ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない 作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者
メス堕ちする時はね
(親友の男の子以外の)誰にも邪魔されず
自由で なんというか
救われてなきゃあ ダメなんだ
独りで(親友と二人で)静かで
(パイとケツが)豊かで……
八月も熱気の盛り目がいつ頃なんだか分からなくなってきた昨今ではあるが、盂蘭盆会も半ばの晩夏には、ほんの1日や2日、比較的(比較的!)涼しい日がある。
「じゃあ、今日も……いいか?」
「う、うん……」
エアコンを節約した部屋の中で、じっとりと汗ばむお互いの腕を掴みながら、僕らは顔を見合わせ、息遣いを整えていた。
今日は涼しいから、と言って、アキが部屋のエアコンを付けなかったからだ。他にこの暑さを説明するものがあるだろうか?
だって、昨日はあれだけ狂ったように唇を合わせておいて、今更、緊張とか……。
「フミ……」
アキはなぜか、僕の目を手で隠してから、ゆっくりと顔を近付け、一度だけ唇を合わせた。
「ん、む……」
彼は僕が思っていたより恥ずかしがり屋なようで、チューにおよぶ時の顔を僕に見られたくないらしい。
僕だけアキに見られていると思うと、ちょっと不公平な気がする。
「はぁっ…………♡」
体温より熱い息が僕の口から出て行って、アキのため息とぶつかった。
唇に柔らかい感触が名残惜しくも、僕らの顔はそのまま離れていき、アキの手による目隠しも取り去られる。
頬を上気させたアキの赤ら顔が、なぜか少しだけ嬉しかった。なぜかは分からないけど、少しだけ。
「ねぇ……」
「な、何だ?」
「もう、終わり…………?」
なぜか、僕はそんなことを聞いていた。
僕は……終わりでもいいけれど、アキは、実は満足していないんじゃないか……?
だったら別に、もう一度くらいなら……♡
「おっ、終わりっ! 今日は終わりだっ! 約束しただろ! 1日1回って!」
「そ、そっか……」
アキは物欲しげに僕の唇を見ていたが、左右に激しく頭を振ると、表情を険しくして密着していた体を離した。
途端に風の通り道ができて、胸の辺りが涼しくなる。ベタついた体に空気が気持ちいい反面、抱擁感が薄れて、なぜか物足りなかった。
「あ、改めて、おはよ……フミ……」
「うん……」
顔が離れるのを惜しむように、汗でベタつく腕に触れ合いながら、僕らの朝は始まった。
1日1回。
何の数字かというと、先ほどの行為の話だ。
3日前の朝、キスをしようとする直前に、アキが自分から言い出したことだ。
1日1回と決めておかないと、際限なく続けてしまうと、頑なに僕の顔から目を逸らしながらそう言っていた。
『抑えが、付かなくなりそうだからさ……』
その時は何も言わなかったけれど、正直僕も同意見だった。
2度目を許してしまうと、本当に酸素不足で倒れるまでキスをし続けてしまうような気がした。
僕がではない、アキが我慢できなくなりそうだからということだ。決して僕がアキとキスをしたくて仕方がないのではなく、彼がしたいというので、助けてもらっているお礼として許しているだけだ。断じて僕の願望ではない。断じて!
