって両者が予め用意していた食材とスープの素である出汁が運ばれていく。

 

 本来であれは『麺』は学園が用意し、選手たちは『スープ』と『具材』だけ作ることになっていた。

 

 だが一口に『スープ』と言っても、その『スープ』は『出汁』・『かえし(合わせ調味料)』・『香味油&香辛料』から成る。

 

 そのため、こだわろうと思えばどこまでもこだわれる自由度があり、そこに『麺』が加われば自由度は更に増す。

 結果、元々は中国料理であった『拉麺』は世界に発信される【日本食】となった。

 

 謂わば、この試合は自分が培ってきた経験と技術をどれだけ『スープ』や『具材』に活かせられるかという勝負になる…………ハズだった。

 

 

「しかし驚きですな、総帥。まさか『スープ』のみならず、『麺』まで自作する生徒がいるとは」

 

「うむ。黒木場リョウ、中々の気骨ぶりよ」

 

 やはりこの試合で最も注目すべきは、黒木場の『自家製麺』だろう。

 

 学園側が用意した最高品質の麺を捨ててまでこだわった『自家製麺』作りが、果たして成功しているか否か。

 

 会場にいる全員の興味は黒木場へと集中していた。

 

 

「アレは『ヒラメ』に『カサゴ』に『ホウボウ』のアラ………なるほど、彼が作るのは『魚介の旨味』を前面に押し出した濃厚魚介系ラーメンか」

 

「見たところ臭みを全く出さずに旨味だけを煮出している、見事な手際だ」

 

「いやはや、これは審査が楽しみですな~~~」

 

 スープの色合いから魚のアラの旨味がタップリ抽出されていることが分かった審査員たちは、黒木場の料理の完成を待ちわびる。

 

 一方で田所の料理はというと、黒木場とは対照的に物静かな雰囲気だった。

 

 

「ガンバレーーーーーー! メグミーーーーーー!!!!」

 

「いいぞ、落ち着いている。その調子だ田所!」

 

「ああ、普段のオドオドしている田所とは大違いだ。一つ一つの工程を丁寧にこなしている」

 

「うん、この大舞台でもちゃんと調理に集中出来てる。これなら恵の本来の実力が出せるわ!」

 

 会場にいるほぼ全員が黒木場に注目する中で、極星寮のメンバーだけは田所を応援している。

 

 ただ、周囲の目を憚らない仲間たちの応援を受けて田所は照れくさそうに顔を赤らめるが…………黒木場はそんな田所を見てどこか苛立ちを覚えた。

 

 

「………ヌルいな」

 

「え?」

 

「気に入らねえんだよ。ぬくぬくと馴れ合い、キズを舐め合っている連中が…………見ていて反吐が出る」

 

 恥ずかしがっていた田所の表情が黒木場の言葉で一変、その雰囲気はある種の『嵐の前の静寂』を思わせるほどに静かだった。

 

 だが黒木場はそんな田所など気にすることなく、苛立ち交じりに話を続ける。

 

 

「料理人の関係は『食うか食われるか』だ。それ以外に有りは「そ、そうかな?」 あ?」

 

「た、確かに料理人同士、時にはぶつかることもあるけど、でも『料理』って皆で協力することも大事なんじゃないかな?

 わ、私も、『今の自分の料理』が、自分一人で作った『味』だなんて思ってないし…………自分一人じゃ辿り着けない『味』っていうものが、あると思う」

 

「ナニ言ってやがる。厨房は『戦場』、料理は『力』。料理人の『価値』ってのは、如何に客や相手を『屈服』させられるかどうか………ソレが『全て』なんだよ」

 

「……………………」

 

「テメエだってアイツの………『カムイの料理』を食ったんだろ。アレこそまさに自分以外の全てを捩じ伏せ、圧殺するためにある料理だ」

 

「っ………………!」

 

 確かに黒木場の言っていることも間違ってはいない。

 

