ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 もう堕ちてるけどまだ続くよ。




その13 男性的精神のドップラー効果

 

 気がつくと、見覚えのある白い空間にいた。嫌な予感がする。具体的には背後に卑しい女の気配がする。

 

『やっと認めたみたいだね。自分が〝メス〟であることを』

 

 今日は夢見が悪い日らしい。だって、そこに僕の顔をした痴女がいるから。

 

 所謂、逆バニーとかいう格好をした僕がいた。しかも頬を上気させており、満更でもなさそうな顔をしている。

 

 これいいのか? 謎の光が横から指してきて、上の突起二つと下の沈没部分が見事に隠されているが、見かけ上見えていないだけで丸出しだぞ。

 

『何度でも言うけどこれ、キミの願望』

 

 そんな訳あるかっ!! 僕は地下系のイメクラの従業員でも、フォロワーの伸びが段違いなせいで過激な衣装にハマったコスプレイヤーでもない。

 

『ほらあれ。アキの等身大ポスター』

 

 それが何だ。というか人の脳内に勝手にポスターとか貼るな。僕だって欲しいのに。宿主を差し置いてズルくないか。

 

『あれの前でこういう服を着て、アキに視姦されてる気分を味わうのがボクの日課』

 

 人の脳内でカスみたいな日課をこなすな。こっちは家賃とか取ってもいいんだからな。

 

 それにしても…………。

 

『何度でも、何度でも言うけど、ここは全てキミが頭の中で考えていることだからね』

 

 その辺をよく見ると、アキをデフォルメしたみたいなぬいぐるみや、アキと撮ったプリクラが入った写真立てなどが置かれていた。

 他にも、初めて二人でボルダリングに挑戦した日のアキのシューズとか、アキが奢ってくれたアイスの袋とか、二人で回し飲みしたスポドリの空ボトルとか……。

 

 自分でもちょっと引くぐらい、脳内がアキでいっぱいだ。僕の中で彼がどれだけ大きな存在かを物語っていた。もはやストーカー染みている。

 

『キミ、男の時は間接キスとか気にしてなかっただろう。というか、恋人同士でも早々しないような情熱的なキスをしておいて、今更男だった頃の間接キスを思い出すの?』

 

 だからこそというものだろ。距離が近くて衛生観の適当だった男同士の頃なら、回し飲みはノーカン扱いだが、今の僕は女だ。

 まだ心は男だと思っているが、アキに対して恋愛感情を抱いており、そして体は女。

 

 結果的に、間接も直接も、ファーストキスをアキに捧げられたことになる。

 正直とても嬉しい。何故だろう。夢の中だからだろうか。自分の気持ちに素直になれる。

 

『ホントさぁ、アキよりキミのほうがずっとスケベだよなぁ』

 

 こいつの言うことをたわ言扱いできる立場にないことは自覚している。ムカつくけど。

 

『アキにエッチなことされるの、毎日すっごく期待してるもんねー♡』

 

 どーせ夢の中だからもう白状するけど、こいつの言う通りだ。期待している。

 

 ああそうだよ。してるよ。

 

 ミッションを口実にアキがセクハラをしてくるのを期待してるよ。今日は何されちゃうんだろ♡ とか思いながら、口では否定しつつも喜んでるよ。

 

 悪いかっ!!

 

『うわ、開き直った。やーい、変態♡ むっつりドスケベー♡ マゾメスー♡』

 

 僕の顔をしてそういうことを言われると、並々ならぬ殺意がわく。

 ここにバ◯サンとか焚いてやろうか。僕の意識一つで焦土にも凍土にもできるんだぞ。

 

『でもアキに言われるのは?』

 

 好きっ♡ 言われたいですっ♡ もっと見下して罵ってくださいっ♡  足舐めますっ♡

 

 ほら、こう言えば満足か。たとえアキが相手だとしても、罵倒されるとムカつくぞ。

 

『ホントに好きなクセに。単なる対戦ゲームアキに負かされるだけでも悦んじゃうの知ってるよ』

 

 うるさいっ! そんな訳ないだろ! 僕に罵倒されたり、負けたりして喜ぶような趣味はないぞっ!

 

 というか…………。

 

 普通に話し込んでたけどさ…………。

 

 

 お前なんで消えてないの???

 

 

 僕、認めたじゃん。アキが好きだって。心は男のままなのに、同性のアキに強く惹かれていると、認めたはずだ。

 

『だってほら、キミの願望はまだ叶えられていないじゃないか』

 

 願望?

 

『エッチだよエッチ。性行為。交尾。子作り。しかも、普通の女の子は絶対嫌がるような、すんごいアブノーマルなヤツ。縄とかムチとか目隠しとか猿轡とか』

 

 …………。

 

『黙ってないで何とか言いなよ』

 

 …………そんなこと、思ってないし。

 

 もっと高校生らしい、健全なお付き合いをしたいだけだし。

 手をつないで、公園周辺でお散歩デートとか。借りてきた映画をくっ付いて座りながら見るとか。たまになら、チューとかも……。

 

『かーっ!! ぺっ! なーにシャバいこと言ってんの! アキに仕込まれまくりたいだけの雑魚マゾメス犬がっ!』

 

 雑魚でもマゾでもメス犬でもない! 僕は本心でそういう健全なお付き合いをしたいと思っているんだ!

