今話ではカムイではなく、四宮が料理を作ります。やっぱり料理の描写を入れると文字数が跳ね上がりますねwww
期待されていた方には申し訳ありませんが、カムイの料理は次回までお待ちください。
皆さんのおかげで【お気に入り数】が五千人を超えました! 日頃からご愛読いただき、恐れ多い限りです!!
これからも頑張っていきますので、引き続き【神域の料理人が往く食戟のソーマ】をよろしくお願いします♪
四宮とカムイ。二人の調理する姿を厨房の外から眺めているアベルや乾たちは、見惚れてしまうほどに圧倒されていた。
「本当に恐ろしいな、傍から見てるとさらに分かる。カムイのサポート能力の凄まじさが…………!」
「正直、サポートを受けてる時はカムイの存在を忘れてしまうくらいなんだケドネ」
「スゴイ、まるで四宮先輩が次にどんな動きをするのか分かっているような動きです………!」
「うん。素早く正確な食材の下処理、調理手順の最適化、動線の確保。
完全な未来予測とも言えるサポートによって、四宮の邪魔をしていないどころか完全に『料理』にのみ没頭させてる」
「四宮の言ったことは本当だったようだな。あんなに完璧なサポートは見たことが無い」
「まるで四宮サンが、もう一人いるみたいデス。そう思えるくらいに四宮サンの思考をトレースしていマース」
「おお、なんと美しいのだ! これがカムイくん、いや【神域の料理人】の調理技術の粋………!」
まるで最初から取り決められていたように、カムイと四宮の動きが完全にシンクロ。
『美しさ』すら感じる二人の調和された動きに、『料理人』たる周囲の者は魅了されていた。
【料理のみが存在する世界】
【調理にのみ没頭できる空間】
だが、カムイの無駄のない調理技術が生み出す空間は他の料理人にとって、まさに諸刃の剣と呼べる代物なのだ。
旨味が活性化した最高の食材たちが自分の欲しいタイミングで寸分の狂いも無く手元に来る。
研ぎ澄まされた超感覚は普段は聞こえないはずの『食材の声』を逃さず、食材や料理の状態は輝きから見て取れる。
しかし、それらは全て『食材』のポテンシャルを最大限引き出すために過ぎない。
カムイにとって調理の全ては『食材』の旨味を最大限に引き出すためのファクター、それはカムイ自身も例外ではない。
謂わばカムイもまた、『料理』を構成する一つのピースに過ぎないのだ。
そのため、『食材』を最高の形で輝かせる料理を作るためなら、己の身すら省みることはない。
時には自分の身体が傷つくのを承知の上で調理を行う場合がある。
カムイが無事でいられるのは、その強靭な肉体と精神力があるからに他ならない。
そんなカムイのサポートを他の料理人が受ければどうなるか。
優れた料理人が作り出す料理は、一口食べただけで『料理人の顔』が見える。
さらにその者しか作れない唯一無二の料理は『スペシャリテ』と称えられる。
つまり料理人として優れていればいるほど、皿の上には『料理人』という存在がありありと映し出されるのだ。
これは料理人に限った話ではなく、他の芸術作品でも同じことだろう。
『一流』と呼ばれる人物が作り出した物には、必ずオリジナリティという名の『製作者の本質』が宿るモノ。
だがカムイにとっては、その『オリジナリティ』ですら邪魔なのだ。
『料理』の主役は『食材』であり、『料理人』ではない。そして【食事】とは『食う者』と『食われる者』で成り立っている。
【食事】という演劇の主役は『料理』と『客(捕食者)』を指し、『料理人』は介添えに過ぎない。
だからカムイは『食材』や『食べる者』に寄り添うことはするが、自身を含めた『料理人』のことを慮ることはない。
それが逆説的に唯一無二の料理となり、『カムイ』という存在を映し出す結果に至っている………まさに『表裏一体の妙』と呼べる。
けれど、その献身的なまでの『食材』に対する姿勢こそがシェフを支配し、破滅させることに繋がりかねない要因となるのだ!!!
