まだ少し書いておきたいショートストーリーがあるので、新章については『第五十一皿』からとなります、
期待されている方、大変申し訳ないです…………。
四宮の店でのスタジエールを終えたカムイは、アリスの調理棟から必要な器具を持ち出し、『アイランドシェル』にてフルコースの『サラダ』の試作に勤しんでいた。
なお、器具についてはアリスがいなかったのでメールで借りることを伝えているあたり、携帯とアリスの扱いにも慣れてきた模様。
(『ET米』と『漆黒米のクスクス』を『減圧調理器』を使い、濾した『ライスミルクの冷製コンソメスープ』で炊く。
その間に『チーズ白菜』『アーモンドキャベツ』『ゴールデントウモロコシ』『エナメルキャベツ』の芯を調味した野菜水に浸し『スチコン』で蒸す)
カムイは『サラダ』のメイン食材に『ET米』と『漆黒米』を選択、さらに副食材には蒸したキャベツの『芯』を合わせることにした。
グルメ界でのみ獲れる【ET米】は旨味が抜群であり、次郎&節乃のフルコースの『メインディッシュ』でもある。
その味わいたるや【ET米の握り寿司は醤油をシャリにではなくネタに付ける法】というグルメ法案ができるほどだ。
【漆黒米】はモチモチとした食感と黒くなるほどの高い糖度を誇るため、『もち米』としては最適。
カムイはスタジエールの経験を活かし、この【漆黒米】を『クスクス』に仕上げることにした。
さらに四宮の店で出した『ポトフ』から、『野菜の芯』だからこそ味わえる旨味と食感を知り、この二つの米にキャベツなどの『葉野菜の芯』を合わせることを思いついた。
一番旨味が濃い『葉野菜の芯』をちゃんと調理することができれば、選抜の特別試合で使った食材以上に味のアクセントになるばかりか『味の一体感』が増すと判断したのだ。
さらにサラダに付き物の『ドレッシング』だが、これは『女鶴』の要領で『漆黒米』から作った米油・長期熟成みりん・酒などに加え、グルメ食材である『王酢』をブレンドして作る予定である。
また米を炊く際に使う『コンソメスープ』については、様々な新鮮な野菜をペーストにしてネルドリップさせた『野菜水』。
さらに干し野菜にしてダシを取った『フォン・ド・レギューム』と『クリーム松茸』などのキノコ類を合わせて作っている。
そして『ET米』を米乳にした『ライスミルク』を合わせ、【冷製ミルクコンソメスープ】にして使うこととした。
ネルドリップした『グルメ食材の野菜』から作った『野菜水』のクリアな味わいと干し野菜やキノコ類の旨味が米の味を最大限に引き立ててくれるだけでなく、『ET米の米乳』によって甘みと旨味が乳化しコクを深める。
さしもの節乃も『ET米』を加工食品にして使ったりはしていなかった。
しかもその味わいは、グルメ界の食材である『コンソメマグマ』にも匹敵する。
カムイは周りの料理人たちを下に見ることはしない。
『味』が認識できないほど薄くはあるが、カムイがサポートすれば『味』をちゃんと認識できることが分かっているため、見るべき点・学ぶべき点があれば何でも吸収する。
スタジエールだけではなく、十傑メンバーとの日頃の付き合いにより、カムイは彼らのセンスすらも自分のモノとしてきた。
遠月学園での十傑や幸平たちとの出会い、四宮の店でのスタジエール。これまでの経験がカムイの中で一つとなり……………フルコースの『サラダ』が完成した。
【ET米と漆黒米のサラダ ブラックドレッシング添え】
旨味が活性化した米の一粒一粒がキラキラとした輝きは、グルメ食材の『星米』以上であり、『メイン』を堪能して疲れた胃袋を優しく保護してくれるだろう。
さっそく味を見るべく『金のスプーン』で、まずはドレッシングをかけずに二種類の米と野菜の芯を頬張るカムイ。
口の中を爽快感バツグンの旨味とシッカリとした甘味が口の中に溢れ、清々しい風味が鼻を突き抜ける!