 エッチなことでしかアキに価値を見出していないお前と一緒にするな!

 

『昨日のキミのオカズ発表します。アキに連れ込まれたカラオケで、大事なところをイジメられながら、歌唱で90点以上取れないと、罰ゲームのお仕置き生ハ――――」

 

 お、おいやめろ!! バカ! お前やっぱり僕のことを誤解しているぞ!! そもそも僕、別にマゾじゃないし!!

 た、確かに少しは(ホントに多少は)そういうことにも興味あるけど、元の中身を考えろよ! だ、男子高校生だぞ!? 仕方なくないか!?

 

 それに、普通にイチャイチャするデートをしてみたいというのも本心だし……!

 

『あーはいはい。分かったからもう起きなよ。起きたらさっさとアプローチして、なるべく早くアキのお嫁さんにしてもらってね』

 

 ちょ、おい! まだ話は終わって……!

 

 

 

「……な……い……! 起き……さ……!」

 

 誰か、僕のこと、呼んでる……?

 

「起きな……! フ……あん…………い!」

 

 何だろう……聞き覚えのある、ような……。

 

「起きなさいフミ! 起きなさい! もう、ほんとにこの子は……お、き、な、さ、い!」

 

 べしっ!!

 

「痛ッ……!?」

 

 朝7時。なんか太ももの辺りをバシバシ叩かれている感覚があったので、起きてみると母がいた。

 

「んえ……母さん? なんでいるの……?」

「なんでって、クリーニングに出してたあんたの制服、届けに来たからよ」

 

 そうだった。夏休みになる前に、制服をクリーニングに出しておいたんだった。

 1年前、合唱祭委員会だった時、諸々の準備のために埃っぽい備品倉庫によく出入りしていたから。

 

「あー……ありがと」

「ほら、いいから布団畳んで、ご飯食べな」

 

 食卓には、母が冷蔵庫の余り物で作ってくれたらしい味噌汁や、卵焼きが並べられていた。相変わらずの手際のよさだ。

 

「おいしそー……」

「まだ寝ぼけてんのかねぇこの子は。早く食べて着替えなさい」

「んー……? 着替え……?」

 

 母の腕には、ハンガーにかけられた状態の黒いブレザーと、それに灰色のチェックスカート、リボンがかかっていた。

 うちの高校の制服だ。左腕には薄い灰色のベストを持っていた。こっちは夏用だ。

 

 ん? スカート? リボン?

 

「これ女子用じゃん!!」

 

 クリーニングに出した僕の制服は普通に男子生徒用のズボンとネクタイだぞ!? どうなってる!?

 

「はぁ? 何言ってんの。あんた女子でしょうが」

「そうじゃなくて、スラックスは!?」

「あれは寒い冬場だけって、あんた自分で言ってたじゃない。夏休みの前なんてスカート巻きすぎって先生に怒られてたくせに」

 

 そんなことは言っていない。言っていないし、そもそも夏休み前までスカートなど一度も履いたことはないぞ! 

 巻くなんて以ての外だ……! そんな、クラスの活発なほうの女子がやるような着こなし……!

 

 もしかして、母さんの記憶にも、あの「ミラクル・トランスチェンジャー」とかいう謎アイテムの作用がはたらいて、都合よく書き換えられているからなのか……!?

 

「バカなこと言ってないで、早く着替えな! もう8時だよ! あんた今日学校でしょ!」

「え、うん……」

 

 今日は清掃委員会の集会がある。だから学校に行かなければいけないのだが……。

 

「え、あれ……? も、もしかして、それ着ていけって言うのか!?」

「他に何があんのよ! 裸んぼで学校行けないでしょ!」

 

 いやいやいや! 女子制服なんて、が、学校の連中になんて言われるか! 女装趣味の変態だって思われたら……?

 

 い、いや、違うか……みんな母さんと同じだから、普通に女子として接してくるのだろうか。そう思うと、気が重い……。

 

「なーに言ってんのさっきから! いいから早く支度しなさい! アキオくん待ってるわよ!」

「うう、分かったよ……!」

 

 渋々下着を着直して、ブラウスに袖を通す。肩や腕の布は締まっているのに、胸の辺りにゆとりがあって、男用のワイシャツより着やすかった。

 

「バカフミ! 下着透けるよ! ちゃんとブラウスの下に肌着着なさい!」

「え、あ、うん……」

 

 ブラジャーが下着なんだから、その上にさらに肌着を着るのはおかしくないか?

