スタジエールは今話で終了です。
スタジエールでは技術的なところはあまり学びませんでしたが、代わりにメンタル………カムイが【環境がもたらす味】を知るため、周りに目を向けるための大事な経験としました。
ただ章としては短すぎるので、ショートストーリー的な日常パートをいくつか入れたいと思います。
【月饗祭】からは日常パートみたいな話は、ほとんど入れられなくなりますので。
母親や乾たちへの料理も出し終えたところで、本日の営業は終了する。しかし、スタッフたちにとってはこれからが本番であった。
今日でプレオープンおよびカムイのスタジエールが終了するということで、グランドオープンに向けた新作メニューの品評会(コンペ)が行われるのだ。
コレは調理スタッフが考え抜いた料理を順番に出していき、四宮が店のメニューに載せるか否かを判断するというもの。
なお、新メニューのためのコンペは『SHINO’S 本店』でも定期的に行われており、このコンペについても前々から予定されていた。
そのため、アベルやリュシだけではなくホール担当のウェイまでもが、忙しい合間を見ては自身の新メニューを採用してもらうべく新しい料理を考案していた。
ちなみに、ウェイは元々リュシが担当している肉料理の前任であったのだが、自身の研鑽のために自らホール担当に移ったという過去を持つ。
そしてスタジエールの総決算ということで、カムイもこのコンペに参加するよう四宮から言われていた。
「えっ!? カムイくんも料理を作るんですか!? なら私も参加します!!!」
「ん。カムイがどんな料理を作るのか気になる」
「うむ。しかも今回は『四宮の店で出すフランス料理』という縛りがあるわけだからな」
「せっかくですカラ、ボクたちの分も作ってモライマショウ♪」
「いや、だからもう『帰れ』って話をしてんだよ」
店の営業時間はとっくに過ぎたと言うのに、未だ居座り続ける乾たち。
四宮に帰るよう促されるも、よっぽどカムイの料理が気になるのか全く動こうとしない。実に迷惑極まりない客である。
「しかし四宮くんの店の『新メニュー』か、果たして彼にそのような料理が作れるかどうか……………」
乾たちが一向に帰る素振りを見せないことに四宮が呆れていると、シャペルが眉間にシワを寄せるほど悩んでいた。
シャペルの一言を聞いて、ガヤガヤと騒いでいた乾たちも表情を曇らせてしまう。
「そうですねぇ。『店の新メニュー』となると、【食戟】で出すような料理とはまた違うセンスが必要となりますからねぇ」
「こればかりは、その店での『実務経験』が物を言う」
「ああ、料理の『味そのもの』は問題無いんだがな」
「ただ『味が良い』というだけデハ、『店のメニュー』に載せることはできマセーン」
シャペルたちの懸念は尤もであった。
【食戟】などで『個人的に作る料理』とは違い、『店のメニュー』として出す料理には『味』以上に【商品価値】が求められる。
『店』である以上、『経営』…………すなわち『費用対効果』や『制作コスト』は切り離すことができない。
どれだけ『美味い料理』を作ったとしても、採算が取れなければ『商品』としては扱えないからだ。
さらには『料理』を『商品』として売り出すには、『量産』ができることが必須条件となる。
つまり、カムイだけではなく他のスタッフでも同じ味が出せる料理でなくてはならないということ。
極論を言えば、『世界一美味い料理』を作ったとしても【量産ができ、売れて利益を出せる料理】でなければ『商品』としては不合格なのだ。
こればかりは『料理を作るセンス』とは全く別の、『店の関係者』としての視点が必要となってくる。
カムイの料理の『味』は疑うべくも無いが、『商品』として売り出せる料理を作れるかどうかは未知数。
ましてや四宮の店で出すからには『グルメ食材』は使えない。
『四宮の店のコンセプトに合致している』
『採算が取れる』
『カムイ以外でも作れる』
そういった縛りがある中でコレらの条件を満たし、かつ『美味なるフランス料理』を作らなければならない。
四宮の店での勤務経験が明らかに少ないカムイは、アベルたちよりも厳しい状況下での新メニュー作りを余儀なくされる。
単純な料理センスだけでは越えられない未知の壁を前に、カムイの『可能性』はどれほどのものなのか。乾たちの胸中には期待と不安が織り交ざっていた。
一方の厨房では、アベル・リュシ・ウェイ・カムイの四名が調理や食材の下ごしらえを行っていた。
なお仕込みに時間の掛かるモノについては、予め用意することが認められている。
それでも全員が同時に料理を作ることはできないので、アベル⇒リュシ⇒ウェイ⇒カムイの順番で料理を作ることとなっている。
四人は黙々と自分の仕事を進めていくのだが、アベルとリュシは過去に無いほど高まった集中力を実感していた!
(ヨシ! カムイのサポートが無くても、『食材の声』が聞こえてくる!!
このままセンスを磨いていけば、四宮さんのように自由に『あの状態』になれるはずだ!!!)
(アハッ♪ 超イイネ、サイコーだよ! 今のワタシなら、これまでにないくらいのサイッコーの料理が作れる気がスル!!!)