冷や米特有のサラサラとした口当たりは舌に快感をもたらし、米粒に歯を入れれば、『ET米』のアルデンテと『漆黒米のクスクス』のモチモチとした食感が心地よい。
時折顔を見せる『野菜の芯』のシャキシャキ・コリコリとした食感と香ばしさが顎を通して脳へと伝わり、食す者にさらなる快感と食欲を呼び起こす。
『サラダ』そのものの味を十分に堪能したカムイは、続けてドレッシングをかけて試食する。
醤油のように黒いドレッシングだが『ワープダイニング』で100年ほど熟成させた『長期熟成みりん』により、チョコレートのような甘い香りを漂わせるだけではなく、米や野菜たちに食欲を刺激する『照り』を生みだしていた。
『白い米のサラダ』に『黒いドレッシング』をかけて軽く混ぜたら、米と具材をまとめて頬張る。
カムイの目の前に『元の世界』の大自然の情景が映し出された!
かつて何度も往復した『グルメ界』と『人間界』、視覚だけではなく『匂い』までもが大自然そのものを感じさせたのだ!!
一瞬、元の世界に帰ってきたと錯覚してしまうが、そんなことはない。
目をゴシゴシと擦ると、そこは大自然ではなく慣れ親しんだ厨房に景色が切り替わっていた。
『サラダ』において重要な『色合い』『食感』『爽やかさ』は申し分なし。
しかしカムイの作った『サラダ』は味だけではなく、『風味』までもが脳に過去の情景を実感させるほどの味わいとなっていたのだ。
「っ~~~~~! ッ、ハァ………美味い、完成だ」
どれだけ遠くへ行ったとしても、人の心は最後の最後に『故郷』へと帰ってくるのかもしれない。
そして誰しもが思い出の中に『故郷の自然』に囲まれた記憶があるだろう。
カムイのサラダは、誰もが持つそんな『故郷の味』を思い出させるほどの『力』があり、それはカムイ自身も例外ではない。
フルコースの『サラダ』の完成を喜ぶと同時に、カムイは遠く離れた故郷や師匠、仲間たちのことを思い出したのであった。
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「誕生日?」
フルコースの『サラダ』が無事に完成したカムイは、アリスから借りた器材を返しに来たのたが、運悪く出先から帰ってきたアリスとえりなに遭遇してしまった。
「そう、お祖父様のね♪」
「遠月グループの総帥ということで、毎年盛大に行われているわ」
国内有数の財閥である【遠月グループ】、その総帥たる仙左衛門の誕生日パーティーは一族だけではなく、系列会社や友好企業の重役などを含め多数の関係者が集まる。
上流階級の社交の場としての意味合いもあることから、あまりにも出席者が多いため、遠月リゾートのホテルを丸ごと貸し切って行われているほどだ。
そんな一個人としては規模が大きすぎる誕生日パーティーだが、開催にあたって毎年ブチ当たっている問題がある。
それは、パーティーで出される『料理』だ。
何しろ『食の魔王』の異名を持つ仙左衛門のために出される料理である。
普通のパーティーで出すような料理なんか出した日には、皿どころかテーブルごとひっくり返されてしまうだろう。
そのためパーティーで出される料理は毎年遠月リゾートの総料理長である『堂島銀』が腕を振るい、主役である仙左衛門のための『特別料理』は外部の者に任せるというのが通例になっている。
そして今年はカムイにその『特別料理を任せたい』というのがえりなとアリスの頼み。
なお、カムイに『特別料理』を作ってもらうことはえりなとアリス、そして当日厨房を任されている堂島銀だけの秘密。
