カムイと極星寮メンバーとの邂逅回です。けれど、今回は料理する描写はありません。
あと、感想で『カムイの容姿』について尋ねられましたが、一応『第七皿』で簡単に描写しています。
分かりにくかった方は、FF7の『セフィロス』をイメージしていただけると幸いです♪
カムイがシャペルの講義中に料理を作った話はたちまち学園の話題となった。入学式以降は全く姿を現さなかったカムイが現れたばかりか、講義中に料理を作ったのだ。
しかもその料理は世界中の調理法のエッセンスを用いられた絶品ともあれば、生徒だけではなく教師までも興味を抱くのは当然である。
生徒や教師たちは時間があれば、シャペルに詳しい話を聞きに行ったりしている。そのおかげで幸平と田所には飛び火していないのは幸いなことであった。
そんなラッキーボーイな幸平が極星寮に入寮してから、しばらく経ち……………………………カムイは極星寮に住む生徒が育てる畑に来ていた。何故来たのかと言われれば、いつもの如く『食運に導かれた』というところだろう。
「…………………………………………」
カムイは畑の隣にある鶏舎で飼われている鶏を無言で見ていた。鶏舎には多くの鶏が飼われているのだが、その中の数羽はカムイのことを気に入ったのか金網越しにカムイへ近づいてくる。
(今が一番美味しい時期なのに、もったいないな)
鶏の肉が最も美味しいのは生後五か月のメスである。子どもから大人へと成長することで体の作りが変わり、弱々しい骨格が丈夫となり筋肉は滑らかに発達する。
旨味成分であるアミノ酸の元となるタンパク質の量が増大し、肉や骨にはエキスが十分蓄積された状態となる。
しかもメスは卵を産むための栄養がたくさん蓄えられるので、オスよりも美味くなるのだ。
だが、メス鶏は一度卵を孕むと栄養が卵に行ってしまい味が落ちる。また、卵を産まなくなる歳には肉は固くなるので出汁を取るぐらいにしか使われない。
そのため肉に弾力があり、かつ旨味となる栄養が蓄えられている生後五か月が一番美味い時期なのだ。
カムイに寄ってきている鶏たちは当然すべて生後五か月のメス鶏であり、カムイが『食運』に導かれてここに来たのもこの鶏の存在を感じ取ったからなのかもしれない。
「あーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
鶏たちの味がこれから落ちていき、食材にされる頃には一番美味しい時期を逃してしまうことに憐憫の情を抱いていると、いきなり後ろから大きな声が聞こえた。
見ると髪を両サイドでお団子にしている女の子が、カムイを指差している。
「ねぇキミってカムイくんでしょ!? 【神域の料理人】で『遠月第零席』の!」
女の子はカムイを見て駆け寄ってくると矢継ぎ早に話しかけてくる。目をキラキラさせながら自分を見てくる女の子に、カムイはどう反応すればいいか迷っていた。
「幸平と恵から聞いたよ、あの二人に料理を作ってあげたんだよね? 良かったら私たちにも作ってくれないかな? 食材はこっちで用意するからさ!」
幸平のように距離の詰め方がアグレッシブな女の子。初対面の相手にここまで迫ってくるばかりか、いきなり料理を作れというあたり幸平の女の子バージョンと言えるかもしれない。
「…………………………だれ?」
「あっ、ゴメン、名前言ってなかったよね。私は『吉野悠姫』、幸平や恵と同じこの極星寮の寮生だよ」
カムイに尋ねられて、自分が名前も名乗らずに料理を強請ったことに気づいた悠姫は少し大人しくなった。
噂の料理人に会えて興奮していた吉野もカムイの一言で冷静になり、『さすがに初対面の相手に、しかも第零席という遥か上の料理人に料理を強請るのは失礼だったかな?』と思い素直に謝った。
「ゴメンね、見ず知らずの他人にいきなり『料理を作れ』なんて言われたら気分悪いよね」
「別に、いい。気にしてない」
「そっか、ありがと。それで別のお願いなんだけど……………………良かったら私の料理を食べてみてくれないかな? 料理を作ってもらうのは難しいかもだけど、味見くらいなら問題ないでしょ?
