ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 メス堕ちしてやがる……弱すぎたんだ。




その11 進行度99%(残りは意地)

 

「最近お前……部屋着まで女っぽくねーか」

 

 緊急ミッションの甲斐もあって、13枚という中々の数のコインが集まり、とりあえず10連を引いてみようと話し合った直後のことだ。

 

 アキが照れくさそうにそっぽを向きながら、僕の服を指差してきた。

 

「ただのTシャツじゃん」

 

 人のブラを勝手に外した前科すらあるようなヤツが、今更になって部屋着に気まずさを覚えるのはおかしい。

 

「キャミソールとかでもないし」

「そーだけどよ……」

 

 実は性別が変わってから、男性用の、つまり元の服が肌に痛くなり、キャミソールも何着か購入して使用している。

 流石にアキの前で着たことはない。肩丸出しの上に、生地が薄くて体のラインが透けて恥ずかしいので。

 

「前までショーパンなんか穿いてなかったじゃねーか。夏でも長ズボンだったろ」

「あー、そっち?」

 

 確かに、今はそのキャミソールとセットでついてきた黒いショートパンツを着用している。

 こちらも、男の時のジーンズや、合成繊維系の服が肌に合わなくなったので、仕方なく穿いているものだ。

 

「擦れないし……あとなんか最近、男の頃の服暑いんだよね。暑いし寒い」

「あ? どゆこと?」

「暑さも寒さも前以上に感じるというか」

「ほーん……」

 

 なぜかアキは以前より自分の視線を隠そうと躍起になっている。バレバレだけど。

 コップを取るフリをして身を乗り出し、さりげなく僕の太ももを横目で見たりしていた。

 

 なんだかちょっとかわいいな。そんなに見たいなら正面から観察すればいいのに。

 胸を揉まれ、水着姿まで見られて、今更太ももを見られているだとか、そんなことで怒るつもりは僕にはない。

 

「と、とりあえず回そうぜ……今日こそいいもの出てくるかもだし」

 

 そう言ってアキは、彼が保管していた懐からコインを取り出した。丁度10枚。

 どうやら10枚以上所持している状態だと、光学スクリーンに勝手に「10連」の項目が追加されるようで、アキからコインを受け取った瞬間に、事前に出していたスクリーンの表示が変更された。

 

「10連のレア確率上昇って、どれくらい効果あるんだろ……」

「さーな。引いてみたら分かるだろ」

 

 それもそうだ。どちらにせよまだ見ぬアイテム目的でガチャを回すのだから、直前にそんなことを気にしていても仕方ない。

 

「じゃあいくよ……!」

 

 今日は何が出るだろうか。なるべく実生活に役立つものが出てほしい。圧力鍋とか。

 

 

 

《☆1 容姿チェッカー》

・レンズ内に入れた人物の容姿を、100点満点で採点してくれる。コメント付き。

 

 スマホ大の板前面にスクリーン、背面に大仰な3つのレンズがあり、レンズで映した人物の点数がスクリーンに表示される形式らしい。

 

「余計なお世話すぎる……」

「ルッキズムの塊みてーな道具だな」

 

 試しにアキの顔をレンズで捉えてみると、黒文字で71点と出た。前の期末の日本史の平均点と一緒だ。

 

 ちなみにコメントはこう。

 

〝不細工ではないが整ってもいない。垢抜けておらず、顔で嫌われることはなくとも好かれもしない〟

 

「だって」

 

 簡単な一言コメントかと思えば、意外と字数多めで辛辣なことを書いているぞ。

 でも、意見には一部反対だ。確かに野暮ったいかもしれないけれど、アキの顔、僕は結構整ってると思う。目つきとか精悍でいいと思うけどな……。

 

「勝手に撮るな! 何の辱めだ!」

「君だって寝てる間に僕の腕にSM検査パッチ当ててたくせに」

 

 あんな薄い紙ぺら一枚でドM認定されて、どれだけ恥ずかしかったことか。アキはあれのことで僕を「むっつり」とか「マゾ」とか言ってくるけど、僕はまだあの結果を認めてないからな。

 

「貸せよ。フミの点数見たほうがおもろいだろ」

「まぁ高得点だろうしね」

「自慢げだな……」

 

