ガチャの景品でTSしてもドスケベの親友に堕とされたくない   作:ハーメルンに性嗜好を歪められた被害者

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 下記にアンケートを追加しました。お手すきの際にでもご確認いただけると幸いです。

※追記 終了しました。ご協力ありがとうございました。




その15 堕ちたくなかった(過去形)

 

 浴衣を着てきたのは、ある意味では失敗だったかもしれない。

 

 いや、アキにかわいいと言ってもらえた時点で、成功なのは間違いないのだけれど、それにしても、今日は……。

 

『あれ!? ねぇ、俺ら会ったことあるよね! 俺だよ俺! ちょっと話そうぜ!』

『お姉さんハンカチ落としたよ。あれ、これお姉さんのじゃないの? ごめんごめん。ところで一人なら俺と来ない?』

『すみません、この辺詳しいですか? 案内してほしいところがあって……いやいや、一緒にきてくれません? 僕すっごい方向音痴で!』

 

 道中、死ぬほどナンパされた。アキと手をつなぐための口実ではなく、本当に。

 

 こんな低身長でもナンパが絶えないのは、相手の見た目から年齢を推量してやめておくという程度の倫理観もヤツ等にはないからなのか。

 あるいは僕の顔と体があまりに完璧美少女であるためなのか……困った。美少女すぎるというのも罪だな。へへへ。

 

「ごめんね、今日、遅れちゃったから」

「まだ言ってるのかよ。気にしてないって」

「声かけてくる男がしつこくてさ」

「ちゃんと防犯ブザー持ち歩いてるんだろうな」

「うん。ほらこれ。巾着の中」

 

 15歩ごとに一人くらいのペースで、軽薄そうな男や、筋肉に自信ありますみたいな男が何人も話しかけてきた。何なら1度や2度はアキに持たされたブザーにも手が伸びたくらいだ。

 3人くらいの悪そうな人達に囲まれた時は本当にどうしようかと思ったが、この人混みでは警察も余分に出動しているらしく、たまたま見回りをしていたお巡りさんに助けられた。

 

「次から待ち合わせとかナシな。いくらでも待つからさ、家から一緒に行くぞ」

「合流したばっかなのにもう次の心配?」

「心配もするだろ。今だってそこら中からギラギラお前のこと盗み見してくる男だらけじゃねーか」

 

 でも、今はアキがいる。これ見よがしに手をつないで、肩を密着させて歩いている。

 本当ならこの上さらに腕も組みたいけれど、ナンパ避けという口実だけでそこまでやるのは、流石に不自然に思われる。

 人の目がある場所で公然と手をつなぐ恥ずかしさもあるけれど、夏祭りなんて浮かれたヤツしか来ていないのだし、今日くらいはいいだろう。

 

 アキは僕の低い身長に合わせて、歩幅をかなり小さく、ゆったり歩いていた。

 

「結構色々出てるなー。トルコアイス屋だって。食うか?」

「アレはやだ。あの店主の人、女の子にセクハラしてるじゃん」

 

 ゆっくりと歩いているので、傍目にも店主と客のやり取りが映ってくるのだが、あれは最悪だ。

 おっぱい大きいから安くするよー、とか、お尻触らせてくれたら意地悪しないで渡してあげるよーとか言って、迷惑がられていた。

 

「あー……たまにいるよな。客によって態度変わるヤツ」

「チェーン店でもなし、ダメとまでは言わないけどさぁ」

 

 美人だから安くするよー、と言われ、まんざらでもなさそうな女性客の手前、パフォーマンスもなしに雑に手渡された男性客を見ながら、僕らはお祭りの出店に多様性なる文言の誤ったイメージを重ねていた。

 

「じゃあやめとくか。フミにセクハラしていいのはオレだけだからな!」

「別にアキならしていいとは言ってないけどね」

 

 体を触られるのが嫌と言っているのではない。普段から許していると、安売りみたいにならないかが心配なのだ。

 それに、()()()()ことは、きちんと準備をした上で、誰にも邪魔される心配のない、二人きりの場所でしたいから……。

 

「この辺から飯以外も結構……お、型抜きか」

「僕あれ成功した試しないんだよね」

「店主の胸三寸だからな。失敗したヤツ食わしてくれるとこは意外と緩かったりな」

 

 お祭りは始まったばかりだが、もうどの店にも人が並び始めている。焼きそばとわた飴は後で必ず行くとして、景品があるようなものは先に遊びたいな。

 行列ができてまともに遊べなくなる前に、そろそろ僕らも店をのぞくべきか。

 

 この日のための計画もあるし……!