 カムイの自由気質なワガママが認められているのは、周囲が彼の料理に『屈服』しているからという面もある。

 

 ただそれでも田所は納得がいかず、口元を歪ませながら顔を俯かせてしまう。

 

 

「よく覚えとけ、俺やカムイの『料理』はテメエらとは違う。テメエらのような『雑魚』がやってきた料理ってのは、所詮『ゴミ』でしか「違うよ」…………ナニ?」

 

 ここまで好き放題言われていた田所だったが、とうとう黒木場を話を遮るほど感情を露わにする。

 

 普段はおとなしい彼女とは思えないほどの真剣な顔つき、黒木場も思わず田所から気迫のようなモノを感じ取っていた。

 

 

「カムイくんの料理は、『そんなこと』のためにあるんじゃない。それに少なくとも、私が出会ってきた『味』は…………『ゴミ』なんかじゃないよ」

 

 田所がそう言うとタイマーが鳴る、どうやら煮込んでいた出汁が出来上がったようだ。

 

 

パアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

「ふむ、美しいな。旨味の輝きを放ちながらも、一点の曇りなく澄みきっている。まるでカムイの料理を見ているようだ」

 

 鍋の蓋を取ると、活性化した食材の旨味が溶け合った出汁が輝いていた! その完成度の高さに総帥である仙左衛門が感嘆する。

 観客も目の錯覚と思うが、視覚以上に『食欲』が反応して否定を許さない!

 

 

「私の『味』を認めてくれたカムイくんや、私の背中を押してくれた皆のこと、そんなふうに言わないで…………!」

 

「っ………………!」

 

 攻撃的な威圧感を放っていた黒木場だったが、旨味が活性化した食材たちと田所の真っ直ぐな目に気圧されてしまう。

 

 田所のことは未だに『ヌルい』と感じながらも、容易く勝てるような『雑魚』などではないと確信した!

 

 

 一方の田所は出来上がった『出汁』に調味料を合わせた『タレ』を加えて、『スープ』を作っていく。

 

 田所の調理風景は黒木場のような派手さは無いものの、宿泊研修の時から腕を上げたことにより、一つ一つの工程が丁寧で無駄がない。

 

 それにより合宿の時のような調理に対する大きなブレも生まれないため、スープの出来は黒木場のソレと比べても大きな差は無いと言えた。

 

 

「黒木場選手は『濃厚魚介系スープ』。対する彼女のスープは…………ふむ、『帆立の貝柱』に『干し野菜』『干し椎茸』、そして『丸鶏』をベースにしている」

 

「なるほど、『干し野菜』にすることで野菜特有の青臭さが消える。さらには旨味と栄養が凝縮されますからな」

 

「となると、彼女の作るラーメンは『野菜』の甘さと『丸鶏』『帆立』『椎茸』の旨味を使った【淡麗系】ということでしょうか?」

 

「ほほ~~う。つまりこのラーメン対決は【濃厚系ラーメン】と【淡麗系ラーメン】のガチンコ対決ということか」

 

 田所が『干し野菜』と『鶏ガラ』をベースにスープを作っていること。

 そして田所の華奢な見た目から、審査員たちは彼女のラーメンがスッキリとした味わいが特徴の【淡麗系】と予測する。

 

 しかし審査員たちは田所の気質を見誤っていた。

 

 

 

 確かに彼女はアガリ症で『気弱』な性格ではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが決して、『ひ弱』ではない!!!

 

 

 

 

 二人の調理は着々と進んでいき、とうとう仕上げに入る。黒木場の寸胴鍋からは鼻腔を溶かすような、魚介類の旨味を含んだ香りが漂ってきていた!

