神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

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数話ぶりにカムイが料理を作りますので、選抜本選については一旦場面が切り替わります。




第三十四皿

 

 

 

「フッ、ここまでだな…………俺はこの学園を去る。もう二度と料理はやらねえ」

 

 

 幸平と美作による【食戟】。その勝敗が決したことで幸平の退学は無くなり、美作が奪った包丁の所有権が幸平に移行。

 

 そして幸平は全ての包丁を元の持ち主に返すと決めていた。愛用していた包丁が戻ってきたことで喜ぶ生徒たち。

 中には母親の形見を取り戻してくれたことにお礼を言う女子生徒もいた。

 

 しかしいくら包丁が戻ってきたとはいえ、美作への悪感情が無くなるわけではない。

 

 包丁を奪われた生徒たちから恨みの視線を浴びせられる中、美作は肩の荷が下りたかのように自ら退学宣言をする。

 

 

「アホか」

 

ズビシッ!!!

 

「ガハッ!!!」

 

 しかし遠月学園を辞めるようとする美作の脳天へ、幸平が手刀を入れる。

 あまりにも予想外の行動に美作だけではなく、周りの者たちも呆気に取られてしまった。

 

 

「お前が辞めたら何の意味も無えじゃねえか」

 

「ハ?」

 

「俺はお前の才能を認めてんだぜ? 俺も実際やってみて分かったけど、完成された品にアレンジを加えるってのは生半なことじゃ出来ねえ。

 それを相手になりきることでやってのけちまうお前の才能は大したモンだ。

 しかもたった二つとはいえ、あの『カムイの食材』を使いこなせるヤツがいるなんて思わなかったしな」

 

「っ…………………」

 

「だからこそ、その才能を『こんなこと』で使うなんて勿体なさすぎるだろ。お前はこんなマネしなくても、十分スゲエ料理人なんだからよ」

 

「幸平…………」

 

「それにこのまま自主退学なんかされたりしたら、お前に負けた連中がリベンジ出来なくなるだろうが。

 『料理人』なんてモンはどこまで行っても、負けず嫌いなんだからよ♪」

 

 

 幸平の話を聞いて美作は自分の『原典』を振り返った。自分も最初は単純に料理を作るのが好きだった、だからもっと腕を磨くために父の料理の模倣をした。

 

 だけど自分のことを認めようとしない父親に負けまいと強情を張った結果、いつからか腕を磨くことよりも『父親に認められたい』という想いが先行してしまっていた。

 

 

 自分の『料理人としてのスタート』はどこだったのか。

 

 

 それを思い出した美作は、軽く笑って一から自分を鍛え直すことを決心する。

 

 

「んで…………後はお前の分だけだぞ、タクミ!」

 

 美作の雰囲気から自主退学の気配が無くなったことを確認した幸平は、後方にいるタクミに包丁を取りに来るよう呼びつける。

 

「…………それは『今は』キミの物なんだ。受け取れるものか」

 

 しかしタクミは『兄弟の絆』とも呼べる愛用の『メッザルーナ』を受け取ろうとはしなかった。

 そしてタクミはそのまま軽く下を向いて、美作の前まで歩いていく。

 

 

「美作昴」

 

「?」

 

「っ~~~~~! 『次』は負けないっ!!!!」

 

 先ほどまで茫然としていた顔とは打って変わって、タクミの青い双眸には猛々しい炎が宿っていた。あまりの迫力に美作も思わず面を食らってしまう。

 

 

「お前がどれだけ俺をトレースして先を行こうが! お前がどれだけ『カムイの食材』を使おうが!

