神域の料理人が往く食戟のソーマ   作:あさやん&あさやん

38 / 41


今話の後半から特別試合開幕です。ただやっぱりと言うべきか、三人分の料理を書いたせいで三話構成になってしまいました。




第三十七皿

 

 

 

「出来たぜ! ゆきひら特製【豆腐チャーハン】だ!!!」

「おらぁ! 【オマールエビとムール貝のパエリア】だぁ!!!」

「俺は【地鶏モモ肉のドライカレー】を作ってみた」

 

 

 

 特別試合の課題である『米』を活かす料理を模索し、ひとまずそれぞれで思いつく料理を作ることにした幸平・黒木場・葉山の三人。

 

 

「細かく切った豆腐を揚げることで外はカリッと、中はフワフワな『クルトン』。コイツが和風出汁で味付けしたチャーハンによく合うんだよ♪

 米は新米なんで炊く時に水を少なめにして、代わりに米油を混ぜたから、チャーハン向けの米になってるぜ!」

 

「魚介の濃厚なスープを吸収した米の味の爆発力、とくと味わいやがれ!」

 

「スパイス油に漬け込んだ鶏モモ肉を米と一緒に渋味のあるスパイスを効かせて炊いたことで、『渋味』と『鶏の旨味』が米の甘さを引き立たせているはずだ」

 

 試作とは言え、各々が渾身の一皿を出し試食する…………しかし結果は芳しくなかった。

 

 

「う~~ん、悪くはねえんだけどなぁ」

「これが『米の味か?』って聞かれると」

「どれも『米の味』と言うより、『具材』や『調味料』の味がメインだよな」

 

 

 どれも美味なる品であることには変わりないのだが、チャーハンは『調味料』、パエリアは『具材』、ドライカレーは『スパイス』と米よりも主張している要素が多く、どの品も『米』が主役とは言い難い。

 

 普通の『米料理』勝負であれば、『コレ』でも良かったかもしれない。

 しかし今回戦うのは【神の舌 薙切えりな】と【神域の料理人 カムイ】なのだ。

 

 あの二人と戦うのであれば、単に美味しい料理では役不足。そのため三人とも『どうすれば米の味を最大限引き出せるか』という点で頭を悩ませていた。

 

 

「やっぱり『米料理』ってなると、どうしても『具材』や『調味料』の味が前面に出ちまうよな~~~」

 

「そもそも『米』を主食として扱っている国は少ない。ヨーロッパでは『付け合わせ』という立ち位置だしな」

 

「かと言って、炊いた米をそのまま出すんじゃ『料理』とは呼べねえだろ」

 

 一般的な『米料理』では『米』の上に旨味を重ねていくため、どうしても『米の味』というのをストレートに感じにくい。

 しかし何も合わせなければ、それはそれで『米の味』が引き立たなくなる。

 

 黒木場が言うように、『米』とは本来『副食材』的な立ち位置であるため、メインに据えるには難しい食材なのだ。

 

 日本でも『米』を食べる場合は、必ず他の食材と合わせて食べられている。

 米が主食の日本人でも、炊いた米だけを好んで食べる者は少数派だろう。

 

 

「『米』の上に旨味を重ねていくのはダメだ。下味………旨味や風味を土台にして、その上に『米』が来るようにしないと『米が主役』とは言えない」

 

「カムイがやってた手法だな。確か『マジックスパイスウォーター』だったか」

 

「ああ、だがそれだけじゃ足りない。『米』の旨味を引き立てられる起爆剤のような『ナニカ』が必要だ」

 

「言わば『米』と合わせることで『米の真価』を発揮させられるような食材、か」

 

「ってことは、『ごはんのお供』みたいな感じか?」

 

「…………まぁ、有り体に言えばな」

 

 話を続けていくうちに、手の込んだ料理は作れないと悟り始める三人。

 しかし何も加えなければ、『米の真の旨味』を引き出すことは出来ないと考え、またもや思考は袋小路に入ってしまった。

 

 

 

「…………『米』の味、『米』を主役として輝かせられる料理。なら、俺が使った【炊き込みご飯】よりも…………」

 

「? 幸平?」

 

 米を前に三人があれこれ考えを巡らせていると、何やら幸平が呟き始めた。

 三人の中で一番陽気な幸平が、米を見ながらブツブツと言っている姿に葉山も訝し気に見てしまう。

 

