ようやく、十傑との食戟が終わります。たった二話しかやっていないのに、大量に料理の描写を書くのがキツかった…………………………。
たぶん主人公がこんなに大量に料理を作ることは、当分無いでしょう。
第六席の紀ノ国寧々が会場の隅へ移動、他の敗れた3人と一緒にカムイと三年生たちの食戟を観戦する。
第五席の斎藤綜明とのテーマは『マグロ』。寿司職人である斎藤が最も得意とする食材であり、自身の実力を存分に発揮できる食材でもある。
斎藤は自身が常に持ち歩いている刀のような包丁『マグロ包丁』にて巨大な本マグロを瞬く間に捌いていき、『握り』『炙り』『漬け』『軍艦』『手毬寿司』と各部位ごとに多種多様な寿司を握っていく。
シャリもマグロに最も合うとされる塩と酢だけで作り、固さもシャリに含まれる空気の量を種類ごとに完璧に調整。
今まで何度も同じ調理経験を繰り返してきたことが分かる熟練の手練で、次々と出来上がっていく寿司に観客たちも感嘆している。
対してカムイは『金の包丁』でマグロを解体、部位ごとに既に切り分け終わっている。観客もいつの間に解体したのか全く分からなかった。
だが何より信じられないのは、カムイが包丁で切ったマグロの身を………………………オーブンに入れていることだった!!!
(…………………どういうことだ? せっかく完璧に解体したマグロ。拙者のように炙るならまだしも、オーブンに入れて火を入れるなど……………………)
斎藤が不思議に思うのも無理はない。マグロは多くの血が身に残っているため、オーブンやフライパンなどで中まで熱を入れると鉄分の味が前面に出てしまう………………………ハッキリ言って美味しくない。
だからこそ大抵はバーナーで表面を炙るだけに留めるのだが、カムイは明らかに中まで熱を通そうとしている。
斎藤だけではなく、観客たちもカムイの意図が図り切れていない中、斎藤の料理の実食が行われる。
斎藤が出したのは『十種のマグロ寿司』。様々な部位を様々な調理法で異なる味を引き出した十種類のマグロ寿司の盛り合わせである。
その中でも特筆すべきは、赤身で構成された皿の上にある………………………………『白い寿司』だった。
「ふむぅ、なるほど。コレは『マグロの筋』だな」
「いかにも。筋抜きしたマグロの身の後に残った白い筋、それを叩いたものをバーナーで炙ったものだ」
通常、マグロの身を切る時は柵から身の筋に逆らって切っていく。しかし斎藤は逆にマグロの筋に沿って包丁を入れ、一間一枚引き剥がすように身を斬っていった。
そのため切り終えた後には白い筋だけが残り、それを集めて包丁の背で叩く。筋は紐のように細く見た目も悪いが、中には身以上のエキスが詰まっている。
それをシャリの上に乗せた後でバーナーで炙り、旨味と香りを引き出したのだ。
他のマグロ寿司も部位ごとに炙ったり漬けにしたりと様々だが、審査員はこの『筋の炙り寿司』を絶賛。
通常は食べないであろう筋まで使い魅力を全て引き出しきったマグロと、シンプル極まりないシャリの味が溶け合う美味に酔いしれる。
続いてカムイが出した料理は……………………大振りにカットされたマグロが四つ乗せられた皿と赤黒い液体が入っているソースポットだった。
十種類もの寿司を見た後では、あまりにもみすぼらしく感じてしまうものであった。しかしこれまでのこともあるため、油断は出来ない。
斎藤と審査員たちがフォークとナイフで切り分け、慎重に口へと含む。
「「「「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」
(っ~~~~~~、何というジューシーさ! 牛のローストのように、噛めば噛むほどマグロの肉汁が口の中に溢れてくる!!
いや、しっとりとした滑らかな舌触りと牛特有のくどさが無い点を考えれば、牛のローストよりも上だ!!!)
カムイが使ったマグロはグルメ食材である『エレファントマグロ』、部位は『ツノトロ(脳天)』『カマ下』『すなずり(へその周辺)』『ヒレ下』といずれもマグロの中でも希少な高級部位ばかり。
その希少部位の熱を通したマグロの旨味に、斎藤は心身が震え2名の審査員も涙を流しながら食べている。
(だが、何故だ!? マグロに火を通してしまえば、身に含まれている血液の鉄分が凝固して味も舌触りも悪くなるはず!!!