流石にカムイくんみたいな凄い料理は作れないけど、ジビエ料理には自信があるんだ!」
吉野は『料理を作れ』という要求を取り下げ、代わりに『味見をしてくれ』とお願いしてくる。
過大な要求をして自ら取り下げてから、その後で本命の要求を通す…………………………一見すると『ドアインザフェイス』のように見えなくも無いが、もちろん本人にそんなつもりはない。
特別な理由が無ければ、味見ぐらいするのは問題ないのかもしれないが、カムイにとっては話が別である。
「断る」
カムイは吉野の頼みをにべもなく断った。これはカムイの性格などから来るものではなく、カムイにとってこの世界の料理人が作る料理は『味が感じられないほど薄い』からだ。
言ってみれば、物凄く精巧に作られた料理の形をしている粘土を口にするようなもの。
そんなものを好き好んで食べる者はまずいないし、『料理』とはイヤイヤ食べるものでもない。
だからカムイは調理法などの技術を見るためならともかく、他人の作った料理を今まで食べることはしてこなかった。
「そんなこと言わないでさ~~~、ちょっと味見してくれるだけでいいんだって。ねっ、お願い!」
「断る」
しかしそんなことを知らない吉野は、何とかカムイに自分の料理を食べてもらおうと食いつく。ただいくらお願いしてもカムイの答えが変わることは無い。
「そう言わずに! ホントに美味しいからさ~~~♪」
「断る」
めげずにに吉野が頼み込み、カムイが頑なに断る。そんなグランドスラム級のテニスばりにラリーが続いていく…………………………その結果。
「っ……………………ぐすっ、ぢゃんど、おいじいがらぁ。おねがいだがら、だべでよ~~~~~」
カムイの『金の調理器具』が如き不変の意思を前に、とうとう吉野は泣き出してしまった。無論カムイとしては泣かせるつもりが無かっただけに、どうすればいいか対応に困ってしまう。
別にこのまま放置して去るのも一つの手なのだが、自分に寄ってきた鶏たちが心配そうに見ているため放ってはおけない。
『食材の声』が聞こえる料理人として、食材を裏切ることだけは断じて出来ない…………………………それに何より、このまま立ち去るのは流石に後味が悪すぎる。
かと言って泣いている女の子を宥める方法など知る由も無いカムイ。この場に節乃がいないのが不幸中の幸いだと思いながら、何とか吉野を泣き止ませようと苦慮していた。
「悠姫、どうしたの!?」
泣き止む様子のない吉野にどうすればいいか頭を悩ませていると、赤紫色の長髪をした女の子『榊涼子』が駆け寄ってきた。さらには数人の男女もやってきて、その中には幸平と田所もいる。
「りょうご~~~~~~~~~~~!!!!!」
吉野が榊に抱きつき号泣、榊が優しく頭を撫でる。一緒に来ていた田所も吉野を落ち着かせようと背中を優しく撫でていた。
そうして極星寮の女性陣が悠姫に掛かり切りとなっている中、数名の男子が怪訝な目でカムイを見てくる。
「おう、テメエ! ウチの吉野に何しとんじゃあ!」
「極星にケンカ売ってタダで帰れると思うなよ、ゴラァ!」
不良さながらの人相で二人の男子がカムイを睨みつけてくる。他の男子も二人ほどではないにしろ、仲間を泣かせたカムイのことを好意的な目では見ていなかった。
「まぁまぁ、落ち着けって二人とも。丸井も伊武崎も、そうカムイのことを睨むなって。とりあえず何があったか聞いてみようぜ?」
「まぁ、確かに。話を聞かないことには、良いも悪いも分からないしね」
「俺は別に睨んでない」
「そりゃあそうかもしれねえけど、でもあの明るい吉野があんなに泣きじゃくってるってことは只事じゃねえだろ!」
「そうだ! 天真爛漫を絵に描いたような性格の吉野が号泣するなんて、相当に酷いことをされたに決まってる!」
カムイが『グルメ界の猛獣を相手にする方が遥かにマシで分かりやすい』と考えていると、幸平が助け舟を出してくれる。
ただ眼鏡をした男子と前髪で目元が隠れている男子は落ち着いているが、ヒートアップしている方の二人は『カムイが悪い』と決めつけていて、あの幸平ですら説得には苦戦している。
意見の相違に男性陣まで揉め始め、あまりにも混沌とした状況に吉野だけじゃなくカムイの方が泣きたくなってきた………………………その時。
「何の騒ぎだ!!!」
いよいよカムイが威圧で騒いでいる二人を黙らせようとすると、仙佐衛門とえりなと新戸。さらには極星寮の年長者である一色慧がやってきた。
「そ、総帥!?」
「おっ、薙切じゃん」
「一色先輩!」
寮生である一色はともかく、学園総帥である仙佐衛門と十傑の第十席であるえりなまで揃って来ていることに驚き、騒いでいた二人も急に大人しくなった。
