神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

37 / 41


カムイはともかく、幸平など原作キャラが『グルメ食材』を食べた時のリアクションが難しすぎる!!!

一度アレコレ悩み過ぎて、一周回り【焼きたてジャパン】みたいなリアクションにしようとしたことがありました…………。




第三十六皿

 

 

 

 

 会場にいる全員の頭が『食欲』一色に染まっており、幸平は目の前の『極上』という言葉すら生ぬるいと思うほど、光り輝く皿に身震いしていた。

 

 

 

「ッ………ハ、ハハ、コイツはスゲエや。こんな料理見たこともねえ! それじゃあ早速「待って、幸平くん!」っ、な、何だよ薙切ぃ?」

 

「お願い! 少しでいいから私にも食べさせて!」

 

 

「ズルいわ、えりな! 幸平くん、私にも頂戴!」

「俺にも食わせろ!」

「一口でいい、俺にもくれ!」

 

「儂にも一切れくれないか、幸平創真!」

「俺もだ幸平! カムイのフルコースの一品、是非とも食べてみたい!」

「私にも分けてくれないだろうか!」

 

 

「私もだ! 金ならいくらでも払う!!!」

「あの【神域の料理人】のフルコース、学生にだけ食べさせるなど勿体ない!!!」

「我々は遠月のスポンサーなのだ! 我々にも食べる権利はある!!!」

 

 

 幸平が食べようとするとえりなが止めに掛かり、『自分も食べたい!』と強請り始めた。

 

 そしてえりなを皮切りに、アリスや仙左衛門たちまでもが幸平に詰め寄ってくる。

 それどころか観客やスポンサーまでもが立ち上がり、『自分も』と騒ぎ始めた!

 

 もはや会場全体が騒然となり、今にも暴動が起こりそうな空気!

 もし幸平が分けなければ乱闘になりかねないだろう。全員そのぐらい目が血走っており、明らかに正気を失っている。

 

 しかしカムイが用意した皿は一人分のみ、このままでは血で血を洗う奪い合いになる地獄絵図が展開されそうだった!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<<<うるさい>>>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!

 

 

 

 観客たちが壁を越えて向かいそうになったところで、凄まじいほどの威圧感が会場を呑み込む!

 

 食欲が剥き出しとなった獣状態にあった観客たちは、氷水を浴びせられたかのように一斉に我へと返る。中にはあまりの恐怖に気絶する者までいた。

 

 

「この食材たちは、『幸平』を選んだ。この料理は、『幸平』のために作った。お前たちが、手を出すことは、許さん」

 

「「「「「……………………………」」」」」

 

 

 威圧感の発生源はカムイだった。本来ならば猛獣を退けるために使う『威圧』を人間に向けて放つことはほとんどない。

 せいぜい使うとしたら、悪意や害意を持って自分に襲い掛かってくる相手だけだ。

 

 だが食材たちを………自分が作ったフルコースの『肉料理』を食欲に突き動かされるまま、無作法に食い散らかそうとする行為だけは我慢がならなかった。

 

 ここまでカムイが他人へ怒りを向けることは珍しく、『逆らえば死』という体感をしたことで、全員カムイの『肉料理』を諦めるしかなくなった。

 

 

「幸平、料理が冷めるぞ」

 

「あ、ああ。それじゃあ、いただきます」

 

 カムイに促されて幸平は、ソースで煮込まれている二つの肉をフォークで刺し、そのまま口へと運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬で身体中の細胞が黄金の旨味で満たされ輝き出す! 幸平は身体が内側から爆発したような錯覚に陥った!!!

 

 

 

 

 

「っ~~~~~~~! う、うめえ、う、うますぎる、身体中に、快感が走って、力が入らねえ……………」

 

 

 未だかつて味わったことの無い美味に、幸平は文字通り腰を抜かしてしまった!