 

 ……なんて、下手に聞き返したりしたら、今度は拳骨が飛んできそうな雰囲気だった。昔から僕はかーちゃんには勝てない。

 

 大人しく肌着着て、スカート履くか……。

 

「あんたブラジャー少ないんじゃないの? しかもワイヤー入ってないヤツばっかり買って。パンツも男モノばっかりだし」

「勝手にタンス開けないでよ!!」

 

 というかワイヤーって何の話だ。服にワイヤーなんか入ってたら怖いだろ。

 

「あんたね、誰に似たんだか、胸大きいんだから、いいヤツ買わないと形崩れるよ」

 

 誰に似たんだかって……そんなのあんたしかいないだろ。あんたのその胸だよ。

 母さんの胸がデカいところで息子は嬉しくも嫌でも何でもないが、こうして変な形で遺伝させてきたことに関しては文句がある。

 

「今度お母さん買い物付いて行こうか?」

「いーよ別に!」

「よくないでしょ全く! 後になって後悔すんのは自分なんだからね!」

 

 するか!! いつか男に戻るのに、胸の形なんて関係ないだろ!

 

「知らないからねお母さん。いざ本番って時にアキオくんに幻滅されても」

「何でそこでアキの名前が出るんだよっ!」

「あんたアキオくんのこと好きでしょ?」

「なっ…………!!」

 

 こ、子供のそういうセンシティブなところに言及するのはやめろっ! 放っておいてくれよ! 親子だとしてもプライバシーはあるだろ!

 

 あ、で、でも……こういうのを適当にしていたことで僕の胸の形が崩れたら、もしかしたら、アキががっかりする……?

 

 僕だけでは、正直どれを買えばいいのか全然分からない。ガチャで出た異常に伸縮性のいい下着に頼っている。

 このままワイヤー入りとかいうヤツと比べて支えの足りない下着を着続けて、今より見栄えのしない形になった時、彼はどう思うのだろう。

 

 アキが、幻滅……。

 

「…………来てください」

「何、はっきり言いなさい」

「買い物一緒に来てくださいっ……」

 

 これでいいんだろっ! くそ……何が悲しくて高校生にもなって母親に買い物に付いてきてもらわなければならないんだ。

 子供におつかいをさせる例の番組でも、親は付いて来ずに、一人で頑張らせるというのに。

 

「あんたホントにアキオくん好きね……言っておきますけどね、避妊はしなさいよ」

「するかっ!!」

「しなさいっ!!」

「あ、いっ、いや、そーじゃなくて!」

 

 そもそも、避妊が必要になるような行為をする関係性じゃないということだ!

 

 い、いずれは、そうなりたい、けど……。

 

「聞いてるの!? アキオくんに迫られると断れなくて……とかダメだからね!」

「だからしないって!」

 

 

 

 小言の多い母とギャーギャー騒ぎながら、朝食と着替えを終えた僕は、隣で待っているアキの部屋の呼び鈴を鳴らした。

 

「どうもぉ! ごめんね! ウチの娘がお待たせしちゃって!」

「いいえ、こっちこそすいません。急かしちゃったみたいで」

 

 アキは僕の両親とも知り合いだ。前にも僕の一人暮らしを心配した両親が様子を見にきて、その時にアキとも鉢合わせた。

 

「この子ボヤボヤしてて危なっかしいから、アキオくんが守ってくれて助かるわぁ!」

「ちょ、母さん! やめろって……!」

「ちょっと前も変な大学生から守ってくれたんですって? もうホントにカッコいいんだから!」

 

 男の頃は別に、アパートのボロさに対して何も言ってこなかった母だが、僕が女となってからは、毎日のように、

 

『ちゃんと鍵かけてドアガード下ろした?』

 

 とか、

 

『設置型の監視カメラとか買っておく? ダミーでも効果あるらしいわよ』

 

 とか、

 

『なんかあったらすぐアキオくんのとこに逃げなさい! 変に躊躇とかしないで、守ってもらいなさいよっ!』

 

 とか、連絡を送ってくる。男の時はそんなこと言ってきた試しもないくせに。

 というか、何かあったらアキに守ってもらおうなんて、そんな打算的な付き合いがあるか。別に僕は彼を男避けに使いたいのではなく、単に一緒にいて楽しいから友達でいるだけだというのに。

 

「いつもウチの子のこと、見ててくれてありがとねぇ。おばさんアキオくんのおかげで安心よ」

「オレのほうこそ、いつも仲良くしてくれて嬉しいです」

「ほんっといい子ねぇ! 背もすらっと高いし、筋肉もあるし……フミ! あんたもお礼言いなさいよ!」

「いや、だから……! はぁ、もういーや……」

 

 あのアイテムの効果によってか、母の認知の中では、どうやらアキは「隙だらけで男慣れしていない一人娘を守ってくれている、紳士な好青年」ということになっている。

 確かにアキはいいヤツだけど、紳士かと言ったらちょっと意味合いが変わるぞ。枕に変態とか付けないといけないタイプだ。

 

「任せてください。今日も無事に送り迎えしますから」

「もう頼りになっちゃう! フミ! ちゃんとアキオくんと一緒に、まっすぐ帰ってきなさいよ!」

「うるさいなぁー……」

 