それなのにこの滑らかな舌触りと『純そのもの』と呼べる旨味はいったい…………………………)
未知のマグロの味わいに戦々恐々となっている斎藤、その疑問に『おはじけ』&『おさずけ』パルスを周囲に撒き散らしている仙佐衛門が答える。
「このマグロ、鮮度や味わいは近海の本マグロを遥かに凌駕している。だがこの味わいの秘密……………………それは『血抜き』の量だ」
「っ、ち、『血抜きの量』………………そうか、このマグロは『加熱用』に血の量を調整しているのか!!!!」
仙佐衛門が言った通常では考えられない方法に、斎藤もようやく正解へと辿り着く………………そう。斎藤は冷凍のマグロを使ったのに対して、カムイは自分で漁獲したマグロを使っていたのだ。
一般的にマグロは遠洋漁業、漁獲されたマグロはその場で内臓や血抜きがされて冷凍保存される。そしてそれらは『生』で食べることを前提に処理がされる。
しかしカムイは自分で海に潜り、自分で魚や海獣をノッキングして捕獲する。そして血抜きも自分で行い、『加熱用』と『生食用』で血の量を調整していたのだ。
「拙者が今まで扱っていたのは『生食用』のマグロ。どうやって手に入れたかは知らぬが、『加熱用』に血の量が調整されたマグロを調理するとこれほどまでに美味とは…………………………」
「いいや、この料理の白眉はマグロの身だけではないぞ。ソースもかけて食してみよ」
「? ソースを?」
初めて食べる完ぺきに加熱されたマグロばかりに気を取られ、ソースの存在をすっかり忘れていた斎藤は仙佐衛門の促されるとおりにソースをかけて食べる。
(!!!!!!!! なんと……………………濃厚なマグロの味が怒涛の如く押し寄せてくる!!! これは、このソースは……………………まさかっ!!!!)
「さよう。このソースはマグロの血に『マグロの骨髄』を溶かし混ぜ、赤ワインや香辛料などで煮詰めたものだ」
肉と血を別々に調理したり、血に骨髄のエキスを混ぜてソースを作ることはフランス料理では珍しくない。鹿、鳩の他に代表的な食材としては鴨が挙げられる。
またフォンドボーのように牛などの骨を煮だして骨髄から出汁を取るのは、フランス料理の基本である。
しかし加熱することを想定したマグロから血を抜き、肉と血を別々に調理。さらにはマグロの骨髄から出汁を取り、血と合わせることなど誰が思いつこうか。
ましてや、寿司職人である斎藤からすればマグロを加熱するという選択肢は存在していなかったに違いない。
(骨髄とは即ち『脂身そのもの』。そしてマグロの脂の融点は牛などに比べてずっと低い。これが牛や鳥などの骨髄を使えば、くどくてマグロには合わなかっただろう。
だがマグロの骨髄だからこそ、これほどまでに滑らかで深いコクを生み出し、かつマグロの血とも完璧に調和できたということか………………………………)
マグロはタンパク質の含有量から他の魚よりも牛肉に近い。そこにヒントを得て自ら血の量を調節し肉を熟成。
フランス料理の技法を持って、新しいマグロ料理を生み出したカムイに斎藤は心から敬服した。
結果はカムイの圧勝、だが斎藤は新しいマグロの味と魅力を知ることが出来て満足そうに調理場を離れていった。
斎藤が敗れ、次は十傑唯一の菓子職人『茜ヶ久保もも』の料理が運ばれる。センスにおいて『可愛さの申し子』とも言うべき彼女の品は『イチゴのミルフィーユ』。
春が旬の『イチゴ』がテーマだが、作る料理としてはあまりにも平凡と言える……………………しかしそこには十傑第四席としてのセンスが多数盛り込まれていた。
生地は通常の小麦粉ではなく、アーモンドパウダーで作り香ばしさを強調。間に挟んであるクリームは生クリームではなく、イチゴのペーストを裏ごしして混ぜて作った『ストロベリーアイスクリーム』。
さらにアイスクリームだけではなく、別の層にはイチゴのコンフィチュールを挟み『アーモンド生地』『イチゴコンフィチュール』『アーモンド生地』『アイスクリーム』と順番に重ねていく。
その結果、茜ヶ久保の『ミルフィーユ』は十もの層で構成されていた。