マラソンでペースメーカーを付けてずっと走っていると、いつの間にかタイムが縮まるように、プレオープンの間中カムイのセンスに引っ張られていたアベルとリュシ。
二人はカムイのサポート無しでも、スポーツで言うところの【ゾーン】に入ることができるようになっていたのだ。
無論カムイがサポートしている状態には及ばないが、それでも自分のポテンシャルを8割強ほどまで引き出せているのだから、十分『常人離れ』していると言えよう。
そしてそんな二人を傍らで見ているウェイは、自分の作業を止めてしまうほど見入っていた。
(す、凄い! アベルさんもリュシも今までとは比べ物にならないくらい作業が速くて正確だわ!!
1人で2~3人ぐらいの仕事量をこなしている、この短期間にこれほど成長するなんて!!
これが【神域の料理人】がもたらした恩恵、四宮さんはコレを狙っていたの!?)
カムイのサポートを受けたことの無いウェイは別人のように成長しているアベルとリュシを見て、戦慄と同時に強い嫉妬も覚えていた。
(っ~~~~~~! こんなことなら、彼がいる間は調理スタッフでいるべきだったわ!!!)
ウェイは唇を噛み締めながら後悔するが、既に後の祭り。ひとまず気持ちを切り替え、自分が今できる最高の料理を作るべく目の前の皿に集中することにした。
そうしてアベルたちは調理を進め、自身が考案した新メニューを四宮のところへ持っていく。
アベルとリュシの料理を試食した四宮も『SHINO’S 本店』以上のクオリティを持つ味わいに満足し、アベルの【フォアグラのポワレ】とリュシの【アオリイカのコートレット】が新メニューに採用され、四宮と共に内容を詰めることを決定する。
ただやはり、カムイのサポートを受けていなかったウェイの料理は採用されなかった。
ウェイ自身も『仕方ない』とこの結果には納得するも、さすがにこのままでは不公平だということで、後でカムイに特訓に付き合わってもらうよう四宮に懇願していた。
そして最後…………満を持して、カムイが料理を運んでくる。
「来たか、待っていたぞカムイ。この店で出すに『相応しい料理』、出来たんだろうな?」
「ん」
「よし、置いてくれ」
カムイの料理が極上の美味であることは、この場にいる全員が分かりきっている。
ただ今回求められるのは美味い以上に『四宮の店』という【環境に適応した料理】、これまでとは全く毛色が違う料理が要求されているのだ。
そんな料理を作れたか否か四宮が確認すると、カムイはいつも通りの様子で頷いた。
カムイの返事を聞くなり、ある種の期待……『楽しみ』にしていた四宮はテーブルへ料理を置くよう促す。
全員が期待と興奮に胸を躍らせている中、四宮に言われるままカムイが置いたのは耐熱容器のような『小鍋』だった。
(フレンチで『鍋』ごと出すだと? ということは)
パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
四宮がカムイの料理に『アタリ』をつけ鍋の蓋を取る。
蓋が無くなったことで鍋から料理が解き放たれた途端、可視化できるほどの『旨味』を孕んだ『野菜の香り』が食欲へ直撃し、店内へと広がった!!!!
(っ、強い! なんていう強い野菜の香りだ! それでいて全く青臭さを感じない!! ここまで強く、食欲を刺激させる野菜の香りがあったのか!?)
単なる調味料や香辛料では決して味わえない、ましてや肉類や魚介類とは程遠い。『野菜』だからこそ体感できる清々しいほどに爽やかな香り。
その香りは嗅ぐだけで身体中が浄化されたかのような、未知の感動を与えてくれていた。
視覚で認識するよりも速く、嗅覚が先に認識する『旨味』を思う存分堪能し、ようやく一同は料理そのものに目を向ける。
鍋の中には牛スネ肉の他に色とりどりの野菜が入っており、隣のソースポットには、自家製のマスタードソースが添えられていた。
「やはり、【ポトフ】か。カムイにしてはスタンダードな料理を出してきたな」
「ん。人間の味覚は、【環境】によって、左右される。また普段から、食べ慣れている料理や味を、美味しく感じるように、なっている」
「…………確かに、それは尤もだ」
「なるほど。だから親しみやすい『ポトフ』を選んだんですね」
【ポトフ】。大きめに切った肉や野菜を鍋でジックリと煮込んだフランスの代表的な家庭料理。
日本ではウインナーや野菜をコンソメスープで煮込み、具材とスープを一緒に器に盛るのが一般的。
だが本場フランスでは、塊の牛肉や香味野菜を塩と香辛料でシンプルに煮込むのが特徴。
スープは前菜として、具材はマスタードなどを添えてメインディッシュとして別々に分けて食べられる場合もある。
柔らかく芳しい香りは食欲を刺激し、盛り付けも料理としても紛れもなく『極上のフレンチ』と言えるが、どこか『親しみやすさ』を覚える一品。
カムイは【環境がもたらす味】を実現するため、本格的な高級フレンチではなく、『日本という環境』に馴染みの深い『ポトフ』を選択。
フランスの家庭料理に己の技術を尽くし、『神品』と呼べる領域にまで昇華させたのだ。
まさしく食材に手間ヒマと時間を惜しまず、美味なる料理を作り上げるフランス料理の『精神』が込められていた。
「? 冷めるぞ」
「っ、あ、ああ、すまん。いただくぜ」
まるで初心を思い出されたように膠着していた四宮は、カムイの一言でハッと我に返る。
フランス料理は平皿での提供が多いため、他の料理よりも冷めやすいという欠点がある。
カムイの料理は『ポトフ』なため他のフレンチよりも冷めにくいが、逆に『熱々の状態』が一番美味しい料理でもある。
四宮もそのことは知っているため、カムイの料理の味が落ちる前に食べることにする。
スープを口に含んだ四宮は、滋味の極みとも呼べる優しい旨味が頭へ直接叩き込まれ、まるで脳髄が痺れるようだった!!!
