なる早で特別試合まで行きたいので、駆け足とはなりますが選抜準決勝は省略。決勝戦は1話で終わらせたいと思います。
カムイがフルコースの『肉料理』を完成させるのに掛かった時間は三ヶ月ほど。
しかし『ワープキッチン』によって時間の進みを遅くしていたため、外では10日ほど経過していた。
そしてカムイが『肉料理』を完成させた頃、遠月学園で行われている【秋の選抜戦】は決勝戦を迎えていた。
ところがこの決勝戦、なんと幸平・葉山・黒木場の三名によって行われることになったのである!
それというのも準決勝の第二試合、黒木場と葉山の対決は第一試合同様に『洋食のメイン』が課題だったが、二人の試合は引き分けに終わってしまったのだ。
葉山はまろやかな『渋味』と『苦味』を土台にスパイスの鮮烈な風味を際立たせた【鴨のアピシウス風】。
黒木場は『鰻』に『プラム』『赤ワイン』の旨味を掛け合わせて爆発させた【鰻のマトロート】を出した。
しかし双方共に優劣をつけがたく、審査員の票も2:2に割れてしまい、最後に残った木久知はどちらか一方を選ぶことが出来なかった。
そのため堂島が二人とも決勝に上げることで、幸平を加えた三人での決勝戦を行うことを提案。
運営委員である十傑メンバーは前例が無いため戸惑うも、総帥である仙左衛門が許可。
こうして【秋の選抜戦】は、前代未聞の三つ巴による決勝となったのである。
なお決勝戦の課題は、今が旬の『サンマ』。魚の中でも特に香り高く、世界中の食卓で愛されており、庶民の味として日本では古くから馴染みが深い食材。
言わば三人の長所を思う存分活かせる課題、三人の決着をつけるにこれほど相応しい食材は無いだろう。
『月天の間』の天井の一部が開き、満月が姿を現す。制限時間は夜空に輝く月が移動して見えなくなるまで。
仙左衛門の調理開始の宣言と共に三人が一斉に調理をスタートした!
「しかし今年の選抜戦は異例づくしですな、父上」
「ウム、選抜戦初の実力者3名による決勝戦。そしてこの勝負に勝った1名のみが」
「『神の舌』を持つ薙切えりな、そして【神域の料理人】カムイと直接対決する『特別試合』を行う、か。確かに異例のオンパレードですな」
決勝戦の審査員を務める堂島・仙左衛門・宗衛の三人が選手たちの調理を注意深く眺めると共に、一週間後に行われる選抜優勝者・カムイ・えりなの三名による特別試合に想いを馳せる。
「もう、カムイくんったら! 決勝戦だと言うのに全く姿を見せないだなんて!! 自分が対戦する相手のことが気にならないのかしら!」
「本当よ! しかも私の試合の応援には来なかったくせに、幸平くんの試合は見に来るんだから!!」
会場にいる全員が選手たちに注目する中、審査員の後ろに控えているえりなとアリスがプンスカ怒っていた。
えりなは運営委員であり、特別試合での対戦相手となる選手を間近で見たいということからこの場にいる。
ただアリスについては、一般生徒ではあるものの薙切家の一員であることと宗衛の娘ということでこの場にいる。
もっとも、実際にはえりなに注意されるも盛大に駄々を捏ねて居座ったのが事実なのだが。
「仕方なかろう、アヤツにはアヤツの目的がある。今ごろフルコースに入れるべき『肉料理』の試作でもしているのだろう」
「それはそうですが…………でも、あれっきり全く連絡がつかないんですよ!? このまま特別試合まですっぽかされては堪りません!」
「その可能性は………ありそうだな」
「そうなれば、ここまで盛り上がった【秋の選抜戦】は最後の最後で大失敗となってしまう。スポンサーや観客たちは絶対に納得しないだろう」
「もうっ! 兄さんったら、本当に気まぐれなんだから!」
「アリス、アナタがそれを言うのかしら?」
フルコースの『肉料理』が決まったと知った時は驚いた面々だが、結局今日まで何の連絡も寄越さないカムイによって、特別試合の開催そのものが危ぶまれてしまっていた。
そんな心配をしている一方で選手三名は調理を着実に進めていき、課題である『サンマ』を取り出す。
黒木場・葉山のサンマは切れ味抜群の業物の如く、旬の中でも最上位のモノを用意したことが一目で分かる。