 実際、鏡の中の僕はため息が出るくらいの美少女だったし、アキだって毎日しつこいくらい褒めてくれるじゃないか。

 レンズに写されていると思うと緊張して顔が強張ってしまう。僕はちょっと体を斜めにして角度を付け、いつもより目を開いてみた。

 

「お、点数出た……93! おぉ〜」

「残り7点はなんだよ。100でしょ」

「変なとこで負けず嫌いだな。あれだろ、眉毛整えてないからとかだろ」

 

 それはだって……仕方ないじゃないか。よくも目の近くをカミソリで撫でられるものだ。刃が突き立って目蓋を切ったり、目に刺さったりしたらどうするつもりなんだ。

 

「コメントは……うーわ」

「何そのリアクション。見せてよ」

「後悔すんなよ」

 

 前振りが恐ろしいが、読んでみないことには分からない。それに、あのTSCとかいう謎アイテムの効力は本物だった。自画自賛したくなるくらい容姿は整っているので、悪いことは書かれていない……はずだ。

 

 さて、どんなものか…………?

 

〝フミチャンのおっぱいの形、とってもキレイだね(^ ^)♡♡♡ それに唇もプルプルでかわいいね(^_^)(*´▽`)試しにオジサンとチュってしてみないカナ??(^з<)♡♡♡ そのままボクとホテルで裸のお付き合い‼️(^o^)しよ(笑) ナンチャッテ(笑) ウソウソ! オジサンは紳士だからね^_−☆〟

 

「うわ」

 

 思わず声が出た。すごいセクハラだ。少し懐かしい。懐かしいといっても、アキがセクハラをやめたのはここ数日のことなのだけれど。

 しかし、この文章とアキとは違う。アキにされるよりずっと嫌な気分になった。単に文章がキモいからなのか、気安い相手でないからなのかは分からないけど……。

 

「後悔した……読まなきゃよかった」

「だから言ったろ。まーいいや。次開けろ次」

 

 だって、悪口とかの方向でくるかと思ったら、こんな角度から精神攻撃を受けるとは思わなかったから。

 

 

《☆1 脱走ブーメラン》

・どのような達人が投げても、絶対に手元に戻ってこないブーメラン。一度投げるとほぼ見つからない。

 

「つまりゴミでは?」

 

 見た目はただの黄色いブーメランだが、どんな達人が投げても戻らない、という部分に可能性を感じる。負の方向に。

 

「使い道……思い付かないね、これ」

「粗大ゴミとか括り付けて投げてみるか? 絶対に手元に戻らないってことは、絶対に飛ばせるってことだろ?」

「アキ、君ね……ブーメランが落ちたところに人がいたらどーすんの。そもそも不法投棄だし」

 

 ノコギリか何かで壊してから、普通にプラと燃やせないゴミに分けて捨てよう。ただ置いておくには邪魔だが、用途もない。

 性質上、悪用方法を思い付くヤツが出てきそうだ。ゴミを漁られて悪い人に拾われたらよくない。

 

 

《☆3 肥来針》

・痩せたい箇所にこの針を刺すと、過剰な脂肪分が排出される。刺した針を抜くと刺し傷は消滅し、痕も残らない。使いすぎに注意。

 

「ふーん……」

 

 つまり、これを胸や臀部に刺せば、男の視線が鬱陶しくなるばかりの凸部分を小さくできるということだろうか。

 僕は自分の体を見下ろしてから、アキのほうを見た。彼は僕が何を考えているのか言わずとも察したようで、必死に首を横に振っていた。

 

「体も軽くなって動きやすいし、いいと思ったんだけど」

「そんなもったいないこと絶対するなよ!! そんなもん没収してやる!!」

 

 アキはささっ、と、僕の目には到底追いきれないほどの手捌きで針を奪い取ると、懐に隠してしまった。

 

「そんなに必死にならなくても……」

「絶対ダメだ!」

「そうじゃなくて……アキが嫌なら、やらないよ」

 

 確かに、男にはそれぞれ胸の大きさにこだわりがある。アキが今の僕の体がいいって言うのであれば、僕もそれでいいかな……。

 

「お、おう……そか……」

「なんだよ。君のために残しておいてあげるんだから、もっと喜んでよ」

 

 アキが嫌だと言うのだから、男にジロジロ見られるわ、重くて歩くのもだるいわの胸を残しておいてやるというのだぞ。

 

「よ、喜べ、って……や、やったー? か?」

「うーん…………」

 

