今話では具体的な料理の描写はありません。ホントはもっと長かったんですが、区切りの良いところで分けたら、こうなってしまいましたwww
カムイが『SHINO’S TOKYO』にてスタジエールをしている頃、他の生徒たちは二件目の店にスタジエールとして赴いていた。
無論、一件目の店で大半が退学を言い渡されており、何とか生き残った生徒たちも、二件目の店はより厳しい条件下でのスタジエールが求められている。
その中で幸平は一件目の店でのスタジエールを順調にこなしていったのだが…………二件目のスタジエール先にて苦戦を強いられていた。
「幸平! 四番卓、コースの前菜の下処理! 二番卓の食材も出しておけ!!!」
「うっすっ!!」
「幸平、三番卓の魚料理、出すぞ! 九番卓、メインの食材の下処理!
その後は五番卓の前菜、八番卓は肉料理、一番卓の魚料理の下処理だ! それから、オリーブオイルが尽きたから倉庫行って補充してこい!!」
「了解っす!」
幸平の二件目のスタジエール先は、なんと【遠月リゾート】! 以前は宿泊研修として訪れたことがあったが、今回は『スタジエール』として働くこととなったのだ。
幸平がスタジエールとして勤めるのは【遠月リゾート】各所にあるレストラン。
和食・洋食・中華・フランス・イタリアはもちろん、インドやタイなどのエスニック料理といった様々な専門店が本格的な料理を提供している。
また、予約客限定でテーブルごとに専門の料理人が付く店もあるのだが、幸平が今回スタジエールを行うのは一般の宿泊客なら誰でも利用可能なタイプのレストラン。
しかし幸平の研修は『どこか決まった店での研修』ではなく、『一日ごとに異なるレストランに赴いてのスタジエール』となっている。
そのため店ごと、つまりは国ごとの専門的な調理スキルが日ごとに求められるのだ。
当然ながら『料理』というのは、国ごとに特色があり体系化していて、食材の切り方や火の通し方一つとっても国ごとに異なる。
例えば日本料理なら生の食材にはなるべく手をかけず、素材の持ち味を素直に引き出すのが身上。
中国料理であれば、『油』を使って旨味を引き出した食材と調味料を高火力の熱で旨味を爆発させた味わいが基本。
フランスでは手間を惜しまず作った『ソース』と発酵・熟成・燻製など可能な限り食材に人の手を加えて、素材の旨味を何段階にも高めた『食材』を合わせた重層的な料理が主流。
このように食材へのアプローチは国ごとに異なるため、一つの国の調理スキルを身につけるだけでも相応の年月が必要となる。
けれど幸平のスタジエールはソレを毎日別々の店で理解し、駆使しなければならないという過酷極まる課題。
しかも幸平は定食屋出身なため、国ごとの調理スキルなど知識としてもほとんど持ち合わせていない。
一応、遠月学園の授業の中でそれなりに覚えてはいるものの、所詮はにわか仕込み。
専門的な知識と技術を日々変わり続ける形で、プロの現場で求められる毎日。
まともな学生……いや、料理人なら頭がパンクして精神を病んでしまうだろう。
しかし幸平はそんな過酷な環境の中で…………笑っていた。
(最高だ、最高の気分だ! 実家の定食屋とも、一件目のスタジエール先とも違う。
毎日違うジャンルの料理に対応しなきゃならねぇし、ホテルは連日ほぼ満室状態だから、どの店でも次から次に客がやってくる!! 一瞬たりとも気が抜けねえ!!!)