しかし幸平は、何やら『茶色いペースト』の中からサンマを取り出していた。
「アレは、『米ぬか』………そうか、『ぬかサンマ』ね!」
『ぬかサンマ』とは、北海道の漁師町で作られる伝統的な保存食で、その名の通り新鮮なサンマを糠漬けにして作られる。
糠に含まれる酵素や乳酸菌が栄養を凝縮して旨味を引き立てるだけではなく、焼くと皮のパリッとした食感と身のふわっとした柔らかさが楽しめ、腸内環境を整える効果もあるのだ。
「なるほど。幸平は旬のサンマを『ぬか漬け』にすることで、更に旨味を増幅させるつもりのようだな」
「確かに、魚は『新鮮さが第一』ともてはやされていたのは過去の話。今は肉同様、魚も熟成させて使っている一流店は多い」
葉山は『香り』、黒木場は『経験』、幸平は『食材の声』から旬の中でも最高品質のサンマを手に入れた。
けれど幸平は『食材の声』によって、他の二人より一歩推し進めた『熟成』という方法で、更に旨味を増幅させたのである。
まさに『食材の声』を聞いたからこその発想。現状、幸平が一歩リードする形で調理は進んでいく。
そうして三人の調理も仕上げと入り…………最初に完成させたのは黒木場だった。
夜空の月に照らされながら審査員席まで歩いていく姿は、まるで月の女神の祝福を受けているかの如く神々しい。
「さぁ、食ってくれ」
「ほう、これは」
「【カルトッチョ】、ですな」
「ううむ、何とかぐわしい香り。流石に魚介のエキスパートなだけはあるな」
【カルトッチョ】、イタリア発祥料理で「紙包み焼き」を意味する。
「紙」を意味する「カルタ」が名前の由来で、主に魚介類や野菜を耐熱性の紙で包みオーブンで焼き上げる。
一般的には真鯛やアサリ・トマトなどを具材とし、オリーブオイルや白ワインで味付けされることが多い。
なお、黒木場は通常使われる『パラフィン紙』や『アルミホイル』ではなく、『耐熱フィルム』を使用していた。
半透明な包みとなっているため、中身がわからないことから味への期待が高まる中、審査員が封を開いた。
瞬間、食欲を強烈に刺激する香りが会場全体へ爆発する!!!
その香りの強烈さたるや、仙左衛門と宗衛が『おにやけ』をするほどであり、薙切家の人間では珍しい『おにやけ』が出たことで観客も沸き立つ!
深く濃い旨味を孕んだ香りを胸いっぱいに吸いながら、サンマを一切れ頬張る。
審査員たちは海の深さと山の高さを同時に味わい、身も心も自然と一つになったような感覚に陥った!
「っ~~~~! 何というコク! 何という美味さ! しかもこの香りとコクは『トリュフバター』だ!
さらにはサイドに香り高いキノコ類を添えている!!」
「旬のサンマの旨味がモリーユ・ポルチーニ・キヌガサタケ・マツタケなどのキノコ類。
そしてトリュフバターの旨味・香りと合わさり、単独で味わうより何倍も強い旨味となっている!!!」
「キノコの『山の風味』がサンマの『海の味』をこれほどまでに爆発させるとは!
単に旨味の強いモノ同士を合わせただけでは、『こう』はならない!」
黒木場の十八番である『暴力的なまでの強烈な旨味』は健在。だが今回の黒木場の料理は今までと違い、相性の良い食材を合わせること相乗効果を持たせていた。
同じ魚介類の旨味を単に足していくだけではカムイに勝てないと悟った黒木場は、別系統の旨味を加えることでメイン食材の味を爆発させることを思いついたのだ。
今までの黒木場なら、副食材にサンマと同じ海産物を使って一体感を出していただろう。
しかしいくら旬の中でも最高のサンマを使ったとしても、同じ海の幸を合わせてしまえば、一体感を出す以上その旨味は僅かなりとも埋もれざるを得ない…………それではカムイに勝つことは不可能。
だが今回黒木場が使ったのは、同じ旬の食材でも『キノコ』という山の幸。味の起爆剤となっている『トリュフバター』も『キノコ』。
そしてサンマの『イノシン酸』はキノコが持つ『グアニン酸』と合わさると相乗効果を発揮し、旨味が何倍にも膨らむ。
またキノコ類の中でも一際香りが高い品種を選んでいるため、本来なら『サンマの香り』を潰してしまうだろう。
だが旬の中でも『最高品質』のサンマだからこそ、モリーユなどの強い香りを味方につけることが出来た!