 なんでアキは急に僕の体に触らなくなったのだろう。

 前のアキなら、喜びを表せなんて言われるものなら、覆い被さってきて胸を揉んだり体を撫で回してきそうなものだが……。

 

「ねぇ、やっぱり変だよ。無理してない?」

「無理って……オレは何も……」

 

 別に我慢とかしなくていいのに。とっくにそんなことを気にするような気分ではない。何度も触られているうちに慣れてしまった。

 

 ぼ、僕が物足りないとかではなくて!! 確かにちょっと、距離感があって寂しい気がする時もあるけど、あくまでアキのためだ。アキが触りたいなら、気にしなくても……。

 

「つっ、次引こうぜ」

 

 またそうやって僕から目を逸らす。

 

 嫌だな……そういうの……。

 

 

 

 そんなこんなでさらに6回分のカプセルを開けてみたものの、出てくるのは「発光ステッカー」や2本目の「マウスキー」、「ネタバレしおり」など。知っているものばかり。

 とうとう最後の一つになるまで、新しいアイテムは出てこなかった。

 

「これが最後か」

「たまにはアキが開けてみる?」

「それじゃ意味ないだろ。お前が欲しがってるあの性別変えるヤツは、開けた瞬間に効力発揮してたっぽいし」

 

 あ、そうだ。忘れてた。

 

 あのTSCというアイテムが、カプセルを開けた瞬間に発動する類のアイテムであるということも、僕があれを狙ってガチャを回しているということも。

 

 これが当たりだったら、僕の性別も戻ってしまうのかもしれないのか……。

 

「どうした? 早く開けろよ」

「う、うん……」

 

 い、いいのだろうか? これが当たりという確証は当然ない。ない、けど……もしこれが当たりだったら……。

 

 アキと約束したこと……水着とか、浴衣を着てあげるという約束は、果たせなくなる。それではアキをがっかりさせてしまうかもしれない。

 そ、そうだ……! アキが残念がるかもしれないし、ま、まだ戻らないほうがいい、よね……。

 

「きっ、気分転換にさ、アキが開けてみてよ」

「オレが?」

「そう。も、もしそれでアキも女の子になったら、じ、自分の体でも楽しめるじゃん!」

「いや、オレ別に自分の体では……」

「いいから! ほら、開けて!」

「仕方ないな……」

 

 そう。これは、僕が男に戻りたくないからではなくて、アキとの約束事を済ませていないから。

 戻るのはその後でいい。だから今は……もう少しだけ女の子のままで……。

 

「開けたぞ」

「あっ、な、中身何だった?」

「当たり……っぽい?」

 

 

《☆4 持ち物マーカー》

・自分の名前を書いたものを、何でも自分の所有物にできる。水性。文字が消えると効果も消える。効力が発揮している間、他人はそれを使うことができなくなる。

 

「へー……また犯罪チックな。これお店の品物に書き付けたら、持ち出しても誰にも文句言われないってことでしょ?」

「電車とかバスに書いたら、アナログで交通システム麻痺させられるかな」

「試しちゃダメだからね。何でそんな方向ばっかりに発想が豊かなんだよ、君は……」

 

 見た目は単なる黒いマーカーだが、赤抜きの大きな文字で使用上の注意が書かれた紙が付属されていて、シンナーでも持たされている気分になる。

 人のものを盗んだりというよりは、自分のものを盗もうとする誰かから守るために、自分の貴重品に書いておくくらいか。水洗いしてもいいもの限定で。そんなものあるか?

 

「これも要らないかな。アキに任せるけど、これで窃盗とか……君がする訳ないか」

 

 10連なら当たりが出やすいという触れ込みのはずだったが、蓋を開けてみればそこまで変わらなかった。

 

 はーやめやめ。課題しよ。夏休みも残すところ2週間かそこらだ。

 

 

 

「フミ、寝てるのか? フミ?」

「んー、んー……?」

 

 課題を進め、昼食も済ませた後、オレとフミは昼下がりの陽気と、エアコンの微弱な冷風に微睡んでいた。

 

「フミ、扇風機の前で寝たら風邪引くぞ」

「んんー……」

 