「っ〜〜〜! なんて美味さだ!! 『フォン・ド・レギューム』と『フォン・ド・ボー』をベースにした『コンソメスープ』!!!
鶏ガラではなく『仔牛の骨』から取っているため味は重厚! それなのにこのスッキリとした透明感!!
アク取りだけでなく、油まで一滴残らず徹底的に取り除いたからこその味わいだ!!!」
本格的な『コンソメスープ』は、ブイヨン(出汁)に挽き肉と野菜、卵白を加えてアクや濁りを吸着させ、数時間じっくり煮込んで透明感を引き出す。
工程としてはシンプルなのだが、とにかくひたすら『根気』を要する作業のため、この工程を如何に丁寧に仕上げられるかが最終的な『味』を決定する。
まさに【フレンチ】における『基本』であると同時に、『極意』とも呼べるスープなのだ。
カムイは今日のために事前に作っておいたコンソメスープを一度濾した後、紙パックに入れ予め『冷凍』させていた。
『冷凍』させることで旨味を含んだ水分とアクを含んだ油は上下に分離。
上部の油の部分だけを切り離し下部の凍った水分を解凍すれば、透明度抜群のクリアなスープが出来上がる。
不純物を一切含まない純度100%の旨味エキスが結実したスープに四宮は感嘆!
続いて具材の味を確かめるべく、まずは底に沈んである『透明な粒』を頬張った。
「う、美味い、そして『甘い』!! この甘さは『もち米』、『もち米のクスクス』だ!!
『クスクス』と具材を透明感極まるコンソメスープでじっくりと煮込んだ!
いや、『煮込んだ』のでは具材の旨味がスープに流れ出てしまう。少しずつ何度もスープを加えることで『蒸した』のか!!
蒸し上げたことで具材の旨味と水分はそのままに、スープの旨味を染み込ませつつ適度な歯ごたえを保っている。
完璧な火入れによって、具材とクスクスが最高の相乗効果を発揮している!!!」
『クスクス』、デュラム小麦の粗挽き粉(セモリナ)に塩水を加えて作られる世界最小の粒状なパスタ。
北アフリカのマグレブ地域(モロッコやアルジェリア、チュニジアなど)が発祥で伝統的な主食・国民食として親しまれており、粒状に形成した後スープを作る際に出る蒸気で蒸して作られる。
今回カムイは小麦粉ではなく『もち米』を粉にしたモノを使用し、『クスクス』に仕上げのだ。
「っ、も、『もち米のクスクス』!? そうか、だからこんなに透明なのか!!!」
「そんなモノまで持ち出して『ポトフ』の味を高めてくるナンテ!!!」
「他の具材もキッチリ仕事してるのは一目瞭然! フランスの定番家庭料理だけど、これなら一流店のメインやアラカルト(一品料理)の両方で使えるわ!!!」
旨味成分の濃度を均一にし、米の内部で収束させ味を累乗化させる。コレは選抜特別試合で出した『サラダ』の応用。
あの時は『旬の食材』を使っていたが、今回は『四宮の店で出す』という条件に合致するよう『コンソメスープ』でアレンジしたのだ。
「それにしてもこの料理、四宮先輩の『スペシャリテ』に似てますね。
ホラ、宿泊研修の【食戟】で出した「ふんっ!」ぶべぇっ!!!」
「オッホン! た、確かに『米』を野菜として捉えてイルところは、四宮サンの【季節の野菜のリゾット トマト詰め】に、どことなく似てマスネ!!」
「ん。シェフ四宮が、田所と【食戟】した時の料理を参考に「そうか! 一度食べただけでモノにしたんだな!! いや、大したモノだ!!!」 ? コクン」
「っ~~~! カムイ、テメエやりやがったな…………!」
『米を野菜としてメインに据える』
『敢えて決まった形を決めないことが高い自由性を生む』
「季節柄、土地柄によって様々な味を楽しめる」
カムイが四宮と田所の【食戟】で学んだことは多く、その時に四宮のセンスをモノにしていたことで、彼のスペシャリテを独自に拡大解釈&改良。
【秋の選抜】で幸平たちのカレーを進化させたように、カムイは四宮のスペシャリテを進化させることで、『四宮の店で出すに相応しい』という条件をクリアしたのだ。
四宮はカムイに自分のスペシャリテを盗まれたばかりか、上位互換たる料理を作られたことでプライドを傷つけられる…………と思いきや、その顔は上機嫌に笑っていた。
ただ宿泊研修の最中に【食戟】、しかも在校生と卒業生の【食戟】というイレギュラーなマネを学園側の許可無しに行なったことがシャペルに知られたら困る水原たちは、必死に事実を隠そうとしている。
(どの具材もナイフでスッと入るほどの柔らかさ、だがフォークで刺せば適度な固さを感じる。まさに柔らかさと固さの分水嶺ギリギリって感じだな)
食器から手に伝わる感覚から、味覚よりも先に触覚を通して『快感』を味わう。
以前えりなやアリスたちに振る舞った料理から、カムイは『硬』と『軟』の食感の妙技を会得していた。
嗅覚、視覚と続き『触覚』を通して、味への期待を順当に高めていく演出は見事と言う他ないだろう。
ここまでの『味』を感じる料理にソースまで付けたらどうなるのか………興奮を抑えきれない四宮だが、まずは具材にソースを付けずにそのまま口へと運ぶ。
歯を入れた瞬間、甘い汁が口の中いっぱいに迸る! しかもその甘さたるや、果物のような甘さではなく野菜特有の爽やかさを持っていた!!