 

 先攻は黒木場。香味野菜と魚介のスープに『とある液体』を大量に混ぜ、いくつものオマール海老や甘エビの殻を粉々に砕いた粉末をスープに投入。

 

 濾したスープに茹で上がった『自家製麵』を入れたら、ルイユ(ニンニクと唐辛子のソース)・細切りにしたチーズ・ラスクをトッピングして完成。

 

 

「食ってくれ。【スープ・ド・ポワソンラーメン】だ」

 

 

 【スープ・ド・ポワソン】、フランス語で『魚のスープ』を意味する。

 

 南フランスの港町で生まれ、漁師たちが売り物にならない小魚や魚のアラを使って作ったことが起源。

 スープは魚介のアラや香味野菜を煮込み、すりつぶして裏ごしすることで非常に濃厚なポタージュ状となる。

 

 濃厚な味わいと独特の食べ方が魅力で、家庭料理としても親しまれており、地域ごとに異なるレシピが存在するほどフランス国民にとって馴染みが深い。フランス料理の中でも特に愛されている一品である。

 

 

「う~~む、鼻を突きさすような濃厚な甲殻類の香り。食べずとも見るだけで、口の中がエビの旨味で満たされるようだ!」

 

「この濃厚な香りを嗅いでいるだけで自然と頬が緩んでしまいますな♪ では、まずスープから」

 

 黒木場のスープの香りを嗅いで頬が緩みそうになるのを堪えながら審査員がスープを一口すすると…………濃厚な魚介の旨味が舌に叩きつけられた!!!

 

 

「ぐっはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! なんという強烈な旨味、気を抜くと意識を持っていかれそうになる!!!」

 

「魚介の旨味だけではない! このはち切れんばかりの旨味、乾燥させた海老の殻のパウダーを溶かし込んである!!!」

 

「しかもそのパウダーをスープだけではなく、ラスクに塗ったバターにも混ぜ込んでいるとは!!!」

 

 魚介類の旨味成分はグリシン・アルギニン・プロリンなどがあるが、その旨味成分の含有量は甲殻類がダントツでトップである。

 そんな旨味のパウダーを大量に使われていれば、審査員たちが全員頭をぶん殴られたような衝撃を感じるのは無理もない。

 

 

「な、なるほど、スープやトッピングに関しては申し分ない」

 

「だが肝心の『自家製麺』、果たしてこれだけの旨味を持つスープに釣り合う麺をたった一日で作り出せたかどうかだ」

 

「っ〜〜〜〜〜、いざっ!」

 

 『スープ』と『トッピング』からは凄まじいエビの旨味を感じた審査員たちが、いよいよ『麺』の試食に入る。

 

 

 

 

 大量のエビを丸ごと食べたような、濃厚かつ複雑な旨味が口の中で炸裂した!!!

 

 

「っ~~~~~! なんという強烈な旨味だ! スープやトッピングが身体の外側に衝撃を与える『剛拳』なら、この麺の深い味わいは身体の内部に衝撃を与える『柔拳』!!!」

 

「麺は平打ち麺! 濃厚極まりないスープとよく調和している! 麺とスープの相性が素晴らしい!」

 

「それにしてもこの美味さは何だ!? 麺だけで食べても素晴らしいが、スープを絡めると一層の強烈な旨味と深いコクを感じる!!!」

 

 恐る恐る麺をすすった審査員たちは、一口食べただけで黒木場の麺を大絶賛!

 

 しかしたった一日しか猶予が無かったのに、これほどまでの旨味を持った麺をどうやって作ったのかが分からなかった。

 

 疑問を抱く審査員たちが黒木場の料理に圧倒されている中で、『おはだけ』状態の仙左衛門が黒木場の麺の秘密に気づいた。

 

 

「この麺にはスープやバター同様に、乾燥させたエビのパウダーを仕込んでいるな。だが、それだけではない。

 スープや麺の『赤色』で分かりにくいが、緑色の粒がポツポツと入っている。これは…………『エビの卵』か!!!」

 

「っ、エビの卵!? そうか、『蝦子麺 シャーズーメン』!!!」

 