 周囲は幸平の肌艶が月の光を反射するぐらい輝いているのを見て、思わず自分の目を疑いながら口の中に溢れている生唾を飲み込んでいる。

 

 

 『味覚』とは舌にある味覚受容体への『刺激』であり、その刺激を脳が快感と判断すれば『美味さ』となる。

 

 つまり『美味さ=刺激』なのだ。そして強烈な刺激が加わると、脳は刺激を緩和するためにエンドルフィンなどの『快楽物質』を身体へと流し、刺激と共に身体の感覚を麻痺させる。

 

 コレは麻薬と同じようなモノで、強すぎる刺激や負担は強すぎる快感となり、快感は身体の感覚を狂わせる。

 

 マラソン選手が走る感覚が『病みつき』になっているのは、走行による負担が一定量を超えたことにより、『快楽物質』が身体中に流れているためだ。

 

 

 強烈な旨味による快感で、もはや重力にすら逆らえない幸平。だがそれでも『食欲』だけは衰えを見せず、涙を流しながら今度は二色のソースを絡めてガルニチュールの肉を頬張る!!

 

 すると、そのままでも美味極まりない肉の旨味が更に跳ね上がった!!!

 

 

(し、信じられねえ! まるで超一流の職人が作ったステンドグラスみたいに、色とりどりの魅力が溢れてくる!!

 俺の作った料理が『テーマパーク』なら、カムイのは色彩溢れる『大万華鏡』の世界!

 これが本当に俺の料理から生まれたってのか!? 美味いなんてモンじゃねえ! 美味すぎてワケが分からねえ!!!)

 

 

 甘酸っぱく爽やかなソースと食欲のスイッチを連打し続けるスパイシーソース。

 2種類のソースが織りなし、極限まで引き出された肉の旨味を爆発させ、『美味しさ』という名の刺激が幸平の脳を焼く。

 

 『旨味の魔力』に魅せられた幸平が食べ進める姿を見て、一旦は落ち着いた周囲の者も再び食欲が剥き出しとなり、ヨダレを滝のように垂らしていた。

 

 

「『レバー』の甘み、『肺』のフワフワ感、『脳みそ』のコッテリまろやかな旨味、『バラ肉』の脂の甘さ、『サーロイン』の滑らかな脂肪、『頬肉』のホロホロ感! そして極めつけはトロトロになるまで煮込まれた『テール肉』!!

 色んな肉の旨味と質感を爽やかな甘みのソースとスパイシーなソースが、これ以上無いぐらいに引き立たせてやがる!!!

 

 

 見た目はほとんど同じでありながら、様々な部位の旨味と食感を合わせ持つ『宝石肉』は、まるで【肉のカーニバル】そのもの。

 

 もちろん幸平にはどんな肉を使ったのかは分からない。

 だが、口から伝わる旨味で身体が至上の幸福に満たされていく感動の前では、そんなことはどうでも良かった。

 

「こんなスゲエ料理があったのか! こんな美味い料理があったのか! こんな味の世界があったのか!?

 口の中に溢れる旨味、脳に伝わる快感! 全てが堪らねえ、堪らねえよ!!!」

 

 会場にいる全員の羨望を一身に集めつつ、涙を流しながら夢中で食べ続ける幸平。

 そうして皿に盛られていた肉を全て平らげると、幸平は恍惚の表情を浮かべ放心していた。

 

 

 

 

「ッ、ハァ~~~~♪ ごちそうさん、カムイ…………ありがとよ、こんなスゲえ料理作ってくれて。最っ高に美味かったぜ♪」

 

「ん」

 

 しばらくして快感による全身麻痺も無くなり、ようやく身体の感覚が戻った幸平は、ゆっくりと立ち上がりカムイにお礼を述べる。

 

 コレが自分の料理から生まれたなどと信じられない気持ちだったが、それでも自分の料理を参考にこれほどの品を作ってくれたことへ感謝したかった。

 

 

「それにしてもヤッベエな、この『肉料理』。カムイの【人生のフルコース】って、全部このレベルなのかよ。

 あとどれくらいで完成するんだ? つーか『フルコース』って全部で何品出すんだ?」

 