そしてアイスクリームが溶けないようオーストリア産イチゴのワインをアルコールを飛ばし、カカオ100%のチョコレートに混ぜてコーティング。
トッピングにはイチゴを急速冷凍させて作った『イチゴのクラッシュ』を散りばめて完成。
ミルフィーユ生地は極薄でありながらも香ばしく、コンフィチュールの舌に響くような甘酸っぱさがアイスクリームと混ざり合う。
コーティングに使ったチョコには敢えて砂糖は使わなかったことで、チョコのほろ苦さがアイス&コンフィチュールとマッチし、口の中で甘さの変奏曲を奏でる。
そうして茜ヶ久保が生み出すスイーツの世界の虜になっている審査員の前に出されたのは……………………カムイの『イチゴのタルト』。
これまで通り自分の分を真っ先に完食し、料理を置いたら何も言わずに別の調理に取り掛かっていくかと思いきや……………………今回は少し違った。
「なに、この真っ黒な生地。焦げてるじゃん」
茜ヶ久保の言う通り、カムイのタルト生地は真っ黒に焦げていたのだ。
上に乗っているイチゴはキャラメリゼされて香ばしい香りを出しているのだが、生地は焦げて明らかに失敗作に見えてしまう。
料理人が最も犯しやすく、最も犯してはいけないミス。それが『焦がす』という行為。
今までの料理が超絶的な美味を感じさせる香りや見た目であっただけに、審査員も観客も戸惑っていた。
しかしカムイは周りの反応に一切取り合うことなく、【仕上げ】へと入っていく。
ピピピピピピピッッッッッッ!!!!
カムイが『金の包丁』でタルト生地に切れ目を入れると表面が剥がれ………………………中から金色に輝く生地が出てきた!!!!
「っ、こ、これは…………………!」
「っ~~~~~、なんと美しい…………………」
(まるでお菓子で出来たミニチュアサイズの王冠! か、可愛い~~~~~~~~/////////////)
黒焦げの生地の中から出てきたのは金色に輝く生地とその中に練り込まれた色とりどりのベリー! さながら金の王冠に数多の宝石が装飾されているかのようだった!!
ピピッ!!!!
あっという間に様変わりしたタルトに全員が目を奪われている中で、カムイは放射線を除去した『原油チョコレート』を刷毛で素早く塗り終える。
すると金色の生地に茶色く陰影が生まれ、果物の輝きが一層奥深くなった。
チョコを塗り終えたカムイは『やることは終えた』と言わんばかりに自分の分のタルトを口へ放り込み、別の料理の調理へと戻っていく。
「では、いただくとしよう」
仙佐衛門の言葉に、正直言って目の前の美しい造形美を崩したくはないと考える茜ヶ久保と審査員。
だがこれは料理勝負、実食なしには成立しない。後ろ髪を惹かれる思いで、三人はタルトにかぶりつく。
「「「ッッッッッッッッッッッッ~~~~~~~~~!!!!!!」」」
かぶりついた瞬間に口の中へ広がる素敵な甘酸っぱさと香ばしさ! だが咀嚼していくうちに甘酸っぱさが甘さへと変化、香ばしさも穏やかになっていき口の中を心地良い微香が満たしていく。
(っ~~~~~~、これは……………………『タルト・タタン』!? しかも生地は『逆さ折り』で焼いてる!!!)
【タルト・タタン】。普通タルト生地を器に盛り付ける際は、生地を入れてから生クリームなどの具材を乗せていく。
しかし【タルト・タタン】は先に果物を器に敷いてから生地を被せていく手法。果物が下になることで器の熱が果物の糖分をキャラメリゼし、より香ばしさを醸し出すタルトとなるのだ。
さらにカムイは『生地⇒バター』の順にタルト生地を作るのではなく、『バター⇒生地』の順で包んでいく【逆さ折り】でタルト生地を作った。
これによりバターが外側に来るため、より香ばしさを前面に押し出すことが出来る。
『逆さ折り』は主にパイで使われる技法で『フィユタージュアンヴェルセ』と呼ばれており、濃厚なバターの風味と均一な生地の膨らみによる食感が特徴だ。
(普通はパイやミルフィーユで使われるやり方なのに、パイ生地よりも薄く仕上がる『タルト』生地で作るなんて信じられない!)