 俺は更にその先へ行く!! この屈辱は必ず返してやる! 必ず、必ずだ!!!」

 

 タクミの叫びは美作に対してではなく、どちらかと言えば自分に対しての『宣誓』のようでもあった。

 そうして言いたいことを全て言い切ったタクミは、今度は幸平に向かっていく。

 

「キミもだ、幸平。メッザルーナはいずれキミに【食戟】で勝利して取り戻す。その時まで…………預かっておいてくれ」

 

 そう言うとタクミはぶっきらぼうにメッザルーナを幸平へ押し渡し、会場を後にしていく。

 そんなタクミの姿を見て、幸平は『ほれ見たことか』と言わんばかりに美作へと笑いかけた。

 

「ホラな? 料理人ってのは、どいつもこいつも負けず嫌いな連中なんだよ♪」

 

 こうして幸平は自らの料理人生命を賭けた【食戟】に勝利し、見事に決勝戦へと進出を果たす。

 

 そして会場の熱気が冷めやらぬ内に、このまま準決勝第二試合が行われる………………はずだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジーーーーーーーーーーー

 

 

「ッ、キャア!!!」

 

 

 

 第一試合の後片付けが始まりそうになったところで、審査員である木久知の豊満な胸元…………もとい彼女が残した幸平の皿を凝視する男がいた。

 

 不意に現れて女性の胸をつぶさに観察する男。どう見ても変質者、通報案件待ったなしである。

 

 会場の誰もが気づかないほどいつの間に現れたのか分からない不審者を見て、木久知も思わず椅子から立ち上がってしまう。

 

 

「カ、カムイ!? お前、しばらく見ないと思ったら…………」

 

「ほう、これまた珍客のご登場だな」

 

「なっ、じゃあコイツが!?」

 

「し、神域の、料理人…………!」

 

 不審者の正体はカムイだった。第一試合が終わって熱気が静まったのも束の間、カムイの登場で再び観客たちがザワつきだす。

 

 しかし当のカムイはいつも通り、周りの目など気にした様子が全く無い。

 

 

「カムイくん、お久しぶりです♪ でもダメですよ、いきなり現れるものだから園果ちゃんがビックリしちゃったじゃないですか」

 

「ん。園果は気が弱いから、驚かせちゃダメ」

 

「…………すまなかった」

 

「っ、あ、いえ、ごめんなさい。私も過剰に反応しちゃって…………」

 

 カムイが神出鬼没であることはほとんどの者が知っているため、乾たちも驚きはするが取り乱したりはしていない。

 カムイも別に驚かせるつもりは全く無かったのだが、それでも驚かせてしまったということで素直に木久知へ謝った。

 

 噂では【神域の料理人】は気難しい性格であると聞いていた木久知も、カムイの素直な態度についつい許してしまう。

 

 

 

ジーーーーーーーーーーー

 

 

 

 そんな会場の空気が何処かの新喜劇のようになってしまっている中でも、カムイは変わらず幸平の料理を見つめていた。

 一通り観察し終えたカムイは、ビーフシチューを指差しながら作った本人へと尋ねる。

 

 

「幸平。コレ、余ってないのか?」

 

「え? あ、いや~~~シチューは余ってるんだけどよぉ。肝心のガルニチュールに使う食材は、全部使い切っちまったんだよ」

 

「っ………そうか」ショボン

 

「ああ、なんか悪いな」

 

 カムイが珍しく幸平の料理に興味を持つも、食材が手元に無いと知って目に見えるくらい落ち込んでしまう。

 そんなカムイを見て逆に幸平が申し訳なく思っていると、木久知がおずおずと手を上げた。

 

 

「あ、あの~~~、ならコレ、食べますか? 私の余りになっちゃいますけど」

 

「…………いいのか?」

 

「う、うん。この後も審査があるし、けど残すのももったいないから。私の残した余りで良ければ…………」

 

「ん、ありがとう」

 

 周りの者たちは、【神域の料理人】が他人の余り物を食べようとしていることに戸惑いを見せてしまう。

 しかし極限の飢えを経験したことのあるカムイにとっては、余り物だろうと何だろうと関係ない。

 

 ましてや、自分の【フルコース】に繋がる可能性があるのであれば尚更である。

 

 

「この世全ての食材に、感謝を込めて、『いただきます』」

 

 

 カムイがいつも通り一礼をして料理を食べ始める。

 