「じゃあ、その、あー……お、オレ風呂入ってくるわ! 寝汗すげーし、こっ、このあと出かけるだろ!?」
「あっ、そ、そうだね!? 僕もそうしたほうがいいよねっ!」
僕の両肩から手を離したアキは、そそくさと着替えをタンスから引き出すと、ユニットバスの狭い浴室に駆けていった。
僕も部屋に戻って汗を流そう。着替えもしなくてはいけないし……。
3日前から、つまりアキと何度もキスをしたあの日の翌日から、アキの様子がおかしい。
「あ、アキ? 準備どう?」
「おー。終わってるぞ。いつでも出れる」
アキは袖口の広いオーバーサイズの黒Tシャツと、カーキ色のワイドジーンズを履いて待っていた。
「アキも緑なんだ」
「緑じゃなくてオリーブ色な」
「一緒じゃん」
「違うんだよ。緑とは印象が、全然」
今日の僕の服は、足首まで丈のある深緑のスカートもどきだ。見た目はスカートに見えるものの、中は二股になっており、気分的に収まりがいい。
最近(アキの要望で)スカートばかり穿かされていたので、ちゃんと包まれている感覚があるものに、ちょっとした懐かしさを感じるようになってしまった。
「かわいいな」
かわいい、とも言われ慣れてきた。こいつが毎日かわいいかわいいと言ってくるので、一々恥ずかしがるのが馬鹿らしく思えてきたのだ。
確かにアキの言うとおり、鏡に映る僕は無二の美少女であることは間違いないのだし。
「いいでしょ。スカートもどき」
「ラップキュロットな。前にも教えたろ」
「横文字難しいんだよ」
普通に会話をしているようで、その実僕は違和感を感じていた。
やっぱりだ。やっぱり、アキの様子がいつもより変だ。
いつも通りだと思う向きもいるかもしれない。だが、違いは至極簡単なことだ。
「じゃ、行くか」
「うん。アキも水着買いに行くんだよね」
「オレも去年より背伸びたしな……」
こいつ、全くセクハラをしてこない。
昨日までのアキなら「水着」という単語で火が付いて、もうセクハラの嵐だったはずだ。何なら少し覚悟もしていた。
そうでなくとも、動機をこじつけてさりげなく胸や尻を撫でようとしたり、匂いを嗅ごうとしてきていた。
今日は朝からそれが全然ない。
拍子抜け……というのだろうか。くるべき衝撃に備えて目を瞑っているのに、何も来なくて困惑している時の気分だ。
「ねぇ、アキ……」
「ん、何だ?」
「もしかして体調悪い?」
そう聞いてみると、アキはぽっかりと口を開けて、心当たりがなさそうな顔をした。
「えっ? お、オレが? 気のせいだろ。そんなことねーぞ?」
「ホントに……?」
「ホントだって。風邪引いたことない自慢とかしてたタイプの小学生だったんだぞオレは」
「それは聞いてない」
確かに、アキの体は丈夫だもんな……この1年と半年の間に、彼が体調を崩したのを見たことがない。
では別の要因なのか? 今も様子がおかしい。アキは顔を赤くしながら、自分で折った折り鶴に片っ端から切れ込みを入れ、足を生やしていた。
食卓の上には、エリマキトカゲみたいなガニ股の折り鶴が次々と量産されていた。うわ、金色のヤツもいる。
「そんなに足付き折って、競争でもさせるの?」
「あ? 足? あぁ……いや別に、なんか、折り紙折ってると、気が紛れるからさ……」
ほら、「気が紛れる」とか言い出した。
つまり、何か紛らわせたい内心があるということではないか。やっぱりいつもと何かが違うらしい。
「ねぇ! 隠し事とかしてないよな?」
「か、顔近っ……かわいっ……」
「アキ?」
彼はなぜか慌てふためき、不明瞭な独り言を呟いている。僕の言っていることが何も耳に入っていない様子だった。
「聞いてるの?」
「わ、わり。何が?」
「だから隠し事してるんじゃないかって話!」
「隠しっ、ごと!?」
なぜそこで露骨にうろたえるのか。まるで図星を突かれたみたいに。いや、もしかして本当に図星を突いてしまったのか?