一流のパティシエでも【逆さ折り】が出来る者は限られている………………………そのうえパイ生地よりも薄いタルト生地ではパイ生地で作る以上に温度管理が難しく、まともにやれば折っていく際に手の熱で生地もバターも溶けてしまうだろう。
だがカムイは温度調節した『グルメケース』の中、手では持たずに箸で摘まんで折ることで、この難題をクリアしたのだ。
しかも常人離れした神業により、平均792層で作られるタルト生地は、何と50万近くの層にて形成されたのである。
生地の層が多ければ多いほど、タルトは香ばしさを増す。世界中を探してもこれほど香り高いタルトは存在しないだろう。
そして具材にはグルメ食材の『ストロヘビィー』のイチゴや『キューティクルベリー』、さらには『グランドベリー』を『ハニードラゴン』のハチミツで漬け込んだものと『ミルクジラ』の潮で作った生クリームを使用。
生地の側面にもベリーを張り付けてクロワッサン生地を重ねて焼く。
表面のクロワッサン生地は黒焦げになってしまうが、それがガードとなり中の生地や張り付けた果物が焦げつかずに熱を通すことが出来る。
(なんて安心できる香ばしさ!! こんな、こんな香ばしくて美味しいスイーツ初めて!!! いつまでもこの香ばしさに包まれていたい////////////)
『果物の香ばしさ』
『生地の香ばしさ』
『バターの香ばしさ』
『チョコの香ばしさ』
火の当たりを調節したことで、一つのスイーツの中に四つの異なる香ばしさを演出したカムイの『タルト・タタン』に、茜ヶ久保は目をハートまみれにしてときめいていた。
香ばしさを極限まで突き詰めたカムイの『タルト・タタン』に仙佐衛門は『おはじけ』&『おさずけ』、審査員と茜ヶ久保は陶酔しきっていることから勝敗は明らかである。
息を荒くしながら頬を赤らめる茜ヶ久保が係員に運ばれていき、次は第三席である『女木島冬輔』。
テーマ食材は『麺』と生粋のラーメン職人である彼のためにあるような食材である。
女木島は遠月学園でも珍しく、【食戟】をはじめとした料理勝負に全く興味が無い男である。遠月学園に来たのも日本一の料理学校という風聞から、より料理の腕を高めるため。
しかし周りの生徒たちから引っ切り無しに勝負を挑まれてしまい、気づいたら第三席になっていたという極めて異例の出世である。
そんな【食戟嫌い】な女木島であったが、カムイとの料理勝負に関しては不思議とやる気に満ち溢れていた。
(まさかあの歳で『刀削麺』を作れるとはな………………………コイツには、俺の全てをぶつけたくなった!!!)
仙佐衛門の指示でイヤイヤ参加していた女木島。しかし紀ノ國との勝負で見せた『刀削麺』を見て、ラーメン職人としての血がふつふつと沸き上がってきたのである。
女木島が作る料理は常に『ラーメン』、どんな食材がテーマであっても必ず『ラーメン』に落とし込むという長い遠月学園の歴史から見ても異色の料理人である。
今回作るラーメンは『鶏そば』。愛知県の地鳥『名古屋コーチン』を主体に鶏ガラだけではなく丸鳥とモミジ(鳥の足)まで使ったスープ。
麺は『名古屋コーチンの卵』を練り込んだ『特製 卵麺』。具材には『名古屋コーチン』の胸肉を使った『鶏チャーシュー』にスープで煮込んだ『半熟煮玉子』とモモ肉。
仕上げに香味野菜の香りと薬味を染み込ませた『鶏油 チーユ』をかけて完成。
鶏! 鶏!! 鶏!!! 徹底して鶏一羽の旨味が凝縮された『鶏そば』に審査員はノックアウト!!!! 仙佐衛門も一口で『おはじけ』をするほどの完成度であった。
会場に広がる鶏の香りに観客たちが生唾を呑み…………………そしてカムイの料理が運ばれる。
(コイツは『油そば』か。なるほど、確かに『麺』の味を一番味わえる料理としては、うってつけかもしれねえな。この麺の黒さは、たぶん『黒ゴマ』を粉末状にして麺に練り込んだか)
【油そば】。麺をスープではなく薬味の成分を染み込ませた香味油とタレで食べる料理。スープが無いので麺の味がそのまま料理の良し悪しを左右する料理である。
女木島と審査員たちは『油そば』を丹念にかき混ぜてから、黒い麺を香味油にタップリと絡めて一気にすする。
「「「「!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
突如として弾ける麺の弾力! その瞬間に口内を満たす様々な旨味!! 審査員である教師たちは一心不乱に麺を掻き込んだ!!!