 一口一口を大事そうに味わうその美しい所作を見て、観客や審査員たちはカムイから食材への『見紛うこと無き愛』を感じた。

 

 また幸平も料理を作った本人として、これほどまでに『感謝』を示しながら綺麗に食べてくれて、料理人冥利に尽きる思いであった。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「おう、お粗末! それでカムイよぉ。どうだった、俺の料理は? 美味かったか?」

 

 そうして木久知が残した皿をキレイに食べきったカムイは、再び合掌して料理と食材へ感謝を示す。

 ところが自分の料理に興味を持ったカムイへ、幸平は待ちきれないと言わんばかりに感想を求めた。

 

「コクン。この前の、カレーよりは」

 

「っ、っ〜〜〜〜〜〜! へへへ♪ そっかぁ、ってことは今回はちゃんと『俺の味』を感じたってわけだな!」

 

 予選で作ったカレーよりも格段の手ごたえを感じた会心の一皿。

 過去にシャペルの授業で作った似たような料理『ブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)』では、味を認識させられなかった。

 

 だが今度こそようやくカムイから認められたことで、幸平も思わず顔が綻んでしまう。

 

 そしてカムイもまた、幸平に尋ねたいことがあった。

 

 

「幸平」

 

「ん? 何だよ?」

 

「聞こえたようだな、『食材の声』が」

 

「っ……………ああ、田所にもアドバイスを貰ってな。カムイの言っている意味が何となく分かったよ。

 それに、おかげで『料理』において一番大事なことに気づくことが出来たしな」

 

「…………それは?」

 

 本当はカムイも幸平の料理から、彼が何を理解したのか分かっていた。

 それほどまでに幸平の料理から伝わってくる『想い』が今までとは段違いだったのだ。

 

 カムイに尋ねられて幸平は、鼻を擦りながら嬉しそうに答える。

 

 

「【料理】ってのは『作る側』と『食べる側』じゃない……………『食べる側』と『食べられる側』で成り立ってるんだなってことがさ♪」

 

「…………フッ、そうか」

 

 

 幸平の答えを聞いてカムイは満足そうに笑う。観客どころか、十傑メンバーですらカムイが笑ったところなど見たことが無いだけに、驚きを隠せなかった。

 

 

 そう、それこそが『料理』………【食事】の根源なのだ。

 

 『料理』とは【食事】の一部、そして【食事】とは即ち『命を喰らう』こと。

 

 つまり食べた方が『生きて』、食べられた方が『死ぬ』。それは生物としての業であり、生きる上で避けては通れない【原罪】なのだ。

 

 だからこそ、生きるための糧となってくれた食材への感謝を忘れてはいけない。

 『食べる命』が無ければ人………『全ての生物』は死ぬしかないのだから。

 

 料理人とは『料理を作る人』ではない、『生きる糧となってくれた食材に感謝の印として、【料理】という最高の形に仕上げる者』を指すのだ。

 

 それは決して、屋台だろうと定食屋だろうとファミレスだろうと高級料理店だろうと変わらない。

 それこそが【食事】の根源であり、【食義】・【食没】の極意でもある。

 

 

 幸平の答えを聞いて、カムイは幸平が知らず知らずの内に【食義】を身につけ始めているのだと理解する。

 

 さらにカムイは幸平の料理を食べて『あること』を確信し、幸平に頼み込んだ。

 

 

「幸平」

 

「ん?」

 

「この料理、貰っていいか?」

 

「え? この料理って、『ビーフシチュー』の残りってことか? まぁ、別に構わないけど「違う」 ん? じゃあどういうことだよ」

 

「俺が欲しいのは、この料理の、『アイディア』」

 

「? 料理のアイディア?」

 

 カムイは自分が欲しいものを自分なりに噛み砕いて説明するも、イマイチ要領を得ないため幸平に伝わらない。

 そうして幸平が疑問符を浮かべていると、堂島が助け舟を出してくれる。

 

 

「つまり、だ。今回幸平が作った『ビーフシチュー』の肝は【部位ごとに調理した肉や内臓によるバリエーション豊かな味の一体感】だろう?