 確かにアキはいいヤツだけどさ……。

 

 昨日からセクハラは復活したけど、強引な感じではなくなった。それに、僕の見た目や体が目当てで男が寄ってきても、うまいこと追っ払ってくれるし……。

 そう思うと、母さんが大袈裟にお礼を言うのもおかしなことではないか……? 僕、いつもアキに助けられてるしな……。

 

「この子、化粧っ気もないし、背低いし、愛想もないけどね。料理上手だし、一途だし、尽くすタイプなの」

「か、母さん! いきなり何の話……!?」

 

「いつでもお嫁にもらってあげてね! アキオくんなら大歓迎だから!」

「婚姻届のサインはお願いします」

「アキまで何言ってるのっ!!」

 

 婚姻届って……! 僕と、アキのっ……!?

 

 そ、そんな、僕とアキが……。

 

 結婚、とかしたら、ど、どんな……。

 

 

※ここからフミちゃんの妄想

 

 

『ただいまー!』

『おかえり、アキ』

 

 青いネクタイを締めたアキが、一分の曇りもない笑顔で玄関の扉を開け、帰ってきたら。

 僕らは東京郊外のある場所で狭いアパートの一室を借りて、新婚から約1年、二人暮らしをしている。

 

 決して贅沢な暮らしではない。自分の部屋は当然なく、寝室も同じ。毎週休日にするデートはお家の中か、近くの公園に行くくらい。

 元々金使いに興味のない性質ではあるものの、お金を使う趣味もない。度々アキに本当に小遣いは足りているのかと心配されるほどだ。

 

『はい、おかえりのチュー』

『はは。分かったよ。フミ、昔と比べて本当に甘えん坊になったな』

『えへへ……』

 

 ブランドもののバッグやら、有名デザイナー監修のドレスやらはいらない。高い食事に連れて行ってもらうとか、いいホテルに泊まるとかにも興味はない。

 

 ただ、毎日帰ってきて、こうして抱きしめてくれるだけで……。

 

『ね、ご飯できてるよ』

『おおー。いい匂いだな。肉じゃが?』

『そうだよ。アキ、好きだもんね』

 

 お互いの好きなもの、嫌いなものは、ほぼ全て把握しているし、されている。僕らの間に隠し事は一つもない。

 

『それでね、アキ、明日はさ、二人ともお仕事休日でしょ? だからさ……』

『一緒に風呂入るかって?』

『あ、うん……入りたいなっ、て……』

 

 そう。隠し事は一つもないのだ。それは単なる趣味趣向やら交友関係だけではなく、体の隅々までも、アキの前では丸裸……。

 

『昨日も一緒に入っただろ?』

『そうだけど、僕、ホントは毎日でも……』

『仕方ないな。いいよ』

 

 アキはもしかしたら、もっとお淑やかな感じのほうが好みかもしれないが、もっと見てほしい、いつでも一緒にいたいという気持ちが抑えられない。

 

『オレさ、そろそろ、家族が増えてもいいと思うんだ。フミはどう思う?』

『あ、ぼ、僕も……! 僕も、アキの赤ちゃん、欲しいな……♡』

 

 つ、ついに、僕もお母さんになるんだ……アキにお母さんにされちゃうんだっ……♡

 

『や、優しくね……? お父さん……♡』

『…………悪い。今日は無理かもしれない』

 

 真剣な顔をしたアキにお姫様抱っこで持ち上げられて、そのまま浴室まで運ばれて……!!

 

 

※妄想終わり!

 

 

「ほら、さっさと行きなさい!」

「でっ!!」

 

 あ、ぼ、僕は何を……! 今何か、変なイメージが頭の中に……! これが噂の侵入思考……!?

 で、でも、悪くないイメージだったな。僕もいつかあんな風に、アキと……。

 

 一番いいところで現実に戻しやがって。母さんのバーカ。

 

「いつまでぼーっとしてんの! 遅刻するよ!」

「痛い痛いっ!! 尻叩くなよ!」

 

 母さんは言いたいことだけ言って、大股で僕の部屋に戻って行った。今日は夕方に父の迎えが来るまで、僕の部屋のチェックをするとか何とか。

 あんまり荒らさないでほしい。食器をしまう位置とか、細かく決めているのだから。

 

「ほら、行こうぜフミ」

「あっ、ま、待ってよ!」

 

 

 

「再来月の定期清掃ボランティアは、中央公園のゴミ、落ち葉拾いとなります。皆さんは生徒への指示出し、導線把握のため、9月に下見へ行くこととなっておりますので……」

 

 清掃委員会と同じ曜日に報告会をおこなっているのは、生徒会執行部と合唱祭委員会だけなので、やはり夏休みらしく閑散とした校内だった。

 アキは合唱祭のほうの所属で、今年も11月に1、2年合同でおこなわれるので、その会議で少し長引くかもしれない。

 

「つきましては資料をお配りしますので、各自、事前に確認しておいてください。報告会は以上です」

 