(っ、何て弾力だ!? 歯を入れた瞬間にブチッブチッと心地よく切れていく! ま、まさか、この麺は…………………………!)
「ふむぅ。この味、この弾力、この香ばしさ………………………これぞまさしく『伊府麺 イーフーメン』。よもや『刀削麺』だけではなく、『伊府麺』まで作れるとはな」
「『伊府麺』!? やっぱりか!!!!」
【伊府麺 イーフーメン】。水を一滴も使わず、小麦粉と卵だけで作る中国は広州において最高級の麺である。水を一切使わないため生地は非常に固く、今では機械で作るのが主流。
しかし猛獣すら仕留めることが出来るカムイの力を持ってすれば作ることは容易い。
加水率が極限まで抑えられているため、麺の味をストレートに味わえることから『刀削麺』と並ぶ『中国五大麺』の1つである。
(麺が切れると口に広がるは『スッポン』の旨味! スッポンの味と生姜などの薬味が溶け込んだ香味油が麺に染み込んでいて、とてつもねえ美味さになっていやがる!!!)
【伊府麺】はお湯で茹でずに低温の油で揚げて作る、これにより麺の中に気泡が多数できてスープやタレの味をよく染み込むのだ。
また、スッポンのスープもカプチーノ(泡)状になるまで乳化させたことで【伊府麺】にこれ以上ないほどに吸収されていた。
カムイの調理によって最大化したスッポンの旨味が余すことなく吸収されている【伊府麺】。
しかも麺に使ったのは、超特殊調理食材である『金色小麦』から作った全ての麺の特性を合わせ持つ『全麺』に、黒ゴマを『金のすりこぎ』で細かくした粉を混ぜた特製麺。
黒ゴマはどれだけ丹念に挽いても必ずザラツキが残ってしまう。
そのザラツキが口当たりを悪くしてしまうのだが、カムイの猛獣をも仕留める『パワー』と永久不滅のグルメマターである『金のすりこぎ』によって、黒ゴマは口当たりが滑らかになるよう微粒子レベルにまで細かくされていた。
はちきれんばかりに凝縮された『スッポン』と『麺』の旨味が香味油と溶け合い、トロトロになるまで『灼熱コークス』で炊かれたスッポンの肉が、口の中に極上の幸福と満足感をもたらす!
結果は言うまでも無く、カムイの勝利。しかし女木島は、麺の味を極限まで追求して高めたカムイの技術に感嘆。心の中で『何とか弟子入りできないものか』と考えていた。
敗れた女木島は会場の端でカムイの技術を余すことなく目に焼きつけようとしている。
次に実食するのは第二席の『小林竜胆』。テーマ食材は『ダチョウ』と今回の料理勝負の中では最も変わり種である。
しかし世界各地の秘境を巡り、数多のキワモノを食べてきた竜胆にとってはむしろ普通の食材とも言えた。
竜胆が作った料理は『ダチョウの首肉の赤ワイン煮』。牛肉の赤身のような食感だが牛・豚・鶏・羊のような明確な肉汁が無いダチョウ肉。
しかし小林が使ったのは牛テール肉のようにゼラチン質を豊富に含み、ツルンとした喉越しが特徴の『ネック(首肉)』。
軽く塩をふった骨付きのネックを強火で網焼きし、おろしニンニク・砂糖・醤油・黒コショウを加えながら鍋で焼き、オリーブオイル・水・赤ワインと共に圧力鍋で煮込む。
付け合わせにジャガイモのポムスフレとホワイトアスパラガスのマッシュを用意して完成…………………ではなかった!!!