 

「ね、輪投げやろーよ。勝負しよ勝負」

 

 僕は目に付いた輪投げ屋を指差した。

 

「いーぞ。負けたらどーする?」

 

 来た。乗ってきたぞ。

 

 こういう催し事で、スコアや出来を競って遊ぶことは、僕が男の頃からよく二人でやっていた。対戦ゲームとか、サッカー中継の勝敗予想とか。

 

 しかし、今日のこれは違う。今日の僕はいつもの僕とは一味違うのだ。

 

 

『いい? 押してダメなら引いてみろとかいう言葉があるけどね、あんなの信用しちゃダメよ。押してダメならさらに押しなさい!』

 

 僕は、出かける前に着付けをしてもらいながら聞かされた母の話を思い出していた。

 

『恋の駆け引きとかね、されると冷める人も世の中にはいるの。むしろ女を食い物にしてる男に限って駆け引きしたりされたりするのが好きなのよ!』

 

 偏見も甚だしい極論だ。別にそうとは限らないのではないか、という反論を許す余地なく、母はまくしたててきた。

 

『実際は悪手よ! 普段は押してくる女の子に引かれて傷心のところに、別の女がつけ込んできたりするの!』

 

 ヤケに説得力があるというか、まるで実体験みたいなトーンだったが、母の言うことにも一理ある。

 というか、男であった時の僕なら、恋愛で試し行為みたいなことをされると、嫉妬心より嫌悪感が勝つので、納得はできる。

 

『いい、もう一回言うわよ。押して、押しまくりなさい! あんたかわいいんだから! あんたに迫られて嫌な気持ちになる男なんてそういないから!』

 

 母の身内贔屓には背中がむず痒くなるが、しかし、母の話の十のうち十が的外れという風にも思えなかった。

 特にアレ。押してダメならさらに押せという格言。大分母さんの私怨が混じっていたような気もするけど……。

 

 

「押して押しまくる…………」

「ん? 何だ?」

「んーん! 何でもない」

 

 そうだ。ここは押して押しまくるべき場面だ。アキに僕のことを恋愛対象として意識してもらえるように、とにかく押す……!

 

「罰ゲームさ……負けたら、な、何でも……何でも言うこと聞くってのは、どう?」

 

 こ、これでどうだっ!?

 

「な、何でもッ!?」

 

 よ、よしッ……! 食いついた!

 

 これは、僕にとってはどちらに転んでも分のいい賭けだ。

 

 もし僕が輪投げで勝利したら、デートをしてほしいとか、大人のチューをしたいとか言えば、僕を意識させる戦略になる。

 何より僕がしたい。公園でアキに僕の作ったお弁当を食べてもらうだとか、ちょっと過激なチューをしてもらう、とか……!

 

「何でもってのは、な、何でも……!? 一緒に風呂に入れとかでもかッ!?」

「い、いい、よっ……? 別に……? もし僕が負けたら、一緒に入ってあげる……!」

 

 そして、アキが勝った場合。こちらもやはり僕にとっては利益しかない。

 

 このように、アキが「混浴したい」など、僕にスケベな要求をしてきたとしてもだ。

 

 僕としては「罰ゲームだから仕方ないよね……」という風な対面を保ちつつ、大義名分をかざしてアキにアプローチができるのだ。

 そのためには、多少の捨て身の覚悟は必要だ。というか、恋仲になったら、そういうことだっていずれはするのだから……ま、前払いみたいなものだ!

 

 それに僕も、アキの筋肉質な体に、実はちょっと興味があったり、興味津々だったり……♡

 

 何という隙のない計画……! どーせエッチなお願いをしてくるであろうアキに負けても、僕にとってはプラスにしかならない!

 

 我ながら策士すぎる……! 完璧だ。

 

「タオルも持ち込ませないぞ! それでもか!?」

 

 え、か、隠しなしっ……!?

 

「オレが脱がせるからなッ! 手で隠すのもナシだぞ。〝気を付け〟させるけど、本当に何でも言うこと聞いてくれるんだなッ!」

「…………い、いい、いいよっ!?」

 

 す、スケベ野郎め……! もしこれでアキに負けたら、僕はもう責任とってお嫁にもらってもらうしかないレベルの痴態をアキに見せることになる……! 

 

 もっ、文字通り、生まれたままの姿を……上も下もアキに全部……♡ 

 

 うう……や、やばいかな……♡

 

 でででっ、でも、ここまできたら譲れない! それに、僕が勝てばいいだけの話だ!

 僕が勝って、エッチなこと抜きで普通のデートをしてもらう! そこで僕を女の子として意識させる!