 『蝦子麺 シャーズーメン』。香港およびマカオの麺料理で乾燥させた蝦子(エビの卵)を乗せた、または蝦子を練りこんだ麺の総称である。

 

 麺そのものにしっかりとした味が付いているため、具材にこだわらなくとも、麺のゆで汁に少し味付けしただけで美味しいスープになる。

 

 太麺と細麺があるが、一般的には細麺の方が人気が高い。しかし黒木場は今回、濃厚スープに合うよう『平打ち麺』で『蝦子麺』を作ったのだ。

 

 

「そうだ、この麺には乾燥させた『甘えびの殻』のパウダーの他に『甘えびの卵』も大量に練り込んである。

 そしてスープにはエビのパウダーだけじゃなく、大量のオマール海老と甘えびの『ミソ』をエビ油とコニャックで炒めたモノも加えてある」

 

「なるほど! あの時、丼に入れていた液体は『エビミソ』であったか!」

 

「それでスープと麺を同時に食べた時、あれほどの一体感が生まれていたのだな!!!」

 

「『エビミソ』は料理に強烈な旨味と深いコクを与える! 乾燥パウダーとエビミソの旨味が、麺に練り込まれていた卵と合わさったことで相乗効果を発揮したというわけか!!!」

 

「スープをすすれば濃厚な魚介の旨味を味わうことができ、麺をすすれば旨味タップリのエビの味を味わうことが出来る!

 そしてスープと麺を同時に食べれば、深い海の味が荒波のように口の中へ押し寄せてくる!!!」

 

 

「あっぱれなり、黒木場リョウ! この儂を力づくではだけさせるとは見上げた度胸よ!!!」

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

 黒木場のラーメンを食べて審査員は大絶賛! 仙左衛門はノーモーションからの『おはだけ』という珍しいパターンで黒木場の料理を評価した!!

 

 無名の料理人がここまでの高評価を獲得したことで、観客たちも大盛り上がり。

 このように会場の空気が黒木場一色になってしまっては、次の選手はさぞやりにくくなるだろう。

 

 だが、こんなある種のアウェイのような状況であっても、田所は落ち着いて自分の料理の準備をしていた。

 

 

「っ、どうぞ、お召し上がりください…………!」

 

 

「ふむ、見た目は美しいのだがな」

「ええ、先ほどの品に比べると」

「…………些かインパクトに欠けますな」

 

 田所が出したのはパッと見、普通の『淡麗系鶏白湯ラーメン』であった。

 

 仕上がりは非の打ち所がないほどに完璧なのだが、黒木場の濃厚な味わいのインパクトが残っているために、審査員たちの期待は薄かった。

 

 田所自体が元々あまり期待がされていなかった上に、出てきたラーメンもごく普通なため、審査員や観客も肩透かしを食ってしまった思いである。

 

 ただそれでも食べなければ勝負はつけられないので、審査員たちはひとまず一口スープをすすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその瞬間、スッキリしながらも強烈な旨味が舌に叩きつけられる!!!

 

 

「っ~~~~~! な、なんて強い旨味なんだ!!!」

 

「バカな、淡麗系ではなかったのか!?」

 

「黒木場選手のような『濃厚系』とは違う! かと言って、単純な『鶏白湯』とも違う! この複雑でありながら爽やかな旨味は…………!」

 

 どう見ても見た目は『淡麗系の鶏白湯』なのに、濃厚系さながらの強い旨味を感じる不思議なラーメン。

 けれど濃厚系のようにしつこくなく、後味がスッキリとした味わいに審査員たちは完全な不意討ちを食らってしまった。

 

 

「えっと、そのスープは会津若松の地鶏を丸ごと使った『地鶏の出汁』、『生野菜』を炒めた際の水分、『干し野菜』と『干し椎茸』から取った『フォン・ド・レギューム』をブレンドしたものです」

 

 田所がスープについて解説すると審査員と観客は驚愕する!