 こいつ、やっぱりネコみたいなヤツだな。気温が丁度いい日にはすぐ眠る。毎日ばっちり8時間睡眠のヤツが、授業中でも昼寝をしては教師に頭をプリントで叩かれる。

 男の頃はそんなに寝ているのに、なぜ身長が平均止まりなのかと疑問だったが、女になった瞬間、身長以外の発育(主におっぱいとケツ)が抜群によいので、どうやら相当蓄えていたらしい。

 

「寝るならせめて体横にしろよ。布団貸してやるから」

「動くの、だるいー……」

 

 その細い肩を揺すってみると、不機嫌そうな声が返ってきた。

 

「おい、フミ? 仕方ねーな……タオルケット出していいから、そのまま寝るな」

「んー……?」

 

 薄いタオルケットを畳んでいた洗濯物の一群から取り出すと、フミは物音が気になったのか、鈍臭いネコみたいに顔を擦りながら、こちらを振り向いた。

 

「あ……へへ、かけて……」

 

 

 かっ、かわ……!

 

 

 机に頬を預けながら、寝ぼけて口許を綻ばせるフミの横顔は、子供っぽくも見えるが、しかし確実に女性的な成長の最中にあった。

 

 フミはかわいい。見た目も、中身も。友達の間でも特に減らず口の多いヤツだが、男の頃から愛嬌のあるキャラだった。

 

 正直なところ、フミをオレの思いつきや欲望で振り回している自覚はあった。こんなかわいい女の子になってしまってからではなく、その前からも。

 しかし、フミはなんだかんだ言って、いつもオレのやることを止めなかったし、最後には肯定してくれた。

 

 前みたいに、フミの体に遠慮なく触ったりできなくなった理由は分かってる。

 女体としてのこの子ではなく、フミを好きになってしまったのだろう。オレは……。

 

「すー、すー……」

 

 タオルケットを肩にかけてやると、フミはすぐに寝息を立て始めた。寝ている間にオレが何かするかもしれないとか、微塵も考えていない、穏やかな寝顔だった。

 

「フミ……」

 

 その髪に触れようとして手を伸ばした時、先ほど引いたまま机に置きっぱなしにしていた「持ち物マーカー」に肘が当たり、床に落ちて転がった。

 

「これは…………」

 

 この「持ち物マーカー」とかいうシロモノは、果たして人に書いた場合はどうなるのか?

 

 オレの持ち物になる訳だから、オレの言うことに全て従うようになるのか?

 

 どんな命令でも……?

 

「すー……んん……」

 

 オレのことを信じきって、無防備に寝ているフミの寝顔に目を奪われる。普通は女性が恋人でもない男の家で、ここまで用心に足りないことはない。

 手に収まりきらない大きな胸に、柳のように艶めいた曲線を描く腰。素肌は白く、何の飾り気もなしにも綺麗な目。上唇の膨らんだ瑞々しい唇……。

 

 この服の下には、果たしてどれほど魅力的な裸体が隠されているのだろうか。白く柔らかく、男の頃よりもずっとひ弱で、簡単に押さえ込める体。

 当然ながら、まだ誰の手垢にも汚されていない……いや、既にオレに何度か、半ばまではオレの手の侵略を許した、フミの心身。

 

 これが、全部オレのものに……。

 

 オレは横目で拾い上げた「持ち物マーカー」のキャップを、ほとんど無意識で回して開けていた。

 

「フミが、全部」

 

 瀑布のように自然に流れるフミの髪に触れ、耳を隠している横の髪を持ち上げた。白い頬の上で、明確な赤色が中心に向かって色を濃くしていた。

 その素肌に触れてみると、粉を打ったかのように肌理細やかで、触れている己の指が岩か砂の塊であるかのように錯覚した。

 

 ここにオレの名前を一度書いてしまえば、フミが……全部オレの……。

 

 …………。

 

「だ、ダメだろ……流石に」

 

 一度は開け放したキャップを、オレは静かに閉じた。

 

「ダメだそれは……そんなの……」

 

 確かにオレは、自分の心がフミに傾いているを自覚している。こいつにも言われたが、オレは変になってる。今までとは違う。

 

 だが、惹かれているのはフミの体にではない。フミという存在全てにだ。道具で心を捻じ曲げて言いなりにしても、それは、オレが望んだフミではない。

 

 何より、フミの友情への裏切りだ。オレを親友だと思ってくれている、フミへの。

 

「ふぅー…………」

 

 正々堂々いこう。

 