(っ、あ、甘い! しかも砂糖のようなくどさが無く、フルーツよりも爽やかだ! これは、この味は………………っ!!!)
野菜特有の食感もさることながら、爽やかな甘味に驚愕する四宮。
今まで味わったことの無い食感と甘味を確かめるように何度も咀嚼すると、その正体に気づいた!
「っ、これは『キャベツの芯』か!! 『真空調理』したキャベツの芯の中心部分のみを使ったのか!!!」
四宮の言葉に周りの全員が驚愕する!
確かに野菜の芯は一番の旨味と栄養が詰まっている部分であるが、一般的にはスープや出汁を取るのに使われており、芯だけを食べることなど無い。
「こっちは『ブロッコリーの芯』! こっちは『白菜の芯』だ! そしてコレは『トウモロコシの芯』!
ブロッコリーは爽やかな風味が鼻を突き抜けるし、白菜は甘味だけでなく旨味も濃い! トウモロコシの芯は、これほど甘く香ばしいものだったのか!!
『食感』もさることながら、どれもゼラチン質がトロトロに溶けだした牛スネ肉の旨味と相性が抜群だ!!!」
『真空調理』。食材と調味料を専用の袋に入れて真空密封し、95℃以下の低温でじっくり加熱する調理法のこと。
高温で急激に加熱しないため、肉や魚などのタンパク質が硬くなりにくく水分や旨味が流れ出ない。
空気を抜いた袋の中で調理するため熱伝導率が高まり、少ない調味料でも浸透圧によって素早く均等に味が染み込ませることが可能なのだ。
しかもカムイが使ったのは『キャベツ』だけではなかった!
ブロッコリーの芯はフランス人の大好物であるアスパラガスのような食感でありながら、アスパラガスよりも風味が強い。
また『白菜』は葉ではなく中心部分に旨味と栄養を蓄えるため、葉よりも芯の方が味が濃い。
中国ではスープや調味料の味を全て吸わせた白菜の芯のみを具材にする『開水白菜』という料理もあるくらいだ。
トウモロコシの芯は、乾燥させれば甘く香ばしい出汁が取れるぐらい旨味を内包している。
これにより蒸し料理や煮込み料理に足りない『香ばしさ』が加わり、食す者の感覚を引き締めてくれている。
「添えてある葉は『ソルトプラント』! 味付けに塩を全く使わず、塩味の強い『ソルトプラント』で塩分を補ったのか! 具材の旨味と風味の取り合わせが絶妙だ!!!」
【ソルトプラント】。別名『アイスプラント』とも呼ばれるハマミズナ科メセンブリアンテマ属の多肉植物である。
ヨーロッパ・アフリカ・アジア西部が原産で、葉や茎の表面に水泡状の細胞があり、塩分やミネラルを蓄えるため栄養価が高い。
また、葉に含まれている塩分が凍ったように見えることから「アイスプラント」と呼ばれる。
乾燥や塩分に強く、海水と同程度の塩水でも水耕栽培が可能。若い葉や茎が食用になり、独特の食感と塩味が特徴である。
フランスでは『フィコイド・グラシアル』と呼ばれ、主に料理の付け合わせとして使われている。
『真空調理』によって野菜の最大の魅力である『食感』を活かしつつ、肉・魚・果物では味わえない爽やかな芯の旨味に四宮は魅了される。
合間に食べる『ソルトプラント』の肉厚な食感と塩気が食欲をさらに揺さぶりに掛かってきた。
だが四宮が味わったのは『ポトフ単体』の味のみ、まだ『特製マスタードソース』をつけての試食が残っている。
『ポトフ』に『マスタード』は付き物、そしてフレンチにおいて『ソース』は命。
夢中で食べたくなる衝動をどうにか堪え、四宮は具材をソースポットに入っているソースにつけて食べる。
上品極まりない『甘さ』が舌の上でトロけていく!! 四宮の身体は一つ一つの細胞が歓喜するかのように震えが止まらなくなった!!!