幸平の持っている現場経験はそれなりのものだろう。だがこのスタジエールをクリアするには、経験以上に技術と知識を結びつける『柔軟性』と『適応力』が必要なのだ。
遠月学園で学んだ知識も技術も、あくまで『基本』でしかない。
実習でも和食以外のジャンルの料理はレシピ通りであれば、問題なく作れていた。
選抜後の殆どの時間を全て研鑽と勉強に費やし、選抜の時よりも多くの技術と知識を身に付けることも出来てはいる。
だが、それを実践で活用するレベルには至っていない。総じて知識や技術の面で不足している部分がまだまだ多いのだ。
頭に入れておいたレシピとコースメニューの構成を思い出し、幸平は次々に調理を進めていく。
新しい技術、新しい知識、新しい現場、新しい経験。その全てを吸収して幸平は急速に成長していた。
教わった知識、城一郎から学んだ技術、遠月で経験した全てのことが、遠月リゾートという現場で一つに集約されていき、【幸平創真】という料理人を形づくっていく。
(親父やカムイがやっていたこと、今なら理解できる! 親父もカムイもこうやって色んな国の料理や調理技術に触れて、『自分の料理』を築き上げていったんだ!!
料理の奥深さ、その未知の領域を知れることが堪らなく楽しい!!!)
己の成長と未知との出会いに感情が、料理への情熱が心の奥底から歓喜の声をあげていた!
(このスタジエールで色んな国の『料理』をモノにしてやる! その先に親父とアイツが…………カムイがいる!!!)
城一郎とカムイ。幸平にとって身近でありながらも遠い目標たる存在が、幸平をより一層奮起させた。
幸平の知る限り、父親の城一郎は間違いなく最高の料理人である。遠月学園の元『第二席』にして、かつては『世代最強』とまで呼ばれていたのだから、その認識に間違いはない。
そのため幸平は誰よりも身近でありながらも、ずっと城一郎の背中を追いかけてきた…………だが遠月学園に編入し、幸平の考えは音を立てて崩れ去った。
【カムイ】。自分と同じ日に編入し、同学年でありながら、その実力は自分の知る城一郎を超えていたのだ。
城一郎が自分にとって目標であることに変わりはない。
しかし、同年代で城一郎を超える料理人がいたことが信じられない幸平は、今までの自分の価値観が根底から覆るほどショックを受けた。
以来、幸平は城一郎だけではなくカムイも己が超えるべき壁と認識しているばかりか、同年代なだけに強くライバル視している。
(見てろよ親父、カムイ! 絶対に追いついて………いや、追い抜いてやるからな!!!)
そんな二人の存在が、幸平を学園や実家とは全く違う在り方の厨房に必死で食らいつかせた。
それどころか仕事が終われば、スタッフや料理長へ思いついた限りの質問を投げかけてくるほど向上心に富んでいる。
一日毎にどんどん技術を吸収して成長しつづける幸平は、ついに五日目にして、他の料理人となんら遜色ない仕事が出来るようになっていた。
既に幸平の働きぶりは、各レストランの厨房でも十分戦力となるほどの領域にまで到達している。
その姿に店の他のスタッフたちも触発され、幸平が来る日は明らかに調理場の『熱』が違っていた。
向上心が強く吸収力も高い生徒だとは思っていたものの、ここまで急成長を遂げるとは思っていなかったのだろう。
幸平もまた、無意識のうちにスタジエールに求められる『現場から何を奪えるか』という課題だけではなく、『現場に何を与えられるか』という条件までもクリアしていたのであった。
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一方の『SHINO’S TOKYO』は、灼熱とも言える熱気に包まれていた!
カムイの超絶サポートが日に日に苛烈さを増していく厨房にて、アベルたちもまたカムイに呑み込まれないよう必死に足掻いていたのだ。
(クッソッ! 今日もまた調理スピードが上がっている! タイミングも完璧な上に調理も正確だ!!
既に俺たちの仕事のほとんどをモノにしているどころか、四宮さんのレパートリーまで身につけ始めている!
このままだと俺がやることが無くなってしまう…………そんなこと、させてたまるか!!!)
(ハハッ♪ 燃えてきたヨ♪ モットモット熱を入れないとネ!!!)
