ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
匿名による無敵状態につき先に開示しておきますが、TSして男性に性的に見られたり辱められたり守られたりすることが僕の夢です。
「課題多すぎ……」
東京のとある高校に合格し、学校から程近い安アパートで一人暮らしを始めてから一年と半年が経つ。
高校に入れば楽しい青春の日々、などと浮かれていた僕の期待は、殺人的な量の課題にすっかり押し潰されてしまった。
「終わらないって……」
数IIとBの課題は青チャのP.58〜514。夏休みは始まったばかりなので時間はあるものの、400ページ以上のややこしい数列の正答を導出する頃には、吹けば飛ぶほどの日数しかない夏休みは終わってしまいそうだ。
これ以外にも英作文用紙8枚分、読書感想文三冊(全て学校指定)、世界史の一問一答全暗記、物理基礎の演習テキスト丸々一冊分、5教科以外も当然フルで課題提出……毎日机に向かっているのに、全然減った気がしない。
「はー、やめよ」
とりあえず記憶がまだ若い二項定理のページを一枚進めたところで、僕のあってないような集中力は品切れになってしまった。
「アキはどうしてるかな……」
アキというのは、僕の部屋の隣に住む同級生だ。
彼は僕よりちょっとはマシな頭の出来をしていて、先生の目を掻い潜るのが病的にうまいので、授業時間にバレずに課題を進めていた。いわゆる内職ってヤツ。
アキに会いに行こう。あわよくば、彼の課題の進捗を写させてもらおう。
丁度昼ご飯に作った筑前煮が余っていて、口実もある。いつも彼はスーパーの揚げ物惣菜やらカップ麺ばかりを食べていて不健康だし、たまには野菜も食べてもらうことにしよう。
思い立って早速、僕は冷蔵庫に入れておいたタッパーを取り出した。あいつも部屋にいるはずだ。
というのも、壁が薄すぎて玄関の扉の開閉音が筒抜けなので、僕達はお互いに知りたくなくても外出のタイミングを知っている。今日は朝から一度もその音を聞いていない。
「アキー、起きてるかー」
ブザーのような警戒音のインターフォンを押すと、すぐに「待て!」と、中から声がした。ただ、いつもと違ってちょっと慌てたような声。それからドタドタと暴れるような音が聞こえてきた。
何を焦っているのだろう?
友人同士なんだし、そんなに気を遣って急いで出なくてもいいのに。そう思って外廊下の鉄柵に背中を預けた途端、結構勢い強めに扉が開かれた。
「お、おい! フミ! なんか部屋に変なもんが……!」
飛び出してきたアキは、二日くらい風呂をサボっていそうな酷い生乾きの匂いをさせながら、興奮した様子で僕の腕を掴んだ。
いや、それよりも気になることは……。
「アキ、その頭の上の数字、何?」
「お前こそ……2って書いてるぞ」
アキは僕の持ってきた筑前煮を食べながら、僕の頭の上の数字を眺めていた。彼に曰く、僕は2。アキの頭の上には4とある。
「つかフミ、お前そろそろ髪切れよ。前髪目にかかってるぞ。それで学校行ったら丸刈りにされるだろ」
「アキみたいに?」
「うるせー」
今年の春くらいの頃、アキは先生への反抗とか言って、がっつり金髪に染めてきたので、怒り心頭の生活指導教諭に五厘刈りにされていた。
今はもう、彼の髪は坊主とは言えないくらいには伸びているが、しばらくは高校球児みたいだった。
「金髪、似合ってなかったよ」
「いいんだよ。あのクソ高校への精いっぱいの抗議だから」
「カラーワックスとかにしとけばよかったのに。シャワーで落ちるし」
「それじゃ意味ねーって」
というか、気になっているのはそんな話じゃないはずだ。
だって頭の上の数字表記はもちろん、この部屋にはもう一つ、明らかに異常な物体がある。
「ねぇ、それ、何?」
布団の上でデカデカと存在を主張する奇妙な形の箱を指差した。