(こ、これは…………言葉にならねえ。ただ今はこの快楽に浸っていたい、そんな気持ちになるほど、この料理は美味すぎる…………!)
身体中から力が抜け、旨味がもたらす快楽に身を委ねる四宮。
こんな快楽は二度と味わえないであろうと思い、余計なことは考えず、無駄な力も入れず、ただひたすらに身体に染み渡っていく快感を堪能した。
「このソース。『米乳バター』から作った【ベアルネーズソース】に『フォン・ド・レギューム』を加えたものをベースとして、マスタードシード・エストラゴン・ケッパーなどのハーブスパイスで仕上げたのか。
ネットリとした米の甘み、濃厚なコク、鮮烈な辛さがポトフの………野菜の甘さと旨味を爆発させている」
【ベアルネーズソース】。バターと卵黄の濃厚なコクに、白ワインビネガーの爽やかな酸味とハーブの香りを効かせたクリーミーでリッチな味わいのソースである。
大量の澄ましバターと卵黄を使っているため、口当たりがまろやかで高級感がある。
白ワインビネガー(お酢)やエシャロットの風味によって、見た目ほど重すぎずサッパリと食べられるのが特徴。
エストラゴン(タラゴン)という甘い芳香とほろ苦さを持つハーブも加えることで、独特の爽やかな風味もプラスされるため、主に重厚な肉料理などに使われている。
なお似たようなソースで【フレンチ五大マザーソース】の一つに『オランデーズソース』というモノがある。
こちらは白ワインビネガーの代わりにレモンなどの果物の果汁を使っている。
だがカムイはハーブの香りを効かせた、より香り高い『ベアルネーズソース』を選んだ。
また『米乳』は別名『ライスミルク』と呼ばれ、白米・玄米・米粉などを主原料とした植物性ミルクのこと。
水・植物油・食塩などを加えることで酵素が炭水化物やデンプンを糖化、お米本来の自然な甘みを引き出すのだ。
乳に含まれる乳糖や大豆・小麦などの特定のアレルゲンを含まないため、乳糖不耐症や各種アレルギーがある人でも飲みやすいのが特徴。
牛乳に比べて低脂肪かつコレステロールがゼロ。白米から作ったモノはサラっとして飲みやすく、玄米から作ったモノは食物繊維やビタミン類が豊富。
今回カムイが作った『米乳』は『もち米』から作るタイプで、もち米由来の自然な強い甘味に加え、おかゆ・甘酒を思わせるトロっとした口当たりや穀物の香ばしさが楽しめる。
米ごとに違いがあり、アレルギーを持つ子どもでも比較的安心して飲める『米乳』は、アーモンドミルクや豆乳などと並ぶ「第三のミルク」として親しまれている。
その栄養価の高さから戦後の日本でも、食糧難により十分な母乳や牛乳を与えられない母親たちが、わずかに残る貴重な米粒をすりつぶし、水と混ぜて「米乳」を作って赤ちゃんの命をつなぐための代用ミルクとして与えていた歴史がある。
【秋の選抜】で幸平が使った『ライスドリーム』や、えりなが使った『アレルノン』もこの『米乳』が原料である。
カムイはえりなの『アレルノン』をヒントに、『米』を『炭水化物(デンプン)』『タンパク質』『油』『乳』といった成分に分解することで『旨味』を構築したのだ。
さらにカムイは【ベアルネーズソース】へ使うバターに『米乳バター』を使用。
『米乳バター』は『米乳』にココナッツオイルと植物性油(カムイは米油を使用)を混ぜた物を冷やしながら乳化および攪拌させることで作れる。
『米乳バター』によってソースの軽やかさと甘みを追及すると同時に、野菜や『もち米のクスクス』との親和性を高める。
そして米の持つ『タンパク質』が『グルタミン酸』に変化していることで、『牛スジ肉のイノシン酸』と相乗効果を持たせたのだ。
そればかりか『モンテ・オ・ブール』というソースを『乳化』させる技法を用いて、ソースの完成度を最高レベルまで高めていた。
キャベツの甘み・ブロッコリーの爽やかさ・白菜の旨味・トウモロコシの香ばしさをそれぞれ活性化させる。
そして一身に集約された『芯』の味わいが、香り高い『特製マスタードソース』のクリーミーでコクのある甘辛さと混ざり合い、溶け合い、舌の上で『大地の恵み』を感じさせてくれた。
「わ、私にも食べさせてください!」
「私も!」
「私もだ!」
「ボクにもクダサイ!」
「カ、カムイくん、私にも食べさせてくれないか!?」
「俺にも分けてくれ!」
「ワタシも!」
「私も食べたい!」
「ハァ、カムイ。悪いが全員分を作ってくれるか」
「ウィ、シェフ」
四宮の放心している姿を見て、乾たち卒業生だけではなく教師であるシャペルとアベルたちスタッフも、頻りにカムイの料理を食べたいと懇願する。
店の新メニューに採用するかどうかは四宮の判断となるので全員分は要らないのだが、自分が逆の立場でも同じことを言うに違いないと思い、カムイへ全員分の料理を作るよう指示を出した。
一応まだスタジエール中ではあるので、四宮の指示に従ったカムイは瞬く間に全員分の料理を作り、乾たちへと振る舞う。
無論、カムイの料理を食べた全員が椅子から立ち上がれないほど身体の力が抜けてしまったのは言うまでもない。
「まったく、呆れたヤツだ。せっかく俺が『大根』を使ってフランス料理の新機軸を作れたと思ったら、さらにその上を行きやがるんだからな。
挙句、俺の『スペシャリテ』を盗むとか生意気にも程があるぞ」