これにより『キノコの風味』が『サンマの魅力』を引き立てるという、まさしく【秋の選抜戦】の決勝に相応しい料理に仕上がっていたのだ。
メイン食材に別系統の旨味を合わせることで、味の相乗効果を狙う黒木場の料理に会場が大盛り上がり! 早くも黒木場が優勝に王手を掛ける!
会場の皆が黒木場の料理のインパクトに心を奪われていると、次に運ばれてきたのは葉山の料理だった。
しかし葉山の料理は、なんと【カルパッチョ】! この大舞台で『前菜』を出してきたことに会場がザワつきだす。
【カルパッチョ】、生の魚や肉を薄くスライスし、オリーブオイルやレモン汁をかけて提供されるイタリア料理。
元々は生の牛ヒレ肉を使用した料理だが、日本では主に白身魚を使ったものが多く見られる。
またその起源は1950年代のヴェネツィアにまで遡るほど古く、当時のハリーズ・バーの創業者によって作られたと言われている。
「ご心配なく、私の『カルパッチョ』はメインを張れる料理です。最後の仕上げを行いますので、暫しお待ちを」
観客や審査員は葉山が『カルパッチョ』を出した理由を図りかねているが、葉山は気にすることなく仕上げに取り掛かる。
葉山がバーナーでサンマの身を炙ると、高貴とさえ思える雅な香りが会場を満たした!!!
「こ、これは、何という魅惑的な香り! いったいどれだけのスパイスを使っているんだ!?」
「いえ、この料理に使われているスパイスは『オールスパイス』のみでございます」
「なっ!? 『オールスパイス』のみでこれほどの香りを出したと言うのか!!!」
「はい。もっとも、それは『サンマ』の話。タレには別で香辛料を使っております」
「確かに『オールスパイス』はコショウ・クローブ・シナモン・ナツメグを混ぜ合わせたような香りだが、それだけでこれほどの香りを出すとはな」
「『香り』というのは混ざれば混ざるほど、個々の香りが弱くなってしまいます。
ですので私は敢えて『オールスパイス』のみを使い、香りの『引き算』と『強調』を行いました」
黒木場が『旨味の絨毯爆撃』ならば、葉山はその逆。『香りの一点突破』とも呼ぶべき方法でメイン食材の格を跳ね上げていた。
『食欲』へ直撃するスパイスの香りに、仙左衛門と宗衛の『おにやけ』が再び発動する。
しかし葉山の工夫はこれだけではなかった!
