ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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前回のあらすじ

 海デートの続きだよ! アキくんに手取り足取り泳ぎ方を教えてもらって喜んだり、アキくんのスケベオイルマッサージ(日焼け止め)で悦んだりしてたら、下の水着が脱げて流されちゃったよ!




その12 ポロリがあるよっ!!←ネタバレ(後編)

 

「どどどっ、ど、どうしよこれ!!」

「お、落ち着け!! とにかく探すぞ! その辺に流されてないか!?」

 

 浮き輪を前に浮かせて、上から水の中を覗かれても見えないようにしながら、僕はなんとか目視で水着を探していた。

 

「さっき泳ぎの練習してたほうか……!?」

「そ、そうかもっ……!」

 

 確かに、バタ足で激しく足を動かしたので、その間に投げていたかもしれない。

 

 ……ば、バタ足をしている際、当然ながらお尻は浮いているよな。と、ということは。

 

 誰かに見られたかもしれないのかっ!? ぼ、僕の生の……!!

 

「う、うう〜〜っ……!」

 

 穴があったら入りたい……! お尻丸出しで、しかも水面に浮かせてる痴女だったってことじゃないかっ……!!

 

「ダメだフミ! こっちもないぞ!」

 

 はっ! そ、そうだ。恥ずかしいとか後だ。とにかく今は水着を見つけなければ。

 こんなのが大勢の海水浴客にバレてみろ! このSNS一大の時代、他人なんて全員盗撮魔だと思ったほうがいい。前も後ろも丸見えの写真がネットに出回ったら、もう立ち直れない。

 

「ない、ないよ……! どこいった……!?」

 

 やっぱり水の外から水中を見ようとするのは無理がある。日光に透けるのは水の半ばの辺りまでで、足元まではよく見えない。

 

 潜って探すしかないか……? でも、どうしよう……みっ、水の中、怖くて顔入れられない……! そもそも目開けられないし……!

 

「あ、そ、そうだ。アキ、水中スコープ貸して!」

 

 あれだったら、僕でも海の中を探せるんじゃないか!?

 

「お、おお! 持ってけ!」

 

 すぐに得心のいった表情で、アキは水中スコープを投げ渡してくれた。

 

 よし、これで水の中を――――。

 

「あ……」

 

 ……スコープ越しに何も履いていない僕の下半身がくっきり映った。

 

 見ていても興奮とかはしない。あるのは酷い格好であることに対する羞恥心だけだ。

 

「ホントに変態じゃん……」

 

 確かに女になってからすぐの頃には、正直興味津々だったけれど、流石に見慣れた。

 いくら男の頃には縁遠いものであった女性の秘所も、夏休みの半分もこの体で過ごしていれば、お風呂でもトイレでも何度も見ることになる。

 

「ち、違う……いいから、探すんだ……」

 

 スコープの下にちらちら見えるのが気になって仕方がないが、何とか知らないフリをしよう。

 

 水中には目視できる大きさのデトリタスが浮いているのを除き、ほぼ砂地が続いている足下しか見えない。

 時折流れてくる小魚(死体含む)や海藻の端がヤケに虚しかった。さっきはあんなに面白かったのに、今はハズレが流れてきたとしか思えない。

 

「だ、ダメだ……見つからない……!」

 

 全然見当たらない……! もしかして、変な人とか、イタズラっ子が見つけて持ち去ってしまったのではないか……!?

 そうだったら絶望だ。せめてアキの背に顔を埋めて、なるべく写真を撮られないようにして海を上がろう。シートまで行けばタオルがある。本当に最悪の事態だけど……。

 

「フミ……! ちょっとこっちこい……!」

「えっ……!?」

 

 ちょっ……だっ、急に引っ張らないで! 今動くと……! みっ、見える! 見えちゃうからっ!

 

「アキっ、急に、何……!?」

「静かに……!」

 

 んぐっ!? く、口を手で覆うのは止めろ! んん〜〜っ……! しょっぱい……!

 

「お母さーんっ!!」

 

 ひっ……!

 

「あんまり遠くに行っちゃダメよー!」

 

 ひっ、人が……!

 

 もう休憩を終えて、ちらほらと海水浴に戻ってきているのか……!

 

 そ、そうか。だから急にアキが僕を引っ張ってきたのか。そ、それにしても、この格好であんまり引っ付かないで……!