 正々堂々と、こいつを堕としてやる。

 

 フミは、きっとオレがどんな劣情を抱いていようと、あるいは今までの関係からはあり得ない親愛を抱いていようと、それを理由にオレを軽蔑したりはしない。

 

 だからいつか、はっきり伝えよう。

 

 本人は戻りたがっているのに、オレの身勝手で、女の子のままでいてほしいこと。それでもオレの隣にいてほしいこと。

 フミが好きだということ。包み隠さず。

 

 

 

「……んー、やべ、寝てた」

「おー、起きたかフミ」

 

 昼食を済ませたあと、僕はそのままアキの部屋で眠ってしまったようだ。肩には身に覚えのないタオルケットがかかっていた。

 

 アキの匂いがする。女になってから、これまで意識していなかったアキの男っぽい匂いが気になるようになった。

 

 嫌な訳ではない。むしろ安心する。包まれていると、胸がポカポカして……。

 

「はっ」

 

 まずいまずい。また寝るところだった。あんまり寝ると、明日の朝が辛い。明日は早くに起きる予定があるのに。

 

「んん〜。んっ!」

 

 手を組んで真上に突き出して、目を強く閉じながら伸びをした。

 

「伸びると胸が強調されてスケベだな」

「えっ?」

 

 今こいつ何て言った?

 

「胸がデカくてエロいって言ったんだよ」

「あ、そ、そう……」

「お前が聞いてきたんだろ。それともオレにスケベ呼ばわりされて嬉しかった?」

「はぁっ……!?」

 

 な、何だこいつ、いきなり……!

 

 さっきまで僕の太もも見たくらいで中学生男子みたいな照れ方してたくせに、突然前の威勢を取り戻しやがって。僕が寝ている間に何があった?

 も、もしかして、寝込みにつけ込んで僕の体に変なことをしたのではないだろうなっ!? 

 そ、そんなの、僕が起きてる時に直接言ってくれたら……♡ って違ぁーーうっ!!

 

「なな何だよ急にっ!?」

「本分を思い出したというか」

「思い出すなそんなもんっ!」

 

 それが本分のヤツがいるべき場所は留置所か刑務所だ。

 

「フミ」

「ちょ、何……!」

 

 アキは突然ずいっと体を寄せてくると、至近距離で僕の顔を覗いてきた。

 

「…………」

「ち、近いっ……! 何か言ってよっ!」

「綺麗な髪だよな……」

 

 か、勝手に髪に触るな! せめて一言ことわりを入れてからにしろ!

 

「あ、女の子って、勝手に髪の毛に触られるの嫌なんだっけ」

「いや、それはちゃんとセットしてる子のこととかだろうし、僕は別に……」

「女の子のところは否定しないんだな」

「そっ、そうじゃなくて!!」

 

 さっきから顔が近いんだよ! というか、触るなら毛先とかにしろよ! 何でそんな、顔に近いところの髪の毛ばっかり……!

 

「ちょ、髪の毛嗅ぐなって……! 変態っぽいぞそれっ……!」

「そんなに嫌か?」

「嫌っ……! とかじゃ、なくて……!」

「じゃあいいじゃん」

 

 いつの間にかアキの手が僕の背中に伸びてきて、ぐいっと彼のほうに体を引っ張られた。

 

「ほ、ホントに、近いから……!」

 

 アキの腕の中に包まれ、腕を掴まれて体が密着する。力が強くて全然離れられないのに、掴まれているところは痛くない。

 

 というか、顔がっ……! 少し動いたら口が当たっちゃう! 当たっちゃう、からぁ……♡

 

「なぁ、今日ってまだチューしてないよな」

 

 顔が近くなって、アキも思い出したのだろうか。僕の口許を凝視している。真面目な顔していると、ちょっと頼もしくてムカつく。

 

「してない、けど……?」

「どうする?」

 

 な、何その、どうするって……。

 

「フミはしたい?」

「べ、別に!! 別にそんなの……」

 

 アキがしたいというからしているんだ。僕は別にしなくたっていい。別に……!

 

「ふーん……じゃあ今日はいいか」

 

 あんなに固く僕の体を繋ぎ止めていたアキの腕が離れ、彼の距離が遠くなった。

 

「あっ……」

 

 お互いの距離が離れると、一瞬で体が涼しくなる。僕も、アキもだろうか、熱気のようなものを発しているのか……?