 僕らはむしろ早く終わってしまった。報告会終了時刻の12時10分より半刻ほど早い。

 隣の視聴覚室……つまり合唱祭委員会の会議室からは、まだ誰かの話し声が聞こえている。アキはまだ帰れそうにないな。

 

 アキが終わるまで待つか……。

 

「ねえ、フミさん、だよね?」

「え?」

 

 配られた資料をファイリングしていると、少し離れた席に座っていた男子生徒が近付いてきた。

 地毛っぽい茶髪と、くっきりとした二重(ふたえ)が特徴的な、目鼻立ちがよく整っている男子。

 

「そうですけど……」

 

 馴れ馴れしいな。友達でもないのに、いきなり下の名前で呼ぶヤツがあるか。しかも、何の了解もなく隣の席に座ってきた。

 いや、席に座るのに常に僕の了解がいるとか、そういう横暴を語る訳ではなく、さっきから距離が近過ぎないか?

 

「俺のこと知ってる? 伊町(イマチ)って言うんだけど」

伊町(イマチ)……ああ」

 

 それで思い出した。伊町(イマチ)はC組のバスケ部だ。背が高くて、勉強ができて、顔よし教師からの覚えもよしときたもんだから、女子にモテるヤツ。

 そんな超絶一軍の彼が、帰宅部で陰キャの僕に何の用だろうか? 次の報告会の書記を代わってくれとか言うつもりだろうか。

 

「前々から気になってたんだよね。A組にかわいい子がいるって噂になってたから」

 

 残念ながら、それは捏造だ。前々からA組にいたのは、周りが優しいから友達がいただけの、捻くれた陰キャ。

 

 それにしても、全く響かないものだ。

 

 アキに同じことを言われた日には、動揺で言動がおかしくなる自覚があるほど身に堪えるが、彼に言われても、まあ嬉しいくらいの気持ちしか湧いてこない。

 別にこの伊町(イマチ)くんを嫌っている訳でもなく、おそらくアキが特別なんだ。そう思うと恥ずかしくなってくる。というか彼に失礼だし。

 

「あのさ、チャット交換しない?」

「え、ぼっ……私とですか?」

 

 危ない。思わず「僕」とか言うところだった。相手がアキや母さんならまだしも。

 現実で「僕」が自称の女にだけは関わるべきではないというのが自論だが、僕自身がそういう手合いになるところだった。

 

「な、なんでぼ……私と?」

「かわいいから。ダメ?」

「だ、ダメです」

 

 胡散くさいことを言う。急にそんなことを言われても。僕には伊町くんとチャットでやり取りする用はない。

 

「ごめんごめん。ホントのこと言うとさ、最近部員がめっちゃ増えてて、マネージャー何人か増やしたいんだよね。だから是非フミちゃんに見学に来てもらいたくて」

「1年生に頼めばいいじゃないですか」

「フミちゃんがいいんだよ。かわいい子のほうが部員のモチベ上がるし」

 

 バスケのマネージャーなんて、僕に務まる訳がない。サッカー以外の球技はてんで素人だ。

 ルールすら知らない女が、いきなりマネージャーとしてやってきても、部員の大半には歓迎されるどころか反感を買いそうだ。

 

「私、ルール知らなくて……」

「俺が教えるよ! 大丈夫、そんなに難しくないからさ!」

「ごめんなさい、バスケ興味ないから……」

 

 そう言って、僕は席を立った。アキのことは教室で待とう。待ち合わせ場所はチャットに送ればいい。

 とにかくこの伊町くんから離れたかった。さっきから顔が近いし、僕の椅子の背もたれに腕をかけてくるし、距離というものを考えてほしい。

 

「じゃあ個人的に交換したい! バスケ部のほうは無理強いしないけど、俺がフミちゃんに興味あるからさ!」

 

 席を立って会議室を出ようとしても、伊町くんは付きまとってきた。

 

「あの……ホントに、大丈夫ですから」

「大丈夫ってのはつまり、チャットID交換してくれるってこと? やったね!」

「いや……はぁ、じゃあそれでいいです」

 

 そのしつこさに根負けして、僕はつい交換を承諾してしまった。

 

「じゃあ……はい、俺の連絡届いた?」

「来ましたよ」

「やったー! バスケ部のヤツらに自慢できるわこれ! じゃ、今日の部活終わったらメッセージ送るから!」

「いや、それは……! 聞いてないし……」

 

 まぁいいや。適当に返事をしておけば、そのうち飽きてあちらから止めるだろ。

 

 チャットの友達欄に追加された名前を眺めていると、自然とため息が出る。

 丁度そのタイミングで隣の会議が終わったらしく、ガラガラと扉を開く音が聞こえてきた。

 

「お、フミ。そっちも終わったか」

「うん。帰ろ」

 

 どーせ夏休みの間、学校にはもう来る気はないから、これまでの関係の人物だ。さっさと忘れよ。

 

 

 

「うーん……」

「どうした、フミ?」

「ちょっとね……」

 

 僕は4日前にIDを交換した、あの伊町くんから送られてくるチャットに困っていた。

 