「フルコースは、全部で八品。完成しているのは、『スープ』『肉料理』『デザート』『ドリンク』の四品。

 食材だけ、決まっているのが、『オードブル』と『サラダ』で、他は決まっていない」

 

「ふーーーん。八品でのフルコースってことは、じゃあ『魚料理』と『メイン』は食材も調理法も決まってないってことか~~~。

 なぁなぁ、【人生のフルコース】が完成したら食わしてくれよ♪」

 

「(食材の)気が向いたら」

 

「何だよ~~~! また『ソレ』かよぉ。ところで、この肉って何の「オッホン! 幸平創真よ、そろそろ良いか?」 ん? 『良いか?』って何がっスか?」

 

 

 すっかり幸平がカムイを独占し、使っていた肉について尋ねようとすると仙左衛門が割って入ってくる。

 

 ちなみに仙左衛門だけではなく、後ろにいる面々もカムイの『肉料理』が食べられなくて若干不機嫌であった。

 

 

「選抜の決勝を終え、優勝者も決まった。カムイも来ている。これより『特別試合』の課題について発表する!!!」

 

 仙左衛門の言葉に観客たちはカムイの登場と『肉料理』のインパクトで、特別試合をすっかり忘れていたことに気がついた。

 

 『選抜優勝者』である葉山、『神の舌』を持つえりな、【神域の料理人】であるカムイが一週間後に戦うのだ。

 秋のイベントを締めくくるに相応しいビッグマッチに、観客たちは固唾を飲んで『課題』の発表を待つ。

 

 

 

 

「『課題』は………『米』である! 勝負は一週間後、この『月天の間』にて執り行う!!!」

 

 

 課題食材は日本人の『食』の象徴である『米』、しかも秋は『新米』の季節でもある。

 

 日本人としてこれ以上ない課題に果たしてどんな米料理で答えるのか、観客たちの興奮と興味は尽きることが無かった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 特別試合の課題が『米』に決まり、葉山はさっそくゼミで試作を始めようとする…………はずだったのだが。

 

 

「やっぱ『米』なら『コシヒカリ』か『ササニシキ』だよなぁ。ちょうど新米の時期だしよ!」

「だが日本の新米は水分量が多い。料理によってはその水分が邪魔になることもある。そこんところも考えて料理を選ぶ必要があるな」

 

 

「……何でお前らが居るんだよ」

 

 

 葉山がゼミに帰ろうとすると、何故か幸平と黒木場まで付いてきてしまった。

 それどころか試合に出るのは葉山なのに、まるで自分たちが勝負するかのように色々とアイディアを出し始めたのだ。

 

 

「何でって、そりゃあもちろん俺たちも協力するためだよ」

「曲がりなりにも俺たちに勝ったんだ。このままおめおめと負けられたら、俺たちの立場が無え」

 

 どうやら二人とも善意ではなく、単に自分たちに勝った葉山がこのまま成す術無く負けることが我慢ならないようだ。

 理由としては分からなくもないが、ここまで傍若無人な協力の仕方に葉山は呆れてしまう。

 

 

「必要ねえよ、とっとと帰れ。俺一人で十分「テメエ、本気で言ってんのか?」っ!!!」

 

 葉山が不機嫌な顔で追い返そうとすると、黒木場がバンダナを付けていないのに鋭い目つきで睨みつけてくる。

 

 それまでの……ある種陽気だった雰囲気が一変し、張り詰めた緊張感が部屋を包んだ。

 しかも普段は明るい幸平も強張った顔で葉山を見ており、二人の迫力に葉山も思わず息を呑んでしまう。

 

 

「えりなお嬢はともかく、相手はあの『カムイ』だぞ? お前一人でどうにかなると本気で思ってんのか? もしそうなら、ずいぶんと能天気な頭を持ってるな」

 

「っ……………」

 

 黒木場の乱暴な物言いに葉山が顔を歪ませる。思わず反論しそうになるが、葉山自身も理解していた。

 

 

 『今のままでは、どう足掻いてもカムイには勝てない』、と。

 

 