「み、皆さん、どうしてここに!?」
「学園内でカムイを見かけたという報告を受けてな。極星寮の方へ向かったと聞いて追いかけてきたのだ」
「私はカムイくんが安心して学園生活を送れるようサポートするのが役目ですからね。また何かトラブルでも起こったのかもしれないと思ったのだけれど………………………来てみて正解だったわ」
「ボクは寮に帰ろうとしているところで、たまたま三人と鉢合わせてね。せっかくだから一緒に来たってわけさ♪」
カムイが学園に来るだけで総帥と十傑が動くという事態に寮生たちも戸惑ってしまう。ましてやそんな人物にメンチを切っていた二人はバツが悪そうにしていた。
「それで、これはいったいどういうことなのかしら? 特にそこの二人は、何やらカムイくんに乱暴を働こうとしていたみたいだったけど?」
「い、いや、その、カムイのヤツが吉野を泣かせたから………………………」
「ああ、それでちょっとカッとなっちまって………………………」
えりなの怒りが込められた鋭い視線を浴びて、カムイを悪者扱いしていた二人は委縮してしまう。
一睨みするだけで体育会系男子を黙らせてしまうあたり、流石は『食の魔王』の血族と言える。
「カムイくんが吉野くんを泣かせた? どういうことだい?」
大事な自分の後輩を泣かせたのであれば、一色とて黙っているわけにはいかない。
しかし一色はカムイが吉野を泣かせたことが信じられなかった………………………少なくともカムイが悪意を持って吉野をキズつけたとは思っていない一色は、泣いている吉野のことを落ち着かせて事情を聞くことにした。
吉野から話を聞き、カムイが吉野の料理の味見を頑なに拒否したことが原因だということが分かった。カムイがわざと吉野を泣かせたわけではないと分かり、怒っていた二人も怒りを鎮める。
「まったく、呆れたわね。カムイくんに味見を断られたからって大泣きした挙句、こんな騒ぎを起こすなんて」
「うっ、ご、ごめんなさい………………………」
騒ぎの理由が実に幼稚極まりないことだと分かり、えりなは事の発端である吉野を睨みつける。吉野も自分が泣いたことでここまで事が大きくなってしまったことを謝った。
「でもよぉ、何でカムイはそこまで吉野の料理を食べることを断ったんだ? 別に味見ぐらいしてやってもいいんじゃねえの?」
ようやく事態が収拾しカムイには非が無いことが分かった矢先に、幸平が今さらなことを言って話を蒸し返してくる。
幸平自身は素朴な疑問をぶつけただけだったのだが、彼の言葉にえりなが反応した。
「ハァ、幸平くん。一流料理人の『味見』というのは、それだけで『価値』があるのよ。『神の舌』を持つ私だって、味見役として依頼を受ける場合は多額の報酬が発生します。
ましてや彼ほどの料理人に味見を依頼するなら、私以上の報酬が発生してしかるべきよ。
現に彼の才能を頼りたいと言う依頼が、一流店のオーナーから大手食品メーカーの社長まで毎日殺到しているぐらいなのだから」
「確かに、大手食品メーカーでもプロが監修した商品には依頼料が発生するものだしな」
『料理』を作る側であれば、卓越したセンスを持つプロの料理人のアドバイスを受けたいと思うのは当然のことだろう。
ただ彼らプロとて暇ではない。自分たちが苦労して磨き上げたセンスの一部を提供するというのなら、それなりの報酬を要求するのもまた当然と言える。
「そりゃあそうかもしれねえけどよぉ、何も泣かせてまで断ることは無えんじゃねえかなぁ?」
「だ~か~ら! これは心情的な話ではなくて、料理人としての『矜持』! 『プライド』の話をしているのよ!」
いくら言っても『プロのセンスの価値』を安く見ようとする幸平に、えりなが感情を剝き出しにして怒る。ようやく話が落ち着いたというのに、別の所で話が炎上しようとしていた。
「まぁまぁ、薙切くん、落ち着いて。そんなに大声で叫ぶなんてキミらしくないよ?」
「い、一色さん、ですがっ………………………!」
「キミの言うことはもっともだ。一流の料理人なら自分の磨き上げてきたものに誇りを持つべきだし、それを安売りするのは他のプロのことを考えれば良くないことだと思う。
もし依頼をするというのなら、相応の報酬が発生してしかるべきだろう」
「なら「ただ」え?」
「果たしてカムイくんが断ったのは、キミが言う通りの理由だったのかな?」
一色がえりなの意見に賛同したのだと思ったら、今度はえりなに対して疑問を挟む。一色の言っている意味が図りかねたえりなは困惑してしまった。
「あの、それってどういう意味でしょうか?」