 

「よーしッ! 絶対勝つ。覚悟しとけ。ちょっと気合い入れるわ」

 

 アキはそう言うと、手首を振ったり軽く飛び跳ねたりして、体の感覚を整え始めた。

 

 そ、そんなに僕の裸が見たいんだ……♡ アキがそれで喜んでくれるなら、負けてもいいかも……♡

 

 い、いやっ! ダメだ! いつも負けっぱなしでは興醒めされるかもしれない! たまには主導権を握って、その上でアキにいい思いをさせて、メロメロにさせるんだ!

 

 それに、勝負は勝負だ。手を抜いたりしたら面白くない。正々堂々と戦って、その上で勝ったり負けたりするのが楽しいのだから。

 

「すいませーん。輪投げ二人遊べますかー」

「おー。デートかい。かわいい彼女だぁね」

「へへ。かわいいでしょ、こいつ」

 

 アキが否定しないので、僕も何も言わないことにした。顔が熱いけど、でも嬉しい。アキの彼女だと思われてるんだ、僕……。

 って、当然か。気合い入れて浴衣を着てきている上に、手をつないで歩いているのだから。

 

「あいよ、二人ね。一人300円だけど……別嬪さんにゃサービスで、二人で500円でいいぜ」

 

 屋台らしい雑な勘定で100円値引きしてもらった僕らは、250円ずつ出して、おじさんから投げ輪を手渡された。

 

「どっちからやる?」

「じゃんけんだな。勝ったほうが決めるぞ」

「よーし……」

 

 ポン、と出した僕の手はグー。アキはチョキ。

 

「やった! じゃあ僕が先行ね!」

 

 久しぶりにアキにじゃんけんで勝った。思い出してみれば、じゃんけんに負けたから、僕は女の子になるハメになって、こんな風に今、アキと浴衣で夏祭りデートをしている。

 もしかしたら、今ここでじゃんけんに勝ったことにも、何か運命的な意味が……いや、考えすぎか。

 

「どれ狙いだ?」

「10点!」

「いきなりかよ」

 

 最高得点を取って、大きく突き放してやる。そのほうが後続のアキにプレッシャーをかけられるし。

 

「よっ」

 

 僕が投げた一投目の輪っかは、10点の棒にフチが弾かれ、偶然隣の2点に入った。

 

「お、運いいな」

「まだまだ。もっかい10!」

 

 今度は弱めに、ぽーい、と投げてみる。輪っかは10点のポールに掠りもせず、手前の何もない場所に落ちた。

 

「お? このままだと、混浴確定だな」

「ひうっ……!」

 

 最後の一投のために集中しようとした瞬間、アキが後ろから囁いてきた。

 

「隅々まで体洗ってやるからな……」

「うっ、うるさい! 妨害だ! 卑怯だぞ!」

「これも立派な戦術だろ」

 

 卑怯者め……! そうまでして僕の裸を見たいのか! …………悪い気分じゃないけど。

 

「それにしても、なんか少し胸縮んだか? それでもデカいけど」

「……浴衣に似合うようにしてるの」

 

 かなり締め付けて、浴衣の見栄えがするようにしている。おかげで胸も尻も少し痛いくらいだ。

 胸はきつくて息苦しいし、内股で歩幅を小さくしなければ着崩れしそうだし、あと見た目より涼しくない。暑い。

 

 …………アキが喜んでくれたから、いいけどさ。

 

「やっぱ下着付けてないの?」

「そういうAVの見すぎだから。普通に着てるよ」

 

 ラインが浮かないトランクスの丈を、少し調整して履いてきている。というか、現代の価値観で下着を付けないのは著しく不衛生だろ。

 

「よっ!」

 

 アキのたわ言は無視して、僕は少し勢い強めに輪っかをポールめがけて投げつけた。

 カラン、と小気味のいい音を立てながら、輪っかは10点のポールに吸い込まれていく。

 

「やったぁ! ねぇ! アキ、見てた!?」

「おぉー。あれちゃんと入るようになってるんだ」

 

 これで、僕の点数は12点。かなりの高得点ではないだろうか。

 

「おっ。すげーじゃねえか。10点以上は景品のクジカプセルだ。好きなの引きな」

 

 そう言って、店主のおじさんは黒いカプセルが沢山入ったカゴを足下から取り出した。

 ガチャのカプセルを見ると、アキの部屋に未だ鎮座している、あの邪悪な箱を思い出す。これの色もカラフルだし。

 

「じゃあ……これ」

 

 僕は最初に手が当たった、黒いカプセルを持ち上げた。

 

「開けてみな嬢ちゃん。当たりクジか景品が入ってるからよ」

 

 当たりクジなら、輪投げの奥にディスプレイされている、ゲーム機や鉄砲のおもちゃのような、大きな景品が当たるらしい。

 

「どれどれ?」

 

 開けてみると、丸められたピンク色の布が入っていた。白いレースが縫われており、何だか女の子用の品目の様相だ。ハンカチか何かだろうか?