 カムイはその考えを自分の料理に応用したいと言っているんだ」

 

「ん」

 

「ああ~~~、そういうことか。何だ、それぐらいなら全然構わねえよ。

 それで? カムイはどんな料理に仕上げるんだ? やっぱり『ビーフシチュー』か?」

 

 堂島の解説を聞いて、幸平もようやくカムイが何を言いたいのかを理解する。

 

 特に自分の料理を他人がアレンジすることに抵抗の無い幸平は二つ返事で了承、むしろカムイならどんな料理に仕上げるのか気になって逆に尋ねる。  

 

 

「フルフル、『シチュー』にするかは、未定。ただ完成したら」

 

「? 完成したら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フルコースの、『肉料理』にする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カムイの言葉を聞いて幸平や審査員だけではなく、会場の全員が驚愕した!!!

 

 噂にのみ聞くカムイの【人生のフルコース】、その一皿が遠月学園の………よもや一年生の料理から生まれるとは夢にも思わなかったのだ!

 

 しかも相手は老舗や有名店の跡取りでもなければ、中等部からの生え抜きでもない、ごく普通の定食屋の倅である。

 観客たちは目の前の事実がとても受け入れられず、驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。

 

 

「フ、フルコースの『肉料理』って、マジかよ!? 俺の料理を元に!?」

 

「ん。だから、この料理の『アイディア』が、欲しい。ダメか?」

 

「い、いや、別にいいけどよぉ…………なぁカムイ、その代わりと言っちゃあ何だけどさ。その『肉料理』、完成したら食わしてくんね?」

 

 カムイのフルコースがどうしても気になる幸平は、その図太い神経に物を言わせ、カムイに『肉料理』を食べさせてほしいと懇願する。

 

 いくらモデルになった料理の発案者とはいえ、イチ学生レベルが食べられる代物ではない。

 

 値段が付けられないどころか、それこそ国家の重鎮クラスでもお目に掛かることが出来ないほどの料理と言っても過言ではないだろう。

 

 観客たちも、『何を言っているんだコイツは?』という空気を醸し出していた。

 

 

「別に、構わない」

 

 

 しかしカムイはそんなことに拘るような性格ではない。むしろ『肉料理』完成のヒントをくれたのだから、お礼に料理を振る舞ってもいいとさえ思っている。

 

「おっ♪ マジか! 絶対だかんな、この間みたいに『気が向いたら』ってのはナシだぞ?」

 

「ん。完成したら、教える」

 

「よっしゃーーーー! へへへ♪ 楽しみだぜ!」

 

 合宿の際、フルコースの『スープ』が完成したことを知った幸平はカムイに食べさせてもらうよう頼んだが、その時ははぐらかされてしまった。

 

 そのことを未だに根に持っていた幸平は、今度はそうはならないようちゃんとした約束を取り交わす。

 

 もっとも、カムイとて別にその言葉を忘れていたわけではない。ただ食材たちが『その気』にならないから、幸平へ作る機会が無かっただけである。

 

 

「ほう、カムイのフルコースに幸平の料理が入るのか。ふふ、何とも不思議な気分だ。

 カムイの【人生のフルコース】、その一皿が決まる瞬間に立ち会えるとはな」

 

「カ、カムイくん! その料理、私にも食べさせてくれませんか!?」

「私も食べたい!」

「私もだ! 噂に聞く【神域の料理人】のフルコースなら興味が尽きねえ!!」

「えっと、私もいいですか? 『洋食』になるのでしたら、是非食べてみたいです!」

 

 

「(食材の)気が向いたら」

 

 乾たちもカムイの『肉料理』を食べたいとせがむが、幸平はともかく他の者に対しては『食運』が働かなかったため、カムイは適当にはぐらかす。

 

(『食運』が俺にカレーを作らせたのは、幸平のためだったか。なら、もうここに用は無いな)