 

「なぁ葉山ぁ、ちょっと聞いてほしいんだけどよぉ」

 

 

 『食材の声』を聞いた幸平が提案すると葉山は意外に思うが、すぐに『あること』を閃く。

 

 

 そこからは食材を厳選していき、調理法も決めることで料理の完成形を固めていくのであった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 葉山が『米料理』の取っ掛かりを掴んだ頃、えりな・新戸・水戸の三人も試作の段階で躓いていた。

 

 

 

「ダメね。やっぱり味の基盤は『具材』や『調味料』になっているわ」

 

「ええ。味付けも出来る限り薄味にはしているのですが」

 

「それでも『米の味』が料理の中心にあるとは言えないですね」

 

 葉山同様、えりなもまた『具材』や『調味料』の味が前に出てきてしまい、『米の味』が隠れてしまっていることに頭を悩ませている。

 

 

「やはり難しい食材ですね。えりな様の『神の舌』を持ってしても、『米の味』を強く前に押し出すことが出来ないなんて」

 

「米の粒を揃えて、炊飯器ではなく『羽釜』を使って米の甘さも引き出した。

 それでも『具材』や『調味料』と合わせると、どうしても『米』の味が隠れちまうんだよな」

 

「情けないわ。日本人でありながら、主食である『米』の味も分からないなんてね」

 

 『中華粥』『チャーハン』『ピラフ』『生春巻き』『リゾット』などの有名どころから、『おにぎり』や『寿司』と言った日本の伝統食。

 果てはドイツの『ミルヒライス』など、米を使ったデザートにまで手を伸ばして作った。

 

 流石に『神の舌』を駆使していることで美味なる皿とはなっているものの、そのどれもが『米が主役』とは言えず納得の行く料理にならない。

 

 普段から食べ慣れているだけに、いざ『米の味とは何なのか?』と言われると答えられない三人は、徐々に考えが煮詰まり始めていく。

 

 とうとう炊飯ジャーのように頭から湯気が出そうになっていると、水戸が差し入れがてらに持ってきたお菓子類をカバンから取り出した。

 

 

「えっと、とりあえず休憩を入れませんか? ずっと試作ばかりしてましたし」

 

「………そうね。あまり根を詰めすぎるのも良くないわね」

 

「では私、お茶を煎れてきます!」

 

 水戸に促されて休憩を入れる三人。新戸が煎れてくれたお茶を飲みながら、水戸が持ってきたお菓子を摘まみ一息入れる。

 えりなは普段から『駄菓子』というものに触れてこなかったため、一つ一つ取っては興味深そうに見ていた。

 

 

「へえ、最近のお菓子というのは随分と種類が豊富なのね」

 

「しかしクッキーに饅頭にチョコボール、その他etc。和洋折衷でずいぶんとジャンルが統一されてないな」

 

「し、仕方ないだろ。えりな様の好みなんて知らないから、手当たり次第に持ってきちまったんだよ!」

 

「気にしないで水戸さん。気を遣わせてしまってごめんなさいね…………って、あら?」

 

 えりなはお茶を飲みながら水戸の不器用な気遣いにお礼を言うと、『あるお菓子』に目が止まる。

 お菓子をジッと見つめるえりなを見て、新戸も水戸も思わず首を傾げてしまった。

 

「えりな様、どうかされましたか?」

 

「や、やっぱり、このような庶民向けのお菓子はえりな様のお口には「水戸さん」っ、は、はい!!!」

 

 二人は動きを止めたえりなを心配し、水戸にいたっては『何か気分を害したのかもしれない』と声が上ずっていた。

 

 しかしえりなは水戸の話を遮ると、何かを閃いたかのように笑みを浮かべる。

 

 

「…………ありがとう、貴方のおかげで最高の『米料理』が出来そうだわ」

 

 菓子を持ったまま自信満々なえりなを見て、新戸と水戸はますます疑問符が出てしまう。

 

 だがえりなの閃きから料理の構想が固まったことで、これまでの遅れを取り戻すように試作を進めていく三人。

 

 

 

 こうして葉山とえりなは、意外なところから課題の突破口を見いだし、協力者たちと共に着々と特別試合用の料理を試作していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決まるかもしれないな、フルコースの一皿が………」

 

 

 一方その頃カムイはと言うと、日本中を周って手に入れた食材たちを見て、自分のフルコースの中の一品が決まることを予感していた。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 三者三様にそれぞれの考えで出来ることに尽力していき、気づけば日が経つのも早く1週間が経過。とうとう特別試合の日を迎えた!