 

「おぉッ!? 嬢ちゃん! そいつは大当たりだぞ!!」

「え? そ、そうなんですか?」

「おぉ!! フミ! コレはすごいぞ!」

「あ、アキも、何か分かったの?」

 

 僕だけまだ何か分かっていないみたいだ。アキの興奮ぶりからして、少し嫌な予感がするものの、僕は戦利品を確認すべく布を広げてみた。

 

「何これ」

「エロパンティーだッ!!」

 

 ハンカチだと思ったそれは、局部に縦に長い穴が空いた、ピンク色の紐パンだった。

 

「…………」

 

 死ぬほど卑猥だ。股のところが開いており、おそらく秘所も肛門も全く隠せない。そのくせ無意味にレースが縫われており、そのせいで着け心地もよくなさそうだ。

 完全に性的な利用のみを目的とした下着だ。裸より恥ずかしいかもしれない。

 

「がはははっ!! イイもん当てたな嬢ちゃん! そっちの彼氏にベッドの上で見せてやりなよ!」

 

 店主のおじさんは、時代錯誤すぎる豪快なセクハラをしてくるし……。

 

「それイイッ!! 店主のおじさんマジでいいこと言った! フミッ! あとでそれ履いてスカートたくし上げて見せてくれ!!」

「いいじゃねえか! ついでにおっちゃんにもハメ撮り写真恵んでくれ」

「黙れドスケベ共っ!!」

 

 履く訳ないだろ!! これでは下着の意味が全くないし、恥ずかしいし、下品だし、僕の趣味じゃないし!!

 

 …………一応、万が一のために取っておくけど。

 

 いっ、一応だ!! 別に、アキが喜ぶなら履いてもいいとか、お、思ってないっ!!

 

 

 

 アキの輪投げのスコアは8点。アメ玉の参加賞を貰っていた。僕もそっちがよかった。

 

「くそぉッ!! 負けた……!」

 

 アキは本気で悔しがっていた。輪っかを構えながら「フミの裸フミの裸……」とお経のように唱えていた様子が怖かった。どうもこいつは頭がエロに支配されている。

 

「はい僕の勝ちー! あれあれ!? 盤外戦術とか言って卑怯なことしてたくせに、負けちゃうんだー! アキのざーこ♡」

「ぐっ……フミてめぇ……! 最後のざーこってヤツもっかい言ってくれ! 俺の分からせ棒が死ぬほど勃起する」

 

 隙なしか君は。じゃあ言わないよ。こんなところでアキのアキが元気になっているところを誰かに見られたら、騒ぎになるだろ。

 

「とにかく、僕の勝ちだから! 何でも一つ言うこと聞いてもらうからね!」

「車買ってとか、殺人してとか、無理だからな」

「言わないよ! 僕を何だと思ってるの……」

 

 アキに不利益になるようなお願いをするつもりはない。僕に好意を持ってほしいのに、それでは逆効果だ。

 しかし、お願いか。何を頼むべきか。これはかなりのチャンスだ。安易な使い方をふるべきではない。

 

「そうだなぁ……とりあえず保留。帰ってからお願いする」

 

 今はお祭りのほうが先決だ。まだ全然回り足りないし、一通り遊んでから考えるでも遅くはないだろう。

 

 

 

 それから僕達は、夏祭りの混み合った薄明るい一本道を、固く手をつなぎ合ったまま散策した。

 アキに知らないキャラクターの変なお面を被せたり、射的で勝負したり、二人で一つの焼きそばを食べたり……。

 

 僕が昔、こんな風にできたらいいな、と思い描いていたような夏祭りデートだ。

 その時は僕が男で、まだ顔も知らぬ未来の彼女を想像していたが、まさか女性の位置に僕が立っているものとは思いもしなかった。

 

 しかし、悪い気分ではない。

 

「あー。破れちゃった」

「水の中ではポイをなるべく動かさないのがコツだぞ。こんな風に……よっ」

 

 アキは慣れた様子で金魚を2匹掬って、水の上に浮かべた鉄椀の中に入れた。

 

「おぉー。プロだ。プロ金魚掬ラーだ」

「なんだすくラーって」

 

 持ち帰っても鉢がないので、アキは掬った金魚をそのまま放流して、店主のおじさんにお椀とポイを返した。

 

「結構遊んだな。今何時?」

「8時前くらいじゃない?」

 

 お祭りは10時終了。まだ2時間は続くが、目当てのものはほぼ遊んでしまったので、雰囲気を楽しむ以外に、あまり長居する理由もない。

 