「まぁ、『能天気』ってのは流石に言い過ぎだけどよぉ。でも実際どうなんだ、葉山。

 カムイが作った『肉料理』、アイツは間違いなく本番でアレぐらいスゲエ料理を出してくるに違いねえ。葉山はあのレベルの品を1人で作れんのか?」

 

「っ、そ、それは…………」

 

 幸平の言葉に葉山は答えようとするも言葉に詰まってしまう。葉山も『香り』が如何に人の食欲を刺激するかは理解している。

 

 

 しかしカムイの『肉料理』は次元が違った。

 

 

 脳が認識した瞬間に圧倒されるほどの旨味を含んだ香りと見た目が、人の本能を引きずり出して『食欲の獣』としてしまう。

 あんな理屈や科学では説明がつかない料理がこの世に存在するなど、未だに信じられないほどであった。

 

 『未知の旨味を孕んだ未知の香り』。あの瞬間、間違いなく【世界は変わった】!

 

 あの料理を知るのと知らないのとでは、人間の価値観が全く異なる。それまで見えていた『自分の世界』が一新されたのだ。

 

 あれこそ葉山が目指すべき料理、あの料理は間違いなく【世界を変える一品】。

 そしてカムイは自分が憧れ、目標とする領域にいることは疑いようがない。

 

 

(分かっている、今の俺では到底『あんな料理』を作るなんて不可能だ…………だが、それでも!!!)

 

 

 【香りで世界を変える】、かつて自分を救ってくれた恩人へ報いるためにそう誓った。

 そして相手は自分が目標としていた、『己の料理一つ』で世界を変えることが出来る料理人。

 

 

 

 (是が非でも一矢報いたい! 自分の料理でも世界を変えられることを証明したい!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葉山は『意地』と『誇り』を一緒にすることを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ハァ、分かったよ。確かにあんな料理を見せられた後で、『自分一人でどうにかなる』だなんて言えるはずもねえ。お前らの力、存分に利用させてもらうぜ」

 

「へっ、そうこなくちゃな♪」

「最初から素直にそう言え」

 

「だから何でお前らは、そう上から目線なんだ!」

 

 

 自分が優先するべきは何なのか、自分の皿は何のためにあるものなのか。

 自分の『原典』を再確認した葉山は、カムイに自分の『全て』をぶつけるべく幸平と黒木場の力も借りることにした。

 

 それからは騒ぎ、揉めて、時には口論に発展しながらも三人の強みを活かせる皿を考えていく。

 

 

 

 そんな光景を見て、保護者の汐見は嬉しそうに顔を綻ばせていた。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 葉山・幸平・黒木場が三人で特別試合用の料理を考えている頃、えりなは水戸郁魅を連れて『ある屋敷』を訪れていた。

 

 家人に案内された二人は庭で一人佇んでいる者を見つけると、えりなが静かに声を掛ける。

 

 

「緋沙子」

 

「っ、え、えりな様!? それに水戸郁魅まで! ど、どうしてここへ…………!」

「ア、アタシは、えりな様に誘われて付いてきただけだよ」

 

 庭に佇んでいたのは、えりなの秘書である新戸緋沙子だった。葉山に敗れた新戸はショックのあまり、えりなの屋敷から私物を引き払い、自分の家へ戻って来ていたのだ。

 

「久しぶりね、緋沙子。いきなり私の下を離れるんだもの、心配したわ」

 

「も、申し訳ありません! ですが、あれだけの啖呵を切って約束をしていながら、おめおめと敗北した私が、えりな様のお傍にお仕えするなど…………!」

 

 えりながわざわざ自分に会いに来たことを恐縮に思いながら尋ねると、えりなは本当に心配していたように答えた。しかしその気遣いが却って新戸を苦しめてしまう。

 

 

「選抜の決着がついたわ。優勝はアナタを敗った葉山くん。特別試合は1週間後、課題は『米料理』よ」

「っ、そう、ですか……………っ〜〜〜〜!」

 