どうやら仙左衛門へのサプライズとして企画しているようだ。
「兄さんの料理なら絶対にお祖父様も喜ぶわ♪」
「お願いカムイくん、お祖父様は毎年楽しみにしてらっしゃるの。だから、その…………引き受けてくれないかしら////////」
(正直言って、興味ない。ただこの学校に来なかったら、フルコースの皿は埋まらなかった。
それに『お世話になった人にはお礼をしなさい』と、セツ婆に言われている)
仙左衛門への『特別料理』については祝う側も毎年頭を悩ませる問題なのだが、今年はカムイがいるので問題ない…………参加さえしてくれれば。
そして当のカムイは『食運』だけではなく、本人も全く関心を示さない。
普段のカムイであれば『食運』も『直観』も働かず、興味も湧かないということであれば完全スルーをして『アイランドシェル』へ逃げ込むだろう。
だがカムイが遠月学園に通うきっかけとなったのは仙左衛門であり、学園に来てからというものフルコースの料理の進捗は順調と言っていい。
そのためカムイとしては仙左衛門に『世話になっている』という認識があり、育ての親の1人で師匠でもある『節乃』の言いつけを破るわけにもいかない。
「………わかった」
「ホント! やった♪ ありがとう、兄さん♪」
「ありがとう、カムイくん! すぐに堂島シェフへ連絡しないと!」
少し逡巡したが、やはり『節乃には逆らえない』という思いが勝り、二人の頼みを承諾したカムイ。
また節乃の言いつけだけでなく【環境がもたらす味】を知るため、より多くの『環境』に身を置くべきだと判断したのだろう。
しかしそんなことを知らないえりなとアリスは、内心では断られることを覚悟していたため、弾けるような笑顔でお礼を言う。
仙左衛門の誕生日パーティーは1週間後。えりなとアリスは準備に奔走、カムイは必要となる食材を調達するため『アイランドシェル』へと向かった。
そうして1週間後、パーティー当日。【遠月リゾート】の駐車場にはリムジンをはじめとする高級車が見本市のようにズラリと並んでいる。
パーティー会場ではドレスやスーツを着こなした多数の男女が、堂島の総指揮の下で作られた料理を食べており、味の感想だけでなく【秋の選抜戦】や今日のパーティーで出されている料理などで話に花を咲かせていた。
「サーモンのムース、仕上がりました!」
「ウニの下処理、始めておけ!」
「舌平目のムニエル、あと10秒で上がります!」
「ソース用の生クリーム、持ってこい!」
そんな煌びやかなパーティー会場とは裏腹に、ホテルの厨房は戦場のように慌しく、シェフたちの声が怒号のように飛び交っている。
しかし総料理長の堂島はそれら一つ一つの声を漏らすことなく頭にインプット。
全体の流れをリアルタイムで把握し、脳内で適切な順序を組み立てるよう処理をしている。
「それにしても、驚いたぞカムイ。まさかお前が今年の仙左衛門殿への『特別料理』を担当するとはな」
「『お世話になった人にはお礼をしなさい』と、育ての親に言われた」
「ほう、それはまた素晴らしいご両親に育てられたな」
それなりにカムイの性格を知っている堂島も、今回カムイが了承したことに疑問を覚えていたが、育ての親のいいつけを守っているということで合点がいく。
また意外とも言うべきカムイの素直な一面と、そんなカムイに礼儀を教え込んだ人物に感嘆の意を述べた。
「ところでカムイよ。確かに『特別料理』についてはお前に一任されているが、いくら何でも『ソレ』はあまりにもみすぼらしくないか? そもそも『ソレ』はいったい何なんだ?」