縦横はあぐらで座る成人男性くらいの大きさで、上部が球形、下部は立方体という変なモニュメントが、アキのこれからの安眠を妨害している。
「分かんね。なんか、箱」
よく見ると箱の下の方には、拳大の黒い穴と、その上に手回しのハンドルが付いていた。
これはあれだ、ガチャガチャだ。コインを入れるとロックが外れてハンドルが回せるようになり、中身の景品が飛び出してくる、あれ。
「側面に何か書いてあるよ。えぇと……星5レアピックアップ?」
印刷テープのようなものが雑に貼られており、横に伸びる文字にはそう書いてあった。
「あ? 何じゃそりゃ。ソシャゲかよ」
虹色のフォントだけ見ると、確かにそう見えなくもない。ただ、箱自体の外観は完全な白塗りで、アミューズメントのかけらも感じられない。しかも中身が見えないので、不気味なことこの上ない。
「それとさ、部屋ん中にほら、コインみてーなのも見つけたんだよな」
アキはそう言うと、呑気に筑前煮を頬張るために動かしていた箸を置いて、ポケットから銀色のコインを取り出した。
縁だけが少し盛り上がっていて、表面にも裏面にも何も刻印されていない、怪しい造形のコイン。見た目からして、ゲーセンのメダルではないことは確かだ。
「やっぱ、それ用か?」
アキと僕の視線が、同時に白い箱のほうに向いた。
「そう……かも」
よく見ると右の側面に溝のような場所があり、目算だが、その幅は丁度、アキの持っているコインの直径を1ミリ上回るくらいだった。
「入れて、みる?」
「…………気になるか? やっぱさ」
「当然でしょ」
「そうだよな。正直、お前が来るの待ってた。どうなるか見てみようぜ!」
コインを入れてハンドルを回したら爆発! なんてオチだったら最悪だが、無差別に爆発物を送付する嫌がらせだったとしたら、こんな入り組んだ箱にはならない……はずだ。
そう考えると、もしかしてアキは、自分一人で回してみて、とんでもない危険物が出てきたら怖いから、僕が来るのを待っていたのだろうか?
「い、行くぞ……!」
アキは意を決してコインを溝に入れた。カラカラ、と、金属がプラスチックの道を通る小気味のいい音がする。
下の方までコインが落ちて、一際大きな音がした瞬間に、突然アキの前に小さなスクリーンが浮かび上がった。
「うわっ……何だ、これ?」
「光学スクリーン……? あ、何か書いてあるよ」
「新規ユーザー10連無料? マジでソシャゲじゃん」
スクリーンを眺めながらハンドルを回そうとするアキであったが、ハンドルは硬く、全く回る気配がない。
「全然まわんねーぞ。コインが違ったのか……?」
「そっちのスクリーンみたいなヤツは?」
僕は彼の前に出ている青い窓を指差した。たった今彼が読み上げたような、携帯ゲームによくある文言の下に、「touch!」と白抜きの文字で表示されている。
「こ、これか?」
アキがその文字を押した途端、動画サイトで見たパチンコの演出みたいな派手な音が鳴り響き、そこの真っ白の箱がギラギラと虹色に光り始めた。
「おっ、おぉ……!? びびったぁ……! か、カプセルかこれ?」
至近距離で爆音と虹色の明滅を浴びたアキが、思わず尻餅をついた。その拍子に箱が揺れて、コロコロと中身がまろび出てくる。
飛び出てきたカプセルは虹色に塗られていた。光を伴わないマットな虹色は、外国の食玩みたいで安っぽい。
「どう?」
アキはカプセルを振ってみたり、叩いてみたりしながら、頻りに首を傾げていた。
「意外とずっしりしてて、重いぞ……」
カプセルは手に収まるほどの大きさで、アキが振っても音がしないし、彼自身、中身がカプセルの内壁に当たる手応えを感じてはいない様子であった。
「お? 何だこれ」
『TSC!!』
カプセルの小さな穴から飛び出していた紐付きタグには、そんなアルファベットの羅列だけが印字されていた。