 選抜の優勝者が葉山だと知ると、新戸は慚愧から悔しさで顔を歪ませる。

 本来であれば自分がえりなと共にカムイへ挑むはずだったのに、よりにもよって自分が敗れた葉山が勝ち上がったのだ。

 

 えりなの話を聞いて新戸はえりなへの申し訳なさよりも、葉山への対抗心と悔しさが勝り、少しだけ目に力が宿る。

 そんな新戸を見て、えりなは『まだ料理への情熱が無くなったわけではない』と安堵した。

 

「ねえ、緋沙子。特別試合に出す料理づくり、アナタも協力してくれないかしら?」

 

 えりなの思いがけない言葉に、新戸は目を丸くするほど驚く。さらにえりなはそのまま、自分の想いを真っすぐに伝えた。

 

 

「今のままではカムイくんに勝てない。いいえ、勝負にすらならないわ。

 せめてカムイくんが認めるだけの品を作りたい。そのためにはアナタの力が必要なのよ、緋沙子」

 

「そ、そんな、私の力など、何のお役にも立てません。えりな様お一人でも十分「いいえ、それは違うわ」っ、えりな様?」

 

 

「今の私では絶対にカムイくんには勝てない、断言してもいいわ。だって私は見てしまったもの。

 彼の真骨頂とも呼ぶべき品、彼の持つ『全て』が結集された料理」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【人生のフルコース】の一皿を……………!」

 

 

 

 

 【カムイの人生のフルコース】という単語を聞いて、新戸は息を呑むどころか、しばらく呼吸を忘れてしまった。

 

 今まで謎に包まれていたカムイのフルコース。どんな料理なのか誰も想像すら出来なかった品であれば、新戸でなくても興味が尽きないだろう。

 

 

「っ、じ、【人生のフルコース】!? あのカムイのフルコースを召し上がったのですか!?」

 

「いいえ、残念ながら食べることは出来なかったわ。でも鮮明に覚えている。見る者全てを魅了する、あの圧倒的なまでの『存在感』。

 あの、周囲にいる人間すべての『食欲』を剥き出しにしてしまう旨味を孕んだ『香り』を………!」

 

「ええ。私も肉に関しては誰よりも自信を持っていましたが、あんな肉は見たことがありません。それこそA5ランクの牛肉なんて、足元にも及ばないでしょう」

 

「っ、それほどまでの…………」

 

 えりなと水戸からカムイの料理について聞かされ、新戸は背筋が凍るような思いがした。

 

 今まで何度もカムイの料理を食べてきたが、流石に【人生のフルコース】を謳うだけあって、これまでに食べてきた料理とは次元が違う品だということを思い知らされたのだ。

 

 

「カムイくんは間違いなく、あれだけのインパクトを出す品を特別試合でも出してくるわ。

 それに対抗するには私だけの実力では不足極まりない、だからアナタの力を借りたいのよ。アナタだけじゃない、水戸さんにも協力をお願いしたわ」

 

「み、水戸郁魅にも、ですか?」

「ああ。正直、ワタシなんかの力がどこまで役に立つかは分からないけどな。

 でも、えりな様直々にお願いされちゃあ断るわけにはいかねえだろ」

 

「そんなこと無いわ。今度の課題は『米』、しかしいくら何でも炊いた米をそのまま出すようなことは出来ない。

 どうしたって何らかの具材と合わせることになる。『具材』と『米』の組み合わせなら、『丼』の得意分野でしょう?」

 

「えりな様………はい! 私の知識で良ければ遠慮なくお使いください!!!」

 

 

 かつて水戸はえりなのことを想うあまり暴走して、丼研を潰そうとしたことがある。

 

 えりなが自分専用の調理棟が手狭になって来たのに頭を悩ませていることを知った水戸は、近年目立った功績を出せていない弱小の『丼研』を潰して、新しい調理棟を献上しようとしたのだ。

 

 結局その目論見は偶然居合わせた幸平によって阻止され、えりなは迷惑を掛けたお詫びに『丼研』の部費を増額。

 さらに水戸が自ら『丼研』に入部し、部のために尽力することで、この件は手打ちとなった。

 

