ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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前回のあらすじ

 フミちゃん、アキくんとチューできる言い訳をもらって大興奮! 内なるメスが抑え切れていないぞ!
 チューする直前の発情状態でお話区切っちゃったから、最初からフルスロットルだぞ!




その9 緊急ミッション!?(後編)

 

 本棚の裏に隠れていても、勉強の音や、紙をめくる音はそこかしこから聞こえてきた。

 すぐ近くに人の気配がする。本棚一つを隔てるのみで、その裏には共有スペースがあって、新聞を読むご老体や、勉強に勤しむ学生がいるのだ。

 

「はぁーっ……♡ はぁーっ……♡」

 

 つまり、僕のこの息遣いも、耳を澄ませると誰かに聞かれてしまう。知らない誰かに、僕らが今からやろうとしていることを、知られてしまうかもしれない。

 だから落ち着かないといけない。そうでないと異変を感じ取った人に近付かれて、バレてしまうかもしれないのに。

 

 それなのに……♡

 

「フミ、ホントに大丈夫か……? すげー息が荒いけど……」

「大、丈夫っ……♡ 大丈夫だよ……♡」

 

 確かに、元からアキのほうが僕より数センチ身長が高かったけど、男の時は少し目線が合わないくらいだった。

 でも、今は違う。目線はアキの鎖骨より下にあって、つま先立ちになっても全然敵わない。完全に負けている。

 

「そ、それじゃ……いいんだな」

 

 背中を曲げて、体勢を低くしたアキの顔が近くなる。上から見下ろされて、アキの作る影に僕の体はすっぽりと収まっていた。

 

「ね……大きいね、アキ……」

「そ、そう、か……? フミが縮んだんだろ」

「うん……僕が、小さい…………♡」

 

 電車の中のことを思い出していた。吊り革に届かなくて、アキに抱き付いて支えてもらっていた時のこと。

 それほどの体格差だ。アキが優しいから、僕はまだ普通に〝男の時〟のように振るまっていられるけれど、力比べでもしたらいつでも負かされちゃう。

 

 もしもアキがその気になれば、僕なんかなんの抵抗もできずに押し倒され、服を剥かれ、体中を蹂躙され尽くすだろう。

 僕の外も中も、アキの〝男〟の部分に完全に征服されて、今後一生、絶対に敵わないことを教えられちゃうんだ……。

 

 抵抗…………。

 

 抵抗、する必要、あるのかな……♡

 

「あっ……」

 

 二列目の本棚のほうから人影がよぎって、僕らの姿を見るなり野生動物のように去って行った。

 一瞬すぎて、男性が女性か、若いかお年を召しているかも分からなかった。

 

 でも、一つ分かることは……。

 

「見られた、よな……」

「そう、だね……見られちゃ、った……♡」

 

 見られた。

 

 僕達から相手は見えていなかったけれど、あちらからは確実に見られていた。

 アキに本棚の際に追い詰められて、腕で退路を塞がれ、それなのに何の抵抗もしていないところを、誰かに見られてしまった。まるで本当の女の子みたいなところ……。

 

 なんて思われるのだろう。襲われていると勘違いされているだろうか。あるいは、こんなところで公然と行為に及ぼうとする迷惑な浮かれカップル?

 

 カップル…………?

 

 かっ、カップルは、言い過ぎかな……♡

 

「これ以上、見られる前に、さ……」

「うん……」

 

 僕は本棚の枠に少し体重を預かってもらいながら、精いっぱいつま先立ちをした。身長差のせいでアキが体勢を悪くするので、こちらからも合わせるために。

 

「い、いくぞ、フミ……」

 

 背筋がゾクゾクする。嫌な感じじゃない。くすぐられている時みたいに、恥ずかしくてやめてほしいけど、でも、もっとしてほしい気もするような……。

 

「いい、よ……?」

 

 顔が熱くて仕方なかった。胸も。いつもは冷え気味のつま先や手先も。

 

 でも、一番気になったのは、いつも僕にエロいことをしておいて、けろっとした表情を崩さないアキの頬まで、真っ赤だったことだ。

 

 

 

 ここからは、その後の冷静になった僕の回想であり、多少温度感の違う物言いになることを心に留めておいていただきたい。

 

「ちゅ…………」

 

 あの時の僕はどうかしていた。

 

 お互いの唇が触れ合おうという寸前、空中ギリギリで止まったアキの唇を、僕のほうから迎えに行っていた。

 

「は、あっ…………♡」

 