「これは…………」
カムイの料理の腕前を疑っていない堂島だが、カムイが作っている品を見て流石にこの場には似つかわしくないと思ってしまう。
しかしカムイの話を聞いて納得するどころか感心し、仙左衛門の反応が楽しみになった。
場所は変わってパーティー会場では、パーティー用の料理も一通り出し終わり、今は客たちが仙左衛門のために用意したプレゼントを持ち寄っていた。
「父上、誕生日おめでとうございます」
「お義父サマ、お誕生日オメデトウです♪」
「うむ。遠路はるばる来てもらい、すまなんだ」
「何を仰いますか、父上。それにしても、『真凪』も来れれば良かったのですが…………」
「………仕方あるまい、アヤツの身体ではここまで足を運ぶのは無理だろう」
北欧から来てくれた息子夫婦に自身の誕生日を祝ってもらうが、家族の『真凪』のことを考えると顔を陰らせてしまう仙左衛門と宗衛。
そんな空気を変えようとしたのか、ドレスで着飾ったえりなとアリスがやってきた。
「お祖父様、お誕生日おめでとうございます♪」
「おめでとうございます、お祖父様。ささやかですが、こちらをどうぞ」
「おお、えりな、アリス。わざわざすまないな、こんな老いぼれのために」
アリスの天真爛漫な笑みとえりなから花束を貰った仙左衛門は、シワだらけの顔を綻ばせる。
『美食の魔王』と恐れられていても、世の年寄りのように実の孫娘には甘いのだろう。とんだ祖父バカである。
「フフ♪ まだまだ驚くのはこれからですわ、お祖父様。ねっ、えりな♪」
「ええ。本日はお祖父様のため、例年よりもとびきりの『特別料理』をご用意いたしました♪」
「そういえば、二人で何やらせわしなくしていたな。なるほど、それは楽しみだ」
「ふふ、きっと喜んでいただけますわ♪」
えりなとアリスの様子から、今日の『特別料理』は例年よりも美味なるものであると思い仙左衛門は期待を寄せる。
そうして会場の照明が消されて真っ暗となり、本日の『特別料理』が運び込まれる時間となった。
『ご来場の皆さま、お待たせいたしました。これより本日の「特別料理」のお披露目となります。どうぞ扉の方にご注目ください!』
司会者のアナウンスと同時に会場の脇にある搬入口にスポットライトが当てられる。
会場の客たちが注目する中、ゆっくりと扉が開き料理が運ばれてきた。
「っ、カムイ!」
「カ、カムイくん!? 来ていたのか!」
「カムイくん! 久しぶりデスネ♪」
ワゴンで料理を運んできたのはカムイだった。傍には総料理長である堂島もいるが、責任者兼保護者のような立場で立ち会っているのだろう。
カムイの予想外の登場に、えりなとアリス以外の来場客は驚いてザワつきだす。
「ア、アレが【神域の料理人】!」
「なんと! 今年の『特別料理』は【神域の料理人】が作ったのか!」
「さすがは総帥殿! 【神域の料理人】が料理を作りに来るほどとは!」
どんな大金を積んでも、どんな要人が頼んでも料理を作ることを拒否するカムイが、仙左衛門の誕生日のために料理を作った。
その事実だけで周囲の者は驚愕し、仙左衛門もまさかカムイが自分のためだけにここへ来たことが信じられず、目の前の人物がよく似た他人のようなモノを見る目を向けている。
「フフ♪ みんな驚いてるわ、サプライズは成功ね♪」
「カムイくん、さっそく中を見せてくれるかしら?」
「ん」
カムイの作った料理には布が被せられていてどんな料理を作ったのかは分からない。