カムイの料理を堪能した四宮は、満たされた気持ちになっていながらも不満を口にするという捻くれた態度を取る。
だが四宮が言いたくなる気持ちも分からないではない。
四宮はフランスで嫌煙されている『根菜』を美味なる品へ昇華すべく、古くから日本で親しまれている『大根』をメインにした革新的な料理であった。
まさしくフランス・日本と双方の食文化に触れている四宮だからこその料理と言える。
だがカムイはさらに奥へと踏み込み、野菜で最も旨味が濃いながら、フランスのみならず世界でも食用としては使われない『野菜の芯』をメインにするという…………謂わば地球上に存在しなかった全く新しい野菜料理を『創造』してしまったのだ。
しかも『米を野菜として据えつつメインにする』という自分の『スペシャリテ』をモノにされたばかりか、上位互換たる料理まで作られてしまった。
せっかく自分の壁を越えて新しい料理に辿り着けたと言うのに、これでは四宮も素直に喜べない。
もっとも四宮の口元が緩んでいるあたり、別に本当に恨んでいるわけではないことは明らかである。
ただ少しだけ、カムイの理不尽なまでのポテンシャルの高さに対して物申したい気持ちになっているだけだろう。
「えっと、じゃあ、カムイくんは合格ってことですよね?」
「いいや、このままじゃこの店のメニューには採用できないな」
「え?」
四宮の満足そうな表情から、この場にいる誰もがカムイの合格を確信するも、四宮は乾の質問に首を振って答えた。
実際に味わった乾たちから見ても非の打ち所がない料理だっただけに、全員の頭に疑問符が浮かんでしまう。
通常は出汁を取って捨ててしまうであろう『野菜の芯』の旨味と魅力を爆発させた画期的な料理。
使った食材も特別なものは何一つ無く、必要なのは卓越した『料理の腕』のみで調理法もシンプル。
それでいて極上の味わいの一品であるカムイの料理は、まさしく一つの食材に手間暇を惜しまず、十重二十重に手をかけて味を引き出す『フランス料理の神髄』………そして『野菜の真髄』を体現していたと言える。
考えれば考えるほど、何故このままではダメなのかが分からない面々。そんな周りの皆の疑問に答えるように、四宮が不敵にカムイへ告げた。
「これはこの店の『新メニュー』、つまりカムイがいなくなった後も俺の店で出せる料理でなければならない」
「だからこの料理の作り方、今からみっちり教えてもらおうか。それが合格の条件だ」
四宮の言葉で全員が目を大きく見開く! あのプライドの高い四宮が年下の………しかも学生に教えを請うことなど考えられなかったからだ!!
だと言うのに傲岸不遜な物言い、乾たちはひとしきり驚いた後に呆れてしまう。
「うわぁ、な~~~んてイヤな性格をしてるんでしょう。素直に『教えてほしい』と言えばいいのに」
「ん。しかも合格を盾にするという卑劣さ。流石は四宮、とんだ外道がいたもの」
「まぁ、あれでも四宮なりに素直になっているつもりなんだろうがな」
「それにシテモ、他にもっと言い方はあるデショウ」
「やかましい、外野は黙ってろ! それから水原、誰が『外道』だ!!!」
「フフフ♪ 遠月の審査員には、私から事情を説明しておこう」
乾たちはこの期に及んでも捻くれた態度の四宮を揶揄し、シャペルは『心配は無用』と安堵した笑みを浮かべていた。
そして当のカムイはというと、『それもスタジエールの内』と納得し、意外にもすんなりと四宮の提案を受け入れる。
「作り方を、教えるのは、構わない。ただ『ソース』は、教えられない」
「っ、ああ、いくら俺でもそこまで教えろとは言わねえよ。『ソース』はフレンチシェフの『命』だからな」
フランス料理では料理の味を爆発させるための『ソース』は不可欠。そしてその『ソース』は『バター』と『生クリーム』をベースに作られる。
そこから『フォン』や調味料・スパイスを加えることで、シェフオリジナルの『ソース』が出来上がるのだ。
謂わば、『ソース』はフレンチシェフにとって自分を写す『鏡』。日本における『秘伝のタレ』のような立ち位置である。
そのため四宮の言う通り、『ソース』はフランス料理の『命』であり優れた『ソース』を作ることが出来れば、料理人としての富と名声が与えられる。
そのことを知っている四宮も、カムイから『ソース』の作り方までは教えてもらおうとは考えない。
むしろカムイの料理に自分の作った『ソース』をどう合わせようか考えることが『楽しみ』だった。
「そういうわけだ。アベル、リュシ! 今日は徹夜になるぞ、覚悟しておけ!」
「「Oui、Chef!!!」」
「し、四宮さん! 私も参加していいでしょうか!?」
「ウェイもか、構わねえが家には帰れないと思え」
「Oui、Chef!」
カムイ………【神域の料理人】の料理を学べるということで、アベルとリュシのやる気に火が点く。
また『これ以上差をつけられるわけにはいかない!』と、ウェイも参加しようと慌てて四宮に許可を願い出た。
乾たちもカムイの料理の作り方に興味を持ち、『ここまで来たら最後まで付き合う!』と言わんばかりに居座る。
乾たちの図太い意志の前に、流石の四宮もいい加減諦めることにした。
だがソレは四宮も同じこと。この男は『ソースそのものについては教わるつもりはない』と言い放った、確かに言った、間違いなく言った!