 

 『丸鶏』の出汁や『干し野菜』『干し椎茸』の『フォン・ド・レギューム』はともかく、そこにタンメンのような『生野菜』を炒めた際に出た水分をブレンドして使うなど普通は考えないからだ。

 

 

「なるほど! この深いコクは生野菜の水分によるものか!」

 

「『丸鶏と干し椎茸の旨味』に『干し野菜』の甘みが加わり、『生野菜』の爽やかさが『丸鶏のしつこさ』だけを打ち消して、後味がスッキリとした『強いスープ』になっている!!!」

 

「素晴らしい! 野菜の旨味だけなら『干し野菜のフォン』を使うべきだが、『爽やかさ』ならば『生野菜』の方に軍配が上がる。双方の野菜の特性を知り尽くしているからこその仕事だ!!!」

 

 

「は、はい! 今回使った野菜は、全て私の地元で採れた野菜なんです。

 その野菜たちを『薄口醤油』と『白醤油』を合わせたタレで作った『こづゆ風ラーメンスープ』に合うように、『干し野菜』と『生野菜』で分けて使いました。

 これが私の【こづゆ風鶏醤油ラーメン】です!」

 

「なるほど、この風味は『こづゆ』か。それに地元で慣れ親しんだからこそ、野菜ごとの特徴を完璧に掴んでいたわけだな」

 

 『こづゆ』とは、福島県会津地方の郷土料理で干し貝柱で出汁をとり、豆麩・人参・椎茸・里芋・銀杏・きくらげ・糸こんにゃくなどの具材を入れた薄味の汁物料理であり、冠婚葬祭などの特別な日や祝い事で食べられることが多い。

 

 課題である『ラーメン』を郷土料理である『こづゆ』を応用してまとめあげた手腕に審査員と観客は関心を見せ、その反応は最初とは打って変わったものであった。

 

 さらに田所はおもむろに小鉢を審査員たちに差し出す。

 

 

「えっと、それからこちらも、お好みでお試しください」

 

「ほう、コレは?」

 

「コレは出汁を取った丸鶏の肉をこそぎ落として細かく刻み、梅干し・紫蘇・白髪ネギと調味料で和えたものです。風味が変わって、また別の味を楽しめるかと思います」

 

「なるほど、一種の『加薬』のようなものですな。ではさっそく」

 

 審査員たちは田所に言われた通り、それぞれ好みの量をラーメンに入れていき再度スープと麺をすする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スープと加薬が絡んだ麺が口の中に入ってきた瞬間、目の覚めるような酸味が野菜の甘味と合わさり、より深い旨味を演出した!!!

 

 

「ぬおおおおおおおおおおお!!! なんという鮮やかな酸味! さらに味が引き締まったわぁ!!!」

 

「これは『味が変わった』などというレベルではない! 酸味によって『野菜の甘味』と『地鶏の旨味』が、より一層際立っている!!!」

 

「この柔らかくも鮮やかな酸味が、繊細な風味の『こづゆ』とよく調和している! ラーメンに梅干を合わせるのも新しい!!!」

 

 田所のラーメンを食べて審査員は絶賛! 黒木場の圧勝かと思われたが、これほどの熱戦になるとは誰も思わなかっただろう。

 

 黒木場のラーメンが魚介の強烈な旨味をストレートに叩き込む『豪快な荒波』であれば、田所のラーメンは山の栄養が海へと流れ込み育まれた『山海の深さ』に例えられる。

 

 

「おい、田所恵ぃ」

 

「え?」

 

「そのラーメン、俺にも食わせろぉ…………!」

 

「ひぃっ! は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 田所のラーメンが気になった黒木場は、自分にも食べさせるよう威嚇する。

 

 もっとも黒木場は特に威嚇したつもりは無いのだが、『バンダナを巻いた状態の黒木場は恐い』という先入観でそう見えてしまったようだ。

 

「ズズゥゥゥゥゥ………っ!!!」

 