そのため会場にいる全員は、ドキドキしながら期待に胸を膨らませており、カムイによって布を取り払われる。
だが中にあったのは、『黒い枯れ木』のようなものだった。
「っ、うむぅ…………」
「こ、これは、何とも…………」
「Oh、真っ黒な木デスネ~~~」
「え、え〜〜っと………」
「カ、カムイくん? これはいったい…………」
どんな豪華で独創的な料理が出てくるのかと期待していた面々。
しかし現れたのはどこかの火事跡から拾ってきたような『黒くすすけた枯れ木』だった。
あまりにも予想外な展開に、カムイに依頼したえりなとアリスもどう反応すればいいか困っている。
それに仙左衛門は御年八十六歳、もしこの『枯れ木』が『仙左衛門そのもの』を表しているのであれば失礼極まりない。
会場の客たちも、目の前の『枯れ木』からそのようなイメージを拭えずに困惑の空気が流れていた。
「皆さま、ご安心ください。彼が作ったこの料理、確かにみすぼらしい見た目ではありますが、コレには理由があるのです」
誰もが気まずさで何も言えないでいると、同行していた堂島がマイクで皆に語りかける。
来場客も『ちゃんとした理由がある』という言葉を聞いて、ひとまず胸をなで下ろし堂島の話に耳を傾けることにした。
「この料理が模しているのは『コトカケヤナギ』、またの名を『胡楊 こよう』でございます」
「っ、なんと『胡楊 こよう』! あの幻のポプラの木か!!!」
『コトカケヤナギ(別名は胡楊 こよう)』。キントラノオ目ヤナギ科ヤマナラシ属またはハコヤナギ属 の「ポプラ」の一種で、中央アジアから中東や北アフリカまでの乾燥地帯で見られる植物である。
主に砂漠地帯で育つ希少なポプラで乾燥に強く、タマリスクとスナナツメと共に『砂漠の三英雄(植物)』とも呼ばれ、その中でも胡楊は特に長寿で秋には綺麗に紅葉する。
【生まれて千年死なず、死して千年倒れず、倒れて千年朽ちず】といわれるほど強い生命力を持ち、「三千年ポプラ」の異名を持つ。
そのため一番古い胡楊にいたっては、なんと六千万年の歴史があるという。
「なるほど、『三千年ポプラ』か。縁起が悪いなどとはとんでもない! 父上の誕生日祝いとして、コレ以上の品は無いだろう!」
「一口目はもちろん仙左衛門殿に召し上がっていただきたい、カムイ」
「ん」
「かたじけない。では、いただくとしよう」
まさしく『不滅』『不倒』『不屈』『不朽』の象徴。
その生涯を終えても決して衰えを見せない『胡楊』の在り方に一同は感銘を受け、仙左衛門はカムイが切り分けた一部を実食する。
仙左衛門が枝の切れ端を噛むと、口の中に旨味とコクが熱気によって爆発!
さらには驚異的なまでの『粘り気』が溢れ出てきた!!!
「コレは…………『チーズ』か! 四種のチーズを配合した【クアトロ・フロマージュ】!!
だがこれほどコクと粘り気のある『チーズ』は、未だかつて食したことが無い!!!」
【クアトロ・フロマージュ(クアトロフォルマッジ)】とは、イタリア語で「4種のチーズ」という意味のピザ。
一般的にはゴルゴンゾーラ・モッツァレラ、パルミジャーノ・レッジャーノ、タレッジョなどの4種類のチーズが使われ、それぞれ異なる風味を持つチーズを組み合わせることで、独特のハーモニーを生み出す。
トマトソースを使わない「ビアンカ」タイプが多く、シンプルにチーズの風味を存分に楽しむことができるスタイルなのだ。
「なんという粘り気よ! この粘り気が、ただでさえまろやかな旨味たっぷりのチーズのコクを最大限に高めている!!