だが、それでも『味の核心』についてはどうしても気になったので教わることにした!!
『教わるつもりはない』と言っておきながら、『ソレはソレ、コレはコレ』と言わんばかりに基礎の部分だけでも教えてもらおうとするあたり、精神の図太さは幸平と良い勝負だろう。
「今回使った米は、『女鶴』。米油も米乳も、『女鶴』から作った」
「『女鶴』、選抜の特別試合でカムイが使っていた『もち米』だな。あの時は『長期熟成みりん』にしていたそうだが、今回は更に細かく加工したモノを用意したわけか」
「確か『幻のもち米』と呼ばれる品種、ですよね?」
「スゴく上品な甘さダヨ。それに牛乳よりもスッキリと軽い!」
「ええ。食材に対する深い理解が無ければ、『米』というシンプルな食材の魅力をこんなにも引き出すなんて不可能よ」
「フレンチと乳製品は密接な関係にある。これだけの味わいなら他にも色々と使えるな。カムイ、後で仕入れ先を教えろ」
「ウィ、シェフ」
『女鶴』は限られた地域のみで栽培されているが、四宮のような個人経営の店で使用する分には安定して仕入れることが出来るだろう。
また四宮はカムイが作った『女鶴の米乳』を飲んで、新しいフレンチの可能性を見出していた。
カムイが選抜で使ったことで『神力』と『女鶴』は世間から注目されている。
もし四宮がワールドクラスの名声を手にすれば、『女鶴』は世界中から求められる食材として復活するかもしれない。
単に通常通りの牛乳から作ったバターと生クリームでは味わえない複雑な旨味と風味。
そしてその旨味と風味も製法によって大きく様変わりすることを知った四宮たちは、カムイの持つ知識と探求心に驚嘆した。
「ポトフは、野菜も大事だが、それ以上に大事なのが、『水』だ」
「み、『水』!? もしかして、凄く良質な水を使ってるとか?」
「フルフル。『硬水』と『軟水』を、ブレンドする」
「っ、水をブレンド、だと…………!」
日本は沖縄を除き『軟水』の国、フランスをはじめヨーロッパは『硬水』中心の国で、『ポトフ』はフランス料理。
だが日本人の舌は『軟水』の味に慣れていて、『硬水』の味には慣れていない。
『ポトフ』は国柄もそうだが、肉や野菜を煮込むため使用する水は『硬水』が適している。
しかしそれでは日本人の好みに微妙に合わなくなる。だからカムイは『硬水』と『軟水』をブレンドすることで、『日本人好みなポトフ』を作り上げたのだ。
「っ、『水』、そこまで味の根源に考えを巡らせて料理を作っているのか、カムイは…………!」
「『野菜』は、どんな食材をも、引き立てる地力がありながら、自らもメインを張ることが出来る、可能性を持っている。
その『野菜』の味を、最高に引き出すのが、『水』だ」
「ふっ、言うじゃねえか。そして『水』の味が人の好みを決める。
もし俺が『水の使い方』を極められれば、世界中の三ツ星を獲得できるな…………おもしれえ!!!」
『水』が無ければ人は生きられない、そのため『水』は全ての国の料理体系の根幹を成していると言っても過言ではない。
だからこそ『水の味』や『水の特性』を知ることが、自分の夢を叶える強力な武器になると悟り、四宮は自分の目標へ至る道が見えたことで興奮に打ち震えた。
しかし一口に『水』と言っても、僅かな成分の違いが微妙な味の変化となるため、その特性や味を知るのは途轍もない難易度である。
アベルやリュシだけでなく、並外れたセンスを持つ四宮ですら、カムイの配合した水を百発百中で再現するのには苦労した。
その他にも『キャベツ』『白菜』の葉や『ブロッコリー』の花といった、芯以外の野菜の部分はミキサーにかけてネルドリップ。
真空調理の際には『味つけした野菜水』にして芯を漬け込むなど、覚えなくてはいけない工程がたくさんあった。
かくして四宮たちはカムイからレクチャーを受けるのだが、シンプルな調理法とは裏腹に、複雑かつ繊細で緻密な仕込みが要求されるカムイの料理に悪戦苦闘。
だが意外なことに口下手なカムイの説明でも、料理のことならば四宮たちの理解力の補正が掛かるため、レクチャーそのものに問題はなかった。
それでも結局、全員がカムイが認めるほどの味に仕上げることが出来たのは、太陽が真上に昇ってからだった。
プレオープンが終了し、今日が休業日でなければアベルたちは疲労困憊の状態での営業を強いられていただろう。