 

「ユウキくーん。私達もギュってしようよー」

「こんな人前で? 丸っきりバカップルだろ」

「でも見てよ、あれ。私達以外にもいるじゃん」

「仕方ねーなぁ……」

 

 カップルと思わしき男女が、僕らを指差して人前でイチャつく口実にし始めた。人を勝手に指で差してバカップル呼ばわりか。

 というか、見ず知らずの他人をダシにするなっ……! こっちは好き好んで人前で抱き合ってる訳じゃないぞ……!

 

「ねー、お母さーん。あの人達ー……」

「見ちゃダメよ! 色んな人がいるの」

 

 ううう……家族連れの前でやるべきおこないではないぞ、これは……迷惑客だ。

 しかし、今アキの胸の中を離れると、僕の腰の辺りの違和感がバレバレになる。厳密に言えば、水に浸かっていない腰骨より上に、紐や布の類が全く見えないのがバレる。

 

「でもあのおっぱいおっきい人、下の水着履いてないよー?」

 

 えええっ!? き、気付かれてるの!?

 

 たっ、確かに、少年の指は確かに僕らを指している……!

 アキの胸板をおっぱいなんて言う訳ないし、というか彼がゆったりとした海パンを履いているのは見て分かるはずだ。僕よりずっと背が高いので、普通に腰より下も水から出ている。

 

 ま、まずいまずいまずいっ!! これで騒ぎになったりしたら……!

 

「そんな訳ないでしょ。ほら、こっち来なさい!」

 

 はあっ……! ち、近いっ! お、親御さんまで近付いてきたっ。めちゃくちゃ白い目で見られている……。

 子供の手前当たり前だ。教育に悪い。僕が親でもこんな連中を子供に見てほしくない。

 

「バレるぞっ……! もっとくっ付けっ……!」

 

 うわっうわっ、やめ……! 僕の力じゃ、アキに抱き締められたら、抵抗できないからっ……♡

 やばいっ……♡ 僕っ、こんな格好で、アキに抱きついてるっ♡ ほとんど素っ裸で、アキに生肌押し付けてるのっ、や、やばいって……♡

 

「あ、アキ……ねぇ、離しっ……」

「動くなッ……!」

 

 アキはぴしゃりと言い付けてくると、身じろぎをする僕の体を、さらに固く抱きしめてきた。

 

「オレがいいって言うまで動くなよ」

「は、はいっ…………」

 

 あっ……♡ なんか、今の……めっ、命令される感じ、いいかも…………♡

 

 あっ違……いい、とかじゃなくて、こんな格好のままいつまでも抱き合ってたら、おっ、おかしくなるっ!!

 

「う、うう……♡」

「まだ動くなよ……!」

 

 あっ、声がっ……♡ 真面目な声やめてっ♡ 耳元やめっ♡ ぞわって、なる……♡

 

 やばいっ♡ やばいっ、やばいっ♡

 

「はーっ……♡ はーっ……♡」

 

 いつもチューする時と違うっ……♡ ほとんど裸の僕の体が、アキに押し付けられてるっ♡ こんなのっ……♡

 

「ごめんな……苦しいかもしれないけど、もう少しだけ耐えろ……」

 

 違うっ……♡ 全然苦しくないっ♡ 苦しくないけどぉっ♡ こんな人前じゃなくて、せめて、家の中でっ……♡

 

「すみませーん!」

 

 ぼ、僕達っ……!!? い、今の声、もしかして僕達に呼びかけているの!?

 

 ビクビクっ、と跳ねた僕の体を、アキの逞しい腕がさらに固く押さえつけてくる。締め付けられる体がどんどん熱くなって、い、息が……♡

 

「フミ……!」

「〜〜〜〜っ♡」

 

 無理やり押さえ付けられてるっ♡ アキの指が僕の体に食い込んでるっ♡

 はあっ……♡ 身動き取れなくて、息も苦しいのに、これ、いっ……かも……♡

 

「すみませーん! そこのお二人ー!」

 

 ひっ……!!

 

 お、お二人っ……!?

 

「やべっ……フミ、もっとくっ付け……!」

「こ、これ以上、無理だよっ……♡」

 

 既に隙間なく密着して、小さな布一枚で胸を隠しただけの生肌を、アキに全面押し付けている。しかも、下はこんな格好で……!