 

 

 

『お集まりの皆さま、お待たせいたしました。これより【秋の選抜 特別試合】を開始いたします!』

 

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

 

 司会者の言葉で観客は大盛り上がり、生徒のみならず招待客やVIP客まで期待に胸を躍らせている。

 決勝から引き続き審査員を務める仙左衛門・宗衞・堂島も、若き才能同士がぶつかり合う瞬間を心待ちにしていた。

 

 試合会場である『月天の間』は今日も満員御礼、どんな料理が出てくるのかを今か今かと待ちわびている。

 

 

『それでは、栄えある特別試合の出場選手を紹介いたします! まずは、葉山アキラ選手!

 その常人離れした嗅覚を武器にスパイスを巧みに操って選抜戦を優勝、見事に特別試合の出場権を獲得しました。

 果たしてその絶対的嗅覚は、【神の舌】と【神域の料理人】にどこまで通用するのでしょうか!?』

 

 スポットライトを浴びながら最初に出てきたのは、葉山だった。

 

 己の嗅覚に絶対的な自信を持ち、表面上はクールを装っているが、その内面は闘志という名の炎が猛々しく燃え盛っていた。

 

 

『続いては「神の舌」を持つ選ばれし者、我らが薙切えりな選手!

 私たちと同じ一年生でありながら既に十傑入りをしていることから、その実力の高さは自他共に認めるもの。

 今日はその「神の舌」で、どのような美食を生み出してくれるのでしょうか!!!』

 

 次に会場に入ってきたのはえりなだった。

 

 普段は余裕を持って優雅な振る舞いを絶やさない令嬢と言った雰囲気だが、今は『一人の料理人』として気丈かつ揺るぎないアイデンティティを持って歩いている。

 

 

『そして最後はモチロンこの人! 遠月史上初にして、最高の料理人である称号「番外席次 第零席」を持つ【神域の料理人】!!

 見せてもらいましょう、私たちの想像を超える神域の一皿を!! カムイ選手の登場です!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、あれ? カムイ選手? カムイ選手ーーーーーーーー!?』

 

 

 

 カムイの姿が見えた瞬間に大歓声を上げる準備をしていた観客たち。だが司会者がいくら呼んでも現れないことで、面を食らってしまった。

 

 これには観客だけではなく、審査員である仙左衛門・宗衞・堂島や選手の葉山・えりなも動揺を隠せないでいる。

 

 

「むう…………」

「ち、父上…………」

「これは…………」

 

「おいおいおい、まさかカムイのヤツ…………!」

「カ、カムイくん、もしかして…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「試合を放棄するつもりか(なの)!?」」」」」

 

 

 

 一向に姿を現さないカムイに、会場にいる全員の頭にはまさかまさかの可能性がよぎってしまう!

 

 思えば選抜の決勝戦に姿を見せたのも、特別試合について確認するためではなく、幸平に料理を渡すためであった。

 自然な流れでカムイが特別試合に出場するものとばかり思い込んでいたが、カムイは一言も『出場する』とは言っていない。

 

 あまりにも予想外過ぎる展開に観客たちもザワつきだした。

 

 

「まさかカムイめ、本当に試合を放棄するつもりなのか!?」

「ですが父上! 先日の彼の様子を見る限り、試合には出る様子でした!」

「しかし、カムイは気まぐれな部分があるからな。心変わりしたのかもしれん」

 

「じ、冗談じゃねえぞ!? ここまで来てカムイが居ないとか、何のために勝ち上がってきたんだよ!!!」

 

 ついには観客だけではなく、審査員や選手たちまで騒ぎ出す。ここにいる全員『カムイの料理』を見に来たと言っても過言ではない。

 

 それなのにカムイ抜きで特別試合をやろうものなら、試合が成立しないどころか『阿修羅展』を『阿修羅像』抜きで開催するようなもの!

 

 世界的に有名なアーティストのライブ、超高額のプレミアチケットを苦労して手に入れたのに、当のアーティストがドタキャン…………観客たちが暴動を起こすこと請け合いである!