「こ、これは………何という美味さだ! バーナーで炙られたことで、サンマの脂が上品な甘みのタレと絡み合い、旨味と共に口の中で溶けていく!!!」
「このタレは、『かえし』か! まろやかな『渋味』を持つ『かえし』が、サンマの持つ旨味を底上げしている!!!」
「なるほど、単にバーナーで炙っただけではこれほどの香ばしさは出ない。
『かえし』に含まれている糖分が焦げることで『キャラメリゼ』と化し、僅かな苦味が『香ばしさ』へと変化しているのだ」
『かえし』とは、醤油・砂糖・本みりんを混ぜて作られる調味料で、主にそばつゆの基礎として使われる。
その名は「醤油を煮返す」ことに由来し、江戸時代に考案されたと言われている。
また『かえし』には、加熱した醤油に砂糖・みりんを加えた「本かえし」。
砂糖・みりんを加熱し水飴状にして非加熱の醤油に混ぜ合わせた「生かえし」。
少量の醤油を加熱して砂糖・みりんを加えた物を非加熱の醤油に混ぜ合わせた「半生かえし」の3種類があり、それぞれ調理方法や特徴が異なる。
今回葉山が使ったのは『本かえし』であり一番旨味が濃いため、そばつゆの元だけではなく『すき焼き』の割り下にも使われる。
しかし、葉山はこの『本かえし』にも『あるスパイス』を使っていた。
「この『かえし』に含まれている、思わず虜になってしまうような蠱惑的なほど病みつきになる風味は…………『大麻』と『芥子』だな」
「はい。潤………いえ、汐見教授が『大麻』と『芥子』の栽培免許と許可証を持っておりますため、ウチのゼミで採れた最高の『大麻』と『芥子』の種を使いました」
『大麻』も『芥子』も麻薬成分を含んでいるため、一般人が栽培することは出来ない。
しかし『大麻』は免許、『芥子』は許可証が発行されていれば栽培は可能であり、『種』は食用として取り扱うことが可能。
また『大麻』も『芥子』も種には豊富な栄養素だけではなく、人を病みつきにさせるほどの独特な香り成分が含まれている。
日本でも『麻の実』『ケシの実』として古くから親しまれており、代表的な例としては七味唐辛子が挙げられる。
なお、種を取り扱う場合は発芽しないよう措置を取ることが義務付けられている。
余談だが、『大麻&芥子=麻薬』というイメージが強いのは歴史の授業で出てくる『アヘン戦争』や『GHQによる大麻取締法の制定』などを習ったことが原因だろう。
そのため日本人には『大麻&芥子=悪』という思い込みが生まれ誤解させてしまっているのだから、真っ当に栽培している者や飲食業界からすれば、とんだ風評被害である。
「新鮮な『麻の実』と『ケシの実』をみりんに漬け込み、『風味』と『渋味』を移しました。
みりんに溶けだした風味と渋味が『オールスパイスの香り』と『サンマの旨味』、そして『かえしの甘さ』を際立たせているはずです」
「確かに。『サンマ』『オールスパイス』『大麻』『芥子』。これらの香りが渾然一体となり、食す者の食欲を刺激して止まない!」
「そして『サンマの旨味』と上質な甘味のある『タレ』が溶け合うことで、前菜とは思えないほどの満足感を生み出している!」
「この一点突破のような鋭い『香り』は、明らかに黒木場リョウを凌駕している! まさに『香りの正射必中』、お見事!!!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
『渋味』によるブーストを受けた『香り』がもたらす美味さにより、前菜をメインディッシュ級に仕上げた葉山に大歓声が巻き起こる!
さらに新鮮な『大麻・芥子の種』と言う希少食材を見事に使いこなした葉山の料理は、『カルパッチョは前菜』という料理の常識を覆す逸品と言えた。
黒木場に続き葉山までもが最高の評価を獲得。残り時間も僅かとなったところで、最後に幸平の料理が運ばれてくる。
「おあがりよ! コイツが俺のサンマ料理!! 【ぬかサンマの炊き込みご飯】だ!!!」
ホワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
幸平が土鍋の蓋を取ると、キノコや山菜などと一緒に土鍋いっぱいへ敷き詰められた『ご飯』!
そして丸ごと入った『サンマ』が姿を現した!!
日本人なら思わず頬が緩んでもおかしくないビジュアルに、観客たちは思わず生唾を呑み、仙左衛門と宗衛は『おにやけ』を発動する。
また、サンマの身をほぐしながらご飯を混ぜて碗に盛る光景は、食す者を香り以上に『見た目』から味への期待度を更に高める。
黒木場の『耐熱フィルムの開封』や葉山の『バーナーによる炙り』同様、幸平も『食欲』を掻き立てる『料理の見せ方』を心得ていた。
「うむ! 『ぬか』によって熟成されたサンマの旨味が米にも行きわたり、口の中を滋味とも呼べる旨味が満たしてくる!!!」
「旬のサンマの旨味が『ぬか漬け』にすることで旨味がアップしている、単純なサンマの美味さだけで言えば前の二人以上だ!」
「サンマだけではない! 米と一緒に炊き上げているキノコや山菜も旬のものを取り揃えている。この味わいたるや、まさに『日本の秋』そのもの!!!」
「そう、ちなみに使っている米は茨城県産のコシヒカリ。ぬか漬けに使った糠も実家にあった糠床に、新米から取った糠を混ぜやした♪」
「なるほど。このサンマと糠に同じ米を使うことで、ここまでの一体感を出したというわけか」
幸平が作った【ぬかサンマの炊き込みご飯】を一口頬張ると、審査員たちが口を揃えて絶賛する!