 ちなみにえりなの調理棟の問題については、少し離れているが使われていない古い調理棟を建て直すことで解決した。

 

 

「ありがとう、水戸さん。それで緋沙子、アナタの力も貸してほしいのだけれど、どうかしら?」

「で、ですが、私の力など……………」

 

「そんなことないわ。アナタの『薬膳』と『東洋医学』の知識は私にも無い立派な武器よ。

 それに、アナタは私と同じくらいカムイくんの料理を食べている。だから、アナタの持つ知識と経験は必ず役に立つはずだわ」

 

「っ~~~~~~!」

 

 新戸も本心ではすぐに二つ返事で答えたかった。

 

 ここまで主が自分のことを必要としてくれているのだ。従者冥利に尽きる想いだし、全身全霊で力を添えるのは従者として当然だろう。

 

 

「………お気持ちは非常に嬉しいです。ですが、約束を守れなかった私は、やはり貴方様に相応しくは「あ~~~~っ、もう! グダグダとウルセーな!!!」っ、水戸!?」

 

 しかし自ら約束をしておきながら、その約束を果たせなかった新戸はどうしても踏ん切りがつかない。

 そんな新戸を見て焦れったく思った水戸が、我慢の限界と言わばかりに突っかかってきた。

 

 

「さっきから聞いてればウジウジウジウジウジと。お前はナメクジか!

 えりな様がここまでお願いしてるのに断るとか、お前いったい何様のつもりだよ!!!」

 

「っ…………………」

 

「だいたい『約束を果たせなかったから相応しくない』ってお前は言うけどなぁ。

 そのえりな様がわざわざ『約束を果たそう』と、こうしてお前のところまでお願いしに来たんだぞ!

 それなのにお前は自分のことばっかり。お前それでもえりな様の秘書かよ!!!」

 

「み、水戸さん!? それは内緒だって言ったじゃない///////////////」

 

「あっ、す、すみません。つい…………」

 

 

 水戸が話しているのを慌てて止めに入るえりな。

 

 水戸の言う通り、えりなは新戸と交わした『一緒にカムイに挑もう』という約束を、新戸に自分の料理を協力してもらう形で果たそうとしているのだ。

 

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているえりなを見て、新戸はえりながここに来た本当の理由を悟った。

 

 

(っ…………私は、何をやっているのだ。主であるえりな様がここまで私のことを気に掛けてくださっているというのに。

 頭では自分のことばかり考えて、それでいて口から出てくるのは言い訳ばかり…………これでは貞塚ナオと同じじゃないか)

 

 

 えりなの想いを知った新戸は水戸が言うように、自分のことしか考えていなかったばかりか、言い訳に主を使っていたことに気づいた。

 

 貞塚と同様に自分のことだけ考える己を戒め、今一度自分の『原典』に立ち返る。

 

(思い出せ! 自分の料理は何のためにあったのかを!! それを果たせないことに比べれば、あらゆる恥など恐れるに足らない!!!)

 

 新戸が『薬膳』と『東洋医学』を修めたのは、ひとえに『えりなを支えるため』であった。

 幼少の頃より多忙を極めていたえりなの負担を少しでも軽くしてあげたいと思い、寝る間を惜しんで必死で学んできたのだ。

 

 新戸は自身の料理人人生を主を支えるために費やしてきた。そして今、主がこうして自分の『料理』を必要としている…………ならばどうして断ることなど出来ようか!

 

 新戸は袖でゴシゴシと涙を拭うと、改めて自分からえりなへ頼み込む。

 

 

「えりな様、申し訳ありません! この新戸緋沙子、敗北した身ではございますが、全身全霊でえりな様を支えたく存じます。どうか私の持つ知識と経験をお役立てください!!!」

 

 葉山と同じく、新戸は『意地』と『誇り』を履き違えることを止めた。

 本当に守るべきは『意地』などではないのだと悟り、自分の『誇り』を守るために自らえりなに頭を下げたのだった。

 

 

「っ、ええ、よろしくね緋沙子♪」

 