カムイの超絶的な調理技術は、どこまでも『食材』のためのもの。
それゆえに『食材の声』を聞こうともせず、『自分』という存在を料理に乗せようとする者は容赦なく弾き飛ばし、置き去りにする。
野球に例えるなら、ピッチャーがボールを投げる際『どんな球』を『どのコース』で『どれぐらいのスピード』で投げれば打ち取れるかをサポートするようなもの。
モーターレースなら、『どのライン』を『どれくらいのスピードと角度』で曲がるのがベストなのかサポートするようなもの。
『常にベストを見極めて行動できるだけの実力』があるならば、カムイのサポートは百発百中で自身が望んだ結果をもたらせてくれる。
しかし、実力が伴わない者に対してカムイのサポートは、自分の意思を無視して『強制的にベストな行動』を取らせてしまう。
結果、実力不足な者は自分の元々持っていた『やり方』を失ってしまい、自ら『プロ』としての人生を終えることとなる。
無論、カムイ自身にシェフを潰してやろうだなんて考えは微塵も無い。どこまでも食材が最高の輝きを放てるようサポートに徹しているだけである。
そして今、四宮が己の壁を乗り越えるべくカムイのサポートの『圧力』に晒されていた。
(これだ、この感覚だ! 『食材』の輝きで料理の状態が見て取れる、次にどんな調理が必要なのか食材から『声』が聞こえてくる!! 料理が放つ輝きに応じて身体が自動で反応する!!!)
カムイのサポートによって、四宮が本来持っていた天才的センスは極限まで研ぎ澄まされる。
調理を進めるごとに料理の輝きが増していく光景は十傑メンバー同様、流石は遠月十傑の元第一席である。
四宮は乾たちに出すコース料理を次々に作っていき、乾たちは自分たちが知る四宮の料理とは桁違いのクオリティとなっている味わいに驚愕。
そしていよいよ『コース料理』は出し終わり、どうにか乗り切ったかと思いきや…………四宮にとっての『本番』はここからだった!!!
(呑み込まれるな! このままカムイのサポートを超えろ!!
そうすれば俺は常にこの状態でいられるようになり、カムイと同じくあの『白い世界』へ自由に出入りできる!!!)
ここまでは『コース料理』、即ち『予め決めていた料理』をカムイのサポートによって完成度を最高レベルまで高めただけ。
四宮はカムイのサポートを利用し、今の自分だからこそ作り得る領域。
全く新しい『フランス料理』………新しい『スペシャリテ』に挑戦した!
カムイに対して心の底では尊敬していながらも、『決して負けたくない!』という対抗心を燃やす四宮にとって、カムイに吞み込まれて料理人を廃業するなどプライドが許さなかった。
そんな『エゴ』とも言うべき強烈なプライドが、カムイの『圧力』から自我を守りながら、荒れ狂う嵐の中から四宮だからこそ作れる『味』を見つけ出す。
【カムイに負けたくない!!!】
その強靭な精神と対抗心によって、四宮のポテンシャルは『星の爆発』が如き輝きを放ち、一時的に『100%以上』の力を発揮させた!!!
そして四宮は…………壁を越えた。
調理を終えた四宮とカムイが、ホールで待つ母親や乾たちへ料理を運んでいく。
乾たちには既にコース料理とは別で新作料理を出すことを伝えている。
しかし普段は決して余裕の表情を崩さない四宮の顔には大量の汗が流れていることに、乾たちは驚いていた。
「ハァ、ハァ、ま、待たせたな。食ってくれ、過去最高の料理が出来た。ケホッ、これまでの俺の料理と同じだと思ったら、ゴホッ、度肝を抜かれるぜ?」
「こ、小次郎!? アンタ、大丈夫なん!?」
「っ、ああ、少しきばり過ぎただけたい。心配いらんね」
いくら見知った間柄とは言え、客の前に立つ以上みっともない姿は見せられない四宮は、やせ我慢でどうにか平静を装っていた。
ましてや、母親の目の前で十傑メンバーのように倒れるわけにはいかない。
『新しい料理』を作るには体力や集中力……『力』が必要であることは乾たちも知っている。
しかしここまで四宮が弱ったところは、乾たちも今まで見たことが無かった。
けれど先ほどまでの目を奪われるような調理光景を思い出し、何も言わずに料理にのみ意識を向ける。
そして四宮が持ってきた皿はフランス料理…………いや、世界中見渡しても類を見ないほどの形をしていた。
出されたのは深めのスープ皿。透明のスープが張られており、その中央には、『半透明な白い球体』が盛られていた。
「え、えっと、これは?」
「お前たちが戸惑うのも無理はない。ただとりあえず食ってみてくれ、説明はそれからだ。まずはフォークで軽く球体の中心に触れてみてくれ」
初めて見る料理の形に歴戦のプロである乾たちはおろか、母親までも困惑している。
しかし四宮はイタズラが成功した子供のような表情で、料理の食べ方をレクチャーした。
どんな料理なのか皆目見当がつかない乾たちだったが、ひとまず四宮の言われたとおり、フォークで球体の中心に触れてみることにする。
パラァ、ブワァァァァァァッッッ!!!!