「っ、これは……………………『ミミズ』か。泥抜きをしたミミズを油でサッと揚げることで旨味が凝縮、まるで鶏肉で出来た煎餅を食べているような味わいだ」
仙座衛門の言葉に観客たちがざわつく。竜胆が一般的ではないキワモノを好んで使うことは知っていたが、よもや『ミミズ』を持ち出してくるとは思わなかったのだ。
『ミミズ』は主にタイやベネズエラで食べられており、中国でも乾燥させて粉末にした粉を漢方として利用することがある。
また、その栄養価は非常に高く特にタンパク質やアミノ酸、ミネラルの含有量は鶏肉以上である。
「揚げたミミズのグニャッとした食感がちょうどいいアクセントになって、噛み締めるたびに淡白な旨味が滲み出すんだ。
ミミズの淡白な味が、濃厚なダチョウ肉の煮込みで疲れた舌を休ませてくれるってわけさ♪」
竜胆の言う通り、トロリとネックが舌の上でとろけ、フルボディの赤ワインの味わいが淡白なダチョウ肉に力強さを与えている!!
濃厚すぎる味にやや飽きたところで、合間に食べるミミズが舌をリセット。審査員はまた食べ進める!!!
牛や羊とは違って、味に特徴の無いダチョウ肉をフルコースのメインディッシュ級に仕上げた竜胆の腕前に驚嘆する……………………そこに今度はカムイの料理が運ばれてきた。
しかしカムイの料理を見て、竜胆はじめ審査員と観客は皆一様に首を傾げてしまう。
カムイの料理はアルファルファやモロヘイヤと言った野草の上に『ダチョウの生肉の薄切り』を乗せ、赤と黄色のドレッシングをかけた『カルパッチョ』のように見える………………………けれどただ一つ、明らかに異様な部分があった。
「おいおいおい、どうなってんだこりゃあ!? お題は『ダチョウ肉』だろう? それなのに………………………何で『霜降り』が出来てんだよ!!!」
竜胆が驚くのも無理はない、ダチョウは紛れもなく『鳥類』。ましてや肉は筋肉質な赤身で、マットな食感が特徴である。だからどう育てようが絶対に肉へ『サシ』が入ることは無い。
一瞬カムイがルール違反をして別の肉を使ったとも考えたが、いくら何でも露骨すぎる。
本人に確かめようとするもカムイは既に最後の料理の調理に取り掛かっているため、確かめることは出来ない。仕方なしに竜胆と審査員はダチョウ肉を頬張る。
「「「「っっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!」」」」
ダチョウ肉を口に含んだ瞬間に広がるミルキーな味わい! つきたての餅のようにしっとりと舌へまとわりつく食感!!
赤いドレッシングのピリ辛味と黄色のドレッシングのまろやかさがそれらをより強く、より深く強調している!!!
通常ではあり得ないダチョウ肉の味わいに、もはや単なる美味さを超えた快感を食す者にもたらしていた!!!!
(ッ、ウ、ウソだろ…………………ダチョウ肉が何でこんな素敵な味わいになってんだよ!? ダチョウ肉は何度も食べたことがある。
私のように何か強い味の食材で味つけしたのならともかく、単にダチョウの血と卵で作ったドレッシングをかけただけなのに…………………………何でこんな美味くなるんだ!?)
審査員は無言でダチョウ肉を貪り、仙座衛門は本日何度目か分からない『おはじけ』&『おさずけ』を炸裂させる!
竜胆は一枚一枚ではなく、フグ刺しみたいに数枚の肉をまとめて口に入れて必死に味を分析する。
しかしいくら考えても答えは出てこない。このミルキーでクリーミーなコクのある味わいはダチョウ肉に入っている『サシ』から来ていることは分かったのだが、その正体が分からない。
竜胆はダチョウ肉はそのままに、そこへ旨味を重ねるだけだった。だがカムイは『ダチョウ肉そのもの』の味を何十倍にも増幅しているのである。
竜胆も仙座衛門も審査員の教師も極上の霜降り肉は何度も食べてきたが、彼らの食の経験値をもってしても初めて体感する味わいだった。
淡白過ぎて味自体にはこれと言った特徴の無いダチョウ肉が、まったく別次元の未知な味わいに変貌していることに戸惑っていると……………………………仙座衛門が『サシ』の正体に気が付いた!!!
「これは………………………『ハチノコ』かっ!!!」
仙座衛門がダチョウ肉についているサシを指に取って見ると、竜胆も同じようにサシだけを取り分けて観察する。
(っ、ハ、ハチノコ!? ハチノコって、蜂の幼虫だよな? 確かに、初めて見る種類だけどハチノコっぽい………………………そうか、このチーズみたいなクリーミーさはハチノコの脂肪分が生み出していたのか!!!)