 

 

「ひ、緋沙子!? GPSですぐにカムイくんの位置を割り出して!! 急いで!!!」

「は、はい!!!」

 

 このままでは会場が大惨事になりかねないと危惧したえりなは、すぐに新戸へカムイの現在地を調べるよう指示を出す。

 

 えりなに言われて急ぎGPSを起動した新戸だったが、カムイの居場所を見て驚いた。

 

 

「っ、こ、これは!!!」

「どうなの緋沙子!? カムイくんの居場所は分かった!?」

 

「は、はい! カムイの座標ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この会場です!!!」

 

 

 

 新戸に言われ、えりなだけではなく審査員と葉山も驚愕する。その反面、カムイが既に会場に来ていると分かり最悪のケースだけは避けられたと少しだけ胸を撫で下ろした。

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ………………

 

 

 

 突如会場に響き渡る奇妙な音。音は徐々に大きくなっていき、やがて会場には大きな器材が運ばれてきた。

 

 そしてその器材を運んでいるのが…………カムイだった。

 

 

「カ、カムイくん!? ようやく来たのね! でもその機械は…………?」

 

「『ガストロバック(減圧調理器)』だな。それも最新式の」

 

 意外を通り越して珍妙極まりない登場の仕方をしたカムイを見て、観客たちが呆気に取られてしまう。

 

 一同は待望の人物が来たことに安心するも、カムイが台車で運んでいる機械を見て今度は怪訝な表情となってしまった。

 

 

 

「そう、兄さんに頼まれて私が用意したのよ♪」

 

「ッ、アリス!? どうしてアナタがここに!?」

 

 えりなが最新式の『減圧調理器』をどこから持ってきたのか不思議に思っていると、アリスが機械の影から出てきた。

 最新の調理器械と言えばアリスの代名詞のため、納得は出来るが、逆に今度は何故『減圧調理器』なのかで疑問符が浮かぶ。

 

「だから言ってるじゃない。『試合で使うから貸してほしい』って兄さんに頼まれたのよ」

 

「そ、そうだったのね…………もう、カムイくん! 遅れるなら遅れるって連絡してよ!! このまま来ないんじゃないかと思って本気で心配したじゃない!!!」

 

 特別試合に必要な機材を取りに行っていたということで、遅れた理由については納得する面々。

 しかしえりなは、またしても連絡をしなかったカムイを叱りつける。

 

 ところが、そんなえりなの捲し立てを前にしてもカムイは首を傾げるだけだった。

 

 

「? 連絡なら、行っているはず」

「え、どういうこと?」

 

「アリスが、『連絡しておくから大丈夫』と、言っていた」

 

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テヘ♪ 忘れちゃった♪」

 

 

「アリスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

 いつかの再現のようにペロっと舌を出して悪びれないアリス。そして同じくいつかのように、えりなが火を噴きそうなほどの怒りをアリスへと向ける。

 

 事情が分かって、審査員も葉山も深い溜息を吐いていた。

 

 

「一度ならず二度までも、いい加減にしなさいよ!!!」

 

「何よう! 仕方ないじゃない、忘れちゃってたんだから!!!」

「ウソおっしゃい! そう何度も忘れられて堪るもんですか!!!」

 

「そんなことないわよ! 兄さんに頼られて嬉しかったから、つい忘れてただけよ!!!」

「どう考えても、そっちが本音でしょう!!!」

 

 そこからはアリスとえりなで口論に発展。アリスはともかく、えりなはこれから特別試合を行うというのに余計な体力を消費していた。

 

 

 

「え〜〜〜〜、オホン! それではこれより葉山アキラ・薙切えりな・カムイの三名による特別試合を開始する!!!」

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!