 こ、これ以上は無理! これ以上近付いたら、アキの足に当たっちゃう……! ど、どことは言わない(言えない)けれど、今丸裸になっているあの部分が、アキにっ……♡

 

「あのー! そこの人達ー!」

 

 やっ、やっぱり僕達のほうを見てる! しかもお二人って言っているということは、呼びかけは僕達に対してのものか……!?

 

「あの、ちょっといいですか」

 

 はっ、話しかけてきたっ……!? この距離だとバレるっ!

 これどうするの!? もうこんなに近いのに、誤魔化せるのかっ!? と、というか、こんなに近くに人が来ているのに、まだ抱き締められていなければならないのかっ!?

 

「ど、どうかしました?」

 

 僕を胸板に押しつけたまま、アキが硬い声で返答した。

 ちょ、苦しい……! 緊張のせいで全然加減が利いていない……! 押し付けられると、あ、アキの匂いが……♡

 

 近付いてきたのは、僕達よりは年上に見える妙齢の女性だった。

 

「その、そっちの女の子……」

 

 レオタードのような露出の少ない水着を着ており、前髪を長い後ろ髪に巻き込んで後ろに流していた。

 彼女の後ろには、彼女のお友達と思わしき女性達が、遠巻きにこちらを窺っていた。今バレたら終わる。あの人達にもバレる。

 

「あ、あの。大丈夫ですよ。隠れなくても」

「え……?」

 

 大丈夫、とは……どういうことだ? そんな言葉は僕の今の状況を把握していなければ出てこない言葉ではないか……?

 

「多分ですけど、この水着……その女の子の、ですよね?」

「あっ、それ、ぼ、僕の……!」

 

 彼女が出してきたのは、深緑の小さな合成繊維の布だった。僕の水着だ。

 こう見るとほとんど最低限しか隠せない大きさだが、今は核シェルターより頼もしく見える。こんな小さな布でも、あるとないとでは全然違う。

 

「やっぱり! 何か慌てて探しているようでしたから、もしかして、と思ったんです」

 

 お姉さんは、アキの後ろから様子を窺っていた僕に、少し屈んで視線を合わせながら水着を渡してきた。

 

「あ、ありがとうございます……! 本当に困ってたから……!」

「いいんです。他の人に見られる前に届けられてよかった」

 

 や、優しい……! 傍目から見たら人目を気にせずイチャイチャしている迷惑カップルなのに、僕らの様子がおかしいことに気が付いて、水着を届けてくれるなんて……!

 というか、よく考えてみれば、男の人に拾われる可能性もあった。拾ってくれた人が女の人でよかった……。

 

「彼氏くん以外に見られたくないものね」

「彼っ……!?」

 

 あ、アキのことかっ!?

 

「こんなところで抱きしめてたのは、その子が見られないように守っていたからでしょう? カッコいい彼氏さんね」

 

 アキは別に、彼氏とかじゃっ……!!

 

「はは……ありがとうございます」

 

 あ、アキまでそんなっ!?

 

 そ、そんな……でもない、か。

 

 そうだよな。側から見たら、二人きりで海に遊びに来ている男女は、どう見たって恋人同士だ。

 それに、人目から隠すためとはいえ、抱きしめられて抵抗もしない女が、カップルじゃないです、とか言い出しても、むしろ不自然だよな……。

 

「羨ましいなー。お姉さんも海デートする彼氏欲しいよーっ。全然モテないの」

「そんな……親切ですし、お綺麗ですから、すぐ見つかりますよ」

「嬉しいねー。彼氏くん、いつもこんな風に褒めてくれるの? 学生さんなのにカッコいいねぇ」

 

 うん。そうだよ。ただ、この人に不審感を抱かせないため、というだけだから……。

 

「…………はい。カッコいい、です」

 

 アキが彼氏……いつも、いざって時は僕のことを守ってくれて、カッコいい……。

 

 へへへ……。

 

 

 

 あの後、お姉さんとアキにバリケードになってもらい、そそくさと水着を履き直した僕は、お姉さんとそのお友達にお礼を言って、アキと共にシートに戻ってきていた。

 

「はぁーっ……よかった……」

 

 見つけてくれたのが親切な人でよかった。変質者とか、金銭を要求されるようだったら、ライフセーバーの方を呼ばなければならなかったところだ。

 そうなったライフセーバーさんにも僕の痴態がバレていた。しばらく寝る前に思い出しては枕に頭突きをする日々になっていただろう。

 

 今日の教訓。外に着ていくための紐ビキニは、紐がイミテーションのものか、解けても脱げないタイプを履く。以上。

 