 頻繁に遊びに誘ってくるのだ。

 

『バスケ部のみんなとカラオケ行くけどフミちゃんはどう?』

 

 とか、

 

『女の子もいるからさ!』

 

 とか言って。

 

 その度に色々と理由を付けて断っていたのだが、祖父母(4人とも健在)の存在しない命日は使い切ってしまったし、風邪やら親戚の集まりという理由も2度続くと不自然だ。

 

「なんだ、困ってるなら教えろよ」

「うーん……実はさ、これ」

「ん? チャット? 誰だこれ」

「C組の伊町くん」

 

 僕はアキに、彼とのチャット欄を見せた。この4日間、毎日遊びに誘ってきている。しかも、朝、昼と2回ずつ。

 そのどちらでも、一度の断りの申し入れでは通用せず、必ず食い下がってくる。断り文句がそろそろ尽きてきたし、何かいい躱し方がないものか。

 

「なんだこいつ……」

「どうしよこれ。今日もボウリング行かないか、とか誘ってきてるし」

 

 というか、そんなに連日遊び倒していられるものだろうか。僕が聞いたところによると、うちのバスケ部は結構強くて、そのために練習に試合に忙しいということだけど。

 しかも、伊町くんはその中でも上位の実力で、サボるとチームの戦力に影響があるのではないか。

 

「ブロックしろよ。こんなヤツ。みんなで、とか、女子もいる、とか、絶対嘘だぞ」

「何で分かるの?」

「よくある手段なんだよ。信じて待ち合わせ場所に来た女の子に、みんなにはドタキャンされたとか嘘ついて、二人きりになろうとしてるんだよ」

 

 詳しいな。でも、確かにそう言われると納得かもしれない。

 だって、4日連続でバスケ部のみんなで遊ぶ、なんてあり得ない。普通なら部活をやっている時間だ。

 

 アキの言うことに補足をするようなら、僕が釣れない日はそのまま部活をして、僕が釣れた日には、さっきアキが言ったような嘘をついて僕を連れ出すつもりなのだろうか。

 

「やっぱ僕が美少女だから……」

「お前最近ナルシスト隠さなくなってきたな」

 

 事実だから仕方がない。学校の中でも、たまにすれ違う男子生徒達の視線が気持ちよかった。

 というのは冗談にしても、伊町くんから送られてくる鬼チャットは問題だ。そのうちノイローゼになるかもしれない。

 

「だからブロックしろって」

「それは嫌。イジメられそうじゃん」

「あのなぁ……そんなことにはならないし、そんなのオレが絶対許さねーよ」

「おお、カッコいい! 今のもう一回言って!」

「イジってるだろ」

 

 バレたか。でも、カッコいいと思うのは嘘ではない。本当だ。

 アキはスケベだけど、道義に背するようなことはしない。彼が許さないというなら、本当に僕をイジメようとか、そういう輩を許さないでくれるのだろう。

 

「ま、そんなに心配ならいい方法があるぞ」

「いい方法って?」

「こうすんの」

 

 アキはそう言うと、僕の携帯を勝手に操作し始めた。どうやら伊町くんに対する返信の文面を作成しているようだ。

 

 

〝彼氏に禁止されているので行けません〟

 

 

「これでいいだろ」

 

 アキはそう言うと、僕の了承を待たずに今の文章で返信してしまった。

 

「嘘じゃん」

「嘘でもいいだろ。相手だって嘘だぞ」

 

 それは、まだ決まっていないだろう。あくまでもその可能性があるというだけで。

 

「うわ、返信早っ。もう帰ってきたぞ」

「返信早いのもプレッシャーでさ……で、何て返してきたの?」

 

 アキの横から携帯を覗いてみる。

 

 

〝本当に彼氏いるなら証拠見せてよ〟

 

 

「おおー……やっば」

 

 アキはこめかみに青筋を立てていた。僕も同じ気持ちだ。ドン引きって感じ。

 

「怖い怖い!! 何この人!」

「ヤバ野郎じゃねーか。フミ、お前もう根負けしてID交換とかするなよ。絶対断れ」

 

 こうしてアキと話している間にも、〝早く見せてよ〟とか〝嘘でしょ?〟とか連投してくる。

 

「ど、どうしよ……あ、アキ」

「心配するな。こうすりゃいいんだよ」

 

 アキは至極落ち着いた表情で、携帯の内カメを起動すると、隣でへたり込んでいた僕の肩を抱き寄せた。

 

「わっ……」

 

 そして間髪入れずにシャッター音。カメラロールに追加された写真を、アキはそのままチャットに転送した。

 

「ほら、これでいいだろ」

 

 アキが無断で撮影し、無断で送った写真を急いで確認する。

 いきなり抱き寄せられ、しなだれかかる体勢になる。それが丁度、彼氏に心から甘えているような構図になっていた。

 

「こ、これじゃ……! 伊町くんが、僕とアキが付き合ってるって思うんじゃ……!」

「嫌か?」

「い、嫌っ……! じゃ、ない……僕は、嫌じゃないけど……アキは、いいの?」

「いいに決まってる。別に気にしねーよ」

 