 

 

 えりなとアリスの言い争いを中断させ、仙左衛門が強引に仕切り直す。観客たちも空気を呼んで気持ちを切り替え、カムイの遅刻に関しては忘却の彼方へと追いやり、改めて盛り上がりを見せた。

 

 

「課題は『米』、制限時間は決勝戦同様に上空の月が天井から姿を消すまで。それでは調理、開始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 

 仙左衛門の宣言と同時に葉山・えりな・カムイの三人が調理を開始する。

 調理台には各々がこの試合のために厳選した食材が並べられていく。

 

 だがカムイが用意した食材を見て、観客たちはいきなり度肝を抜かれた思いだった。

 

 

「なぁ、おい。アレってさ」

「ああ、見間違いじゃなければ」

「やっぱり、そうだよね」

 

 1人が呟いたのを皮切りに、周りがどんどん騒がしくなっていく…………観客たちが困惑するのも無理はない。

 

 カムイが用意した食材は『米』だけではなく、今が旬の『戻りカツオ』や『じゃがいも』『新そばの実』に加え、『松茸』をはじめとする数多くのキノコ類が取り揃えられていたのだ!

 

 いずれも『新米』に並ぶぐらい今が盛りの食材たち、過去にも【秋の選抜戦】の決勝戦で課題食材に選ばれたこともある。

 『米』とは違い、立派にメインとして成立させられるだけの旨味がある食材たちばかりなのだ。

 

 しかも全ての食材が見るからに輝く様は、紛れもなく『最高品質』であり、このままでは主役が乱立する舞台のような纏まりのない料理になりかねない。

 

 観客は困惑しており、えりなと葉山も調理の手を止めて頭に疑問符が立ち並ぶ…………だがこれまでの経験値の賜物か、二人ともすぐに気持ちを切り替えた。

 

 

(っ、落ち着いて。そう、落ち着くのよ。確かにカムイくんの意図は読めない。

 でもカムイくんが何をやろうと関係ない! しっかりしなさい、えりな!! 自分の料理に集中するのよ!!!)

 

(どれだけ美味い食材を用意しようが、『米料理』として優れてなきゃ意味がない。

 ましてやあれだけ強い旨味を持つ食材ばかりなら、なおさら味の調整は難しいはず! まだ勝負は始まったばかりだ!!!)

 

 

 そう、二人の言う通り今回の課題は『米』。カムイが何を考えていたとしても、旬の食材の中で最高品質ばかり揃えるだけでは『米料理』と直接関係が無い。

 

 不意を突かれた感は否めないが、それでも二人は周りの声やカムイに気を取られるのを止めて、自分の料理に専念することにした。

 

 

 

 えりなと葉山が気を取り直したところで、改めて調理がスタートする。

 

 三人とも米は精米済み、米粒も均一に揃えるという基本を欠かしていない。そしてえりなと葉山は米に吸水させている間に具となる食材の調理に取り掛かった。

 

 

 えりなは捌いた『スッポンの肉』を叩き、ニンジン・ゴボウ・白菜・ピーマン・パプリカなどの野菜を千切りにしていく。

 葉山は山菜の他に、アンチョビやオキアミ(極小サイズのエビ)の塩漬けなど魚介の加工食品を刻んでいく。

 

 やがて具材の調理も終わり、今度は米の調理に入る。えりなは炊いた米をフライパンの上で粒が軽く残るくらい荒く潰し、丁寧に伸ばしながら固焼きにしていく。

 

 焼き終わった米を今度は軽く乾燥させると、ボール状に形成し大きめサイズのカップごと包み込んで皿に乗せる。

 そこから刷毛で『米油』を塗ってオーブンで焼いていくのだが、『優しく刷毛で塗ってはオーブンで再度焼く』という工程を何度も何度も繰り返していた。

 

 

 一方の葉山は東南アジアの『長粒種米』を使っているらしく、米を『炊く』というよりも鍋で煮ていた。

 

 『長粒種米』は通常の炊飯器では炊くことは出来ないため、鍋で煮てから吹きこぼれる前に煮汁を捨てるという手間が必要となる。

 

 葉山も例に漏れず、煮汁を捨てた後にブイヨンで本炊きをしたのだが、ここで調理していた山菜や魚介類、そして別で作っておいた『スープ』を加えて蓋をして蒸し始める。

 

 

「ふむ。えりなと葉山アキラの料理、完成形が見えてきたな」

 

「ええ。まず葉山アキラの料理は【ビリヤーニ】の亜種。しかも通常は『炊き込みご飯』風ですが、あれは『混ぜご飯』に近い」

 

 【ビリヤーニ】、インドやその周辺国で食べられているスパイスと肉の炊き込みご飯である。

 

 その味わいたるや『パエリア』『松茸ご飯』と並び、【世界三大炊き込みご飯】の一つと称されているほどだ。

 