 触れた感覚はあった。しかし、それがいいものか悪いものか、判断が付かなかった。

 ただ、アキと唇が触れ合ったという事実だけを何度も頭の中で反復していた。

 

 その瞬間、頭の中で鳴り響いていたような気がするミッション成功のアラーム。

 気がするというのは、自分の記憶に自信がないから。僕はあの時、キスを終わらせる要因の全てを忘れていた。

 

「フミ…………」

 

 アキの声が、いつもよりずっと近い耳元で囁かれた時、僕は目的をも忘れた。

 

 全てこちらに近付いているのではないかと錯覚させられる誰かの足音。息を呑むようにして、どこかから覗かれているような、視線か気のせいか分からない感覚……。

 

「あっ、ぼ、く……」

 

 全部が心地よかった。アキが、僕のほうだけを見ていることも、僕も、アキから目を離せないことも。

 

「しちゃ、った……ね…………♡」

 

 

 一度では済まなかった。

 

「む……んっ……はっ、ちゅ……」

 

 腰の際どいところに手を回され、もう片方の手で胸を揉まれているのに、僕は抵抗もせず、むしろ自分から胸を押し付けていた。

 

「はぁ、ん……ちゅ……ちゅ……」

 

 唇が触れ合った艶かしい水音と、離れた瞬間の僕の息継ぎの声だけが、抱き合った僕らのわずかな隙間に響いていた。

 

「アキっ……はぁ、むっ、んん……」

 

 上までしっかり閉じたブラウスの、第三ボタンを勝手に開けられ、中に彼の大きな手が入ってくる。

 何の了解もなしに、服の中にまで手を入れられ、下着一枚の紙一重から胸を揉まれているのに、僕はその手を受け入れ、あまつさえ彼の手の上に自分の手を重ね、ねだるように甲を撫でた。

 

「ちゅ……ちゅ……ん、ちゅ……♡」

 

 どんどん息継ぎの感覚が減ってきて、なんだか恐ろしげな表情をしたアキが、すぐに僕を追い詰めてくる。

 

「む、ん………はぁ……ちゅ……♡」

 

 初めは1秒にも満たない接触だったのが、段々と触れ合い続けている時間が長くなっていく。

 アキの鬼気迫る表情しか見えなかった。視界が暗くなって、またアキが現れて、僕の目の中にはずっとアキがいた。それ以外のものはなかった。

 

「フミ……」

 

 僕の腰を抱いていた腕は、いつの間にか後頭部を掴んでいた。

 

「はぁっ、はぁっ……むぅ、ちゅ、んっ……♡」

 

 もはや触れ合いではなく、押し付けられ、押し止められるようなキス。息ができない時間が長くなって、僕だけではなく、アキの息遣いも荒くなってくる。

 呼吸が苦しいのに、なぜかそれ以上を求めていた。間違いなくあの時の僕は、窒息を求めていた。

 

「あ…………」

 

 少し長い間、と言っても数秒、アキの唇が完全に離れる。僕の口からは接合を惜しむような切ない声が漏れていた。

 

「なぁ、フミ、ミッションは…………」

「………と」

 

 この時の僕の頭には、既にミッションのことはかけらも残っていなかった。

 

「え……?」

 

 ただ、アキが離れたのが寂しかった。体が密着するほど近くにいたのに、まるで姿が見えなくなるほど遠くに連れて行かれてしまったような気分だった。

 

「もっ、と…………」

 

 最初に、アキの息を呑む音が聞こえた。

 

 目を瞑って待っていると、一番最初のキスと同じくらい優しく、触れ合う程度に唇が合わさる感触がした。

 

「ちゅ……♡ ん、む……ちゅ……♡」

 

 それからは、ずっとつま先立ちをしていたせいで、震え出した僕の体が、より強くアキに抱きしめられ、いよいよ僕自身で支える自重がほぼなくなっていた。

 

「フミ……」

 

 時々唇が離れて、僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。僕はただ目を瞑って、アキの唇を待ち続けた。

 目を閉じていたのは、無抵抗の意思表示だった。アキのしたいようにしてほしかった。すると、僕の期待を見透かしているかのように、あるいは、彼自身の欲望がそうさせるのか、数秒と待たずして僕らの唇から水音が響き始めた。

 

「ちゅ……♡ ちゅ……♡ は、む、ちゅ……♡」

 

 だらしなく半開きだった僕の口から、よだれが筋を作って首を流れ、ブラウスの内側に吸い込まれた。

 僕の両手はアキが離れないようにするので忙しくて、唾液を拭こうともしなかった。僕らは今しがた知ったばかりの感触に夢中になっていた。

 