「簡単なことさ、薙切くんが言っているのはごく一般的な料理人の話。けどカムイくんが報酬、つまりお金で仕事を選ぶタイプには思えないんだよ」
「あっ!」
一色がニコニコ顔でえりなの質問に答えると、周りにいる皆(幸平を除く)もようやく一色が何を言いたいのかを理解する。
料理界で知らぬ者はいないと言われている【神域の料理人】。今まで多くの財閥や大企業、果ては国のトップですら召し抱えようとしたがいずれも失敗に終わってきた。
いくら地位や報酬を用意しても料理一つ作ることはなく、料理を作るタイミングは全て己の意思でのみ………………………つまりカムイは、金銭的な理由で仕事を受けるかどうかを決めることは無いということだ。
そのため、えりなが言った理由もカムイには適用されない。これまでの噂と実績、そして実際にカムイと対峙して料理を食べた一色は『カムイが断ったのは、カムイなりの明確な理由があるはずだ』と思ったのだ。
「だからね、カムイくん。キミがどうして吉野くんの料理を食べることを拒んだのか、その理由を教えてくれないかな?」
理知的な態度で尋ねてくるが、表情とは裏腹に友好的なものではない『ナニカ』をカムイは感じ取っていた。
喚き散らしていた二人程では無いにしても、一色も一色なりに吉野を泣かされたことに思うところがあったのだろう。
周りの皆も気になるのか、カムイの答えをジッと待っている。カムイとしては特に隠したり誤魔化す理由も無いので普通に答えた。
「他人の作った料理は、味がしない」
「え? 味がしない? そういえば前にも俺の作った料理を食べて、そんなこと言ってたよな。アレって俺の料理だけじゃなく、他のヤツが作った料理も『味が薄い』ってことなのか?」
「コクン」
「えっと、それってつまり『味覚に何か障碍を持っている』ってことなのかな?」
「フルフル」
カムイの思いがけない回答に戸惑ってしまう面々。しかし幸平と田所は以前の調理実習で似たようなことを言われていたため、比較的落ち着いていた。
幸平の質問には首を縦に振り、田所の質問には横に振って答えるカムイに極星寮の生徒たちも首を傾げてしまう………………………しかしえりなだけは、カムイの言っていることの意味を理解していた。
「なるほど、カムイくんの言いたいことが分かったわ。私も似たような状況だったもの」
「っ、えりな様、ではカムイもえりな様のように?」
「ん? どういうことだい薙切くん。カムイくんが言っていることに何か心当たりがあるのかい?」
「ええ、つい最近のことですわ」
えりなと新戸がカムイの言っている意味を理解していることに気づいた一色は、えりなに詳しく聞こうとする。そしてえりなは自分の身に起きたことを全員へ説明した。
・『神の舌』の理解を超えたカムイの料理の凄まじい美味さによって、味覚が麻痺してしまったこと。
・そのせいで他の何を食べても『味』を感じることが出来なくなったこと。
・カムイが持ってきてくれた果物のおかげで『神の舌』が治り、味覚を取り戻すことが出来たこと。
1ヵ月程度のことだったとは言え、『味の無い世界』というのが如何に恐ろしいものなのかを思い知ったえりなは、当時のことを思い出し、少し顔が苦しみに歪んだ。
「へぇ~~~、そんなことがあったんだなぁ。確かにあの時食ったカムイの『チェリンゴ』、メチャクチャ美味かったもんな♪」
「薙切さんが『味覚を失った』って話、本当だったんだ……………………」
「ええ……………………幸い、私の味覚麻痺は時間が経てば自然と治る類のものだったけどね。けれど……………………カムイくんは違うわ。
そんな凄まじい旨味を持った料理を常に食べ続けている。人間が小さすぎる音や物を認識出来ないように、彼の舌は並大抵の料理人が作る料理程度では、味が薄すぎて認識できなくなってしまっているのよ」
「「「「「…………………………………」」」」」
えりなの言葉に極星寮の生徒たちは何も言えなくなってしまった。一番騒いでいた二人も、カムイの話も聞かずに怒鳴っていたことを反省する。
人間には『味の好み』というものがある。濃い味が好きという人もいれば、薄味が好きという人もいる……………………しかし人間が『美味しい』と感じられる味の濃度には幅があって、その幅を超えれば濃すぎて食べれないし、逆に下回れば味を感じない。
誰も好き好んで『美味しくない料理』を食べたいとは思わない。極限の飢餓などで食べなくてはいけない理由があれば話は別だが、そうでないのなら自ら食べることはしないだろう。
ましてやカムイは自分のためにそんな料理を作られては、食材にされた『命』の方が可哀想だと思ってしまう。