 東南アジアではイスラム教徒の結婚式でお祝いの食事として出されているだけでなく、屋台でも日常的に食べることができ、まさに国民食として愛されていると言えるだろう。

 

 日本では『インドの炊き込みごはん』と紹介されることもあるが、実際には米や肉・スパイスを層にして蒸し上げるという非常に手の込んだ作り方が特徴なため、その分スパイスの独特な香りが魅力な料理である。

 

 

「一方、薙切えりなは中国料理の『鍋巴 グオバー』を洋風にアレンジしていますな」

 

 【鍋巴 グオバー】、別名『中華風おこげ』とも呼ばれ、鍋から掻き取ったお焦げをそのまま使った料理である。

 

 現代では米飯を乾燥させたものを使用しており、揚げたおこげにニンジン・白菜・ピーマンなどの野菜や海老・豚肉などの入った『あん』をかけ、サクサクとした歯ごたえと香ばしい味わいを楽しむのが特徴。

 

 特に『あん』をかける瞬間がこの料理の醍醐味であり、派手な音と立ち上る香りをアピールするため、本場中国の料理店では客の目の前の卓上でパフォーマンスとして見せるのは定番となっている。

 

 

 水戸が持ってきてくれた駄菓子にあった『せんべい』から【鍋巴 グオバー】を思いついたえりなは、新戸と水戸の二人と一緒に自分たちなりの【鍋巴 グオバー】を作り上げた。

 

 ただ、通常は皿の上に盛った状態で提供される【鍋巴 グオバー】。

 

 しかしえりなは大口のカップを丸ごと包む形でドーム状に形成しており、一見すると『米で出来た球体』が皿の上に盛られているだけに見えてしまう。

 

 

「二人とも課題である『米の魅力』を活かそうとしているのは見て取れる。だが問題は」

 

「カムイくんの料理、ですね」

 

「旬の食材のオンパレードには驚かされましたが、調理自体は特に変わったことはしていませんね」

 

 審査員たちが首を傾げるのも無理はない。他二人に比べてカムイの調理は平凡、大舞台で披露する料理としてはあまりにも普通過ぎるのだ。

 

 

 まず米は『二種類』用意して軽く洗い、片方の米には熱湯に浸し、もう片方の米は冷水にて通常どおりに吸水。

 

 『じゃがいも』は擦り下ろし、『戻りカツオ』は肉が透けて見えるくらいに薄く切り、カツオのアラは熱湯をかけて霜降りにし臭みを取る。

 キノコ類も軽く冷水で洗ってから、『シイタケ』『松茸』は細かく刻み、『本シメジ』『マイタケ』は一口サイズに切っておく。

 

 『擦り下ろしたジャガイモ』・『薄切りにしたカツオの身』・『霜降りにしたカツオのアラ』・『刻んだシイタケ&松茸』をそれぞれ別々に煮て出汁を取る。

 

 『新そばの実』は外殻部分を取ったら『米油』で軽く揚げ、『二種類の米』や一口サイズにカットしたキノコと一緒に四種の出汁を加えて、『減圧調理器』で加熱。

 

 その後は、米油に調味料を合わせて『ドレッシング』のようなものを作っている。

 

 複雑な調理工程が無い分、観客たちも些か拍子抜けをくらった感は否めない。

 しかしカムイは相変わらず、そんな周りの視線など気に留めることなく黙々と調理を進めていく。

 

 

 えりなや葉山が汗をかきながら必死に調理をしているのに対し、カムイの調理姿はあまりにも静か………それが逆に不気味さを漂わせていた。

 

 

 

 

『終ーーーーーー了ーーーーー!!! 三名とも、手を止めてください! これより実食に移ります!!!』

 

 

 そんな異様な空気の中でも時間だけは過ぎていき、空に見えていた月が見えなくなったところで調理時間は終了。司会者の声に反応し、三人は盛り付けに入り料理を完成させた。

 

 

 






当初の案では『ベニテングタケ』の毒成分を『チーズ白菜』の菌を使って体内で無毒化………と考えてたんですが、さすがに危険な気がしたので止めました。

ちなみに作者は若気の至りで、昔ベニテングタケを食べて病院に数日入院したというアホな過去がありますwww

それでは皆さん、次回で♪
感想・高評価もいただけると作者が喜び、励みになります!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。