「いっ、いやいや! してねーって! する訳ねーだろお前相手に!」
「ホントかぁ……?」
「それより! 行こうぜ! 準備できたんならさ!」
「うーん……」
怪しい。非常に怪しいが。準備ができたのなら行こうという意見には賛成だ。あまり遅れて日中になると、折角少しは涼しい朝なのに、どんどん暑くなってくるし。
やっぱりおかしい。
「そこ気をつけろよ。裾引っかけるなよ」
「あ、うん」
少しは慣れてきたとはいえ、まだ勝手を完全に掴み切っていないヒラヒラの服が、エスカレーターに巻き込まれないように、アキが横から服を押さえてきた。
突然後ろから体に触られたのに、全然セクハラ感がない。本当に引っかからないようにするための措置であって、最低限の接触に留めているという感が強かった。
「疲れてないか? いつもはスニーカーかサンダルだろ?」
「大丈夫。結構慣れてきたよ」
「そうか……ならいいんだ。余計なこと聞いたな」
「いやいや。ありがとね」
何というか……すごく紳士的だ。
僕が女になった直後からして、歩調を合わせるのが上手かったアキだが、今日はいつも以上に歩きやすい。
このアウトレットまでの道中も、アキは極めて自然な足手で車道側を歩き、僕の肌の弱さを懸念してか日陰の多い道を選んでいた。
非常に細やかな気遣いを感じる。小器用で押し付けがましくない親切に感心する反面、そこまでしてくれなくてもいいのに、というむず痒さがあった。
だからこそだ。だからこそ違和感がある。
「ね、ねぇ、アキ……」
「何だ?」
「あのさ、ぶ、ブラの中の汗染みが酷くて……ちょっとだけトイレ行っていい?」
試しに、僕は自分から〝撒き餌〟を撒いてみることにした。
そんなことを言えば、アキなら喜んで食いついてくるはずだ。「汗を拭くならオレに任せろ」とか。「先端の弱いとこを重点的に拭いてやるからな」とか。
「そ、そっか……つか、外であんまブラとか言うなよ」
「えっ……!!」
ぜ、全然セクハラしないどころか、むしろ僕のほうが嗜められるのか!?
う、うわうわうわ。は、恥ずかしい。自分から誘っておいて断られた自意識過剰な痴女みたいで、めちゃくちゃ恥ずかしい。
これは……絶対に何かおかしい。以前までのアキなら、人前とか屋外とか気にせずにセクハラに勤しんでいたはずだ。僕を困らせては嬉しがっていた。
「そこのソファで待ってるわ。急がなくていいぞ」
「あ、ありがと……」
彼はそう言うと、ソファにどっかりと腰を下ろして、そっぽを向いて膝の上に立てた腕で頬杖をついた。
ぐ、ぐぐぐ。だったら第二の矢だ。水着売り場で真偽を確かめてやる。
夏の間、水着専門店はいつも控えめなディスプレイをテナントの前面において、目を引く派手な色味の水着で客引きをしている。
最近は温水プールも珍しくないので、年中少しは水着の需要があるものだが、やはり夏はかきいれ時ということか。
「う、うわ……すご……女性用ばっかり。ホントにいいのかな、僕、ここにいて……」
男性用水着の売り場より、女性用の棚のほうが2倍近くある。上を着ないこともある男性用と違って、上下が必須であるからというだけでは説明が付かない面積だ。
やっぱり女の人のほうが需要ありそうだもんな。男は1着買ったら長いこと同じものを使っているだろうし。
「あの、アキ……例によって」
「分かってるよ。一人じゃ心細いから来いって言うんだろ」
よ、よかった。あからさまに女性限定みたいなスペースに一人で入る勇気はない。僕の現在の外見とかはさておき、精神的な恐怖は拭えない。
店内は明るい白タイルと白壁で、水着の彩色がよく分かるようになっていた。
おかげで、色々な種類があることが分かりやすい。おそらく男が女性用で思い浮かべるビキニタイプだけではなく、一体型のものや、ワンピースタイプのものまで、様々だ。
「これとか、ヤバいでしょ……見てよこれ」
「お、おぉ……すげーな……」
大人の水着特集、と書かれたポップの下に、縦に長い二等辺三角形でギリギリ乳首が隠せる程度の細くて薄い布のビキニがかけられていた。
その隣には、俗に言うスリングショットとかいう種類の水着も。あれだと多分乳輪が隠しきれない。
「こんなもん誰が着るんだ……?」
「ネタでも買う人いなさそうだね」
ド〇キのコスプレコーナーに安っぽい袋詰めで置かれているのがギリ許されるくらいじゃないか。このレベルは。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