しかし黒木場や葉山の時とは違い、仙左衛門は『おはだけ』をしていなかった。
またそれだけではなく、堂島と宗衛も一椀食べ終わると箸を置いてしまう。
黒木場と葉山の料理を食べた時は、食べ終わっても料理の感動が残り賞賛が続いていた。
だが幸平の場合は、料理を食べ終わってからの審査員の反応が静かすぎたのだ。
三人の反応から幸平の料理に対する評価が推し量れており、勝負は黒木場と葉山の一騎打ちになるかと思われた。
「え~~~、おかわりが無いようでしたら………『コイツ』でシメと行きましょうか♪」
審査員たちが試食を終えて審査に入ろうとした時、幸平が鍋を取り出して中身を『炊き込みご飯』に入れる! 幸平の突然の行動に観客と審査員たちは目を開いた!!
「これは、【おじや】か!」
「そう。コイツは『和風出汁』に『豆乳』『パルメザンチーズ』、さらにコシヒカリから作った『特製ライスドリーム』を混ぜたものを調味料で味を整えた『特製出汁』。コイツが俺の料理のシメだ!」
【おじや】とは、炊いたご飯を水で洗わずに出汁や具材と一緒に煮込んだ料理の総称である。
粘り気が出るまで煮込むことで具材の味がご飯にしっかりと染み込み、濃厚でトロみのある食感に仕上がる。
なお『おじや』は雑炊やお粥とは異なり、炊いたご飯を使用するためご飯の粘りが残るため、トロりとした仕上がりになる点が特徴。
【ライスドリーム】。1980年代前半(1982〜1984年頃)にアメリカで作られた玄米を主原料とする乳飲料。玄米にヒマワリ油などの植物性油を混ぜて作られる。
米由来の自然な甘味があり、甘酒をあっさりさせたような優しい風味を持っているのが特徴。
また乳製品や大豆を使用していないため、牛乳・豆乳アレルギーの心配が無く、乳糖不耐症でお腹を下すことも無いので、料理やデザート作りにも幅広く活用されている。
本来なら玄米から作られる『ライスドリーム』だが、幸平は新米である『コシヒカリの玄米』と同じ米から作った『米油』を使い、【自家製ライスドリーム】にして料理の一体感を引き上げたのだ。
幸平の隠し玉に審査員たちは意表を突かれつつ、『おじや』を口に運ぶ。
仙左衛門と宗衛が『おはじけ』、堂島は恍惚の笑みを浮かべた!!!
「っ~~~~! これは、なんと心と体に染み渡る美味さだ! 『サンマ』『炊き込みご飯』『豆乳スープ』、それぞれの旨味が自身の旨味を主張しながらも見事に調和している!!!」
「然り! 『ぬかサンマ』の旨味を吸収した米が、『豆乳』『ライスドリーム』『パルメザンチーズ』の旨味と溶け合うことで、旨味が爆発している!!!」
「しかも『おじや』にしたことで、ご飯に混ぜられていた『刻み小梅』の酸味が花開く!
小梅の心地よい酸味で食欲が刺激され、シメでありながらいくらでも食べられそうだ!!!」
『炊き込みご飯』からの『おじや』による連撃により、審査員は食べ終わると同時に至上の満足感に満たされていた!