「早いとこ見つかってよかったな」

「アキ、ありがと。いちご味だ」

 

 買ってきてくれたかき氷を受け取って、その分の代金を返した。300円。行楽地価格だ。ただの氷にしては取りすぎな気もする。

 早速食べよう。嫌な汗をかいたせいか、妙に暑い。日光のせいだけではないはずだ。

 

「はー……焦った。しばらく夢に見そう」

 

 酷い醜態だ。また人に言えないアキと僕だけの秘密が増えてしまった。

 アキはこれを盾に脅すような男ではないが……それとは関係なく恥ずかしい。女性になってから、僕ばかりが恥ずかしい思いをさせられていないか。

 

「最悪その辺に浮いてる海藻でも巻き付けてやろうと思ってたわ」

「ホントに最悪だね……肌かぶれるし」

 

 アキは水分の少ないコゲ気味の焼きそばを食べながら、海水浴客を遠い目で眺めていた。

 休憩がてらの食事にしては多い。まだ手を付けていない大盛りの焼きそばが2パック残されている。大食いだ。

 

「ごめんね。変なことで騒がせて……折角遊びに来てるのに」

 

 女性化してからずっと、アキには迷惑をかけてばかりだ。助けてもらってばかりで、アキに何も返せていない。

 

「いーよ。それに言ったろ。他のヤツに見られたくないから……」

 

 え、そ、それって……!

 

「とと、友達として! 友達としてな!」

「そ、そか……!」

 

 てっ、照れるくらいなら、急にそういうことを言うなよ……! 友達として見られたくないって、おかしな日本語だ。

 言われなくたって、僕は、アキにしか……。

 

「わ、悪い……オレのほうこそだ。なんか変なこと言ったな……」

「そ、そんなことないよ!」

 

 嬉しかった。アキが、僕の肌を他の誰にも見せたくないと思っていること。

 

 嬉しい……そう、嬉しい、みたいだ。

 

「ねぇ、アキ……」

「何だ?」

 

 見慣れているはずのアキの顔だが、こんなに精悍な鼻立ちだっただろうか? あどけない雰囲気も残しつつ、僕にはない男としての逞しさも感じる。

 

 僕にはない……そして、アキにはある。

 

「ありがとね」

「何がだよ。いきなり」

 

 口舌の勝手に任せたみたら、極めて自然にアキへのお礼の言葉が出てきた。

 

「今日、すごく楽しいから。さっきは変なこともあったけど……でも、それも含めて」

「え……お前露出願望とか……」

「そうじゃない!! そうじゃなくて!」

 

 最後まで聞け! なんですぐそっちの話に持っていこうとするんだ! 

 いや、確かにちょっと誤解されるような言い方をしたかもしれないけれど、でも少なくとも見られたいのは知らない誰かじゃなくて。

 

「アキが一緒なら楽しいってことっ……!」

 

 トラブルが起きても、ちょっとエッチなことをされても、隣にいるのがアキなら、僕は楽しい。

 

 朴念仁め。こ、ここまで言わせたんだぞ! 友達相手に小っ恥ずかしい!

 僕だって、アキだから一緒にいるんだ。アキだから、ただ部屋で寝転がって、何もしない日でも楽しいんだ。

 

「…………オレも」

 

 アキは僕の肩に手を置くと、さっきよりさらに照れくさそうに、でも、笑顔でこう言った。

 

「オレも楽しい」

 

 

 

 昼下がり、十分休憩をとってから僕らは、また海に入って遊びまわった。

 

「んばっ……! ふぅ、ふぅっ……」

「そうそう。完全に止めるんじゃなくて、ゆっくり吐き続ける感じで」

 

 アキに両手を掴んでもらいながら、僕は目を瞑って潜水を繰り返していた。

 足が付く水深だから、本当は手を掴んでもらう必要はないのだけれど、彼の手の感触を確かめながらだと、水の中で目を瞑る怖さが幾分が紛れた。

 

「ふぅ、はぁっ、はぁっ……どう、だった……?」

「いい感じだぞ。上達してる」

 

 上達を褒められると嬉しい。勝手に口角が上がってしまう。

 僕も大概顔に出やすいタイプではあると自分でも分かっているが、アキの前だと余計に感情が垂れ流しになっている気がする。

 

「なんか、こうやって手を繋いでるとさ……ホントに恋人みたいだね」

「おー……」

 