だから吉野が何気なくお願いしたことも、カムイにとっては迷惑極まりないことだったのだ。
【『命』を食材にしていただくのなら、最高の形に仕上げる。それが『命』への感謝と礼儀だ】と『千代』から教わっており、『飢え』に苦しんだカムイ自身もそう理解していた。
「でもよぉ~~~、コイツの料理ってホントにそんな美味いのかよ? 正直、にわかには信じられないぜ?」
色々と悶着はあったが、ようやく事態が収拾してカムイが帰ろうとした矢先、カムイに突っかかっていたタンクトップ姿の青木大吾が疑問を投げかけた。
「なっ!? 失礼ね、私が嘘を言っていると言うの!?」
「キサマッ、えりな様に対して何と無礼な!!!」
「い、いや、そうは言ってもよぉ。オレ、コイツが作った料理食べたことねえし…………………」
あまりにも心外な一言にえりなは過剰に反応し、秘書である新戸は仕える主を嘘つき呼ばわりされたことに怒る。
花も恥じらう乙女と言えどもその怒りようは凄まじく、ガタイの良い青木は二人の剣幕に小さくなってしまった。
「えっとね、カムイくんの料理、本当に美味しかったんだよ! まるで童話の世界に入り込んだみたいだった!!」
「ああ、アレはマジで凄かったよな~~~♪ しかも塩まみれになって、本来なら捨てるしかない牛肉を使ってたんだからな!」
「ほら見なさい!」
「け、けど、美味すぎて味覚が麻痺するって、ぶっちゃけ想像できねえよ。どんだけ美味ければそんなことが起こるんだ?」
「そうねぇ。たとえば凄く美味しい料理を食べた時って、身体中が痺れるような感覚になるじゃない? たぶんあんな感じじゃないかしら?」
「確かに、それなら何となく想像は出来るな」
青木の一言がきっかけとなり、とうとうこの場にいる者たちでカムイの料理に対する談義が始まってしまった。
当然、当のカムイは蚊帳の外である。カムイもこの日ほど自分のコミュ力の無さを嘆いたことはないだろう。
「そこまで!!!!」
「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!」」」」
もういい加減、どさくさに紛れて退散しようかとカムイが思っていると、今まで静観していた仙座衛門がいきなり声を張り上げた。
「確かに料理人たる者、他人の意見や噂ではなく己の舌で料理を見極めるべきである」
「で、ですよね………………………!」
「ウム。そこでだが………………………カムイよ、一つこの者たちにおぬしの料理を振る舞ってはくれんか? それが一番手っ取り早いであろう」
「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
仙座衛門からの予想外の提案に全員が驚く。もう一度カムイの料理を食べられると喜ぶ者、噂に聞く【神域の料理人】の料理がどのようなものかと不安と興奮を覚える者と様々だ。
(…………………どうしてこうなったんだ?)
一方のカムイは、どこでどう間違えたらこのような展開になるのか頭を悩ませていた。確かに元々は、吉野がカムイに料理を作ってもらおうとしたのが発端だった。
そこから紆余曲折があって話がこんがらがり……………………何故か元の鞘に戻ってきているというミラクルが起こっている、カムイが戸惑うのも無理はないだろう。
ただカムイもこのような場面に出くわしたのは一度や二度ではない。
カムイ自身は騒ぎを起こすつもりは無くとも、何故か周りの方が勝手に騒ぎ出して、事態がややこしくなることが何度かあった。
そういった時は自分の料理を食べさせれば、大抵みんな大人しくなるので、その隙に退散していた。
今回もそのケースだと思ったカムイは、いつも通り料理を作ることにする。
実際、このような事態になってしまったことにはカムイ自身僅かながらに責任を感じており、料理を作るだけで収拾がつくなら安いモノだと思ったのだ。
「…………………コクン」
「おお、やってくれるか! では場所はそこの極星寮にしよう、食材はここにあるものなら何でも使って構わない。良いな、皆の者?」
【自分たちが育てた食材で『神域の料理人』が料理を作る】。生産者としてはこの上ない名誉のため、寮生としては否は無かった。
こうしてカムイが極星寮の全員と仙座衛門・えりな・新戸に料理を振る舞うこととなったのだが……………………結果として吉野の独り勝ちのようになったことには誰も気づいていなかった。
珍しくカムイが料理をしない回でした。ただその分、次回で料理をすることとなります。
それでは皆さん、次回で♪
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