アベルもリュシもカムイのサポート受け、持てる力を100%引き出せる状態にある。
スー・シェフとはいえ四宮に認められていることから、彼らの実力はプロでも一流に属するものだろう。
そんな二人の実力がカムイのサポートによって引き上げられれば、まさしく『超一流』と呼べるものである。
それこそ他のどんな一流店であっても、活躍できるに違いない。
しかしそんな二人が全身全霊を傾けても、どうにかカムイのサポートに追いついていけている状態であった。
『僅かでも気を抜けば、カムイは一気に自分たちを追い抜いていき、この店での自分の仕事が無くなる』
まるで導火線に迫られているような極限の緊張感の中で、二人は自分の感覚を限界まで研ぎ澄ましながら仕事をしていた。
さらにカムイの凄まじさはサポートに限ったことではなかった。
それはプレオープン三日目の出来事である。
初日、二日目同様に予約客で満席な店内。シェフたちの会心の出来の料理に客たちは舌鼓を鳴らしていた。
カムイは全体のサポート兼『雑用』も担っていたため、下ごしらえの合間を縫っては皿洗いもやっていた。
『皿洗い』と聞けば見習いの仕事というイメージが強いが、厨房における『皿洗い』は【最重要】とも呼べるポジションの一つである。
言わずもがな、客に提供される『料理』は必ず皿に盛られているものの、店に置いておける食器には限りがある。
それに対して客や料理の数と比べれば、食器は必ず不足してしまうのが現実。
そして、清潔な食器が無ければ料理は出せない。ゆえに『皿洗い』は厨房において、【心臓部】に当たる役割なのだ。
カムイも数多の雑務経験から、そのことは骨の髄まで理解しているので、『皿洗い』にだって一切手は抜かない。
「っ!?」
しかしそんな中で、八番卓から返ってきた皿にカムイは違和感を覚えた。
それと言うのも、出された魚料理が『一口』しか食べられていなかったのだ。
何か問題があったのかと思い、余っていた料理を食べるも味はカムイが認識できるほどに完璧。
カムイは四宮を通して、すぐにウェイから客へ事情を確認してもらうよう頼んだ。
「確認しました! 八番卓のお客様、先日体調不全で急遽検査入院をしたらしく、その時お医者様から治療のため一日の『糖質』と『タンパク質』の量を注意するよう言われたそうです!!」
「っ、そうか。四宮さん、八番卓の料理の盛りつけを調整して「待て」っ、カムイ?」
ウェイの話を聞いて、アベルがこれから出すコース料理の量を調整するべきと四宮に進言したところで、なんとカムイが待ったをかけた。
「俺に、考えがある。シェフ四宮、こういうのはどうだろう?」
「…………っ、なるほど。面白い、やってみろ。出来たら俺に持ってこい、確認する」
「ウィ、シェフ」
カムイの提案を聞いて四宮は愉快そうに笑うと許可を出す。そしてカムイが『特別』に作った料理を食べて、迷わずGOサインを出した。
「お待たせしました、肉料理の『うずら肉のクルート』でございます。あと、そちらのお客様には『こちら』をどうぞ♪」
「っ、これは……レンゲ?」
八番卓に出された肉料理だが、件の客へだけは何故か『レンゲ』で提供されていた。
他の客へは通常通り皿に盛られているため、これには当人も首を傾げてしまっている。
「はい。お客様は『一皿』で召し上がることは出来ないとお伺いしましたので、『一口』でご満足いただけるようシェフが特別に御用意いたしました」
「っ、そうでしたか。いやはや、気を使わせてしまい申し訳ない。では、さっそく♪」
ウェイの話を聞いて、店側が『量を少なくしてくれた』と思った客はお礼を言うも、どこか残念そうな表情を浮かべていた。
せっかく美味しい料理を楽しもうと思っていたのに、自分の体調不良のせいで存分に食べられないのだから無理もないだろう。
しかし料理を食べた瞬間、客の口内には弩級の旨味が炸裂! 気落ちした心に感動の衝撃が与えられた!!
「う、美味い!!! なんというシットリとジューシーな肉! パリッとした皮が何重にも巻かれて旨味は濃厚極まりない!