「夕飯も買ったし、そろそろ帰るか」

 

 アキの左手には、焼きそば2パックと、たこ焼き1パックが入ったビニール袋が握られている。男の頃の僕でもこんなに沢山は食べられない。

 

「あんなに食べたのにまだ入るの?」

「全部半分ずつだろ」

「十分でしょ」

 

 焼きそばに、たこ焼きに、じゃがバター。これ等を一膳の箸で分け合った。僕は内心間接キスにドギマギしていたのに、アキは全然気にしている様子がなくて、ちょっとムカついた。

 

「僕もりんご飴買って行こうかな」

「あ、オレも」

「食べ切れるの?」

「余裕だ余裕。こんくらい」

 

 りんご飴なんて、夏祭りでくらいでしかお目にかかる機会はないし、後で買わなくて後悔するのも嫌だしな。

 

 そう思って、アキを連れて列に並んだ時、後ろから薄ら聞き覚えのある声がした。

 

「あれ、敷島に……玉崎さん!?」

 

 苗字を呼ばれ、僕は慌てて振り返る。僕に遅れてアキも緩慢に振り返った。

 

「あっ……」

 

 同じクラスの友人グループだった。男女合わせて8人くらいで遊びに来ていたようだ。

 

「付き合ってるって噂、本当だったんだ……」

「玉崎さん趣味悪くない……?」

「うわ、俺マジでショックだわ。玉崎さん狙ってたのに……」

「お前はおっぱいのデカさしか見てないんだから無理だろ……」

 

 これは……勘違いされても仕方がない。明らかに気合いの入った浴衣を着て、二人で遊びに来ている姿を見たら、誰だって付き合っている男女のデートだと思う。

 

 僕は恥ずかしい思いを押し通して、あえてアキの手を握ったまま離さなかった。クラスの友人達を目撃者にして、外堀を固めるために。

 アキも、みんなに目撃されながらも、僕の手を振り解こうとする素振りは見せなかった。むしろ先ほどより少し力が入っていて、僕のほうから離したくても離せないくらいだった。

 

「あ、あのね……玉崎さん」

「は、はい……!?」

 

 クラス委員の女子である結城さんが、代表して僕らに話しかけることにしたようだ。僕は声が裏返らないように努めて、アキとつないでいないほうの手で冷や汗を拭った。

 

「しょ、正直に答えてね」

 

 い、一体何を聞くつもりなのか。付き合っているのか、と聞かれた時、嘘をついて付き合っているとは言えない。

 伊町の時は、必要に駆られて彼氏彼女を演じていただけで、その大義名分がない今、アキが否定するかもしれない。

 

 で、でも、思い切って言うべきか。私達は恋人同士です、と。あ、あるいは付き合っているかの質問には答えず、アキが好きですと言ってみるか!?

 そ、そうすれば、彼らには僕らが付き合っているものと誤認させられるし、アキには暗に僕の想いを伝えられる……。

 

 い、いや、こんな人前で、好きとか言う勇気は僕にはないぞっ……!

 

 う、ううう……クラスの友人に遭遇する可能性を考えていなかった。何と答えればいいんだ……。

 

 結城さんは意を決して息を吸い込んだ。こうなったら、もう逃げるしか……!?

 

「し、敷島に変なこととかされてない!?」

「へ?」

 

 変なこと?

 

「き、聞いたわよ……! 敷島! あんた玉崎さんにすごい下着を強要して、嫌がる玉崎さんに服も着せないで、真夜中にリードを付けて目隠しで散歩させてるって……!!」

 

 は?

 

「その上、悪いおじさん達相手にエッチなことをさせて、自分が風俗で遊ぶお金のためにお小遣いを稼がせてるって……!」

 

 ?????

 

「誰がンなことするかッ!! フミを他の男に触らせる訳ねーだろ!!」

 

 混乱している僕に代わって、アキが結城さんを怒鳴り付けた。僕が結城さんと話しているうちに、りんご飴を二人分買っておいてくれたみたいだ。

 「他の男に触らせる訳ねーだろ」のところで、後ろに控えていた女子数名が色めき立った。どうやら高校生の女の子というのは、人の色恋に興味が絶えないらしい。

 

「し、信用できないわッ! あなた、教室でいつも猥談とか、携帯でエッチな動画鑑賞とかしてるでしょ!?」

「う、そ、それは……それだろ」

 

 これにはアキも言葉に詰まった。実際にしていたことだから、反論できないらしい。

 しかし、結城さんの疑いが間違いであるということもまた確かだ。アキはそんな酷いことをするヤツじゃない。純愛モノが好きって言ってたし。

 