なのに濃厚かつ重厚でありながら、後口が素晴らしいほど軽やかだ!!!」
チーズが伸びるのは、主にタンパク質のカゼインが熱で柔らかくなり、糸状の構造を形成するためである。
チーズの主成分である『カゼイン』はアミノ酸が特定の配列で集まったタンパク質であり、耐熱性や伸びやすさの特徴を持っているのだ。
加熱するとカゼインの集合体(カゼインミセル)が柔らかくなり糸状に伸びる性質が生まれ、逆に熟成が進むとカゼインが分解されて伸びにくくなる
モッツァレラチーズなどが特によく伸びるのは、『パスタフィラータ製法』によるもの。
これは固まった乳を高温の湯で練り、繊維状にする工程でチーズ内部が糸状の組織になる。この構造により加熱すると細長い糸のように伸びるのだ。
そしてチーズの伸びはタンパク質・脂肪・水分・熱のバランスで決まる。
モッツァレラチーズは50〜60℃で最もよく伸び、温度が高すぎると脂肪と水分が分離して伸びにくくなる。
そのため家庭での加熱では、電子レンジよりも弱火でフライパン加熱が伸びやすい。
だが全てのチーズが伸びるわけではなく、モッツァレラやラクレットのようにメルト性が高いチーズはよく伸びる。
一方で、パルミジャーノ・レッジャーノやペコリーノ・ロマーノは少し柔らかくなる程度で、カッテージやフェタは加熱しても硬くなる。
これはチーズ中のカルシウム含量やカゼインの会合体の性質によるものである。
即ちチーズの『伸び』とは、カゼインの糸状構造と加熱による柔らかさと製法や水分・脂肪・温度の条件が組み合わさった結果なのだ。
そして『中華あんかけ』やトロみのあるソースのように、『粘り気』は料理において『コク』に直結する要素でもある。
カムイが今回使用したのはグルメ食材の『白毛シンデレラ牛』『ミルクジラ』『スカーレットシープ』『ヤサグレヤギ』から採れた『ミルク』で作った自家製チーズ。
チーズは『ミルク』に羊の第四胃から取れる『レンネット』という酵素を混ぜて温めることで作られる。
米や豆類で作った植物性ミルクからでも『チーズ』は作れるが、『伸び』に関わる『カゼイン』が含まれないため、カムイは動物性のミルクを使用した。
なお、熟成やチーズを固める際は風通しの良い冷室に置いて作られる。
カムイは今回『生チーズ』として使っていたため冷室に置くことはしていないが、ポプラの木を表現するために『芯』となる部分をチーズで作って冷やし固める。
竹炭と『シーズニングスパイス』を卵白を混ぜて全体にまぶし、別のチーズで覆ったらまた冷やして固めて竹炭&スパイスをまぶすという工程を繰り返した。
そうして出来上がったチーズをとろけるようにするため、最後に遠赤外線で加熱する。
この時チーズが混ざらないようチーズで作った芯が『竹炭パウダーを厚く纏わせる』⇒『生チーズで覆う』を繰り返していたため、木の年輪のように四層に仕上がるのだ。
さらにカムイはチーズを練り上げる際に『金の菜箸』で高速回転、アイスクリームの撹拌機さながらに空気を極端に含ませることで、アイスクリームのように乳脂肪分が放射線状に均一に広がり極上の滑らかさを実現。
これにより粘り気がありながらも、極めて軽やかな口当たりでコクのあるチーズを作り上げた。
こうして作ったチーズを最後に炭火で囲むことで、竹炭は熱で黒さを増して『枯れ木』が表現される。
四方からの炭火による遠赤外線効果で、外はサクッと中はトロトロにとろけたチーズ。
食べ始めはそれぞれのチーズがそれぞれ鮮明に感じられるが、咀嚼を繰り返すことで四種のチーズが混ざり合いコクを深める。
まさに日本人特有の『口中調味』を計算に入れた【自家製チーズのクアトロ・フロマージュ】が完成したのだ。
「樹齢何千年の大樹を思わせるような深いコクと旨味! それでいて些かもしつこくない軽やかな口当たり!
だが驚異的な粘り気には、ある種の『意志の強さ』とも呼ぶべき力強さを感じる!」
カムイの料理を食べて仙左衛門は『胡楊』の在り方、即ち『大木のような質実剛健さ』と『未練がましさの無い潔さ』。
そして『どこまでも自分らしさを貫く図太さ』を感じ取っていた。
「どれだけ老いたとしても、常に『己自身』を貫き通す『粘り強さ』! それを一皿で表現するとはあっぱれなり!! 儂もかくありたいものよ!!!」
カムイの『特製クアトロ・フロマージュ』を食べて仙左衛門からおはじけ&おさずけパルスが迸る!