「はい! 水戸もありがとう、おかげで目が覚めた」

「え? あ、いや、別に//////////////」

 

 自分の従者が戻って来てくれたことにえりなは喜び、新戸は大切なことに気づかせてくれた水戸へお礼を言った。

 しかし水戸は仮にもえりなの従者相手に言いたい放題言った手前、面と向かって礼を言われたことに顔を赤らめてしまう。

 

 

 

「そうと決まれば、さっそく試作よ。時間は限られているのだから!」

 

「はい! しかし、改めて考えると難しい課題ですね」

「ああ。『米』なんて煮るにしても炊くにしても、他の食材と組み合わせることが前提の食材だからな」

 

 葉山が幸平と黒木場の力を借りるように、えりなは新戸と水戸の三人がかりでカムイに挑むことが決定した。

 しかしカムイと相対するよりも先に、課題である『米』と向き合わなければならない。

 

 

 水戸の言う通り、今回の課題で難しいところが『そこ』なのだ。肉や魚のように、『米』はソレ単体では成立しない食材。

 古今東西、どんな米料理も他の具材や調味料と合わせて食べられている。

 

 逆に言えばどんな調理法にも合わせられる反面、『これが米の味だ!』と言わせられるほどの調理法が無い。

 それだけに『米の味』を十分に味わえる料理というのが難しいのだ。

 

 

「そうね。分かりやすい例で言えば、『豆腐』のようなものかしら。

 『豆腐』自体は何の臭みも無いのに、醤油や薬味をつけて『豆腐そのもの』の味を膨らませないと美味しくは感じられない」

 

「つまり『豆腐』同様、何らかの形で『米の味』を如何に膨らませられるかが、この課題のポイントになるのですね」

 

「でもそれは前提条件だろ? 相手は『あの』カムイだぜ? アイツなら間違いなく『米の味』を膨らませるだけじゃなく、何倍にも高めてくるに違いねえ」

 

「ええ、彼の料理は常に『食材が調理前よりも存在感を出している』と思える料理ばかり。

 今度の試合で出してくる料理も、きっと『米』という存在がありありと皿の中で輝いているに違いないわ」

 

「確かに。問題は山積みですね」

「しかも時間はあと1週間しかないって…………」

 

 

 課題である『米』を十二分に活かし、かつカムイに対抗できる料理。さらにはそんな料理を1週間で作り出さなくてはならない。

 どう考えても無理難題過ぎるテーマに、先ほどまでの感動的な空気は吹き飛んでしまった。

 

 しかし相手は【神域の料理人】と呼ばれる世界最高峰の料理人、むしろこの程度の難題をクリアできなければ挑む資格すらない。

 

 そう考えたえりなは、気持ちを切り替えて二人をまとめあげる。

 

 

「とにかく、今は出来ることから始めましょう。緋沙子はこの時期に取れる米を総ざらいしてちょうだい。

 水戸さんは私と一緒に世界中の『米料理』の資料を集めましょう。あと『丼研』にあるレシピも全部持ってきてくれるかしら?」

 

「はい!!!」

「お任せください!!!」

 

 えりなは食材や調理法について今日中に集められるだけの情報を集め、明日以降はひたすらに試作をするという方針を取る。

 

 しかしそれでも『1週間』という期限は短すぎるため、どこまでやれるかは不明だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を呼んだのは、『お前』か」

 

 

 一方のカムイはというと、『食運』に導かれるまま日本各地を渡り歩き……………『とある食材』たちを手に入れていた。

 

 

 






本作オリジナル展開、『特別試合』の課題は【米】に決まりました。

課題を【米】にしたのは、秋が新米の季節であることと…………後は『カムイのため』、ですかね。

そのせいで三人が作る【米料理】を何にするか、メチャクチャ悩みましたwww

ちなみに幸平の身体が光った件について周りは驚きはしましたが、わりと受け入れています。
ホラ、美味いモノを食べると服が弾け飛ぶ世界ですのでwww

それでは皆さん、次回で♪
感想・高評価もいただけると作者が喜び、励みになります!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。