「ゆ、結城さん。ぼ……私のこと心配してくれるのは嬉しいけど、アキはそんなことしないよ」

「ほ、本当に……? 弱みを握られて、言わされてる訳じゃなくて……?」

 

 結城さんの疑いの眼差しが弱まる気配はない。彼女は僕の両肩に手を置き、本気で心配する表情を崩さなかった。

 

「下の名前のあだ名で呼び合ってる……!」

「マジで俺らノーチャンスじゃん……」

 

 僕らが喋る度、後ろで男女が一喜一憂しているのが恥ずかしくて仕方がない。

 

 って、そんなことはどうでもよくて。

 

「ゆ、結城さん……その根も葉もない噂の出所はどこなの」

「さっき輪投げの屋台のおじさんが言ってたの! あなたがエッチなことしてる写真をもらう約束をしたんだって! 即お祭りの運営に通報したわ!!」

 

 いい判断だと思う。あの屋台はあとで僕からも通報しておこう。警察に。

 

「ほ、ホントに嘘だよ、それ。アキは僕が……私が嫌がることはしないもん」

「そ、そう……? 敷島の前で言いにくいなら、チャットで相談してくれてもいいからね? 私はいつでも玉崎さんの味方よ!」

「あ、ありがとう……」

 

 誤解されるような言動をしていたアキにも非はあるが、これに関しては本当に無実だ。

 でも、もしかしたら僕にとっては好都合かもしれない。変な噂が流れる分だけ、ライバルになる女子が少なくなる訳でもあるし。

 

「結城お前、まるでDV彼氏みたいに……オレのこと何だと思ってるんだよ……」

「あんたの普段のおこないが悪いのよ! もしも玉崎さんを泣かせるようなことしたら、彼女が許したとしても、私が絶対に許さないからね!」

「結城に言われなくてもな、オレだってそんなヤツは絶対許さねーよ」

 

 こういうセリフがサラッと出てくるところはすごいと思う。カップルだったら惚気全開の宣言だ。顔から火が出そうだけど、嬉しいからもっと言ってほしい。

 

「…………その言葉を信じるわよ。今日は玉崎さんと夏祭りに免じて、不問にしてあげるわ」

「そりゃどーも……」

 

 渋々という表情を隠しもせずに、結城さんは引き下がった。

 

「はぁ……また面倒なヤツに見つかって絡まれる前に帰ろうぜ」

「うん。じゃ、結城さん、またね」

 

 僕は顔の向きだけ彼らに残し、お別れを言いながら手を振った。

 その時、ポケット代わりにしていた裾に入れていたものが落ちてしまった。

 

「待って玉崎さん、懐からハンカチが……」

「あれ、ありがと……!?」

 

 ありがとう、と言いながら振り返った時、結城さんの手に握られた布を見て、僕は絶句した。

 

「あ゛」

 

 今のはアキの声だ。そして、制止の声を出すよりも前に、結城さんは布を広げた。

 

「…………」

 

 僕らの間に気まずい沈黙が流れる。後ろで事あるごとに騒いでいた他の友人達でさえ、固まって閉口していた。

 

 結城さんが広げたのはハンカチではなく、さっき景品で取ったあの悪趣味なパンツだった。

 

「しっ、敷島ああぁーーッ!! お前やっぱり玉崎さんに、こ、こんな卑猥な下着をッ!!」

「ま、待て!! 誤解だ!! 出店の景品だったんだよ!」

「子供も遊びに来る夏祭りにこんな景品がある訳ないでしょ!!」

 

 僕もそう思う。間違っても子供の来るような場所に置いていい景品ではない。やっぱり警察だけではなく、お祭りの運営にも通報しておこう。

 

「やっぱあいつ変態だ……」

「うわー……あんなの着せられるんだ。私の彼氏が敷島みたいなヤツじゃなくてよかった……」

「うわ、じゃあもうあいつら絶対やることヤッてるじゃん……! 最悪だ……! 俺の玉崎さんが敷島に汚されて……!」

「お前のじゃねーよ……」

 

 や、やっぱり誤解されている……! 僕が迂闊なことをしたせいで、アキが本当に鬼畜男みたいに思われている……。

 何とか誤解を解かなければ。で、でも、何て言えばいいんだ……!? アキが必死に屋台の景品だと言っているのに、信じてくれる様子はないし……。

 

 え、ええい、とにかく否定しなければ!