「T……どういうことだろう」
「ティースプーンの略とかじゃね」
「海外の料理本じゃないんだから。というか、〝P〟じゃなくて〝C〟ね。」
上手くすれば中身を推量できそうだったが、結局この文字が何を表すかは分からなかった。
「じゃ、じゃあ、開けてみっか……」
「…………どうしたの? はやく開けなよ」
彼はカプセルの蓋を回す手を止めて、冷や汗を浮かべながら僕のほうを半笑いで見つめてきた。
それから、突然片手を僕に突き出して、壊れたおもちゃみたいに握り拳を肘から振り始めた。
「じゃ、ジャンケンで負けたほう……てのはどうだ?」
「えぇー!? い、嫌だよ! なんか怖いし……」
「まーまーまー! な? 1回だけ! あいこならオレが引くからよ!」
さっきまでなんとも思っていなかったのに、アキがそんなリアクションをするものだから、僕まで緊張を覚え始めた。
「負けたら、だからね……」
「よし、行くぞ……じゃーんけーん」
ぽん。
僕が出したのはグー。アキはパー。
「よ、よーし。頼むぞフミ」
「えー……し、仕方ないな……」
こ、これを開けるのか……いや、ガチャガチャのカプセルに入るものなどたかが知れている。箱もカプセルも見るからに不審物だが、これ見よがしに置かれていると、中身が気になってしまうのが大概のはずだ。
「何かあっても、僕だけおいて逃げたりしないでよ。約束だぞ、約束」
「お、おうよ……まぁ、オレも中身は気になるしな」
中に危険物が入っているかもしれないとか、後から金銭を要求するタイプの詐欺では、とか、僕達の中でそういう懸念は後回しにされていた。
好奇心には勝てない。こんな面白そうなものがあったら、試さずにはいられないだろう。特に僕らは補習と課題で塩漬けにされており、普段から娯楽に飢えている。
「こうなったら、何でもこい……!」
僕は目蓋を強く結んで目を瞑り、こうなったらどうにでもなれというつもりで、勢いよくカプセルを開けた。
すると、カプセルから粉っぽい破裂音がして、中に詰まっていた煙が一瞬にして充満する。
げ、げほっ、や、やばい、中に入っていたピンクの粉の大部分を吸ってしまった……! そのあとから出てきた白い粉は、なんだ、これ、もしかしてただの小麦粉……!?
「うわ! げほっ、ごほっ……! フミ!? 大丈夫か!?」
「な、何とか……! アキ、聞こえる?」
防災訓練の煙体験ハウスの中のような、スモーキーな甘い匂いが部屋中に行き渡った。
煙で前は見えないし、顔に大量に粉がかかるしで、僕は盛大にパニックを起こして、とにかく手探りで彼の位置を探した。
「とりあえず動くな! ちょっと待てよ……今換気扇付けてくっから!」
「う、うん。でもなんか……」
何だか、体のあちこちが痛い。
「あ、頭痛い……」
まるで内側から血液が押し出されようとしているように、血管の形に圧迫感を感じる。
「大丈夫か!? フミ!」
左の方で煙が揺らいだ。どうやらそっちにアキがいるらしい。
何でもいいから寄りかかりたい気分だった。壁でもいい。とにかく立ちくらみが酷くて、気分が……。
「おい! 返事しろ! フミ、フミ!」
「う、うぅ……熱い……」
何だか視界が赤くなったり、白くなったりを繰り返している。
「あっ……」
僕は体の熱さに耐えきれず、膝から転んでしまった。打ちつけた足が痛い。後からあざになりそうだ。
「おい、フミ、無事なのか!?」
アキのほうから、困惑するような声が聞こえてきた。段々と熱が冷めてきて、体や頭の痛みも失せていく。
返事をする気力もないが、少しずつ呼吸が楽になってきた。まるで骨が溶けていくかのようであった無気力感は、深呼吸のたびに緩和されていく。
「な、なんとか……まだ熱いけど」
なぜか胸と尻の辺りが強く締め付けられるようで、今の一瞬とは別の理由で息が苦しい。服の中に何か詰められたのか?