「ん……む、はぁっ……♡ む、う……♡」

 

 アキの手も僕の胸から離れ、僕の両頬を上から掴んで、顔を固定していた。

 僕には制御できないタイミングで、いつ来るかも分からない感覚を期待して、僕はねだるようにため息ばかりを漏らしていた。

 

「アキ……♡ それ、また……♡」

 

 両頬を引き上げられ、再度僕とアキの口が繋がる。

 

「ふぅ、む……!? んっ……じゅ♡」

 

 半開きで無防備だった僕の口の入り口に、アキの舌が侵入してきた。

 口の中という、自然には他人に侵犯されるはずのない場所に、アキが入ってくる。僕の舌は馬鹿みたいに垂れ下がっているだけで、侵略者を追い出そうともしなかった。

 

 そうして、普通なら誰にも触られない、上唇の内側をなぞるように舐められた瞬間――――

 

 

 

「あの……」

 

 

 

 突然、アキの口が離れた。物欲しげではしたない、僕の唾液がアキの口とつながった伸びて、切れるとともに僕の胸に落ちて、ブラウスに縦方向のシミを作った。

 

「あっ、す…………!」

 

 全身の力が抜けて、アキしか見えていなかった僕と違って、彼の反応は早かった。

 アキに強く抱きしめられ、多幸感で力の入らない首を何とか回して横を見ると、図書館職員の壮年の女性が立っていた。

 

「他の利用者様のご迷惑になりますので、そういったことは……」

 

 職員の女性は、困惑と怒りを綯交ぜにした複雑な表情で、それでも図書館という場所、それに彼女の立場上、努めて落ち着いた声量で僕らに注意をした。

 

「う、あっ、ごっ…………!」

 

 抱き合って手を解くことができず、僕はよだれが垂れた口許を隠せないまま、じわじわと追い付いてくる現実感に咎められながら、ただ俯くしかなかった。

 

「ごめんなさい…………」

 

 多分火が起こせるくらい、僕の顔は熱くなっていた。アキの顔もそれくらい赤くなっていたと思う。

 

 

 

 帰りの電車は人が少なかった。

 

 夏祭りが目的の人達は粗方移動し切ったのか、客足は少なく、ちらほらとサンダルの男性が乗り込んでくる程度だった。

 そのため、ガランと空いた車内にはいくらでも座れる位置が残っており、僕とアキは1座席分、お互いの間を空けて座っていた。

 

「…………」

 

 帰りは気まずさのあまり、アキのほうを見ることすらできなかった。

 電車までの道中も終始無言だった。僕もアキもたまに口を開こうとして、車の走行音や、踏切の音に邪魔され、その後に何かを続けるタイミングを失っていた。

 

「ん、んん…………」

 

 何を話せばいいのか分からない。いつもならいくらでも出てくる軽口が、全然出てこなくなってしまった。

 僕の口が思い出すのは、アキの少し乾燥気味な唇の感触だけで、日本語の発話の方法も忘れてしまったみたいだった。

 

 ……でも、こ、このままずっと、アキと気まずくなるのは嫌だ。

 

 僕はあってないような勇気を振り絞って、アキの顔を見上げてみた。

 

「あ、アキ、その…………」

 

 アキは一瞬だけ僕と目を合わせると、すぐに俯いてしまった。ジーパンを握り込んで、顔を赤くして黙っている。

 多分、アキも僕と同じように考えていそうだと思うと、少しだけ安心した。

 

「ごめん、僕……」

 

 ミッションがどうとか言い訳をして、アキを変なことに巻き込んでしまった。しかも、一度ならず、何度も……あ、あんなことを。

 

「謝るなよ……お、オレのほうこそさ……」

 

 謝りながらも、アキの視線はちらちらと僕の唇のほうに向いていた。多分僕の目線も、アキからすれば一目瞭然で、彼の唇ばかりを気にしていたかもしれない。

 

「あ、あのね、その……」

 

 も、もうあんなことしちゃったのに、今更怖がるなよ……! くそ……全然上手く喋れない。今までどんな風にアキと話していたんだっけ……!?

 

「ど、どうだっ、た……?」

 

 な、何を聞いているんだ僕は!? 動転して変なことを口走ってしまった。そんなことを聞いても、さっきのことを思い出して、より気まずくなるだけなのに……!