シャキシャキで爽やかなエシャロットの風味も絶妙なアクセントになっている!
極めつけは旨味タップリなソースの『ジュレ』! それらが『一口』にまとまって入ってくるから、たった『一口』でも十分なくらい…………っ、そうか! コレは『そういう』料理なのか!!!」
たった『一口』で一皿分の料理を食べたような満足感を味わった客は、この料理の『意味』を理解した。
通常このような客の場合、店側は『通常よりも少なく盛りつけた料理』を提供するだろう。実際アベルもそうしようとしていた。
しかしカムイはその逆、『量を少なくする分、味を強く感じられる料理』を作った。
つまり『一皿料理を一口サイズ』で提供するのではなく、『一口で満足できる味つけにした料理』を作るべきだと考え、四宮に提案したのだ。
この不意打ちのような店側の嬉しい心遣いに客は大満足。医師からのストップで『食』の楽しみを忘れそうになっていた彼に、再び『食べる喜び』を思い出させてくれた。
「ありがとう四宮シェフ、本当にありがとう! この味、この感動、この心遣い! 私は今日と言う日を生涯忘れませんぞ!!」
「ありがとうございます、またのお越しをお待ちしております。医師の許可が出ましたら、当店自慢の料理を存分にご堪能ください」
以降の料理も彼のために『一口』で満足できるよう、カムイが味を調整した皿を提供。
客は自分のために苦心してくれたことに感動し、帰る間際も四宮を呼んで何度もお礼を伝えていた。
このエピソードが世間に広まり多くのファンが感動、すぐに話題となり『SHINO’S TOKYO』の評価はストップ高。
グランドオープン以降も半年先まで予約でいっぱいになっている状態である。
カムイの『一口で満足できる料理』は四宮だけではなく、アベルたちにとっても衝撃的であった。
思いついてしまえばどうということもないアイディアだが、あの状況下……しかも目まぐるしく忙しい厨房で、あのような最適解を出せるなど信じられなかった。
カムイとしては『食材への感謝』から、作った料理を残されたくないだけだったのだが、他のメンバーの目にはそうは映らなかったようだ。
(カムイ、コイツは単なる天才じゃない。『食材』と『お客様』………【食】という全てに真正面から、そして真摯に取り組んでいなければ、あんな方法は思いつかない!
本当に大したヤツだよ、オマエは………だからこそ負けたくない、負けてたまるか!!!)
(いいねいいねいいね! サイッコーだよカムイ、アンタってヤツは♪ 私も、自分の全てを皿に! 料理に! そしてアンタにぶつけたくなったヨ!!!)
気づくとこの厨房の全員が、カムイの純粋かつ静かなる情熱に引っ張られている状態。
その熱気はオーブンやコンロから出てくる熱など比べものにもならないほどである。
そしてそんなアベルとリュシを見て四宮は…………嬉しそうに笑っていた。
(フッ、いいぞ、コレだ! 俺はこういう状況を求めていたんだ!!
やはり俺の目に狂いは無かった。カムイ、お前は間違いなく俺たち………いや、『俺』に必要な存在だった!!!)