そうして大人向け水着コーナーで立ち往生していると、見かねたらしき店員さんが話しかけてきた。よくここに立ち止まってるヤツに話しかけられるな。
「え、えと……ぼ、僕が着る水着を探してるんですけど」
「はい! 女性用ならこちらですね」
「す、スリーサイズが、ごにょごにょ……なので、合うヤツが……」
アキに(もうバレてるけど)聞こえないようにスリーサイズを伝えると、店員さんは、指をこめかみに当てて考えるような素振りを見せた。
や、やっぱりないかな……前に通販で女性用下着を探した時も、僕のサイズはあんまり売ってなかったしな……。
「でしたら、こちらのコーナーにございますよ」
「え、あっ、あるんですか?」
「はい! お胸のサイズが隠れやすくなるものもございますので……こちらおすすめさせていただきます」
「あっ、ど、どうもっ……!」
店員さんもアキに聞こえないように、小声でそんな風に教えてくれた。
胸のサイズが誤魔化せる水着なんてものがあるのか……い、いいかも……。
正直、ここに来るまでもちらちらと視線を感じて鬱陶しいと思っていたんだ。胸とか尻ばっかり見てきやがって。そういうのは見せて金を稼いでる人のヤツだけ見ればいいのに。
だというのに、今度はアキが全然そういう気配を出してこないし……。
「では、ごゆっくりお探しください。試着はあちらをお使いくださいね」
「ありがとうございます」
試着室の位置ヨシ! 僕の胸が入る水着であるかの確認も……ヨシ。大体この辺りのは着られそうだ。試着して確認はするけど。
よ、よぉし……じゃあ、早速やるぞ……。
「ね、ねぇ、アキ?」
僕は、なぜか気配を隠そうと努めていたアキのほうに振り向いて、意識して上目遣いで話しかけてみた。
「何だ?」
くっ、む、無反応か……だが、本命はこれじゃない。覚悟しろよ。
「前に話したこと、お、覚えてる……?」
僕はちょっと体をくねらせて、これでもかと女の子っぽさをアピールしてみた。これで雰囲気を出せているのかは定かではないが、もうやるしかない。
「前って……」
「ほ、ほら、僕に着せたい水着の話……アキが選んでよ。なんでも着るから……」
「なんっ……!!」
どど、どうだ!!
なんでもっ、着るからっ!!
ここまで言われたら、ここまで欲望を抑えていたアキだって、馬脚を露わにするはずだ。
この作戦は諸刃の剣だ。さっきのあのコーナーの存在を、アキも確認してしまった。最悪あの中の1着を選ばれる可能性もある。
い、いや……むしろその可能性が高い。ほぼ紐で構成され、指で引っかけなくても風でぜんぶ見えそうなレベルの水着を着させられ、衆目を歩かされることになるかもしれない。
と、というか……今ここで試着するのを、アキにも見られる訳、だし…………♡
「わ、分かった! ちょっと待ってくれ!」
アキはビクゥっと体を震わせると、硬直した体をバネみたいに突然動かして、売り場の水着を物色し始めた。
す、すごく真剣だ。真剣に、僕に着せるための水着を選んでいる。
試着室で待機しようとも思ったが、これは近くを離れないほうがいいな……僕がいなくなったら、アキが女性用水着を一人で漁っている男だと思われてしまう。
本当に鬼気迫るという風な表情だ。何だか雰囲気が怖いぞ……そんな、命を預ける防具を選ぶみたいな……。
アキはいくつか水着を見た後、ビキニ用ハンガーにかかっていたセットの水着を取ると、ぶっきらぼうに僕に突き出した。
「こ、これがいいんじゃねーか……?」
アキがそう言って僕に見せたのは、露出の少ない深緑のビキニだった。
「え、これ……?」
「だ、ダサいか?」
「そんなことないけど……」
まるで袖なしの短いブラウスのような、へそ上ギリギリまで丈のあるハイネックの上衣に、横を結ぶタイプ(タイサイドというらしい)のビキニ。
露出控えめだ。下が気になるけど、上はほぼ隠れている。この格好で出歩いても、海辺の町なら許されるくらいの。
「じゃあ、これ、着てみてくれ……」
「う、うん」
順当にかわいいというか、デザインも悪くないもので、しかも背中側までしっかり隠れている。
「あ、あとこれも」
「カーディガン?」
アキが後から渡してきたのは、白い薄手のカーディガンらしき上着だった。
「それ着たら……日焼けもマシだろ」
これ着たらいよいよ肩も隠れるし、この中では露出が激しかったお尻や太ももも隠れてしまう。僕としては嬉しいけど、アキはこれで満足なのか?