 海で泳ぎを教えてくれる、運動が得意な彼氏みたいだ。アキは僕と違って水泳が得意だし、背も高くて僕では足が届かないところでも届くので、頼もしい。

 

「あー、確かにそ、おぉっ!? お、おお!! そそそ、そうだなっ! …………い、今なんつった!? 急に何!?」

「ちょっと思っただけ」

「そ、そーか……あ、べ、別に嫌とかじゃねーからな!? つまりなんだ、その、フミと恋人同士に見られるのは、フミが嫌なんじゃねーかというか、オレはむしろイイというか……!」

「えへ。そんなに言わなくても分かるよ」

「えへ、って……かわいいな……」

 

 冷たい水の中で、少し熱を感じるアキの硬い手の心地が気持ちよかった。

 それに、アキの存在を近くに感じると、勇気が湧いてくる。アキが見ていてくれるなら大丈夫だ。もし何かあっても、アキならきっと僕を助けてくれる……と。

 

「へへへ……もうちょっと、手、握ってて」

「お、おう……いくらでもいいぞ……!」

 

 これは最近覚えた悪い遊びなのだけれど、僕は今現在は、自他共に認める美少女なので、笑いかけるだけで男性に効くらしい。

 

 アキには抜群みたいだ。少し女の子のような素振りで微笑むと、素直に顔を赤くする。

 中身が僕だということを忘れているのではないだろうか。僕の容姿を悪しからず思ってくれていること自体は、ちょっといい気分だけど。

 

「この調子なら、学校始まるまでにアキより泳ぐのうまくなってるかもよ」

「バーカ。水に入れるようになっただけで、まだ泳ぎ方は覚えてないだろ」

 

 軽口を叩きながら、僕達はゆったりと浅瀬に浮かんでいた。

 水を蹴る感覚を少しずつ覚えながら、お互いの手は離さず、ずっと側で。アキの手は僕の指を痛めないように優しく、しかし確実に僕よりも強い力で、僕の手を握っていた。

 

 ただ浮かんでいるだけのような遊泳をすること数十分。浮きやすい塩水の中で段々と泳ぎの感覚を掴み始めた頃。

 

「ぶしゅッ……!」

 

 アキが突然僕から片手を離して、顔を背けたかと思うと、肘の内側で口を押さえながら、控えめなくしゃみをした。

 

「冷えるの?」

「ああ……水の中に長居しすぎたかもな」

 

 言われてみると、アキの顔はいつもより少しだけ白く見えた。繋いだままの右手も、先ほどより若干冷たく感じる。

 考えてみれば、泳ぎの練習で体を動かしていたのは僕だけ。アキは僕に手を掴まれて然程身動きも取れず、僕を見守るばかりだった。冷えて当然だ。

 

「戻る?」

「いや、いーよ。折角フミも泳げるようになってきてるし」

 

 アキはそう言うが、寒そうにしている彼を見ていられない。心配だ。人も多いし、寒さやらであまり体が弱ると、ウイルスをもらいやすくなる。

 僕の水慣れの練習に付き合わせて、寒い思いをさせてしまったのだ。風邪なんか引かせる訳にはいかない。

 

 水から上がろうとしないアキの体温を守る方法。

 

 ……要は、温まればいいはずだ。

 

 そ、それならっ……えいっ。

 

「ふっ、フミ!?」

 

 今度は僕から、アキの胸に顔を埋め、彼の背を固く抱き締めた。

 

「フミお前、いきなり何を……!」

 

 は、恥ずかしい。側から見ればテンションが昂じたバカップルだが、でも……!

 

「これで、あったかい……?」

 

 ラッシュガード越しのアキの体は、少し冷たかった。

 アキは慌てたような声を出しながら、僕を押し除けようとはせず、むしろ抱き寄せてきた。

 温かい。アキの体は冷えているはずなのに、なぜか陽の光よりも、ずっと温かい。

 

「あ、あったかい、ぞっ……!?」

 

 へへ、カッコ悪い。声が裏返っている。

 

「…………よかった」

 

 僕も暖かい。アキに触れていると、胸がポカポカする。

 まるで春まだきの昼下がりに、切り株に腰掛けて朝日を浴びるかのように、柔らげで、そして、暖かい……。

 

 

 

 時計の針が2度目の5時に回る頃。昼間は鬱陶しいほどだった太陽は、まるで遊び疲れた子供のように、海岸線の向こうでゆったりとその鈍い西陽を横たえていた。

 