パリの本店で『三ツ星』を取り、ゆくゆくは『ザ・ブック』の対象国全てに店を出店。
そして全ての国で『三ツ星』を取ることを目標とした四宮は、更なる高みを目指すべく自分の『原点』、『ルーツ』を再確認することが必要だと判断し、故郷である日本への出店を決意した。
だが、そんな気炎万丈な四宮の下にカムイがスタジエールとして来た。
四宮は心の中で思わずガッツポーズをした。
自分のスランプを解消するキッカケとなったカムイ、出来ることならもう一度会いたいと思っていた矢先にこのスタジエールである。
『カムイのセンスや技術をモノに出来れば、自分は間違いなく更に上のステージへと上がれる!』
四宮はそう思っていたが…………結果はそれ以上の収穫だった。
カムイのサポートを受けることで、極限まで感覚と集中力が研ぎ澄まされる。
それにより今まで知ることも出来なかった『自分の実力』、より高みへと至った自分を実感できるようになったのだ。
【自分の料理以外存在しない真っ白な世界】、そこは料理人が自分のポテンシャルを100%発揮できる理想の空間。
『もし、この世界へカムイのサポート無しで自由に出入りすることが出来れば!』、そう思うだけで四宮のテンションは天元突破した。
そして四宮の部下たちも同じように『白い世界』へ自由に出入りすることが出来るようになれば、三ツ星どころか世界中の『星』を総ナメにすることが出来るだろう。
また『進化』には『危機感』が必要である。『今のままでは死んでしまう!』という生存本能にも似た危機意識が、四宮たちに料理人として『進化』を促す。
自分の目標に手が届かないまでも、目に見える確かな道のりが見えたのだ。
もはや一瞬たりとも立ち止まってはいられない四宮は、かつてないほどに猛っていた!
カムイの存在が起爆剤どころか、もはや『カンフル剤』と呼べるほどになっている。
それにより覚醒した四宮たちは、カムイからの『ビハインドプレッシャー』に晒されながらもひたすらに調理をこなしていき、とうとうプレオープン最終日を終えようとしていた。
「待て、ウェイ。店はまだ閉めるな」
「え? でも、予約したお客様は今ので最後でしたよね?」
ホール担当のウェイが最後の客を見送り店を閉めようとすると、四宮がストップを掛ける。
ホール責任者でもあるウェイにとって、客の予約数や時間帯を見逃すことはありえないだけに疑問符を浮かべてしまった。
「ああ。特別というか、『俺個人』のゲストが貸し切りで来るんでな」
「っ、そうだったんですね。じゃあテーブルや椅子を整えてきます」
通常の予約客を見落としていたわけではないことに安心したウェイは、四宮の客を迎え入れるべくテーブルや椅子の配置などを整えに行く。
そうして客を迎え入れる準備が出来たところで、五名ほどの団体がやってきた。
「こんばんは~~~♪」
「お邪魔する」
「久しぶりだな、四宮」
「元気そうで何よりデス、四宮サン♪」
「ほう。一見シンプルな内装に見えるが、一級品ばかり揃えているな」
最初に店へ入ってきたのは四宮と同世代の遠月卒業生である乾・水原・阿部・ドナートの四人、そして現遠月学園教諭のシャペルであった。
「よく来たな、お前ら。シャペル先生もお久しぶりです」
同世代の来訪に普段とは全く違う顔を見せて出迎える四宮。
そして恩師であろうシャペルには、流石の四宮でもそれなりの態度を取っている。
そんな四宮の珍しい姿にウェイだけではなく、厨房から出てきたアベルたちも呆気に取られていた。
「あーーーーーーーっ!!! カ、カムイくん!? どうしてココにいるんですか!?」
この店にいるスタッフ全員で乾たちを迎えていると、乾が厨房から出てきたカムイを見て声を張り上げる。
乾だけではなく、水原たちもカムイがコックコートを来て四宮の店にいることに驚いていた。
「スタジエール」
「スタジエール? ああ、確かに遠月学園はそんな時期でしたねぇ…………え? ってことは、今カムイくんはこの店で働いてるんですか?」
「コクン」
カムイが答えると乾も納得したようだが、それも一瞬のこと。