 

「ぼ、僕の趣味!! ぼっ……私がアキに見せたいからなのッ!!」

 

 あ。

 

「たた、玉崎さんがッ!!?」

「え、えぇ……!? みんな今の聞いた……!? 玉崎さん達、相当進んでるんだね……!」

「う、嘘だッ……! そんなの嘘だ……! あの純粋な玉崎さんが、自分からあんなエロ下着付けて敷島に迫ってるなんて……!」

 

 あああッ! あ、焦りすぎて変なことを言ってしまった!! これでは、アキが変態の謂れを受けることはなくなっても、今度は僕が見られたがりの変態になってしまうっ!!

 

「あ、ちが、い、今のはっ――――!」

「いいい、いいのよッ!! しゅ、趣味は人それぞれですものね! 玉崎さんにそういう趣味があったとしても、わ、私……!」

 

 か、完全に誤解された! もう聞いてくれる様子でもない。後ろのクラスメイト達も大小の違いはあれど、みんなショックを受けたような表情をしていた。

 

「ほ、ホントに違うの! 今のナシ! あ、アキの言う通り、景品で――――!」

「いいのよ、玉崎さん! 誰にも迷惑かけてないんですもの! 私は玉崎さんが露出プレイが好きでも、ずっ、ずっと友達よ!」

 

 や、やめてくれその宣言は! それでは本当に僕がアキにエッチな格好を見られて興奮するみたいに聞こえるじゃないか!!

 

「露出狂だ……へ、変態カップル……」

「真面目そうな人ほど実はむっつりスケベって本当なんだ……」

「信じない……! 俺は信じないぞ……! 玉崎さんはチューしたら子供ができると思ってるくらい純粋なんだ……!」

 

 収集がつかなくなってきた。結城さんはもうどんな弁明をしても受け入れてくれそうにないし、後ろから興奮した他のクラスメイトまで詰め寄ってきた。

 

「ほ、他にはどんなプレイを!? こ、後学のために聞かせて!」

「玉崎さんッ! 嘘だよなッ!? 玉崎さんはまだ処女だし、チューもしたことないよな!?」

「バカ。ンなキモいこと聞くのはやめとけ。ただでさえ負け筋なのに、余計脈なしになるぞ」

「うるせえ!! 俺は信じないからなッ!」

 

 あわわわわ。どど、どうしよう……! このままではまずいことになる! 

 迂闊なことを言うとボロが出て、またアキに変な噂が立つかもしれないし、というか僕がさらに変な誤解を受けるかもしれないし……!

 

「ああもう! 逃げるぞ、フミ!」

「え、あ、アキ!?」

 

 アキは僕の手を固く握ったまま、帰り道の方向に走り始めた。

 

「ちょ、ま、待ちなさい!! 敷島! あんたへの疑いは晴れてないわよ!」

「うるせー! お前に心配されなくても、オレらはずっとイイ関係なんだよ! 邪魔すんな!」

「ゆ、結城さん、ごめんね! また学校で!」

「敷島ぁー!」

 

 友人らを放って僕らを追いかける訳にも行かないらしく、結城さんは手を伸ばしてくるだけで、その姿は徐々に小さくなっていった。

 

「あ、アキ、もう追ってこないから、一回止まって……!」

 

 浴衣も下駄も走りにくい。少し小走りをした程度だというのに、足を多少広げてしまったせいで、着崩れを起こしてしまった。

 

「わ、悪い。大丈夫か?」

「大丈夫……ちょっとだけ待って……あ」

「ど、どうした?」

 

 着崩れを直そうと俯いた時、足下に見えた左足の下駄の鼻緒が、ちぎれかけていることに気が付いた。

 

「下駄の紐、切れかけじゃねーか」

「う、うん……」

 

 これが切れると足を引っかけられず、下駄が指と紐に持ち上げられなくなる。

 

 とにかく、どうなっているかよく見なければ。そう思って状態を確認するためにしゃがむと、

 

 ぶちっ。

 

「切れた……」

 

 鼻緒が切れ、足首に吊られるようにして、下駄のつま先が垂れ落ちた。

 

 

 

「ねぇ。重くない?」

「女の子みたいなこと気にするヤツだな。重いぞ」

「え!? う、嘘!? 僕太ってる!?」

「嘘だよ。軽い軽い。その胸とケツのデカさにしては軽すぎるわ」

「う、うるさいな……! 僕だって肩とかこるから大変なんだぞ……!」

 

 僕はアキにおぶられ、人の気配がしない夜道を二人で帰っていた。

 切れかけの街灯が橙に光ったり、時折消えたりする道に、僕らの影が伸びる。アキに背負われた自分の姿がシルエットになって、くっきり見えた。

 

「オレらも大概ベタだよな……鼻緒切れて、おんぶで帰るって」

「へへ。嬉しいでしょ。美少女おんぶできるんだよ」

「自分で言うな自分で」

 