それに、まだ体の火照りは完全には収まらない。口から漏れる息が熱くて、それも息苦しさを助長させていた。
「ごめん、僕、調子悪いかも……」
「そ、そっちか!? 待ってろ! 今すぐ救急車――――」
むぎゅ。
「ん? おい、フミ、今の感触は……?」
煙の中から手が伸びてきて、僕の胸に当たった。それでようやく気が付いた。
何だ、この……胸の膨らみは。
「く、クッションでもないぞ、何だこれ……あ、でもなんだろう、触り心地は最高だな」
むにゅむにゅ。
アキのものと思われる手が、僕の胸を撫で回し揉みしだいてくる。確かにそこには乳房があった。
「で、でっか……こ、これ僕の……?」
胸の大きさでつま先が見えないほどだ。首や肩の皮が引っ張られて重い。
煙のうやむやのうちに、何か胸の位置に仕込まれたのではなく、触られている感触が僕のほうにもある。無遠慮に鷲掴みにされ、しかも掴まれたまま何度も手を開閉されている感覚が。
「お、おお? す、すげぇ。指がどんどん沈んでいくぞ」
「ん、んん……ちょっと、アキ」
あんまり揉まれる感触が続くので、変な気分になってくる。なんだろう、く、くすぐったいような、しかしそこまで不快でも……。
い、いやいやいや!! 決して僕には男に胸を揉まれて喜ぶような趣味はない! そんな趣味はないが……これ、後が気まずいぞ……どんな顔をしてアキに説明すればいいんだ。
「アキってば!」
「お、お!? フミ、無事か!? ん、フミか? なんか声おかしくねーか?」
「あ、あれ? あれ!? 何この……!」
僕自身も驚いた。自分の口から出てきたはずの声が、まるで聞き覚えのない……いや、家族で撮った幼い頃の動画に出てくる僕のような、甲高い声になっていた。
「てかこれ何だ? なんかめっちゃ柔らかくてデカいウォーターボールみたいなのが……煙で全然見えないぞ!」
むにゅむにゅむにゅ。
アキは全然胸から手を離さない。それどころか、もう片方の手まで伸ばしてきて、僕の胸をまさぐってきた。もしかして全部分かっててわざとやってないか。
「アキの手の下。それ、僕。今触ってるの」
「え?」
そう言えば手を離すかと思いきや、こいつさらに、もみもみもみっ! と、感触を確かめようとしてきた。
ちょ、ちょっと! ホントにダメだってば!
「んっ……ねぇ! アキ!!」
これ以上人の胸を揉むようなら、殴ってでも止めてやろうかと拳を固めた瞬間、図ったようなタイミングでアパートの共通換気扇が作動して、煙が晴れていく。
「はぁ…………10秒前ぶりだね」
「…………誰?」
煙が晴れた瞬間、僕の頭皮から生えているらしい黒髪が垂れた。目の上にかかる長さではない。もっとだ。首を覆うところまでだらりと、突然髪が伸びてきた。
「え、だ、誰だよアンタ!? お、女!?」
もう目が合っているのに、アキは目を白黒させながら、さらに近付いて胸をまさぐり回してきた。
もみもみもみもみっ!
ちょ、ホントに……ダメだって……! どれだけ胸を揉みたいんだこいつは!