 田所のラーメンを食べて荒々しかった黒木場の雰囲気が、一瞬落ち着きを見せる。

 そして先ほどまで怯えていた田所は、一転して強い眼差しを黒木場へ向けた。

 

 

「魚介や豚骨を使った濃厚系ラーメンは、今の私では作れません。臭味抜きから味の調整まで、熟練の腕と経験が必要だからです」

 

「……………………………」

 

「でも『帆立』や『丸鶏』に『椎茸』、そして『野菜』の旨味をベースに『こづゆ』風に仕立てれば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私でも、【強いラーメン】が作れると思いました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…………ハッ! 俺が濃厚系ラーメンで来ると分かってて、敢えてこの品をぶつけてきやがったのか。

 クククク、面白えじゃねえかよ田所恵ぃ! なら俺のラーメンも食ってみろ! 真っ向勝負だ!!!」

 

 

 

 この会場にいる全員が、『田所恵』という料理人への認識を改めた瞬間だった。

 気弱で華奢な体躯の少女、しかしその奥底には確かな『闘志』が秘められていたのだ!

 

 その『闘志』、料理と食材に懸ける『情熱』を感じ取った黒木場は嬉しそうに笑い、自分のラーメンも田所へと差し出す。

 

 

(っ、す、凄い磯の香りと旨味! あまりの強烈な味わいに腰が砕けそう! でも、負けたくないっ!!!)

 

 

 濃厚極まりない黒木場のラーメンを食べて、田所は思わず膝を着きそうになるも堪える!

 両者ともに譲らない『強烈な旨味のラーメン』ガチンコ勝負に観客も手に汗を握る!!!

 

 その苛烈さは双方がラーメンに込めた精神力が『美味しさ』となって具現化し、激しい殴り合いをしているようだった!!!

 

 

 

『ぶちのめせ、【スープ・ド・ポワソン】!!!』

 

『私の【H&P ホタテ&パイタン】には、どんな強敵にも立ち向かう「覚悟」がある!!!』

 

 

 

『エビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビエビィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!』

 

『帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄帆駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ!!!!!!

 

 

 両者のラーメンの試食審査が終わり、仙左衛門が大筆で勝者の名前を記す。

 

 この壮絶な旨味の殴り合いを制したのは…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒木場リョウだった。

 

 

 

 

「そ、そんな、どうしてっ…………………!?」

 

 

 全ての気力と集中力を振り絞った渾身の一皿、自分も黒木場のラーメンを食べたところ大きな差は感じなかった。

 だからこそ、田所は息を切らせながら自分が負けた理由に疑問を抱いてしまう。

 

 

「ラーメンを構成する要素は『スープ』『トッピング』『麺』の三つ、どちらの品もその三つを完璧に調和させていた」

 

「双方の料理を比較し、『スープ』と『トッピング』については甲乙つけがたい。どちらも見事な仕事ぶりだった」

 

「故に勝敗を分けたのは、『麺』だった」

 

「っ、め、『麺』、ですか…………?」

 

「左様、といっても『麺』自体の味が問題ではない。もちろん、キミの麺や料理そのものに落ち度があったわけでもない。

 キミの『スープ』も『トッピング』も、よく『麺』と調和していたよ」

 

 

「な、なら、どうして…………?」

 

 

 審査員の評価を聞いて、田所はますます負けた理由が分からなくなった。

 

 審査員の話を聞く限り、田所の料理に手抜かりや欠点があったわけではない。ましてや『麺』は学園側で用意した『最高品質』の麺なのだから。

 

 

「そう、キミの料理は『麺』に合うよう完璧に調理したものだった」

 

「しかし彼は『麺』を自作し、麺自体にも強い旨味を持たせることで濃厚なスープに負けない味わいを作り出していた」

 

「その結果、強烈な旨味と旨味がぶつかることで、予定調和では生まれ得ない『味の爆発力』が生まれていたのだ」

 