球体はフォークで触れられた瞬間、花びらのように広がる! しかも透明なスープに花びらが触れると薄いピンク色へと変色していく!!
その姿はまるで水面に浮かぶ『睡蓮花』のようだった!!!
「わあ♪ なんてキレイなんでしょう♪」
「っ、こんな演出、初めて…………!」
「見事だ、客の前で初めて咲く蓮の花か」
「素晴ラシイ! これはもう『芸術』の領域デス♪」
「確かに、これほど美しい料理は見たことが無い………!」
「まこちきれー♪」
※本当に綺麗
皿の上で球根のような白い球体から色鮮やかな花が咲く。見たことも無い演出に母親だけではなく、乾たちまで心を躍らせ興奮を隠せない!
「『Un lotus qui fleurit sur une assiette(皿の上に咲く蓮の花)』、今の俺の最高傑作だ」
四宮が自信満々に料理の名前を伝える。確かにこれほどの料理であれば、『最高傑作』と言って憚れないだろう。それほどのインパクトがこの料理にはある。
乾たちはナイフとフォークで、中心部分から花びら一枚一枚を剥がし口へと運ぶ。
すると『旨味』という名の花が開き、口の中はたちまち極上の旨味によって満たされる!!!
「ハァ………言葉になりません、この美味しさ♪」
「信じられない、花びら一枚一枚にこんなに旨味を含ませているなんて………!」
「ガラスのように透明な味わいは『コンソメスープ』、しかも『フォン・ド・ポワソン』から作っている!
『鰤 ブリ』のアラから作った『フォン・ド・ポワソン』をベースとしたコンソメスープだ!!」
「花ビラに歯を入れた瞬間、様々な野菜と鰤の旨味ガ洪水となって迸りマース♪」
「美味しかねぇ♪ こげん美味しかモン、初めてばい♪」
四宮の全く新しい料理を食べて乾たちは大絶賛! その美味さに酔いしれ、どんどん食べ進めていく!!
しかし、シャペルはフォークに刺した花びらをジッと見つめていた。
「っ、この食感は…………『大根』か!?」
「はい。球体状に切り抜いた大根へ花びらのような細工を施し、『コンソメスープ』の味を染み込ませながら蒸し上げました」
「は、花びらのように細工をしたって、いったいどうやって?」
「それについては、カムイがやってくれた。一応俺でも出来るが、カムイの方が完成度が高い」
四宮の言う通り、大根の下ごしらえをしたのはカムイである。
カムイは大根を球体状に繰り抜く前に花びらのように広がるよう、なんと『水中』で繊細な細工を施したのだ!