そう。カムイは『活性切り』でダチョウ肉の旨味を活性化させた後、様々な果物のハチミツを作る『フルーツビー』のハチノコを足と頭を取り除いて肉全体にまぶし、その上にダチョウ肉をかぶせて切り口を塞ぐ。
これを何度も繰り返すことで、肉内部にハチノコを埋め込んでいたのである。
『ハチノコ』を食べること自体は世界的に珍しくはない。『ハチノコ』は豊富なミネラルやアミノ酸を含んでおり、その栄養価の高さから『準完全食』にも数えられているほどだ。
また日本でも古くから食べられている食材であり、今でも石川県辺りでは郷土料理として親しまれている。
ダチョウ肉の最大の特徴であるキメ細かな肉質を生かすため、肉は生で提供。しかしそのままでは味が無いため、ハチノコの脂肪分で肉の旨味を増幅。
ダチョウの血と卵から作った2色のドレッシングで味を引き締めつつ、モロヘイヤやアルファルファなどの野草が口の中をサッパリさせ、また肉への食欲を掻き立てる。
テーマである『ダチョウ肉』の魅力を限界以上に引き出したカムイの料理を前に、竜胆は自ら負けを認めた。
しかし心の中では、『また料理を作ってもらおう!』とカムイに付きまとう気が満々であった。
竜胆がカムイのことをロックオンすることとなり、周りの十傑たちが黙祷を捧げていると……………………いよいよ最後の料理が運ばれてきた。
最後は【遠月十傑】のトップ、この学園で最高の料理人である第一席『司英士』。テーマ食材は『鹿肉』、日本ではあまり馴染みは無いがフランスではポピュラーな食材である。
司の料理は自身の『必殺料理 スペシャリテ』である【白き鎧の皿 ソース・シルヴァイユ】。
塩で食材を包んで火入れする『塩釜』という技法で鹿肉の旨味を凝縮した一品だ。
美しく輝く料理に審査員はナイフを入れることすら躊躇う…………………やがて意を決してナイフで一口サイズに切り、勢いよく食らいつく!
「「っ〜~~~~~~!!!!」」
食べた瞬間、鹿肉が持つ肉汁・香り・血の旨味が爆発する!!! 『塩釜』によって封じ込められていた美味しさ全てが舌だけではなく鼻の奥にまで響き渡る!!!
それはまさに、人間の持つ感覚器官全部を激しく揺さぶる味わいであった。
その完成度の高さは、これまでカムイの料理でしか見られなかった仙座衛門の『おさずけ』が発動することからも見て取れる。
まさしく現遠月トップ、第一席の面目躍如とも言える料理だろう。
観客たちも『これほどの料理を前に流石のカムイでも太刀打ちは出来ないだろう』と考える………………………そんな空気が漂う中で、最後のカムイの料理がクロッシュで蓋をされたまま提供された。
これまでの経験から、クロッシュをして提供されると食欲に直撃する香りが充満することを観客たちは学んでいた。
今度はどのような香りが溢れてくるのか会場に緊張感が走り……………………クロッシュを取ると複雑な旨味が合わさった胸をときめかせる香りが会場中に広がる!!!
カムイの料理は【鹿肉のロースト】、鹿料理の中でも極めてオーソドックスな品である。
しかしその香りは明らかに鹿料理の範疇を超えており、先ほどの司の料理よりも遥かに豊潤な香りを漂わせていた。
もはや『食べたい』という欲求に抗うことなど出来ない審査員と司が、ソースをタップリ絡めて鹿肉を一切れ口に含める。
「「「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」」」
甘美な香りを漂わせる肉を噛むと鹿肉の肉汁と幾重にも重ねられた複雑な旨味が口の中に広がる! 旨味による快楽によって脳が麻痺し、まるで麻薬のように手足の感覚を奪う!!!
審査員である2名の教師は、そのあまりの美味さに手足が痺れて弛緩している。
仙座衛門はお馴染みの『おはじけ』&『おさずけ』パルスを撒き散らし、司は身体中が痺れながらも何とか気を失わないよう堪えている。
(っ〜~~~~~!!!! な、なんていう美味さだ! 俺が使ったのは鹿の『若肉』、だけどカムイは『老肉』を使っている!!