とにかく着てみるか……じょ、女性用水着なんて着るのは初めてだけど、下着と同じ勝手でいいのかな……。
試着室の壁のハンガー横には、「下着の上からご着用ください」という注意書きの貼り紙が貼られていた。
男でもパンツまで脱いで試着するようなヤツいないと思うけど、注意書きをしないといけないほど、そんな人がいるということか。
「ほほー……?」
お尻はカーディガンのおかげでラインが分からず、ハイネックのため谷間もしっかり隠されていて、繊維が違うだけの夏着みたいな風合いだった。
揺れる横の紐がセクシーだ。カーディガンを脱ぐと、下のビキニがこんな風になっているというのが、むしろエロいのかも。
って、何を僕は自分の格好からエロさを探そうとしているんだ……。
「でも、思ったより常識的だぞ……」
女の子みたいな格好……であることにはいい加減抵抗も薄れてきたとはいえ、人前に出す肌の面積を懸念していたので、いいことはいいのだけれど……。
「着替えたよ」
「お、おう……」
扉越しのアキの声は、なぜか出会った頃のように不自然で、硬かった。何を緊張しているのだろう。あるいは、心ここに在らずというのは、このことなのだろうか。
「どうかな……えと、これ」
扉を開けると、腕組みをして、赤い顔を難しそうにしかめているアキがいた。
全然汗はかいておらず、意識もはっきりしているので、熱中症という訳ではなさそうだけれど……。
ランク3
・異性に水着姿を見せる Success!
あ、これもミッションだったんだ。半分以上隠されているので、やってみるまで分からないものが多いな……。
「かっ、かわいいぞ! かわいい。うん……学校で一番かわいい!」
「う、んん……」
アキは身を乗り出してそう言った。い、勢いがすごい。
僕がそのせいで少し身を引いているのを、信じられていないものと勘違いしたアキは、さらに語気を強め、今度は両肩を掴んで迫ってきた。
「嘘じゃないぞ! 本心だ! ホントに、すげーかわいい……」
「わ、分かったからっ!」
いつも聞いている、セクハラのついでに言うみたいな「かわいい」とは違った。
何というか、絶対に伝わってほしいみたいな覇気を感じる。嘘や伊達で言っているのではなく、はっきりとその意図で……。
「なんか……意外だね」
「い、意外か?」
「もっとすごいの着させられるかと思った。アレとか」
僕は先ほど二人で見た、大人の水着コーナーを指差した。
どうみてもアウトレットの売り場に置くにはギリギリの商品だ。テナントの入口にはディスプレイせず、奥まったところの壁裏にあるから許されているのだろうか。
「ばっ……! バカ! あんなの露出狂じゃねーか!」
確かにアキの言う通りだけど。あんなの家族連れも多いアウトレットに置いていい水着ではない。
しかしだ。僕は知っている。こんなことを言っているが、アキは女性にはなるべく肌面積が多い服装でいてほしいと思っていることを。
「君そういうの好きじゃん」
アキの部屋で『真夏の全裸徘徊痴女、行く先々で男を漁る!』とかいうセクシービデオのブルーレイを発見したことがある。発見というと多少大仰か。だって堂々と本棚に並べられていたし。
女性が恥ずかしい格好で衆目の中を歩かされるシチュエーションが大好きだ! と聞かされたことすらある。男女合同の水泳の授業中に。流石に問題になりかけた。
「好きっ……ちゃ好きだけどぉ……さぁ。現実でやらせるのは違うだろっ!? つか、いいのかよあんなの提案してさぁ! 着るのはお前だぞ!」
「それは……そうだけど」
絶対にごめん被る。最近は誰しもすぐに携帯を取り出して、許可も取らずにパシャパシャと人を盗撮する時代だ。罪悪感も薄い。
あんな水着を着て行ったら、海水浴客にジロジロ見られては、モラルの薄い連中に無許可で撮影とかされて、ネットの海に一生消えない黒歴史として放流される可能性だってある。
「でも…………アキがお金出すって言うし。だったら、僕に拒否権ないでしょ」
こいつ、学校に内緒でやっているスキマバイトで稼いでいるとか言って、僕が着るための水着を自費から出そうとしている。
授業に文字通りの内職(つまり別科目の勉強ではなく、ネジの袋詰め)をして貯めていたらしい。仕送りも結構もらっているようだし、1度や2度の出費が致命的になる気もしないが……。
いいのか? バイト代も込みとはいえ、親から送られてきた生活費を、女の子に貢ぐみたいな真似で散財するのは?