そうして細工をした大根を繰り抜いたらオーブンで加熱し、『冷製コンソメスープ』に浸して冷やした。
なお、この店のオーブンは遠赤外線を発する最新式のため、大根全体へムラ無く熱を加えることができた。
「なるほど。熱した大根が冷めていく過程で、『スープ』の味を隅々まで吸い込んだというわけか」
「ダカラ大根の花ビラを噛んだ瞬間ニ、旨味ガ迸ったんデスネ」
「それにしてもこんな細工を、しかも『水中』で行うなんて…………!」
「水の中で包丁を入れることで花びらがバラバラにならない。理屈としてはわかる、でも実際にこの目で見ても信じられない」
「まさしく『神業』! 【神域の料理人】だからこそ成せる御業だ!!!」
乾たちはカムイの超絶的技術に感嘆の声を上げている。しかしこの料理の秘密はコレだけではなかった。
「花びらの工夫については分かりましたけど…………」
「どうして白い球体が広がった途端に」
「薄いピンク色に染まったのかが不思議だな」
「四宮サン、これはどうやったのデスカ?」
そう、四宮の料理は『白い半透明な球体』が花びらのように広がった瞬間、『薄いピンク』に色が付いたのだ。
まるで蕾が花を開かせるような演出は美しい限りだったが、乾たちはどうやって時間差で色付けを行ったのかが気になっていた。
乾たちだけではなく、アベルたちスタッフ陣も不思議そうな目を四宮へ向けている。
周囲が注目する中で、四宮は『狙い通り!』と言わんばかりに笑みを浮かべた。
「なに、大したことじゃないさ。大根に染み込ませた『冷製コンソメスープ』の材料に、アントシアニンを多く含む食材を使用していたのさ」
「? アントシアニンを多く含む野菜、ですか?」
「アントシアニンっていうと、紫キャベツや赤たまねぎとか?」
「ああ、さらに皿に張ったソースには『ワインビネガー』を使っている。そしてアントシアニンは、『酢』に触れると赤く発色する性質がある」
「っ、そうか! 野菜エキスに含まれているアントシアニンが染み込んだ大根の花びらが、『ワインビネガー』をメインにしたソースに触れたことで花びらがピンク色になったのか!!!」
「簡単そうに聞こえマスガ、大根に含ませるアントシアニンの量を的確に調整シナイト、こんなキレイな花ビラにはなりマセン!!!」
カムイの技術だけではなく、今度は四宮のセンスにも驚嘆する乾たち。ドナートが言うように、この料理は繊細極まりないバランスの上で成り立っている料理なのだ。
まず花びらは中心部分から外側へ行くにつれて、『ピンク色』が薄くなっていっている。
つまり花びらの列ごとに『アントシアニンの量』を調整しているということなのだ。
四宮はカムイが細工を施した大根を冷ます際に『アントシアニンの濃度が違うコンソメスープ』をいくつも作っていた。
しかもその『コンソメスープ』には色がなるべく出ないように細心の注意を払っていた。
そして出来上がった『コンソメスープ』を『アントシアニンの濃度が薄いもの』から順番に、中心部分へとスポイトを使って染み込ませる。
最後に『アントシアニンの濃度が一番薄いコンソメスープ』に沈めることで、段階ごとに花びらの色が変わるよう工夫していたのだ。
ここまでの緻密な計算の上で調理が行えたのは、四宮が持つ天才的なセンスがカムイのサポートによって爆発的に高まっていたからに他ならない。
十傑メンバーはカムイのサポートに呑み込まれないように耐えていただけだった。
しかし四宮はカムイのサポートを『バネ』にして、『食材の声』を聞く感覚を開花させたばかりか、自分の実力そのものを何倍にもブーストさせたのだ!