『豆乳』にはサンマの『イノシン酸』と合わせると相乗効果を発揮する『グルタミン酸』が大量に含まれているため、爆発した旨味はシメの一品として申し分ない。
まさに日本人の味の好みにド直球のストレートを叩き込んだようなもの、その満足感は三人の中でも一番だろう。
幸平の料理の試食が終わり、いよいよ審査に入る。会場がシーーンと静まり返り、暫しの静寂が会場を支配。
そうして、三人の審査が終わった。
「ゴホン、それではこれより審査の結果を発表する。まず三名とも、よくぞ『サンマ』という課題に応えて見せた。
其方らの料理はいずれも『サンマ』の魅力を十二分に活かした料理と言えよう」
「つまり、『味』においては三名とも互角。ただそれぞれの相違点を挙げるとすれば、黒木場は『旨味の爆発力』、葉山は『香りの鋭さ』、幸平は『味わいの一体感』に優れていた」
「しかしそれでも三者三様に魅力ある品であったため、そこでも優劣はつけられなかった。
また三人の完成度はまさに『料理人の顔が見える皿』、【必殺料理 スペシャリテ】と呼ぶに相応しい料理であった」
遠月グループのトップ三名をしても、全く互角の評価に観客がザワつきだす。
このままでは準決勝同様に『勝負預かり』ということで、『特別試合』まで決着が持ち込まれるのではないかと危惧してしまう。
「しかし!!!」
「三名の中で最も自分を表現できていた者こそが勝者となり、『頂点』へ挑むべきである! ましてや勝者が挑むのは既存の常識など全く通用しない怪物!!
それほどの相手に挑むのならば、己の味で常識を覆すほどの料理でなくてはならない!!!」
仙左衛門の言葉で『持ち越し』になることはないことを観客たちは悟る。そして仙左衛門が勝者………選抜優勝者の名を挙げた!!!
「【葉山アキラ】よ! そなたの料理は、まさしく既存の料理の常識を覆す品であった!! 思う存分『頂点』へと挑むがよい!!!」
ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
優勝は【カルパッチョは前菜】という常識を打ち破った葉山アキラ!!!
優勝者が決まったことで静かだった会場は一気に沸き立ち、熱気に包まれる!
普段はクールな葉山も歓喜のあまり、思わず拳を握り天に高々と振り上げた!!
例年に無いほどの激闘の決着に会場が沸いていると、惜敗した幸平と黒木場が葉山へ近づいていく。
「なぁ葉山」
「おい葉山ぁ」
「ん?」
「その料理、食わせて」
「テメエの料理、俺にも食わせろや」
「な、何だよ急に「「いいから食わせて! / 食わせろ!」」 っ………ハァ、分かったよ」
負けは負けとして認めたものの、自分の料理と何が違うのか知りたい二人は葉山に【炙りサンマのカルパッチョ】をせがんだ。
二人の勢いに押されて、ついつい葉山も二人分の皿を炙って出してしまう。
「フン、調子に乗んじゃねえぞ葉山。今回はお前の料理が『たまたま』審査員にウケたってだけの話だからな」
「おうおう、負け犬は吠えるので大変だなぁ。何にせよ、これで一年の中での序列は決まったんだ。これからは口の利き方に気を付けるんだな」
「まぁ、細かいことはいいじゃねえかよ。葉山も良い品作ったんだしさ♪」
「何でお前は上から目線なんだよ、三位野郎」
「なっ!? まだ『三位』って決まったわけじゃねえだろ!!!」
「幸平テメエ! 俺が三位だって言いてえのか!!!」
「「キタねーな! 口にモノ入れたまま喋んな!!!」」
幸平と黒木場は葉山の料理を食べ、ひとまずは葉山が優勝したことを納得する。
しかし今度は二人の間で、熾烈な『二位争い』が勃発してしまった。
会場の盛り上がりとは裏腹に、対戦した三人で頻りに『二位』『三位』を言い争っている光景は何ともシュールである。
「葉山くん」
「っ、薙切えりな………!」
そんな三人で言い争っている中に、決勝戦の成り行きを見守っていたえりなが葉山に話しかけてきた。
「選抜優勝おめでとう。運営委員である十傑として、祝辞を述べさせてもらうわ。特別試合ではよろしくね」
「っ、ああ、ありがとよ。このままお前も倒して、十傑の座から引きずり下ろしてやるぜ」
「ふふ、そう上手くいくかしら? 私も料理人として、品を出す以上は全身全霊で行かせてもらうわ」
えりなが素直に葉山の優勝を称えると葉山は礼を返すが、すぐに挑戦的な目を向ける。
今しがた激戦を終えたばかりだと言うのに、すぐにでも試合を始められるほど気力が漲っていた。
しかしえりなは十傑としての余裕からか、葉山の挑発的な態度を優雅に受け流しつつ、自身の料理に懸ける熱意を語る。
えりなもまたやる気は十分であると判断した葉山は、『獲物を見つけた猛禽類』のように獰猛な笑みを浮かべた。
「フッ、そうこなくちゃな。それでこそ倒し甲斐があるってもんだ。
ところで、カムイの奴はどこに行ったんだ? 結局、俺たちの決勝には「そうなのよ!」っ、お、おう…………」
「まったく、カムイくんったら! 毎度毎度毎度毎度毎度!! いっつもいっつもいっつもいっつもいっつも!!!