 

 『食運』がもたらしたモノを理解したカムイは、会場を後にしようとする。

 

 しかしカムイはまだ気づいていなかった。この選抜において、『食運』が導いたのは『肉料理』だけではないということを。

 

 

 

 

 

 

「おい待てよ、カムイ」

「帰るにはちょっとばかし早いんじゃないか」

 

 カムイが会場を出ていこうとすると、次の試合の選手である黒木場と葉山に呼び止められた。

 

 二人はカムイに対して挑戦的な雰囲気を出しているが、カムイにはどこ吹く風と言った感じで効果が無い。

 

「俺たちの試合、お前も審査員をやれ」

「せっかく来たんだ、もう少し付き合っていけよ」

 

 カムイを超えようとする二人は、互いの対戦相手以上にカムイへ対抗心を燃やしている。

 

 自分の作った渾身のカレーを一度食べただけで、即座に完全上位互換とも呼べる料理を作られたのだから、二人がカムイを意識するのは当然のことと言えよう。

 

 

「断る」

 

 

 しかしカムイは取り合うことをしないどころか即答で断った。

 

 黒木場と葉山も断られる可能性は考慮していたが、全く自分たちのことを意識していないカムイの態度を見て、思わず目を細めてしまう。

 

 

「これから、『肉料理』の、試作をする。お前たちに、構っているヒマは無い」

 

「っ、俺たちは眼中にねえってことかよ………!」

「なら、なおさらこのまま帰すわけにはいかないな………!」

 

 自分たちがこれほどまでに攻撃的な態度を取っているのに全く相手にしようとしないカムイの態度を見て、二人のボルテージが一気に最高潮まで高まる。

 

 黒木場にいたっては、いつ殴り掛かってもおかしくないほどにヒートアップしていた。

 

 

「つべこべ言わずに「特別試合」っ!!!」

 

「話があるなら、そこで聞く」

 

 

「「……………………………」」

 

 

 無理矢理にでも参加させようとする黒木場だったが、カムイの言葉に遮られる。

 

 そうしてカムイは二人に一言だけ告げると今度こそ会場から出てくのだが、黒木場と葉山は意外にも静かにカムイの背中を見送ったのだった。

 

 先ほどまでの燃え盛る炎のような雰囲気から一変し、今度は炭火のようにジックリと高熱を蓄えるかのような雰囲気が両者の間に漂う。

 

 

「カムイの野郎は後回しだ、まずはテメーから叩きのめしてやる」

 

「そう吠えるなよ。お前は所詮カムイと戦う前の『前座』に過ぎないんだからな」

 

 

『俺の前に立つなら選抜に優勝してからにしろ』

 

 

 カムイの言葉をそう受け取った二人は、気持ちを切り替えて目の前の対戦相手にようやく意識を向けた。

 

 もちろんカムイはそんな挑発をしたつもりは全く無い。

 

 ただ『肉料理』の試作のため、これ以上時間を取られたくないから問題を先送りにしただけである。

 

 そうとは知らない二人だったが、結果として第二試合が白熱するのであれば結果オーライなのだろう。

 

 

 そうして黒木場と葉山の第二試合が始まった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 黒木場と葉山が第二試合でバチバチに火花を散らしている頃、カムイは『アイランドシェル』にて『肉料理』の試作に取り掛かっていた。

 

 

(子供リーガルマンモスの骨や『ネオトマト』『ゴールドにんじん』などの香味野菜を使ってフォンを作る。

 さらに『メロウコーラ』と香辛料を加えて煮詰めたら、『ミルクジラ製生クリーム&バター』を入れて更に煮詰める。

 『メロウコーラ』の炭酸を飛ばし過ぎないよう煮詰め方には注意し、『宝石肉のテール部分』を入れてジックリと煮込む)

 

 

 カムイの『肉料理』は『宝石肉 ジュエルミート』を使った一品。

 