「悪かったな、カムイ。なんだかんだ昼までかかっちまった」
「ホントですよ! おかげで私たちまで徹夜しちゃったじゃないですか!」
「しかも四宮、カムイに質問しすぎ」
「事あるごとにカムイの話を遮ってたからな」
「とうとう自分のレパートリーの相談マデし始めましたカラネ」
「ウルセー! お前らは関係ないんだから、とっとと帰れば良かっただろうが!!!」
どうやら時間が掛かった一番の原因は、四宮がどさくさに紛れて関係の無い料理のことまでカムイへ質問攻めにしていたからのようだ。
寝不足のせいか乾たちだけでなく、アベルたちスタッフまで四宮のことをジト目で見ている。
店を去るまでがスタジエールとはいえ、明らかにスタジエールの範疇を超えている。
カムイがソレに気づいていないのをいいことに相談するこの往生際の悪さは、一周回って大したモノだろう。
全員の視線に若干の居心地の悪さを覚えた四宮は、何とか話題を変えようとカムイへ向き直る。
「ゴホン、あーーー、なんだ、その、カムイ」
「?」
「…………完成させろよ、お前自身の【フルコース】」
「ウィ、シェフ」
「それと完成したら、食わせてくれ」
「(食材の)気が向いたら」
「そこは『ウィ、シェフ』じゃねえのかよ…………」
「見ましたか? どさくさに紛れてカムイくんの【フルコース】を強請ってましたよ、あの人」
「さすがは四宮、やることがセコイ」
「落語の『時そば』みたいにはいかなかったようだな」
「あんまりカムイくんを困らせタラ、ダメですヨ」
「やかましい! お前らはさっさと帰れ!! それから水原は聞こえてるからな!!!」
四宮なりにカムイを激励したつもりなのだが、生来の性格が災いして今一つ素直になりきれていない。
照れ隠し半分、本音半分でカムイのフルコースを強請るが乾たちに揶揄われていつもの空気となってしまう。
(『美味いモノは皆で食べた方がより美味い』、か。少しだけ、お前の言ったことが分かったような気がするよ…………トリコ)
こうしてカムイのスタジエールは無事に終了、カムイはかつて共に旅をした仲間を思い出しながら『SHINO’S TOKYO』を後にする。
今回のスタジエールでカムイが得たことは多い。
『サラダ』に合わせるべき『副食材』や『米の魅力の引き出し方』を知っただけでなく、『誰と食べるか』『どこで食べるか』と言った『環境』や『雰囲気』なども味を左右するということが分かった。
そのためカムイは【環境がもたらす味】を会得するため、これからはなるべく自身の世界の外にも目を向け、周りの人間とも関わり合いを持ち、より多くの【環境】を知ろうと心がけることにした。
これまで他人事には『我関せず』を決め込んでいたカムイからすれば、驚くほどに社交的な考えになったと言える。
ただそれでも生粋のコミュ障がすぐに治るわけではないので、『邪険には扱わない』というレベルだろう。
後日、『SHINO’S TOKYO』は無事グランドオープン。プレオープン時に来ていた客だけではなく、口コミやメディアを見て来店する客で賑わう。
また四宮の【Un lotus qui fleurit sur une assiette(皿の上に咲く蓮の花)】をはじめとした新メニューは大好評、いずれも客からは最高の評価を獲得する。
その中でもカムイの料理に四宮のソースを合わせた『ポトフ』は【Un plat qui capture véritablement la saveur des légumes.(真の野菜の旨味を持つ一皿)】と名付けられ、『SHINO’S TOKYO』およびパリにある本店の新たな『看板メニュー スペシャリテ』となった。
そしてその料理名の隣には、『S&K』と小さくメニューに書かれており、多くの者が『四宮小次郎』の略かと思っていたが………その真相を知るのはごく僅かである。
作者は高級フレンチをあまり食べたことがありませんので、日本人に馴染みの深い『ポトフ』で四宮の料理を拡大解釈&改良してみました。
『ポトフ』はどちらかと言うと野菜が主役ですしね。
でもそう考えると、原作で幸平が作った『うずら肉のリゾット詰め』は『野菜がメイン』と言うには少し弱い感じがします。
それでは皆さん、次話で♪
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