「おい! やめろって! 僕だよ!!」
「…………もしかして、フミ?」
そうだけど、なんでまだ僕の胸を揉み続けているんだ、君は。
あの後、胸を揉みながら話を続けようとしたアキの手をぶっ叩いて遠ざけ、何とか本題に入ることができた。胸に対する執着がすごい。
「誰でも美少女になれる! ミラクル・トランスチェンジャー! ……だって」
「TSCってこの略だったのか……」
「断じてティースプーンではないからね」
虹色のカプセルの中に残されていた蛇腹折りの紙に、そんな能天気な説明書きが記載されていた。
つまり、この虹色のカプセルを開けてしまったから、僕は女になったということなのだろうか。
…………にわかには信じ難い。
「マジか……ホントか? お前ホントにフミ?」
「フミだよ」
「し、信じらんねーな。だってお前それ……」
アキは僕の姿を上から下まで見回したあと、怪訝な表情で首を傾げた。視線をがっちり胸元に固定して。
襟首の隙間から見える谷間が気になって仕方がないらしい。僕も男なので、気持ちは分からないでもない。
「じゃあ、あの話する? 僕がここに引っ越してきて三日目くらいの頃、突然アキが僕の部屋の扉をガンガン叩いて……」
「あー、あーもういい! もう分かった。なるほどな。フミはその話、他のヤツにペラペラ喋るようなヤツじゃないもんな! 頼むからそうだと言ってくれ」
「だからそうだって。ちゃんと内緒にしてるから」
一年間も隣に住んでいると、お互いに恥ずかしい話をいくつも知っている。しかも下ネタに近いヤツ。
僕達はそれを誰かに言いふらしたりはしない。なぜなら、それを他の人に言ったことがバレた瞬間、即、己の恥ずかしい秘密も報復でバラされることが分かっているからだ。暗黙の不戦協定がここに敷かれている。
「それよりその紙、開いて中まで読んでみろよ。戻り方とか書いてあるかもしんねーぞ」
「あ、あぁ。うん」
手に持ったまま忘れていた、米印に続けて書かれた説明を読んでみた。
「えーと、転換は不可逆です……元に戻るには、再度トランスチェンジャーを取得する必要がありますぅ!?」
ここがアキの部屋だということを忘れて、思わずカプセルを床に叩きつけてしまった。
「ど、どうしよ……この姿じゃ誰も僕だとは信じてくれないぞ……!?」
「うわ、立ち上がるとケツもデカ……なぁ、ところでこれ、どういうマジック?」
「僕だってタネがあるなら知りたいよ!」
セクハラに精を出すくらいなら、もっと真剣に考えてほしい。
これじゃ学校にも行けないし、病院にも行けないぞ。保険証を出そうにも、性別が違うから本人確認で引っかかる。
「しかし胸デケぇな……メロンって比喩あるけどマジなんだなあれ。シャツがテントみたいになってんじゃん」
「ねぇ、他に言うことないの」
「ないだろ。まだ手に感覚残ってるわ……めっちゃよかった」
僕の姿に対する最初の感想がそれ? 胸とか尻とか。僕はいきなり女になって本気で困っているというのに、こいつはすぐ下世話な話をしやがって。
「マジですごかったわ! 見た目よりボリュームあるのに、思ってたより軽いぞ! もっとズシっとしてるもんかと。しかもなんかヒヤッとしてて……」
「レビューするな!」
アキは意気揚々と、僕の胸の感触を詳細に伝えようとしてきた。不可抗力とはいえ、人の胸を揉んでおいて、ごめんなさいの一つもなしかよ。
いや、本当の女性みたいに、揉まれて嫌悪感を感じました! とかはない。他の仲良くもない男ならいざ知らず、相手はアキだし。
恥ずかしさとかもなかった。あるとすれば、他人の体を動かしているかのような、誰にでもない罪悪感。
「やっべー、すげぇぞフミ。サンキューな。いい思いさせてもらったわ」
「うるさいな」
「また揉ませてくれ。約束したからな」
「そんな約束してないし、しないから」
僕の胸を揉んだくらいで、よくもそんなに嬉しそうに語れるものだ。中身は僕だぞ。偶にいる、太っている男友達の胸を本気で揉みたがるヤツみたいで、なんかキモい。
「つか、髪の毛もバッサバサだな! マジで女にしか見えねぇ」
「今の僕どうなってる?」
「携帯貸してやるよ。内カメで見ろ」