だったら、アキが心から着てほしい水着を着てあげることが、僕にできるお礼なのではないか?
「あ、アキが好きな水着、着ていいよ? アキが言うんだったら、僕……」
「ふ、フミ、お前……」
生唾を飲む音が聞こえた。アキは表情を赤くして、まるで身悶えるかのように唸り声を漏らした。
「いやっ……いいんだよ! 拒否権ないって言うならこれにしろ!」
「…………まぁ、僕はありがたいけどさ……なんか変だなって。今日のアキ、胸揉んできたりもしてこないし」
別にいい。揉まれたり触られたりしたい訳ではないし、ただ、突然やらなくなったから違和感を感じているだけだ。
「確かに人前であんなの着たくないけど、いつものアキなら試着だけでも、とかいってくるでしょ」
「それは、さぁ……何つーか、その……」
アキは人差し指で頭の横をかきながら、照れくさそうにそっぽを向いた。
「他のヤツに見られるだろ…………」
「え、そ、それって……!」
他のヤツに……? それってつまり、僕が露出の多い格好をしているのを、誰かに見られたくないということか?
もしかして、この白いカーディガンを渡してきたのも、本当は僕の肌を隠すためなのか? 日焼けを心配してというのは口実で、僕を他の人に見せたくなかったから?
「わ、悪いかよ!! 自分でも変だとは分かってるよ! オレが見られる訳でもねーのに……」
「へ、変じゃない! そうじゃなくて……」
むしろ、なんか……。
嬉しい……かも…………♡
う、嬉しい? なぜ? アキが僕の肌を他の人に見られたくないと思っていることが、僕は嬉しいのか? おかしくないか? 僕自身の意思とは別の話なのに。
で、でも、嬉しい……♡ アキは、僕の体が他の誰かに見られたくないって思っているんだ……♡
嬉しい……♡ なんでっ♡ 嬉しいっ♡
でも、それじゃ、アキへのお礼にはならないよね……♡
「じゃあさ……」
そう思うと、僕は今から自分が変な提案をしようとしていることに気付いていながら、勝手に喋る口を止められなかった。
「い、家でなら……どうする……?」
「え、はっ……? い、家……?」
困惑するアキのほうに寄って、まだ僕の肩を掴みっぱなしのアキの手に、僕自身の手をも乗せながら、聞いてみた。
「着ていい、よ……? アキの前でだけ、アキが見たい水着…………」
動揺で開きっぱなしだったアキの口が急に閉じて、僕の肩を掴む力が強まる。
ど、どうしよう。目が少し怖い。瞳孔の奥で気炎が渦巻いている。何か強い葛藤があって、心の中で戦っているような目をしていた。
で、でも、それってつまり、喜んでくれている、ということではないか?