 そ、そっか……あ、アキが勘違いされてもいいなら、別にいいか……。

 ぼっ、僕とアキが、つつ、付き合ってるって、学校で噂になっても、別に……♡

 

「お、返信きたぞ」

 

 

〝敷島???〟

 

 

 送られてきたチャットの文面からは、少々ではない困惑の色が滲んできた。

 

 

〝なんで敷島?〟

 

 

 そして、僕が返信する前に、またこのような文言が送られてくる。

 

「何でって。ご挨拶だな。まぁ、伊町のヤツと比べたらモテないけどさ」

 

 

〝敷島より俺のほうがよくない?〟

 

 

 何だこいつ、さっきから。ムカつく。まるでアキが悪いヤツみたいなこと言いやがって。

 

 

〝俺にしたほうがいいって。あんなヤツといるより自慢できるよ〟

 

 

「ふっ、ふざけんな!!」

「ふ、フミ? どうした?」

「黙って聞いてれば、こいつ……!!」

 

 ちょっと顔がいいくらいで、アキを馬鹿にするなよっ!!

 

 お前なんかより、アキのほうがずっとカッコいいし、優しいし、正義感もあって、少なくとも自分と比べて他人を悪し様に言うような卑怯なヤツとは違うぞっ!!

 

 僕は怒りのままに長文を連投した。アキの好きなところ、アキとの思い出、アキにどれだけ助けられてきたか。

 そしてそんなアキを馬鹿にする伊町への罵倒。僕の貧相な語彙をありったけ寄せ集め、如何に伊町よりアキのほうが素敵な男性であるかを力説した。

 

「ふーっ……! ふーっ……!」

「ふ、フミ……? なぁ、へ、平気か?」

 

 7行以上の長文を連続で6度ほど送り付けたところで、相手からの返答が止み、あちらの既読が付かなくなった。どうやらブロックされたらしい。

 清々する。あんなヤツ、もし学校で目が合っても無視してやる。

 

「お、落ち着けよ」

「だってあいつ!! アキの悪口言った!! アキのこと何も知らないくせに!!」

 

 チャットを連投してきたとか、下心丸出しで遊びに誘ってきたとかより、それが一番許せなかった。

 アキのことを悪く言っていいのは、親友の僕だけだ。よく知らないヤツに知った風な口を聞かれるのは我慢ならない。

 

「オレは平気だからさ」

「僕が許せないの」

「だから、フミがそう思ってくれるだけでいいんだよ。それだけでオレは嬉しい」

 

 …………アキがそういうなら、止める。

 

 僕は既読が付かなくなっても送り続けていた12個目の長文の入力を止めて、スマホを食卓の上に置いた。

 

「それより飯にしようぜ。どっか食い行かね」

「……うん。そうしよっか」

 

 ついでに出先でツーショットを撮って、伊町のヤツにもう一度送り付けてやる。腐ってもお前の誘いを受けたりしないという意思表示で。

 

 

 

 後日、また昼から母が荷物を持ってくるというので、少し部屋の片付けをしていた時。

 

「なんかチャットがうるさいな……」

 

 携帯の通知が止まらない。普段は母さんの小言しか届けてくれない携帯が、今日に限って朝から5分と絶やさずピコピコ鳴っている。

 

「なんだよ、うるさいな……」

 

 グループチャットが盛り上がっているのかと思いきや、僕個人に対するチャットが100件以上だった。グループチャットも200を超えている。

 

「え、何……僕なんかしたかな」

 

 ナーバスになりながらチャットを開くと、

 

 

〝敷島と付き合ってるって本当!!?〟

〝あのエロ魔人と同棲してんの!?〟

〝アキオのヤツと婚約してるってマ???〟

〝伊町くんのこと振ったの?〟

〝伊町くんに告白されたって何の冗談? アンタ調子乗ってない?〟

〝アキオに変なことされてない?〟

〝敷島にエッチの強要とかされたら私のところに逃げてきていいからね!〟

 

 

 心当たりしかないチャット欄だ。

 

 これ、一つ一つに返信しないとダメかな……。

 

 

〝敷島と付き合ってるの?〟

 

 

 …………まぁ、しばらくは泳がせて、返信するにしても強くは否定しないでおこう。そのほうが気分がいいから。

 

 





おまけ 聞こえてる


 オレ達の住むアパートは壁が薄い。学生でも入居できるような手頃なボロ屋で、風呂トイレも別じゃないという有様。

 だから、意識していなければ、自分の生活音が相手に丸聞こえになってしまう。

『にんじんさんはね〜、ニンニン言うから忍者なのさ〜♫』

 こんな風に。

 たまに料理中と思われるフミが素っ頓狂な鼻歌を歌う声が聞こえてくる。今日のはまだ脈絡があるのでマシなほうだが、聴いてみると本当に素っ頓狂だ。
 あと、鼻歌を歌うのは専ら台所で作業をしている時なので、野菜を連想しやすいらしい。