「夕日、綺麗だね」

「そうだな。去年は全然気が付かなかった」

「ナンパ失敗して不機嫌だったもんね」

「やめてくれ……つか、お前も一緒だろ」

 

 客が帰って空いた海では、名残惜しげな子供達が水を掬っては撒いて遊んでいた。

 ほとんど鮨詰め状態だった人垣も、夕暮れ時には大部分がこの場を払っていた。残っているのはおそらく泊まりがけと思わしき家族連れか、僕らのように男女二人で来た恋人同士ばかりだった。

 

「…………」

 

 こんなに周囲がカップルだらけだと、否が応でも意識させられる。

 

 僕達は今、男女で二人きりだ。

 

 男〝女〟で合っている。心がどうあれ、今の僕の外見は、どこからどう見ても女の子なのだから。

 

 アキはどう思っているのだろう……今日、ナンパがどうこうと言い出さなかったのは、僕を女性の代替物のように見ていたから? それとも純粋に僕と遊びたかった?

 

 ……どちらでもいい。どちらでも。だって彼の側にいたがっているのは、僕のほうだ。

 

「ありがと……アキ」

「今日はそればっかだな」

「うん……でも、言いたいから」

 

 いい加減言われすぎて鬱陶しいかもしれない。それでも言いたかった。

 

 アキのおかげで毎日楽しい。東京に引っ越してきた最初の一年から、こんな風に過ごせたのは、全部アキのおかげだ。

 女の子になってパニックだった僕を、側にいて勇気付けてくれたのはアキ。元の性別に戻るために力を貸してくれているのもアキ。

 

 高校生になってからの僕の人生、いつも近くにアキがいる。

 

 アキが、いてくれる…………。

 

「オレのセリフだよ。いつもありがとな」

 

 照れくさそうにそっぽを向きながら、アキは僕の頭を撫で回した。乱暴だ。折角海から上がって髪を整えたのに。

 でも、嫌じゃなかった。頭に置かれたままのアキの手が心地いい。安心する……。

 

「ありがと……」

「ははっ。まだ言ってるよ。キリないぞ」

 

 夕暮れ時に影の深まるアキの横顔は、なぜか僕よりずっと年上にも、年下にも見えた。

 頼もしいけど、でもかわいらしい顔。クラスの女の子が、みんなアキのことをパッとしないとか、野暮ったいとかいう理由が分からない。

 テレビで見る俳優やアイドルなんかより、ずっとアキのほうが……。

 

 

 ……アキのことが好きなのかもしれない。

 

 

 僕は、夢の中で出てきたあいつが言う通り、アキに好意を抱いている……みたいだ。

 

 アキは優しい。僕が困っていたら、必ず助けてくれる。今の僕が女だからとか関係なく、男の僕にもそうだった。お人好しで、誰にでも優しいヤツだ。

 誰にでも優しいというと、あるいは世の中の女性の中には不満に思う向きもいるかもしれない。自分にだけ優しくしてほしい、というように。

 僕にとっては、むしろ誇らしいくらいだ。僕にだけ優しいのも、それはそれで嬉しいかもしれないけれど……でも、やはり、アキには誰にでも優しくあってほしい。それがアキにとっての自然だから。

 

「そろそろ帰るかー。な、また来年も来ようぜ」

「来年は受験生なのに?」

「ぐっ……それを思い出させるなよ」

「へへへ。いーよ。僕もまた来たい」

 

 意外にも照れ屋で、無駄にロマンチストで、負けず嫌い。子供っぽいところもあって、すぐに見栄を張ってカッコ付けたがる。そして人よりちょっと(いや大分か)スケベだ。

 でも、そんなところもかわいい。アキのそういうところが好きだ。

 

「アキ、僕ね…………」

 

 僕は歴とした男だ。女の子が好きだし、さっきの水着を拾ってくれた女性にも、女性的な魅力を感じる程度には、男だ。

 

「ほら、ぼーっとしてないで、畳むの手伝え」

「うん」

 

 僕は男……男、なのに、自分と同じ男を、アキを好きになってしまう、なんて……。

 

 君は嫌だろうか? 元々は男の僕に好かれるなんて、気持ち悪いと思うだろうか?