だったらいいよな……アキに日頃のお礼をするためなのだから……。
そう、これはお礼。お礼だから…………♡
「これ……折角選んでくれた水着は、自分で買うからさ……」
2着も買わせるのは申し訳ない。僕だってアキと遊びたくて海を提案したのだ。だからこれは自分で買う。
デザインもかわいいし、それに、これだってアキが見たい水着の一つには変わりないのだろう。つまり、衆目の中で着せる場合に見たい水着としては。
その代わりに、だ。その代わりに……。
「こ、今度、部屋で、二人きりなら……」
「いいんだなっ…………!」
上から覗き込むアキの顔は、さらにその上の照明を後頭部に受け、影っぽくなっていた。しかしよく見える。その目が血走っているのが鮮明に。
「だったら、オレ……!」
全然知らないアキの顔があった。余裕を感じられない表情は、少し怖くて……
でも…………♡
「いい、よ…………♡」
そう言うと、ここがどこなのかを忘れて、アキは僕を抱きしめてきた。
「ホントに、いいんだなっ……!」
「い、いいからっ……♡ ここ、お店っ……♡」
変な水着を着るのは恥ずかしいけど……でもそれでアキが喜んでくれるならいいんだ。そもそも彼に喜んでもらうために、水着を選んでもらったのだから。
だから……これはお礼だから……♡
女の子でもしないような格好をするのも、僕が女になったからじゃなくて、アキのためだから…………♡
おまけ TSのちょっとした弊害
「…………」
「ど、どうしたフミ、なんか不機嫌だな」
課題を一通り進め、茶を入れたところ、突然フミが机に突っ伏した。
「なんか最近眠い……あと、イライラする」
「イライラ? オレなんかした? だとしたら悪い」
「いや……アキは全然、何も悪くない……」
フミは顔を伏せたまま、酷く気怠げに返事をした。これは重症だ。いつものフミなら、人と話す時に顔を伏せたままなどあり得ない。
「じゃあもしかして、あれか? 噂に聞く生理になると不機嫌になるとかいう……」
「それは昨日来た……僕、それ、全然重くないみたい。てか、男同士とはいえ言わないで……トラウマだから……」
「あ、わり」
女子には当然聞けないので、興味本意聞いてみたが、やはり聞くべきではなかったか。
というか思い出した。昨日の夜、フミの部屋のほうから「うぎゃあああ!」とかいう悲鳴が聞こえてきたのだ。
オレはゴキでも出たのかと思い、試しにメールを送ってみてが、フミは「大丈夫」としか返信を返してこなかった。
今思えば、あれは大量の血を見たことで驚いて出してしまった声なのか?
「あ、そういやオレ、あのTSC、だっけ? あれの説明書保管してるぞ。読むか?」
「あー……読み上げて……」
説明書を取り出してみるが、フミはこちらを見ようともせずに、やる気なさげに片手だけを雑に振った。
「だるだるだな……まーいいぞ。ええと」
※男性→女性時の注意!
・使用後、ホルモンバランスの急激な女性的安定により、眠気を感じる場合がありますが、1日〜2週間程度で症状は治まります。
・エストロゲン有利によって片頭痛を発症する場合がありますが、性別変化後、24時間は医薬品の服用はお控えください。
・ホルモン状態の変化により、情緒が安定しない場合があります。女性的な変化ではなく、単なる不安定ですので、1日〜2週間程度で症状は治まります。
「……だってよ。絶対これじゃん」
「ううう……」
「まー今日は寝ちまえよ。どーせ夏休みだし」
「そーする……」
後日、フミが以前「こんなの子供騙しだろ」とバカにしていた感動系の動物映画をサブスクで発見したオレは、試しにフミに見せてみた。
「ひっ……ひっ、ぅ……うう……タロー……」
大号泣だった。
嗚咽するほど泣いているじゃないか。オレも少しはウルっときたけどさ……。
フミお前、確か「犬畜生がくたばろうが僕は泣かないね!」とか、すごいこと言ってたの忘れたのか? あの時は内輪とはいえ常軌を逸した暴論に、終始ドン引きさせられたものだが、今は別の意味で引いている。
「タロォォー……!! ずずっ、ずー……!」
「汚ねーよ。鼻かめ鼻」
「ビーーッ!!」
あーあー、泣き虫になったなこりゃ……。
でも面白いから、今のうちに色々感動系映画見せて、泣いてるとこ動画に撮っちゃお。あとでこれを見せてからかってやる。