 

「ど、どう!?」

 

 案の定、変な質問をされたアキは、声が裏返っていた。僕だって、いきなりそんな質問をされたら反応に困る。

 

「どうって……そりゃ……」

 

 それでも、アキは真面目に考えて、答えようとした。

 

「まっ、待って! やっぱなし! ごめん、それ以上は、い、言わないで……」

「何だよ、急に……フミが聞いたんだろ」

 

 気まずさとかは関係なしに、その続きを聞くのが怖かった。

 別に2回目の予定がある訳でもないのに、アキの口から「よくなかった」とは、聞かされたくなかった。

 

「だって……なんか」

 

 よくないと言われたら、まるで……。

 

「よかったよ。オレは。夢中になってた」

「え、ええ!?」

 

 む、夢中に……!?

 

「しっ、仕方ねーだろ! お前、鏡とか見直してこい! お前だってこんなおっぱいデケぇ美少女とキスできるってなったら、そらもう必死にもなるだろ!」

 

 僕の、唇に、ってことか!? そ、そんなハレンチなことが許されるのか……!?

 い、いやそうだ……僕から聞いておいて、よかったと言ってほしいなんて思いながら、いざ言われると拒否反応は……ぼ、僕のほうこそおかしいじゃないか……。

 

「だからごめんって話だよ。お前のこと押さえ付けておいて、周り見てなくて、結局職員の人に見られちまったし……」

「そ、そんな……」

 

 周りが見えていなかったのは僕も同じだし、そもそも、一度では済まず、二度三度を求めたのは僕だ。

 アキ相手に、気が動転していたとしか思えない。

 

 思えないのに。でも、あれが最後になるのは、なぜか…………。

 

「お前はどっ、どうなんだよ……」

「え?」

「え、じゃなくて、フミこそ、い、嫌じゃなかったのかよ……?」

 

 ぼ、僕が……!? どうっ、て……。

 

「僕は…………」

 

 アキのはっきりした目が、じっとりと僕を睨み付けていた。顔を赤くして、緊張感を醸したまま固まっていた。

 

「な、何だよ……早く言えよ」

 

 そうか。アキもだったんだ。僕の一人相撲ではなくて、アキも僕と同じくらい気まずさを感じていたように、自分だけその気になっているみたいで、不安だったんだ。

 

「僕も……夢中になってた、かも……」

 

 

 

 帰りの電車の会話はあれっきりだった。お互いに無言で俯いて、自分の靴ばかりを見ていた。顔を見ることができなかった。

 アパートまでの道程、アキは決して僕を置いて行ったりはしなかった。身長に合わせて狭まった僕の歩幅に合わせ、僕らは、少し手を動かしたらつなげるくらいの距離で、黙って並んで歩いた。

 

「た、ただいま、だね……」

「おう……ただいま……」

 

 さっさと自分達の部屋に戻ればいいのに、部屋の扉の前で、僕達は向かい合って、それなのに俯き合っていた。

 

 アキが動いてくれたら、僕もこんなことをしていないで、ここを動けるのに……いや、それは言い訳か……。

 なぜか、昼下がりの夕方でもない強めの西陽が寂しかった。今日はもうこの調子なので、部屋に戻ったら明日までアキと会うことはないだろう。お互いに照れているから。

 

 それは寂しかった。

 

 ゆ、友人として。多分……。

 

「なぁ……」

 

 僕がもじもじと手を組んだり離したりを繰り返していると、一歩だけアキが僕のほうに近付いた。

 

「な、何……?」

 

 悲しくも嬉しくもないのに、目が潤んで仕方なかった。多分何か、病理学的な説明の付く現象だろう。

 最近はアキを見上げてばかりなので、太陽の光が目に入りやすい。それをアキが涙とか違いしなければいいが。

 

「あぁ、何だろ……何つーか……」

 

 歯切れの悪いことを何かボソボソと繰り返しながら、アキは気を逸らすように頭をかいた。

 

「ミッションの……」

 

 また言いかけて、止まった。アキにしては珍しく、言葉を選んでいるようだった。

 

「キスする……ってさ、確か、通常のミッションでも、ある、よな……?」

「え、えと……そう、だと思う」

 

 確か、ランク5のミッションだ。確認はしていないが、繰り返しおこなうことで、半額の経験値を獲得できる類のミッションだったような、気がする。

 

「明日もしていいか?」

「えっ」

 

 していいか、というのは、この文脈で言うとつまり、キスを?

 

「えええ!?」

 

 き、キスを!? あっ、明日もするっていうのか!? あんなことを、明日も……!?

 

「お、おかしいよな……分かってる。けど、なんかさ……だ、ダメか?」

 

 そ、それはまずい。何がとは言わないけど非常にまずい。あ、あんなこと二日も続けてしていたら、あ、頭がおかしくなる……!