 まずはベースとなるソースで、ゼラチン質の多い『宝石肉のテール部分』を煮込むことで、旨味だけでなくネットリとしたコクも加える。

 

 ガルチュール(付け合わせ)にあたる肉は、部位ごとにドライエイジングや青カビなどによる熟成・麹・燻製など十重二十重に限界ギリギリまで手を加え、旨味を何段階にも引き上げていた。

 

 そして調理法は幸平の『ビーフシチュー』を参考に、ソースで煮込んだ肉を主軸にしつつ、部位ごとにそれぞれ適した調理を施すことで、メインとガルニチュールを両立させるつもりなのだ。

 

 

『アロゼ(揚げ焼き)』

『ロティ(炙り焼き)』

『グリエ(網焼き)』

『フリテュール(高温揚げ)』

『コンフィ(低温揚げ)』

『プレゼ(蒸し焼き)』

 

 

 その他にも『食材の声』を聞きながら様々な火入れを駆使することで、部位ごとの旨味を最大限に高める。

 

 最適に調理された肉を少量ずつ皿に盛り、煮込んだ肉と一緒に特製のソースを絡めて食べる。

 それがカムイの『肉料理』なのだが、問題は『ソース作り』だった。

 

 様々な調理を施した肉を少量ずつ盛り付けただけでは、ただの『肉の盛り合わせ』である。

 かと言って、煮込んだ肉とソースだけでは幸平が作った料理を真似るだけ。

 

 故に『カムイの肉料理』たらしめる独自の工夫が必要だった。

 

 

(ベースとなるソースを更に調理して味を追加するか。なら一種類よりも二種類にした方が、肉の旨味の幅が広がるな…………よし、基本となるソースから二種類に作り分けよう)

 

 

 カムイは『食材の声』を聞きながら、今作っているソースを基軸に二種類のソースに仕上げることにした。

 そうすることで『宝石肉』の旨味を調和させつつ、より幅広く旨味を爆発させようという狙いである。

 

 食材たちと相談しながら試行錯誤した結果、片方はフルーツの甘酸っぱさを強調したコッテリ濃厚でありながらも爽やかなソース。

 意外に見えるが、旨味の強い肉や魚にフルーツを使ったソースを合わせることはフランス料理では珍しくない。

 

 もう片方はスパイスを利かせた刺激的な風味が特徴のソースにすることを決めた。

 予選で作った大量のカレー料理の経験がこのタイミングで活きるあたり、『食運』の導きを感じざるを得ない。

 

 

 フルーツソースは『グランドベリー』『スプナッシュ』『オアシスメロン』『黄金洋ナシ』『しびレモン』などをミックス。

 

 スパイシーソースは『メルクの星屑』『スパイシード』『メテオガーリック』『ショウガッツの実』『ツクシナモン』『流氷ジンジャー』などを使う。

 

 なお『メテオガーリック』は本来、ひとたび食べれば筋肉がはち切れんばかりに膨張するほどの滋養強壮効果がある食材でグルメ八法でも使用が制限されている。

 しかし今回使った『メテオガーリック』はIGOが品種改良したものなので、味わいはそのままだが滋養強壮効果はそこまで高くはない。

 

 

 また、調理中は『ワープキッチン』を使っていたため時間の流れが外よりも緩やかであったが、それでも外の世界では数日経過したことから、今回のソース作りが如何に難航したかが窺い知れる。

 

 

 

 だがカムイはそんな苦心の末に会心のソースを作り上げ、ついに『肉料理』が完成した!!!

 

 

 平皿の中央には丸い窪みがあり、煮込んだテール肉と黒白二色のソースが火鍋のように分けて入っていて、太陰太極図を思わせる。

 その周りをグルリと調理された肉が囲んでいて、さながら『肉の花畑』のようだ。

 

 

 カムイはさっそく味見に入る、まずはソースで煮込んだテール肉をそれぞれ食べてみた。

 

「ッ〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 トロリとなるまでジックリ煮込まれたテール肉が、舌の上で溶けていく感覚は『快感』そのもの!