 そんなことを言って、アキは僕の太ももではなくお尻を掴んで持ち上げている。おんぶという大義名分を得て、お尻の感触をちゃっかり堪能しているのだ。このスケベ魔神は。

 

 そんなに触りたいならこうしてやる。

 

「うおっ……!?」

 

 僕はわざとアキに密着して、さらに胸を押し付けた。普段は重いだけで邪魔なんだから、こういう時に役立ってもらわないと困る。

 

「おい、胸がデカくて柔らかくてエロいぞ」

「ふ、ふーん……? 僕はただ危ないからしっかり掴まってるだけなんだけど」

「ほ、ほーう……? なら仕方ないな……」

 

 ば、バレていないはずだ。さっきからドクドクうるさい心臓の音も、この無駄に大きな二つの脂肪が遮ってくれている、はずだ。

 

「…………アキの背中おっきいね」

「お前が縮んだんだよ」

「それも、あるかもしれないけど……」

 

 背負われて視線が高くなったことで、久々に男性の視点というものを感じている。

 路駐された車のルーフを上から見下ろせることが新鮮だった。今の体型では、大型車だと、窓を覗き込むのも大変なことがあるほどだから。

 

 しかし、高過ぎて少し怖い。アキの太くはないが筋肉質な腕は頼もしく、震えもしていないので、落とされるという心配はしていない。

 それでも、胸の形が変わるくらいギュッと抱きついていないと、安心できなかった。

 

「すまん、そこの公園で一回休憩していいか?」

「いいよ。ごめんね。家まで結構あるのに」

「気にすんな。オレが引っ張って走らせたのが悪いだろ」

 

 ブランコ以外に遊具のない小さな公園に立ち寄ると、アキは丁寧に僕をベンチの上に下ろして、少し息を切らしながら隣に座った。

 

「ふぅー……暑いな」

 

 夜になっても気温は27度。これが夏の夜はほぼ毎日同じような気温だというのだから、熱帯夜という言葉の特別さは失われて久しい。

 

「はい、これ」

「おぉ。サンキュ」

 

 袋に入っていた飲みかけの麦茶を渡し、僕も額の汗をハンカチで拭いた。汗のせいで前髪が張り付いて仕方ない。折角夏祭りのために、髪も整えたというのに。

 

「そういや今日、9時から近くの競馬場のほうで花火大会もやるらしいな……」

「帰り道、混んでるだろうね。駅の周辺とかすごそう」

 

 花火と言われ、なんとなく建物の少ないほうを眺めていると、どんっ! と、急に大きな音がした。

 

 夜空の低いところで、建物の間を縫って白い光の筋が闇を切っていく。白い火の玉は負の重力加速度に従って、途中から急激な減速を始めると、力尽きたように中途半端なところで止まる。

 

 火の玉は、死に花を咲かせるかのように激しく明滅しながら開き、重い雲の下でその身の全てである大輪を擲った。

 

「花火だ……」

 

 僕らが公園を休憩に選んだ時が、丁度花火大会の開催時刻であったらしい。野暮ったい住宅街の空が、一瞬にして煌びやかな繁華街ネオンのように色を得る。

 

「綺麗……」

 

 空に敷かれた光の絨毯は多情にも、色という色を知っており、数秒もすれば模様も全く別のものに入れ替わる。

 僕は顔をくすぐる汗の不快感を忘れていた。隣にはアキがいて、しかも、二人きり。二人きりでこんな景色を見られるなんて……。

 

「ラッキーだね……! ねぇ、アキも――――」

「フミ」

 

 呼びかけられ、横目で彼のほうを見ると、彼の顔は全く空には向いておらず、僕だけをまっすぐ見つめていた。

 

「大切な話があるんだ」

 

 胸が飛び上がりそうになる。

 

「そ、それって……!」

 

 慌てふためいた挙句立ち上がりそうになった僕の手の上に、アキの手が重なった。

 

「聞いてくれるか?」

 

 僕も、花火なんて見ていられなかった。仄かな光に照らされ、その度に影の形を変えるアキの精悍な顔に、釘付けになっていた。

 

 





 いつも拙作を読んでいただきありがとうございます。感想、評価、お気に入り、ここすきなども大変励みになっております。

 今後の展開として、第二部学生生活編を順次投稿し、その完結をして拙作も終了する見込みです。
 そこで、下記質問のような展開を一部含めていいものか、アンケートを取ることにしました。
 アンケート締め切りの日時は未定ですが、学生生活編の投稿日より前日に締め切りたいと存じます。お手数ながら、それまでに投票にご協力いただけると幸甚です。

※追記 終了しました。ご協力ありがとうございました。
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