『老肉』だから『若肉』よりも味は濃厚だ。しかしその分固くてとても噛み切れるものではないはず!!! でもこの肉はまるで生まれたての仔鹿のように柔らかい、いったいどうやって……………………!?)
司の疑問は当然のことである。そもそも肉のほとんどが赤身で構成されている『鹿肉』、その『老肉』のローストであれば固すぎて噛み切るどころかナイフで切るのも一苦労である。
ではカムイはどうやって固い肉を柔らかく味わい深い肉に仕立てたのか…………………………そこには二つの秘密があった。
まず秘密の1つは『活性切り』である。『活性切り』を使いミリ単位で薄く切ることで、鹿肉は旨味が活性すると同時に筋なども断たれて柔らかくなる。
もちろんそのまま切り口を塞いでしまうと筋まで戻ってしまうため、塞ぐ時は筋がある部分以外を箸で軽く押して、見た目は元の肉のままにする。こうして旨味が最高潮まで高まった柔らかい『鹿の老肉』が出来たのだ。
しかしこれだけではまだ肉の柔らかさは『若肉』程度、カムイはさらに柔らかさと旨味を高めるためにもう一つの工夫を施していた。
そしてその2つ目の秘密については、ふんどし一丁になった仙座衛門が解き明かした。
「この柔らかさと深い味わい、なおかつ儂らの胸を切なくもときめかせる香りは……………………『醤 ひしお』か!!!」
「っ、ひ、『醤 ひしお』!? それって確か醤油の元になった調味料、ですよね?」
【醤 ひしお】。東南アジア発祥の調味料で、司の言う通り『醤油』の起源となった調味料でもある。
醤油は原料に大豆や麦を使用するが、醤は動物の内臓を塩水につけることで消化酵素が浸出。その浸出液がアミノ酸やイノシン酸が滲み出た調味料となるのだ。
また、動物ではなく魚からも作られることがあり代表的なものとしては『しょっつる』や『ナンプラー』などが挙げられる。
(っ、そうか! この深い味わいと香りは鹿の内臓から作った醤に肉を漬け込んだことで生まれたもの!! 醤に含まれている消化酵素で『老肉』が柔らかく味わい深い肉になったのか!!!)
「恐らくこの醤は同じ鹿の内臓を使用して作ったもの。その醤を同じ鹿の血とガラで作ったソースに混ぜることで、『肉』と『ソース』がこれ以上無いほどの一体感を出しているのだ!!!」
カムイがソースに使ったのは、『鹿の血』『鹿のガラ』『醤』に香辛料と香味野菜のペーストを裏ごししたもの。
これらをグルメ食材である『シチューワイン』と共に煮詰めて作った特製ソースが、『活性切り』と『醤』によって最高潮まで旨味が高まった『鹿肉』と一緒に口の中に入ってくるのだ……………………審査員が魂が抜けてしまったように放心状態になっても無理はないだろう。
(っ、す、凄い! こんなやり方で、こんな豊潤で香り高い料理を作ることが出来るなんて……………………これが【神域の料理人】!! カムイ、なんて凄い料理人なんだ!!! 彼と一緒なら、俺はもっと料理人として高みに行ける!!!!)
仙座衛門と審査員がカムイの勝ちを宣言し、遠月が誇る十傑が全員完敗した事実に観客が驚愕しているのを他所に、司はカムイの料理に魅せられていた。
もはや自分が負けたことなど気にも止めておらず、『カムイともっと料理について語りたい!』『もっとカムイの料理を食べたい!』と目を輝かせる。
しかし……………………………カムイはいつの間にか、会場から姿を消していた。
ブッハァァァァァァァァァァァァァァァァァァ………………………。
どうにか十回分の料理を書き切りました! キツかった………………ホンッッッッッッット〜〜〜〜〜〜にキツかったです!!
こんなに連続して料理を書くことは当分無いでしょう。次回からは原作主人公も登場して、原作の流れに沿っていくと思います。
後半は調理法自体がシンプルになったので、調理描写は省略しました。それでもこれだけの文字数になったというのですから、グルメシーンってバトルシーン並みに書くのが大変なんですね〜~~。
【グルメ食材】
『エレファントマグロ』『原油チョコレート』『ストロヘビィー』『キューティクルベリー』『グランドベリー』『ハニードラゴン』『ミルクジラ』『金色小麦』『シチューワイン』
【オリジナル食材】
『フルーツビー』