『カムイが四宮の店で働いている』。つまりカムイが店の調理を手伝っていると分かり、乾たちは四宮に食って掛かった。
「ちょっと四宮先輩! ズルいじゃないですか、カムイくんに協力してもらうなんて!!!」
「初の海外出店を成功させるために、そこまでやるなんてね。流石は四宮、卑怯者」
「何を誤解してやがる! カムイがスタジエールとして来たのは学園が決めたことだ!! あと水原、誰が卑怯者だ!!!」
「なら、彼がスタジエールに参加していることを我々に教えてくれてもいいだろう!」
「そうデスヨ! ボクたちの店にも来てほしかったノニ!!!」
「カムイをこの店に連れてきたのは堂島さんだ! 文句ならあの人に言え!!!」
四宮がカムイをスタッフとして店で働かせていることに嫉妬と不満をぶつける乾たち。
普段は近寄りがたい雰囲気の四宮が同じ卒業生相手だとここまで騒がしくなることに、アベルたちは珍しい物を見る目を向けていた。
そうしてブーブー文句を言ってくる四人の相手をしていると、今度は妙齢な女性が入ってきた。
その女性を見るや、四宮は優しい笑みを浮かべながら近づいていく。
「フッ、ようこそ、『マダム』」
「誰が『マダム』ねぇ。もう、『母ちゃん』をからかうじゃなかとよ、小次郎」
初めて見るフレンドリーな四宮にも驚くが、その相手が四宮の母親であることに更に驚く面々。
プライドが高く、唯我独尊を地で行く四宮にも人間らしい一面があった事実に衝撃を受けた。
「つくづくアンタは勝手ばい。何年も実家にカオ出さんでから、いきなり『東京に来い』とか、どげんこつね!」
「悪かったと思っとるけ、こうして招待しとっとよ」
「こげんとこ来るのに慣れとらんけ、こそばいかぁ」
「肩ひじ張らんで楽にせんね♪」
周囲の者が未だに驚いていると、更なる追撃をかけるように今度は故郷独特の訛りで話しだす四宮。
そんな四宮を見て、彼を知る者たちは『目の前の四宮は別人なんじゃないか』と思い始めてすらいた。
「ゴホン! あーーー、ところで四宮くん。実際どうなんだね、カムイくんのスタジエールは。現段階までのキミの評価を聞かせてもらいたい」
卒業生たちやスタッフたちが呆気に取られていると、二人の話が一段落したのを見計らってシャペルが空気を変えようとする。
こうして卒業生にまで気を回すあたり、生徒には恐れられていても教師としては面倒見が良いのかもしれない。
乾たちもカムイの料理人としての実力の高さは知っていたが、スタジエール…………『スタッフとしての実力』はどれほどのなのか気になったため、四宮に目を向ける。
また、アベルたちもカムイの実力は疑いようも無いものだと知っている。
しかし結局は四宮の判断次第となるため、四宮がカムイをどう評価しているか気になっていた。
母親を席へと案内し、乾たち卒業生やアベルたちスタッフの視線が自分に集められると察した四宮だったが、フッと笑いながら答えた。
「最高ですよ。出来ることなら、このままずっとウチで働いてもらいたいぐらいです」
「ほう。スタジエールとしては、これ以上無いほどの評価だな」
「へえ~~~! やっぱり凄いんですね、カムイくんって♪」
「珍しい、あの四宮がここまで素直に褒めるなんて。何か悪いモノでも食べた?「おい」 ツーン」
「しかし、カムイの才能を知ったことで何人もの料理人が現役引退したと聞いているぞ?」
「ソウデスネ。ボクの知り合いの料理人モ、彼の料理を食べて料理人であることを辞めてしまいましたカラネ」
「ああ、そのことなんだがな」
プライドの高い四宮が手放しでカムイを賞賛したことに珍しい物を見る目を向ける乾たちだったが、カムイのサポート能力について話すと今度は空想のおとぎ話を聞いたような表情となった。
「なんと、料理人の実力を100%引き出させるほどのサポート! そんなことが可能だとは………!」
「確かに理屈としては分かりますけど」
「ちょっとにわかには信じられない」
「まぁな。かく言う俺も、実際に体験しなかったら信じなかったと思う。
だがコレは事実だ、この『SHINO’S TOKYO』の調理スタッフ全員が証人だ」