「しかもその旨味も、甲殻類由来の旨味で統一することで一体感を持たせた『指向性のある爆発力』だった」

 

 

「旨味と旨味をぶつけて、味に『爆発力』を持たせる…………っ、それってカムイくんの!!!」

 

 

 審査員の話を聞いて、田所もようやく自分が負けた理由を悟った。

 

 田所のラーメンは学園が用意した『最高品質』の麺の味に焦点を合わせた料理だった。

 『スープ』も『トッピング』も、全て『麺』に合わせた調理が施されている。

 

 その結果、田所のラーメンは『スープ』『トッピング』『麺』の三つの味が見事に調和した完璧なラーメンだった。

 

 ここまで味のバランスを取ることが出来たのは、田所が『地元の食材を愛する心』に食材たちが応えて、旨味を活性化させたからこそである。

 

 またそれだけではなく、田所がその食材たちと真摯に向き合い、『食材の声』を無意識ながらに聞いていたことによるものだろう。

 

 しかし田所が作ったのは『最高の麺に合うラーメン』という既定の枠の中での最高の料理、どこまで行っても『麺の期待値』を超えた料理にはならない。

 

 

 一方の黒木場は学園側で用意した麺ではなく、自分の作る『スープ』と『トッピング』と合わせることで相乗効果を発揮する麺。

 謂わば、『学園側が用意した麺』という既定の枠に囚われない『スープド・ポワソン専用の麺』を作り出した。

 

 その結果、『スープ』『トッピング』『麺』の三要素に一体感が生まれ、かつそれぞれの旨味がぶつかることで旨味が何倍にも跳ね上がっていたのだ!

 

 

 互いに【強い旨味を持ったラーメン】。『スープだけ』食してはドロー、『麺だけ』食べてもまだドロー。

 勝敗を分けたのは、『麺とスープを同時に食べた』時の一体感と爆発力。

 

 黒木場の料理は一体感のみならず、『旨味の爆発力』が『学園側が用意した麺』という枠に縛られない自由度となり、その分だけ田所以上の味わいを生み出したのだ!

 

 まさに【自由度】が売りである『ラーメン』だからこその決着と言えた。

 

 

 もし黒木場が学園が用意した麺を使っていれば、その完成度の高さから、『食材の声』を聞くことが出来た田所に軍配が上がっていただろう。

 

 しかしカムイのカレーを食べて、黒木場は大量のエビミソを使う…………曳いては『個性が強い旨味同士をぶつけることで生まれる味の爆発力』を知った。

 

 つまり黒木場はカムイの料理から、そのセンスを僅かながらにモノにすることに成功していたのだ。

 

 さらには【打倒カムイ】のために『スープ』や『トッピング』のみならず、『麺』までも自作するという執念が『食材の声』を感じることが出来る田所のセンスを上回ったのだった。

 

 

(確かにカムイくんは、相性の良いものを合わせて相乗効果を発揮させるだけじゃなく、時には個性の強いもの同士をぶつけて美味しさを爆発させていた!

 何度もカムイくんの料理を食べて分かっていたはずなのに! 私は自分を追い込むことをせず、安全な方法に走って……………自分の料理を、信じきれなかった)

 

(アイツのラーメンの美味さ、もしお嬢がカムイの料理を持ってきてくれなかったら負けてたぜ。田所恵……………大したヤツだ)

 

 

 結果は黒木場の勝利ではあったが、実際は紙一重の勝負だった。それは戦った当人同士が一番分かっているだろう。

 

 

 しかし勝利の女神は『既存の麺を使っているようではカムイには勝てない』と、より自らに厳しくあった黒木場に微笑んだのであった。

 

 






カムイと出会ったことにより、原作キャラについては原作よりも強化(アレンジとも言う)させているつもりです。

ただそのために、原作キャラが作る料理にも所々でアレンジを入れなくてはいけなくなりましたwww

それでは皆さん、次回で♪
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