 

 『宝石肉』は元々、少し切るだけで打ち上げ花火のように弾けるほど大量の『肉汁』を内包している。

 

 それほどの肉汁が溶け込んだソースは、片方はフルーツの甘酸っぱい風味で、もう片方はスパイスの刺激的な風味で仕上げられていて、ソースだけで脳が旨味を認識できる許容量を超えるほどの味わいだ!!

 

 そんな2つの相反するソースは決して交わらないはずなのに、テール肉特有のゼラチン質が両者を繋ぎ合わせてまとめることで、ネットリとしたコクのある旨味が脳髄に直撃する!!!

 

 

 今度は周りにある調理された肉を二種類のソースにタップリと絡めて食べた。

 

 深い黒色の皿に最高の火入れをされたことで、キラキラと輝いている肉が実に映えている。

 その光景は、まるで夜空に光る星々が目一杯『自分』という存在を主張しているようであった。

 

 

 カムイは星のようにまばゆいその輝きを目で堪能してから、肉を一切れ頬張る。

 

 ソースがタップリと絡んだ肉を口に入れた瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分厚い地層のように、太古の時代より紡がれてきた旨味という名の『マグマ』が口の中で火山のように噴火した!!!

 

 様々な部位の旨味は和して同せず、それぞれが調和しながらも『自分』という存在をしっかりと主張している!!!

 

 

 

 フルーツソースの方は果物の爽やかな酸味と『メロウコーラ』の甘さが『ミルクジラ製生クリーム』のコクと溶け合い、肉の各部位の旨味を引き立てる!

 

 スパイシーソースの方は、刺激的な風味が濃厚な肉の旨味をさらに尖らせ、食べれば食べるほど食欲を掻き立てていた!

 

 部位ごとに最適な調理をされた肉たちは、そのまま食べても十二分に美味しい!

 だがそこに二種類のソースが加わることで、『宝石肉』の旨味の格が何段階も跳ね上がったのだ!!!

 

 

「っ~~~~~! ハァ、美味い…………完成だ」

 

 

 【宝石肉のキュイール・ド・エトワール】、カムイのフルコースの『肉料理』が完成した瞬間であった!

 

 なお『エトワール』はフランス語で『星』、『キュイール』は『加熱調理』の総称である。

 

 『宝石肉』の夜空を照らすほどの輝きと、星のように多種多様な味わいを楽しめる特徴。

 そしてその『宝石肉』を同じく星の如く無数の調理法で、それぞれ最適に火入れしたことから名付けられた料理名。

 

 最高の調理を施された『宝石肉』とその料理を食べたカムイの身体は、優しくもまばゆく光り輝いている。

 

 

 

 その輝きはまるで、カムイのフルコースの四品目の決定を祝福しているようだった。

 

 

 






っというわけで、カムイのフルコースの四品目が決まりました♪

肉料理は『宝石肉』というのは、本作の構想を練るにあたり真っ先に決まっており、調理方法を考えるだけだったので助かりました♪

『虹の実』と『宝石肉』は原作ファンでも食べてみたい方は多いと思います。

あと『料理』や『食事』に関して作者なりの考えを入れました。少し大げさかもしれませんが、東日本大震災の経験からやっぱり『食べたくても食べられない』というのは本当に辛いことだと思っています。

なので家に保管してあった缶詰や保存食など、諸々の食料を熊本の被災地に可能な限り送らせていただきました。

熊本の方々がこの辛く苦しい状況を乗り越えられるよう、この場を借りて心からお祈り申し上げます。

【本日のグルメ食材】
『宝石肉』『ネオトマト』『ゴールドにんじん』『グランドベリー』『オアシスメロン』『スプナッシュ』『黄金洋ナシ』『しびレモン』
『メルクの星屑』『スパイシード』『メテオガーリック』『ショウガッツの実』
『ツクシナモン』『流氷ジンジャー』

それでは皆さん、次回で♪
感想・高評価もいただけると作者が喜び、励みになります!

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