「なるほど。つまり数多の料理人たちが廃業に追い込まれたのは、そのサポート能力に呑み込まれたが故だったということか」
「けれど、そのサポート能力を十全に活かすことが出来レバ、更なる高みへと到達できるんデスネ」
「そうだ。だから『料理人を破滅させる』なんてのは、事情を知らない連中が勝手に言ってるだけであって、カムイには何の非も無えよ。
料理人であることを諦めたのなら、それはカムイのセンスに呑み込まれた方が悪いんだ」
四宮の話を聞いて未だ半信半疑ではあったが、四宮がこんなファンタジー染みたことを言うわけは無いと思い、納得することにした。
アベルたちも傍から四宮の話を聞いて、彼ら自身も自分たちの成長を強く実感できていた。
カムイに自分たちの仕事を奪われないよう必死に己の料理と向き合い、強制的に地力の向上を余儀なくされた一週間。
ただひたすらに己の無駄と向き合い、己の欠点と向き合い、己の未熟さと向き合った毎日。
結果的にカムイのサポートという名の脅威から逃げきることは出来たものの、とても生きた心地がしなかった。
今の彼らは持てる力の100%とまでは言わなくても、80~90%ぐらいまでのポテンシャルを意識的に開放できるだけの集中力とセンスを身につけている。
当然、これだけでも十分『常人離れ』しているため、カムイがいなくなっても今後に対する不安は無いだろう。
「まぁ、論より証拠だ。皆も今日の俺の料理を食えば分かると思うぜ………カムイ」
「?」
「俺のサポートをしろ。アベルたちは手伝わなくていい、乾たちの料理は俺とカムイの二人で作る」
四宮の指示にアベルたちは驚愕する! ただでさえ三人でようやく追いついていったカムイのサポートを、四宮が一人で受けると言うのだ。
言うなれば、豪華客船の操縦を一人で担うようなもの。とても一人で回しきれるものではない。
しかし四宮は全てを承知の上で、カムイと共に厨房へと向かっていった。
「言うまでも無いが、『全力』で来い。もし俺が物足りないようなら……………容赦なく呑み込め」
「ん。ウィ、シェフ」
四宮は決してカムイのことを侮ったりはしていない。
それどころか自分の知る限り最高の料理人、自分が『一流』ならばカムイは自分をも超える『超一流』とすら思っている。
この一週間、自分を含めた三人の料理人をそれぞれ飲み込む勢いだったカムイのサポートを、たった一人で受けるともなればリスクは一気に跳ね上がる。
今まで三分割されていたカムイのリソースが、今度は全てたった一人に注がれるのだ。
たとえ四宮と言えども飲み込まれてしまう危険があるだろう。実際この一週間でも危ない場面は何度もあった。
(ここが正念場。俺が自分の壁を乗り換えることができるか、それとも『料理人』としての人生を終えるか…………勝負だ、カムイ!!!)
しかし四宮は敢えてリスクを取った! 『一流』と『超一流』の間にある壁を越え、カムイと同じステージへと辿り着けるかどうか。
もし壁を越えられず、『四宮小次郎』という料理人がここまでの存在であったのなら、大人しくカムイの『糧』になる…………そこまで覚悟しての決断。
この瞬間、四宮は自分の『料理人生命』を懸けてカムイへと挑んだ。
かつての【宿泊研修】において、カムイが自身の『料理人生命』を懸けたように!
(俺が怒りのまま何気なく言った言葉にすら、カムイは迷わず『己の人生』を懸けて挑んできた。
ならばどうして俺が逃げられる! ここでカムイに『人生』を懸けて挑めないようなら、俺にコイツの前で『料理人』を名乗る資格は無い!!!)
超一流の料理人であり、超一級のサポート能力を持つカムイに四宮はどこまで迫れるか。
アベルたちだけではなく、乾たち卒業生や教師であるシャペルも固唾を呑んで見守ることにした。
四宮の出身地は明らかになっていませんでしたが、アニメで九州の地図が出てきたので、頑張って喋らせてますwww
聞いた感じだと『博多弁』っぽいんですが、作者はその辺りの違いに詳しくないのでご容赦ください!
それでは皆さん、次回で♪
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