こっちの連絡に返事もせずいったいどこに「呼んだか?」 ッ、キャア! カ、カムイくん!?」
いよいよ特別試合の開催が危ぶまれてきたことに葉山とえりなが心配していると、突如として話題になっていたカムイが現れた。
毎度のことながら『裏のチャンネル』を通って神出鬼没に現れるカムイに、えりなだけではなく会場にいる全員が驚いてしまう。
「っ~~~~~カムイくん!!! あれだけ連絡したのにどうして返事をくれないの!? 心配したじゃない!」
「ん、電池が切れた」
「…………後でモバイルバッテリーを渡しておくわ」
当然のことながら、『アイランドシェル』にこの世界の携帯端末の規格にあったコンセントなど存在しない。
そのため充電する時は遠月学園で行っているのだが、今回は『肉料理』の試作のため、『アイランドシェル』に籠り切りになったことで電池切れとなってしまっていたようだ。
料理以外のことはズボラと言うか、抜けていることが多いカムイにえりなが呆れていると、幸平・黒木場・アリスも近づいてくる。
「それにしてもドンピシャなタイミングで来たよな~~。逆にタイミングが良いのか悪いのか分からなくなるぜ」
「フン、本当なら俺が叩きのめしたかったんだがな。今回はソイツに譲ってやる」
「? 何のことだ?」
「何って、特別試合のことよ。兄さんはこれから課題が発表されるから、ここに来たんじゃないの?」
さすがに決勝戦の後に特別試合が行われることはない。これから課題が発表され、実際に試合が行われるのは1週間後である。
そのため誰もが『カムイは優勝者と試合のお題を確認するために来た』と思っていたのだが、カムイは首を振って答えた。
「フルフル」
「? じゃあ何で来たんだ?」
「『肉料理』が、完成したから、持ってきた」
特別試合のことを忘れていたようなカムイに会場へ来た理由を尋ねると、カムイはクロッシュで蓋をした皿を幸平に差し出した。
『フルコースの「肉料理」が完成したら幸平にも食べさせる』という約束を果たしに来たと知り、幸平だけではなく会場中が驚愕する。
噂にのみ聞くカムイのフルコース、その一皿が目の前にあるということで全員の視線が皿へと集まった!
「マ、マジかよ!? いや、確かに約束はしてたけどよぉ。でもまさかこのタイミングで持ってくるとは思わなかったぜ……………」
「冷めるぞ」
「お、おお、じ、じゃあ遠慮なく」
突然の不意討ちにマイペースな幸平も戸惑うが、それでもカムイの料理への興味が勝り皿を受け取る。
ドキドキと心臓が高揚する音が聞こえてくるほど静まり返った会場で、幸平がワクワクしながら蓋を開ける。
パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
突然、決勝戦の余韻を完全に吹き飛ばすかのような食欲へ直撃する香りが会場全体へ一気に広がった!!!
旨味成分が活性化したことで輝いている肉は、暗い『月天の間』を優しく照らすも、月の光に負けないぐらいに強い!
その輝きに誰もが心を奪われ、仙左衛門と宗衛も『おにやけ』を止めることは出来ず、観客同様にヨダレを垂れ流している!
生徒だけではなく、『食』の世界における重鎮たちが集まる会場において、この場の誰もが等しく同じ感情に支配された!!!
【食いたい!!!】、と。
アレコレ考えた結果、選抜は葉山に優勝させました。
原作主人公である幸平にするかは最後の最後まで悩みましたが、『香り』という明確な強みのある葉山の方がキャラ的にも料理的にも書きやすかったので、原作通りとしました。
それでは皆さん、次回で♪
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