この料理が自身の最高傑作という四宮の言葉に嘘偽りは無く、彼は今日間違いなく自分の『限界』という名の壁を越えた。
カムイのサポートを受けてここまで『進化』した料理人は四宮が初めてだろう。
料理人として進化した四宮の料理に皆が感動し、四宮自身も己の成長に確かな手ごたえを感じていると……………カムイが四宮へ皿を差し出した。
「ん、シェフ四宮の分」
「? 俺の分? どういうことだ」
乾たちが食べている料理と同じ料理を四宮に差し出すカムイ。どうやら四宮のサポートをする傍らで、四宮が食べる分も作っていたようだ。
しかし客へ出す料理を四宮にまで渡す理由が分からず、皆の頭には疑問符が浮かんでいる。
「『食材』が、言っている。この料理はまだ、『完成』していない。一番『美味しい時間』は、これからだと」
「…………どういう意味だカムイ。ちゃんと説明しろ」
カムイの言葉足らずな説明のせいで、ますます周りの皆は謎が深まる。
カムイは一生懸命伝えようとしているのだが、生来の口下手が災いしてなかなか伝わらない。
そんな口が不器用なカムイに四宮が詳しい説明を求めるという苦行を強いていると、カムイはかつて家族から言われたことを絡めて伝えることにする。
「俺の『家族』が、言っていた。『大切な人と食べる食事はどんな料理でも【ご馳走】になる』、と」
「っ………………!」
カムイの言葉に四宮は全身が雷に撃たれたかのように痺れる。同時にまるで氷点下の海に飛び込んだかのように身体が震えていた。
何も言葉を発することができない四宮は、震える手でカムイから皿を受け取るとジッと料理を見つめる。
「小次郎」
四宮だけではなく、乾たちやスタッフまで固まっていると、聞き親しんだ声で名前を呼ばれる。四宮が顔を向けると、母親が優しい笑みを浮かべていた。
「とってもうまかよ、一緒に食べよ♪」
「ッ……………! っ〜〜〜〜〜、ああ………じゃあ、お言葉に甘えて」
母親が呼ぶとホール担当のウェイはすぐに察し、母親の隣にイスを用意する。四宮が席に座るも、乾たちは何も言わずに笑って受け入れた。
元学友と母親。四宮にとって数少ない気の許せる間柄との食事は、カムイの言う通り自身の最高傑作たる料理がより完璧になったことを実感させてくれる。
それが何かは料理を作った四宮にも分からない。ただ言葉では言い表せない『何か』が確かにそこにあり、四宮だけではなく食す者全員の心を満たした。
余談だが、『蓮の花』は色によって花言葉が異なる。白なら『純粋』『清らかな心』、黄色なら『休養』『休息』。
そしてピンクは…………『信頼』。
カムイのサポートによって剥き出しとなった四宮の心の奥底には、母親や仲間に対して気を許している『信頼』があり、ソレが【料理】という形で表に出てきたのだろう。
「一人でホテルまで帰れるか?」
「大丈夫たい、母ちゃんをバカにするやなかとよ♪」
「そうか、じゃあ気をつけてな」
満ち足りた時間もやがて終わり、四宮の料理を堪能した母親はタクシーでホテルへ向かう。
四宮が気遣うも、母親としての矜持からか過保護な四宮を叱りつけていた。
「小次郎」
母親は酒が入っているからか、少し顔が赤くなっているが嬉しそうに笑って四宮を見つめる。
「とっても美味しかったばい、ありがとう♪」
「フッ、ああ、気ぃつけてな。まとまった休みが取れたら、顔を出しに行くよ」
【自分の作った料理で母親を一番に喜ばせる】
母親の笑顔を見て自身の『原点』と『料理の在り方』を再確認した四宮は嬉しそうに笑うとタクシーが出発、四宮はタクシーが見えなくなるまで母親のことを見送った。
そんな二人を傍から見ていたカムイは、ふと今は亡き妹のことを思い出す。
『美味しいね、お兄ちゃん♪』
『いいの、お兄ちゃんと一緒なら〇〇〇にとってはごちそうだよ♪』
未だ名前も思い出せない妹の笑顔と四宮母の笑顔が重なって見えたことに、カムイは少しだけ四宮のことが羨ましくなった。
四宮と母親が一緒に食事を取る空間。自分の最高傑作を食べてもらう四宮と、それを『美味しい』と喜んで食べている母親の一枚絵が頭に焼き付いて離れない。
(俺が作ってきた料理には、あんな『味』は存在しない)
四宮が母親や乾たちと食事したことで生まれた味は、調理が完了した時点では存在していなかった。
妹と一龍が言っていたように『大切な人と一緒に食べること』で初めて生まれる味がある。
それはどんな料理もたちまち御馳走にしてしまう『魔法の味』であり、カムイですら意図的には作ることが出来ない『未知の味わい』。
(どうすれば俺の料理に………【人生のフルコース】に、『あの味』を入れられる?)