 

 でももう、嘘はつけない。僕は……。

 

 





おまけ 個人利用目的


 帰りの電車を降りて、かなり暗くなってきたアパートまでの道のり。僕らは途中で色々と寄り道をしながらここまで帰ってきた。

「そういえばさ、フミ」
「何?」
「お前の荷物に〝あっちの水着〟入ってたの見たんだけど」
「最悪の出だしだね。続けないで」

 まず人の荷物を勝手に漁るな。おそらく日焼け止めを僕の鞄から出した時だろう。
 その水着を発見したということは、手前に入れていた着替えの下着まで見られた可能性が高い。トランクス一枚の男の時は何も思わなかったのに、ブラとショーツとなった途端に羞恥心がわく。

「なんで持ってきたんだ?」
「え!?」
「いやさ、人前で着られる訳ないだろ。それに普通の水着あるし。だから気になって」
「そ、それは…………」

 アキの目には、僕を辱めようなどという意図は全く宿っておらず、単純な疑問だけを僕に訴えかけてきた。

「ま、間違えて……!」
「嘘だろ。綺麗に畳んでたじゃねーか」
「うっ……!」

 人気のない夜道で、アキにコンクリ塀に追い詰められた。
 近くに人もいないし、暗くて僕達の姿なんて見えないだろう。逃げ場がない。

「ちょ、ここ、公道だぞっ……!」
「ホントのこと教えないと離さないぞ」
「んんっ……!」

 手首を掴まれ、壁に押し付けられる。こいつ、本物の女の子には絶対こんなことできないくせに、僕に対しては遠慮なしだな……!

「教えろよ……ほら、言えって」
「やっ……♡  耳元、やめっ♡」
「じゃあ言えよ。言ったらやめる」

 こ、こんなとこ……! いくら夜道とはいえ、周囲に民家が沢山あるんだぞっ……! 突然出てきた家人に見られたりしたら……!

 い、言える、か……!? 本当に言ってしまうのか……!? でも、言わないと……!

「人が少なかったら、その……」
「人が少なかったら、何?」

 続きを促してくるアキの目が、かつてないまでに血走っていて怖かった。必死すぎるだろ。

「岩陰とかで、ふ、二人きりになって、着てあげたら、アキが、喜ぶかなって…………」

 い、言っちゃった……! アキのために持ってきたなんて、恥ずかしいこと……!

 というか、答えたんだから、せめて何か言ってくれよ! なんでさっきから無言で見つめてくるの……!?

「よし」
「…………よ、よし?」

 何だ……突然冷静になって。しかも、僕の気のせいでなければ、なんか今「ピコッ」とかいう電子音が聞こえた気がするんだけど……。
 アキは懐から携帯を取り出すと、意地悪な顔をして僕に見せつけた。画面には「スピーチメモ」という名前のアプリが表示されている。

『アキが、喜ぶかなって…………』

 アキが画面をタッチすると、たった今の僕の声が再生された。

「は?」
「録音しちゃった。フミの恥ずかしいセリフ」

 画面をよく見ると、今の音声メモの下に「フミ18」「フミ17」と、ずらっと僕の名前が並べられている。

「これとかオレのイチオシ」
『いくら、でもっ! 触らせてあげるからぁっ!』

 今のは、駅周辺を散策していた日に、迷子の子供を見つけた時のヤツだ。子供とアキに挟まれて、上から下から際どいところを触られて大変だったヤツ。

 こいつ…………。

「消せっ!!」
「消さなーい」

 僕の動きを察知していたかのように、アキの腕が携帯ごと後ろに下がる。もう一度手を伸ばすと、今度は体ごと後退して僕の手の追跡を避けた。

「このっ! そんなの録音しておいてどうするつもりだ!!」
「合成してASMR作る。〝オナサポフミちゃんの嬉し恥ずかし初めてのご奉仕〟って題名で」
「ふざっ、ふざけんな!! やめろっ!」

 そんなもの認めるかっ!! 人の声を勝手にいかがわしい目的で使うな!

「大丈夫だって! 個人利用だから! オレが独り占めするヤツだからこれ!」
「関係あるかっ! 消せっ!!」

 というか今なんて言った!? お、オナ……とかなんとか言っていたよなっ!?
 ぼ、僕の声を聞きながらっ…………とか、するつもりなのかっ!?

 そ、そんなの……! そんなの……♡

「早くしないと置いてくぞー!」
「あ、ちょ、待て!」

 僕は認めないからな! ぜ、絶対そんなもの、認めないからなっ……♡
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