 

「フミがしたくないならな。悪いし」

「えっ……」

 

 ほ、ホントにいいの? だって、アキがそうしたいんじゃないのか?

 

「で、でもアキは……」

「オレは別にどっちでも」

 

 どっ……! どっちでも、って……!

 

 そ、そんな訳ない! 昨日までアキのほうが辛抱ならないって感じで迫ってきて、僕が肩を叩くまでチューしてきたのにっ!!

 

「フミがやりたくないんじゃなー。ま、今日は解散にしようぜ。明日も早いしさ」

「あっ……! で、でも! ミッションが……!」

「毎日してるのに、レベル全然上がってないだろお前。本当は繰り返しミッションの項目にないんじゃないか?」

 

 そ、それは……そうだけど。

 

「無理すんなよ。な、明日早起きだろオレら」

 

 ど、どうしよう、これでは、今日は本当に解散になってしまう。そうなったら僕は今日、アキとは……!

 

「まっ、て……!」

「ん? どうした?」

 

 な、何でアキを引き止めた!? いいじゃないか彼がいらないというのなら! なんで僕はこんなに必死になって……!

 

 で、でも、今日しなかったら……そのままなし崩し的に、アキが明日もしなくていいって言ってきたら……! そ、そんなの……。

 い、いやいや!! それでいいだろ! 煩わしい日課を一つやめることができるんだ。僕は別にアキとチューなんて……。

 

 チュー、なんて…………。

 

「ねぇ……」

 

 なななっ、何を……! 何を口走ろうとしているんだ、僕はっ――――!

 

「…………て」

「ん? もう一回言ってくれ」

「してっ! って、言ったの……♡」

 

 ああ。

 

 あああ。

 

 言ってしまった。つ、ついに自分から、アキにチューをして、と……!

 

「何を? オレに何をしてほしいって」

 

 ええっ!! そ、そんな! 僕ちゃんと言ったのに! 勇気を出して、は、恥ずかしいのに、こんなこと言わされて……!

 

「ねぇっ♡ ず、ズルいっ♡」

「ちゃんと言えよ。何してほしいの?」

 

 意地悪だっ……! 分かってるくせに、僕に恥ずかしい思いをさせようとして……!

 

「だ、だから……! その……」

「んー? だから?」

 

 くそ……こ、こんなの本当の気持ちじゃないんだぞ! あ、アキが「今日はいい」とか嘘をつくから、僕が折れてあげているだけだ!

 

 だ、だから…………。

 

 

「チュー、して、って……♡ 言ったの……!」

 

 はぁー……♡ はぁー……♡

 

 こ、これで文句ないんだろっ!! さぁ、早くしろ!! ちゃんと言ったんだから、早く……♡

 

「んむっ……!?」

 

 い、いきなりっ!? うわ、そんなに引っ張らないで!

 

「んんん〜!!」

 

 長いって!! 息吸ってなかったから、息が苦しい……。

 それに、胸もキツい。そんなに強く抱きしめられながら、チューなんてされたら、ぼ、僕……♡

 

「んんっ……! ん、はぁっ……♡」

 

 アキの顔がようやく離れて、彼の意地悪な笑顔が僕の視界を全部奪った。

 

「嬉しそうだな」

「う、嬉しくなんか……♡」

「嘘つくなよ。チューしてほしかったんだろ」

 

 脇腹をまさぐられ、胸が苦しくなるほど強く引き込まれ、抱きしめられて、僕の頭は一瞬で酸素不足に陥った。

 

「もう一回してって、言ってみろ」

「それは……1日、一回って……」

「1回でいいんだ。じゃあやめるけど」

 

 もうっ、こいつホントに……!

 

 ズルいっ♡ ズルい♡ ズルっ子だ……♡ 僕にばっかりそういうことを言わせて……♡

 

「ほら、どうしてほしいか、ちゃんと――――」

 

 

「意地悪、やめて……♡」

 

 

 ゴク、と。アキの顔が突然真剣になってて、息を呑む音が聞こえた。

 

 やってしまった。僕は、自分からあんなことを言ってしまった。こんなのもう、言い訳できないじゃないか……♡ こうなったらもう♡

 

 僕は……男、の、はず、なのにっ……♡

 

「集中しろ……」

「んんん〜〜〜〜っ♡」

 

 

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