カムイとしては、【人生のフルコース】には自分が人生の中で経験してきた『全ての旨味』を入れたいと思っている。
だがカムイには『あの味』を入れる方法が分からない。
そもそもカムイは【人生のフルコース】を完成させると大層なことを言っているが、実際はただの『未練』なのかもしれない。
『食事』とは『生きるために必要な行為』であり、『料理』とは生きるためにあるもの。
それなのに『亡くなった者のため』に料理を完成させることは、ある意味で『食事』という理から外れていると言える。
『食義』を教えてくれた千代婆や師匠の節乃、恩人の一龍が聞いたら何と言うだろうか。
(それでも、一度きりでいい。たった一度でいいから、俺のフルコースで妹と一緒に『食事』がしたい。
それだけで俺は報われる。それさえ叶うなら、俺は…………)
だが…………カムイには他に何も無いのだ。自分の幸福は『未来』にはなく、もはや『過去』にしかないということをカムイは自覚しているし、受け入れてもいた。
本来なら一度きりしかない人生を『魂の交換』で何度も何度も繰り返してきたのは、四宮親子が見せたあの光景を、いつか自分と妹も一緒に見るために他ならない。
(『あの味』は大切な人たちと一緒だったからこそ生まれた味。つまり【環境が生み出した味】ということ。
逆に言えば、様々な『環境』や『状況』を知れば、俺にも作り出すことが出来るはず!)
そしてカムイは悟った。『料理』とは、『いつ』『どこで』『誰と』食べるか………ロケーションやシチュエーションによっても、『味』を高めることができるということを!
四宮が母親と一緒に食事を取った瞬間、四宮の料理は最高潮に輝いた。
つまり『四宮と母親が一緒に食事をすること』、それこそがあの料理の【最後の味付け】だったのだ。
カムイが考えるとおり、一流の料理人が店の内装や流す音楽にもこだわるのは、そういった『味を高める舞台装置』を揃えるためでもある。
原価が何十円としない料理も『盛り付ける皿』『流れる音楽』『飾られている調度品』によって、たちまち高級料理並に味のランクを引き上げる。
(そういえば、『サニー』が言っていたな。【『料理』は味のみならず周囲や環境との『合作』であり、巡り合いの美しさこそが『料理』を『芸術』たらしめる】と。アレは、こういうことだったのか)
謂わば食材や料理を取り巻く環境、その全てが味を………『食』を引き立てる『調味料』になるということ。
いつだったか、カムイはかつての仲間『サニー』が切々と語っていた言葉の意味を目の当たりにした。
(それだけじゃない。シェフ四宮の皿には、『母親や友人の喜ぶ顔』が見えた。
シェフ四宮は、自分の料理を食べて喜んでもらいたい人を思い浮かべながら調理していたということか。
なら、俺の料理を食べて喜んでもらいたい人は…………)
城一郎曰く、『良い料理人になるには【自分の料理すべて】を捧げたい相手に出会うこと』。
田所曰く、『料理に心を乗せるには特別な人を思い浮かべること』。
そして『料理』とは『食べる側』と『食べられる側』で成り立っている。
自分の料理を、そしてフルコースの味を最高に高める『最後の詰め』とも呼ぶべき『スパイス』が判明したことで、カムイはこのスタジエールに参加したことは『食運の導き』だったということを理解した。
四宮たちがカムイからセンスの一部をモノにしたように、カムイもまたスタジエールによって、『現場』から【環境が生み出す味わい】。
そして…………『誰』を思い浮かべて作るか。
カムイは自分の糧となるべき、今までに無かった『新しい味の作り方』を知る。
しかし、カムイが自分の料理を食べて一番に喜んでもらいたい人…………カムイの記憶にある『その笑顔』は、あまりにも遠い昔のモノであった。
若い頃の趣味が『食べ歩き』で、今は『食い道楽』。そんな作者ですが、寄る年波のせいでしょうか。
何だかんだで一番美味しいと感じる料理って【家族と一緒に家で食べる料理】だと思うのは、我ながら安っぽい性分なんですかね。
それでは皆さん、次回で♪
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