内カメに映し出されたのは、妹がいたらこんな感じなのかな、という顔を、さらに加工アプリを駆使して自然に美化したかのような美少女の顔だった。
薄らと僕の面影があるせいで、いないはずの身内を見ているようで何だか気味が悪い。説明書きの通り〝美少女〟にする品だったからであろうが、半ば顔が整っているせいで、元の僕の要素が逆に判別しやすくなっている。
「我ながら美少女だね」
「なんか自慢げだな……でも、確かにそうだな。お前元から
「
「あるんじゃね? なんかうまいことしたら金取れそーなレベルで整ってるぞ。まーぶっちゃけ胸にしか目がいかねーけど」
「知ってる。さっきから君にガン見されてるから」
胸にばっかり目がいって全然目が合わない。とはいえ、僕だってこの大きさの人がいたら、絶対胸に目がいくと思うので、アキを責められない。
髪の毛も首の下辺りまで直線で伸びており、手ぐしを入れても引っかかりがない様子であった。元のボサボサ頭は見る影もない。
「あ、そーだ。思い出したわ」
内カメを見ながら己の面相を確認していると、アキは突然何かを思い付いたように右手の人差し指を立てた。
「さっき10連って言ったよな、オレ」
あのガチャを回す前のことか。そういえば彼の前に現れた謎のスクリーンに、そんなことが書いてあった気がする。
「ならさ、この部屋のどこかに、あと9回分のコインがあるんじゃねーか? 部屋の中で見つかったんだしよ」
「あ、そっか」
コイン一枚につき一回ということなら、単純にそれだけの枚数が見つかれば文言通りということになる。
あるいは単なる演出とかハッタリのようなもので、ただ人の性別を入れ替えるだけの箱だとしても、それはそれとして、一応コインを探しておく価値はあるはずだ。
「それでまたガチャを回したら、またあのトランスチェンジャー、だっけ? 性別を変えるカプセルが出てくるかもな」
「そうだね。というか出てくれないと困る」
そうすれば、学校どうするとか、戸籍どうなるとかいう問題も一発解決だ。何せ戻れるんだから。
運悪く二つ目のトランスチェンジャーが当たらなかったとして、その後のことはとりあえず、回してから考えればいい。
「あ……ああ!!」
「な、何!? ど、どうしたの?」
早速探し始めようとした途端、アキが突然目を見開いて頭を抱えた。
ま、まさかこのガチャについて、僕達に不都合なのっぴきならない事実に気が付いたりとかしたんじゃ……。
「戻ったらもう胸揉めねぇじゃん!!」
「怒るよ」
というか、もう怒った。これが性的搾取ということなのか。いや、単なる痴漢か……。
「僕は洗面所のほうを見てくるから、絶対、サボんないで、探して、よッ!!」
「お、おう……オレは冷蔵庫の裏とか探してみるわ!」
釘を刺してみると、彼はあからさまにテンションを落として、いそいそと立ち上がった。
「よし……!」
アキに見られたかは定かではないが、洗面所に行く僕の足取りは、自覚できるくらい弾んでいた。
実はちょっと内心ワクワクしている。他にどんなトンチキなものが出てくるのだろうか、と。
玄関近くの洗面所を探してみると、やはりコインが隠されていた。開閉式の鏡の裏に1枚、それから畳んで積まれているタオルの間から1枚。洗濯機の裏に1枚。
計3枚のコインを見つけたところで、一度立ち上がった。同じところに5枚も6枚も偏っているとは思えないし、あとは浴室とか、トイレとか? そうだ、台所も見ていなかったんだったか。
そう思って洗面所を出たところで、
「うええぇぇ!?」
居間のほうから、アキの素っ頓狂な叫び声が聞こえてきた。
「ど、どうしたアキ!?」
急いで居間に戻ると、棚を漁った体勢のまま
「な、何だよ。小指でもぶつけた?」
「そっ、そっ、そうじゃねーけど……!」
アキは震えながら振り向いて、僕に一枚の写真を見せてきた。
「フミ、見ろ、これ……」
「夏のボルダリング合宿の時の写真?」
「な、なぁ、フミ、何が見える……?」
アキが僕に見せたのは、去年二人でボルダリングクラブで撮った、僕とアキが写っているツーショットの写真だった。
「え……」
内カメで見たのと同じ、〝女〟の僕とアキが肩を組んで写っている、ツーショットの写真だった。
今回の頻出単語
・胸(計26回登場)
・揉(計13回登場)