えりなとアリスを除き会場の客はおろか、ホテル内の従業員にいたるまで服と下着が弾け飛び、ホテルは全裸の男女で溢れて騒然と混沌の坩堝(るつぼ)となってしまった!!
「カムイよ。この料理、皆にも食べさせて良いか?」
「ん」
(やっぱりこの世界の人間は、美味いものを食べると全裸になるのか? 美味さを身体全体で表現してるのだろうか?)
あの後、仙左衛門が周りの人間の服を弾け飛ばす事態を想定していた堂島によって全員にバスローブが配られ、どうにか事態そのものは落ち着いた。
ただ従業員はともかく、客たちの服は一着数十万から数百万もする高級品なはずなので、被害総額を考えれば目まいがする思いだろう。
カムイもカムイで見渡す限りの男女がいきなり全裸になるという怪奇現象を前に疑問は尽きなかったが、今回の料理は仙左衛門のために作ったものなので、仙左衛門が望むなら他の者が食べても問題ないと考えた。
とりあえず衣装の弁償については後で考えることにした仙左衛門は、せっかくのカムイの料理なので客たちにも食べさせようと提案。
カムイも承諾したことで、『特製クアトロ・フロマージュ』を皆で食べることにした。
「ん~~~♪ スゴイ粘り気! モチよりもずっと伸びるのに後口が爽やか! これがチーズだなんて信じられない♪」
「トルコアイスのような粘り気だが、こちらの方が軽やかで口の中で溶けていく!」
「この四種のチーズ! 一つ一つが凄まじく濃厚でコクがあるのだが、四つ合わさることで昇天するような美味となる!!」
「チーズを分けている竹炭も実に香ばしいわ! 濃厚なチーズに素晴らしいアクセントを加えてる♪」
「Oh~~! ナッさん、どうしてワタシだけ別室なのデスカ!?」
「分かってくれレオノーラ! 一度ならず二度までもキミの裸を晒すわけにはいかない!!」
「おいしい~~~♪ まるでアイスクリームのような滑らかさ、それでいて味わいは紛れもなくチーズ!
なのに後味が軽やかでスッキリしてる! さっすが兄さんだわ♪」
「ええ、たぶんチーズを作る時に細心の注意でキメ細かく攪拌させたのね!
さらに四種類の極上チーズが微妙な違いを出していて、食べれば食べるほど魅了されてしまうわ!!」
会場にいる客全員が全裸になって美食を味わうなどとんだ『酒池肉林』だが、バスローブを着ているのでギリギリセーフだろう。
互いに生まれたままの姿をさらけ出したことについては忘却の彼方へと押しやり、気を取り直してカムイの料理に舌鼓を打った。
かくしてパーティーはつつがなく?終わり、来場客も噂の【神域の料理人】の料理を食べることができてプラマイゼロと考え、帰る道中も『特製クアトロ・フロマージュ』の味を思い出しては頬を綻ばせていたという。
仙左衛門の年齢って確か八十六歳で合ってましたよね? 間違ってたらスミマセン!
調べてみたら『グルメ食材』の『チーズ』って、『ミネラルチーズ』『トロルチーズ』『サンシャインチーズ』とクセが強い上にそんなに種類が多くなかったんですよね。
なので牛・羊・山羊とかのミルクから自家製で作ってみました。なお『スカーレットシープ』は【食戟のサンジ】に出てきた『スカーレット・レッドヒツジ』をモデルにしてます。
【グルメ食材】
『ET米』『漆黒米』『クリーム松茸』『チーズ白菜』『ゴールデントウモロコシ』
『エナメルキャベツ』『アーモンドキャベツ』『白毛シンデレラ牛』『ミルクジラ』『ヤサグレヤギ』
【オリジナル食材】
『スカーレットシープ』
それでは皆さん、次回で♪
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