 何か決定的な方向に、僕の進路が定められてしまうような気がする。もう後戻りができないところまで、確実に……。

 

「え、あ……」

 

 僕はすぐに答えられなかった。中途半端に口を開いて、何にもならない呻き声を漏らすことしかできなかった。

 

 だ、だって……いきなりそんなことを言われても、心の整理が付かない。

 

 つまりアキは、僕と、き、キスをしたいということだろうか?

 

 アキも……♡ いやいやっ、アキ〝が〟僕とキスをしたい……。

 

 い、いいんじゃないか? 別に。なぜなら僕も嫌ではない。嫌ではないし、その、キスはランクが高いから、もらえる経験値も、多いから。

 

「あ、あのっ……」

「い、いやいい。悪い。変なこと聞いた。嫌ならいいんだ」

「えっ……!?」

 

 そ、それも違う! 絶対に嫌なんかじゃなかった! 僕だって同罪だ。ミッションをさせたのも、一度以上を求めたのも、僕なんだし……。

 他の男としろって言われるならまだしも、あ、アキとなら……別に……。

 

「ごめん。悪かったな、変なこと言って。そ、それじゃまた――――」

「待って!」

 

 踵を返したアキの服の裾を掴んで、僕は彼を引き止めた。

 

 ひ、引き止めてどうする? 僕は彼に何と言えばいいんだ?

 

「ふ、フミ……?」

 

 そうだ。あ、アキには……対価を受け取る権利がある。なぜなら、彼が今日までやってきたことは、僕を男に戻すための手伝いであって、彼には何の利もない人助けだ。

 僕ばかりが得をして、アキには何の対価もないのは、ず、ズルじゃないか? そんなのは。僕にできることなら、してあげたい。

 

 だったら。アキが、僕と、ち、チューしたいというのなら。

 

 させてあげるのが、僕にできるお礼、なのではない、だろうか…………。

 

「そうだよね……うん……だって……」

「ど、どうした、フミ?」

 

 僕はアキの靴のつま先ばかりを見ていた。背が低くなって、地面が近くなった分、あと胸が膨らんだ分、前よりも足元を気にすることが多くなった。

 こうして見ると、アキの靴は、今の僕の靴より一回りも二回りも大きい。アキを見ていると、その男性的な性質に裏返って、自分のひ弱な体を思い出す。

 

 そうだ。今の僕は女だから……今だけ……。

 

 アキが悪いのではない……僕が、こんな見た目をしているのが、悪いから……♡

 

「あの……コイン、集めなきゃだし」

 

 ゴクリ、と、頭上でアキが生唾を飲む音が聞こえた。

 もしかしたら、今の一言で全て、僕が言わんとしていることを察したのかもしれない。

 

「アキには、いつも、助けられてるから……」

 

 裾から離れた僕の手は、そのまま脇腹の横に落ちる前に、アキに掴まれた。

 アキはもう片方の手も掴んできて、僕は向かい合ってつながれている自分の手を、ただ見下ろすことしかできなかった。

 

「その、も、戻るためにも、さぁ……」

 

 そうだ。これは、男に戻るため。コインを集めて、あのガチャを回すためだから。変じゃない。変じゃない……。

 僕の望みであって、アキのせいではない。男に戻りたがっている僕と、あそこに謎のガチャを設置した何者かが悪いんだ。

 

 だから、これからは、アキと……。

 

 

「明日も……ね?」

 

 

 直後、その場でアキに抱きしめられた。

 

「あっ、アキ……!?」

「フミ、悪い……オレ……!」

「む、ん、んんっ……!?」

 

 僕の唇にアキの唇が重なった。

 

「ちゅ……ん、む♡」

 

 何も言われていないのに、了解も得ない無理やりなキスだったのに、僕は抵抗できなかった。

 

「フミ…………」

 

 口許で熱っぽい声がした。僕が返事をする前に、僕の声と一緒に入口を塞がれ、頭の中に無言の幸福が往来した。

 

「なぁ、もう少し……」

「いいよ…………♡」

 

 アキが喜んでくれるなら、いいんだ。

 

 アキが僕と、ち、チューをして、それで喜んでくれるなら、僕も、嬉しいから……。

 

 僕も…………♡

 

 





 フミちゃんは勘違いしているが「異性とキスをする」は、実は初回のみ経験値獲得ミッションだぞ!
 あるいは分かっていて勘違いしているフリをしているのかもしれないな! ガハハ。
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