「今日の歌は、ニンニン言うからという謎の根拠でにんじんを勝手に忍者認定する、か……」

 オレは入居してからむこう一年。フミの鼻歌の内容を全てメモしている。いつかあいつに見せて恥ずかしがらせてやるために。
 今日のは新作だったので、今まで溜まった鼻歌の数は18個だ。いつかヤツに見せてやるのが楽しみである。



 深夜1時過ぎの頃。寝苦しい熱帯夜のこと。暑さで目が覚めてしまったオレは、水を飲むべく起き上がった。

『…………キ、ん……ぁ……ア……』

 すると、何やら隣の部屋から苦しそうな声が聞こえるではないか。

『はぁっ…………ぁっ、…………キ……』

「もしかして、オレの名前……?」

 間違いなくフミの声で、たまにオレの名前のような言葉が聞こえてくる。

 布団を被っているのだろうか、小さくてよく聞こえないが、苦しそうな声だった。
 暑さで悪夢でも見ているのか。あるいは体調を崩して、心細くなってしまったのだろうか。とにかくフミの様子が気になったオレは、「盗聴のイヤリング」を取り出した。

「あ、アキ」

 そこにオレの名前を吹き込んで。これでもしも勘違いで、別にオレのことを呼んでいた訳ではないなら、フミの声は聞こえてこないはずだ。

「…………」

 音を待つ間、なぜか緊張感があった。心配からくる行動だったとはいえ、やましいことをしている自覚はあったからだ。
 もう少し待ってみて、音が聞こえなければ止めよう。同じことを3回も考え、気付けは5分が経とうという頃、

『ん、ふぅっ…………』

 という声が、イヤリングから聞こえてきた。

「苦しそうな……まさか風邪でも……」

 オレがそう思うか思わないかのうちに、さらにフミの声が聞こえてきた。

『はぁっ、ん……! あぁっ♡』

 オレは頭が真っ白になった。

『はっ、はっ、はぁっ♡』

 苦しそうも何も、単なる()()の声かよ!!

 つか、あいつ女になってからもしっかりそういう欲は残っていたのか。流石に元男子高校生というだけはあるな。
 心配した分、肩にはがっくりとくるものがあったが、ずっと聞いていると、今度は股間にクるものがある。

 ん? というか、イヤリングに吹き込んだのはオレの名前……。

『アキ…………♡』

「え」

 イヤリングの向こうから、悩ましげな声でオレの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
 しかも、粘着質な水音と、切らし気味な熱っぽい呼吸音まで。

『だ、めっ、なのに……♡ アキ……♡』

 今度は頭の中が真っピンクになった。

『アキ♡ アキぃっ♡』

 ふ、フミのヤツが、オレの名前を呼びながら、何かいかがわしげな声を……!

『はぁんっ……! あ、アキ……♡ それっ♡』

 声は段々と大きさを増していく。イヤリングを付けなくても物音が壁を貫通してきた。あいつどんだけ激しくヤってんだよ……。

『あっ、アキっ♡ んんん〜〜っ♡♡♡』

 一際大きな声が聞こえてきて、さらにどかっ、という物音が響くと、あれだけ激しかった声は消え失せ、時折熱っぽいため息だけがイヤリングに伝わってきた。

「お、終わったか……」

 どうやら一通りの満足を得られたようだ。オレの名前を呼びまくっていたのは気になるけど、聞かないでおこう。
 そもそも盗聴だし、人には隠しておきたいことの一つや二つはあるはずだ。

『はぁーっ……♡ ふう……シャワー浴びよ……』

 フミの立ち上がる声が聞こえてきた。このところいつ会っても風呂上がりのような香りがする謎が解けた。
 あいつ、激しすぎて毎回風呂入ってるのか。今度からフミから風呂上がりの匂いがした時は、色々察してしまうな……。

『はぁっ……』

 あれ。イヤリングの盗聴が終わらない。フミが風呂でオレに対する愚痴でもこぼしているのか?

『はぁっ……♡ んんんっ♡』

 また悩ましげな声が聞こえてきた。

 しかも、水を伴って何かを擦る音と、出しっぱなしにしたシャワーが何かに当たる音が聞こえてきて、非常に生々しい。

 あいつ、まさか……。

『アキ……♡ 見てっ……♡』

 エロ猿かっ!! 風呂入って寝るのかと思ったら2回戦目かよっ!!

 つーか、あんまりオレの名前を連呼しないでほしい。小動物のようなフミのかわいらしい声で、そう何度も名前を呼ばれると、下のムスコが息子を作る時間だと勘違いし始める。

『アキっ♡ それ、いいっ……♡』

 フミの頭の中のオレは、一体どんなハードプレイをあいつにしてやっているのだろう。

「まぁ、折角だ……」

 オレは念のため、携帯を取り出して、イヤリングから聞こえてくる音声の録音を始めた。

『はぁっ♡ はぁっ♡ もっ……と♡』

 こちらも抜かねば、無作法というもの……。
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